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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 第0話「夢の終わりと次の夢」
Name: やみなべ◆d3754cce ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/18 14:33
第0話「夢の終わりと次の夢」
 
I am the bone of my sword.
体は剣で出来ている

Steel is my body, and fire is my blood.
血潮は鉄で、心は硝子

I have created over a thousand blades.
幾たびの戦場を越えて不敗

Unaware of loss.  Nor aware of gain.
ただ一度の敗走もなく ただ一度の勝利もなし

Withstood pain to create weapons.  waiting for one's arrival.
 担い手はここに独り       剣の丘で鉄を鍛つ

I have no regrets.This is the only path.
ならば、我が生涯に意味は不要ず

My whole life was“unlimited blade works”.
この体は、    無限の剣で出来ていた


早いものだ。もうあの剣戟から十年が経った。
思えば、ただ我武者羅に駆け抜けてきた十年だった。
憧れたものがあり、なりたいものがあった。
地獄の底から拾い上げてくれた、「正義の味方」。
それが自身から零れ落ちたものでなくてもよかった。

それしかなくて、真っ当な感情なんて作れなかった。どれほど破綻していたとしても、借り物だとわかっていても、偽善と罵られても。なお追い続けてきた。
だって誰かを助けたいという思いも、その理想をきれいだと思ったことも、決して間違ってなどいないんだから。

切り捨てることも、取りこぼすこともなく十すべてを救おうと駆けてきた。
たいていの場合、九を救うことはできても残りの一が救えなかった。
それが切り捨てたのか、それとも取りこぼしてしまったのかはさして違いはない。
十を救えなかったそれが全て。

それでもそうして駆けてきたことには、価値があると信じて意地を張りとおした。
気がつけば、俺の姿は奴のそれと同じになっていた。白く脱色した髪、黒く焦げた肌、鉄色に変色した瞳。
そして今、奴と同じ最後を迎えようとしている。

そこはいつか見た赤い剣の丘。
そのことに後悔はない。もとより衛宮士郎にそんな複雑な感情はないのだから。
それに違いもある。それが少しだけ誇らしくもあり、また申し訳なくもある。
俺を絶対に幸せにしてやると、そう宣言した彼女がいま、あの夜のように俺の背に体を預けている。
お互いに虫の息、そう長くないのはわかりきっているので、言っておかなければならないことがある。

「凛」
「なに?」
「ごめんな」
「だから何よ? くだらない事ならはり倒すわよ」
言葉のとおり不機嫌そうで、本当に殴ってきそうだ。
でも、せめて言っておきたい。単なる自己満足だとしても。
「俺は結局、奴の言うとおり正義の味方にはなれなかった。
それはいい、残念だし、悔しくはあるがそれは俺の問題だ。
でも、お前は違う。
俺になんか付き合わなければ、こんなことにはならなかったし、あるいは魔法にさえ届いたかもしれない。
だから…」

ゴスッ!!

もうロクに体も動かないくせに、やけに力の乗った拳が飛んでくる。
「何するんだ!!」
「くだらない事なら殴るって言ったでしょ!
馬鹿にしないで、そもそも私は好きで付いてきたんだから、アンタにどうこう言われる筋合いはないわ。
それにね、私は幸せだった。そりゃ苦労もしたし、厄介事だらけの十年だったけど、私は楽しかった。
知っているでしょ? 私は快楽主義者なの、やりたくもないことを十年もやるようなもの好きじゃないわ」
「む」
そう言われては反論のしようがない。そもそも口で勝てたためしもなかったか。
「だいたい、だからアンタは馬鹿なのよ」
「何がさ」
「正義の味方になれなかったって言うけどねぇ。
少なくともアンタに救われてきた人たちにとって、アンタは間違いなく正義の味方だった。
好き勝手言う恩知らずもいたけど、アンタに感謝している人たちだってちゃんといた。
士郎にとって衛宮切嗣がそうだったように、彼らにとっても衛宮士郎は正義の味方なのよ。
それでもなれなかったなんて言う気?」
その言葉は、俺にとっては衝撃以外の何ものでもなかった。
思い返してみる。今まで必死になって戦ってきた。そこで出会った人たちのことを。
罵倒してくる人たちや、恨み言を言ってくる人たちは大勢いた。でも、同時に目に涙を浮かべて感謝してくれる人たちも確かにいたのだ。俺は何故それを忘れていたのだろう。凛の言うとおり、俺なんかに救われた人たちが、たしかにいたのだということを。

