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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 第13話「交渉」
Name: やみなべ◆33f06a11 ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/18 14:39

SIDE-凛

互いの自己紹介を終えたところで、私たちの前に映像が浮かんだ。
なのはたちの使う魔法が科学よりなのはわかっていたが、ここまで来ると本当にSFだ。

「クロノ、お疲れ様。怪我はないかしら?」
映し出されたのは緑色の髪をした女性。この様子だと、クロノの上司と言ったところのようだ。

「はい、大丈夫です。ですが、申し訳ありません。
 片方は取り逃がし、ジュエルシードも奪われてしまいました。
 追跡の方はどうでしょう?」
若干気落ちしたようにクロノは報告する。
同時に、逃げた士郎たちのことを追跡していたようで、その結果を聞いている。

映像に移る女性の顔は芳しくないことから、どうやら上手くいかなかったことがわかる。
「振り切られてしまったわ。女の子の方はジャミングが強くて見失ったし、赤い外套の子の方は途中で反応が消えてしまったの。かなり注意深く逃走したみたいね。
ジュエルシードまで持って行かれてしまったのは痛かったけど、終わったことを悔やんでも仕方がないわ。
それよりも、そちらのお嬢さん方からお話を聞けるだけで良しとしましょう。
いまゲートを開くから、案内よろしくね」
あちらの方でも追跡に失敗したこともあってか、特に咎める気はないらしい。
それよりも、現状の確認を優先するようだ。

念のため、士郎に「魔力殺し」の魔術品を持たせておいて正解だったな。魔術回路を閉じていればほとんど魔力は漏れないが、それでも完全ではない。完全な隠蔽のためには、それ専用の道具がいる。
高位の術者ならそんなものはいらないのだが、固有結界なんて持っていても士郎の位階は文句なしで下位だ。魔術使い、あるいは戦闘者としては超がつく一流だが、魔術師としてはいつまでたっても半人前でしかない。
もしユーノあたりが追跡しようとした時のために持たせておいたのだが、それが功を奏したようだ。

むしろ、問題は私の方。ついに管理局が出張ってきて、その上思いっきり関わることになってしまった。
本音を言えば関わりたくないのだけど、ここで拒絶するとその方が面倒になりそうだ。
ここは安全確保のためにも従ったほうがいいか。
下手に挑発するようなことをしても、いいことなどないのだから。

「了解」
クロノはそう返事をし、私たちはアースラとやらへ向かうことになった。



第13話「交渉」



で、そのアースラにやってきたわけなのだが……
「全くつくづくSFね。ここまで違うと、いっそ感心するわ」
中途半端に違ったならもっと他の、殺意が沸くなり、拒絶するなりあったかもしれない。
だが、ここまでくれば全然違うものと認識できるので、むしろ簡単に割り切れる。

向こうは科学で、こっちは神秘。共通しているのは、使っているエネルギーが魔力というものなだけ。
ああ、この方がわかりやすくてありがたい。

「? 君だって魔導師なんだろう。別に感心することなんてないはずだが…」
「そのあたりは後で説明するわ。さあ、さっさと案内してもらえないかしら?」
この場で説明してもいいが、あとでまた同じ説明をしては二度手間だ。
どのみち、先ほどの上司にも説明するのだから、その時でいいだろう。

「まあ、いいさ。ちゃんと説明してくれるのなら文句はない。
 ところで、もう君たちはバリアジャケットを、そっちのフェレットは魔法を解除してくれないか。
こちらとしても、そんな格好をされていては警戒せざる負えない」
まあ、確かにそうか。自分たちの懐で暴れられてはたまらない。
せめて武装解除くらいしてもらわないと、危なっかしいのだろう。

だが、私は別にそういったものは使っていない。
おそらくは、私の羽織っている外套のことを言っているのだろう。結構な魔力のこもった代物でもあるし、勘違いしても仕方がないか。
「一応言っておくけど、これはバリアジャケットなんてものじゃないわ。
 魔術品ではあるけど、なのはみたいに収納なんてできないし。
あなたたちのことも完全に信用したわけじゃないんだから、脱ぐ気もないわよ」
本当に管理局の人間だからと言って、それだけで信用する理由にはならない。
魔術のことを知ればどんな行動に出てくるかわからない以上、警戒を解くことはできない。

私の纏っている外套はミスリルの聖外套に匹敵する、とまでは言わないが、非常に優れた対魔力、および対物理の効果を有している。
製作の際には、秘蔵の宝石のいくつかを溶解させて練り込んでいる。その上で、さらにいくつもの宝石を裏地に仕込んでいるので、生半可な攻撃では傷一つつけられないだろう。また、長年の研究の成果も盛り込んでいる。
当然それ相応の魔力も有しているので、クロノが警戒するのも無理はない。

「どういうことだ? バリアジャケットじゃないというのなら、それは一体……。
いや、そのことも含めて艦長のところで話を聞かせてもらうことにするさ。
僕たちの方から仕掛けるなんてことはないから、別にかまわないよ」
一応、このままの恰好でいることは許可してくれた。
私だって、向こうから仕掛けてこなければ特に何もする気はない。
お互いに警戒しながらも、あまりその警戒に意味がないというのだから、なかなかに滑稽だ。

「それで、君たちはどうする?」
クロノは頭を切り替えて、なのはたちの方を向き、改めてどうするかを聞いている。

「えっと、わたしは特に問題ないですから、解除しますね」
なのはは特に警戒する様子もなく、バリアジャケットを解除する。
このあたりの素直さは、実にこの子らしい。

「ああ、そうですね。ずっとこの姿なんで、すっかり忘れていました。
 じゃあ僕も……」
ユーノもそんなことを言って体が発光する。
光が止むと、そこにいたのは……金髪の少年だった。
ふ~ん。つまり、これがユーノの人間形態ということか。見た目は…今の私と同い年くらいね。
まあ、どの程度私たちの年齢換算が当て嵌まるか知らないし、もしかしたらこんな見た目で百歳以上、ということもあるかもしれない。

「え? 嘘? な、何、どういうこと~?」
なんだかなのはが、よくわからないことで驚き混乱している。

「何驚いてるのよ、なのは。アルフだって人型になれるんだから、別に驚くほどのことは……。
 ちょっと待ちなさい! 「僕も」って、まさかそっちが本当の姿なの?」
そういえばさっき確かに、「じゃあ」と言っていた。それはつまり、今までユーノ自身も何かしらの魔法を行使していたということだ。
てっきりフェレットの姿が基本だと思っていたけど、こっちが本来の姿ってこと?

「あれ? なのはは知ってたはずだよね。凛もなのはから聞いてないの?」
ユーノはユーノで驚いている。何か認識に齟齬があったようだ。
いま二人は、お互いの記憶を突き合わせて確認している。


結局は最初からフェレット形態で会っていたが、本当のことを伝え忘れていたらしい。
一応ユーノが謝ることで向こうは決着したらしいが、私には聞かなければならないことがある。
「ふ~ん。
つまりユーノは、男のくせに女風呂に入ろうとしたり、女の子の胸に抱かれて喜んでいたってことよね」
それを聞いたユーノは硬直し、なのはは自分がしたこととしようとしたこと、両方に赤面している。
全く危うくのぞかれるところだったということか、士郎には感謝ね。
そしてこの淫獣には、しかるべき制裁が必要ね。

「え、いや、別にわざとってわけじゃ…。それにあれは不可抗力で、ちゃんと士郎さんが止めてくれたし……」
後退しながら、必死に弁明するが聞く耳などない。
未遂だろうと、それをしようとしたことには変わらない。
何よりこっちの腹が収まらない。

こんな駄犬ならぬ、駄フェレットにふさわしい制裁といえば、あれだ。
私は士郎から預かっているものを懐からだす。本来投影品は士郎以外には使えないが、それは宝具の真名解放に限った話。ただの概念武装なら、問題なく扱える。

「別に逃げてもいいわよ。私も鬼じゃないもの、生き残るために努力する権利くらい認めてあげる。
それじゃあね、あなたの人生に殺・血・悪・霊(さ・ち・あ・れ)。
『私に触れぬ(ノリ・メ・タンゲレ)』」
そう言うと同時に、ユーノは私の手から放たれた赤い布で拘束される。
私がしゃべっている間にすでに逃げ出していたが、それも無駄に終わった。

