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No.37930の一覧
[0] 万事屋はやてちゃん(リリカルなのは×銀魂)[ファルコンアイズ](2013/09/16 03:07)
[1] プロローグ 雪の中の誓い[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:23)
[2] 第1話 高町なのは 魔法少女始めます 前編[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:25)
[3] 第2話 高町なのは 魔法少女始めます 中編[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:25)
[4] 第3話 高町なのは 魔法少女始めます 後編[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:27)
[5] 第4話 星光と孔雀姫[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:28)
[6] 第5話 星光と夜王[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:31)
[7] 第6話 星光と醜蜘蛛[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:32)
[8] 第7話 親の心子知らず 子の心親知らず[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:33)
[9] 第8話 目覚める魔導書[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:33)
[10] 第9話 新しい家族[ファルコンアイズ](2013/06/25 00:34)
[11] 第9.5話 星光と月光[ファルコンアイズ](2013/12/05 20:50)
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[37930] 第9話 新しい家族
Name: ファルコンアイズ◆49c6ff3b ID:5ab2f191 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/25 00:34
 透明なカプセルが所狭しと並んでいる広い部屋に1人の少年が寝ていた。カプセルの中は黄色い液体で満たされており、その中心に何かの胎児のような白い物体が浮かんでいる。
 精密機器の1つが鈍い音を出す。規則正しいその音に少年は目を開ける。あぁ、そういえば実験中に寝ていたんだ。覚醒した頭でそう考えると座り込んでいた体を起こして目の前のパネルを操作する。常人には理解できない文字の羅列が並んでいる画面を何度もスクロールする。

「あはは。そうか、遂に目覚めたんだな」

 画面の1画に表示された画像。茶色い表紙の中央に金十字の装飾が施された分厚い本が映し出されている。
 闇の書。少なくともこの世界ではまだそう呼ばれている悪魔の魔導書がようやく覚醒した。どういうわけか本来よりも早く目覚めているが、少年はそれを声に出して笑った。この早すぎる起動は彼が忌み嫌う人物にとって決して歓迎されない自体だったからだ。

「……でもどうするかな。まだこっちから動くには戦力が足りない。未だにゆりかごは使いものにならないし、代替品も間に合っていない」

 しかしその笑いもすぐに失せ、手に持つ白い杖を握る力を強める。確かにこの早すぎる起動はあのいけ好かない王達の顔が蒼白になるほどの大事件だ。
 だがそれはこちらにとっても同様だ。あのいけ好かない連中と違って本来辿るべき歴史を気にする必要がないとはいえ、それでも自分達にとってまったく無害とは言い切れない。もしもこれを察知して管理局が早く対応したら、もしもそれで連中の正体がバレて自分の存在まで露見したら。
 この世界が辿るべき歴史に拘る必要はない。しかし最終的に自分の目的を達成させるなら必要な妨害とそうでない妨害の取捨選択は不可欠だ。

「まあ良い。それは金時が全部やってくれるだろう、なら僕はギリギリまで準備に勤しませてもらうさ」

 状況を見極め、ここぞという時に動いて漁夫の利を得る。忌み嫌っている連中と同じ結論にたどり着いていることに、当の少年はまったく気づかなかった。

 ・
 ・
 ・

「お目覚め下さい。我が主」

 優しくて、それでいて儚い声が頭の中から聞こえる。耳心地の良いその声にはやては目を開けると、真っ暗で何もない空間が一面に広がり、その中心で片膝を付いている銀髪の女性が目についた。

「初めまして、いえ、お久しぶりでございます」

 女性ははやての存在を確認すると顔を綻ばせ、柔らかい笑みを浮かべた。すごく綺麗な人だと分かっていたが、その笑みが彼女の美しさを際立たしており、同性の自分でさえ思わず見とれてしまう。

「……えっと、あなたは?」

「私はあなたが幼き頃より大切にされていたこの本。夜天の魔導書の管制融合騎にございます」

 女性の差し出した本を手に取る、革表紙に金十字の装飾が施されたその本、間違いなくそれは自分が持っているあの本だ。

「管制、融合騎?」

「本そのものだと考えていただいて結構です。そしてあなた達と過ごした日々は夢として記憶しております。もちろんあなたの大事な家族であり、何かあれば私を酷く扱っていたあの銀髪の男、銀時のこともしっかりと覚えています」

