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No.37930の一覧
[0] 万事屋はやてちゃん(リリカルなのは×銀魂)[ファルコンアイズ](2013/09/16 03:07)
[1] プロローグ 雪の中の誓い[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:23)
[2] 第1話 高町なのは 魔法少女始めます 前編[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:25)
[3] 第2話 高町なのは 魔法少女始めます 中編[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:25)
[4] 第3話 高町なのは 魔法少女始めます 後編[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:27)
[5] 第4話 星光と孔雀姫[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:28)
[6] 第5話 星光と夜王[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:31)
[7] 第6話 星光と醜蜘蛛[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:32)
[8] 第7話 親の心子知らず 子の心親知らず[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:33)
[9] 第8話 目覚める魔導書[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:33)
[10] 第9話 新しい家族[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:34)
[11] 第9.5話 星光と月光[ファルコンアイズ](2013/12/05 20:50)
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[37930] 第7話 親の心子知らず 子の心親知らず
Name: ファルコンアイズ◆49c6ff3b ID:5ab2f191 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/25 00:33
第一印象は凄く可愛くていい子、元々お登勢さんが柄にもなくよく自慢していたから期待はしていたが想像以上だった。
 自分の質問にはいつも笑って答えてくれるし、診察も嫌な顔ひとつしない、普通ならまったく進展しない治療に文句を言ってもおかしくないのに、それに対してさえ笑顔でお礼を言ってくれる。いい年して親ばかになるお登勢さんの気持ちがよく分かった。
 だけど一番驚いたのは私の必要以上のお節介をいつも受け入れてくれることだった。自慢ではないが私は医者として患者に必要以上に干渉してしまう悪癖を持っている、メンタルの面でも助けになりたいという理由からくるそれは、しかし殆どの患者にとって鬱陶しいものとしか思われなかった。自分でもこのお節介がただのやり過ぎでしかないと理解していても、生来持ち合わせてしまった性分は中々改善できずにいる。
 だからいつも余計なお節介を焼いて、それで患者が傍目から見て迷惑そうにしたら結構後悔してそこで止める。医者としてどころか人間としても問題のあるこの悪癖を、彼女はいつも笑って迎えてくれていた。
 正直嬉しかったのかもしれない、何となく自分を受け入れてくれている気がして相手のことなんてこれっぽっちも考えずにはしゃいだ挙句、ついには勝手に暴走してしまった。

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「もうすぐ誕生日って聞いたからさ、一緒にご飯食べに行かない? お登勢さんには内緒で」

 主治医になって1年経ったある日、彼女の誕生日を知った私は休日を利用してちょっと有名なレストランで一緒に食事をしようと電話で誘った。もはや医者の領分を完全に超えている、というより言葉だけ聞くとただの変質者ではないか、だけどそれを理解したのは残念ながら言葉を言い終えた後だった。
 どう考えても引かれる。だけど後悔は先に立たない、しばらくすると受話器の向こうで騒がしい音が聞こえた後、ぶつりと切れてしまった。

「……やっちゃった」

 ツー、ツーと、無機質な音が響きながら、自分のバカな行動にうなだれてしまう。
 いつもこうだ、ちょっと仲良くなると調子に乗って人のプライベートにズカズカと入り込んで傷つけてしまう。あの子には年の離れたお登勢さんを除いてまともな親がいないのだから、恐らく母親くらいの年齢であろう私を見て少しだけ心を許したにすぎない、よく考えれば分かることを有頂天になってしまって、まだ小学生にもあがってない彼女の思いを踏みにじってしまった。
 もう終わりだ。いつものように自己嫌悪に陥っていた時、なぜかあの子からまた電話が来た。内容は大体想像できる、優しい子だからなるべくこちらを傷つけないようにしながら断るのだろうなと、これまた勝手に決めつてしまう。
 しかしそんな私の考えは覆された。彼女は今すぐデパートに来て欲しいなどと言ってそのまま切ってしまった。私はわけが分からずに軽く身支度を整えて家を出た。今日がたまたま休みでよかったなどと思いながら待ち合わせ場所で彼女に出会うと、いきなり手にいっぱいのチラシを持ってデパートの中に入るようせっつく。
 着いた場所は服売り場、それも普段病院で缶詰になることが多い私にはあんまり縁のないオシャレなものばかりが置いてある。ある程度目星が付いているのか、ご丁寧にチラシには外食に向いてそうな可愛い服が赤ペンで印が書かれている。
 まさかと思って思わず彼女に問いかけると。