俺もあいつも、できなかったことばかりを数えて、できたことに目を向けていなかった。
そんなだからあいつは、苦しむことしかできずに擦り切れてしまったのだろう。
そのことを知ることができたのが、同じ道程を歩んだ、俺とあいつの一番の違いなのかもしれない。
「そうだな。本当に俺は、大馬鹿だ。
取りこぼしてばかりだと思っていたけど、俺はそこばかりを見て、逆側を見ようとしていなかった。
救えなかったものは多くあるけど、救えたものもたくさんあったのにな。
……無念も心残りもあるが……俺は、よくやったな……。
ああ、なら……これで……良しとしよう………」

ああ、でももし次が許されるのなら、その時は……
「今度は『俺』がお前を幸せにしたいなぁ」
そうして、俺は意識を手放した。



Interlude

SIDE-凛

「はぁ、だからアンタは馬鹿なのよ。今更そんなこと言うなんて。
でもまぁ、これなら保険をかけておいた甲斐もあるかな。
桜、後は任せ…た……」
微かに聞こえる忙しない足音を聞きながら、遠坂凛は息を引き取った。

残されたのは二人の死体と、微かに輝きを宿す二つの赤い宝石。

Interlude out


*  *  *  *  *


そして、場面は移る。
 
気がつくと、そこには見なれた天井があった。

「ああ、朝か…って!
待て!! 俺は死んだはずじゃ…」
そう俺は確かにあの赤い丘で凛と一緒に、なのにどうしてこんなところで寝ているんだ。
それもここは 俺 の 家 じゃないか?

「あっ! やっと起きたんですね先輩」
そこには懐かしい妹分の姿があった。

「桜!?
どういうことだ、おれは死んだはずじゃ?」
「ああ、それはですね「今の体が人形だからよ」…あう」
「え? 凛?」
そこには、間違いなく俺の最愛の人が以前のように自信満々の様子で立っていた。
「そぉよ、なにか文句ある?」
「いやそうじゃなくて。人形? どういうことだ」
わけがわからないと尋ねる俺に、凛は
「時間もあれだから簡潔に言うと、私たちの持つ宝石にちょっと細工しておいて、死んで魂が抜けかけるとそれをからめ取って保存するようにしておいたのよ。まぁ、一時しのぎなんだけど」
「それを私が回収して、あらかじめ用意しておいた人形に定着させたんです。
お爺様のこともあって間桐の魔術には魂に関する事柄もあったし、私自身ロンドンではそっち方面の研究をしていたのは、先輩も知っているでしょう」
そういえば桜は、ロンドンでは魂関係の研究をしていたな。
以前は魔術にそれほど乗り気ではなかったのだが、ある日突然猛勉強を始めたのだ。
何度尋ねてもその理由は教えてくれなかったが。
凛はだいぶ前からこの計画を立てていたのだろう。
そして桜はこの計画を凛から持ちかけられ、それに乗る形で積極的に魔術を修めたのだろう。

「あ、ああ一応事情は呑み込めた。
 でも何でおしえてくれなかったんだ?」
そう、そんなことを準備していたのなら教えておいてほしかった。
一人だけ蚊帳の外というのは、あまりいい気分ではない。
「教える意味なんてないもの。
あくまで保険で使わないのが一番だし、桜が間に合うとも限らない、成功する確率だって低い。
それにアンタのことだから、知っていたらより一層無茶しただろうし。
何より命を粗末にするわけにはいかないじゃない、こんな反則もう一回やろうたってできないんだから」
成功率が低いのはわからないでもない、自分の行動を省みれば無茶などしないとはとても言えない。

だがなぜもう一回はできないのだろう、と思い聞いてみることにする。
「なんでさ」

問いただすと……
「その人形は蒼崎製で、資金的にもう余裕がないんです」
「な、なるほど…」
世知辛い理由でした。


「で、この後のことなんですけど」
「この後?」
「アンタねぇ、今の状況わかってる?
私らはもう死んだ人間なの、そんなのがうろうろしてみなさい、教会や協会が黙ってるわけがないでしょうがー!!」
久々にあくまが降臨しました。

