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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 第12話「時空管理局」
Name: やみなべ◆33f06a11 ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/31 15:22
カリム・グラシアという少女がいる。

まだ幼さを残すが見目麗しく、頭脳は明晰。古代ベルカ式という、今や伝える者も少ない魔法技術を操る才媛だ。天より一物も二物も与えられた、実に将来が楽しみな少女である。

だが、この少女が次元世界を管理する時空管理局の上層部に多大な影響力を有していることを、いったい何人が信じるだろう。いかに優れた知性と、希少な技術を有しているからとはいえ、本来ならあり得ない。
その理由は、それらとは別に彼女が保有するレアスキルにある。

その名を「プロフェーティン・シュリフテン(預言者の著書)」。これは、次元世界で起きる事件をランダムに書きだし、詩文形式の預言書を作成するというものだ。上手く条件が揃わないと発動できないため、預言書の作成は年に一度限りとなる。また、難解な文章で構成されるその預言内容は、解釈違いなども含めると的中率はよく当たる占い程度。
しかし、それでも当たる可能性がある以上無視できるものではない。過去様々な預言がなされ、時には世界の危機を防ぐきっかけとなるほどの貴重な能力だ。その重要性は言うまでもないだろう。

その彼女の預言に、一年前、危険極まりない一節があらわれた。その内容は以下の通りだ。


『かつては栄え、今は滅びし都にて、夜に蠢く化生が目を覚ます。
彼の者は、長き時を経て蘇りし、死者を統べる屍の王。
その瞳は生の綻びを見抜き、その爪を以てすべての生者に終焉を強いる。
 王は不老にして不滅。命の雫を吸い上げ、屍の山と偽りの命を築く。
時が満つれば、王は亡者を率い遍く世界へ侵攻する。
これを止める術はない。死者の軍勢は、何者も恐れることなく、尽くを蹂躙せん。
いずれ世界に死が満ち渡り、現し世は冥府へ堕ちる』


この預言は、管理局上層部を震撼させた。同時に混乱を恐れ、これを隠匿し秘密裏に対処することが決定された。
これまでにない内容の預言は、一つの世界の危機を伝えるものではない。「現し世」、すなわち次元世界全体の危機を伝えている。

問題なのは、預言が的中しているとして、「不滅」の存在相手に、一体どう対処すればいいのか見当もつかないことだ。しかもこの存在は、死者が増えれば増えるほどにその勢力を増すことが予想される。文字通り、生と死の鬩ぎ合いになるのかもしれない。

そうだとすれば、「生」の側が圧倒的に不利だ。死者を殺しても、それが死者であることは変わらない。つまり、「死」の側は勢力を増やすことはあっても、減らすことがない可能性もある。
だが、これはあくまでも推測にすぎない。情報が不足しているので、現在も管理局の誇る超巨大データベース「無限書庫」で情報収集に当たっている。しかし中身がほぼ全て未整理なこともあり、一年経ったが手掛かりの一つも発見できていない。

預言の成就には最長で数年の余地があるが、最短で半年でそれは現実となる。
すでに預言が出て一年が経過しており、いつそれが起こっても不思議はないのも事実だ。なかには、一向に情報面に進展が見られないことや内容そのものの不明瞭さから、預言自体が間違っているのではないかと考える者も少なくない。

だが今年、さらなる前代未聞の事態が起こった。
これまで、一度出た預言に変化が起こったことはなかった。ところがおよそ一月前、発動のための条件も揃い、毎年の恒例となりつつある預言書の作成を行ったところ、先の預言に新たな一節が加わったのだ。
その変化は、この預言がかなりの高確率で成就する事を窺わせた。だが同時に、そこには未だ僅かな情報さえ引き出せていない現状を救う、希望が記されていた。


『王を阻むは、遥か遠き地より訪れし紅き稀人。其は原初の探究者と、それに従う異端の騎士。
彼の者達は世界を穿つ者、世界を侵す者。虹の宝石と虚構の剣が織り成すは、無限を体現せし奇跡の御技。
古に置き去りにされし神秘の輝きが、深遠なる六重の闇を祓い、王の首に刃を突き付ける。
彼の王とて、同胞たる禁忌の力には抗ぬ。
再度黄泉路は開かれ、真の滅びに直面せん』


新たに書き加えられた預言は、この「王」を滅ぼせる存在が現れることを示唆している。
しかし、預言ではあくまでも「直面」するだけで、実際に滅ぼせるとまでは出ていない。だが、「異端の騎士」と「原初の探究者」という二人を見つけ出せば、「王」の詳細や弱点がわかる可能性がある。ならば、その情報が得られれば、管理局の方でもこれに対処できるようになれるはずだ。
管理局の理念と在り方として、できれば逮捕したいが、最悪の場合には「王」の抹殺も考慮しなければならない。世界全体の存亡がかかっている以上、優先すべきは世界を守ることだ。

しかし、騎士と探究者が管理局に対し友好的である保証はなく、その能力を示しているであろう記述も、「神秘」や「奇跡」のような、曖昧な表現が多く見られる。「無限」という表現にしても、限り無き力など存在するはずもなく、何らかの比喩表現であると考えられている。おそらくは管理局が知らない未知の技術か、ロストロギアを用いる存在だと予想されている。
特に、世界に対し何らかの干渉が可能と思われる記述もあり、「同胞」という表現からも、「王」とは別に危険な存在であるかもしれない。そのため、場合によっては手荒な手段に訴える必要がある、との意見も出ている。

同時に、この預言は新旧双方ともに表現に理解不能な点が多く、いまだに内容そのものに疑問を挟む者も多い。だが、万が一事実であった場合の対処は欠かせない。再解釈をおこなう者もいるが、現在これ以上有力な解釈はなされていない。

本局上層部は、これを一部の提督級以上の高官たちに公開することを決定した。
主だったところは、本局次元航行部隊の前線提督だ。
騎士と探究者は「遥か遠き地」、おそらくは管理外世界か、未知の世界の出身である可能性が高いためだ。
前線勤務の提督は、さまざまな世界をめぐるその職務上、この存在の探索には適任だ。
そこで、通常の任務と共にこの存在の捜索に当たるよう、極秘のうちに指令が出された。
また、緊急時に迅速な行動ができるよう、一部の後方勤務の高官にも公開されている。


ここ、次元航行艦アースラのブリッジに座す提督、リンディ・ハラオウンもその一人だ。



SIDE-アースラ

今アースラは、小規模次元震を観測した第97管理外世界、現地惑星名称「地球」付近に到着したところだ。
「ここが、小規模次元震を観測した世界なのよね」
そう言って、リンディ・ハラオウンは手に持った砂糖とミルクのたっぷり入った「緑茶」に口をつける。
この異常事態に対して反応を見せるクルーはいない。つまりは、これがこの艦の日常風景なのだ。

「そうですね。資料によると、特に魔法技術のない世界らしいです。
 スクライア一族から報告のあった、紛失したロストロギアの仕業の可能性が高いですね」
それに答えるのは茶色の髪をした少女で、名をエイミィ・リミエッタというオペレーターだ。
手元にある資料を見て、現状を確認している。

「小規模とはいえ、次元震の発生は……ちょっと厄介だものね。
 この分だと、またそのロストロギアが次元震を起こす可能性もあるし、できる限り早く対応すべきでしょうね」
少しばかり思案するように口もとに指をやり、そう自分の考えを話す。

「発見者でもあるスクライア一族の少年が行方不明になっていますから、そのロストロギアの捜索にあたっているかもしれませんね」
リンディの声に返すようにして、発見者の少年の顔写真をモニターに投影する。
まずこの少年に話を聞くべきだ、という意見も込めているのだろう。
そこには、ユーノ・スクライアの顔があった。

「そうね。ロストロギアの捜索もそうだけど、この少年を見つけるのも必要ね。
 捜索者は二組いるようだし、片方に彼が関わってる可能性が高そうね。
そうすると、すでにいくつか回収しているかもしれないわ。
 クロノ。そういうことだけど、頼める?」
そうして今後の方針を決定したリンディは、やや下にいる黒服の少年に向けて声をかける。

「もちろんです、艦長。僕はそのためにいるんですから」
そうきびきびとした声で返すのは、漆黒のバリアジャケットを纏い、黒髪のまだ年若い少年だった。



第12話「時空管理局」



SIDE-凛

先日のジュエルシードの暴走から数日が経った。

その間、私はあまりなのはの訓練に付き合っていない。なのは自身、今は新しい魔法の構築はしていても、訓練やジュエルシードの捜索はほとんど休止状態だ。
理由としては、あの時になのはのもう一人の相棒であるレイジングハートが破損してしまい、今はその修復に集中すべき、というのが表向き。
素人のなのはにとって、レイジングハートの補助がないのは少し不味い。いずれは補助なしでも問題なく魔法を行使できるようにならなければならない。だが、現状あの危険物を相手にしなければならないので、少しでも万全に近い状態で事に当たらなければならないからだ。
余計なことに労力を割くよりも、少しでも早く修復を終えるのが急務だと言うと、二人とも納得してくれた。