 微笑みかける女性からにじみ出てくる怒気を感じて乾いた笑いをする。確かに銀時は昔から自分へのイジメと言ってはよく本にひどいことをしていた。その本そのものである彼女からしてみれば内心怒りマークで一杯なんだろうなと軽く同情する。

「それやと他の人のことも?」

「はい。いつも私を本棚に入れてくれたり、間違えてゴミ回収者に渡してしまった新八も、中身を見たいがためにその豪腕で鎖を引きちぎろうとした神楽も、オモチャと勘違いしてよく噛んでいた定春も、あなたとともに過ごしている家族の中で私が知らない者はいません」

「……何やごめんな、ウチの家族が一杯迷惑掛けたみたいで」

 シュンと下を向いて人差し指で本をなぞるように触る。冗談のつもりで言ったことが想像以上にはやてを傷つけたと勘違いした女性は慌ててしまう。

「気にしないでください。意味が違うとはいえずさんに扱われるのは慣れていますので。それにたとえそのような仕打ちを受けてもあなた達と過ごした日々はとても楽しかった」

 その言葉に暗くなっていた顔が明るくなり、いつもと変わらない笑顔を向ける。人の言葉に笑ったり泣いたり、感情表現が豊かなお方だと女性は思った。

「あれ、でもおかしいな。確かこれって鎖が絡まってたはずやけど」

 はやてようやく自分の知っている本と微妙な差異に気づいた本来なら本としての役割を奪っていた鎖がなくなっていることは喜ぶべきなのだが、物心ついた頃からセットで存在していたものがいきなりなくなっては戸惑わずに入られなかった。首を傾げながら女性に問いかけてみる。

「鎖はあなたが魔導書の主として真に覚醒なさるまで外敵からその存在を隠すための枷です。本来なら覚醒の時はまだ先の話だったのですが、銀時が何を思ったのか無理やり外そうとしてしまって、結果的に今回の誤作動を起こしてしまって……」

「えぇ!? もう銀ちゃんのやつ~、あれだけこの本に変なことしんといてって言ったのに~!!」

 恐らく自分が台所で作業をしている時にあの鎖を外そうとしたのだろうと、大阪に住んでいた頃から隙を見せれば勝手に本の中身を見ようとしていた銀時の単純な行動に怒りを露わにする。
 だが本人はこれでもかと憤怒しているように見せても、傍から見るとプンプンという擬音がよく似合う怒り方をしていて、それがとてもかわいらしくて女性は声を上げて笑ってしまう。

「しかしご安心を、想定外ではありましたけど4人の守護騎士達は正常に機能しております」

「守護騎士?」

「夜天の書とその主を護る剣と盾でございます。彼らはその力と知恵を持って主に尽くしてくれるでしょう。あなたの思うままにお使いください」

 女性は人差し指ではやてのおでこにコツンと触れる。何をしているのだろうと思ったのも一瞬、頭の中に流れる見知らぬ4人の姿が映し込まれていき、彼らが誰で、どういう存在なのか、それが記憶されていく。

「ここはあなたの夢を介したまどろみ。目を覚まされればここで話されたことの殆どを忘れてしまわれますけど、こうすることで彼らのことを信じてくだされば幸いです。」

「彼らって、ちょっと待って、あなたは?」

「私は本来なら主に出会うべきでない存在。ここ以外で私は存在してはならないのです。ですから……」

 女性が言いかけた言葉を呑み込む。何事だろうと思ったはやては自分の体が白く光り、少しずつ上へと上っていっていることを理解した。

「え? えぇ!?」

「お目覚めの時がきました。僅かばかりですが、こうやってあなたとお話しすることができて嬉しかった。もう悔いはありません」

 まるで風船のようにのぼる自分の両手を握り、さっきまでとは打って変わって悲しい表情で見つめる女性の顔にはやては確信した。

「……あかん、あなたも来て!」

 ああ、この人は嫌がってる。本当は同じように現実に出たくて、一緒にいたい気持ちで一杯なのにそれができなくて我慢している。握られる両手の力を込めて、ここにいてほしい、自分も一緒に連れて行ってほしいと子供のようなわがままを心で言っているんだ。

