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No.32515の一覧
[0] リリカルなのは+1 Choices of girls (♀オリ主)(チラ裏から)[HE](2012/07/07 12:52)
[1] プロローグ[HE](2012/06/26 18:56)
[2] 1話 記憶と記録[HE](2012/07/13 14:12)
[3] 2話 再生と搬送[HE](2012/06/26 18:57)
[4] 3話 覚醒と偽名[HE](2012/06/26 18:57)
[5] 4話 追求と遭遇[HE](2012/06/26 18:58)
[6] 5話 戦闘と水音[HE](2012/07/13 14:16)
[7] 6話 過去と現在[HE](2012/06/26 18:58)
[8] 7話 出立と学友[HE](2012/06/26 18:59)
[9] 8話 海岸と金色[HE](2012/06/26 18:59)
[10] 9話 虚偽と運命[HE](2012/06/26 18:59)
[11] 10話 決意と因果[HE](2012/06/26 18:59)
[12] 11話 歓迎と歓迎ではないもの・前編[HE](2012/06/26 19:00)
[13] 11話 歓迎と歓迎ではないもの・後編[HE](2012/07/09 22:46)
[14] 12話 追憶と選択[HE](2012/07/10 23:28)
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[32515] 8話 海岸と金色
Name: HE◆d79c5ab7 ID:6a56e0f2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/06/26 18:59

「はるばるーきたぜ海岸ー」

<<マスター、音程が外れています>>

アリスが今音程の外れた歌を口ずさみながら到着したそこは、海鳴の海岸。その一部に形成されたちょっとした砂浜である。
輝くような白い砂浜、と言う訳でもないが特別に汚いと言った訳でもなく、清掃はそこそこされているそれなりの砂浜で
アリスはため息をついた。砂浜には、時期的に海水浴をしようとするような剛気な人間はおらず、
居るのは彼女ただ一人である。これから、この少し肌寒い中で海女の真似事をしなければいけない。
非常に気乗りしない面持ちで海面を見つめる彼女に、オラクルが急かすようにして語りかける。

<<ロストロギアの落着位置は把握していますが、大分流されていると考えられますので>>

「わかってる」

そう言いながらもすぐには着手しようとせず、周りを伺うように見渡す。もちろん誰も居ないのだが、
もし誰か居てくれれば先延ばしにする口実が出来るのにな、等と彼女は思っていた。
残念ながらそれは達成されなかった訳で……致し方ない。アリスは覚悟を決める。

<<大丈夫ですよマスター、今のロリマスターならばたとえカナヅチでも誰も攻めやしません
むしろキュートです。萌ポイントになりますよ>>

「黙れ」

イラッとしたようにオラクルの待機状態である眼鏡を指先で弾く。
そう、彼女がここまで海を忌避する理由は簡単だ……要するにアリスは泳げないのだ。それもまったく。
友人と海水浴に行ったとき等は必ずパラソルの下で置物になるか、お約束のように砂で城を作っていた
アリスはそんなちょっと寂しい女性だった。それは少女となった今でも変わらない。
いやむしろ小さくなった事でさらに泳げなくなっているかもしれない。そんな事を思っているアリスなのだが、
オラクルに言わせてみれば、もしアレ以上に泳げなくなってしまったとしたら、それは最早生物以外の違うナニかだ。
もちろんそんな事は言わないが。
これ以上マスターの機嫌を損ねては本気で探索を打ち切りにしかねない。

<<大丈夫です、海中探索用魔法を展開すれば泳ぐ必要はありません>>

「……バリアジャケット展開」

<<了解しました、マスター>>

それを聞いて、本当に、本当に不本意ではあるが……と言った様子でアリスは海中探索用の魔法を詠唱していく。
海中探索用と言っても別に大それたものではなく、ただ単に身体を包むようにして空気の膜を展開し、
酸素不足や水に触れる事によって起こる疲労や体温の低下を防ごう、といった簡易なものである。
深い溜息を付きながらバリアジャケットを展開したアリスは、海へのそのそと近づいていく。

「魔力撹乱は?」

<<問題ありません、発動できます>>

「極小にして発動」

<<魔力撹乱発動>>

短い言葉で自身の最大の特徴であり、管理局にレアスキルとして登録してある特殊技能を発動する。
レアスキル・魔力撹乱。一応そう名付けられているそのスキルは、しかし管理局に登録する際に
魔力撹乱効果が管理世界において一番効果的である。というだけで管理局に名前を付けられたスキルであり、
実際はただの副産物にすぎない。

<<撹乱開始……正常に動作中です。管理局の魔力測定器でもなければ感じ取れないでしょう>>

「維持しつつ潜行」

そのスキル、彼女のレアスキルである魔力撹乱の本質は、精密な魔力操作にある。
元来リンカーコアに異常を抱え、大気中の魔力を取り込めなかった彼女のそのコアは、本人すらあずかり知らぬ
ところで大きな進化をしていたのだ。
比較的大きな容れ物を持っているのにも関わらず中に入れるべき魔力の補給が全く間に合っていないのと言うのが
彼女のリンカーコア異常なのだが、その状態をコアは非常に危険視したらしい。まぁ当たり前と言えば当たり前の事だ。
コアを持ち、魔力を持つはずの人間がその魔力……いやリンカーコアを失うとどうなるか――最悪は命を落とす。