それとは別に、私自身今はあまり手が離せない状況でもある。そして、それこそがなのはにあまり付き合っていられない本当の理由だ。
フェイト達の本拠地、時の庭園から戻った士郎からもたらされた情報と、あの山猫。
多くの情報を有するであろうあの山猫を、何とか回復させようと八方手を尽くしているが、なかなか進展しない。
かなり長期にわたって衰弱していたようで、無理矢理簡易的な契約状態にはできたが、いくら魔力を注いでも意識が戻らない。
「これは、思っていた以上に時間がかかりそうねぇ」

まだ表立ってはいないとはいえ、プレシアと私たちの利害はぶつかるので、戦いになることが予想される。
今回は逃げられた方が危険と判断し、戻ってきた士郎は正しい。
逃げたとしても、諦めるとは考えにくい。ならば別の拠点から集めようとされるよりも、居所がある程度分かる今の方がマシだ。
戦うとしたら、逃げる隙を与えず確実にしとめられる時でなければならない。

その時になって、少しでも迅速に行動するためにも、この山猫の力を借りられた方がいいのだが…。
「何事も、そう思い通りにはいかないか。
 今のところはこれまで通りに動いて、あの子が目を覚ますのを待つしかないかな。
 しばらくはジュエルシードが出そろうこともないだろうから、多くはないけど時間はあるし」

根源に至る試みとなれば興味はあるが、その結果すべてが消えるのでは元も子もない。
仮に成功しても、その瞬間に別のものに反応した抑止が動いて、こっちまでやられるかもしれない以上、あまり良策とは言えない試みだ。
やはり他人頼みではなく、自力で至る方がいいのだろう。


  *  *  *  *  *


時刻は夕方。

私たちは、相変わらずのジュエルシード探しをしている。
レイジングハートの修復は終わり、これで改めて捜索と訓練に集中できることになった。
ここからは何かしら理由をこじつけて、あの山猫の様子を見る時間を捻出しなければならない。
ところが、こんな時に限って特に上手い理由が思い浮かばないのだから困ったものだ。

そして、修復が終わり動けるようになったのは向こうも同じはずだ。
少なくとも、なのはより技量が上のフェイトが、こちらより時間がかかるとも思えない。
おかげで、より一層私が別行動を取るのが不自然になる。
ホント、何かうまい理由はないものかしら。

それに、どうやらこの子たちはあれの危険性に気づいていないようだ。
そうすると場合によっては、また前回のような事態になりかねない。
前回のことで気づいたことを言えればいいのだが、それだとあまりに規模が大きくなり過ぎる。
不安を煽るようなことを言うのもよくないし、これはうまく手綱を握ってやらないといけないな。

そういう意味も込めて、少しなのはに釘を刺すことにする。
「なのは。わかっていると思うけど、あまりフェイトとの戦いに固執し過ぎちゃダメよ。
 前回みたいなこともあるし、あれを暴走させるようなマネだけはしないようにしなさい。
 私たちの最優先の目的は、あれの回収であって、フェイト達を倒すことじゃないんだから」
なのはは決して頭の悪い子ではないが、まだまだ幼い子どもでしかないのも事実だ。
目の前のことに集中するあまり、本来の目的を忘れてしまう可能性は十分にある。
それにこの子の場合、覚悟云々はともかく、自分なりの戦う理由が持ててきた事で、当初の目的が疎かになりかねない。

そんな私の言葉に、なのはが困ったように聞いてくる。
「にゃはははは……。えっと、わたしってそんなに信用ないのかなぁ?」
「人柄や才能に関しては信用しているわよ。
でもね、アンタこうと決めたら一直線と言うか、ゴリ押しすると言うか、結構突撃思考でしょ。
 そのあたり悪い癖だから、早めに直しなさい」
集中力があると言えば聞こえはいいが、この子の場合少し違う。
いや、確かに集中力はあるが、それが猪突猛進な思考とセットになっている。

今後のためにも、もう少し後先考えて広い視野で動くことを身につけるべきだ。
この年齢の子どもにする要求ではないが、一応は戦いの場に立つ身。これを疎かにするのは非常に危険だ。

そんな私の心配をよそに、なのはの方はその点に関して自覚が薄いようだ。
「う~ん、そうかなぁ? あんまりそんな気はしないんだけど……」

「それはアンタが気付いていないだけ。
自覚がなくても、自分にそういったところがあるってことは憶えておきなさい」
「はーい」
返事はしているが、多分わかっていないだろう。
こういったことは、得てして本人はわからないものだ。

それに、別にわからないならそれでもいい。私たちの師弟関係は、この一件が片付いてもしばらく継続するはず。
ならばこの一件が片付いてから、ゆっくりかつ厳しく教えていけばいい。
無茶をするのは士郎だけで十分だ。これ以上増えては、私の身がもたない。
士郎のあれは筋金入りだから、そう簡単にはどうこうならないけど、せめてなのはは何とかしたいな。


そうしていると、すでにお馴染みとなりつつある魔力の波動を感知する。
「なのは、ジュエルシードが発動したよ!」
なのはの肩の上にいたユーノが言ってくる。

経験を積んだせいか、私から指示を出さなくても動き出す。
「うん。凛ちゃん、先に行ってるから!」
言いながら、修復の終わったレイジングハートを起動させて、飛び立っていくなのは。

「さて、前回みたいなこともあるし、私も急ぎますか」
また暴走して、抑止力の心配をするのは勘弁してほしい。
そんなことにならないように、ちゃんと見張っていないと。


  *  *  *  *  *


今回の発動場所は海のそばにある公園。
すでに封印状態にまでもって言っていたが、そこにはフェイトもいた。
どうやら二人がかりでやったらしい。それにしても、手際が良くなったものだ。

それはいい。その方が効率はいいのだから、その判断は正しい。
だが場所をわきまえずに、またその近くで取り合いをするというのは、二人ともまだまだ子どもということか。
「ああもう!! あんなところでやりあったら、また暴走するじゃないの!
 前回の教訓ってものがないのか、あんたらは!!」
そう声を張り上げるが、二人揃っていい感じにヒートアップしているようで、まったく聞いていない。

そこへ士郎もやってくる。
「おそい!! 自分の相方の手綱くらい、しっかり握ってなさい!」
八つ当たりだが、この後に起こることを考えると言わずにはいられない。

「む。そうは言うがな、それはそちらも同じだろう。
 それに、こんなところで言い争っている場合ではない。急いで止めないと、また面倒なことになるぞ」
それにきっちり返してくるが、すぐに思考を切り替えて対策を講じている。
だが、それでは遅い。あの二人はまた打ち合おうとしている。
ジュエルシード越しでないのが救いだが、それでも何がきっかけで暴走するかわからない。

というかそれはそれとして、あの子はなに接近戦をやっているのか。それだけはするなと何度も言ったのに。
「わかってるわよ!! 急いで止めるわよ、手伝いなさい!」
こうなっては隠すも何もあったものではない。急務はあの二人を止めることだ。

そう考えて、ガンドを撃とうと左手を出すがそこで止まる。
二人が打ち合う瞬間に、割って入ってきた人物がいたからだ。
そいつは蒼い魔法陣から出てきて、二人のデバイスを止めて宣言した。
「ストップだ!!」
いきなり現れた少年は、二人に向かって命令する。

…というか、あんた誰? 突然のことに、この場にいる全員の動きが止まっている。
まあ、おかげで暴走の危険がなくなったようなので一安心だが、また新しい要素が加わるようだ。

おそらく、当人を除けばこの場にいる全員が共有している疑問に、向こうの方から答えが与えられる。
「僕は時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。
その権限で、これ以上の戦闘行動の停止を命じる。
両名とも速やかにデバイスを収めるように。詳しい事情を聞かせてもらおうか」
どうやら、一番来てほしくない連中が来たらしい。

(まったく、なんでこう厄介事ばっかり増えるのかしら。
ただでさえややこしくなってきてるのに、ここにきて管理局が出てくるなんて)
どんどん悪くなる状況に、頭を抱えたくなる。
いきなり止められた二人は、しばし呆然としている。
そうして、気圧されたように少しだけ後ろに下がった。

そこからのリカバリーの早さは、さすがにフェイトの方が早かった。
すぐに思考を切り替えたフェイトがジュエルシードに飛びつく。
だが、さすがに「執務官」という偉そうな肩書は伊達ではないらしく、クロノとかいう方もフェイトに向かって即座に魔法を撃つ。
「「!!?」」
フェイトに向かって放たれた魔力弾を、さらに士郎が投影した両手の黒鍵の内、片手分で撃ち落とす。
よくもまあ、あれだけ小さく動きのはやい的に正確に当てられるものだと、改めて感心する。狙いの粗い私には、まずマネできない芸当ね。

「何の真似だ!?」
魔法を撃ち落とされたクロノが、士郎に向かって叫ぶ。
突然の事態の変化に、なのはは付いていけていない。

「突然攻撃してきたのは、そちらではなかったかね?」
「戦闘行動を停止するように言ったはずだ」
先ほど現れた時と同一のことを、あらためて言ってくる。
あまりまともに取り合う気はないらしい。場の主導権を握るという意味では有効だが、印象はマイナスだ。

「いきなりやってきて、動くなと言われてもな。
こちらにも事情があるのでね、無条件に君に従うわけにはいかんよ。
そういえば権限などと言っていたが、どんな法的根拠があって言っているのかね?」
管理局の人間らしいが元から身柄を預ける気はないので、従ってやる義理もない。
権限とやらにしても、私たちは執務官という役職にどの程度の権限があるのか知らない。
でっち上げの可能性もないわけではない。身分詐称だってありうる以上、警戒するのは当然だ。