もちろん決め台詞を忘れるわけにはいかない。
「……ふふふ、フィッシュ!!」
宙を舞うのは赤い布とそれに縛られた少年。言葉の通り見事に釣りあげられる。
これは、あの悪魔憑きのサドマゾシスターが使っていた「マグダラの聖骸布」だ。男性拘束専用の聖遺物なので、女の私が持っていた方がいいということで預かったが、こんな形で役に立つとは。
いや、ある意味これこそ本来の使い方か。少なくともカレンはこんな感じで使っていた。
……まあ、大半が濡れ衣ではあったが。

宙を舞っていたユーノは、うまい具合に私のすぐ眼の間に落下する。
こっちに引っ張ってくる手間が省けた。
「いたたたたた!! な、何これ? 体に絡みついてほどけない!?
それに魔法も使えないし、どうなってるの!!?」
少し強く締めすぎたのか、ユーノは驚きの他に悲鳴をあげている。

「詳しいことはあとで教えるけど、それは男性拘束専用の聖遺物なの。
 本来は丈夫な布程度でしかないんだけど、男性が捕まった場合抵抗できなくなるのよ」
そうして浮かべるのは、極上の笑顔。
ユーノはおろか、なのはやクロノも壁際によってガタガタ震えている。

さあ、楽しいひと時を始めましょう。


そうして残ったのは、真っ白に燃え尽きたユーノの抜け殻だった。
今回は趣向を凝らして、カレンみたいにやってみたけどこれが悪くない。
ネチネチやるのは性に合わないが、それなりに楽しめた。今度士郎で試してみようかな。

その後、艦長を待たせていると言う若干震えるクロノに先導されて、私たちは移動を開始した。
同じ男性であるクロノにとっても、先ほどの光景は他人事ではすませられないらしい。
ちなみにユーノは真っ白なままなので、聖骸布で包んだまま引き摺って行った。
時々壁にぶつかったり、曲がり角に引っかかっていたので無理やり引っ張ったりもしていたのだが、全く反応がなかった。ちゃんと生きてるわよね?


*  *  *  *  *


ついた部屋で、私は主の頭の中身を疑いたくなるような光景を目にした。

なんでSFに出てくるような宇宙戦艦の艦内に、畳やら盆栽やらが置かれているのか。
特におかしいのは獅子脅し。そもそも屋内に設置するようなものではない。
なんだか、日本を勘違いした外国人の家に来た気分だ。

その部屋にいたのは、先ほどの緑の髪をした女性。
部屋はその人の心象だから、これがこの人の心象ということか。
まともそうな人に見えたが、そうでもないらしい。半ばあきらめに似た感情が生じる。

「ご足労、ありがとうございます。私が時空管理局提督でもある、艦長のリンディ・ハラオウンです」
つまりは、それなりの地位にある人物ということか。大仰な役職の割には、クロノと同じように「若い」という印象を受ける。高く見積もって、二十代半ばから後半といったところだろうか。
管理局の体制なんて知らないけど、提督なんて言うぐらいだ。それなりに権力や個人的なコネも持っているんだろう。この若さでその地位につけるだけで、相当に優秀かあるいは何らかの強力なコネを持っていることになる。
あまり情報を渡したくないが、下手に動かれる方が厄介か。

「ユーノのことはすでに知っているようですね。
 私は現地協力者の、遠坂凛です」
優雅に一礼して名乗る。好印象を与えた方がいろいろやりやすくなる。
気が緩んだなら、つけいる隙も出てくるかもしれない。
すでに駆け引きは始まっているのだから、油断はできない。

「えっと、わたしも同じくユーノ君を手伝ってる、高町なのはです。よろしくお願いします!」
「二人に手伝ってもらっている、ユーノ・スクライアです」
一応復活したらしいユーノも名乗る。どうやらちゃんと生きていたらしい。乱暴に扱ってもピクリともしなかったので、もしかしたら天に召されていたかもしれないと思ったが違ったようだ。
その顔には、まだどこか憔悴の色があるが、何とかなるだろう。


その後の話の内容としては、時空管理局とはロストロギアとは、そしてジュエルシードが起こすことのできる「次元震」と、そこから発展して発生する「次元断層」について説明された。
ユーノは責任を感じて回収しようとしたことを、クロノに「無謀」と責められて俯いている。

まあ、実際モノを考えればその評価は妥当か。
私はこれらの情報の前半はユーノから聞いていたが、なのはは時に感心し時には深刻そうに聞いていた。

それにしても、次元震やら次元断層やら、詳しい意味はわからないが聞いていて物騒な単語ばかりが出てくる。
やはり、これがこの世界の抑止のやり方なのかもしれない。
一つの世界ぐらい滅んだところで、いくつもあるなら問題ないとしている可能性は高い。
一つの世界を丸々消滅させてしまった方が、てっとり早く確実だ。
世界はその場にいる人間のことなど関知しない。
するのは、世界の存続のために必要なことだけだもの。それ以外のことは余分でしかなく、そんな余分なことは決してしない。
それが世界を守る力、抑止力のあり方だ。


しかし驚いた。
なんとこのリンディという人、抹茶に多数の角砂糖を入れて飲んでいる。

人の嗜好をとやかく言う気はないし、綺礼やカレンが食べていたような、激辛マーボーよりかはマシだから別にいいが、士郎はきっと許容できないな。私も試したいとは思えない。
実家が喫茶店のなのはも最初は驚き、そのうち「うえ~」という顔をしていた。
士郎には、藤村先生のお好み焼き丼に匹敵する暴挙として認識されるかもしれない。
この二人は会わない方が、双方にとっては幸せだろう。

それに比べればたいしたことではないが、この人こう見えて一児の母らしい。ちなみに、その一児はクロノのこと。つまり、この二人は親子なのだそうだ。
直属の上司と部下が身内って、それでいいのか少し疑問である。

リンディさんのことは、まあ桃子さんの例もあるので、二度目ともなれば驚きはそれほどではない。
ただ、やはりこの人も老いを克服しているかのような若々しさの持ち主だ。
一度、血液サンプルを提供してもらえないかな? どんな遺伝子をしているのか、魔術師としてではなく、一人の女として興味がある。
テロメアが異常に長かったりするのかしら?
それとも、消耗分を修復できたりするのかな?
でもそれって、本当に人間?


さて、ここからが本題だ。

この先の流れ次第で、こっちの立場が変わってくるし動き方も決まってくる。心してかからないと。
「これより、ロストロギア『ジュエルシード』の回収については、時空管理局が全権を持ちます」
なのはとユーノは驚いているが、まあ当然だ。
クロノも言っているが、民間人に任せておける事態ではないのも事実だ。
ちゃんとした訓練を積んだ連中がいるのだから、素人に任せる必要も意味もない。

「君たちは今回の事は忘れて、それぞれの世界に戻って、元通りの生活に戻ると良い」
クロノの言うとおり、ここで手を引いてしまえればいいのだが、先ほどの次元震云々の話やプレシアのやろうとしていること、そして抑止力のことを考えると不安が残る。
向こうはすでに、頭がだいぶイカれている様子らしいから、何をしてくるかわからない。
最悪の場合、アースラが失敗し私たちにも被害が及ぶ。
ここで手を引くのは、かえって危険か。

「まあ、急に言われても気持ちの整理もできないでしょう。
一度家に帰って、今晩ゆっくり三人で話し合うといいわ。その上で、改めてお話ししましょう」
リンディさんは無理強いすることなく、柔らかい笑顔を浮かべて話を終える。表面的には…。

何と言うか、ずいぶんと嫌な言い方をしてくるものだ。
考える時間を与えられたことで、なのはたちは自分たちの気持ちに配慮してくれていると感じるだろう。だけどそれは勘違いだ。配慮などではなく、明確な目的があっての発言なのはまず間違いない。配慮というなら前半部分だけで十分、後半はいらないのだ。
それに、実際にはこの時間はそれほど意味がない。危機感を煽るようなことを聞かされたことで、二人の思考は半ば制限されている。こんなことを聞いては、一晩という短い時間で出てくる話題など一つしかない。
時間に制限を設けられていることで、早く結論を出さなければならないという焦りも生まれる。先にこの一件に関わっていた身としては、こんな中途半端なところで一方的に降ろされるのは納得いかないだろう。そんな不満も混じり合えば、でてくる結論は予想がつく。
いや、むしろそこに誘導しようとしているのだろう。すべてはそのための布石だ。
おそらく、なのはたちは自発的に協力を申し出るはずだ。つまり、それが狙いということ。

そもそも本当に手を引かせようと考えているのなら、話し合う必要などないのだ。そんなものを与えようとしている時点で、魂胆が見え透いている。こちらを子どもと思って甘く見たわね。
見た目はともかく、中身はすでに二十代後半よ。そんな温い手に引っかかるほど間抜けじゃないわ。