リンカーコアを持たないものにしてみれば、有っても無くても変わらないじゃないか。と言うところだが
持つ者にしてみればそれは紛れも無く臓器であり、身体の一部である。それが失われるとなればどうなるか、
身体に異常をきたすだけでは済むまい。
入ってくる魔力が少ないのであればその少ない魔力でどうにか回して行くしかない。
しかしなまじ大きな容量を持っていたせいでどうしても魔力が循環しない部分が出てくる。
コアの内部に魔力の循環しない部分が出来るなど、本来なら起こるはずの無い現象だ。
生命とは、臓器とは、活動しているからこそ"生きて"いるのである。それが疎かになればなるほど弱体化していき
最終的に辿りつくのは衰弱死、部分におけるならば壊死だ。

それを恐れた彼女のリンカーコアは、少ない魔力補給でもどうにかコア全体に魔力を循環させる為、常に活発に活動し内部に
僅かに吸収されてくる魔力を超精密と言える程に細かく、かつ適切に操作して、リンカーコアの維持を図ったのだ。
進化。と言うよりは環境に適応した、してしまったと言うべきか。
結果、彼女は通常ならば不可能なレベルでの精密な魔力操作を行えるようになり、その副産物として魔力の結合と分裂を用いた
自己魔力の操作及び撹乱――要するに相手に自分の魔力数値を誤認させる、そんな特殊技能を身に付けたのだ。

先天的に得られる才能と言う意味で語られる事が多いレアスキルの中では、一際異彩を放つスキルだ。
まぁその為にアリス本人は常に緊張するリンカーコアに悩み、魔力演算や収束に苦労することになるのだが……
しかしコアにしてみれば、大きな仕事をやり遂げたとでも言うように自慢気であり、ドヤ顔が見えるようだ。

「……むか」

<<どうしました? マスター?>>

「なんでもない」

ふと何故かイラついたアリスだったが、すぐに勘違いだと頭を振る。ある訳がないのだ、リンカーコアに顔など。
頭に過ぎった変な顔を振り払い、アリスは海中に沈んでいく。現在使用している魔力撹乱は最弱小化。
自身の魔力を細分化することによって読み取られにくくしているのだ。
前回の戦闘では他の魔導師の存在を知らなかった為、結界を敷いて魔法を行使していたのだが
魔導師の存在が明らかになった今、安易に結界を展開すれば相手に気取られてしまう恐れがある。
その為結界ではなく魔力撹乱を使用しているのだ。これならばたとえ精密にスキャンされたとしても
魔力ランクにしてF~E程度にしか読み取ることは出来ないだろう。あってない物として切り捨てられるレベルだ。

あのイタチ魔導師と接触するのはやぶさかではない。だが自分を害したあのロストロギアだけは……
どうしてもアリスは自分で確保しておきたかったのだ。その為に今、発見される訳にはいかなかった。

<<どうですか? 久しぶり海中は>>

「……」

<<マスター、何か喋りましょうよ。>>

「……」

チカチカと光り、ここぞとばかりに悪戯をしてくるオラクルに、陸に上がったら覚えていろよ……
などと不穏な事を考えながらアリスは海中から上を見上げた。そこには朝日を浴びた海面が美しく煌きながら
ともすれば陽炎のようにゆらめく姿があり、ややささくれ立った彼女を優しく慰めてくれているようにも見える。
アリスを包む空気の膜から排出される二酸化炭素が、泡を成して海中から逃げるように勢いよく浮かび上がり
海面を目指して行くその様は、まるで自分の心を代弁しているようだな。
彼女はそんな益体もない事を考えながら、口元に若干の笑みを浮かべて海底の探索へ向かっていく。

「目標は?」

<<この辺りのはずです。未発動状態では魔力感知は出来ないようなので地道に探すしかないですね>>

「面倒」

<<撹乱して頂ければ補助デバイスを用いた魔力ソナー探索が出来ますが>>

「許可」

短く頷いたアリスは、意識をリンカーコアに移し魔力の細分化を開始する。
今でこそ瞬時に撹乱を行えるようになったが、最初は失敗の連続だったな……
オラクルが完成し、補助が期待できるようになってからは大分楽になったが。そうアリスは昔を振り返りながら
ゆっくりと細分化していく。別段今は戦闘中ではない、焦る必要もない。それでも体が緊張してしまうのは
現役時代からそういった場面で良く使用していたからか……そんな事を考え、ふと思う。

「最近昔の事をよく思い出す」

<<体の幼児化が原因で記憶野が混乱しているのでしょうか。記憶の欠落等はありますか?>>

「ない」

記憶の欠落は無い。無いはずだ。
それどころか何十年も前の事を昨日のように思い出してしまう。
まだアリスが小さかった時の記憶……それをまるで、今現在進行している事案だとでも言うように。