「管理外世界での戦闘自体が違法行為だ。子どもとはいえ、この場で君たちを拘束してもいいんだぞ」
補足するように付け加える。全てを鵜呑みにするなら、一応これで私たちを拘束する大義名分があることになる。
それにしても、あまり脅し文句を言うのは感心しない。権力を誇示しているようで、不快感が募る。

「……ふむ。そもそも私を含めてこの場の何人かは、君のいう法そのものを知らないのだがね。
 それに命令に違反すれば即攻撃、というのは野蛮ではないかな。
せめて、警告なり威嚇射撃なりからでもよかったはずだが。
それに子どもと言うがな、君とてそう変わるまい。見たところ、十一・二歳くらいか?」
まあ、普通の警察ならそのあたりから始めるか。
危険物があるとはいえ、マフィアや戦争屋ではないのだから問答無用で攻撃などするものじゃない。
それにあんな危険物をいつまでも放置していないで、さっさと回収すればいいだろうに。どうも穴が目立つ。
今の私たちとそう変わらない年齢のようだし、子どもだということを考えれば仕方がないか。

「君たちが管理局の法を知らないだって?
悪い冗談だ。君たちは魔法を使っていた以上、次元世界の魔導師のはずだ。
それなのにそんなことも知らないなんてあり得ない。
それと、僕は十四だ! 訂正しろ!!」
まぁそう思っても仕方がないのかもしれないが、あまり自分の考えを押し付けないでもらいたい。
実際に詳しいところを私たちは知らないのだから。

それと、あの身長で十四歳か。平均より結構低めだ。
あの様子だと、かなりコンプレックスを持っているみたいね。仕事のことそっちのけで訂正を求める辺り、かなり必死だ。
う~ん。この様子だと士郎と同じで、からかったら面白そうなタイプかも…。

「ああ……それは、悪いことをしたな。済まなかった。悪意はなかったんだ」
昔は士郎も身長を気にしていたので、目の前の少年の気持ちは他人事には思えないのだろう。
変装をしているせいで顔はわからないが、声には心からの申し訳なさが滲んでいる。
駆け引きとか抜きで、本心から謝罪しているのが伝わってくる。
というか、口調が若干戻ってない? そこまで申し訳なさそうにしなくても……。

そんな士郎の心からの謝罪を、クロノ執務官は素直に受け取れないようで、かなり激昂している。
「誰が同情しろと言った!!
 もういい! あとでじっくり反省させてやるからな、覚悟してろよ」
なんか少し目が据わっているような気がするけど、気のせいよね…たぶん。

士郎も気を取り直して、話を進めようとしている。
「まあ、なんだ。それは置いておくとして、君の言い分こそ悪い冗談だな。
この世には君の知らないことなどいくらでもあり、今まさにそれが目の前にいるのだよ。
勝手な思い込みで決めつけるのは、やめてくれないかね」
そういう意味でいえば、私たちはあり得ないことのオンパレードともいえる。
それはこいつの世界が狭いのではなく、そもそも世界が違うのだから仕方がないのかな。

お互いに歩み寄る気はないらしく、話は平行線をたどっている。
しかし士郎はともかく、あのクロノというのは管理局とやらの人間なのだから、もう少しやりようはないのだろうか。いくらコンプレックスを感じている点に触れてしまったとはいえ、あまり感情的になるのはどうだろう。
その上、こうも居丈高では第一印象がいいとはとても言えない。
一応公務員のような職らしいが、せめて説明責任はあるだろうに。
こっちとしては、十分な説明をされているとは思えない。
それを怠っている時点で、職務怠慢と言われても仕方がないだろう。

それに、今の私が言うのもなんだが、そもそもこんな子どもを単独で動かすのはどうだろう。
ユーノの話だと、向こうは就業年齢がこちらよりかなり低く、能力さえあるなら年齢はたいした問題ではないらしい。実力主義と言えば聞こえはいいが、いくらなんでも単独行動はやり過ぎじゃないのかな。
管理局は慢性的な人員不足らしいが、それでも子どもを危険な前線に立たせるというのはいただけない。

せめて、仲間を数人連れて来るくらいはしておくべきだ。悪くすると、私たちの両方から袋叩きにあう可能性だってあるのだから、もう少し用心した方がいい。
まあ、私は別に他所の世界の在り方に口を出す気はないし、そんなことは知ったことではないので、何も言う気はない。ただ、本人がもろもろの覚悟をしていたとしても、士郎にはきっと受け入られないことだろうな。

そうして二人は互いに睨み合っている。
周りの人間も迂闊に動けない。この一触即発の空気の中、何がきっかけで事態が動き出すかわからないのは、だれの目にも明らかだった。

先に動いたのは士郎だった。厳密にはそれは発言だが。
「フェイト、ここは退くぞ! 私が足止めする。君たちは先に行け!!」
このままではらちが明かないと判断したようだ。
とりあえず離脱することにした士郎が、指示を出す。

それに対しフェイトは、戸惑いを見せる。
「シ……アーチャー!?」
「早くしろ! 先に逃げてくれれば、私も逃げられる。
 案ずるな。単独行動は弓兵の得意分野だからな、適当なところで切り上げるさ」
フェイトの不安を払拭するように、士郎は不敵な声で促す。
どっちみち今の段階では、管理局に捕まるわけにはいかないのだから当然だ。
フェイト達が捕まるのも防がなければならない。あちらが捕まれば、芋蔓式で士郎のことも知られてしまう。

「……うん。気を付けて」
僅かな逡巡の後、フェイトは意を決して離脱しようとする。

「待て!!」
クロノもそれに反応し、動き出したフェイトを攻撃しようとするが士郎の邪魔が入る。
手に持っていた残りの黒鍵を投擲して牽制する。すぐに懐に手を入れ、もう一度黒鍵を投影して構える。
牽制のための攻撃だったこともあり、元から当てる気はなかったようだ。
目の前を通り過ぎる黒鍵に機先を制され、クロノの動きが鈍った隙に、フェイトとアルフは離脱する。
さすがに足自慢なだけはある。見事な引き際だ。

「やってくれたな。だが、君は逃がさないぞ!」
フェイトに逃げられた以上、この執務官としては士郎を逃がすわけにはいかない。
露骨な敵意を向けているあたり、今ので相当ご立腹のようだ。
対する士郎としては、まだそれほどフェイト達も離れていないはずなので、少しばかり時間を稼ぎたいらしく、相手になってやるつもりか。

私となのはは、もう完全に蚊帳の外。
とりあえず傍観者に徹して、執務官殿の腕前を見せてもらいましょうか。



Interlude

SIDE-クロノ

こちらの戦闘停止命令に逆らい、ロストロギアの封印をしようとした魔導師の仲間らしき男と戦闘になる。
一応、アースラに逃げた魔導師を追跡するようには伝えてある。ならば、今は目の前の敵に集中すべきだ。

懐に手を入れたかと思うと、そこから指に挟むようにして、先ほど投擲してきたものと同じ、三本の柄の短い細身の剣を出してくる。それが両手にあり、合計六本の剣を持つという、奇妙な構えを取る。
「アーチャー」と呼ばれていたが、弓ではなく剣を使うのか。

構えの様子や先ほどの使用方法を見るに、投擲用の剣なのだろう。
それに柄も短いし、手に持って振るうのには向かないように見える。
しかし、一体何本隠し持っているんだ?
さっきまでのも合わせれば、出した剣の数はすでに二桁になる。さすがに、もう出てくることはないと思うが、一応警戒しておいた方がいいか。

それにしても、他の子たちは素顔をさらしているのに、こいつだけは隠している。
それだけでも、後ろ暗いことがあると言っているようなものだ。
あるいは、別件で追われている次元犯罪者の可能性もある。
魔法を使えば姿なんていくらでも偽装できるし、背格好の通りの年齢とは限らない。注意して当たるべきだ。

今僕がいるのは足場のない海上。彼とはそれなりに距離がある。
彼に空戦ができるかはわからないが、これだけの距離があれば大抵の事態には対処できる自信がある。
まだロストロギアの方を封印もしていないこともあるし、できる限り早急にケリをつけたい。

しかし、目の前にいる敵には隙が見当たらず、どうしたものかと攻めあぐねてしまう。
全く情報のない相手に突っ込んでいくほど無謀ではない。
僕はあまり才能に恵まれているとは言えない。慎重に事を進めるべきだ。

互いに牽制し合うように睨み合っていると、何を思ったのか外套の男が口を開く。
それと同時に、剣を挟んだままの彼の右腕が上がる。何かをしたのかと思い気配を探るが、特に変化はない。
「策もなく敵に向かってこないのは感心だが、もう少し周囲に注意を向けるべきではないかね?
 そうだな。例えば、頭上などがら空きだぞ」
突然わけのわからないことを言ってくる。
僕の注意をそらすのが目的だとしても、あまりにお粗末すぎる。
もっと厄介な相手だと思っていたのだが、買い被っていたということだろうか。

黙ったままでもいいのだろうが、このまま睨み合っていても仕方がない。
何かのきっかけになればと思い、応じてやることにする。
「…何を言い出すのかと思えば。
あまり、姑息なマネはしない方がいい。程度が知れるぞ」
挑発の意味も込めて言ってやるが、どうも様子がおかしい。
まるで、こちらの発言にあきれたかのような仕草を見せる。