自分たちから申し出てこないのは面子の問題か、それとも人道的な問題があるからかもしれない。
だが、仮にこちらから協力を申し出たとしても、少しは楽になるだろうが、これらの問題が完全になくなるわけではない。それでもなお協力させたいといことは、それだけこの事件は厄介な案件、ということか。

素直に乗ってやるのも癪だし、少し反抗してみようかな。
向こうに主導権が行きっぱなしというのも性に合わない。
結局は協力なり、情報提供なりを求めてくるのだ。
私の表向きの素性がわかれば、自分たちと違う術式の使い手であることは容易に知れる。
その時には魔術のことも聞かれるだろうから、どっちみちここで縁が切れるはずもない。
それを私から申し出るのはいい気分じゃない。せめて、それくらいは向こうに言わせないと気がすまないな。

「別にそんなもの必要ないでしょ。
 私たちはここまで、あとはあなたたちが勝手にやってくれる。それでいいと思うけど?
こっちは別れの挨拶と、少し思い出話をするだけで十分だし、一晩なんていらないわ」
なのはとユーノは驚いている。二人としては、ここで手をひかせられるのは納得いかないのだろう。
責任感が強いのはいいことだが、それを利用されることを考えていないのは、どんなに優秀でも子供ということか。

クロノはただうなずいているだけ。こいつは本心から手を引かせようと考えている。
このあたりの実直さは嫌いじゃないが、もう少し策謀を身につけないとこの先やっていけないし、騙されるかもしれないな。まあ、知ったことじゃないが。

「……そう、わかってくれたようでよかったわ。
 ところで、あの黒衣の少女と赤い外套の少年のことを聞かせてもらえないかしら?
 特に赤い子の方は、ロストロギアと思われるものを使っていたから詳しく聞きたいわ」
あてが外れて口惜しそうにするが、それも一瞬のこと。すぐにそれを消して、リンディさんが聞いてくる。
提督の肩書は伊達ではないか、やはり誘導しようとしていたようだ。

「黒い子はフェイトといって、ミッド式の魔導師です。
 赤い外套の人は名前を聞いても教えてくれなくて、アーチャーと名乗っていました。
 それと彼は、魔術というこの世界独自の魔法技術を習得しているようです。詳しくは同じ魔術師でもある凛から聞いた方がいいと思います」
代表してユーノが話す。
これで完全に興味を持たれてしまったか。
まあ、関わってしまった以上いずれは聞かれることだ。こればかりはどうしようもない。

「この世界には魔法技術はないはずだけど…。もしかしてさっき使っていた布や、彼の楯や外套、それに双剣もその技術によるものなの?」
「まさか!? あれほど異質な魔力をもったものが……いや、僕たちの知らない技術だからこそ異質に感じるのか。既存の魔法技術には多かれ少なかれ類似する点があるけど、共通点がほとんどなければ、それを異質に感じるのは当然かもしれない」
なるほど。彼らにとって宝具や概念武装から放たれる魔力は異質に感じるのか。
無理もない。「神秘」の具現とも言うべき宝具や概念武装では、魔導師の力とは完全に方向性が逆だ。
異質に感じるのも当然だろう。

共通点云々と言っているが、それも異質に感じる理由の一つだろう。
他の魔法技術のことは知らないが魔力を使うために必要な器官も違うので、魔力の感触とでも言えばいいのだろうか、それが違うこともありうる。実際、私もなのはたちから感じる魔力には少なからず違和感を覚えていた。魔力の質そのものが違うのだろう。
また、魔術ではあんなあからさまに魔法陣が出ることもない。
方向性以外にも色々と違う点もあるので、クロノの考えは多分正しいはずだ。

ただ、クロノは自分なりに士郎との戦闘を考察しているようで、一人でブツブツ言っている。
あれは完全に自分の世界に入ってしまっているな。
このままでは話が進まないので、横槍を入れることにする。反省や考察は後でゆっくりやってもらうことにしよう。
「なんだか一人で納得しているみたいだけど、説明に入っていいのかしら?」
「…え? ああ、すまない。
また対峙する可能性も高いし、少しでも情報は欲しい。できる限り詳細に教えてくれないか?」
やはり自分の世界に没入してしまっていたようで、声をかけると思いだしたように返事をする。

「ふう。それじゃあ一番の疑問点みたいだし、私たちの使っている道具のことから始めるわね。
あれらは概念武装というものよ。
 歴史を積み上げ、決められた事柄を実行する固定化された魔術品、と定義されているわ。一応物理的な干渉力もあるけど、それ以外に影響を及ぼすのが主目的でしょうね。
 まあ、そんなことを言われてもよくわからないか……。そうね。簡単に言えば、長い年月を経て魔力を帯びるようになったもので、特殊な能力を持つものもある。そう考えてくれればいいわ。
武装って言うだけあって一概に攻撃用の武器とは限らない。私が使った布は拘束用だし、アーチャーの外套は身に纏っているところからすると、防御用みたいね」
あまり隠してばかりでも信用されないし、下手な嘘は矛盾を作る。
当たり障りのないところで、本当のことを言うのが一番か。

簡単に理解できるよう、できる限りかみ砕いて説明する。「魂魄としての重みで相手を打倒する」なんて言われても、科学的な見方しか知らないこの人たちにはいまいち理解できないだろう。
重要なのは「魔力を帯びるようになった」ことと、「特殊な能力を有する場合がある」の二点だ。これさえわかっていれば十分だ。
それに概念武装は摂理や意味柄、空間にも影響を及ぼすモノがあるけど、そんなことまで説明してしまうと余計な危機感を持たせてしまうかもしれない。「特殊な能力」の一言で括ってしまった方が安全だ。詳しく聞いてくるようなら、あまり危機感を煽らない例を上げて教えればいい。

それと、やっぱり宝具のことを説明するのも避けるべきね。
ここでは宝具と概念武装の違いには触れないことにする。
士郎は今回両方とも使ったが、クロノたちは違いがあると思っていないらしい。つまり、向こうでは区別が付いていないということだ。
せっかく向こうが気付いていないことに、わざわざ触れることもない。このまま知らないままでいてもらおう。

贋作ではあるが、士郎のあれは真作とほとんど遜色ない。神話や伝承に登場する代物であり、伝説上の能力を再現すると知ったら、どんな手を打ってくるか知れたものじゃない。
伝承を詳しく調べればどんなモノか簡単にわかってしまうし、ゲイ・ボルクの様な運命干渉系の宝具など特に欲しがるだろう。
士郎さえいれば、登録されている物なら魔力がある限りいくらでも作ることができる。その魔力も時間をおけば回復する。事実上、作れる数に制限はないということになる。
管理局が知れば、最悪の場合何らかの形で封印されるか、徹底的に絞り取られるかもしれない。
絶対に、そんなことをさせるものか。

それにあまり詳しく教え過ぎると「知り過ぎている」ということで怪しまれる可能性がある。
詳しいところを知られていない方が私たちにとっては都合がいい。
それに今回使った「熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)」は、概念武装としての側面も持つ代物だし、別に嘘は言っていないしね(干将・莫耶については考えないことにする)。
それにしても、本来の姿が七枚一組だと知ったらどんな反応するのかしら。今回のクロノの砲撃は、一枚目にすら傷一つ付けられなかった。つまり、本来の七分の一以下の力で容易く防がれたわけだから、真実を知ったらかなり驚くでしょうね。

私を除く全員が、言っている意味がよくわからないのか首をかしげている。
「こんな言葉があるわ。『科学は未来に向かって疾走し、魔術は過去に向かって疾走する』。
 この場合の『科学』は、あなたたちの『魔法』に置き換えることができる。私たちとでは、根本的な方向性が真逆なのよ。
 あなたたちの常識で考えていても、理解なんてできないわ」
人間、まったく考えもしなかったことをいきなり理解することなどできるはずがない。
それが自分の常識の範疇外ともなればなおさらだ。

「いまいちよくわからないが、とにかく僕たちにとっては完全に未知の技術、ということでいいのか?」
「ええ、今はそんなところね。詳しく話すと時間もかかるから、それは後にしましょう。
 で、他に聞きたいことは?」
クロノは意外にも柔軟な思考もできるようで、少し感心する。わからないものはわからないということで割り切り、簡潔にまとめている。「理解」するのは後でいい、必要なのはそういうものがあると「知る」ことだ。
どうもリンディさんが「過去」や「未知の技術」という部分に反応しているのが気になるが、単に興味を持っただけだろう。