「はい、いきなりでびっくりしたからお登勢さんに内緒で財布とか準備するのが大変でした」

 ……開いた口が塞がらなかった。
 誘った自分が言えた立場ではないが、たかが誕生日のお食事会で何を考えているのだと思った。もっと軽い気持ちでやればいいのに。それを察したのか、今度は少し恥ずかしそうにしながら笑顔でこう応えた。

「だって、せっかく石田先生が誘ってくれるんですから、私も恥ずかしい格好なんてできませんよ」

 ……これがもうすぐ6歳になる子供の発言だと言われて何人が信じるだろうか? 結局その日の休みは彼女の洋服選びに費やされた。

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 それから当日のお食事会。まさか自分だけ変な格好で行くわけにもいかないので少しだけ気合の入った服で彼女と待ち合わせの場所で落ち合う。

「石田先生、こっちです~!」

 笑顔で渡しに手を振る彼女の姿は眩しかった。雑多な人混みの中ですぐに見つけることができたのは車椅子のおかげもあったが、何よりも私が選んだ服が彼女に非常にマッチしてたおかげか、車椅子が浮いてしまうほど彼女は輝いて見えた。
 別に自分のセンスを褒めるわけじゃないけど、元々素材の良かった彼女の可愛らしさを引き立ててくれてるその服は周りからも注目を浴びていた。よくあれでお登勢さんにバレなかったなと呆れながら私達は目的のレストランに入っていく。
 それからは落ち着かなかった。自分の身の丈に合わない店だったということもあったが、自分以上にナイフとフォークを使いこなせていない彼女の危なっかしい行動にヒヤヒヤした。私も含めてグラスや皿を落とした回数も一度や二度ではきかない。

「あはは、やっぱり慣れませんね」

 ナイフを落としてベロを出す彼女に、だんだん申し訳ない気持ちが強くなった。
 何をやっているのだろうか? こんな小さな子に慣れない服を着せて慣れない店で慣れない作法を強いさせて、本当なら楽しくしようと思ってたのに、何から何までフォローさせてばかり、これではどっちが子供かわからないではないか。

「ごめんね、全然楽しくないよね? 私が誘っちゃったばっかりに、ほんとにごめんね」

 こんなことなら誘わなければよかった。後悔ばかりが募って思わず顔を伏せてうなだれる。空回りしてばかりの数日間、彼女のためにと思った行動は結局は迷惑なものになっている。
 正直、もう彼女にお節介を焼くのはこれまでにしようと考えていた時だ。彼女は私を見ながらこう言った。

「そんなことないですよ! 確かにいきなり2人で食事行こう言われた時はほんのちょっとびっくりしたけど、迷惑なんてこれっぽっちも思ってません、先生が選んでくれた服もスカートがちょっと短くて恥ずかしい以外は可愛いし、ナイフとフォークにちゃんとした持ち方があるなんて知らなかったり、今日は色んなことを知ることができてほんとに嬉しいんです」

 慌てながら自分をフォローしてくれる彼女からは、私への同情とか、哀れみのようなものは感じなかった。どこまでも純粋に、ただ本当に感謝の気持から言葉が出てきていたのが分かった。

「この服も、実は私も良いなって思ってたから、選んでくれた時、趣味が一緒やって思って凄く嬉しかった。早くこの服でいっぱい歩き回れるようにがんばって病気を治します。ほんで先生にたくさんありがとうって言いたいんです」
 