「最後にお願いします。あなたの思うままにお使いくださいなどと言いましたけど、あの4人の騎士達は今まで辛く、悲しい戦いばかりを強いられてきました。だからせめて最後の夜天の主であろうあなたの手で幸せにしてあげてください」

「うん! 約束する! 絶対にする! でもそれはあなたも一緒や! みんな一緒やなきゃ意味がない! だからお別れなんて絶対に駄目や!!」

「特に紅の鉄騎には優しくしてあげてください。幼いあの子にはいつも辛い思いをさせてしまった、だから最初はあなたの家族に反発してしまうかもしれません。恐らく神楽と喧嘩してしまうでしょう、いつまでも傍にいてあげてください。そして……」

「分かってる! もう会った瞬間いきなり殴り合ってしまう光景が普通に想像できるのが怖いくらい思いついてしまう。でもそう思うのならあなたも一緒に止めるべきや! 私だけやと多分無理や!」

 離すまいとしていた手が滑り出し、女性を置いて上へ上へとあがってしまう。何度も降りようとしてもそれに抗えない。体をバタつかせようとしても夢の中だというのに変わらず動かない足を憎々しく思いながらはやては女性を見る。

「そして何より、あなたに祝福の風が在らんことを……」

 ・
 ・
 ・

「……あれ?」

 目を開けると見慣れた天井が映った。掛け布団を押しのけて上体を上げると、いつも自分が使うベッドの上だと理解したが、時計を見ると短針はまだ8の字に指しかかろうとしている所、寝るには早すぎる。
 そもそも銀時への復讐のために彼の皿にだけ自己流で配合した激辛スパイスを入れたカレーを入れようとしていたところだったはずだ。なのになぜベッドで寝ていたのか。ボケた頭で延々とはやては考えたが、自分に掛けられた声に反応してそれは止められた。

「やっと起きたか。ほんとに世話の焼ける奴だよ」

「主、ご無事でしょうか?」

 しゃがれた老婆声と凛々しい声のした方へと振り向くとタバコを吹かしている老婆、お登勢がにやけた顔を作りながら見ていた。その後ろにはせんべいをボリボリ頬張っている銀時、その銀時の隣で壁を背にしているピンク色の髪をした女性と、ボディービルダーと思ってしまうほど逞しい体つきをした男性がいた。

「お登勢さん、何でここに?」

「騒がしかったから文句言ってやろうと来てみたらいきなりアンタが車椅子の下敷きになってたんだよ。まあ大したことなさそうだったからここに寝かしつけるだけにしたんだけど」

 それよりもと、お登勢は目線を女性と男性に合わせる。2人はそれに気づいて姿勢を改め、目をはやてからお登勢に合わせる。

「こいつら知り合いかい? 銀時によるといきなり冷蔵庫の中から出てきてアンタを主だなんだと言ってたそうだけど」

「主?」

 そんなものになった記憶はない。だというのにそう言われたのは初めてではないと、はやては頭を抱えて記憶を探ってみるが、肝心なところが霧が掛かっているかのようにぼやけて思い出せなかった。

「だから言っただろ、こいつら新手の詐欺師だって。適当な奴の従者の振りして銀行から金を巻き上げるあるじあるじ詐欺ってやつ?」

「待ってください、先程も申しましたように我々は主の父君方を謀るようなことはしておりません」

 銀時のよく分からない言葉に眉を吊り上げながらも柔らかい口調で反論する女性。だが一度こうだと決め付けた銀時の言葉がそれで止むことはない。最後のせんべいの一欠けらを女性達に向け、それ以上の言葉を封じる。