「もしかして、彼の反応がなくなったのも貴方達魔術師の特性なの?
 出来れば大雑把にでもいいから、違いを教えてもらえないかしら」
まあ、当然聞かれるだろうと思ってはいた。
向こうにとっては完全に未知なのだから、少しでも情報が欲しいところだろう。

そして、それに対する私の答えは決まっている。
「別にかまわないけど、それならユーノが説明した方がいいでしょうね」
「えっ!? 僕ぅ!!??」
振られた話をそのままユーノに任せる。
突然のことにユーノが素っ頓狂な声を上げる。

「当たり前でしょ。私が説明してもいいんだけど、それだと理解してもらうのがいろいろ大変なのよ。
 アンタのときだってそうだったし、「魔導師として魔術を理解している」ユーノが適任よ。
 間違っているところがあったら補足するなり訂正するなりしてあげるから、気軽にやってみなさい」
実際、ユーノに魔術のことを説明する時は苦労した。
両者が全く逆の方向性なこともあり、理解させるのは結構難しい。
それなら、すでに魔術をある程度理解しているユーノに説明させた方がいい。どうすれば魔導師にとって理解しやすいかわかっているのだから、これが一番だろう。
一通り聞いているとはいえ、私も次元世界の魔法に関して詳しいとは言えない。ユーノに説明した時のことで、ある程度どこが理解しにくいかはわかっているが、それでも万全とは言えない。
やはり、この場で一番の適任はユーノだ。

「うぅ、わかったよ。じゃあ、補足の方はお願い」
一応私の言い分が正しいと思ったようで、ユーノは諦めたようにうなだれる。

そこからは魔術回路のことや、秘匿のこととその理由を中心にユーノが説明し、私が不足部分を補うという形で進められた。
すでに一度時間をかけて説明したこともあり、学者のはしくれでもあるユーノの解説は的確だった。
そうしてこれといった問題もなく、ユーノによる説明会は終わった。

クロノも一応、理解の色を示しているし大丈夫そうだ。
「基本的なことは一応わかった。いろいろ言いたいこともあるけど、それは後にすべきだろう。
ここからは君に聞くところだな。まず、彼はどんなことができるんだ?
 それと、他に魔術師はいるのか? 君たちを管理する組織はあるのか?」
堅実に聞いてくるし、割り切るべきところも弁えている。
いま重要なのは相手の戦力と、そんな存在がほかにいるかどうかだ。
私の中で、クロノの評価が少しずつ上がっている。この若さで、たいしたものだ。

「魔術は家門ごとで違うし、この世界では魔術の存在が秘匿されているのは言ったでしょ。だから、他所のことは知らないわ。
そもそも、私のところ以外に魔術を伝えているところがあるかさえ知らないもの。アイツは唯一の例外。
組織の方も同じ。有るなら情報収集のために接触したいところだけど、今のところは不明よ。
 私の師である父は、もうずいぶん前に死んでるしね。そこから聞くのも無理」
私の「弟子」だからこそ例外なのだけど、多分クロノたちは「はじめて他所の魔術師と遭遇した」からだと思っているでしょうね。
仕方がないとはいえ、いちいちこんな言い回しをしなければならないのは、いい加減面倒になってくる。
表現の仕方に注意しなければならないので、本当に疲れる。

私がそんなことを考えていると、何やら場に妙な空気が満たされていく。
よく見るとみんな暗い顔をしている。一体どうしたというのだろう?
「……いや、そうかすまない。悪いことを聞いた」
ああ、なるほどね。クロノの言葉でやっと合点がいった。
すでに父が死んでいると知らなかったとはいえ、不味いことを聞いたと思っているのだろう。
だけどこの程度は序の口だ。
まさか父は自分の弟子に殺され、その弟子が私も殺そうとしたなんて聞いたら、何を思うのやら。

その後は、士郎とフェイトの情報で、なのはたちが見てきたことを教えた。
ジュエルシードを破壊した時の様子にはかなり驚くと同時に脅威も感じたらしい。
普通、小規模とはいえ次元震を止めるなんて簡単にできるものではないらしいので、無理もない。
全く、つくづく反則の塊のようなやつね。やはり無関係を装って、注意をそらすのが吉か。

「で、リンディ提督。何か言いたいことはあるかしら?
 そうね、例えば協力要請とか」
一通り話すことは話したので、聞いてやることにする。いつまでも先延ばしにしていても仕方がないし、どうせ早いか遅いかの違いでしかない。

それに、さっきまでの冷静さをかなぐり捨てて、クロノが声を荒げて反応してくる。
「何を言ってるんだ!! 君も、さっきこの件から手を引くことで納得したはずだ。
 それを、協力させろというのか!!」
まったく、勘違いしないでほしい。なんで私が、わざわざ協力を申し出なければならないというのか。

「違うわよ。私じゃなくて、『あなたたち』が協力を求めるの。
 クロノはどうか知らないけど、リンディ提督はそのつもりだったみたいだけど?」
初めからそっちの腹は読めているぞと、不敵な口調で言ってやる。

クロノは呆気に取られ、リンディさんは平然とした様子で答える。
このあたりは、やはりクロノのようにはいかないか。
「一体何のことかしら。あなたの情報は貴重で興味深いけど、だからと言って民間人のあなたたちに、そんな危険なマネさせられないわ」
正論ではあるが、今更そんなことを言っても遅い。
すでに言質は取ってある。それは自分の首を絞めることにしかならない。

「じゃあ聞くけど、何で時間を与えようとしたりしたのかしら。
 民間人を危険にさらせない以上、協力なんて論外よ。
なのにそっちは、わざわざ最悪の例を出してから相談の時間を与えた。
この場合時間を与えたら、出る話なんて今回の事件のことしかないと思わない?
そもそも、なのはたちの思い出の大半が今回の一件に関することなんだから、その話が中心になるのは当然よ」
そのことを言われて、私とリンディさんを除く全員の表情に変化があらわれる。

そこへ、さらに追い打ちをかける。
「そうなったらあとは簡単。
 自分の身の回りに危機があって、それを何とかできるかも知れない力があれば、少しでも役立てようと考えるのは当然でしょうね。ここまで協力していたんですもの、今更手を引くのを良しとするとは考えにくいわ。大人しく手を引くような人間だったら、そもそもここまで関わろうとはしないでしょ。
結果は考えるまでもないわ。なのはたちは、自発的に協力を申し出る。
こんな回りくどいことをしたのは、民間人、それも子どもを危険な目に合わせるのは体裁が悪いからかしら。自発的協力ならまだマシだもの。
なのはの潜在能力は相当なものだし、あれの封印をさせるのにはもってこいね。他にも魔導師はいるはずだろうけど、クロノが単独で動いていたことを考えると、それほどレベルは高くなさそうかな。
なのはやってくれれば、クロノは万が一のためのバックアップに回って、フェイト達との戦いのために力を温存できるしね。その方が都合がいいんじゃない?
後は、もしも管理局に所属してくれたらって考えもあったんじゃない? 今となっては、私の技術や知識にも興味があるでしょうし」
ジュエルシードの封印にはかなりの魔力を消費するので、余程魔力量の多い術者でなければ難しい。要は技術よりもパワーがモノをいう作業なのだ。
なのはクラスの魔力保持者は少ないらしいし、この人たちにできないということはないだろうが、それでもなのはの存在は貴重だろう。
他にも優れた戦力がいるのならば、さっきの戦闘で一緒に行動していたはずだ。仮に待機していたとしても、フェイト達が逃げた時点で追っ手をかけるだろうし、クロノがやられそうになった時に援軍として派遣したはずだ。それがなかったということは、他の戦力はクロノに比べてかなり劣るのだろう。
足手纏いがいる方が厄介だものね。

そこまで言ってリンディさんを見やる。
そこには諦めとも感嘆ともつかない表情があった。
「確かに、あなたの言う通りよ。少なくとも私の方から要請するわけにはいかないから、そんな手を使いました。
 理由の方も大方正解ね。なのはさんの才能もあなたの技術も、私たちにとっては有用で貴重なものよ。
 こんな性質の悪い事をしたことは謝罪します。ですが、どうか協力してもらえませんか。
 外套の少年はわからないことが多いし、魔導師の子もかなりの力があるようで、こちらとしてもジュエルシードと平行して対応するのは至難なの。できれば戦力の補強をしたいというのが本音よ。
でもこれだけは約束します。もし本当に危険になったら、絶対にあなたたちを守ります」
開き直って洗いざらい喋ってくれる。ちゃんと引き際は心得ているようだ。
それに最後の言葉には、嘘はなさそうだ。