「まったく、そう邪推するものではない。今のは心からの善意で言ったのだがね。
 その様子だと、そちらもきっかけが欲しいようだな。ならば、こちらからくれてやろう。
『投影、開始(トレース・オン)』」
その言葉と共に、上げられていた彼の右腕が、勢いよく下ろされる。
同時に、僅かに魔力の発動を感じる。

魔力の発動に警戒を強めるが、特に変化はない。魔法陣もなければ、魔法弾やバインドも使っていない。
何をしているのかといぶかしんでいると、僕の周囲の変化に気づく。
いつの間にか、僕の周囲に影ができていた。気付くのと同時に何かが風を切る音が聞こえ、本能が警鐘を鳴らす。
それに従い、弾かれたように前に飛ぶ。
すると、僕のすぐ後ろを何かが通り過ぎ、海に落ちて飛沫をまき散らす。

「な、何だ!?」
落下して行ったものはすぐに海に沈んでしまったが、一瞬斧とも剣ともつかない無骨な石器が見えた。
あやうく、石器もろとも海に叩きつけられるところだった。

(彼がさっき言っていたのは、これのことか。
あんな物、いつの間に用意したんだ)
魔力の発動こそ感じたが、魔法陣も現れていなかったし、デバイスを使っている様子もない。
おそらくは転送魔法を使ったのだろうが、転移してくるまで感知できないのは厄介だ。一流の術者が行ったとしても、転移する前に予兆くらいわかるはずなのに。
それに、デバイス抜きであれほどの魔法を瞬時に使えるのならば、相当な手練だ。

混乱しそうな思考を何とかまとめあげ、敵に意識を向ける。そこへ、またも声がかかる。
「既に戦闘は始まっているというのに、余所見とは余裕だな。
 では、これならばどうかね?」

両手を弓のように引き絞り、指に挟んでいる剣を投げてくる。
初めに右手、次に左手の剣が放たれる。
かなりの速度で飛んでくるが、まだ距離があるおかげで十分対処できるものだ。

「プロテクション!」
S2Uを突き出してバリアを発動させ、飛来する剣を防御する。

ほんの僅かに魔力が感じられる以外、特に目立つ点はない。魔法が発動した様子もない。
それなら、さほど警戒することはないだろう。
スティンガーレイを使って撃ち落とすのも手ではあるが、ただ投擲されただけの剣にそこまでする必要はない。
簡単な防御魔法で十分に事足りる。彼とて、精々牽制くらいにしか思っていないはずだ。
それに不意をつかれたせいで、まだ体勢が整っていない。こんな状態で魔法弾を放っても、あまり威力は期待できない。それなら防御しながら体勢を立て直すほうがいい。
今のうちに術を構築し、剣を弾いたら即反撃に出られるように準備を進める。
だが、そんな悠長な判断が大間違いだったことを、すぐに思い知ることになる。

ドドドン!!!

「ぐあっ!?」
受けた瞬間に、見た目に反するとんでもない衝撃が叩きつけられ、後方に弾き飛ばされる。
それだけじゃない。後に投げられた三本はバリアを貫通し、こちらの体をかすめていった。
バリアジャケットがあるとはいえ、あれだけの威力があれば、直撃していたら今頃は串刺しにされていたかもしれない。バリアに当たったことで切っ先が逸れたのが幸いしたな。
だが、待機させていた魔力と術式が崩れてしまう。意表を突かれ、思わず取り乱してしまった。
もう一度組み直さないと、魔法行使は無理だ。

しかし、なんて非常識なマネをする奴だ。
普通なら投げつけられた物体の威力は、その物体の重量と速度で決まるはずだ。
にもかかわらず、あれらはその決まりを完全に無視した威力を持っている。
多少は魔力で威力を水増ししているとは思っていたが、予想外の威力だ。あんな僅かな魔力でこれほどの威力を持たせるなんて、どんな術式を使ったんだ。

なんとか体勢を立て直しながら、改めて魔法を構築していく。
今度はこちらの番だ、と思って敵に目を向けると、そいつはまたも同数の剣を構えている。
いくらなんでもありえない。どう考えても、あの外套にしまっておける数はとうに越えている。
だとすると、あの剣も転送魔法で呼び寄せているはずだ。懐に手を入れる動作は、それを隠すためのものということか。

そのまま、彼は構えていた剣を投擲しようとする。
撃ち落とすか、それとも回避するか。さっきの威力を考えると、並の攻撃では落とすのは難しそうだ。
それなら、砲撃でまとめて吹き飛ばすというのもあるが、今からでは間に合わない。
得意なバインドにしても同様だ。それに馬鹿正直に使っても、大人しく捕まってくれるような相手ではない。

結論は回避。結論を出すと同時に、すぐさま回避行動を取る。
そんな僕の行動に構わず剣を投げてくる。それとほぼ同じタイミングで僕も直射弾を使い反撃する。
僕が放つ魔力弾を三度手にした剣を今度は投擲せず、そのまま振って叩き落としていく。

その動きに無駄がない。投擲だけでなく剣技の方もかなりの技量だ。
一見しただけでも、生半可ではない鍛錬を積んでいることがうかがえる。
だが、その剣技は一切の余分を排しているが、そこに華麗さや優美さはない。
余計なものを排すれば、残るのは機能美だけのはずだが、彼のそれはどこまでも無骨な剣捌きだ。

一応厳しい師匠たちから接近戦の指南も受けているが、僕の方が不利だろう。
今の動きだけでも、彼の方が僕より接近戦では数段上なのは間違いない。
迂闊な接近は命取りになりかねない。ここは、距離を取って戦うのがいいだろう。

だが、奴のこの精度は一体何だ。
動いている相手に、ここまで正確に当てられるものなのか。思うように動かせる誘導弾ならともかく、まっすぐに飛ぶだけの攻撃が吸い込まれるように僕に向かう。
それも僕が動いたのは剣から手を離す直前だった。そんなギリギリのところで調整してこの精度とは、とんでもない奴だ。

あれの威力を考えると、下手な防御では意味がない。防御力の高いラウンドシールドを使いつつ、その面を斜めにする。正面から受けるより、こうして弾く方が確実だ。
実際それは上手くいき、先ほどのように弾き飛ばされることもなかった。

「ずいぶんと、妙な魔法を使うんだな。
 わざわざ手を塞いでまでそんなことをしなくても、普通に魔力弾を撃つだけで、同じような効果は得られるだろうに」
少なくとも魔力弾を使う分には、手がふさがれることはないし、一度に放てる数が手に持てる分だけ、という縛りもない。やろうと思えば手ぶらで、一度に十以上の弾を撃ちだすことも可能だ。
それだけでも十分すぎるメリットになるし、一々投げなければならない分、その動作も無駄と言える。
あまり効率のいいやり方とは言えない。メリットといえば、今の僕のように威力を読み違えて不意を突くぐらいだ。
あるいは、それこそが目的なのかもしれないな。

動きながらでも彼の攻撃は恐ろしく正確にこちらに当たる。
だが、さすがに誘導性でもない限りは、一度放たれれば進路を変えることはできない。
それなら、投擲されたすぐ後にその場から移動するしかない。
少し危ないが、それしかなさそうだ。

いつまでも受け身でいても仕方がない。決して近づかないよう注意しながら、今度はこちらから攻撃する。
ただし今放ったのは、直射弾ではなく誘導弾「スティンガースナイプ」だ。それを五発。
彼が投擲で撃墜しにかかっても、こいつなら回避行動を取って直接狙える。
それまでは直射弾のようにまっすぐ飛ばし、誤認させる。
今度は、そちらに驚いてもらう番だ。

案の定、彼は両手の剣を投擲して撃墜しようとする。
それに対し、予定通り誘導弾を散開させ、挟み撃ちにする。
たとえ回避行動をとったとしても、誘導弾ならば落とされない限りどこまでも追い続ける。

だが奴は、それに驚いた様子も見せずつまらなそうに鼻で笑う。
「…ふんっ」
まるで、そんな小細工など意味がない、と言わんばかりだ。

今まさに着弾しようとしたところで、予想外の方向からの攻撃が誘導弾を襲う。
真上から降ってきた五本の剣が、寸分の狂いなく誘導弾に当たり地面に突き立つ。
回避か剣を使っての迎撃、そのどちらかだと思っていたので、これは完全に予想外だ。
気付いた時にはすでに手遅れ。回避は間に合わず、五つ全てが破壊される。
彼は指一本動かさず、僕の攻撃を叩き落としたのだ。

そう、奴は少し離れた場所にも転送できる。
ならば、彼の動きにだけ注意を払っていては駄目だ。どの程度の距離まで可能かはわからないが、彼の間合いは思いのほか広い。
さっきのような不意打ちを受ける可能性もある。一瞬たりとも周囲への警戒は怠れない。

先ほどの僕の発言に彼が答えを返してくる。
「そういえば、私の攻撃を魔法などと言っていたな。
まったく、勘違いもほどほどにしてくれんかね。私はそんなものを使ってはいないよ。
 鉄甲作用といってな、通常の数倍の威力を持たせることができる。純然たる投擲技法だよ!」
その言葉と共に、地面に刺さった剣を取り投擲してくる。

