「ルシフェリオン、機能回復……。戦闘用全モード、使用可能。ディアーチェはいかがでしょうか?」
遅れていたルシフェリオンの機能が回復し、ようやくシュテルも戦闘可能になった。
「うむ。駆体は無事に復帰したが……機能は回復しきっておらぬ。現状での出力限界は八一%と言うところか」
ディアーチェの王杖であるエルシニアクロイツは完全稼働しており、システムU‐Dを制御する中枢ユニットである紫天の書にも問題はない。現状でもなんとか戦闘は可能であった。
「力があふれる……とまではいかんが、これならば十分に戦える」
ディアーチェの回復が遅れていたのは、本来自分が回復用に回すリソースをシュテルとレヴィに振り向け、とりあえず臣下の二人の回復を最優先させたからである。口ではなんだかんだと言いながらも、仲間思いの王様なのであった。
「王様、よかったーっ! 戻ったーっ!」
「フン、騒ぐなレヴィ! 当然よ」
感極まって抱きついてくるレヴィを適当にあしらいつつ、胸をそらし、あくまでも尊大な態度を貫くディアーチェ。ここが本局の独身寮にあるユーノの部屋でなければ、かなり感動的なシーンだった。
「まあ、良い。それよりも、現状はあまり思わしくないようだな?」
今頃本局のアースラスタッフは、ユーディ対策に追われているところだろう。ユーノもアミタを見舞いがてらアースラスタッフに合流しているし、プレシアとリニス、リインフォースは引き続き無限書庫で対応策を検討している。
「それについて、状況解決の策を用意してあります」
「シュテるん、さっすがぁっ!」
しかし、その策を聞いたディアーチェとレヴィは、思わずお互いの顔を見つめあう。
「私が理のマテリアルと言うのは、伊達ではありませんよ」
「いや、しかしだな。それは……」
「そうだよ、シュテるん」
「……褒めてもらえるとは、思っていませんでしたから。お気になさらず」
普段ならここで『シュテるんすごい! かしこい! カッコイイ! イエー! ぱちぱちぱちー!』と言うレヴィの賛辞に、シュテルがスカートの裾を摘まんで貴婦人の礼を返すところだが、今回は様子が違う。
シュテルの提案した策。みんなには内緒の内にこの三人でユーディの元に向かうというのは、流石に少々無謀なのではないかと思えるのだ。
「なにしろ、現状ではこれが最善策ですから」
こう言って、シュテルは自分の主張を譲らない。もし、この事をユーノが知れば、きっと自分達の行動を阻止する事だろう。だからこそのこの行動は、秘密裏に行わなければならなかった。
「……そっか、このままじゃ、たぶん間に合わない……」
珍しく真剣な表情のレヴィが、小さく頷いてシュテルの策を肯定する。
今頃ユーディは着々と力を蓄えているだろう。現時点でユーディの再起動が先か、アースラスタッフの準備完了が先かと言う状況だ。ユーディの再起動が完了する以前に先制攻撃しておくのは、確かに最善策だ。
「そうときまれば。ほれ、さっさと行くぞ」
無謀な行動とはディアーチェも思う。しかし、いつまでもここで手をこまねいているわけにもいかない。ディアーチェの最終目的は、システムU‐Dを、砕け得ぬ闇を紫天の書の内に収める事にある。そのためには、多少無謀であってもシュテルの立てた策に乗るしかないのだ。
そして、その暁には真に闇を統べる王になる。それがディアーチェの野望だった。
「邪魔な塵芥が現れましたね……」
ユーディの再起動に合わせ、活性化した闇の欠片がシュテルの前に現れた。復活後の肩慣らしには丁度いい相手であると言えるが、その相手を見た途端にシュテルの形の良い眉がくいとつり上がる。
「ふむ。我々の断片まで現れるのですね……。ユーディの再起動が近いのが原因でしょうか」
「うぬはなんぞ。なにゆえ我が前に現れた……?」
その相手とは、シュテルが最も敬愛する王のマテリアル。ロード・ディアーチェだった。
「断片風情が、その姿でその口調はやめてください。私達の王がけがれる気がして、不愉快です」
「貴様も単なるマテリアルの一片であろうがよ。我がここより復帰して、貴様等の王を喰ろうてやるわ」
「……マトモな会話が成り立たない。度を超えた馬鹿でいらっしゃいますか? それでは、馬鹿にもわかりやすくお伝えしましょう」
表面上は冷静だが、その内側には炎にも似たたぎる思いを秘め、シュテルはゆっくりとルシフェリオンをディアーチェの闇の欠片に向ける。
「王を騙る無礼者は、この私が殲滅しますっ! 灰すら残さず、消え果なさいっ!」
デストラクターとしての能力を会得し、さらに炎熱変換という資質を持つシュテルの魔導はその攻撃の全てにおいて炎をまとう。
「ブラストファイヤー!」