士郎と付き合ってると、いろんな形でだまそうとしたり、利用しようとしたりする連中を見てくることになった。
おかげで人を見る目には自信がある。
アイツは無条件で人を信用してしまうところがあるから、その分私が見極めることが多かった。
そこから言って、この人は「一応」信用できる人だ。
それに弱みを握られた以上、これで向こうとしても強くは出られないはずだ。
交渉材料もできたし、これで少しはやりやすくなるかな。

「どっちみちなのはたちは協力するだろうし、それは私もやぶさかじゃないわ。
 ただし条件がある。私から提供するのは戦力と知識だけ、技術は勝手に盗みなさい。
 アーチャーが何をやったのかは教えてあげるけど、私の術を含めてどうやっているかは教えない。
 次に、魔術関連のことは公表しないこと。魔術は秘匿するのが原則だから、それに従って貰うわ。もちろんこれには私のことも含まれる。
 もし公表するなら、誘導して利用しようとしたことをユーノあたりでも使って、次元世界のマスコミとかにばら撒くから。そうなったら困るでしょ?」
戦っていれば何をしているかはわかってしまうが、こっちから教える気はないのでこれは当然。
まあ、方向性が真逆なのだから、たとえ教えてもそれができるとは思えない。むしろ、理解することさえ出来ない可能性の方が高いくらいだ。
秘匿にしてもどこまで守られるかはあやしいが、一応脅迫もしているし少しはマシかな。
公的機関である以上、スキャンダルは困るはず。

「お互いの立場だけど、そっちの方が専門家だし、一応従ってあげるわ。でも、ある程度はこっちの判断で行動する権利は貰うわよ。言いなりってのは性に合わないし、こっちにも都合があるからね。
それと、この件が終わったら一切干渉しないこと。私は今の生活が気にいってるの。そっちと関わる気はないわ」
矢継ぎ早にこちらの条件を話す。
所詮、私たちは魔法に関しては素人に過ぎない。また、唯一まともに知識のあるユーノでさえ、ロストロギア関連の事件になど関わったことなどあるはずがない。

技術・能力共にあると自負はしているが、絶対的に対魔法関連への知識や経験がない。突発的な事態が起これば、私たちでは判断ができない場合もある。
他人の下につくのは癪ではあるが、下手なことをして事態を悪化させる方が危険だ。ここは管理局のもつノウハウに期待して、原則向こうに従った方が利口だ。

「できれば技術提供もしてほしいんだけど、ダメかしら?」
リンディさんが未練がましく聞いてくる。
知識や技術というものはあって困るということはまずないので、それが欲しいのはわかる。
だが、そんなことは私の知ったことじゃない。
魔術協会みたいなえげつないことはさすがにないだろうが、それでも大義名分の元、何をされるかわからない。
絶対にこれ以上近寄るわけにはいかない。

そもそもこの連中に、魔術なんて必要ないのだ。
魔術だからこそできることというのもあるが、魔術はどうしようもなく採算性というものが欠如している。
せっかく効率的な術式を持っているのだから、こんなものに手を出す必要も意味もない。
魔法でたやすくできることでも、魔術で同じことをしようとすれば、無駄にコストがかかる。
研究派も当然いるだろうが、基本的には実用重視である以上、魔術を手に入れてもあっと言う間に廃れるはずだ。
だったら、初めから知らないのと同じだ。

それに、こっちが何百年とかけて積み上げてきた物を、簡単に廃れられてはさすがに不愉快だ。
そうとわかっているからこそ、教える気など毛頭ない。たとえ破格の好条件が提案され、力の弱体化を無視したとしても、それは変わらない。

「言ったでしょ、勝手に盗めって。
そもそもこっちとではできることだって違うんだから、自分たちなりにアレンジしてみることね。
あんまりしつこいと嫌われるわよ。ばらされてもいいんなら、別にかまわないけど」
本当は強制(ギアス)の魔術の一つでも掛けてやりたいが、この艦の乗組員全員にかけるのは不可能だ。
おそらくは人数をごまかすだろうから、やる意味もない。

それなら、弱みをちらつかせて、あまり踏み込めないようにした方が、幾分効果的だ。
さすがにこれは困るらしく、これ以上の要請はされなかった。
うん、状況はよくないが、とりあえずカードが増えたのは良かったかな。この先も大事に使っていこう。

それに詳しいことを隠しておくのには、別の理由もある。
これはなのはたちにも教えていないが、魔術はいつだって命がけだ。一瞬の油断が、死に繋がる可能性を孕む。
魔術回路は使うだけで苦痛を伴うし、制御を誤って魔力を暴走させれば最悪死ぬことだってある。
一応魔導師たちにとっても魔力の暴走は危険らしいが、こちらよりも危険ということはないはずだ。もし危険なら、ちゃんとした知識のない素人に使わせるのは危険過ぎる。なのはが魔法を使うのにだれも文句を言わないことからして、暴走する危険は相当に低いか、してもそれほど深刻な事態になり難いのだろう。
魔導師はどうか知らないが、魔術師が魔力を暴走させて生き残る可能性は非常に低い。暴走した魔力は神経や筋肉だけでなく内臓さえも破壊し、生命の維持さえ困難になる。幸運にもそれを避けたとしても、何かしらの障害を残すだろう。

また、限界だって簡単に越えられる。車のエンジンと同じで、アクセルを踏み続ければ限界以上の速度だって出せる。そのかわりエンジンは焼きつき、二度と使いものにならなくなる。これが人間ならば、神経が焼き切れ、悪くすれば暴走と同じ結果になる。

まぁこれに関しては、超えた限界の程度による。
上手く制御して超え過ぎないところで抑えれば、限界以上の力を出しつつ、致命的な状態はおろか深刻な影響がないこともある。さすがにそれをした直後は別だが、少し時間をかけるか、ちゃんとした治療をすれば影響を消すことも可能だ。
士郎は、この辺りを見極めることに異常なまでに優れている。死と隣り合わせの苦痛の中、ギリギリのラインを見極めて魔術回路を運用できる。これは、アイツの破綻した人間性だからこそできる芸当だ。
他の誰か、例えば私がやっても十回やって十回とも失敗するだろう。
限界を超えるということは、それだけのリスクを伴うのだ。

魔術の持つこれらの性質を知れば、きっとこの人たちは「そんな危ないものを使うな」と言うはずだ。
だが、はいそうですか、と言って従うなんてあり得ない。私にしても士郎にしても、この道を歩むと決めた時点でそれらのことに対する覚悟は決めている。ならば、他人に口出しされる筋合いはない。
そうなったら、どれだけ話し合っても平行線になるのは目に見えている。
それでは不毛なので、こうして情報を選別し必要なことだけ話しているわけだ。

それはそれとして、仮にも協力してやるわけだから、それ相応の見返りはあってしかるべきだろう。
「あと、こんな危険な事件に協力してあげるんだから、もちろん謝礼はあるんでしょ?
 まさか、天下の時空管理局が人の善意に付け込んで、無償奉仕させようなんてせこいことは考えてないでしょうね」
魔術の基本は等価交換だが、これはそれ以前の問題だ。労働には、しかるべき対価があって当然。
これだけ危ない橋を渡るのに、働きに見合った報酬がないのでは、あまりに不誠実というものだ。
まさか、感謝状なんてありがたみの欠片もないもので済まそうなどとは考えていないだろうが、念のため釘を刺しておく。

「ちょっと、凛。それは…いくらなんでも……」
「…凛ちゃん。さすがにそれは、不謹慎なんじゃないかな」
なのはとユーノが何か言っているが、そんなことは知ったことじゃない。
いくら後ろ盾と収入源が確保できたからといって、片手うちわでやっていけるほど豊かなわけではない。
ただでさえ私の魔術はお金がかかるのに、この先今までためてきたまだ僅かな貯蓄を切り崩す可能性を考慮すると、貰えるものはしっかりと貰っておかなければならない。
なのはたちと違って齧ることのできる脛だってないのだから、これぐらいは当然の権利だ。

「アンタ達がいらないんならそれでいいけど、私の魔術にお金がかかるのは教えたでしょ。
 こっちはただでさえ生活が楽じゃないんだから。出費の分くらいは何とかしてもらわないと、割に合わないの!
 せめて必要経費として使った分くらいは出してもらわないと、懐が厳しいのよ……」
これからのことを考えると、加速度的に鬱になる。
拳を握りしめてうなだれる私に向けられるのは、憐れみとも同情ともつかない生温かい視線。
そんな目で見られても一銭にもならない。ここは景気よく「出す!」と言って懐の広さを見せてほしい。