意表をつかれてばかりだが、冷静に彼の行動を分析しつつ口では彼の答えに対し否定の言葉を吐く。
「なんだと? そんなバカな話、信じられるものか!」
あれほどの威力を持たせる攻撃が、魔法によらない単なる体術だなんて、とても信じられるものではない。
もしそうだとすれば、一体どんな馬鹿力があれば、あれだけの威力が出せるというのだ。

「信じる、信じないは君の自由だよ、クロノ・ハラオウン。
それと、生憎だがこのまま終わらせてもらうぞ。なにせ、私の役目は足止めだ。
 それもすでに果たした。あとは、逃げるだけなのでね!」
その通りだ。こいつの目的はすでに達成されている。
僕に少しでも隙ができれば、こいつはすぐにでも逃げるだろう。

あれが体術だなんて言葉を信じる気はない。おそらくは、こちらを混乱させるための嘘だろう。
…いや、それも今はどうでもいいことだ。
問題なのは、相手の剣は尽きることがない事だ。
投げるたびに、いつの間にかその手には新たな剣が握られている。

奴は剣、僕は魔法弾で撃ち合っていると、奇妙な光景が眼に入る。
それは、彼の周りに何本もの剣が滞空し、こちらに照準を向けるというものだった。
「『全投影連続層写(ソードバレル・フルオープン)!!』」
素手ではあるが、先ほどのように上げていた右手を、またも勢いよく振り下ろす。
まるで主人の命令に従うかのように、滞空していた剣がこちらにすさまじい勢いで飛んでくる。
その数は十を超える。

最小限の動きでかわそうとするが、それが不味かった。
ギリギリのところで見切ってかわす。だが、僕のすぐ後ろで剣が「爆発」した。
「うわっ!?」
爆風にあおられ、斜め前方に吹き飛ばされる。
これでもっと威力があったら、それだけでこの戦いは決まっていたかもしれない。
爆発自体が小規模だったのと、バリアジャケットのおかげでダメージはほとんどない。

だが、予期せぬ方向からの衝撃に対応できない。
体勢が崩れたこともあり、なかなかブレーキが利かずかなりの距離を飛ばされる
ようやく止まった時には、彼の姿を見失っていた。逃げたのかと思い、大急ぎで周囲を探そうとする。

しかし、探す必要はなかった。
氷のような悪寒が、僕のすぐ真下にまで迫ってきていたのだから。
反射的に悪寒のする方を見ると、そこにはすでに彼が懐に飛び込んできていた。
彼はそのまま(今更驚くまでもないことだが)いつの間にか手に持っていた双剣で、僕を切りつける。

ブンッ!

かろうじて身を引き、彼の持つ黒白の双剣をかわす。
わずかにバリアジャケットを切られただけで、体にまでは届いていない。
しかし、バリアジャケットを容易く切り裂くなんて、あの剣は一体…。
つくづく謎の多い男だ。

先ほどの爆発で耳が痛いが、警戒を緩めず一気に後方へ飛び間合いを広げる。
いつの間にか、陸地の上まで誘導されていたらしい。
彼の先ほどまでの投擲や剣の射出は、僕をここまで引きずり込むためのものだろう。
そして、最後のダメ押しがあの爆発。結局、彼の狙い通りに動かされていたとことか。

「ちっ、外したか。気配を消しきれなかった私の落ち度か、咄嗟に反応した君の機転か。
まあ、どちらでも構わんがね」
軽く舌打ちした彼は、そのままをその鷹のような眼で僕を見据える。
初めから、逃げるなんて考えていなかったらしい。
逃げれば追われる以上、追ってこられないようにするのが目的だったということか。

しかし、僕にとっては好都合でもある。
僕がやられない限り逃げられる心配がない以上、余計なことに気をまわさないですむ。
それに今の一撃で仕留めるつもりだったようで、追撃がない。

この降って湧いた場の停滞に、僕は改めて海上に移動する。こちらの体勢を立て直し、乱れた息を整えるためだ。
ペースを奪い返したわけではないが、すでに敵の手を離れ宙に浮いている状態だ。
戦いは振り出しに戻ったとも言える。

ならば、ここからは僕が主導権を握らせてもらう。
今の攻防で、ある程度彼のスタイルはわかった。
なぜ魔法の発動時に、魔法陣さえ出てこないのかはいまだにわからない。
剣が爆発したのは、何かしらのレアスキルによるものかもしれない。

いや、確信の持てないことに、一々気を取られていても仕方がないな。
とにかく、状況に合わせた瞬間的な武装の換装が、彼のスタイルなのだろう。
他にも、武器を任意の場所に転送させたり、転送してきた武器を直射弾のように射出したりすることでの、中距離戦闘もできるようだ。脅威なのは、それが恐ろしく静かで、転送しただけで気づくのは至難。
また、すべてに該当するかはわからないが、武器を爆発させることもできる。
最後のとどめに接近戦を仕掛けてきたことから、おそらくはそれが最も得意な戦い方なのだろう。

隙は見つけられないし、どこか貫禄がある。先ほど考察した通り、今の僕では余程上手く奇襲をかけない限り、何度やっても勝てる気がしない。
それならわざわざ相手の間合いで戦ってやる必要はないし、ただでさえ僕は接近戦が得意ではない。
決して安全なわけではないが、僕が有利に運ぶためには、剣の届かない遠距離での戦闘が望ましいだろう。

これだけ間合いが開いていれば、さっきのような剣の投擲や射出にも、十分余裕を持ってあたることができる。
そういうものがあるとわかっていれば、対処のしようもある。
剣の爆発も大きくよければ問題ない。
さっきのような無様なマネはしない。

さあ、反撃に移らせてもらおうか。
「スティンガーレイ!」
放つのは、数とスピード重視の直射弾。
だからといって、威力が低いわけではない。
弾数を多くすることで、面による制圧を行うのが目的だ。

彼は両手に持った双剣を投げ捨て、今度はその手に弓と矢を持つ。
僅かなよどみもないスムーズな動作で、一度に複数の矢をつがえ引き絞る。
そのまま放たれた矢が、次々に直射弾と衝突し相殺する。

(しかし、凄まじい技量だな)
決して声には出さないが、内心舌を巻く。
僕は弓のことなど知らない素人だが、それでも彼の行う一連の動作が並外れていることはわかる。
それは、動作の一つ一つがこの上なく洗練されていて、一切の余分な要素を排した清流を思わせる。
ほとんど照準をつける暇さえないほどの連射で、次々とこちらの攻撃を落としていく。
それも一つも外すことなく、だ。剣技と違って、こちらは芸術的ですらある。

思わず見とれてしまいそうになるが、頭を切り替えてスティンガーレイの回転を上げる。
時がたつほどに連射・弾速共にその速度が上がっていく。
いくら彼の弓の腕が抜きん出ていても、一度に番えることのできる矢には限度がある。
限界を超えるには手の数を増やすしかないが、そんなことは不可能だ。
当然、撃ちだされる弾の数が増すにつれ、彼は押されていく。

それに対し、またもその手に持つ武器を放り投げ、再び黒白の双剣を手に取る。
もはや、懐に手をやるというカモフラージュをする余裕もないのか、直接その手に転送している。
よく見れば、先ほど投げ捨てた双剣はなくなっているので、それを呼び戻したのだろう。

そのまま双剣を構え、スティンガーレイを見据える。
「ふっ!」
襲いかかる直射弾を、両手に持った黒白の双剣で、気合いと共に叩き落としていく。

正面から間断なく飛来する直射弾を、危なげなく叩き落とす。
相当な数を連射しているのだが、体に当たるモノだけを選別して、正確に打ち落としている。中には当たりそうになるモノもあるが、それらは外套で払い落している。
やはり、予想通り接近戦の力量は相当なものだ。少なくとも僕の技量では、接触距離になれば勝ち目がない。
このまま、間合いをとって戦うのが最良だ。

「ちっ。馬鹿の一つ覚えのように直射弾の連射か、うっとうしい!
 ずいぶんと消極的ではないかね、執務官殿。この程度では私を捕まえることなどできんぞ」
言っていることはもっともだが、別にこんなことで捕らえようとは思っていない。
これは囮。直射弾に気を取られている間に準備を進める。

「ああ、確かにその通りだ。では、そろそろ本気で行かせてもらうとするよ」
準備が整ったところで、最後のひと押しをする。
空中に待機させておいた誘導弾「スティンガースナイプ」を彼の左右からぶつける。
その数は十。これだけなら、さっきのように剣を落とせば潰せるだろう。

だが、それだけで終わらせるつもりはない。
「ブレイズキャノン!!」
それと同時に、砲撃を撃ちこむ。
同時に複数の魔法を使用するのはなかなか堪えるが、これだけやれば本当の狙いに気づかれることもないだろう。そのための弾幕であり、派手な魔法を積極的に使っている理由だ。

敵に逃げ場はない。左右に逃げようにも、誘導弾が向かってきているのですべてをかわすことはできない。
剣を落として潰すのも、この場では得策とは言えない。
今やれば、周囲を取り囲む剣が邪魔で砲撃をかわせないし、その後の動きの妨げになる
選択肢は二つ。正面から防御するか、多少被害を受けても左右に逃げるか。