「ひとんちの冷蔵庫から出てくる野郎が言ったって説得力ねえよ。どこのSDガンダム? 詐欺師じゃなかったら腹空かした泥棒さんですかコノヤロー」

 そもそも万事屋の冷蔵庫に4人もの人間が入るスペースなんかない。だが状況的にそれがもっともしっくりくるらしい銀時はそのまま追及するが、女性の相方らしい男性がそれに待ったを掛ける。

「父君様。恐らく闇の書が外部から攻撃を受けたことで我々の出現座標をそこに移したのでしょう」

 闇の書? はやてはその言葉に言い様のない違和感を覚えた。単語を聞いたのも初めて、現物さえ多分見たことない。だがその闇の書と呼ばれているそれは、間違ってもそんな名前ではない。そんな気がした。

「闇の書って何? 新しい魔法カードか何か?」

「父君様が机に置いてある本のことです。闇の書とは代々選ばれた主に偉大な力を与える魔導書。そして我々は闇の書によって生み出された主を護るための守護騎士システム、ヴォルケンリッターです」

 男性の目配せする方向には、せんべいのカスが付着しているさっきまで鎖の巻きついていた本がある。どうやら銀時が肘掛に使っていたらしい。

「あぁ!? 銀ちゃんおせんべいの食べカスは気いつけてって言うたやないか! 本がべとべとになっとるやんか~!」

 無残な姿になっている本を目の前にはやてはボケていた頭が一気に覚醒し、怒りの矛先を銀時に向けるが、当の銀時はまったく気にする素振りを見せず、めんどくさそうに本に付着したせんべいのカス払ってはやてに放り投げる。ギュッと胸の中で抱えて猛獣のうなり声を真似ているつもりらしい情けない声を上げながら敵対心を露にする。

「月の書でも太陽の書でも良いけどよお、仮にテメエらがその守護月天のマキリ・ゾォルケンリッターだとして、何ではやてを主に選んだのか気になるんだがねえ。つうか肝心の主様に知らせずにいきなり出てくるか普通?」

「父君、闇の書です。そして守護月天ではなく守護騎士でヴォルケンリッターです」

 どこぞの手段と目的が入れ替わってしまったロシアの魔術師の名前――と言ってもこの場にいる5人はそんなことまったく知らないが――を言われて訂正する女性。既に似たようなやり取りを何度も繰り返していたのか、女性はうんざりしながら言葉を続ける。

「闇の書は優れた資質を持たれるお方をランダムで選出し、そのお方が生誕されると同時に姿を表します。故に主はやてが知らないのも無理はありません。そして選ばれた理由は歴代の主達同様その優れた資質が所以かと」

 それを聞いた銀時とお登勢は一度見合わせ、同時にはやてを見る。女性と男性もそれに釣られるように視線を向ける。一度に4人もの人間が無言で見つめてくるのが嬉しいやら恥ずかしいやら、はやては照れながら笑う。

「……も、もう。そんな真剣な眼差しで見んといてやみんな、ちょっと恥ずかしいやんか」

「よし、テメエらの勘違いだ。このアホにそんな才能があるとは思えねえ。見つめられただけでアイドル気分になってるような奴だぞ?」

「誰がアホや誰が~ッ!!」

 有頂天になって恥ずかしいと思ってしまってギャーギャーと銀時に喚くはやてだが、これ以上話が逸れてしまってはキリがないと察したお登勢はそのまま話を続けた。

「その資質があるかないかは置いとくとして、結局アンタ達はあの子の従者になって何をするつもりなんだい?」

「望むのであれば闇の書に魔力を蒐集させ、主はやてに覚醒した闇の書の偉大な力を与えることができます」

 女性の言葉にお登勢は眉を潜ませた。既に本と主を護るためにいかにもやばそうな4人の騎士が冷蔵庫から現れたというだけで非常識だというのに、その上でさらにとんでもない力を得る方法があると聞いては怪しむのも無理はない。

「……どうやるんだいそんなもの?」

「魔法を扱う者、もしくは魔力を持つ者は体内に魔力を生成するリンカーコアと呼ばれる器官を持っています。それを闇の書に与え、空欄になっている666のページをすべて埋めることで闇の書は完成します」

