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No.37930の一覧
[0] 万事屋はやてちゃん(リリカルなのは×銀魂)[ファルコンアイズ](2013/09/16 03:07)
[1] プロローグ 雪の中の誓い[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:23)
[2] 第1話 高町なのは 魔法少女始めます 前編[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:25)
[3] 第2話 高町なのは 魔法少女始めます 中編[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:25)
[4] 第3話 高町なのは 魔法少女始めます 後編[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:27)
[5] 第4話 星光と孔雀姫[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:28)
[6] 第5話 星光と夜王[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:31)
[7] 第6話 星光と醜蜘蛛[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:32)
[8] 第7話 親の心子知らず 子の心親知らず[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:33)
[9] 第8話 目覚める魔導書[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:33)
[10] 第9話 新しい家族[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:34)
[11] 第9.5話 星光と月光[ファルコンアイズ](2013/12/05 20:50)
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[37930] 第4話 星光と孔雀姫
Name: ファルコンアイズ◆49c6ff3b ID:5ab2f191 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/25 00:28
 そこは1年の大半をねずみ色の雲で覆われている星だった。陽の光は滅多に差し込まず、常に冷たい雨が振り続ける。かつては発展していたであろう事を予想させる天上を目指さんばかりに高く建てられた建造物郡も今では朽ち果て、そのすべてが見る影もなく倒壊している。
 そんな廃墟の1つ、四肢と首をバインドによって固定された女の甲高い叫び声が木霊する。余程の痛みが彼女を襲っているのか、それを紛らわすかのように叫び、体を持ち上げようとする。その度に彼女の尋常でない怪力によってヒビの入るバインドを必死に補強する複数の人物達。
 もう3時間は繰り返しているだろうか、絶え間なく行われるこの作業を、1人の男はただ笑いながら傍観していた。瓦礫の一部に腰掛け、手に持つ番傘で絶え間なく降り注ぐ雨を遮りながら。

「もうすぐだ」

 ポツリと男はそう呟いた、瞬間。

「ギィッ!!!!」

 女は体をくの字に曲げてその大きく膨らんだ腹を突き上げる。
 それが合図とばかりに腹から噴水のように流れる血、部屋一面が赤く染め上げられるその様を、しかしその場にいる人物達は特に気する様子はなかった。皆こうなる事など始めから予想していたかのように。
 グチャリと肉を引き裂く音、同時に女の腹から飛び出た一本の腕。ついさっきまで腹の中にいた胎児のものと考えるには異様な長さを持っていた。
 さらにもう一本の腕が腹を突き破る。二本の腕の主は肘を曲げて手頃な場所を掴み、一気に女から這い出る。
 それは赤ん坊というにはあまりに異常だった。見た目は既に4歳ほど成長しているその体躯、眼光には光が宿っており、既に外の世界を鮮明に映していた。だがそれは女の体に4年も眠っていたわけではない。普通の人間と同じく、10ヶ月程度の期間でこの大きさに成長したのだ。

「……イイイ、イキキキ? イイイキキキキキキキキキキキキ~~~!!!」

 まだうまく喋れないのか、胎児は周囲を見渡しながら歪な声を上げる。まるで普通の胎児が外の世界に触れた時に初めて自分で肺呼吸をするかのように。
 出産というには異様過ぎる光景、自分の腹から現れた怪物を見て女と男はこの世の物とは思えない笑みを浮かべる。

「よく生んだ、お前でなければこれの誕生に耐え切れなかっただろう」

 女に近づいた男が興奮しながら言う。

「あぁ、死ぬほどの苦痛だった。だがこれが生まれると考えれば耐えるのもわけなかった」

 絶え間なく流れる汗と血に衰弱しきった女は、しかし邪悪な笑みを絶やす事はなかった。そう、普通とはかけ離れた化物を作ったこの男と女もまた、普通とはかけ離れていた。

「後の事は俺に任せて、お前は安心して死ね」

 もはや数分と生きられない状態となった女に、男は冷たく言い放ち、腹から出てきたその胎児の首根っこを持ち上げ、周りの人物達と共にその場を後にする。

「あぁ、託した。これで私達の願いは成就する。我々を軽んじたすべての愚か者どもに目のものを見せてやれ。それはかつての古代ベルカに存在していた王達に並ぶ、まったく新しい王となるのだからな……!」