誘導弾を撃ち落としながら逃げることも彼なら出来るかもしれないが、その場合僕への警戒は緩むことになる。
それに、どちらか片方に対し背中を向けることになる。
またどんな防御魔法だろうと、砲撃と誘導弾の直撃なら一瞬動きは止まるはずだ。
どっちを選んだとしても、捕縛するための用意はできている。これで詰みだ。

そう思っていたが、予想外の出来事に驚愕する。
いや、やったことそれ自体は予想通りだ。ただそのために使ったものが、デタラメだったのだ。

「『――――I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)』」

そんな呪文の後に、それは発動した。
「『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!』」
目の前に現れたのは、今まで感じたことのないような異質かつ膨大な魔力を放つ、四枚の花弁だった。
花弁はそれぞれがバラバラに動き、二枚は彼の左右に、残りの二枚は正面に陣取り彼を守る。
正面に二枚が展開されているのは、砲撃の威力を警戒してのものだろう。

そして、彼の防御が完成するのに僅かに遅れて、僕の放った攻撃が着弾する。
砲撃・誘導弾の双方が、一つ残さず直撃しているにもかかわらず、ヒビ一つ入れることさえできずに防がれる。

なんてモノを使うんだ。
あれらすべてを防ぎ切る魔法は、あっても不思議はない。
相当な力量の持ち主ならば可能だろう。だが、あれはそんなものじゃない。
詳しくはわからないが、おそらくあれはロストロギアの一種だ。
そうでなければあの異質な魔力はあり得ない。

これでアイツが堅気の人間でないのは確定だ。
ロストロギアの無許可所持というだけでも、十分逮捕できる。
これで、ますます彼を逃がすわけにはいかなくなった。

「まったくなんてものを持っているんだ、君は。
 これで罪状が追加だな。ロストロギアの不法所持で逮捕する!」
そう言って杖を向けた瞬間に、彼は僕のしようとしていることに気づいたのか、横に飛び退こうとする。
だが、密かに用意していたリング状のレストリクトロックで左腕を拘束される。

「ち、しまった!」
これが本当のねらい。これまでのは確実に拘束するための囮でしかない。
あれだけ派手にやってやれば、これに気づくのは至難の業だ。
人間だれしも、目立つものに気を取られるものだからね。

「向こうの方は逃げられてしまったが、君は逃がさない。危うくかわされるところだったけどな。
さあ、一緒に来て話を聞かせてもらおうか」
勝利を確信して宣告する。

ロストロギアに気を取られ、タイミングを外すところだったがぎりぎりで間に合った。
本当は四肢と胴体を拘束するつもりだったんだが、タイミングが遅れたのと、どうも見る限りではあの外套がレジストしたようだ。おかげで腕一本しか抑えられなかった。
まぁそれでも、これを外すのは少し手間がかかる。いま直ぐ外されるということもないだろう。
一応念を入れて、全身に拘束を施しておいた方がいいか。
こいつの能力は、わからないことが多すぎる。警戒し過ぎる、ということはないはずだ。

先ほどのロストロギアのことや逃げた魔導師のことなど、聞きたいことは山ほどある。
バリアジャケットだと思っていたが、先ほどの楯ほどではないにしろ、あの外套や手に持つ双剣からも異質な魔力を感じる。
所持しているのが一つとは限らない以上、あるいは、あれらもロストロギアかもしれない。
ひとつ残らず話してもらうとしよう。

「ぐっ!? なかなか頑丈なようだな」
「そう簡単には外れないよ。このために、とりわけ丁寧に構成しているからね。
 無駄な抵抗はやめることだ」
拘束された左腕を引っ張って何とか脱出しようとするが、その程度ではずれるものか。
改めて、より強力なバインドを施すために魔法を発動させようとしたところで、相手の様子に変化が見られた。
先ほどまでと同様に、左腕の拘束を外そうともがいているなかで、思いきり腕を引っ張った。
そこで一瞬相手の顔が歪み、大人しくなる。左腕に奇妙な揺れがあったが、諦めたのか?

警戒しつつ接近する僕に向かって、彼から声がかかる。
「くくく…。たわけ! 腕一本押さえた程度で、私を捕らえたつもりか!!」
抑えたような笑いを浮かべたと思った瞬間、信じられない行動に移る。

斬!!

右手に持った剣で、肘のやや上を切り裂く。
「「「えっ!!!?」」」
全員の顔が驚愕に歪む。
当然だ。突然自分の腕を切り落とせば、誰だって驚く。

「戦場で動きを止めるなど、君は正気かね?」
腕を切り落とした痛みでやや顔をゆがめながら、一瞬の隙を突いて腕に鎖を絡められる。これも転送したものか。
鎖の逆側は握られていないが、残った右腕に絡めるようにして固定されている。
それなりに距離を取って空中にいたが、そのまま力任せに引っ張られ、バランスを崩しながら引き寄せられる。

「うわぁっ!!?」
そのまま、引っ張るために振りおろした右手の剣で、今度は僕を下から切り上げてくる。
なんとかデバイスで防御するが、剣の勢いにやられてデバイスを弾かれ、無防備になる。
そこへ力のこもった蹴りを入れられ、弾き飛ばされる。
バリアジャケット越しなのでダメージはないが、さすがにうまく着地できず地面の上を転がる。

そこへ追い打ちをかけられる。
「立て直す隙はやらんよ。『凍結解凍(フリーズ・アウト)、投影連続層写(ソードバレル・オープン)!!』」

ダダダダダダン!!!

詠唱と共に轟音が響く。降ってきたのは、十を超える大剣の群れ。
そのままを囲む様に突き刺さり、剣の檻に閉じ込められる。
「……やられた。こんな手で来るなんて」
まさか、腕を切り落としてまで逃げるとは思わなかった。

上から逃げようとも思うが、御丁寧に剣は斜めに突き刺さり、上にも隙間はない。
檻を壊そうにも、剣には魔力が感じられる。そう簡単には壊せないだろう。

口惜しいが……手詰まりだ。

Interlude out



管理局との初戦闘は、士郎の勝利に終わった。

昔アーチャーが使ったのと同じ拘束技で、体勢の崩れたクロノを閉じ込める。
逃げ場をなくすように上を閉じた剣群からは、そう簡単には抜け出せない。
格は低いが、それでもそれなりに魔力のこもった魔剣だ。
脱出には手間と時間がかかるだろう。管理局の少年も脱出しようとあがいているが、士郎が逃げるまでに出てくるのは難しい。

しかし、完全な形ではないとはいえ「熾天覆う七つの円環」を見せてしまったのは不味かった。
下手によけようとして着弾し、聖骸布が破損するのを防ぐためだったのだから仕方がなくはある。
元来、魔法を受けた際のダメージ削減のために投影までして装備している聖骸布だが、それにも限度はある。
いくら士郎の聖骸布が魔力を遮断できるものとはいえ、威力の低い誘導弾程度ならともかく、砲撃クラスの威力を完全に防ぎ切るのはオリジナルでも無理だろう。
ただでさえ今使っているのはオリジナルではなく、投影による複製品だ。剣の属性からはかけ離れているせいで、どうしても精度が甘く、本来のそれには数段劣ってしまう。当たる数によっては、威力で劣る誘導弾でも破損するかもしれない。
多少なら破損しても投影を維持できるが、それをしたところで長くはもたない。
破損により投影が消滅して、正体がばれる方が遥かに厄介だ。
今のように、腕を拘束されでもしない限り、そんなリスクを負うのは避けるべきなのは間違っていない。
まあ、結局は腕を拘束され、自分から破損させてしまったのだけど。

だが、それでも宝具を知られるのは避けたかった。
今更悔やんでも仕方がないが、この後には管理局と本格的に接触することになる。
そこで私があいつと同種の術式の使い手とわかれば、相当追求されるだろう。
全く、つくづく面倒なことになった。

士郎は、もうクロノには興味がないとばかりにこちらを向いてくる。
なのはは、先ほど士郎が義手を切り落としたことのショックで、まだ呆然と立ち尽くしている。
「すまないが、君たちに追ってこられても困るのでね。
 一応拘束させてもらう。『工程完了(ロールアウト)、全投影連続層写(ソードバレル・フルオープン)』」

ダダダダダダダダダダダダン!!!!