「じゃ、じゃあどうするんだ?」
「性に合わないし、癪に障るけど逃げるわよ!」
「逃げるってどこに? 連中の目をごまかすのはただ事じゃないぞ」
そう奴らの目は世界中にある。
そのうえやっと始末したと思った厄介事が、のこのこ動き回っているのを放置してくれるとは到底思えない。
「簡単よ。並行世界にいけば問題ないでしょ?」

……はい? 我が敬愛なる御師匠様は何をのたまっていますか?
「何よその眼は」
「いや待て、睨むな、殺気立つな!!
並行世界へってどうやってさ、宝石剣で出来るのは小さい穴を開けて向こう側を覗くぐらいだろ?
 そんな大事まではできないはずじゃ」
そう宝石剣は確かに魔法の一端を体現するが、あくまで一端だ。
それは並行世界を観測できる極小の孔をあけるぐらいで、人が通れるほどのものではないはずではなかったか。
通れるとしたらラインや魔力くらいのもののはずだ。
「宝石剣だけならね。
でもこの冬木には大聖杯がある、それを利用するのよ」

大聖杯、それは5度にわたった聖杯戦争の大本。十年前俺と凛が関わったちっぽけな、それでいてこれ以上ないくらいに絢爛とした戦争の根幹だ。
「利用って、大聖杯は壊したじゃないか。
なんで大聖杯が出てくるんだ?」
そう第五次聖杯戦争から半年後、俺たちは遠坂家の資料を漁りその本質を知るにいたったのだ。
まだ聖杯戦争は終わっていないことを知った俺たちは、その危険性を知る者としてこれを破壊した。
なのにそれを利用するという、それはいったいどういうことなのか。

「いいから聞きなさい。確かに壊しはしたけど機能の一部を修復しておいたのよ。
ああ、安心しなさい。別に聖杯戦争は起きないから。
私が利用しようとしているのは、大聖杯の地脈から魔力を集める機能だけだから」
凛が言うには、せっかく膨大な量の魔力を工面するあてがあるのにそれを使わないのはもったいないということで、いずれ研究にでも利用しようと考えていたらしい。
だが今回はそれどころではないので、かねてより温めていた実験を利用して並行世界にトンズラしようということらしい。

それは……
「宝石剣であけた孔に膨大な魔力を一気に流し込んで、孔を無理矢理押し広げて人が通れるようにするというものよ。
孔をあけるのは魔法の域だけど、開けられた孔は一種の空間の歪み、ならそれを拡張するのは人が通れる孔を直接あけるよりも容易なのよ」
理屈は一応わかった。容易なのかどうかは俺では判断できないが、凛がそういうならそうなのだろう。

ただ……
「危険性はどれくらいなんだ?」
これは聞いておかなければならない。俺一人ならともかく凛も一緒なのだから。

「はっきり言って、不明よ。
なにせ並行世界への移動なんて、大師父以外やった人なんていないし。完全に至ったわけじゃない私がすることで、どんな修正を受けるか見当もつかない。それでもこの世界にいるより悪くなることはないと思う。ここにいたんじゃいつ殺されてもおかしくないけど、逃げれば希望がつながるしね」
ならば是非もないか。
ようは遠からず死ぬか、生きられるかもしれない可能性に賭けるか、ということなのだから。

「わかった。その賭けに乗った。
チップは命で、それを凛にかけるということなんだな」
そうだ、俺はもう十年前から凛に命を預けているんだ。なら今更臆する理由もない。
「そういうこと。こっちも準備しているけれど、終わるのは2・3日後ね。それまでに体に不具合があったら桜に言って調整しなさい、向こうに行ったら帰ってこられないんだから」
「あ、桜はいかないのか?」
それは少し寂しかった。つまり、これが永久の別れになるということなのだ。

「はい。どのみち大聖杯や術式を管理する人間が必要で、姉さんか血の繋がっている私でもないと、それはできないんです。冬木の土地との相性の問題もありますから」
そう、桜も寂しそうに告げる。

「そうか……」
「じゃ、他に質問はない?」
「あ、そうだ。鞘はどうしたんだ?
それと、俺の礼装も」
そう、あの聖杯戦争で何度も世話になり、最後まで忠義を尽くしてくれたもう一人の相棒の失われた鞘「アヴァロン」。
アーチャーの言っていた「彼女の鞘の加護」の意味と、それが俺の中にあったのはすでに分かっている。
それがどうなったのかが気にかかる。