 料理を食べながら泣きそうになった。鬱陶しがられないかと、嫌われないかと、患者さんのためにと言いながら自分のことばかり考えていた私には彼女が直視できないほど眩しかった。
 店を出て彼女と別れた時、私は決心した。こんな子の主治医を担当させてもらえることを感謝すると同時に、この子の病気、原因不明の歩行障害を何が何でも治してあげたかった。普通の子のようにいっぱい走って笑って、将来絶対に似合うであろう素敵なウェディングドレスを着れるように、この子を幸せにするために。
 それは今も変わらない。相変わらず診察の時に他愛のない世間話に花を咲かせ、暇な日は決まって差し入れとかを渡しに自宅まで足を運ぶ。いきなり現れて父親と名乗ってきた変な天然パーマの男も最初は探偵を雇って正体を探ろうとしたけど、今ではお互いに皮肉を言い合うくらいには信頼している。
 最初はお世話になったお登勢さんが可愛がっている子だかという理由も今じゃすっかり変わってる、私はあの子がはやてちゃんだから、あの子の足を治してあげたい。

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 いつもの日課として終わるはずだった。
 一向に治る気配の足の状態を調べて、素人には皆目理解できない小難しい話が終わった後に、「お薬を出しておきますね」と意味のない処方薬を貰ってとっとと家に帰る。それが銀時にとっては口やかましいお節介女の忌々しい顔を見なければならない苦痛な、しかしはやてにとっては大好きな先生と会える嬉しい日課のはずだった。

「もう一度言ってくんねえかなあ」

 だが今日に限ってはそうじゃなかった。いつものように帰ろうとした瞬間、はやてだけ廊下に放り出され、診察室で主治医の石田医師と2人だけになった瞬間から銀時は嫌な予感がしたが、それがズバリ当たってしまった。

「……このままだと、はやてちゃんは長く生きられないかもしれない」

 そう告げる石田医師の表情は暗かった。それなりに付き合いのある銀時も見たことがないその表情が、長く生きられないという言葉がたちの悪い冗談ではないことを示している。

「歩けない病気にも種類があるの。まったく歩けないのは脳に送られる信号が何らかの理由で足に伝わらないのか、それとも足か腰のどちらかの神経に異常があるのか、前者ははやてちゃんの場合、足以外は健康体そのものだから除外ね、そもそも主治医の私が神経科な時点でこれはありえないし。だけど後者なのかと言われると分からないの、足の病気ってどちらかというと高齢か持病持ちの人じゃないとこういう症状は起こらなくて、あぁごめん、坂田君には難しすぎたか」

 サラッと人の頭の程度を低いと決め付けるような暴言を吐く医師の顔面に思わず銀時は鉄拳を見舞いたくなったが、自分には理解できないことは理解しているため寸前で我慢する。
 今は彼女を殴る暇はない、はやての体に何が起こっているのか、それは解決できる問題なのか、それだけが銀時のすべてであり、石田医師も理解しているからこそ言葉を続ける。

「ただ原因は分からないけど足の神経が麻痺してることは確かなの、そしてその麻痺は以前まで正常だった場所にまで広がってる。何の前触れもなくね」

 麻痺が広がるというのはどういう理屈なのか、人体の知識はおろか人間が持って当たり前な一般常識や道徳が致命的に欠けている銀時に答えが出せるはずもなかった。石田医師は暗い表情を隠そうともせず、言葉だけはあくまでも事務的な風を装おうとする。
 

「このままだと内臓機能にまで影響を及ぼしかねない、今の進行状況から考えて長く見積もって10年、ううん、もっと短いかもしれない」

「10年ってオイッ……」

 10年。その言葉にそれまで無表情だった銀時の眉間が僅かに歪んだ。
 それはどれくらいの年月なのだろうか?
 自分の体から今以上に悪臭を放ってしまうくらいなのか
 家賃家賃とうるさいクソババアが家政婦ロボ相手にボケるくらいなのか
 居候中のチャイナ娘がおしとやかな性格になるくらいなのか
 メガネがコンタクトレンズにクラスチェンジするくらいなのか。
 なんにしても普通の人間からしたらあまりに短すぎることだけは分かる。たったそれだけの時間しか残されていない、その残された時間さえ子供らしく外を走り回れない。子供らしく振る舞うことさえ許されない。

「ったくよお」

 考えれば考えるほど分からなっている感じだった、ただでさえできの悪い頭が答えの出ない問答を繰り返して余計悪くなっているのだろうなと石田医師は思った。銀時はコンプレックスである天然パーマの銀髪を何度もグシャグシャとかき回しながらうなだれる。