 ・
 ・
 ・

 豪華な装飾を施された長く広い廊下を早足で突き進む。忌むべきあの女の下衆な内面を体現したかのようなこの建物に入る行為自体吐き気を催す程の苦痛ではあったが、今回ばかりは拒絶感よりも怒りが彼女を付き動かしていた。
 関係者以外立ち入り禁止と書かれた看板を焔を宿した拳で粉砕して我が物顔で進んでいく。しばらくすると目的の場所にたどり着く、自分の身の丈を遥かに上回る巨大な扉が圧倒的な存在感を放っていた。
 ようやくあの高慢な顔を拝める。扉に手をかけようとした時、さっきまで感じなかった僅かな気配に思わず手を止める。

「何のつもりだ、シュテル」

 背中から掛けられた声に反応して振り向くと、目が痛くなるほど統一された白一色の服装にエルフのように尖った耳が特徴的な男達が5人、辰羅達は殺気を剥き出しにしてシュテルを睨みつける。

「何のつもり? 私は華陀に話があってわざわざ赴いただけですが? それ以外に私がこんな醜悪な場所に来ると思いますか?」

 耐性のない者ならこれだけで戦意喪失してしまいそうなほど憎悪にまみれた物言いに、しかし辰羅達は別段怯える様子はない。相手を忌み嫌い、憎んでいるのはお互い様だからだ。

「そんな話は我らの耳には入っていない、合意のないまま華陀様に謁見する事は許されん」

 腰に掛けた刀に手を掛ける、立ち去らなければこの場で斬り殺すという警告のつもりらしい。
 だがシュテルの表情は変わらない。この程度の修羅場ならとっくの昔に乗り越えている、それよりもまがりなりにも協力関係にある相手に恫喝紛いの行為に及ぶ彼等の愚かさに呆れるばかりだった。

「これは緊急を要する話です。一刻も早く確認をしなければ私達の同盟にも影響を及ぼすものです。貴方達では到底理解できない事は承知していますからこれ以上の問答は無用、早く消えなさい」

 相手を徹底的に見下すような言葉、彼女自身も驚くほど今は感情が高ぶっていた。望んだ闘争ができず、姑息な偵察ばかりの日々、到底仲間とは言えない協力者との連携、手に入れた情報を忌むべき男に提供しなければならない不満、そこに今度は同盟関係にある人物からの裏切り。それらすべてに対する憎悪がこの場で表面化している。

「貴様から亀裂を作るような行為をしておいてよく言う。そもそも貴様等マテリアルと我々は同盟は結んでも互いに必要以上に干渉しない事を忘れたか? だからこそ話し合いは事前告知が前提のはずだ」

 ついに辰羅達は鞘から刀身を晒す。問答が無駄だと思っているのは向こうも同じだったらしい、これが最後通告とばかりに刀の先をシュテルに向ける。
 シュテルは考えた。もう殺すか? 最初に協定を破ったのは向こうだ、雑兵5人の命でそれを帳消しにできるのならあの女も願ったりかなったりだろう。仮に間違ってても結局は雑兵の命、何も惜しむ事はない。
 彼女らしくない短絡的な思考に、しかし当の彼女はまったく気づく様子はない。久しぶりに戦える相手が目の前に現れた事から興奮しているのかもしれない。

「その言葉、そのままそちらにお返しします。とにかく貴方達と話す事なんて欠片も持ち合わせておりません、素直に自分達から私の視界から消えるか、私の槍で炭となり視界から消え失せるか、選んでいただけませんか?」

 真紅の光球、パイロシューターと呼ばれる誘導弾がシュテルの周りに次々と現れる。管理局の基準にしてAAAクラスの魔導師だからこそ成せるおびただしい数の魔力弾に、しかし辰羅達は失笑を禁じ得なかった。