「ああ、その、何だ……。どうしましょうか、艦長」
クロノが困ったようにリンディさんに聞いている。
執務官といっても、経費に関する発言権があるわけでもないようで、この艦における最高責任者にお伺いを立てている。十歳に満たない少女が、金銭のことで頭を抱えていることに、少なからず心動かされるものがあるようで、できれば出してやってほしいというニュアンスが含まれる。

この姿になって、一番のメリットはこれかもしれないな。
今までは交通機関の料金や、施設への入館料が安くなるのが一番得することだと思っていた。しかし、子どもの姿というのは、他人の心に訴えかけるのには非常に効果的だ。これなら、他にもいろいろと得することがありそうだ。その考えに、少しだけ沈んでいた気持ちに活力が戻る。

リンディさんはしばし目を閉じて熟考していたが、目を開くと懐の広さを見せてくれた。
「わかりました。今回の件で出た経費と報酬に関しては、可能な限りアースラの予算から出しましょう。
 幸いうちの経理は優秀だから、それなりに余裕はあります。ただ、あまり出費が多くてはこちらも困りますので、お手柔らかにお願いね。
 もし上の方で却下されるような、私のポケットマネーから出すことにします。これなら、経費が落ちなくてもある程度何とかなるわけだし、信用してもらえるといいんだけど。
それと一応希望を聞くけど、どれぐらいがいいのかしら?」
正直、これには驚いた。
お役所仕事は、往々にして動きが遅いものだ。それにそれなりの地位にいる人は、明言を避ける傾向にある。
それを経費だけでなく報酬までこの場で確約し、もし経費が下りなかった時には自分の懐から出すとも言ってくれる。
提督だの艦長だのともなればそれなりに給料もいいだろうが、それでもここまで気持ちよく出してくれるのは予想外だった。この言葉には、心からの誠意を感じる。いま私の中で、リンディさんへの評価がものすごい勢いで上がっている。断じてお金に釣られているわけではないのであしからず。
心なしか表情が暗いのは、予想外の出費が出ることに対してだろう。この先どれくらいの出費があり、どれほどの報酬を要求されるかわからないのだから仕方がない。

報酬の方は現金でもよかったのだが、異世界人のこの人たちに地球の通貨が調達できるのか怪しいので、避けることにする。実を言うと欲しいというか、興味のあるモノがあるのでそれを報酬にする。どれぐらいのお金がかかるのか知らないが、そう安くはないだろう。
だが、個人の懐から出せないものということもないはずだ。それだと、ユーノがそれを持っていたのは普通ならばあり得ない、ということになる。せっかく管理局から報酬を貰えるのだから、これはちょうどいい機会だ。

「報酬の方は、無理難題というわけでもないはずよ。用意するまでに少し時間もかかるだろうから、この件が終わった後にしばらく時間があいてもいいわ。私の要求は、デバイスを一基プレゼントしてくれるってことでお願いね。
 これだけだとちょっと弱いけど、こっちのことを秘密にするって条件も呑んでもらうわけだし、それも含めてなら妥当だと思うけど、どう?」
てっきり、高額の報酬でも請求されると考えていたようで、みんな少し驚いた様子でこちらを見ている。
私はそんなに「がめつい」と思われているのだろうか、もしそうだとしたら非常に心外だ。私は単に常識でモノを言っているだけなのだから、別にお金に汚いわけじゃないわ。

もとからこちらの魔法には興味があったし、魔術との併用ができるかは試してみたいことだった。
だが私としては、せっかく基盤を独占できているのに他人に魔術を漏らすなんてもったいないまねをする気はない。
となると、なのはに魔術を教えて試すというわけにもいかない以上、それは自分か士郎で試すしかない。
士郎は、初歩の初歩である念話にさえ四苦八苦していた。これではあまり期待できないので、必然自分で試すしかない。
そのためにも、魔法使用の補助などもしてくれるデバイスがあった方が都合はいい。デバイスなしでも使用は可能なようだが、やはり一通り道具があった方がいいだろう。

魔術回路からの魔力でこちらの魔法を使用できるのかは不明だが、もしできなくてもリンカーコアさえあればそこからの魔力で使用はできる。少なくとも、念話というこちらの魔法が使える以上、どちらかの条件は満たしているはずだ。
ならば、手に入れておいて損ということはない。手に入れる機会があるのだから、せっかくなので利用させてもらうことにした。

「まぁ、それぐらいならかまわないわ。結構値は張るけど、報酬に関してはすべて私の懐から出してもいいぐらいね。
 さすがに完成品はすぐに用意できるものでもないし、あなたの言ったとおり、事件が終わってから少し間を開けることになるけど、必ず渡すことを約束するわ。せっかくだし、インテリジェントデバイスにしましょうか。もし相性が良くなくても、その時はその機能を外せばいいだけですものね」
それなりに高価なものではあるようだが、やはり個人で工面できないほどのものではないようで、この提案は心よく引き受けてもらえた。

何でも、なのはの使うインテリジェントデバイスという、自立行動し思考能力を持つモノの他に、そういった機能を持たないストレージデバイスとやらもあるらしい。
私はリンディさんの提案する、インテリジェントデバイスを贈ってもらうことにした。デバイスはあまりに機械的すぎて、一から十まで自分で何とかするのは私では無理だろう。そこも含めて補助してくれるインテリジェントデバイスの方が、私としては大助かりだ。
後ほど魔術回路での使用が可能かのテストや、なのはを含めてのリンカーコアの検査をすることで合意する。

大体の取り決めが終わったところで、最後に言っておかなければならないことがある。
「じゃあ、これでお互い特に問題はなさそうね。さっきの要求と報酬のことさえしっかりしてくれるなら、私の方からはこれで最後よ」
そういう私の周りに、今日数度目になる周囲からの注目が集まる。
この短時間の間に、私が発言するたびに大なり小なり場に影響を与えた。だが、今回の発言が今日の中でも、一番の衝撃をもたらすことになるのは、容易に想像できる。

「…もし、私の家族に手を出したその時は――――――殺すわよ」
ありったけの殺意と殺気を込めて言葉を紡ぎ、睨み据える。
これは、こちらが本気であることを示すものだ。
加減抜きの私の殺気を受けて、さすがのリンディさんも少し息を呑んでいる。
この様子だとちゃんと効果があったようだし、こちらの本気も伝わっただろう。

さっきまであった柔らかい空気は消し飛び、今までにない凍りついた空気が場を支配する。
言いたいことはこれで終わり。いざとなったら行方をくらませばいい。

逃げきるのは難しいだろうが、聞く限り向こうは万年人手不足らしいので、いちいちこんな些事に力を入れるほど暇ではないはずだ。
向こうの法に引っかからない限りは、不干渉になる可能性が高い。
だが士郎に手を出して、私を脅迫しようと考える可能性はある。
その場合には後先のことなど知ったことではない、問答無用で殺す。
本気の殺意を向けてやったので、さすがに冗談ではないとわかったのか神妙にうなずく。

一瞬の静寂の後に私は立ち上がり、クロノやなのは、ユーノを促し検査とやらに行く。
凍りついた空気を残したまま、私たちはこの部屋を後にした。



Interlude

SIDE-リンディ

こちらの意図は完全に読まれていた。

個人としては、このようなやり方もあの子たちを危険な目に合わせるのも反対だ。
しかし、事に次元震が関わり、未知の技術を持つ人間を相手にするとなっては万全を期したかった。
私は管理局の提督として、それを選択するしかなかった。

「結局は、言い訳でしかないんだけどね」
そんな自分の思考に自嘲する。
何を言ったところで、あの子たちの善意を利用しようとしたことには変わらない。
凛さんは初めからこちらの意図を読んだ上で、私が誘導しようとしたことを認めるように仕向けていた。
おかげでこちらとしては、彼女に強く出ることはできなくなった。
管理局としても、そんなスキャンダルが公表されてはたまらないのだから、彼女の要求をのむしかない。

しかし、先ほど彼女が最後に言った「家族に手を出せば殺す」というのには戦慄した。
私も、それなりに修羅場をくぐった経験はある。
その経験が告げた。彼女は本気であり、実際にそうなったらどんな手を使おうと、どれだけ時間がかかろうと私やクロノを殺すだろう。
すでに天涯孤独で家族はその少年だけらしいが、その子を守るためなら躊躇なく彼女は人を殺せる。
あの言葉と共に発せられた殺気は、それを容易に実感させた。

