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No.32515の一覧
[0] リリカルなのは+1 Choices of girls (♀オリ主)(チラ裏から)[HE](2012/07/07 12:52)
[1] プロローグ[HE](2012/06/26 18:56)
[2] 1話 記憶と記録[HE](2012/07/13 14:12)
[3] 2話 再生と搬送[HE](2012/06/26 18:57)
[4] 3話 覚醒と偽名[HE](2012/06/26 18:57)
[5] 4話 追求と遭遇[HE](2012/06/26 18:58)
[6] 5話 戦闘と水音[HE](2012/07/13 14:16)
[7] 6話 過去と現在[HE](2012/06/26 18:58)
[8] 7話 出立と学友[HE](2012/06/26 18:59)
[9] 8話 海岸と金色[HE](2012/06/26 18:59)
[10] 9話 虚偽と運命[HE](2012/06/26 18:59)
[11] 10話 決意と因果[HE](2012/06/26 18:59)
[12] 11話 歓迎と歓迎ではないもの・前編[HE](2012/06/26 19:00)
[13] 11話 歓迎と歓迎ではないもの・後編[HE](2012/07/09 22:46)
[14] 12話 追憶と選択[HE](2012/07/10 23:28)
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[32515] 11話 歓迎と歓迎ではないもの・後編
Name: HE◆d79c5ab7 ID:6a56e0f2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/09 22:46

「アルフ!?」

一瞬にして眼前から消し飛んだ人物の名を叫び、衝撃で立ち上る砂埃をまるで鬱陶しく絡まる蔦でも
振り払うかのようにして、軽いクレーターになってしまっている爆心地へと、フェイトは走る。
その顔には焦燥が浮かんでおり、今しなければいけない事――この状況であれば、まずデバイスのセットアップか――
すらも忘れてアルフの元へ急いでいる。彼女のデバイスなのだろうか、金色のペンダントがチカチカと促すように
輝いているが、それにも気づく様子はない。

「大丈夫なの!? アルフ!」

「いったたたた……まったくなんだってんだい!?」

「すごい反射神経」

半ば土に埋もれるようにして横たわっているアルフだが、驚く事に直撃を受けて尚、致命傷と呼べるダメージを
負った跡がない。彼女からすれば完全に不意打ち、しかも超高速で飛来する鉄杭である。反応等出来なかったはずなのだが……
だが、彼女は凌ぎ切った。直撃の瞬間、瞬きさえも許さぬ程の、刹那。アルフはその"正体不明"に対して防御行動を取り
鉄杭を後ろに逸らしたのである。正に野生の勘と言う他ない。

「何が反射神経だ! よくもやってくれたね!」

「アリス!?」

「私じゃない」

その言葉をまるで待っていたかのように、再び風を切り裂く音が聞こえる。
普段であれば決して反応出来るような速度ではない、ないのだが――アリスは即座に対応する
なぜ出来たか? 彼女は見ていたからだ。どこから、なにが、どのような速度で、飛んでくるかを、だ。
まぁその代償としてアルフが吹っ飛ばされてしまった訳だが。

「プロテクション」

<<プロテクション発動>>

金属が擦れるような耳を劈く凄まじい轟音と共に銀色に輝く巨大な鉄杭が、赤と緑色に染まる防御壁に突き刺さる。

「きょうれつッ」

<<これは堪りませんね>>

魔力との衝突ではなく質量を持った物体との衝突である。その凄まじい音と衝撃にアリスはたまらず頭を抱え
耳を塞ぎたくなる欲求を覚えるが、それをなんとか抑えこむ。

そして一瞬の拮抗の後、鉄杭がまるで悲鳴でもあげるように最期の火花を散らし、一際甲高い音を立て防御壁の横に
その巨体を横たえた。折れ曲がり、原型をあまり留めてはいないが、アリスはその威容に冷や汗をかく。
射出された鉄杭がどの位の速度であったのか、それを確かめる方法はない――
いや、オラクルであれば計測していても可笑しくはない。ただ、わざわざ聞く必要があることだとも思えないが。

「こんなものに吹き飛ばされて無事とか、アルフは人間じゃない」

<<まぁ人間じゃないですよね。四足歩行のイ――>>

「おい、そこの鉱物。それ以上言ったらそこの鉄杭と同じ姿にするよ?」

<<――立派な狼ですからね>>

「よろしい」

「馬鹿やってないで、アレ」

一匹と一体のやり取りを横目で見ながら、アリスは顎をしゃくるようにして前方を見るように促す。
そこには城の暗がりから、まるで産み落とされるように這い出てくる巨大な甲冑の姿があった。
片手には大型の弩が握られており、先程射出された鉄杭の主であることはまず間違いがないだろう。