「感傷?」

<<聞かれましても。>>

「ガラスハートだから」

<<防弾仕様ですけどね>>

軽口など発しながらもしっかりと作業をする一人と一機。その姿は長年連れ添ったパートナーであると
言うことを見るものに感じさせる。

「トンテンカントンテンカン」

<<ボソボソ呟かないでください>>

「そんな感じの作業」

<<あっ……ですか……>>

変な事を口ずさみながらレアスキルを展開するアリスだが、彼女にしてみれば細分化とは暇な作業である。
感覚で言うと少し大きい石を見つけてきて、それをハンマーで小さく砕く……そんな事を心の中で延々と
繰り返すようなものだ。口寂しくもなろう。

<<最悪あと数時間は掛かるんですから今の段階で嫌になられても困りますよ?>>

「私はこんな事をする為に局にはいったのではない」

<<どこの新入局員ですか>>

先程からボケた事ばかりのたまう自分のマスターに、しかしお約束程度には付き合うオラクル。
そのクリスタルから放たれる光がどことなくうんざりとしていたのは見間違いではないだろう。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



そこは何もない部屋だった。
カーテンすら掛かっていない、誰も入居していないのではないかと疑われても仕方の無い空虚な室内。
もちろん装飾品の類などは一切無いが、必要最低限程度に揃った調度品が誰かの存在を僅かながら感じさせる。
そう、ここはそんな部屋だ。

「今日から頑張らないと」

「それは……良いけどあんまり無理しないでおくれよ?」

「うん、ありがとう。でも大丈夫だよ」

部屋の陰りから現れた、輝くような金色の髪をツインテールに縛り、まるでルビーのように赤い瞳を持った少女。
およそこの世界、この土地には不釣り合いな美しさを持ったその少女は、そう言って窓から階下を見下ろす。
人が米粒程に見える程の上層階、顔を上げれば遠目に海を望めるような見晴らしの良い立地で
その風景は、このマンションの謳い文句にもなっている。

マンションの入り口には綺麗にカットされた大理石が設置してあり、そこにはこのマンションの名前である
ビューティフル・クアットロ遠見。そんな言葉が踊っていて、否が応にも高級マンションである事を意識させる。
そしてその中でもこの部屋は管理会社自慢の一室なのだが、少女にとっては心底どうでも良い事であるらしく
感嘆の表情を登らせる事はなかったし、感想を述べる事もなかった。

「遅れを取り戻さないと」

「それはフェイトのせいじゃないじゃないか、あの婆が…」

「母さんの悪口はだめだよ、アルフ」

フェイトと呼ばれた少女は橙色の髪を持つ女性をそう窘める。
ロストロギア……ジュエルシードの落下予測にズレが生じてしまい、その結果この土地を割り出すのに時間が
掛かってしまったのだが、それは少女のせいではない。彼女自身も、それは分かっている。
だが、今はそれを論じている暇はない。それに論じる必要もない。

「私が頑張れば、それで問題ないから」

「……はぁ、わかったよ。さっさと見つけてさっさと終わらせちゃおうじゃないか!」

「うん、ごめんね。」

「あたしはフェイトと一心同体だよ? 何も遠慮することなんかないじゃないさ」

年齢が二十前後と言ったところだろうか、何か運動でもしているのか女性にしては筋肉質なその腕で
力こぶなんかを、ぐっと作りながら彼女はそう言って金髪の少女に笑いかける。
はたから見れば、十歳程度の少女に二十前後の女性が付き従う奇妙な構図ではあるのだが
二人の間には確固たる絆でもあるのか、そのやり取りに違和感を感じる事はないようである

「ありがとう。じゃあ今日はどうしようか」

「んー、来たばっかりだしねぇ。魔法は控えたらどうだい? あたしの鼻で探しだしたげるよ」

そんな事を言い、自慢気に鼻をくんかくんかと動かす女性を見て少女は顔に笑みを浮かべる。
自分たちの探しものに匂いなどと言う物が無い事くらい、彼女だって分かっているだろう
分かった上でそんな冗談を言っているのだ。気を使わせちゃってるな、そう少女は感じていた。
だがその気遣いが、今は心地良い。

「もう……それじゃあ海岸へ行こう。もしかしたら海に落ちたジュエルシードが流されて着てるかもしれない」

「海かい? 海はいいね! なんだか楽しみになってきたよ」

「遊びに行くんじゃないよ?」

「途中でボールとかフリスビーとか売ってないかね」

「アルフ……」

気を使ってくれている……んだろうか? 先ほど感謝したその行為に若干の疑問を浮かべ
うきうきとはしゃぐ彼女をジト目で見ながら、少女は再び窓から海を眺める。

「案外、いい景色なのかも」

「ん? 何か言ったかい? フェイト」

「ううん、なんでもないよ」

ジュエルシードの回収さえ無ければ、この景色がもっと良いものに見えたのだろうか。
――何を馬鹿な。頭を振り、気持ちを切り替える。今は大事な目的があるのだ
そんな事にうつつを抜かして居る暇など、あるはずもない。あるはずもないのだが……

ボールってどこで売っているんだろう? そんな事を少女は心の隅で考えていた。



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