「愚かな女だ、ここを何処だと思っている? ここは我らの居住地、我らの城、我らの巣、我らの縄張り」

「……」

「我らの狩場だぞ?」

 天井、壁、床下、至る所から浴びせられる殺気、ちょっとした広場と言っても差し支えない廊下は白装束の集団で満たされていた。
 だがこの状況を前にしてシュテルは笑う、愚か者はどちらだ? この建物に入った瞬間からサーチャーを発動させていないとでも思っていたのか? 既に自分が辰羅の群れに包囲されていた事なぞ最初から把握していた。
 むしろこれはちょうどいい、単品では脆弱極まりない辰羅も集団になればその真価を発揮する。家族の為に眠らせ続け、いい加減に錆びついた自分の槍と焔の力を磨くにはちょうどいい実験台だ。

「集え、明星。そして焔となれ、行きますよ、ルシフェリオン……」

≪委細承知≫

――そこまでじゃ、双方気を静め、得物を収めよ。貴様等はさっさとその場から離れるがいい――

 凛とした声が脳に木霊する、そしてそれはシュテルだけでなく目の前の辰羅達も感じた。

「……華陀」

 ポツリと声の主の名前を呟く。
 念話、魔法の中でも基礎中の基礎と言っても過言ではない伝達手段、だがこれ程の大人数にタイムラグ無しに一斉送信させる技量もさることながら、適当に教えたはずの魔法を我流で昇華させるとは、腹立たしいが魔法の才能は常人以上にある事をシュテルは認めるしかなかった。

「お言葉ですが華陀様、この小娘は許可無く我々の城に土足で上がり込んだばかりか、今にも牙を剥こうとしているのです。野放しにする事などできません」

 辰羅の1人が言う。

――黙れ、聞いてみればシュテルは早急にわしの耳に入れたいが為にこうやって足を運んだという。それを貴様達が言い掛かりをつけて足止めをしているだけではないか、早く立ち去るがよい――

「しかし我々とマテリアルの会合には必ず事前に報告する取り決めがあります、それを破った此奴をこのまま……」

――三度目はない、シュテルの邪魔をするな――

 僅かに濁った声でそれ以上の反論を封じる。辰羅達もこれ以上の追求は無駄と判断して、全員刀を鞘に収め、その場を後にしようとする。

「……忘れるな、貴様は必ず我々が殺す。せいぜいその時が来るのを怯えて待っているが良い」

 聞こえるように宣言した後、彼等の足下から円形の魔法陣が現れ、瞬きする間もなく一瞬でその姿が消えた。ただ1人残されたシュテルは再び巨大なドアと正対する。

――さて、いらぬ邪魔が入ったがもう大丈夫じゃシュテル、こちらに来るが良い――

 どこか楽しそうな声色で語りかける華陀に不信感が募る。この女は何故自分がここまで足を運んだのか理解できないのだろうか。下手をすればこのまま殺されても文句を言えない立場にあるというのに。
 しばらくの逡巡の後、扉に手を掛ける。これが罠だとしてもそうでないとしても、とにかく動かなければ何も解決しない。
 扉を開けた瞬間に感じたのはむせる程の甘い匂い、毒と勘違いして部屋ごと焼き尽くそうと思ったのも一瞬、その正体に思わず目を見開く。
 無駄に広い空間の中央に配置されたディナーテーブルの上に所狭しと並べられた洋菓子和菓子の数々。ご丁寧に周囲の空間を固定して時間経過による味の劣化も抑えられている。人が教えた結界魔法をよくもまあこんなくだらない事にアレンジできるものだと思わず呆れてしまう。

「よく来たなシュテル、いきなりの謁見には驚いたが歓迎するぞ」

 テーブルを挟んだ先からさっきの声が聞こえる。玉座を模した座具に腰掛けている目にも鮮やかな水色の髪をなびかせ、左手に持った孔雀の羽を模した扇子で口元を隠す女性、表向きはこの海鳴市を支配する四天王の1人、孔雀姫華陀が笑みを浮べてシュテルを見つめている。