<<自分から振っておいた癖に酷いですねマスターは……申し訳ありません。データには無い機体です>>

アリスはそれを聞き今度はフェイトに向き直るが、彼女が何かを問う前に、驚いた様子でフェイトが呟く。

「傀儡兵? どうして……」

「んー? あぁ本当だ! って! なんだってあたしらが襲われなきゃいけないんだい!?」

「……傀儡兵?」

「うん。あれは傀儡兵って言って、母さんがこの庭園を守る為に作ったの。いつもは大人しくしてるんだけど
住人として登録されていない侵入者が居ると自動で反応して……排除を……する……ように……なって……」

つい、と――言葉が止まる。
永遠にも感じられる硬直、アリスは集まってくるフェイトとアルフの生暖かい視線を受けながら――言った。

「やっぱりオラクルのせいだった」

<<えぇ!? 視線をガン無視!?>>

オラクルの慟哭を他所に、アリスは絡みつく視線を脱するようにしてその場から大きく飛び退る。
そして着地と同時に右腕を前方のオラクルに掲げ、凛と通る声で魔力を解き放った。

「スティンガーレイッ」

<<了解、スティンガーレイ>>

直後、オラクルから赤と緑の斑色に染まった魔力弾が高速で打ち出される。数はたったの一発。
だがその一発の魔力弾は、まるで吸い込まれるようにして、今まさに傀儡兵が射出しようとしていた鉄杭に
突き刺さり、弩を巻き込み轟音を上げる。

「ヒットー」

<<残念ながらこちらの言葉遊びに付き合ってはくれないようですね>>

「これだから機械は」

そう、吐き捨てながらアリスは傀儡兵を睨みつけるが
当の傀儡兵は、知った事ではないとばかりに損傷した弩を放り捨て、手元に新たな弩を召喚している。

<<あの様子だと、いくらでも武装は出てきそうですね>>

「ん」

完全に沈黙させる他無いか、そう思いアリスは浅くため息を付き、頭を抑える。
これからある意味、交渉とも言える難局を迎えようと言うのに、その矢先交渉相手の庭でやんちゃをして
防衛機器を破壊しようと言うのだから頭痛を患うのも無理からぬ事だ。

「オラクル、補助は任せる」

<<了解ですマスター>>

彼女の言葉にオラクルは即座に返答し、自身以外の残り二つのクリスタル型補助デバイスを主人を
守るように左右に展開する。
そしてアリスが、さて……とりあえず頭からイッとこうか? などと物騒な事を考えていたそのとき、
ふいに彼女に声が掛かる。

「私、行ってくる!」

「ちょ!フェイトぉ!?」

いつの間に展開したのだろうか、フェイトが着ているのは赤いラインの入ったワンピース型の水着に
白いパレオのようなスカートをベルトで止めたデザインのバリアジャケットだ。
上からマントを羽織っている為、身体はあまり見えないが、それでも相当にきわどいバリアジャケットだと
言えるだろう。

「行くって、どこに?」

「母さんのところに。傀儡兵も母さんなら止められるはずだし、私は狙われてないから素通りできる」

そう言いつつも金色に輝く刀身を持つ鎌、自身のデバイスなのだろうそれを油断なく
構えているのは、やはり先程アルフを吹き飛ばした傀儡兵の一撃、その印象が強く残っているからだろうか。

「って、あれ? 狙われてるのはコイツだとして、なんであたしはさっき
吹っ飛ばされなきゃいけなかったんだい?」

<<多分それは貴女がマスターの目の前に居たからでしょう。要するに巻き添えですね>>

「ん」

アルフの疑問に涼しい声で答えるオラクル。機械音声に涼しいも何もあったものではないはずだが
それでもそのように聞こえるのは、このデバイスが妙に人間臭い雰囲気を出しているからか。
ただ小さく頷くだけのアリスと比べた場合、人間性ランキングでは確実にオラクルの方が好成績を
収める事だろう。そんなランキングは無いが。

「ア、アンタらねぇ……」

「文句なら」

<<あそこに偉そうにしている傀儡兵とやらに言ってくださいね>>

「二人とも、冗談はやめて。じゃあ、私行くから……アルフ、アリスをお願いね!」

「えっ!? えっ!? ちょ、フェイトぉ!?」

言うが早いか、フェイトはそのまま高速で金色の魔力残光を残して飛び去り、あっという間に城内に飛び込んで行ってしまう。
……仁王立ちする傀儡兵の股の間をスーッとすり抜けて。