「器官っていうくらいなんだから内臓みたいなものだろ? そいつを盗られた魔導師はどうなる?」

「うまく蒐集できれば数日で回復しますが、誤れば大きな後遺症を残すか、最悪の場合……」

 いつの間にか話に耳を傾けているはやての顔を見て女性は黙りこむ。それの意味する所を理解したお登勢と銀時は元から険しかった表情をさらに強張らせる。

「ようは大魔王の力を手に入れるために魔法使いを襲いまくれってことか」

「……端的に言えばそうなります」

「勘弁してくれよ。テメエらの前の主様はどうだったか知らねえがな、こちとら貧しくても慎ましく暮らしてる善良な市民だよ、そんなラスボスがやりそうな外道行為なんぞに手を染めちまったら即警察行きだっつうの」

 嫌味と僅かな怒りを含んだ言葉をぶつける銀時に、女性と男性は反論もせずに受け入れている。
 今回選ばれた主とその家族が歴代の主達とは色々な意味で違っていたからこれらの話もする必要はなかったのだが、それでも闇の書に選ばれた者の特権としてそれらの力を知る権利があり、彼女達には知らせる義務があった。だがその力を望まない彼らにしてみればまさに余計なお世話だった。

「もちろん、主が望まないのであれば我々もそれに従うまでです」

「従うつったってどうすんだよ? テメエらみたいなおっかねえ連中が四六時中付きまとってたらそれこそ危険だわ。それにこちとら食べ盛りのガキと犬養ってるからこれ以上坂田家のエンゲル係数上げるような真似はできねえんだぞ」

「その必要はありません。父君が出て行けと仰るのなら今すぐにでも立ち去ります。しかしお側にいられなくても我らの使命は変わりません」

「たとえ闇の書を求めていなくとも、我々はこの命尽きるまで主はやてに……」

「そんなんあかんよ、シグナム。ザフィーラ」

 突然、名乗っていないはずの名前を呼ばれたことにシグナムとザフィーラ、そして銀時達は驚愕して声の主であるはやてを見る。

「主はやて」

「確かに私は闇の書の力なんていらんよ? それはいろんな人にご迷惑を掛けてしまうことって分かってるから。それでも私はこの本の持ち主で、あなた達の主っていうのになってるんなら、私にはあなた達の衣食住をきちんと面倒見る義務が発生してる。住むあてがあるならともかく、準備も何もせずに出て行くなんて真似は絶対に許さへんよ」

 普段と変わらないぽややんとした声色。しかしそこには幼い少女らしからぬ揺るぎない想いが宿っている。
 本人もなぜこんなことを言っているのかは理解していない。そもそも初対面であるはずの守護騎士に対してこの物言いは失礼とさえ感じてさえいた。だが彼らが銀時に責められているのを見た時、知らないはずの名前が頭の中から浮かび上がり、同時に彼らと離れてはいけないと感じてしまった。妄想とも言える思い込みは、しかし絶対だと確信できていた。

「しかし我らの存在は父君様の仰るようにこの世界では歓迎されません。あなた達のご迷惑を掛けるのは我々の望むことではありません」

「それなら歓迎されるようにしっかりこの世界の勉強をしていったらええ。銀ちゃんの言葉なんて大体は自分がめんどくさいからもっともらしいこと言ってるだけやから何も気にすることあらへん」

「おーい、一応テメエのためを思って言ってやったのに何ムカつくこと言っちゃってんのはやてちゃ~ん?」

「そもそも従者やのに主と距離を取るなんて変や。そんなんで私を護るなんておかしな話やで」

 もっともな話を聞かされてザフィーラは黙りこむ。確かに主従関係にある者たちが離れ離れになった状態で護るだの付き従うだのというのは妙な話だ。
 しかし本来は主をあらゆる面でサポートするのが彼ら守護騎士の使命。なのに召喚されて早々その主に自分達が助けられるなんて笑い話にさえならない。何とか理由をつけて説得しようと顔をしかめようとするが。

「・・・・・・それとも迷惑やった? こんな小娘なんかが主で。面倒見るなんて生意気言って怒ってる? 余計なお世話やから私から離れたい? 鬱陶しいから一緒にいたくない?」