「きゃぁぁぁぁ!!?」
再び轟音が響き、私となのはも剣の檻に閉じ込められる。
あまりの迫力に、なのはが悲鳴を上げる。
やはり脅威のレベルでは、実体のある剣の方が魔力弾などよりも上なのだろう。
多少経験を積んだくらいでは、これで悲鳴を上げるなという方が無理か。
私も拘束したのは、あとで怪しまれないようにするためだろう。
全く手が込んでいる。

「では、これで失礼させてもらうよ。なにぶん、時間がないのでな」
右手の袖から出ている鎖で、斬り落とした義手をからめ捕って引きよせ口にくわえる。
ついでに空いている右手でジュエルシードも回収し、そのまま走り去っていく。

時間というのは、投影が消えかかっているのだろう。
義手を切り落としたときに、投影で作った外套の袖も切ってしまっている。
本来なら、アイツの投影でも破壊されたりすれば消滅する。
今は無理矢理にイメージを保って、何とか維持している状態か。
このままここに長居すれば、投影した服などが消え正体がばれてしまう。それを恐れたのだろう。
宝具を知られた上に、正体まで知られてしまうのだけは避けなければならない。
正直、肝が冷える思いだった。


  *  *  *  *  *


アイツが見えなくなって少しすると、役目を終えた剣が何事もなかったように霧散する。
解放された私たちは、自然集合する形になった。
「…逃げられてしまったか。完敗だ。
完全にしてやられた。まさか、あんな方法で逃げるなんて」
クロノは弾かれたデバイスを回収し、悔しそうに述懐する。
対して、なのはは顔を青くしている。

9歳という年で、腕を切り落とす場面に遭遇すれば仕方がない。
どのみち、少し冷静になって考えればわかることだし、フォローしておきますか。
「なのは。アンタ何か勘違いしてるみたいね。
アイツ、別に腕を切り落としてなんかいないわよ。だってどこにも血の跡がないもの」
言われて気づいたのか、辺りを見回している。
腕なんて切り落とせば、出血も半端ではすまないのだから軽く見るだけでもわかる。
経験不足もあるが、それに気付かないくらい動揺しているのだろう。

「え? あ、本当だ。どこにも血の跡がない。じゃあ、本当に…」
「ああ、そのようだ。どうやらあの腕は義手らしい。
 さっき無理やり逃げようとしたように見えたのは、義手を外すためだったんだ」
クロノも気づいていたようで、冷静にさっきのことを思い返す。
さすがに経験豊富なのか、すぐに気づいたようだ。

初めの印象は良くなかったが、肩書きに見合った能力は持っているらしい。
先ほどの戦闘もなかなか見事なものだったし、はじめのは若さ故の狭量と言ったところか。
あの士郎が、危うく捕まるところだったのだ。もし拘束されたのが左腕でなかったなら、本当に捕まっていた可能性もある。
今回は、珍しくアイツにも運が回ってきたようだ。基本的に運がないからなぁ、士郎は。今日のアイツの運勢は大吉かしら。

競争相手には逃げられてしまったので、余計な誤解のないように、とりあえず互いの身分を確認することになった。
「改めて自己紹介しよう、管理局執務官クロノ・ハラオウンだ」
「…えっと、高町なのはです。こっちは友達の」
「ユーノ・スクライアです」
ユーノの名前を聞いてクロノが反応を示す。

「君がそうか。話はスクライア一族から聞いている。君がジュエルシードの発見者だな」
すでに話は通っているらしい。おかげで余計な嫌疑をかけられる心配はなさそうだ。
管理外世界での魔法行使自体が褒められるたものではないらしいので、どう説明すべきか考えていたが、これなら大丈夫そうだ。私が使うのは魔術だからこの法には当てはまらないが、それでも面倒事は避けたかったので一安心だ。

「はい、そうです。やっぱり管理局に話がいってたんですね」
本当は自分で何とかしたかったらしいので、少し気落ちしている。
だが、本来は最初からこうすべきだったのだ。
そのための組織があるのだから、そっちにちゃんと任せるのが安全確実だ。

「そのことは後で話そう。君たちには、これからアースラに来て話を聞かせてもらうからその時にしよう。
 で、そっちの君は?」
「あら? 初対面の人間に向かって、「で」や「君」というのが管理局の礼儀なのかしら。
 なにぶん田舎者でして、礼儀の何たるかもわかりませんの。ごめんなさいね」
あ、顔をしかめている。一応無礼だったとは思うのだろう。
知らないとはいえ私は年上だ。そんな私に向かってこの物言いを許す気はない。
こいつは、少し礼儀というものを学ぶべきだ。
いつも自分が優位にいると思っているのは、増長というものだもの。

「ぐ!? 申し訳ない、無礼は謝ります。
 改めて、あなたの名前を聞かせていただけませんか」
よしよし。今度はちゃんとできたようね。
初めからこうすればいいのよ。
「私は二人の協力者で、遠坂凛よ。
 よろしくね、ハラオウン執務官さん」

そうして私は、管理局とのファーストコンタクトをとった。



Interlude

SIDE-フェイト

管理局の執務官から逃げて、わたしたちはあらかじめ打ち合わせていた集合場所に到着した。

今は、士郎が追い付いて来るのを待っているところ。正直、こうして待っている間も、落ち着いていられない。
あの執務官はかなり強い。魔法が発動するまでの早さやその威力、どれをとっても相当な錬度だった。
シロウは強いから大丈夫だと思うけど、相手が相手だからやっぱり心配だ。

当初、わたしとアルフはもしもの時の集合場所は決めていなかった。
そもそもこれらの集合場所は、シロウの提案により決められたものだ。
直接拠点に戻るのは危険だと以前シロウに言われ、こんな時のための集合場所をいくつか決めてある。
わたしがいるのは、そのうちの一つ。高層ビルの使われていない一室だ。
はじめは競争相手がいるなんて思っていなかったし、その後はシロウが協力してくれるようになったから、自分が追い詰められて撤退するなんて考えてもみなかった。
シロウの提案で決められた集合場所にしても、使う時が来るなんて思わなかった。

シロウがこのことを提案した時も、わたしたちは「別に必要ないだろう」と答えた。
それに対しシロウは…
「自信があるのは結構だけどな、戦場に限らず世の中何が起きるかわからないし、絶対なんてどこにもない。
 だから、考えられるあらゆる状況を想定しておくんだ。「もしも」が起こってからだと、間に合わないことの方が多い。その前にやれることはすべてやっておかなきゃ、手遅れになりかねない。
できれば、他にもいくつか隠れ家を用意しておいた方がいいし、逃走時の経路も工夫すべきだぞ。特に集合場所は、一度使ったら二度と使わないくらいでいないと。
戦闘っていうのはな、戦う前からはじまっているものだ。訓練だってその一環。
それを疎かにする気か? そんなのは自殺行為だよ」

これを聞いたときは、さすがにそこまでやるのは考えすぎではないかと思った。
集合場所や経路を決めるためにも、一度念入りにこのあたりの地理の確認をしておくべきということで、丸一日使って街中を歩き回ったりもした。
いくらなんでも心配し過ぎだし、無駄に終わる可能性の方がずっと高いと考えてあまり乗り気にはなれなかった。
そんなことをしているくらいなら、ジュエルシードの捜索をしている方がいいと提案もした。
だけど、シロウが強引に推し進めて、いろいろなことが決められた。
ただ、一緒に街を歩くのが少し楽しかったのは、恥ずかしいので秘密だ。

いま使った逃走経路も、ただまっすぐ集合場所を目指していたわけではない。
わざと遠回りをしたし、追跡されている可能性も考えて、アルフが魔法でジャミングもかけた。念のために、何度か追跡がないかの確認もしたから、多分追跡の心配はないはずだ。
途中で以前目星を付けておいた建物に入り、そこからは飛行を止めバリアジャケットも解除し、魔力を極力隠蔽して人ごみの中を歩いてきた。

わたしが考えたものではなくて、全部シロウの指示によるものだけど。
それらが、こんな形で役に立つとは思わなかった。
他にもシロウからは、マンホールから地下に入り、下水道を利用するのも手だと言われている。
次があるかもしれないし、それを使うのも考慮しておかないといけないな。

変装のこともそうだけど、シロウは強いだけじゃなくて、とても用心深い。
戦力だけでなく、こうしてシロウの知恵にも助けられている。
彼と協力関係を結べたのは、本当に幸運だった。

わたしとアルフだけだったら、こうもうまく逃げられなかっただろう。
シロウにはどれだけ感謝しても足りないほどに感謝している。
だからこそ、どうか無事に戻ってきてほしいと切に願う。


  *  *  *  *  *


少し遅れてシロウがやってきた。

でも、その姿にわたしたちは驚きを隠せない。
だって変装がなくなっているだけじゃなくて、シロウの左腕はちぎれ、口にくわえられているのだから。
「シ、シロウ!!? う、う、腕、ど、どうしたの?」
驚きのあまりどもってしまう。それだけその姿は衝撃的だった。
あの強いシロウが、こんなひどいことになっているなんて。

シロウは口を開いて、咥えていた腕を離す。
そのまま腕が「ドサッ」という音を立てて地面に落ちたのを見て、わたしは血の気が引くのを実感した。
「ん? ああ、これか。そんなに慌てるなって。
こいつは義手だ。心配いらない。急いできたからつけなおす余裕がなかったんだ」
わたしの驚きに、今気づいたかのような軽い口調で言ってくる。
そのまま自分の左腕を拾い上げ、切断面をくっつけ「ぐぅ!!」という呻き声と共に押し込む。

「ふう。これでくっついたぞ。」
確認するように左手を握ったり開けたりしながら、何事もなかったように話しかけてくる。
シロウは自分がどれだけわたしを驚かせたか、自覚していないようだ。
そのことに少しムッとなる。わたしはあんなに驚いて心配したのに、そのことに全然気づいていない。

「しっかし、アンタ義手だったんだねぇ。全然気づかなかったよ」
アルフはあまりのことに驚きを通り越したのか、呆れたように言っている。
それはわたしも思った。
あれだけ違和感なく動いていた腕が、実は義手だったなんて信じられない。

本物の腕と変わらず動く義手というものは、すでに次元世界では珍しくもない。だからその技術ではなく、腕を失うだけの事態に会い、これだけ動かせるように訓練したであろう士郎に圧倒される。
腕を失ったのが戦闘によるものなのか、それとも別の原因があるのかはわからない。だけど、いくら性能的には問題がなくても、義手を料理みたいな繊細な作業と、戦闘のような激しい動き、その両方で本物と遜色なく動かせるようになることが容易じゃないのは確かだ。
それは、どれだけ大変なリハビリだったんだろうか。