「今おもしろかった」

<<シュールな光景でしたねー>>

「フェイトおぉぉぉぉぉ!? あーもう! ったくなんであたしが……」

「……とりあえず動いたほうがいい」

「わーってるよ!! ッくそっ!」

アリスとアルフがそれを合図に真逆の方向に飛び去る――刹那、寸分違わずその足元を鉄杭が射抜き
再び轟音を響かせる。爆風によって立ち昇った砂埃を吹き飛ばすように突き抜けて
彼女たちはその視線を交差させた。

「んで、どうすんだい!?」

「逃げ続けてもここを破壊するだけだから」

<<そうですね。少し動けなくなってもらいましょうか>>

「動けなくするだぁ? 策はあるんだろうね?」

「ある」

<<簡単ですね。要するに向こうはこちらだけを狙っているのですから>>

オラクルの言葉にアリスは短く頷き、ちらりと傀儡兵を見やる。
そこにはやはり先程のフェイトにした対応と同じように、アルフを完全に無視しアリスだけを狙う
傀儡兵の姿があった。

「適当に避けてるから、アルフがヤッて」

<<よろしくお願いします>>

「ってぇ!? あたし任せなのかい!!」

「合理的。……ラウンドシールド」

<<ラウンドシールド展開>>

言いつつ、アルフと大きく距離を取ったアリスは、その左腕に不可視の円盾を展開し傀儡兵から射出された
鉄杭に対応する。ネタの割れた攻撃に対して真正面からプロテクションを張るような事は、もう無い。
アリスはラウンドシールドの表面を掠らせるようにして鉄杭を後方に受け流す。
後方で軌道を逸らされた鉄杭が庭園を盛大に破壊するが、それを見る事もせずアルフに再度声を掛ける。

「はやく」

「あーもう!! わかったよ! 躱し損ねておっ死ぬんじゃないよ!!」

叫ぶと同時に傀儡兵に向かって行くアルフを見て、伝えるつもりは無いのだろう。
ボソリとした口調でアリスは返事とは言えない返事をする。

「大丈夫、逃げまわるのは得意」

<<十八番ですからね。魔力撹乱は?>>

「開始」

<<了解、魔力細分化を開始>>

自己魔力撹乱。彼女の特殊技能であり、管理世界ではレアスキルと呼ばれる能力。
自身の魔力を分裂と結合を用意て相手に魔法の威力や強度を誤認させるスキルだ。

「あとは待つだけ。オラクル、ラウンドシールドを強化」

<<了解しました、補助デバイスを回します>>

その言葉に反応するようにして、左後方に配置していたクリスタル型補助デバイスが
円盾を展開しているアリスの左腕に寄り添うように移動し、腕を中心に展開されていた円盾を
まるで吸収するかのように取り込むと、今度はそのままクリスタルを中心に再展開される。

「がんばれがんばれアルフ」

<<がんばれがんばれアルフ>>

魔力撹乱のせいで精細を欠きはじめた傀儡兵の射撃を、躱し、時には弾きながらアリスとオラクルは
そんなやる気のまったく感じられないエールをアルフに聞こえない程度の音量で、贈りだした。



「(ったく……聞こえてるっての……! 狼の聴覚をなめてんじゃないよッ)」

そんな応援とは言えない声を後ろに聞き、心の中で悪態を吐きながらもアルフのその瞳には
爛々とした戦闘欲が輝いている。

「癪だし自分ん家のブツをぶっ壊すのは気が咎めるけど、さっきのお礼はキチっとしないとねぇ!!」

なんだかんだと言いつつも、先ほど吹き飛ばされた事はしっかりと根に持っていたのか
しっかりと拳を握りしめ、突撃するようにしてアルフは傀儡兵に嬉々として飛びかかり利き腕を振り上げる。
――狙いは右足の膝関節。アルフに対して注意の欠片も向けない傀儡兵に対して、攻撃を仕損じるなどという事は、あり得ない。
完璧に、完全に、そして正確に、打ち込まれたその拳に傀儡兵は為す術も無く悲鳴のような破壊音を轟かせた。

「へっ! これで狙いが付けられないだろうさ、我ながら律儀だねぇあたしも」

拳を受けた膝は完全に陥没し、膝から下が本来曲がるべきでは無い方向に折れ曲がっている。
右足を失った傀儡兵はあさっての方向に鉄杭を射出しながら、まるで助けを求めるように空いていた手を上空に向け
仰向けに倒れていく。

