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No.32515の一覧
[0] リリカルなのは+1 Choices of girls (♀オリ主)(チラ裏から)[HE](2012/07/07 12:52)
[1] プロローグ[HE](2012/06/26 18:56)
[2] 1話 記憶と記録[HE](2012/07/13 14:12)
[3] 2話 再生と搬送[HE](2012/06/26 18:57)
[4] 3話 覚醒と偽名[HE](2012/06/26 18:57)
[5] 4話 追求と遭遇[HE](2012/06/26 18:58)
[6] 5話 戦闘と水音[HE](2012/07/13 14:16)
[7] 6話 過去と現在[HE](2012/06/26 18:58)
[8] 7話 出立と学友[HE](2012/06/26 18:59)
[9] 8話 海岸と金色[HE](2012/06/26 18:59)
[10] 9話 虚偽と運命[HE](2012/06/26 18:59)
[11] 10話 決意と因果[HE](2012/06/26 18:59)
[12] 11話 歓迎と歓迎ではないもの・前編[HE](2012/06/26 19:00)
[13] 11話 歓迎と歓迎ではないもの・後編[HE](2012/07/09 22:46)
[14] 12話 追憶と選択[HE](2012/07/10 23:28)
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[32515] 3話 覚醒と偽名
Name: HE◆d79c5ab7 ID:6a56e0f2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/06/26 18:57

その家は、静かな……とても静かな場所に立っていた。
早朝だというのを差し引いたとしても木の葉の触れ合う音まで聞こえてきそうなその場所は……
しかし、少し離れれば車の走る音や人のざわめきが聞こえる事から、俗世とは一線を画した
非常に格式の高い閑静な住宅街である事を匂わせる。
僅かに聞こえる、鳥の囁くような鳴き声に導かれるようにしてその家の一室、ベッドに身を埋めた少女は

微睡む意識を覚醒させていった。

「ん……」

目に入る木漏れ日が眩しいのか、少しイヤイヤ。というような仕草を見せたあとその少女はゆっくりと
瞳を開けていく。目に飛び込んできたのはシミ一つない、自分が4人は寝れるのではないかと
言う大きなベッドと大きな窓。そして……

「知らない天井……どころか知らない天蓋付きベッド」

言わねばならない。なぜかそう感じた台詞を口にし、酷くゆったりとした動きで周りを見渡す。
そこはまるで物語に出てくるお城の一室なのではないか? と錯覚させる程の美しさで
主張しすぎない上品な花柄の入った壁紙に、衣類棚と見られる家具には嫌味にならない程度の
装飾が施され、床には蹴り飛ばしたら色んな意味で危険そうな大きな花瓶が鎮座ましましていた。

「しゅごい……」

ココはもしや天国か? と訝しむ少女だったが、ベッドの横に備え付けられた小さい化粧棚の上にある
綺麗なカバーをかけられたテッシュ箱と磨き上げられたように輝く水の張られた銀のボウル、
そしてその中にあるタオルを見つけ、そのちょっとした俗っぽさに安心し、ここは天国ではないとサクッと結論付けた。

タオルを見てふと気がついたのか、彼女は自分の体を見下ろした。するとそこには白いパジャマを着た姿があり、
少し恥ずかしい気持ちになる。塩水に浸かり、海岸で倒れていたのだから相当の汚れがあっただろうと思うのだが。
今は汚れの欠片もなく、綺麗に清拭されたのだなぁと予想する。確かめてはいないがデリケートゾーンもばっちりな気がする。

「…………オラクル?」

そこまで観察して、なんとも間が持たないと感じた少女は……いや、彼女は自分の相棒であるデバイスを
探し始める。いつもであればこの後すぐに気の利いた、それか嫌味の利いた、言葉を返してくるのだが
今日に限ってはその言葉が返ってくるどころかそもそもその姿すら見当たらない。

「……オラゴクウ?」

なんとなく若干違う名前を呼んでみるものの反応はない。
もしかしたら運ばれる途中で落としたのかもしれない、そんな不安が彼女を襲う。
オラクルとは非常に長い付き合いであるし、待機状態は眼鏡である。
要するにいつも視界にオラクルが入ってる状態が当たり前であり、その日常に変化が起こってしまった。
その事が彼女の心に若干のストレスを与えるのだ。