「その点は大丈夫。ちゃんとアンタの中にあるわよ。
 協会の連中にくれてやるのなんかごめんだし、何よりいつかあの子に会うことがあったら、お礼と一緒にそれを返したいんでしょ?
それと礼装の方だけど、全部荷物の中に入れてあるから大丈夫。
なくてもある程度どうにかなる物もあるとはいえ、やっぱり有った方がいいしね」
それを聞いて安心した。
鞘もそうだが、俺の礼装の中には親父の形見でもある、トンプソンセンターアームズ・コンテンダーと起源弾がある。
えげつない代物ではあるが、それでも俺の切り札の一つだし、親父の残してくれたものである以上無碍にはしたくない。
また残りの礼装にしても、魔力の少ない俺には増幅機は必須だし、もう片方も投影の補助があった方が負担は減る。
聖骸布は論外、これがなきゃ俺の守りはないに等しいのだから。

「士郎、アンタもう一つ大事なこと忘れてるでしょ」
凛が「むーっ」とむくれている。なんだろうか?

「はあ、その様子じゃ完全に忘れてるわね。まぁ、らしいと言えばらしいけど。
 いい?アンタの左腕だけど呪的に奪われているのは憶えているわよね」
「当然だろ、記憶喪失じゃあるまいし。黒のお姫様が持って行った時にそんなことを言っていたし。
 でも、だからってどうしたんだ?」
いぶかしむ様にたずねてくるが、いくら俺でもそこまでボケちゃいない、失礼な。


そう、あれは6年程前。

偶然にも27祖の一角でもある死徒の姫君と遭遇し、周りの人たちを逃がすために戦って成す術もなく敗れた。
いや、あれはそもそも戦いともいえなかったのだが。
とにかく、俺は負けてその時に左腕を吹っ飛ばされたのだが、姫君は何を思ったのか……
「人間にしては楽しめました。
まさかこんな所、こんな時代で守護者になる資格を持つ者と会うとは、思ってもみませんでした。
月が綺麗だったので散歩に出たのは正解でしたね。
褒美を取らせましょう。
あなたの存在・能力ともに稀有なものですが、何よりも貴重なのはその在り方。
あなたがどのように生き死ぬのか興味があります。今宵は、腕一本を代価にその命を見逃しましょう。
精々あがきなさい人間。あなたの望みは、ある意味魔法にさえ匹敵する」

そうして、俺の腕を持って去ろうとしたのだが
「ああ、それと私との契約を望むのならいつでもいらっしゃい。世界などに渡してしまうのは少々惜しいもの。
そうですね、その時はあなたの腕も返してあげましょう。この腕は私が魂レベルで奪っているので、たとえ腕を復元させたとしても機能は戻りませんよ」
そう言って、今度こそ姫君は俺の前から姿を消した。
俺はあの件で、本当の化け物の力というものを実感した。あれ以降、姫君には会っていない。


「そう、魂のレベルから奪われているせいで、人形に移っても機能は戻っていないの。
それじゃあ只のお飾りどころか邪魔でしかないわ。だから今のアンタの腕は、人形の体とは別に以前から使っていた「蒼崎」特製の義手をつけてあるの。
ギミックもそのままだから、うまく使いなさい」
そうだった。並みの義手では機能を取り戻せないどころか、そもそも動かすことさえできない。
燈子さんが作ってくれた特注の義手だから、失う前同様、いやそれ以上の性能を出すことができるんだった。

「ああ、そういえばそうだった。確かに腕の状態を確認するのをすっかり忘れてた」
ポンっと手を叩く俺を見て、凛も桜も何とも言えない微妙な表情をする。
これは完全に呆れられているな。まぁ、仕方ないけど。

「じゃあ、これで大まかな話はおしまい。
士郎は新しい体に早く慣れて、私と桜は術の準備をするから。ああ、荷づくりはもう終わってるわよ」
「俺は手伝わなくていいのか?」
何もかも任せきりというのも、居心地が悪いので聞いてみる。
「?? じゃあ聞くけど、手伝えるの?
 アンタ知識はあるけど実践はからっきしのへっぽこ魔術師じゃない。
これからやるのは、力技とはいえ魔法への挑戦でもあるのよ。それにアンタが役に立つとでも?」
心底不思議そうに尋ねる偉大なるお師匠様。
どうせ俺には才能がありませんよ~だ。