「次は頭だ! こいつで大人しくなってもらうよ!」

そう息巻くアルフ。彼女は勝利を確信している。当たり前ではある、そも戦いですらない。そんな一方的な蹂躙であるはずだったのだ。
疑う余地などあるはずがない。彼女はこれから自分が傀儡兵の頭を破壊する映像が、まるで未来を読み取ったかのように鮮明に写っていたし
この状況で最早その映像を、映像の再現を、覆す術は無い――無いはずった。
故に、彼女は見逃してしまったのだ。天を掴むように伸びた傀儡兵の片腕が、助けを求めるように伸びていた手が、虚空に召喚された
戦斧を掴みとった、その瞬間を。

短い風切り音を発し、銀閃が走る。その刃は天から落ちる断頭刃のように、美しい軌跡を描き彼女に迫る。
躱せない。躱す事ができない。音に反応した彼女の瞳に振り下ろされる銀の刃が微かに写るが、攻撃体勢に入ってしまった彼女には
どうしようもないタイミングだ。数瞬後には上半身と下半身が泣き別れになった屍を晒すだろう事を想像し、アルフは声無き悲鳴を上げるが――

「スティンガースナイプ・ファスト」

<<ファストモード>>

「ぎゃん!?」

その"声なき悲鳴"は次の瞬間、しっかりと音声を手に入れて、彼女の口から吐き出された。
アルフには知覚出来なかった戦斧の一撃だが、離れた位置に居たアリスからは当然の事ながら丸見えであり、対応を取るのは然程難しい事では
無かったのだ。戦斧を魔力弾で叩き落すのではなくアルフを低威力の魔力弾で弾き飛ばす方法を選んだのは、ただ単に弧を描く戦斧を
偏差撃ちするよりも停止しているアルフの尻を叩き飛ばした方が成功率が高い、それだけの事だ。まぁ禍根は残りそうではあるが。

「な、ななななななな!! 何すんだい!?」

「救援成功」

<<ナイスヒットですマスター>>

「だッ!! くぅぅぅぅぅ!! 他に方法がなんかあっただろう!?」

尻をさすりながら、凄まじく口惜しげにアルフは罵声を飛ばす。
速さを重視し威力を極力落とした魔力弾だったからだろうか、ダメージは殆どない。だが、肉体になくとも衣服にはあったようで
臀部を覆っていたショートパンツは魔力弾の直撃によって綺麗に円の形で焼け焦げていて、形の良い尻が丸出しになっている。

「ない」

「んなハズがッ! ……って!傀儡兵の奴は!?」 

アリスに食って掛かろうとするアルフだが、つい数瞬前に自分を死の淵へ叩きこもうとした相手を思い出してすぐに戦闘態勢に
戻る――が。

「こりゃ……自滅……かねぇ?」

「ビクトリー」

<<まぁあの体勢であんな攻撃を出せばこうなるでしょうね>>

そこには、自分の斧で自分の首を、綺麗に切断し果てている傀儡兵の姿があった。頭を潰そうと移動したアルフを狙って刃を落とせば
こうなる事は自明の理。もしアルフが避けられずその身体を切断されてしまったとしても、この結果は動かなかっただろう。

「はぁ。ま、所詮は機械人形だったって事かね」

「ん」

なんとなく欲求不満、まぁアルフにしてみれば自分で傀儡兵の頭をかち割る事が出来ず、さらに助けられた方法も微妙であり
気がついたら敵が自滅していたのである。この握りしめた拳はどうすればいいのか。そう考え――ふと疑問が頭をよぎる。

「つか、なんであたしは攻撃されたんだい? あたしは不法な侵入者でもなんでもないハズだよ?」

「んー」

<<まぁ普通に考えたら、殴ったから敵性判定されてしまった。という所でしょうね>>

「想定内」

「んじゃなにかい? あたしが標的になることはなんとなく分かってたってのかい!?」

「……」

<<……>>

「おいぃ!? そうならそうと一言位言えって言うんだよ!!」

「大丈夫。ちゃんとフォローした」

「結果論だろーが!?」

がーっと捲し立て、頭をぐしゃぐしゃと掻きながらアルフは声を荒げた。
しかしそんな文句がもう意味の無いものだと気がついてはいるのか、最後にため息を吐きながらアリスに背中を向ける
ようにして喋り出す。

「はぁ、アンタと居ると疲れるわ……。でもまぁ助けられたのは事実だからね、礼は言っておくよ。ありが――」

「つんつん」

「トウッ!? ふひゃぁん!?」

いきなり感じた異常な感触に、アルフはたまらずいつもとは違った、妙に色気のある悲鳴をあげる。
理由はわかっている。どこを触られたのかもわかっている。尻だ。尻を突かれた。先ほどの魔力弾で無防備になった
尻を指でちょこんと突かれたのだ。がばちょ、と後ろを振り返り顔を真っ赤にしながらアルフは叫ぶ。