 それを察したはやては顔を俯き、声のトーンを幾分か落としながら口にする。闇の書を持つ両手を震わせ、何度も鼻をすすって涙を堪えようとしている。

「待ってください! 決してそのようなことはありえません。むしろ我々のような臣下を気遣うお心に感激しております」

 単に迷惑を掛けたくないから離れようとしただけだというのに、いつの間にか主そのものを避けるのが目的のような言い方をされて思わず声を荒げて否定するシグナム。

「ほんま?」

「私もシグナムも、そしてこの場にはいない2人の騎士も心は同じです。主が望まれるのなら常に行動を共にしましょう」

 ザフィーラの言葉に銀時とお登勢は頭に手を置いてうなだれる。同時にさっきまで震えていたはやての体がピタリと止み。満面の笑みで顔を上げる。

「決まりやな。今日から4人は私の騎士であると同時に新しい家族や」

 あまりの豹変振りからようやく自分達が騙されたことに気づいたシグナム達。しかし今更前言撤回なんてできる空気ではなく、己の考えの至らなさをただ後悔するだけだった。
 その2人をよそに、はやては呆れ顔のお登勢に顔を合わせ、さっきまでとは打って変わって悲しげな顔になる。

「ごめんなさいお登勢さん、勝手に話を進めてしまって。でも私はどうしてもこの子達と離れたくないんです。家賃も必ず人数分払いますし、滞納もこれからはなるべくしないように努力します。せやから一緒に住まわせてください」

「……ったく犬猫を飼うのとはわけが違うんだよ」

 さっきのような相手を騙すような雰囲気は感じられない。自分の本音をすべてさらけ出しているその表情に、お登勢は嫌味を言いながらもタバコを口から離し、肺の中の煙をすべて吐き出す。外に放り出された副流煙が天井にぶつかり、大きく膨らんでいく。

「少なくとも今の倍の家賃になるのは覚悟しな。それで納得できないのなら内臓でも何でも売って金稼いできな」

 はにかんだ笑顔を向けられ、パッとはやては明るくなる。思わず自分のベッドにまで近づいたその両足を抱きしめ、「やっぱりお登勢さんも大好き!」と恥ずかしげもなく言ってのける姿が微笑ましく、お登勢はやれやれとため息をつく。

「・・・・・・父君、申し訳ありません。あなたに背く形になってしまって」

「過失は主ではなく主の計略に気づけなかった我らの責任。叱るのならばどうか我々だけでお願いします」

 銀時の方へ向き、片膝を突いて頭を垂れる2人。別段さっきのやりとりに彼女達を責める理由はないのだが、主を想ってのその行動に銀時は心底めんどくさそうに頭を掻き、そのまま背中を向けて話しかける。

「別にどうこうするつもりはねえよ。そもそもさっきのテメエらの話からこういう展開になるとは思ってたしな」

 一応は一家の大黒柱である自分の返事を聞こうとしないはやての態度に若干不機嫌になったが、どうせダメだと言った所で聞く耳もたないことは分かりきっていた銀時は勝手に納得して最後のせんべいの一欠けらを口にする。今となってはさっさとこの話を切り上げて夕飯にありつきたいという思いが強くなるばかりだった。

「それよりもとっとと他の2人にも話してやれ。言っとくがここに住む以上は稼いでもらうからな。ただでさえ今は依頼もねえんだからよ」

「もちろんです。我々は騎士として、主のご家族を困らせるような・・・・・・」

「もういっぺん言ってみろエビフライ頭ッ!!!」

「何度でも言ってやるよ似非チャイナ! 変な言葉使ってキャラ作ってんじゃねえッ!!」

 シグナムの言葉をかき消す2つの声がふすまで隔てられた隣の部屋から鳴り響く。

「ひゃん!」

 雷鳴のような怒声に思わずお登勢に抱きつくはやて。2つの声はどちらも甲高く幼さが残る印象を与えており、銀時達はそれぞれ聞き覚えのある声に大きくため息をつきつつふすまを開ける。