「……お久しぶりですね、華陀」

「あぁ、直接会ったのは半年前、お主が目覚めた時が最初で最後だったな、空間モニター越しでは分からなかったが少しでかくなったようじゃ、いやいや童(わらべ)というのは成長が早いのぉ」

 まるで愛娘を愛でる母親のような表情、だがそこには愛情も母性もない、ただ表面だけ取り繕っているのが丸分かりだった。
 それだけでない、この女はいきなりの謁見に驚いたなど臆面もなく言い放ったが、本当に予想できなかったのならこの異常な量の菓子のもてなしは説明できない。明らかに自分がこの場に赴く事を知っている。盗聴か、もしくはこうなる事を初めから理解していたのか。

「まあ積もる話もあるだろうが今はゆっくりくつろげ、お主の為に世界中から美味と謳われる菓子を用意させてきた、確かお主はシュークリームを好んでおったな? 97世界でも有数の菓子生産地である酢胃津星の自慢のシュークリームじゃ、きっと気に入るはずだぞ」

 何でも漢字にすれば良いと思っているのではないだろうか? それを差し引いてもこの女が手を付けた物なぞ餓死しようと食べるつもりはなかった。そもそも彼女にとっては有名なパティシエの作ったシュークリームよりも家族が自分の為に作ってくれたシュークリームの方がほしいのだ。
 チャキッとルシフェリオンを華陀に向けるシュテル。周囲に部下がいないのは確認済み、妨害される心配はないし呼ばれる前に決着を付ける自信が彼女にはあった。

「答えなさい華陀、何故辰羅にテスタロッサを襲わせたのです? いや、何故テスタロッサが地球に降りた事を知っていながらそれを報告しなかったのです? 私達の目的には情報の齟齬があってはならない事は教えたはず、返答次第ではこの場で貴女を焼き尽くします」

 ルシフェリオンの先端に真紅の魔力が集まる、次いでその塊が紅蓮の炎へと変わっていき、ユラリと周囲にかげろうを作っていく。今にも発射されそうな小さな太陽を前に、華陀は小さく笑った。

「はて、何の事やら? わしはお主、いやディアーチェと鳳仙からの要請がない限りは静観に徹すると最初に申したのだが?」

 そんな事をする訳ないという口ぶりにルシフェリオンを握る力が強くなるが、辛うじて堪える。このまま焼き殺すのは容易い、だが雑兵の辰羅達の命と違い、表面上だけとはいえ同盟関係にある組織のリーダーを手に掛ければ後々面倒になる。殺すのは女が狼狽してその醜い本性をさらけ出してからでなければ、そう反すうしてシュテルは大きく息を吸う。

「見苦しいですよ、地雷亜の報告でテスタロッサが辰羅族に襲われた事が分かりました、貴女の差し金である事は明らかです」

「存ぜぬな、そもそも相手が辰羅だからといってわしの手の者と考えるのは早計というもの。辰羅とて一枚岩ではない、わしとは無縁の野良がいても不思議ではないだろう?」

 華陀の嘘に思わず吹き出しそうになる。長いものには巻かれろという言葉を地で行く辰羅が同種族で固められた集団の存在を無視してまで野良で生きる理由が何処にある? 仮にいたとして何故華陀はそれを放置してここでのうのうとしている? 何から何までチグハグすぎて指摘するのも馬鹿らしい

「現状私達以外に誰も知り得ないジュエルシードの落着に気づき、且つ私達の目を掻い潜ってこの地球に潜った野良がたまたま襲ったと? 偶然にしては出来過ぎてますね」

「わし等も万能ではない、この星で幕府の目を欺きながら違法渡航者を見つけ出すは容易ではない。穴があるのも当然じゃ」

「ならば何故今この瞬間にもその野良は見つからないのですか? あれだけの騒ぎを起こし、且つ魔導師のように魔法を使用した妨害行動を取れるとは思えない違法渡航者が未だに捕まらない理由は? 背後に魔導師がいる様子はなかった。ありえるのは最初からこの星に根を張っている者が匿っているから、幕府がするとは思えない、我々はありえない。結局は貴女へと行き着くのです」