「あっ、あっ、アンタはー!! 今度はなにすんだい!!」

「ん」

「あぁん!?」

尻をぷにぷにと突いた下手人――まぁアリスしか居ないのだが。
アリスは、別段悪びれる様子もなく、その指を今度は何を無い空間を突くようにして、くいくいっと指差す。
そこには先程と同サイズの傀儡兵が二体。さらに後方からは下半身が蛇ような形をした、鎌を持った小型の傀儡兵が
闇から這い出すように大量に沸き出そうとしている、そんな地獄絵図が展開されていた。

「お、おいおい……こりゃ不味いんじゃないの……?」

「むう」

<<唸ったって敵は消えてはくれませんよマスター>>

そうしている間にも次々と沸き出る傀儡兵が、鎧のようなものを擦り合わせ、がちゃがちゃと音を立てながら
目と言っていいのだろうか、モニター部を暗く輝かせながらこちらへ向かってくる。
その輝きには愉悦も無く、恐怖もなく、高揚もない。ただ、敵を殺す。そんな冷たい意思が宿って見えた。

「どーすんだい! 一杯出てきちまったじゃないのさ!」

「策がひとつ」

「あるのかい!?」

アリスはそう言うと、そのまま上空に飛び上がり睨みつけるように傀儡兵を見渡す。
その数もはや十や二十では聞かないだろう。その大群を見てアリスは、ふっ、と口を歪ませ感情の篭らない声で
その"策"を披露したのだ。彼女がもっとも得意としている、その技能を。

「必殺――逃げるが勝ち」

<<クイックムーブ発動>>

短く声を残し、一瞬にして視界から消えるアリス。その姿を呆然とした様子でアルフは傀儡兵と一緒に見つめて――
次の瞬間、大きく息を吸って、吠えた。

「待っっっったらんかーーーーーーい!!」



「あ、ついてきた」

<<結構早いですねー>>

後ろをチラりと確認したアリスは、さも意外だ、と言う表情でぼそりと呟く。
高速で逃げるアリスに、気合で追いすがるアルフ。もはや誰が何から逃げているのかすら
分からなくなってきている。

「当たり前だろーが! あんなのに立ち向かえるかい!」

「アルフならなんとかなるかなーって」

「なんとかなるかい!!」

怒号を撒き散らしながらアリスとアルフは先程倒した傀儡兵を飛び越え、城内に逃げ込んでいく。

「って城内!? 何考えてんだい! 逃げるなら庭だろう!?」

「庭は広いから囲まれてぼこぼこにされる」

<<室内の狭い場所に逃げ込んだ方が都合は良いでしょう>>

「普通はそうだろうけどさ! "ココ"は違うんだよ!!」

その叫びを、アリスは城門を抜け、ホールを越えた場所で聞いた、聞いてしまった。
ホールの先――そこは大きな竪穴の大空洞になっており、見た目とは全く違ったその構造にアリスは冷や汗を流す。

「……ひろーい」

「だーかーら! 言わんこっちゃない!!」

<<オゥ……>>

そしてその大空洞の上から悠々と、先ほど現れた二体の巨大な傀儡兵をさらに上回るサイズの傀儡兵がこちらへと
向かってきている。その数三体。そしてそのどれもが、無骨な重武装である。
さらに後ろからは、見たくもないが、黒い点がちょこちょこ見えてしまう。恐らく小型、中型の傀儡兵が
追ってきているのだろう。逃げる度に数が増えるので悲惨な事になっている。

「にーげろー」

「あーーもーー! どこまで行く気だい!!」

下へ下へと全速力で逃げる彼女達だが、追う傀儡兵もさるもの。追いかけながらも執拗に攻撃を加えてくる。
プロテクションも張らずに逃げに徹する彼女達には一撃が致命傷である。
アリスは魔力撹乱をしつつ、アルフは正に野生の勘と言わんばかりの回避力を見せるが、やはり限度と言うものがある。
雨あられと降り注ぐ槍、鎌、斧、鉄杭の嵐に、ついにアルフが捉えられてしまう。

「(く――ッ!)」

心のなかで盛大に毒づきながらアルフは反転し、唸りを上げながら己に向かってくる濃密な死の気配と相対する。
戦斧が一本、戦斧一本だ。軌道は確実に自分を捉えている。投擲されたのだろうその戦斧は風車のように回転し眼前に迫る。