「まだ、親に甘えていたい年頃なはずなのに。いくらその相手がいなくて、絶対に失いたくない人のこととはいえ、あの年であれほどの殺意が出せるものなのかしら」
魔術師の詳しい在り方は知らないが、他の魔術師も彼女のような存在なのだろうか。
一瞬だが、彼女が全身を血で染めている姿さえ幻視したほどの殺気だった。

一つわかったことがある。
あの子は、すでに殺す覚悟と殺される覚悟を持っている。
それも形だけの薄っぺらなものではなく、内実を伴う覚悟だ。
実力はわからないが、こと精神面や頭脳においてはクロノ以上に完成されている。
一体、どんな修練を積んできたのだろう。
それを思うと、先ほどとは違った恐怖がよぎる。


それにこの艦では私しか知らない事だが、あの預言も気になる。
彼女には、あの預言と合致する部分がいくつかある。
彼女が使っているものは、魔力を封入した「宝石」、その力は「神秘」という方向性を持つ。そして、預言にある「古に置き去りにされた」とは、すなわち「過去」のものということ。同時に、私たちが知るどの技術とも共通点が見いだせないことから、それは紛れもなく未知の技術だ。

あの預言が事実なら、彼女にはその可能性がある。
そうすると彼女は「原初の探究者」ということだろうか。少なくとも「騎士」という印象ではない。
いや、結論を急ぐべきではない。これはまだ可能性の域をでない。
「原初」という点をはじめ、まだ不確定で意味のわからない事柄も多い。そうである以上、焦れば間違った解に行きつくかもしれない。

それに預言の対象は、「遥か遠き地より『訪れる』」らしい。「遥か遠き地」というのは、ここが管理外世界であることから、十分要件を満たしているだろう。だが、今回彼女との接触はこちらからしたもので、預言のそれとは食い違う。
遭遇することになるとすれば、形はどうあれ向こう側から接触してくるだろうと予想していた。これは上層部も同じだろう。だからこそ、次元世界を広範囲に移動する前線提督の一部にあの預言を公開し、極秘の指令まで出したのだ。少なくとも、こちらから見つけられるとは考えていなかったはずだ。
まぁ、この程度なら解釈ミスとも考えられるし、それほど気にすることではないのかもしれない。

また、「異端の騎士」のこともわからない。あの外套の子がそうかもしれないが、やはり予言と違っている。「騎士」は「探究者」に従う者らしいが、現在その候補たる二人は敵対関係にある。
もしかしたら、他の魔術師のことを指しているのかもしれない。
幼くして師でもある父を失い、彼女は外部への情報網を持たない。そのため、他に魔術師がいるかは知らないらしいから私たちで調べるしかない。だが、かつての調査でも発見できなかった存在を見つけるのは、相当に困難だろう。
やはり彼女を管理局に引き入れるか、協力してもらえるのがいいが、これも簡単にはいきそうにない。
彼女はあまり管理局に関わりたくないようだ。迂闊に強引な手に出ては、逆効果になる可能性が高い。
今は焦らず、じっくり信頼関係を築いてそれから交渉するのがいいか。


それにあの子は頭もいいし、駆け引きも心得ているので、そういったことを抜きにしても欲しい人材ではある。
「欲張っても仕方がないけど、何とかならないものかしら」
広大な次元世界を管理するには、どうしても人材が足らない。
おかげで、あまり優先度の高くない案件は後回しにされがちだ。
それでいいとは思っていないが、どうしようもない現実なのも事実だ。それを改善するには、より優秀な人材を多く発掘していくしかない。

「なのはさんも優秀な魔導師になれるけど、やっぱりただの兵士よりも、有能な指揮官の方が貴重ですものね」
前線をかける兵士も必要だが、そうなる前に事態を解決できる人間の方が望ましい。
凛さんにはその適性があると思うし、今のうちに少しでも管理局にいい印象を持ってもらい、こちらに来る選択肢を持ってもらいたい。

下手に出ればいいものではないが、彼女たちに悪い印象を与えるようなことは避けないといけない。
目の前の事態だけでなく、その後のことも考えないといけないのは頭の痛い限りだ。

Interlude out



なのはと一緒に一通りの検査を終え、これから私たちはアースラに身を寄せることになる。だが、家族に無断というわけにもいかないので、一度戻って互いに家の人間に話を通すことになった。

少し時間をおいたことと、場所を変えたことでリンディさんの部屋から引きずられていた凍りついた空気は、一応解消されたようだ。今はさっきの様子がウソのように、和気藹々とした空気に戻っている。

検査の結果は思いのほか早く出た。なのはの魔力は、管理局全体でも5%ほどしかいないというほどのもので、管理局の定めるランクとやらではAAA相当とのこと。
映像から見るにフェイトもほぼ同等か、それ以上らしい

それに対する私の感想はというと……
「そんなランクなんて言われてもよくわからないわ。
 ところで、クロノはどのくらいなの?」
馴染みのない評価の付け方なので、いまいちよくわからない。なんとなく、相当凄いのだろう、と思う程度だ。
なのはくらいが標準だったら殺意が沸いたかもしれないが、やはりなのはは稀有な才能の持ち主らしいので少し安堵した。
こんなのがゴロゴロしてたらたまらない。
それでも管理局の規模を考えれば、それなりの人数がなのは以上のレベルにいるのだろうが、これは気にしても仕方がないか。どれほど割合が低くても、大勢いればそれなりの数になる。それだけのことだ。

「クロノ君のランクはAAA+だよ。ただ魔力量はなのはちゃんたちには及ばないけどねぇ」
そんなことを言っているのは、いつの間にか私たちの横を歩いている、いたずらっぽい顔をした茶髪の少女だ。

「えっと……あなたは?」
とりあえず誰なのか聞かないことには始まらない。
ユーノが代表して質問する。

「ああ、彼女はオペレーター兼僕の補佐の…」
「エイミィ・リミエッタよ。気軽にエイミィでいいから」
クロノの紹介を引き継いで名乗ってくる。
何かしら、この子とはアリサとかとは違った意味で、私と似た匂いがする。
きっと私と同じように真面目な奴、特に気に入った奴を弄るのが好きに違いない。
目が合った瞬間に、今までに感じたことのないシンパシーが走ったのだ。理由などこれで十分だろう。
私の直感は、今まで外れたことがないのだから。

「ええ、よろしくエイミィ。私と趣味が合いそうだし、なんだかあなたとはとても仲良くできそうね」
彼女は今までにいた強敵たちとは違う、いうなれば朋友のようなものになれそうな予感がある。
魔術師としてはどうかと思うが、やはり同好の士というのがいると、同じことをするにしてもより楽しめそうだ。

「本当ね。私もそう思うわ。もしよかったら、今度(クロノ君で)一緒に遊ばない?」
言葉には出していないが、その裏にある思いはなぜか手に取るようにわかる。

「いいですね、ぜひお願いします。その時は一緒に(士郎も使って)遊びましょう」
向こうも私の言葉の裏にある意味に気づいたようで、実に楽しそうに笑っている。
固い握手を交わし、予感は確信に変わる。ああ、やはりこの人は遠坂凛のお仲間だ。

その時、クロノがやけに不安そうな顔をしていたのは、何か私たちのやり取りの中で気づくことがあったのだろう。
言ってしまえば、獲物の直感といったところかもしれない。

絶対に逃がす気はないけどね。



Interlude

SIDE-士郎

ぞわっ!!?