「短絡的じゃのお、エクリプスドライバーのように魔法によるサーチャーを無効にする存在が流れている事は理解していよう? 奴等ならお主や幕府から隠れる事も可能じゃ、そしてわしにそのような駒がおるのならお主等と同盟など結ばんよ」

「それこそありえません、何故ならテスタロッサは死んでないからです。仮に野良辰羅達が感染者だったとして、ならば何故テスタロッサを始末できなかったのですか? 魔導殺しの名を持つのなら造作も無いことでしょう?」

 その言葉を聞くと、それまで余裕の表情を見せていた華陀の顔から笑みが消えた。先ほどの絶対者のような余裕がなく、冷徹で残忍な裏の顔でシュテルを睨む。

「……」

 ようやく仮面が剥がれたかと本来の冷たい顔を拝めて満足したシュテルはさらに言葉を続ける。

「華陀、私とてこのような事はしたくありません、貴女の軍団とそれを扱う統率力は後に王の力になります。ここだけの話をするなら私は王と違ってあの男、夜王の事は信用していません、彼はいずれ私達に牙を剥く、それを打倒するにはやはり貴女の力は必要不可欠です。だからこそ貴女の真摯な対応が今問われるのです」

 これに嘘はなかった、この大事な時期に仲間割れなど本意ではないし、華陀の持っている兵士達は魅力的と言える。来るべきあの忌むべき男との戦いを考えるなら是が非でも手元に置いておきたい。ここで華陀が素直に非を認めるのならこの関係を維持しても良い。勿論今後は自分の命令に対して絶対服従するという条件を付随させるが。
 長い沈黙が続く。無言を貫くというのなら少し痛い目にあってもらうかとルシフェリオンに力を込めようとした瞬間。

「シュテル、今回の一連の内容はすべて地雷亜からの情報と言ったな?」

 さっきまでの話とまるで繋がらない事を言い始める華陀。

「それが何か?」

 あまりに不自然なその言動に顔を歪めるシュテル。まさかこの期に及んで話題を変えて誤魔化そうなどと馬鹿げた事をするつもりなのだろうか、いや、話題を変えるにしてもそこでわざわざ地雷亜の名前を出す意味が分からない。言い様のない疑問が次々と思い浮かぶ。

「本当にそれは信用できるのか?」

「……何?」

 ……どうやらこの女は救いようがない馬鹿だったらしい。身の潔白を証明する為にくだらない妄想でお茶を濁そうとするとは、少し過大評価しすぎたようだと心の中で軽蔑する。

「今でこそ奴はお主の部下となっているがあれは元々鳳仙の手駒、奴がわしとお主の関係を崩す為にありもしない話をでっち上げたという可能性があるのではないかぇ?」

「面白いですね、貴女と私の関係が周りから崩したくなるほど深い信頼関係で結ばれていたとは思いもよりませんでした。まともな会話さえ殆どした事ないのに?」

「話をはぐらかすでない、今はお主があの男を信頼しているかどうかを聞いておるのじゃ」

「貴女に言われたくありません。少なくともこのような状態になる貴女よりはあの男を信用していますよ」

 一瞬、相対的にとはいえあの男の事を信じる旨を口にした事をおぞましく思ったが、華陀はそんなシュテルの考えなど歯牙にも掛けずにさらに言葉を投げかける。

「それは鳳仙の目的を理解した上で言っているのか?」

「……」

「奴の目的はこの世界にある力をを手に入れて自分以外のすべてをひれ伏させる事じゃ、求める物の違いこそあれどそれはディアーチェも変わらんはず。先ほどお主が言ったように相反する理由がある以上いずれお主等は鳳仙と敵対しよう」