「……ごめんなさい、私も知り合いの医者全員に駆け回ったけど、地球どころか97世界のどの星の設備でも治療法はないって言われて、もうどうすることもできないって言われて、本当にごめん」

 そんな銀時に石田医師は謝罪を続ける。だが医者として彼女には何の非もない、ただ治る見込みのない病気が患者の命を蝕んでいると当たり前の報告をしただけ、それを理由に避難するというのならそれは間違いだ。
 だが医者として問題ないとしても、はやてと銀時、2人の親子の友人として何もしてやれない自分の不甲斐なさを痛感し、意味もなく謝ってしまう。いくら立派な肩書きを持っていても、確かな技術を持っていたとしても、それは人間性とは無関係なのだから。

「……石田先生よお」

 長い沈黙、それを破ったのは銀時だった、顔を上げて未だに悲痛な面持ちの石田医師を見据える。

「あと10年で、アイツはどれだけ笑えるんだろうな?」

「……なに言ってるの?」

 突拍子もない質問にキョトンとなるのも一瞬、父親のくせに娘の状況を理解しているのか疑わしく感じて思わず睨みつける石田医師。

「正直アイツの寿命が10年しかねえって言われてもピンとこねえし、それを知ってもアイツが俺達に文句言ってくるとも思えねえ。せいぜいドラマの感動シーンで心を痛めるのと同じくらいにしか感じねえだろうよ」

「バカ言わないで、これはドラマじゃなくて現実、実際にあの子に起こってる不幸なの。そんな他人事に……」

「そういう奴なんだよ、別に無理してるわけでも強がってるわけでもねえのに自分の足のことを他人事のようにしか感じてねえ、この前もアイツの菓子をパクったのがばれて喧嘩してたら、『私は長生きできんのやからいい加減に体だけやのうて頭も大人になってよ!!』なんて言いやがってたぜ。ありゃ勘づいてやがるよ」

 笑い話のように語る銀時とは裏腹に、石田医師は言葉が出なかった。
 死んでしまうかもしれない、健康な人が言えば単なる冗談で済ませられる話だ。だが未知の病気に蝕まれ、いつその身に不幸が訪れるか分からない状態にある子供がそんなことを言ってしまうなんて正気ではない、それではまるで。

「何よそれ? それじゃはやてちゃんは最初から治療を諦めてるってこと?」

「そうなんじゃねえの? ここに来るのもどっちかっつうとテメエに会いたいって理由のほうがデカイみたいだよあの子。こっちは患者でもねえのに毎回私生活にちょっかいかけてくるオバはんには気が滅入ってくけどな」

 投げかけられる皮肉が酷く遠く聞こえる。自分が想像している以上に少女の考えが常軌を逸しているせいだった。
 今まで彼女は主治医の範疇を超えるほどはやてを気にかけていた。幼いのにいつも周りを思いやり、笑いを絶やさない少女が眩しくて、その笑顔を悲しみに変えないために頑張ってきたというのに。それがはやてにはまったく届いてなかったのがたまらなく悔しかった。

「まあ早いうちに聞けて良かったよ、それならこっちも覚悟はできるしよ」

「……やめてよ、そんなこと言うの」

「俺ァ大して頭よくねえからこれからも病気に関しては先生に任せるけどよ、アイツ自身が完治するのを諦めてて実際長く生きられねえっつうなら、せめて残ってる時間の中でアイツが目一杯笑えるようにバカやるのが俺の仕事だ」

「やめて!」

 ガタリと音を立てて石田医師は立ち上がる。その目には怒りとも侮蔑とも取れる何かが宿っていた。
 分かっている、すべてが彼の本音ではないことに、だけど許せなかった。たとえ血が繋がっていなくても、たとえ傍目から見てイジメてるように見えていても銀時ははやてのことを家族だと思っている、絶対に悲しませてはならない存在だと思っている。
 だからさっきの言葉は彼にとっても苦渋の決断だったのだろう、自分に助ける術がないのなら、せめて生きてる限りは泣かせないようにしようと、未だ父親として不出来な彼が考えた娘への想いなのだろう。
 だけどそれは医師として、男の友人として、何よりもはやての友人であろうとする自分にとって決して容認できる言葉ではない。どんなに本人が望んでいようと、その選択を選ぶまでにどれほど辛い思いをしていようとも、親が子の命を見捨てるなんてあってはならないのではないのか。