「2人ともやめなさ~い! 隣で主様が寝てるんですから!!」

「ギャアアアアアアアアアア!!! 買ったばかりの机に穴がアアアアアアッ!!!!」

「テメエそれは私が取っておいたごはんですよなんだぞ! 勝手に食ってんじゃねえぞこの盗人が!!」

「勝手に食ってませんー、そこのメガネに食ってよろしいですかってちゃんと聞きましたー。テメエのかどうかなんて関係ありませんー!」

 ふすまを開けて最初に目をしたのは砕かられて原型を留めていない中央の机を挟んで取っ組み合いをする神楽とオレンジの少女だった。お互いに相手の両肩を掴み、後ろへと押し出そうとするが、力が拮抗しているのか、一向にその場から動く気配がない。

「神楽ちゃんもうやめろオオオ! たかがごはんですよ1つ取られたくらいでどんだけ大人気ねえんだ君はッ!!」

「ヴィータちゃんもダメ! 相手は主様のお姉さんよ!!」

 同時にその様子を見かねて新八と金髪の女性がそれぞれの相方を後ろから羽交い絞めして無理やり引き離すが、既に殴り合いにまで発展している2人を止めるには遅すぎた。案の定怒りを抑える気のないヴィータと呼ばれた少女と神楽は握りこぶしを作りながらもがきだす。

「だってシャマル、コイツがいきなりあたしのこと殴ってきたんだぞ! こんなヒョロそうなのにすっげー痛かったんだぞ! 殴られたまま引き下がれるか!」

「テメエがひとんちの食料勝手に食ってんのが悪いんだろうが! あと何が殴られたままアルか! 思いっきり私の鼻へし折りやがって! 乙女の柔肌を何だと思ってるアル!」

「鼻折られて何でゲロ吐くんだよ! そんな乙女がいるか! しかもそれあたしにぶっ掛けやがって、絶対ぶっとばしてやる!」

「上等だガキンチョ! 騎士だか何だか知らねえが私に敵うと思ってんじゃねえぞ!!」

 乙女から遠く離れた罵詈雑言が居間を支配する中、銀時達は周りを確認する。
 見るも無残に粉砕された中央の机。その隅で転がるカラのごはんですよの瓶。そして異様な異臭を放つ黄色くて視界に入れるのもおぞましい消化不十分のゲロ。
 あの短い時間の間によくもまあこれだけ暴れられたものだと呆れを通り越してブチ切れそうになっている銀時は、しかし辛うじて作り笑顔を作って隣のシグナム達を見る。

「オイ、俺確か言ったよね、あの2人は新八達と一緒に隣で大人しくさせとけって? 何でこんなことになっちゃってんの?」

「父君様、無礼を承知で申し上げるなら、それはあのご息女様にも問題があるかと」

「知ってるよ~、会話からそういうの全部分かっちゃってたよ~銀さんは。でもあのチンマイのってテメエらと同じ守護騎士でしょ? 騎士ってのはあんなに怒りっぽいものなの?」

「すみません父君、ヴィータは外見通り精神も幼くて、それがご息女を不快にさせたと思います」

 そもそも神楽は娘でも何でもないと言いたくなったが、今はそんなことに無駄な体力を使いたくなかった。拳を鳴らしながら喧騒の真っ直中に割って入り、今にもその鉄拳を神楽とヴィータの2人に叩きこもうとしたその時だ。

「こらッ! ヴィータも神楽ちゃんも喧嘩はやめなさい!!」

 キーンという音がその場にいる全員の耳に聞こえるほどの大音量、微妙に電子的な音が混じったその声にその場にいる全員が後ろを向く、そこにはいつの間にか車椅子に乗りながらどこから持ってきたらしい拡声器を口につけていたはやてがいた。

「もう、ほんまに会って早々喧嘩するなんて思わんかったで。あの人に言われた通りや。ん? あの人って誰のことや?」

 無意識に口にした自分の言葉に違和感を覚えながらはやては手元のジョイスティックを操作して車椅子を神楽達に近づけ、両者の間に割って入る。これで少なくとも殴り合いには発展しないだろうと思ったからだ。