「その通りです」

「対してわしはディアーチェが作り上げた世界で手に入る地位が目的、それはこうやって待つだけで手に入る代物、なのに自分からその地位を投げ捨て、必要以上に貴様等を挑発するような事を何故せねばならん? 絶対的な力? わしがそのようなものに興味はないのは知っておろう? それともディアーチェを裏切って鳳仙に与するか? それでは未だに奴が影で操っている地雷亜が自分達にとって不利になるような事を報告するのはおかしかろう。目的と行動が一致せん」

 そんな馬鹿なと嘲笑する、華陀の言葉は一見正当性があるように聞こえるが、結局は話の矛先を自分から別のものへと変えているに過ぎない。大体それは地雷亜の言葉が嘘であるという事が前提でなければ辻褄が合わない。仮定を前提にした話などに誰が騙されるというのだ、結局この話はすべて華陀が必死に自分の正当性を誇示したいがための詭弁だ、その筈だ。

「……」

 だというのに、シュテルはそれを絶対と言い切れなかった。
 確かに自分は華陀よりかは地雷亜の事は信用している。特に優れた偵察能力はその分野において一流の魔導師にも匹敵し、戦闘能力も決して低くはない。
 だが、とシュテルは思う、その信用はあくまでも華陀と比較してのものに過ぎない、さらにその信用も結局は能力であり、それを扱う本人にではない。もしもあの男がそれを利用して自分と華陀の両方を潰す事が目的だったとしたら? そしてそうする事によって一番得をするのは誰か?

「シュテルよ、状況的に見てわしが疑われるのは致し方ないにしても連中の言葉を鵜呑みにするのは危険ではないか? 奴等は今はマテリアルに従属しておるがそれは形だけのもの。実際はディアーチェのいない中で鳳仙とお主が対立しているのは知っているぞ、その状況下でわしとお主までもが対立し、連中は被害を被らないというのは話が出来過ぎている。そしてテスタロッサに関係する話もすべて地雷亜からもたらされたもの、地球に到着したという話だけなら信じるに足るが、辰羅に襲われたなどと言うのは本当かどうか」

「……」

 騙されるな、結局華陀は自分が無実であるという証明を全くできていない。本当に無実であるのなら話をすげ替える必要はないはずだ。そもそも目的が王の作り上げた世界での地位と言うのなら何故感染者を手駒にしていたら同盟を結ばなかったなどと言えるのだ? 都合の良い事を言っているのは華陀だ。
 だがシュテルはその言葉を口にできなかった、心のどこかで華陀の言葉に納得しているせいだった。自分は地雷亜から情報を聞いた時、それに嘘が混じっていたかを吟味してたかどうか、あの時に険しい表情をした自分を笑った地雷亜に何の疑問も抱かなかったのか、あれはまんまと騙された自分への嘲笑ではないのか。
 そんな困惑した表情を見て満足したのか、華陀は再び笑みを浮かべ、余裕の表情を作り上げる。不愉快を通り越して憎悪してしまうのを感じながらも、シュテルはそれを見て不思議と落ち着きを取り戻した。

(良いでしょう、今は貴女の口車に乗ってあげます)

 ルシフェリオンの先端で生成されていた炎が消える。そしてそのまま華陀に背を向け、自分がきた道を戻るシュテル。

「貴女の言い分は理解しました。未だに疑問は晴れませんがマテリアルに獅子身中の虫が潜んでいる事も事実。そして私がどちらも信用していない以上、下手に動いて一方が得をするというのも面白くないないので今回の件は保留とします。命拾いしましたね華陀」

「あぁ、信用されていないのは癇に障るが、お主が奴等の言葉を盲信していないと分かっただけでも安心できる。わしもお主と同じく鳳仙は好かんのじゃ」

「元は春雨の師団長同士というのにおかしな話ですね、貴女と鳳仙は大戦時代からの同期だというのに」

「同期だからこそ気に入らない部分が見えるものじゃ、奴のせいで傭兵三大部族の夜兎と荼吉尼は絶滅の危機に瀕した上、大戦でわしが得る予定だった富も名声も権力もすべて鳳仙によって台無しにされた。お主の存在がなかったらわしが奴と殺しあう事となったであろう」