「……そんなこと言わないでよ、あんな小さな子にそんな言葉を言わせてるのよ。おかしいわよ。もっと私達は罵られてもいいはず、最低な大人のレッテルを張られたっていいはずなのよ。なのにあの子は何も言ってくれない、最初から諦めてるから意味がないと思っちゃってるの。それなのに父親の坂田君まで諦めたら終わりじゃない」

「……」

「訂正する、治療法がないなんてありえない。97世界にないなら別の世界にあるはずよ、私が絶対に見つけるから諦めたようなことを言わないで、はやてちゃんにも言わせないで。10年間笑えるんじゃなくて、笑顔だけの人生じゃなくても普通におばあちゃんになるまで生きていける人生にしてみせるから、だからもっとあの子が子供らしくできるように頑張ってよ……」

 勝手な言葉だ、自分の台詞を客観的に判断した石田医師は、それでも震える声でその思いを続けた。
 やりすぎてる、1人の患者相手にどう考えても異常だ。それは本人も理解している。理解しているからこそ開き直っている部分があった。
 医師にとって医者や患者なんて関係なんてとっくの昔に意味がなくなってる。彼女は結局はやてが好きだから、あの笑顔がなくなってほしくないからこんなに必死になっている、それがここにきて爆発してしまった。
 そんな石田医師を見やる銀時の目は相変わらず覇気がなかった。だがその激昂した医師の顔が何故かはやてと重なり、大きく息を吐きながらこう思った。

――何で自分の周りの女はこう気負いすぎる奴ばかりなのか――。

 ・
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 ・

 空気が重い。車椅子を銀時に押してもらって歩道を進みながらはやては今の状況にげんなりしていた。
 原因は分からない。病院で診察が終わった後、いつもならどんな些細な話でも必ず自分も同伴させてくれた石田医師が突然銀時と2人だけで話がしたいと言って自分をほっぽり出し、それが終わったかと思うといつものやる気のない顔の銀時と妙に暗い表情の石田医師。何があったのかと聞くと少しだけ笑顔になって何でもないという医師の顔が痛々しかった。

「なあ銀ちゃん、ええかげんに話してよ。石田先生と何があったの?」

「大したことじゃねえよ。このまま甘いもの食ってると取り返しのつかねえことになるからやめろって言われただけだ。いつものお節介だ」

 そして銀時に至ってはこれだ。しかもさっきまでと全く違う話になっているのだからまともに隠す気がないのではと思ってしまう。
 頭の中がモヤモヤすると同時に足の付根がズキッと痛む。ここ2、3日前から気持ちが沈むと決まってこの症状がでる、以前に話して薬はもらってはいるがあまり効果はない。足が動かないのは正直諦めているが落ち込むと痛み出すのは何とかしてもらいたいとはやては大きく息を吐く。
 大好きな先生の悲しい顔を見るのは辛い、自分に話してくれないのも辛い、足も痛いの三重苦。1つ1つなら耐えることは簡単であるが、それがまとめて襲ってくるのは辛いことだった。

「はぐらかさんといてよ、私やって家族やのに」

「お子様にはちょっと刺激が強すぎるんだよ、テメエに黒の書を直視できる度胸があんのか? 辛い思いするだけだよ」

「本当のことを話してくれないほうが辛いんやよ?」

 少しだけ、滅多に見せない弱みを見せたはやてに、銀時は額を僅かに歪め、ポーカーフェイスを気取っていた表情にかげりがでた。

「大人の話にガキがツッコんでんじゃねえよ。人の内緒話に首突っ込むような恥知らずな育て方をした覚えはないよ俺は」

「だって銀ちゃん……」

「ガキはガキらしく同じガキのトヨタ君と仲良く手紙でも出し合ってろ小鴉丸。今度は髪飾りじゃなくてケーキでも送ってもらえよ」

 それを聞くとボンッという擬音がよく似合うほどはやての顔が真っ赤になる。誰にも話していないはずの自分と文通相手のペンネームを上げられ、さらには1ヶ月ほど早い誕生日プレゼントとして送られて、今も大切に補完している髪飾りの存在をあっさりバラされているのだからしょうがない。