「(しくじった、予想よりも速度があるッ)」

向き直り、完全に停止してしまった彼女には回避はもう不可能だ。
どの方向に飛ぼうとも四肢の何れかを犠牲にする事になるだろう。回避は出来ない――であれば

「防ぐしかないねぇ!!」

やけくそと言った具合に大声を上げ、ラウンドシールドを展開する。だが脆い。
元々アルフは防御には向かない性質だ。まどろっこしい小手先や防御等は全て無視し、突撃、破壊を持って
敵を制圧する戦いをもっとも得意としている。防御魔法が使えない訳ではない、補助魔法が使えない訳ではない。
だが、その魔法には含蓄がない。それは一般に、付け焼刃と言われるものだ。

「チィィィ!!」

アルフの円盾は戦斧の威力を完全に殺す事は出来ず、斧自体は弾き飛ばしたものの、反動で上半身を持っていかれ
大きくその体勢を崩してしまう。迫る敵の大群そして現在は逃走中、その隙は致命的と言える。
ガリッと、音がする程にアルフは歯を食いしばり、大きく目を見開く。
その瞳に映るのは先ほど弾き飛ばした戦斧よりも大型の斧、いや槍斧と言ったほうが正確だろう。
獲物を大きく振りかぶり、彼女を破壊しようと必殺の一撃を繰り出す傀儡兵の姿だった――が。
その刃が彼女に届くことは、無い。

「フォローはおまかせ」

<<スティンガースナイプ・モードアサルト>>

オラクルから強烈な緑赤の光りが迸ると同時に大型の魔力弾が傀儡兵の肩口を吹き飛ばす。
射程範囲こそ短いがその分炸裂力を重視した、アリスが得意とする魔力弾バリエーションの一つだ。

「フォロー二回目」

「くぅ! わ、わかってるよ!」

「でもごめん」

<<少し威力を出しすぎましたかね>>

「え? なんだって?」

謝るアリスに、背筋が凍る程の嫌な予感を覚え、今しがた肩を吹き飛ばされた傀儡兵の挙動を伺おうとするが
それはすぐに悲鳴に変わった。なぜなら、爆発の威力が高すぎたのか炸裂の反動で錐揉み回転をしながら
こちらへと墜落してくる大型の傀儡兵を見てしまったからだ。

「しっぱいしっぱい」

「くっ、おっ、くおぉぁあああああぁあぁ!?」

もはや悲鳴であるかどうかすら怪しい雄叫びを上げて、二人は墜落する傀儡兵に巻き込まれ城の底へと墜ちて行った――。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「(急がなきゃ!)」

疾走するフェイトの頭の中は、二人の安否で一杯だった。先程から最悪の光景が頭を過ぎって仕方がない。
あの二人なら大丈夫――そう思う反面、アルフが吹き飛ばされた光景が、今も脳裏にこびりついて離れない。
城の最下層まで頭から滑空するように黄色い魔力残光を引き、一直線に飛ぶその姿は
さながら黄金の流星であるかのようだ。そしてその勢いのままに、最深部、玉座の間に突入する

「母さん!」

大声で呼びかけるフェイトだが、彼女を待っていたのは暖かい出迎えなどではなく――全身を引き裂く雷撃だった。

「がぁッ!?」

「フェイト……何をしているの? 貴女にはジュエルシードの捜索を頼んだはずなのだけれど?
それがどうして今、ここに、居るのかしら。しかもネズミまで連れて。ねぇ?」

身を焼き切るような電流が彼女の身体を弄るようにして絡みつく。
電流の弾ける大きな音と、ショックにのたうち回り、身体を大きく撥ねさせて床を打つ音
そして何かが焦げる厭な臭い……それらが玉座の間を支配し始める。

「ぐっ、あああぁぁっ」

「ねぇ教えて頂戴。フェイト、どういう事なのかを」

まるで容赦の欠片も感じさせない拷問と言っても過言ではない仕打ちを、"母さん"と呼ばれた妙齢の女性は
淡々とフェイトに与えていく。その顔には怒りも、まして好奇の色も浮かんでは居ない。
本当に、つまらない物を見るような――いや、視線すらフェイトに向けられていないようですらある。

「ぎっ、あぁぁぁっ! ジュエルシードをっ 持った……人を連れて……!!」

「……ふん」

ジュエルシード。その単語にようやくフェイトに対する興味を取り戻したのか、侵入者のせいで
騒がしくなっている上層階――天井から視線を戻し、身体を震わせ、絞り出すようにして声を発した
少女に近寄って行く。コツコツ、とヒールを鳴らしフェイトの目前まで来た女性は魔力で蹲る少女の身体を
仰向けに転がし言葉の先を促す。