 なるほど、仮にそれが本当だとしたら自分が華陀の自殺を未然に防いだ事になるなとシュテルは思いながら再び巨大な扉の前に立ち、ゆっくりと開ける。そして。

「……華陀」

「何じゃ?」

「今の所は貴女の戯言を信じましょう。少なくとも夜王を快く思わないという点では私達は似たもの同士ですから、だが私がこの場所に来た時に貴女はそれを謁見と言いましたがそれは間違いです。私は貴女を立場的に上と思った事はありません、私の上に立つのは王だけです、それだけは今後間違えないように」

 冷たい視線で華陀を凝視するのも一瞬、口元だけで笑みを作ってその場を後にした。そのまま長い廊下を歩き、最後に今日の起こった出来事を思い返す。

(これが吉と出るか凶と出るか、どちらにしてもこの事は夜王に報告はしなくても良いでしょう)

 ・
 ・
 ・

「う~ん……」

 知らない天上だ。正確には知っているのだがこうやって凝視した事がないから妙に新鮮な気持ちになっただけなのだがと、なのははよく分からない事を考えた。
 体を起こして周囲を見渡す。立て掛けられた時計は午前7時を指していた。
 フスマに畳、どれも自分の家では見慣れない物ばかり、その中で自分が横になっていた巨大なベッドが異彩を放っていた。自分が着ていた服は枕元に綺麗に畳まれている、じゃあ自分が今着ているものは? おもむろに確認すると明らかに自分の背丈に合っておらずブカブカになっているピンクのパジャマ、少し酢昆布臭い。
 胸元がはだけているのが恥ずかしくなってパジャマを弄っていると、ガラリとフスマの開く音がなのはの耳に入る。少し驚いて視線を音に彷徨に向けると、氷水とタオルを入れたプラスチックのさわらを手に持っている車椅子の少女、八神はやての姿が映った。

「はやてちゃん?」

 声をかけるとはやてはありえないものを見たような表情になるが、すぐに正気に戻ると今度は目に涙を溜め、車椅子をベッドに近づけてなのはに抱き着く。この時でもさわらを零さずにきちんと近くに置いとく辺り妙に丁寧だ。 

「良かった、あのままずっと起きひんとと思ってたから、ほんまに心配してたんやからな……」

 あぁ、そういえばこれで二度目だなと、なのはは昨日自分の身に起こった事を思い出した。フェレットのユーノの事、黒い怪物の事、そして自分の中に眠っていたらしい魔法の事。
 誕生日とクリスマスとお正月が同時に来たような騒動だったなとまるで他人事のように考えていた。

「ごめんね、もう心配ないから。それよりもここって神楽ちゃんの家?」

「……うん、あの後なのはちゃん眠っちゃって、なのはちゃんのお母さん達にどう事情を説明すれば良いか分からんかったからとりあえずフェレット連れて万事屋に泊まるって銀ちゃんが話してくれたんや」

 微妙に拗ねたような表情になるはやてに一瞬困惑したが、はやてはそんななのはを気にする事なくおもむろに自分のポケットに手を突っ込み、それをなのはに渡す。

「壊れたままやと怪しまれるって新八君が源外さんの所まで持って行ってくれたんや、アンテナから醤油出るようになってもうたけどここのスイッチ押すと出なくなるからあんまり気にしんといて」

 何て無駄な機能だと顔を引きつりながらなのはは思ったが、わざわざ修理してくれた事には感謝しなくてはならない。後でお礼をちゃんと言おうと考えながら携帯を自分の服の上に置く。

「そういえば神楽ちゃんは?」

「あの子は定春を散歩に連れてってるよ、昨日あれだけ怪我したんやから動いたあかんって言ったのに『私の日課を邪魔する奴はお前でも容赦しないネ!!』って言って勝手に出て行きおった、体中痛い痛いって言いながらな。普段はサボるクセに変な所で意地を張るんやから」