「な、何だ、今の!!!?」
たったいま、かつてないほどの悪寒を感じた。
それこそ、ゲイ・ボルクや乖離剣を前にした時以上の悪寒だった。
凛のことが心配で、意味もなく仮宿の中をうろうろしていたら、突然とてつもなく嫌な予感がしたのだ。

こんな時の予感は、まず外れたことがない。そう、どうやっても外れないのだ。
「結局は、天災のようなものということか。
 ああ、人間ごときにそれを止める力なんてないもんな。
 なら諦めて、その時が来るのを待つか…」
俺にできることなんてないんだから、ただ大人しく被害が最小になることを祈るしかない。
きっとこの願いがかなうことはないんだろうけど。

今は歪んでても危険でもいいから、聖杯やジュエルシードが欲しくなってきた。
「はぁ、こんな事ならフェイトに渡さなきゃよかったな……」
せめて愚痴でも言って、仮初でもいいから心の平穏を保つとしよう。

Interlude out



わずかな間気圧されていクロノが、気を取り直して様に口を開く。まだ若干動揺しているようだけどね。
「ふ、ふん。魔法、特に戦闘ともなれば魔力自慢だけじゃ勝てはしないぞ。
 大切なのは制御と応用力、それに判断力だ。どんなに威力があっても、当たらなければ意味はない」
言っていることはまったくもって正論だ。
ただ撃ちまくるだけじゃ無駄が多いし、状況を見極める判断力や臨機応変な応用力がなければ、ただの力任せになる。
戦闘に無駄なことをしている余裕などない。効率的に、より効果的な戦いをした方が勝つものだ。

これを突き詰めたのが、アーチャーや士郎の戦い方になる。いや、ある意味その究極は衛宮切嗣か。
士郎が土蔵で発見した封印の施された小箱には、彼の遺言や礼装である起源弾、そして手記があった。そこには衛宮切嗣の、魔術師殺しとしての半生が書かれており、そのえげつなさには息をのんだ。
効率という観点で見れば、あれ以上のものはないだろう。その意味では、守護者となったアーチャーでさえも衛宮切嗣には及ばなかったと言えるかもしれない。

クロノは魔力量ではやや劣るらしいが、今の反論から効率的な魔力運用という点では、相当な自信があるのだろう。
本人は、培った経験とこれまでの修練こそが自分の武器と考えているようだ。魔術師から見れば、十分すぎるくらいに恵まれた魔力の持ち主だと思うのだが。比較対象がなのはクラスでは、誰だって見劣りしてしまう。
まぁ、本人がそう判断しているのだから、私がとやかく言うことではないか。実際にクロノは、その劣っている点を補って余りあるほどの努力と修練を積んできたのだろう。
だから、なのはがこいつに勝てるようになるのは当分先だ。それはフェイトにも当てはまると思う。

それと、クロノは士郎と気が合いそうだ。お互いにいろいろ苦労して強くなった分、共感し合えるかもしれない。
まあそれでも、士郎の才はクロノとは比べるまでもなく遥か下だ。
アイツは基本的にはそう強くないくせに、いざ戦えば最後には勝っているというとんでもないやつだ。

「凛ちゃんの魔力量だけど。魔術回路っていったっけ。それが起動してる時は、だいたいAAランクくらいかな。
宝石にためてるっていう魔力も合わせれば、相当な量になるね。
 それと瞬間放出量だと、なのはちゃんに引けを取らないみたい。
魔術回路ってのは、そっちに長けてるのかもね。まあ、質が違うみたいだから断定はできないけど……。
これなら十分即戦力だよ」
意外だったのは一度に放出できる魔力量で、私となのはにそう差はないとのこと。
厳密にいえば、今回の検査では多少手を抜いているので、私の方が勝るはずだ。
最大限での使用可能量では及ばないようなので、タメをすれば話は変わってくるだろう。だが、ノータイムで撃ち合う分には、短時間に限定すれば優位に立つこともできるだろう。

この場合の問題はスタミナだ。
蛇口から出せる量が同じかそれ以上なら充分に拮抗できるので、あとは貯蔵の問題になる。
こちらは瞬間放出量が大きい分、底をつくのも早い。はじめのうちは優位に進められても、底をつくまで持ちこたえられれば負けは確実。大威力攻撃のチャージタイムを取られると、余程魔力を貯めた宝石でもない限りその威力に対抗するのはまず無理だ。総合的には不利になるだろう。

しかし、宝石剣を使えばまず負けはない。何せこっちは無制限だ。私の圧倒的有利は揺るがない。
逆を言えば、宝石剣なしだと今はともかくそのうち勝つのは難しくなるということだ。
ただでさえ私は戦闘向きではないので、戦闘方面ではすぐに追い越されそうかな。

「それとリンカーコアの方だけど、一応凛ちゃんの体内に確認されたよ。少しだけど活性化しているみたいだね。たぶん、念話みたいなこっちの魔法を覚えて使ったせいじゃないかな。
 ただ、こっちの方はなのはちゃんほど強力じゃないみたいで、ランクにしてBくらいかな」
いくつかの検査をしてわかったことだが、魔術回路とリンカーコア、それぞれで生成される魔力はその質が微妙に異なり、互換することができないらしい。つまりは、魔術回路で出来るのは魔術だけ、リンカーコアで出来ることは魔法だけになる。

イメージ的には水と油だろうか?
両方とも液体なので同じ基準で量を測ることができるが、その性質は全く別だ。水は燃えないし、油では火を消すことはできない。また両方を混ぜることもできないので、結構的を射ていると思う。
リンカーコアの魔力は次元世界の魔導師の魔法に、魔力回路の魔力は私たち魔術師の魔術に、と云った具合に二つはそれぞれの“出鱈目な出来事”を起こすために最適化された全く別のエネルギー源ということだろう。
あるいは、その逆かもしれない。
それぞれの魔力がそういう方向性を持っていて、その方向に向けて魔法と魔術は発展した可能性がある。

まあ、今はこんな考察をしても意味がない。
この組み合わせを変えることは現状できそうにないので、ロクに魔法を習得していない私は、リンカーコアからもたらされる魔力は基本的に使用不可。それだけわかっていれば十分だろう。
詳しいことは、この件が終わってから考えればいい。
少しもったいない気もするが、できないことを考えても仕方がないので、これは後の課題ということにする。

この件に関しては一応の決着がついたので、話を変えることにする。
「まぁ、当分は魔法に手を出す気はないから、それはあんまり関係ないわね。
さしあたって、ジュエルシードの回収や戦闘の方が重要ね。私はなのはみたいに飛べないから、この先やるとしたらサポートが中心になるわ。
 それと、ジュエルシードの中には海に落ちたのもあるだろうから、その時は何もできないし。
 そこはユーノとクロノに任せるわ」
新たにクロノが戦力として加わったことで、私の役目は情報提供が主になる。

「だが、アーチャーが出てきたら手伝ってもらうぞ。
 何せわからないことが多い。少しでも多くの戦力で当たって対処するのがいい」
魔術に関しては私しか知らない以上、当然この先もアイツの相手は私になる。
最もわからないことが多く、かなり危険な武装を持っている士郎がアースラチーム目下最優先の標的になった。
これからは士郎もやり辛くなるだろう。艦を降りたら、そのことは士郎に伝えておかないといけない。
もし本当に捕まっては、今までの苦労が水の泡だ。それだけは何としても避けないと。


これからはアースラにいることが多くなるので、士郎との連絡は難しくなる。
今もパスを使って連絡しようとするが、つながらない。
さすがにこれだけ離れてしまっては、効果はないらしい。あるいは次元を隔ててしまっているせいか。
そもそも私たちの間で通したパスは、魔力をやり取りするものであって、念話もどきは副産物にすぎない。
魔導師の念話の技術を応用すれば何とかなるかもしれないが、時間も無いし今は無理そう。
今のうちに伝えることは伝えておかないと、連絡が取れなくなってしまう。

ジュエルシードを探して、艦を降りたときにしか連絡はできそうにないので、作業中の情報交換もありそうだ。
管理局が介入してきたから、ここからは一気に事態は進展するだろう。
早いとこあの山猫には目を覚ましてもらって、詳しい事情を聞きたいが、私は当分家に戻れないので士郎に世話を任せるしかない。
まだ私にはフェイト達の動向を知る手段があるので、一番状況を把握しやすいはずだ。
何としても、最後にはすべてを出し抜いて勝利を収めてやる。


だが、まだ私たちはフェイトのつながりがなくなっていたことを知らなかった。
おかげでアドバンテージを一つ失ってしまっていることを知るのは、少々後のこと。




あとがき

う~ん、今回は無難かな?
特に奇をてらったものはなかったと思います。

強いてあげるなら、凛の報酬請求ですかね。少なくともタダ働きをする柄じゃありませんし、しっかり貰えるものは貰うと思います。
ただ、デバイスとは別に金銭も要求させた方がよかった気もします。
凛にはせっかくなので魔法と魔術の組み合わせにチャレンジしてもらいたいと思い、デバイスを持たせることにしました。二つの長所を両立できたらすごいですね。

交渉はアニメの方でも、そう長々とやっていた様子ではありませんでしたし「詳しいところは改めて…」みたいな感じで一度降りたのだと思います。実際、なのはたちが降りた時はまだ夕方でしたしね。
まあ、交渉のあたりは感想を見て、手を加えるか考えます。

チヒロ様が感想の方で色々と案を出して下さりましたが、魔術回路のことや結界のことはもう出してしまったことですし、二度も書くのはどうかと思い省きました。


では、今回はこれで失礼します。


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