「……うさぎは寂しいとストレスで死んじゃうんだぴょん」

窓に向かってそんな事を呟き……期待するようにチラッと周囲を見渡すが……
彼女の期待とは裏腹に、ツッコミのツの字も帰って来ず。
ちょっと恥ずかしくなってふたたび窓の方に視線をプイッと向けるのだが

その瞬間部屋の扉が開き……

「へー、そうなの。じゃあ貴女の名前は今日からうさぴょんね?」

そこには、こちらをニコニコと……いや、ニヤニヤと見つめる長い金髪の少女が居た。

「にゅふふ、うーさぴょん?」

「……今のはジョーク」

「ふぅん、そうなんだ。ねぇ、うさぴょんはなんであんな場所で倒れてたのかしら?」

「…………うっ…えうっ…ぐすっ…」

「ってちょっ!? 冗談よ! あーほらほら! 泣かないで! 悪かったわよ!」

「……今のもジョーク」

「おいコラァ!!??」

金髪の少女が両手を振り上げる、私怒ってるんだからね! と全身を使ってアピールする様は
彼女から見てもとても可愛くて、自然と笑みを浮かべてしまう。しかし元来表情を表すのが得意では
無い彼女の笑みは、頬をヒクつかせると言った程度の表現が限界だったようで、
それを見た少女はさらにムキー!っと吠えるのであった。

「まったくもう!色々聞きたい事はあるけど、とりあえずこれ。なんか大事そうに握ってたから直してあげたのに、どうしてくれようかしら?」

「あ」

そう言いながら少女は右手に持っていたものをくるくると手の中で弄びはじめる。
それはワインレッドに輝くフレームを持つ、彼女からすればとても見覚えのある、
そして今まさに探し求めていた相棒であった。

「オラクル?」

<<おはようございますマスター、ピカピカに磨き上げられた私のボディはどうですか?
もう塩水は懲り懲りです>>

……途端……ピシリと、空気が、氷結する――。

今まであった暖かい雰囲気はどこへやら、一瞬で結界内もかくやと言う程に色を無くし
聞こえるのは、気のせいだろうかなんとなく萎縮した鳥の囀りと、空気の完全氷結を成し遂げた
無機物から出る、無機物らしい音声の、しかし無機物らしくない喋り声だけである。

「……」

「……」

<<どうしました? マスター?>>

あまりの出来事に二つの金髪は同時に動きを止め、お互いを見つめ合っていた。
前者は眉毛を八の字に曲げ、冷や汗を垂らしながら右手に持ったものをなるべく見ないように徐々に自分の顔から遠ざける少女。
後者は無表情ながらも、困惑と、焦りを浮かべて微動だにしない少女……例えるならば
特に好きでも無い男の子に友人が、「あの子、貴方の事好きみたいよ」等と吹きこまれている様を目撃してしまった。
そんな表情とでも言えばいいのだろうか。

「……ねぇ……これ……今……!」

「それはおもちゃ」

沈黙に耐えられず……いや、どちらかというと沈黙の元凶を自分が持っているという事を
不安に思ったのだろうか、今にも右手に持ったブツを窓に向かって遠投しそうな少女を見て彼女は言葉を遮る。
ブン投げられては困るのだ。

「え?」

<<え?>>

再び空気が固まろうとするが、それを彼女は許さない。
最近この世界でさかんにコマーシャルをしていたある端末を思い出し、何かを問われる前に
ソレだという事にしてしまおう。彼女が氷結時間中にマルチタスクを使って考えた末の結論はそんな適当な弁明だった。

「最近話題のスマートフォンの機能」

「え? あぁ! ipyoneだっけ?」

「そう。喋ると答えてくれる」

どうやら彼女もその話題については知って居たようで彼女は助かった、という面持ちである。
正直この世界の情報等は流し見程度にしか見ていなかったので、ipyoneだったかアンゴルモア? 
だったかその辺はさっぱりだが、少女が知っているのなら適当に話を合わせようと言う魂胆だ。

「へー、でも眼鏡型があるなんて初耳ね」

「母親に貰った。試作品かも」

「ふーん……私が何か言ったら答えてくれる?」

「くれる」

そう返答しながら眼鏡――オラクルを睨む。
それはアイコンタクトというよりも、お前わかってるんだろうな? という脅しの視線である。

「そうねぇ……じゃあ私の将来はどんな感じなのか聞いてみよっかな? ねぇどうなの?」

どう見ても質問では無く占いの類に属する事柄をぶつける少女。
その顔は答えを期待するというよりは、どう? 答えてみせなさいよ、ふふん といった風であり、
自分も知らなかった新しいおもちゃを試してやろうという悪戯心が見て取れる。
もし本来のipyoneやらアンモナイトやらに聞いていれば、そんなの知るかとか言われるのだろうか。
そんな事を考えながらオラクルに答えるように視線で促す。