「ジュエルシードを持った人間、と言ったわね」

「は、はい……母さんと……知り合いだからって」

「……あぁ、そう。そんな口車に乗ってここへネズミを態々連れてきたと言う訳ね?」

その言葉を聞き、今度は明確に怒りの色を瞳に宿し、女性はフェイトを睨みつける。
右手の指先には帯電する雷を纏い、手の甲は小刻みに震え今にも目の前の少女を焼き潰してしまいそうな
そんな雰囲気を漂わせている。

「か、母さんと話して……それからジュエルシードを渡す……って」

「フェイト。私はね、ごっこ遊びをしている訳ではないの。分かってくれていると思っていたけれど
どうやら思い違いだったようね。いいわ、今からそのネズミを潰してあげる。貴女の目の前でね。そうすれば
少しは目が覚めるでしょう?」

「母さんっ、ま、待って……」

ふたたび硬いヒールの打鍵音を響かせながら、自分から離れ扉へと向かう黒髪の女性に
フェイトは雷撃を受け一時的に感覚を失い満足に動かなくなっている身体を精一杯引き摺って
黒髪の女性に追い縋る。

「待って、待ってくださいっ! 母さんのことを、プレシア母さんのことを友達だって、アリスは……アルテッサは!」

「――なんですって?」

フェイトの口から掠れた声で微かに聞こえた名前、それを聞いて黒髪の女性――
プレシアと呼ばれた女性は、ピタ、とその歩みを止める。

「フェイト、なんて言ったの? もう一度名前を教えて頂戴」

「えっ、アリ……アルテッサって」

今度こそ、正確に少女の口から零れ出た名前を耳にして、プレシアは今まで頑なに無表情だったその顔を歪ませる。
初めは困惑の、次は疑念の表情浮かべ、そして最後には大きく口の端を吊り上げ哄笑を上げる。

「フフフ、ハハ……アーハッハッハ!」

「か、母さん?」

「友達? 友達ですって? アルテッサが? アハハハ! 馬鹿ね、本当に馬鹿だわ! アハハハハハ!」

いきなり大声を上げて笑い出したプレシアを前に、フェイトは混乱するばかりで、二の句を継げない。

「ハハハ! ……いいわ、会いましょう」

「母さん!」

今までまったく違う、その色の良い返事に少女は嬉しさを滲ませる。
それは、これでアリスが救われるから、と言うよりもプレシアが自分の意見を、提案を、受け入れてくれた
その事に歓喜を覚えているような、そんな声色だった。

「意味が、本当に意味が分からないけど。会いたいと、会えると言うなら会ってあげましょう
これは正に、フェイトが持って来た――運命という事かもしれないわね?」

「母さん……」

震える身体に鞭を打ち、なんとかその場から立ち上がったフェイトは久しく見なかったプレシアの、母の笑顔に
心が安らいでいく感覚を覚える。そして、ふと、思い出す。何故自分がここに急いでいたのか
今、アリスがどんな目に遭って居るのかを。

「か、母さん。それで、今アリスが襲われているから、傀儡兵を――」

止めて、と。言おうとしたその瞬間。
大きな爆発音と共に天井が崩壊し、傀儡兵の残骸と、瓦礫と、瓦礫に埋もれるようにして
飛び出した黒いストッキングを履いた足と、そして何故か尻を露出したアルフが
母の、自分の大切な母の、その頭上にピンポイントで降り注いで行く様を目の前で目撃し――

「か、かあさーーーーーん!?」

フェイトは本日二回目となる絶叫を上げた。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「ねぇ聞いているの?」

「聞いてる」

アリスは自分に掛けられた女性声に、泥の中に埋没していた意識をゆっくりと浮上させる。
そう、どうしてこうなったか、だ。それを考えていたのだが、結局しっくりとくる回答は
自分の記憶からは見いだせず、目の前で揺らぐ琥珀色の果実酒を舐める。順を追ってもなぜこうなったか解らない。

庭に転移し、傀儡兵に襲われ、逃走し、撃墜した大型の傀儡兵に巻き込まれて城の最下層へと転落。
激突の衝撃で、もうもうと立ち込める埃を振り払うと、目の前には頭から血を流して爆笑する黒髪の女性
プレシア・テスタロッサと、大口を開けてピクピクと震えるフェイトが居た。