「お~の~れぇ~……」
ディアーチェの闇の欠片は一瞬にして炎に包まれ、呆気なく勝負は決まる。
「所詮は断片……。王を見上げる事すら許されないレベルでしたね」
光に包まれた闇の欠片が消え、一息ついたところで通信ウインドゥが開く。
『シュテル! 復帰早々で戦闘してたみたいだけど、大丈夫っ?』
「……ああ、ナノハ。断片が出たので殲滅したまでですよ。戦闘ですらない、単なる焼滅処理です」
心配している様子のなのはに向かい、シュテルはいつも通りの冷静な口調で応じる。
『そう。怪我とかしてない? シュテルは強い子だけど、復帰直後なんだから……。あんまり無理とかしないんだよ』
「ええ、ありがとうございます。問題ありませんよ」
この人は相変わらずお優しい。自分の事よりもまわりのみんなの事に気を配る。そう言う意味でなのははシュテルの理想であり、目標でもあった。
「それにしても……。先程闘った断片は王の偽物でしたが……。身内の偽物と言うのは、なかなかに不快なものでした」
ふとシュテルは真剣な瞳で、ディスプレイの向こうにいるなのはを見た。
「ナノハは……あなた達は、よく我々の存在を受け入れてくれたものです」
いきなりユーノの部屋に来た時も、ユーノは多少困ったような表情をしたものの最終的にはシュテル達を受け入れてくれた。なのは達にしてみれば、シュテル達はその姿を模したコピーだ。その存在は、どう考えても好ましいとは言えないものだろう。
『んー……。はじめて会ったときは、もちろんびっくりしたけど。不愉快って思った事はないよ』
その時はちょっとした誤解と行き違いから戦闘になってしまったが、そうやってわかりあえた存在だからわかる事がある。
『だってシュテルは、別に私の偽物ってわけじゃないしね。ジャケットの形状が一緒の色違いで、お揃いなんだなー、ってくらいで』
そのせいか、なのははシュテルを妹みたいに思ってしまう。もしも自分に妹がいたら、きっとこんな感じなんだろうか、と。
「……そのくらいですか?」
『うん、それくらい』
これにはシュテルも拍子抜けだ。でも、なのはがそう言う性格の持ち主だからこそ、こうして仲良くなれたのかもしれない。
「あなたはやはり面白い方です。ユーディの件が片付いたら、また私と闘っていただけますか? あなたの事をもっと知る事が出来たら、私はさらなる高みに登れるかもしれない」
『うん、もちろん。あ、でも非殺傷設定は覚えてね? 設定の仕方、教えてあげるから!』
そう言えば、以前ユーノと闘った時も非殺傷設定ではなかった。よく師匠は無事でしたね、とシュテルは内心冷や汗ものだった。
「わかりました。教えていただきます」
これで師匠に迷惑をかける事も無いだろう。
「では、他にも断片がいるようですので……」
ごきげんよう。と、シュテルが通信を終えようとした時だった。
『そこでなにをしてるんだっ! シュテル!』
「師匠……」
『え? ユーノ君?』
突然ユーノから通信が入った。通信ウインドゥには少し怒ったようなユーノと、いきなりだったので動揺しているのかきょとんとした表情のなのはが並んで映っている。
『本局からいきなりいなくなったから、心配したんだぞっ! それに、体だってまだ本調子じゃないじゃないか』
「すみません、師匠」
言えばきっと止められる。知ればきっと連れ戻される。それがわかっていたからシュテル達は、誰にも告げずにここにやってきたのだ。
『とにかく、すぐそっちに向かうから。くれぐれも軽率な真似だけはしないように! いいねっ?』
『ええ? ちょっとユーノ君?』
まだなにか言いたそうなナノハを半分無視する形で、ユーノは強引に通信を切る。
(師匠に気づかれてしまいましたか……。もう時間的な余裕はなそうですね)
こうなった以上は、もはや一刻の猶予もない。王の覇道とシュテル達の悲願。どこの誰にも邪魔をさせないため、行く手に立ちふさがる有象無象どもをルシフェリオンで手早く素早く焼滅し、シュテルは一路ユーディを目指して突き進んでいくのだった。
「うえぇ、シュテるんの断片? こういうのもいるのか!」
レヴィの前に立ちふさがったのは、意外にもシュテルの闇の欠片であった。
「邪魔です……どいてください。私が、揺るがぬ私であるために……。私は、もっと壊さないと……」
「こりゃあ、いかにもって感じだなぁ……。なんか、ぼんやりぶつぶつと。断片データがバラバラで、朦朧としてるのかな」
あまりにも典型的な闇の欠片の反応に、思わずレヴィは納得してしまう。考えてみると、三ヵ月ほど前に一時的な復活を果たした直後も、なんとなくこんな感じだったような気がする。
「私は、行かないと……」