  *  *  *  *  *


そしてその時が来た。

凛は「遠坂の当主」として、桜に伝えるべきことを話している。
「じゃあ桜、こっちのことは任せたわ。
 あとはアンタのいいと思うようになさい。弟子をとるもよし、養子を迎えるもよし。
冬木の全権はアンタに任すから」
「はい、姉さんたちも気をつけて」
「未知の領域に挑むのに、気をつけるも何もないけどね」
そういって凛は肩を竦める。
桜は今にも泣きそうだ。

「ああ、それとこれあげるわ」
そう言って凛は、件の赤い宝石を渡す。
「え、でもこれって……」
「いいから持ってなさい。
それはもう一欠けらの魔力も魔術も込められていないただの宝石だけど、士郎の持っているのと共感させれば道標くらいにはなるから、もしかしたら戻ってこられるかもね。
ああ、あとそれの代金貸しだから、そのうち取り立てるわよ」
この期に及んでも遠坂凛は遠坂凛ということらしい。
「はい。必ず返済します。いつか……かならず」
そういって桜は泣きそうな顔で笑う。
おそらくはこれが今生の別れになるとわかっていて、それでもなお再会を誓って笑う。


次に桜は俺のもとに来て尋ねる。
「先輩、無事にたどり着いたらどうするんですか?
また、正義の味方を目指すんですか?」
「……いや、夢はもう十分に見た。
 なら、ここらで次の夢を見る頃合いだと思う」
「それは、どんな?」
桜は意外だったのか、少しだけ不思議そうな顔をして聞いてくる。

「凛は、俺といられて幸せだと言った。
でもそれは俺が幸せにしたんじゃなくて、凛が自分で俺との時間を幸せだと感じてくれただけなんだ。
だから俺は。今度は『俺自身』の手で凛を幸せにしたい。凛のための『正義の味方』になりたいと思うんだ」
それが、すべてをかけて俺と共にいてくれる凛に対する、俺が返せる精一杯の思いだから。

「それは…とても素敵ですね。
 あ~ぁ、結局最後の最後で完全に振られちゃったなぁ。みんなのための正義の味方なら、まだ私も範疇だったんですけど、これで姉さんの勝ち決定です」
いくら鈍い俺でも、いい加減桜の気持ちには気づいていた。でも俺はその思いには応えられない。
そんな俺が桜にかけてやれる言葉はないと、そう分かっていても何かを言いたい衝動に駆られる。

「……桜……」
「先輩、約束してください。
 必ず姉さんと幸せになってください。一緒にですよ」
そんな俺に桜は機先を制するように、「一緒に」を強調して言ってくる。

「ああ、約束する」
だから、俺に返せるのはこれだけ。彼女との約束を絶対に果たす。かつて親父の願いを継いだ時と同様に、この神聖な誓いを胸に刻みつけて。


「それじゃあ、大聖杯の魔力を一気に解き放つので」
「それで一瞬広がった孔に飛び込むわけか。わかっているさ」
「では、姉さんそれに先輩……いえ、兄さんいってらっしゃい。
 お幸せに」
そう言って桜が極上の笑顔で送り出す。ならこちらも笑顔で返さないと
「「……行ってきます。桜」」

そうして、今度こそ本当に、衛宮士郎と遠坂凛はこの世界から消えた。




あとがき

いきなりの独自設定満載です。そのうえ、まあよくある展開ですね。
わかってはいるのですが、なかなかこれ以外の移動方法でしっくりくるのがないので勘弁してください。これでも少しは違いを出そうとやってはみました。
並行世界への自力移動となると、ゼルレッチの爺様ぐらいしかできないわけですが、そこへ無理矢理凛にもできるようにするにはどうすればいいかを考えて、この設定となりました。これなら何とかなりそうな気もします。
士郎の腕の設定は、あんな生き方している人間が、いつまでも五体満足でいられるはずがないと思いでっち上げました。一応この設定が役に立つこともある予定なので、気長に待っていてください。
桜の方は、聖杯戦争後に慎二の方からの情報提供で知り、夏ごろには決着がついたということにしています。
次からはなのはの世界で生活することになりますが、魔法と関わるのは幾分先になるので、これまた気長に待ってください。
待ってもらってばかりで申し訳ございません。
できれば、感想をいただけると幸いです。
最後に稚拙な文ではありますが、読んでいただきありがとうございます。


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