自分のやった事と言えば、そのときに、やっほー。と爽やかな挨拶をしたのと、なぜか妙に暗く、硬直していた場の雰囲気を
和ませる苦肉の策として、上半身を瓦礫に突っ込み足をばたつかせてもがく尻だけ星人(アルフ)の臀部を
パンパンと楽器のように叩いてリズムを取った事くらいだ。意味はなかったが。
あぁ、そういえばあの後フェイトを宥めるのは大変だった。そんな事を思っていると、再び女性の声に意識を呼び戻される。

「そう? じゃあ貴女は私の計画を聞いて、どう思うかしら?」

「賛成は出来ない」

即答する。彼女、プレシア・テスタロッサが酒を飲みながら語った計画。
膨大な魔力を秘めたロストロギア・ジュエルシードを使い次元の扉をこじ開け、古の土地、アルハザードに辿り着く。
それが彼女の計画であり、願いであり、選択だった。
アリスは、人の選択や決断に対して基本的には肯定し、背中を押す。だが今回ばかりは諸手を挙げて賛成という訳には
いかなかった。何せ余りにも問題が山積しすぎているのだ。

まず、ロストロギア・ジュエルシードの強奪。これに関してはもう言い訳のしようがない程にヤッてしまっている。
先程、どうしてジュエルシードが降り注いだのかと聞いたとき、事も無げに自分が撃墜したと言い放ったからだ。
さらにそのせいでアリスが小さくなってしまった事を知ると、プレシアは悪びれるでも無く大爆笑しはじめたのだ。

「へぇ……でもここで反対して、まさか無事に帰れるなんて思ってはいないのでしょう?」

「ない」

再び、アリスは即答する。
そして、琥珀色の果実酒に落としていた視線を、女性――プレシア・テスタロッサへと向け、嘆息する。
プレシア・テスタロッサは分かっている。これからアリスがどういう選択をするか、それを分かった上で、回りくどくネチネチと
問うているのだ。だからこそ、先程からアリスが度々思案に没入しても、文句も言わずそれを口端を歪めながら眺めている。
まるでアリスの苦悩が娯楽だとでも言うように。

「(それならこっちもゆっくり考えればいい)」

アリスは再び手元に視線を落とす。
強奪に続き、二つ目の問題だ。アルハザードへの扉を開くためにジュエルシードを使用するとして、その制御は完璧であるのか。
これほど大きな魔力を持つロストロギアだ。制御の失敗、その代償は己の死だけでは済まないだろう。

地域の死。いや、一世界の死すら十分に有り得る。さらに制御が完全だったとして、開いた扉は本当にアルハザードに通じているのか。
プレシアは、なにやら絶対の自信を持っているようだが……聞く限り、ある程度周到に計画されていたので
先程頭を打った拍子にオカシクなったという事ではないのだろう――そう思いたい。

「……フフ、貴女が何を考えているのか。手に取るように分かるわぁ。貴女が気になっているのは、そこではないでしょう?」

「うるさい」

ちゃちゃを入れてくるプレシアに、アリスはちょっと不貞腐れたような口調で返す。
その返答を聞いて、プレシアは更に笑みを深めているのだが、それがアリスの目に入る事はなかった。
だが、事実。彼女が気になっているのは上記の事柄ではない。いや、勿論気にしていない訳ではないのだが
それでも一番引っかかっている事では、無い。そしてその引っかかりとは――

「(フェイト……アリシア……)」

そう、これだ。
この二人の関係についてはプレシアから聞いた。特に隠す事でもないと言うように、とても軽く。あぁ、そんな事。と。
彼女は愕然とした。だがそれはプレシアに対してでは、無い。

その話を聞いて、怒りも覚えず、憤慨もせず。ただ、成程そうだったのか。と、ストンと、納得してしまった自分に対して、だ。
まるでパズルでも解けたかのようなあの感覚。あり得ない事だ。通常の感覚では決してあり得ない。許されるべきではない。
こんな、非人間的な感性は。

「さぁ、アルテッサ答えてちょうだい。貴女はどうするの? どうするべきだと思っているの?
貴女のその"完成されてしまった"精神で、どういった選択をするのかしら?」

プレシアはその場で立ち上がり大きく手を広げ、まるで女優のように大仰な身振りをしながらアリスに回答を促す。

「(元から選択肢なんかない)」

アリスは手にした果実酒を口元へと運び、その黄金色に輝く液体を一気に口腔内に流し込んでいく。
こくこく、と首が鳴り、口の端から喉を通らなかった液体が首を伝って零れ落ち、ささやかに膨らむ胸元へ吸い込まれていく。
やがて全てを胃の中に収め、空いたグラスをテーブルに置くと同時に、絞りだすようにか細い声で――

「私は――」

――その選択を、プレシアは、半月を描くように大きく口を歪ませて、聞き届けた。



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