「主様すみません! ヴィータがいきなり姉上様に失礼な真似を!」

 申し訳ないように金髪の女性がヴィータに代わって片膝を付いて謝罪する。自分が来るなりまず頭を垂れるその行為に、さすがは騎士と思うと同時に、何か嫌な気分になったはやては首を振りながら両手で女性の顔を持ってその顔を見る。

「ええよシャマル。どうせ神楽ちゃんにも問題があるって分かってるから」

 シャマルと呼ばれた女性はいつの間に自分の名前を知ったのだろうと怪訝な表情になるが、はやてはそんなシャマルを特に気にする事なく神楽達へと向き直す。

「待つアルはやて! そもそもコイツが私のごはんですよを勝手に食べたのが悪いんだぞ!」

「そんなんまた買ってあげるから我慢しい、そもそも神楽ちゃんはお姉ちゃんなんやから妹には譲ってあげなあかんやん」

「ちょっと待て! いつから私がこのドグサレチビの姉貴になったアルか!」

 聞く耳持たないといった感じで人差し指を神楽のおでこに付け、それ以上の反論を封じる。その様子をヴィータニヤけながらアッカンベーをして挑発するが、刹那に振り向いたはやての顔が目に写って硬直してしまう。

「あ、主様……」

 やばいと思ったのも一瞬、はやてのチョップが頭に直撃する。神楽の鉄拳に比べれば大した攻撃ではないはずなのだが、怒らせてはいけない相手からの攻撃は精神的に来るものがあるらしく、うーと唸りながら頭を何度もこする。

「ヴィータも、ほしいなら新八君やのうてちゃんと神楽ちゃんに聞かなあかんやん。それなのにこんなに散らかるまで喧嘩して」

「だってあの似非チャイナが」

「似非も本物もない! これからはあんたのお姉ちゃんになる人やで? 仲良くせなあかん」

「……お姉ちゃん?」

 チラリとヴィータは神楽を見る。相変わらずこれでもかと殺意と怒気を発生させてはいたが、お姉ちゃんという言葉に思う所があるのか、僅かに頬を染めているのが見えていた。

「ちょっと待ってはやてちゃん、いつの間に神楽ちゃんとこの子が姉妹になったの?」

「たった今。ヴィータだけやのうて、シャマルもシグナムもザフィーラも今日からウチの家族になったんや。新八君も仲良くしてな」

 にんまりと可愛い笑顔を見せながらとんでもないことを言うはやてに新八とシャマルは面食らう。

「え、えええええええ!? 家族って、ちょっと銀さん、どういうことですか!」

「シグナム! ザフィーラ! ちょっと何で? 何で家族になってるの!」

 思わずさっきまではやてと話してた銀時達に問いただすが。

「どういうことも何もねえよ。新しいパシリが増えたってだけだ」

「すまない、いつの間にか主はやての中ではそんな話になってたようで」

 あきらめろといった表情の銀時達にさらに驚く新八とシャマル。はやてが寝ている間は居間で大人しくしてろと言われていたが、いつの間にそんな話にまで発展したのかまったく理解できなかったようだ。

「もう遅いから服とか食器は明日買いに行くとして、とりあえず今日のご飯やな。カレーだけやと物足りないから骨付き唐揚げも作って今日はご馳走や、もちろん新八くんの分も作るから今日はウチで食べていってな。寝る場所は居間も使えばええやろ、布団は後でお登勢さんに持ってきてもらうし、それからそれから……」

 傍目から見ても分かるくらいウキウキしながら台所へと移動するはやてに、その場にいる全員はその後ろ姿を眺めることしかできなかった。





あとがき
 非常に中途半端な所で終わってしまい申し訳ありません。今回は個人的にどうかなーって展開が目につきやすいかなって思いました。特にお登勢さん出す意味あったかな?
 ほんとはこのまま神楽とヴィータが河原で殴り合う所まで書こうと思いましたが、長くなりすぎるし途中で私が力尽きました。
 そんなぶつ切り状態で終わりましたが、次回からはようやくヴォルケンの戦闘シーンに入ります。それにしても早く次郎長とシグナム戦わせてえわ。


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