「ひ、人の秘密を探っておいてどの口が言うんや!まったく説得力なんかないわアホ!!」

 両手を握りしめたまま何度もグルグルと振り回すが、銀時は身をよじらせて回避する。完全に攻撃が通らないと察するや、はやてはうーうーと唸りながら両手を膝に戻す。
 結局、どれだけ問い詰めようと適当にはぐらかされて口論になり、自分が言い負かされて有耶無耶にされる。もう何回も繰り返されているやり取りであるが、やはり納得がいくものではない。

「みんなして私のこと子供扱いして……」

 聞こえないようにポツリと呟く。涙が視界を滲むほど溢れ、ポケットに入れていたハンカチで懸命に拭う。
 分かっているつもりだった、銀時と石田医師が自分に内緒で何を話しているかなんて。お登勢もそうだが2人も完全に自分を子供扱いしてバレてないと思っているのだろうが、伊達に万事屋の手綱を何年も握っているわけではない。今の空気から考えれば答えなんて1つしかないではないか。
 特に最近は銀時がコソコソと携帯で石田医師と連絡を取っていて、そのたびにこちらの顔色を伺うような仕草を繰り返す。それだけで話の内容が自分に関係していることなんて明白だ。
 内容は予想できる、自分に話せない理由も分かる。結局はそれを認められない自分に原因があることを再認識してはやては膝においていた鎖付きの本をギュッと握り締め、何かを決意したかのように大きく首を縦に振る。
 銀時達の言う通り、やはり自分はまだ子供だ。いつまでも現実を直視しようとせずに相手から答えを求めてばかり、そんなことでは2人も安心してくれないだろう、まずは自分から素直にならねば。

「なあ銀ちゃん」

「んだよ?」

 さっきまでとは打って変わって楽しげな声色で語りかけてくることに気持ち悪さを感じたが、一応平静を装う銀時。

「私な、新八君も神楽ちゃんも定春も大好きやで。新八君は銀ちゃんのせいで前のバイトクビになって仕方なくウチで働くことになったようなものなのに私達のために一生懸命になってくれるし、神楽ちゃんも銀ちゃんに単車にハネられて見捨てられようとしてたのに万事屋のことを大好きって言ってくれる。定春は万事屋全員集合って雰囲気になってもハブられること多いのにふてくされずに一緒にいてくれる。昔の金丸さん達が居た頃の万事屋も楽しかったけど、私は今の万事屋がすごい好き。みんなが私達の家を居場所って思ってくれるのが、家族って思ってくれるのがすごい嬉しいんや。これって銀ちゃんのおかげやねんで」

 昔、茶屋でバイトをしてた新八の店で銀時は楽しみにしてたパフェをこぼされたという理由で他の客をなぎ倒し、その責任を取らされる形で辞めさせられた新八。ヤクザの構成員として働いてた時に、ジャンプを買おうか悩んでいた銀時の前方不注意でひかれた神楽。ペットであるという都合上、どうしても忘れられてしまうことが多い定春。
 それぞれ銀時のせいで人生の路線を切り替えざるを得なくなった2人と1匹、それがなぜかな、はやてには切り替える前よりもどこか楽しげに見えた。休みなんてないに等しい、仕事はキツイ、給料は払われないことが多い、ご飯は当番制、良い所なんてまずないと断言できるはずの万事屋は、以外にも銀時の存在で上手く回っていた。

「銀ちゃんと万事屋を始める前は私はお登勢さんに申し訳ないっていつも思ってたけど、銀ちゃんのおかげでお登勢さんに甘えっぱなしやった自分から抜け出すことができた。こうして今があるのは銀ちゃんが万事屋を始めてくれたからなんやって」

 銀時は思った。やっぱりこいつは何も理解してない。そもそもお登勢は必要以上に甘えてこないはやてをいつも心配してたし、万事屋を始める理由も自分の存在が大きかったことを分かっていない。誰か1人のおかげで今があるはずがないのに。
 しかしはやては言葉を続ける。自分が本当に言いたいことを言うまで、自分が納得行くまで、銀時は鬱陶しく思いながらも耳を傾ける。