「あはは、神楽ちゃんらしいね」

「ほんまや、後そのパジャマなんやけど、ほんまは私の着せる予定やったんやけど全部洗濯に出してしもうてな、流石に銀ちゃんの寝間着はあれやと思って神楽ちゃんのを着せたんやけどどない?」

 どおりでブカブカで変に酢昆布臭いと思ったらそう言う事か。勝手に納得してなのははパジャマを見る。

「……えへへぇ」

 さっきまで恥ずかしい所がはだけてしまってさっさと着替えてしまおうかという考えが自然と消え、無意識に顔がにやける。何となくこれを着ていると昨日感じたぬくもりを思い出せたからだ。

「むぅ~、なのはちゃんさっきまでそのパジャマ邪魔そうにしてたのに神楽ちゃんのって分かった瞬間すっごい嬉しそうな顔になってるよ?」

「ふぇ!? そ、そんな事ないよ!」

「なってた! あ~あぁ、なのはちゃんも神楽ちゃんも相手の事になると私の存在完璧に忘れてるよなぁ、昨日も神楽ちゃんは何かあればなのはなのは、なのはちゃんは神楽ちゃん神楽ちゃん。お互い昨日は相手の名前何回言ってたんやろ? もう私なんていてもいなくても変わらないんやろなぁ、よよよぉ~」

「違う違う! そんな事絶対にないもん!!」

 濡らしたタオルを片手に嘘泣きを演じるはやてになのはは熟しきったトマトのように顔を赤く染めて抗議する。むしろ必死になればなるほど墓穴を掘って逆効果になるのだが、それに気づく様子はない。

「それを言うならはやてちゃんなんかいっつも銀さんの話をしてるもん! この前だってうちのケーキ食べ過ぎて病院行った話とかしてる時すっごい嬉しそうにしてたもん! それ以外にも銀さんの話になると決まっていつもよりはしゃいじゃうじゃん! それってドラマで言うなら片思いって言うんだよ!」

 片思いの言葉の意味を理解して言っているのか疑問符が出る使い方をするなのは。少なくとも親子の間に使う使う言葉ではないので慌てる必要は全くないのだが、はやては話の矛先が自分に向けられて焦っているのか、そこに突っ込む事はなく、なのはと同じように顔を真っ赤に染めるだけだった。

「……な、な、何を言ってるん!? あれはほんまはめっちゃ恥ずかしかったけどなのはちゃん達が笑い話にしてたから合わせてただけやもん! そもそも別に私ははしゃいでるんやなくてウチの家族は色んな意味で面白いから話題にしやすいってだけやし!」

「違います~! 神楽ちゃんや新八さんの時はそうでもないのに銀さんの時だけ反応が微妙に変わってます~!」

「それは神楽ちゃんの話するなのはちゃんの方やんか! 私は関係ないもん!!」

「だから私は別に神楽ちゃんに限った事じゃないもん!!」

「い~や、神楽ちゃんの時だけなってます!」

「なってませんなってません!」

「なってる!!」

「なってない!!」

 9歳の微笑ましい美少女同士の口喧嘩が万事屋の居間で響き渡る。これを分別を弁えた普通の大人が見れば背中がむず痒くなりながらも思わず顔を綻ばせるような光景なのだろうが。

「ウルセェェェ!! 静かに寝かせろクズガキ共がァァ!!!」

 目に優しい、というかオッサン臭い緑色の寝間着に身を包んだダメ人間、坂田銀時からすれば鳥のさえずりにも劣る鬱陶しい雑音にしか聞こえなかったようだ。





あとがき
 今回対して話が進んだわけでもないのに一万文字オーバーになってました。私としては文字数を半分に抑えられなかったのが心残りです。

今回の万事屋はやてちゃん、略して『よろはや』では可愛いなのはとはやてをとにかく描きまくるという事を心がけました。前半が何か変に重い話になってしまいましたので、せめて彼女達の周りは微笑ましいものにしたいという思いからです。
やはりはやては可愛い


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