<<……未来は貴女の選択によって如何様にも変わりますが、身体的な事に限ってお答えさせて頂くと
身長は女性として平均的、胸部に関してはすくすくと育ち最低でもランクD+と言ったところでしょうか、
絶世とは言えないまでも相当な美女に成長する可能性が高いです。胸部成長の可能性が
絶望視されているマスターと比べると遥かに恵まれた未来が約束されています>>

想像もしてなかった答えに、少女は唖然としながらも語られた言葉になんとなく良い気分になっているようだ。
もう一方に関してはその視線を絶対零度にまで下げているのだが、少女はそれに気付く素振りを見せない。

「へ、へぇ……やるじゃない、ま、まぁ美人になるのは当たり前よね! ママが美人なんだもの!」

「ん」

絶対零度の視線でオラクルを睨みつけながら、彼女はそう少女に向かって頷いた。
普通に聞いたならば、自意識過剰な人だ。等と思うところだが、少女の今の言葉は驕りと言うより
母親に対する絶対的な信頼と、憧れ、尊敬が見え、少し羨ましく思える。

「っと、じゃあコレはもう良いわ。はい。」

「ん。ありがとう」

<<只今戻りました。マスター。見事任務を達成してみせましたよ>>

「貴女が物凄い力で握り締めてたからレンズが外れちゃってたのよ。はめ直して、綺麗にもしてあげたんだから感謝しなさいよね」

どうやらデバイスとして弄くりまわした訳ではないようだ。この世界の技術で少し弄られた程度でバレる代物で無いとは
思っていたが、少しだけ心配だったのは否めない。
そして、そういえば海岸で握り潰そうとしたっけな。と思いながら、先ほどの一件を思い出して
今一度握り潰さんとオラクルに手を伸ばし……

「くぎゅ」

「ちょ! 大丈夫?」

そのままベッドからずり落ち床に顔面からダイブしてしまう。
力が入らない……体が異常に重い。
急激な体の変化を経験したからだろうか、脳の感覚と体の能力に著しい齟齬が生まれてしまったのかもしれない。
オラクルは大丈夫だと言っていたが後で調べた方がいいかもしれない。と考えていると体を起こされる。

「貴女……すごい痩せてるじゃないの。ちゃんと食べてるの?」

「食べてる、はず」

歯切れの悪い答えに少女は眉を顰めるが、事実そこまで不摂生していたつもりはない。
ちゃんと自炊もしていたし、栄養も取っていた。運動も、まぁあれも運動と言えば運動かな。
等と健全さをアピールしようとするが、仰向けになった自分の体を見て、言い訳不能。という言葉が頭に浮かぶ。

「ガリガリ君」

「やめなさい!」

凄まじく不健康、という訳でもないが、仰向けになると肋骨が浮き出て正しく洗濯板状態である自分を見て
彼女は肋骨でコリコリと遊びはじめる。そして少女の顔を見つめ……

「やる?」

「やらないわよ!!」

彼女は少し残念な表情をするが、少女はそれを思いっきり無視して話を進める。

「はぁ、貴女……えーと、そういえば名前聞いてなかったわね、なんていうの?」

「名前?」

「そうよ。私はアリサよ。アリサ・バニングス。」

この家の長女なんだからね! と、金髪の少女は腰に手を当て、今はまだ薄い胸を思いっきり張り自己紹介をしてくる。

「私は、アル……」

一瞬本名を名乗りそうになるが、ふと思いとどまる。
この名前を名乗るには、私はまだやるべき事、成すべき事を何も達成していない。
名前を捨てたつもりはない、親子の縁を切るつもりもない。それは一生自分について回るものだ。
逃げるつもりはない。だが、まだ私にはその資格がない……。

そして一瞬の逡巡の後、彼女はこう名乗ったのだった

「私は……アリス。苗字は分からない」

この答えが、後に要らぬ誤解を生む事になるとは……オラクルだけがなんとなく予想していた。



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