「でもそんな楽しいことも永遠ってわけにもいかへん。新八君はいつか道場を継がなあかん、神楽ちゃんもいつかお父さんの所に帰る日が来るし定春もそれに付いて行くと思う。私も銀ちゃんもいつまでもこのままなわけない、頭では分かってるつもりやったんやけど、ホンマにつもりなだけやった」

 何か口に出したくない言葉がだんだん近づいてくる感覚を覚えながらはやては震えていた。覚悟を決めてもいざそれを実行しようとすると決心が揺らいでしまう。だけどそんなことでは意味がない、どんどんその表情が怪訝になっていく銀時を尻目に大きく呼吸をする。

「でも、そんな私のワガママで今を続けたら銀ちゃんを縛ってしまう、それだけは絶対にイヤや。なのはちゃんやって今日みたいに頑張ってるんやから、今度は私が頑張らなアカン」

「……」

 少しずつ語られるはやての思いに、銀時はなぜか嫌な予感がした。別に少女の思いを否定するわけではないのだが、そもそもはやてが何を思って暴露しているのか全く理解していなかった。

「銀ちゃん、私は万事屋のみんなやなのはちゃん達と同じくらい石田先生のことが大好きや」

「俺ァ嫌いだけどな」

「本当なら嬉しいって思わないとアカンかったのに、怖いって思ってごめん、でももう大丈夫やから! 私にとってむしろすごい幸せなことってやっと気づいたから!」

 手元のスティックを操作して銀時から離れ、その場でターンして正対する。もう今にも爆発しそうなくらい紅潮させている顔で銀時を見ながら、はやてはついにその言葉を口にする。

「わ、私は、先生が、石田さんが幸恵お母さんになっても全然問題ないから! さっちゃんやったら困るけど大好きな先生なら大歓迎やから! 明日から、いやもう今から花束でも指輪でも買って正式にプロポ……」

 ガツンッと硬い拳がはやての頭上に叩きつけられる。あまりにも気持ちいいくらい響くその音に周りの歩行者も思わず振り返るほどだった。

「いたーーい!! 何すんの! 人がせっかく勇気を出したのに!」

「何すんのじゃねえ! いきなりわけ分かんねえことほざいたと思えばなにおぞましいこと言っちゃってんの! 何でよりにもよって俺とあいつが両思いになってんの! ぶっ殺すぞマセガキ!!」

 顔面怒りマークだらけになりながらさらにゲンコツを食らわせる銀時、しかしそれを察知したはやては肌身離さずもっていた鎖付きの本でガード。ちょうど中指の第二関節が鎖の部分とぶつかり、銀時はこの世の物とは思えない叫びをあげながら道を転げまわる。

「何やねん! 人に隠れてコソコソ電話したり今日みたいに2人きりで話しあったりしてまだ認めへんのか甲斐性なし! 私の目なんか気にしてる暇ないやろ!」

「誰がテメエなんぞに気い使うかボケ! 勝手に誤解して舞い上がってんじゃねえ! つうか俺ァ頼まれてもあの女にそういう目は向けねえから、銀さんもうちょっとレベル高い子目指してるから!」

「高望みすんな! ぬ~べ~以上にダメ人間な銀ちゃんがこれを逃したら一生結婚できひんやんか! さっちゃんみたいな人にしか好かれてないくせに!」

「顔も知らねえ文通相手に発情してるテメエにいわれたくねえよ! 髪飾り片手に居間で悶えてたのはどこの誰だ!」

「うわあ~~! 言うな~! こんな所で人の秘密言うな~!」

 もはや人の目なんて気にも止めずに互いに激しい罵り合いを繰り広げる2人だが、周囲の人達は奇異の目で見るのも一瞬、またかと、かぶき町の名物とも言える2人の親子の喧嘩を微笑みながらスルーしていた。





あとがき
 今日の更新で分かったことは、私はストーリーが大して進んでいない時のみ筆が早いということ、全然ダメダメですね、すみません
 今回の万事屋はやてちゃん、略して『よろはや』は特にこれといった考えで書いたわけでなく、単に銀時と石田先生のはやてに対する思い、はやての2人に対する思いを表現しただけでした。問題はそれをしっかりできたかどうか不安です。


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