「まあな。わざわざ言うほどのことでもないから言わなかったんだけど、ちゃんと言っておくべきだったかもな」
悪びれる様子もなく、左手をあげて「ごめん、ごめん」なんて言ってくるので、怒る気も失せてくる。
何だか、そんなことを考えてるのが馬鹿らしくなってきた。
シロウは気にしていないみたいだし、わたしがそのことで気を揉んでも仕方がないのかも。

「ああそれと、これさっきのジュエルシードだ。
 俺が持ってても危ないし、渡しとくよ」
思い出したようにシロウはジュエルシードを渡してくる。

「あ、うん。ありがとう」
あの執務官と闘って足止めするだけじゃなくて、ジュエルシードまで取ってくるなんて。
つまりシロウは、私が手も足も出なかった執務官に勝ったということなのだろう。
やっぱりシロウは強くて、とても今のわたしじゃ勝てるとは思えない。
彼が味方で本当によかったと、改めて思う。


「気にするな。礼を言われるほどのことじゃないさ。仲間なんだから、これぐらい当然だよ。
しかし、ついに管理局が動いたか。できれば関わりたくなかったんだが、こうなっちゃ仕方がないか」
仲間、か。そう言ってもらえるのはすごくうれしい。
だけど、諦めるように言うシロウを見て、私もそろそろ覚悟を決めなくちゃいけないと思う。

『ねえ、アルフ』
『ん? どうしたんだい、フェイト』
念話で、シロウに気づかれないようにアルフに話しかける。

もし管理局が動いたら、そうしようと思っていたことを話す。
『シロウとはここで別れよう。シロウはもともと、この事件を早く終わらせるために協力してくれてたんだから。
これ以上協力してもらうことはできないよ』
そう、シロウの目的は事態の早期解決だ。管理局が動いた以上、それはもう時間の問題。
この先、シロウが私たちを手伝ってくれる理由はない。
それにこれ以上わたしたちと一緒にいたら、シロウまで管理局に目をつけられちゃう。
それは、ここまで手伝ってくれたシロウに申し訳ない。

『だから、ここからは私たちだけでやろう』
そう、決心して言う。

『で、でもさぁ。士郎がいた方がこの先もやりやすいし、管理局とぶつかることもあるかもしれないんだから、少しでも戦力は多い方が……』
アルフの言ってることは正しいけど、やっぱりこれだけは駄目。
戦力の上では不安になるし、シロウからの情報や知恵を借りられないのは痛いけど、もうシロウに迷惑をかけられない。
これまでたくさん助けてくれたけど、わたしにはお礼さえできない。
だからせめて、ここで手を切るのがわたしにできるたった一つの感謝だと思う。

『心配してくれてありがとう、アルフ。でも大丈夫だよ。わたし、強いから』
強がりだってことはわかっているけど、少しでも安心してもらうために言う。
わたしはアルフのご主人様だから、使い魔のアルフをあんまり心配させちゃいけない。

わかってくれたのか、渋々納得してくれる。
『フェイトがそう言うんだったら、しょうがないけどさ…』
『ありがとう、アルフ』

これで話はおしまい。後はシロウに別れを言うだけ。
でも、きっとシロウは納得しない。短い付き合いだけどそれくらいはわかる。
だから、本当のところは何も言わずに行くことにする。
「シロウ。私たちこれで行くね。今日も助けてくれてありがとう」
本音をシロウに知られないように、精一杯の笑顔でお礼と別れを告げる。
シロウは鈍いから、あとになって私たちと連絡が取れなくなって、やっと気づくのだと思う。
はじめてシロウの裏をかいた気がして、少しだけ嬉しくもある。

「…ん、ああ。別にたいしたことはしてないけどさ。どういたしまして。
 でも、どうしたんだフェイト? 何か様子がおかしいけど、どこか怪我でもしたのか?」
そう思ったのに、気付かれる。
全く、こんな時だけ鋭いなんてずるいと思う。
やっぱり、そう簡単にはシロウは勝たせてくれないみたい。本当に、敵わないな…。

「え? 別にそんなことないよ。シロウのおかげで、怪我ひとつないんだから」
元気なことをアピールするように体を動かす。
少しわざとらしいけど、仕方がない。どう誤魔化していいか、わからないんだもの。

「それならいいけどさ。何かあったら言えよ、俺たちは協力者なんだから」
最後まで私の心配をしてくれるシロウに、心から感謝する。
これでお別れなのはさびしいけど、本当は関わることなんてなかったんだから、ただ元に戻るだけだと自分に言い聞かせる。

「うん、わかってるよ。さようなら!」
手を振ってアルフと一緒にシロウから離れていく。

それにシロウも返してくれる。
「ああ、じゃあな。また明日」
明日という言葉が、こんなに残酷なものとは知らなかった。
もう私たちが会うことはないから、明日なんてないのに。
今はその明日が欲しくて仕方がない。


  *  *  *  *  *


いまにもあふれそうな涙をこらえて、家に戻る。
これからはもうシロウのご飯も食べられないし、声を聞くこともないのだと思うと、どうしようもなくさびしい。
リニスがいつの間にか消えてしまって、もうどこにもいないのだと悟ってしまって以来、こんな強い感情は初めてだ。もしかしたら、その時以上かもしれない。

今になって、やっと気づいた。
わたしはいつの間にか、こんなにシロウのことを好きになっていたんだ。
「はは、わたしもシロウのことは言えないかな」
自分の気持ちにさえ気づけないんじゃ、シロウのことを「鈍い」とは言えない。

わたしはこの日、ずっと枕に顔をうめていた。
アルフは何も言わずにただそっとしてくれて、それが嬉しかった。

明日からわたしたちだけでやっていくために、この日だけは弱いままでいてもいいと思った。

Interlude out




あとがき

さて、どんな反応が返ってくるか不安が尽きない12話でした。

前回のあとがきで「せっかくの(型月との)クロスなのでやってみたい展開」というのは、冒頭の預言です。
伏線にすらなっていませんので、ほとんどの人が何を指しているのか分かると思います。魔術基盤があるのですから、ああいった存在が発生する可能性もあると考えました。
本格的に動き出すのは、A’sとStsの中間の時期になります。……随分先ですね。それまでは預言をチマチマ使って、少しずつ管理局を近づかせようと思います。
中間期では、それまでのようなリリなの世界の展開ではなく、型月世界の展開にもっていきたいと思います。流血や人死の連続を予定。あくまで予定です。
まあ、大方の設定は決まっていても、そこまで辿りつけるかわかりませんし、上手くやれるかもわかりませんけど、やるだけやれたらいいですね。

この預言のせいで、士郎と凛は管理局から目をつけられるわけです。
せっかくの手掛かりをみすみす手放すわけもないので、いろいろ手を打ってくるはずです。
士郎たちもいずれはこの預言を知り、嫌々ながら協力するのか、それとももっと別の動きを見せるのかは未定です。
あと、基本的には預言に関する質問等はネタばれになりますのでお答えできません。予めご了承ください。


今回のクロノ戦について少し補足を……。
まずはアイアスについて。厳密には七枚一組のアイアスを四枚バージョンで投影してから、バラバラに動かしたのではありません。一枚ずつを二つ、二枚セットを一つ投影し、その上でバラバラに動かしての防御です。元が別々なので、これなら各個に動かせるはず。
特に制限もなくアイアスをバラバラに動かせると、なんだか反則な気がしての設定です。重要なのは三度投影したことで、本来一回で済むものを三回している分非常に燃費が悪く、脳にかかる負担も三倍になるのでかなり苦しいのです。その上での真名開放ですから、使い勝手の悪さは相当なものでしょう。

黒鍵は、それ自体の攻撃力はたいしたことはないのですが、鉄甲作用を用いれば相当なものになると考えています。少なくとも真正面からぶつかる分には、魔法相手でもそう簡単には力負けしないと思います。
特に、今回のクロノは威力を見誤っていたので、完全に不意をつかれた形です。
普通飛んでくるだけの剣に、そんな威力があるとは思いませんよ。


あと、今回士郎が義手を活用しましたが……これがやりたかったのです!!
同じ相手に二度は使えないし、使えば隻碗になる非常に危険な奇襲です。でも初見での効果は抜群なはず。
とはいえ、同じネタを何度も使うわけにはいかないので、今後二度と使われないかもしれない不意打ちでした。
やりたかったことの一つがやれたので、少し満足してます。


これでフェイトとの繋がりが絶たれ、士郎たちの優位性はないも同然です。二人ともまだ知りませんけど…。
その上管理局まで出てきたので、士郎たちとしてはとても嫌な展開でしょうね。

次回はほとんど士郎の出番はありません。凛とアースラ組がメインです。
あまり凝ったことはしませんが、“凛らしさ”を出せるよう頑張ります。


最後に、感想でも書きましたが、士郎の飛行宝具に関して今更ながら非常に迷っています。
主体性がないような気もしますし、すでに本編で多少出しているのに変えるのもどうかとは思うのですが、違和感が沸々と……。
こんなことを聞いていいのかわかりませんが、皆様の声を参考にさせていただきたいので、感想のついでにでもご意見をくださるとうれしいです。よろしくお願いします。

では、これにて失礼します。


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