「どこにも行かなくていいよ……。キミはここで露と消える。うなれ、バルニフィカス・スライサー!」
長柄斧状の形態を取ったバルニフィカスの斧部分が九〇度上方に開き、水色の魔力刃が鎌状に展開する。
「光翼斬っ!」
「うああ……っ! 不覚……っ!」
水色の魔力刃が縦方向に回転しながら勢いよく闇の欠片のシュテルに突き進み、あっさりとその体を両断する。
「へへん。そんな攻撃、全然効いてないよーだっ!」
とはいえ、闇の欠片のシュテルの炎熱砲撃をレヴィは何発かくらっている。偽物であるとはいえ、このあたりのパワーはシュテルと同程度であるせいか、当たったところが地味に熱くて痛い。
「キラリーン! ボクの勝利っ!」
やがてゆっくりとシュテルの闇の欠片が光と共に消えていき、レヴィは勝利の名乗りを上げる。
『レヴィ、戦闘してたみたいだけど、大丈夫?』
そこにフェイトから連絡が入る。ユーディの復活に合わせて闇の欠片も大増殖しているらしく、クロノをはじめとしてなのは達やヴォルケン達もその対策に乗りだしていた。
この出動にはユーディを発見し、捕捉しておくという公算もある。
「む、オリジナルか。ボクならヨユーOKだぞ?」
『そう。ならいいんだけど』
レヴィはいうなればフェイトの能力コピーであるため、性能的にはフェイトと同等クラスの戦闘力を持つ。しかし、子供っぽい行動やアホの子っぽい言動が、どうにもフェイトを必要以上に心配させてしまうのだ。
「あ、そう言えば、君にもらったまん丸三色。あれ、まだとってあるんだけど」
『……? そうなの……?』
実際に手渡されたのはクロノからなのだが、会いに行くならと渡したのはフェイトだったりする。
「アレってすぐに悪くなったりしない? もう少し後までとっときたいの」
『ああ、口をつけたりしてなければ、しばらくは大丈夫だよ。熱いところに持っていったり、湿気が凄かったりすると傷んじゃうかもだけど』
飴は香料や着色料が加えられているものの、基本的には加熱処理した純粋な糖質の塊を乾燥させたものなので腐ったりする事はない。ただし、表面についた雑菌などによる二次感染被害の可能性はある。
「そーか。なら平気かな」
『ね、なんで取っておくの?』
レヴィならすぐにでも食べてしまいそうなイメージがあるだけに、フェイトは興味があった。
「いい質問だ。あれはなかなかいいものだったからね。王様がユーディをなんとかして、ボクら三人の勝利のお祝いに美味しくいただく予定なのさ!」
『そう……それはいいアイディアかも』
「だろー?」
そうなったらユーディの分も用意しないといけないかな、とフェイトは思う。シュテルがイチゴ。レヴィがソーダ。ディアーチェがグレープだから、ユーディはメロンにでもしようかと。
『うん……。ね、レヴィ。ユーディを……砕け得ぬ闇を手に入れたら、レヴィはその後どうするの?』
「別に、なにも考えてない。シュテるんと王様は色々考えているみたいだから、ボクはそれについてくだけ」
『そう……』
先の事まで考えない。と、いうよりも、レヴィは考える事自体が苦手だ。シュテルとディアーチェの考えに間違いはないし、今までだってそれで上手くやってきたのだから、これからだってきっと上手くいくはずだ。
「でも、オリジナル。なんでそんな事訊くの?」
『うん……。今回、事情があったとはいえ、わたし達協力できたわけでしょ? 事件が終わった後も、仲良く出来たらいいなって』
「なんだ。ボクらと仲良くなりたいの? ヘンなの」
所詮は闇の書のプログラムにすぎない自分達と仲良くなってどうするのか。その発想はレヴィにとってはヘンに思えた。
『別にヘンじゃないよ。仲良く出来たら嬉しいし……。わたしはレヴィ達の事、きっといい子だって思ってる。レヴィはもちろん、シュテルもディアーチェもね』
「……やっぱりヘンなの」
『事件が終わったら、もう一度話そう。レヴィ達や王様達の事、もっと知りたいの』
「まー、考えとく。んじゃ、まだ他にも断片がいるから、切るよ」
『あ、うん。落ち着いたらまた話しようね? きっとだよ!』
「はいはい、わかったわかった」
『うん……それじゃ』
妙に心配性なフェイトの姿に、お姉ちゃんって言うのはこんな感じなのかな、とレヴィは思う。キリエとアミタを見ていると、なぜだかそんな感じがしたのだ。
「まったく、ボクのオリジナルはやっぱりヘンな奴だ」
でも、シュテルやディアーチェの事も褒めてくれたのだから、あまり悪い気分はしないレヴィであった。三色まん丸をもらった事もあるし、話しくらいならいいかなと思いはじめていた。
「さーてと。よし、行こうっ! レヴィ・ザ・スラッシャー、ここにありーっ!」
まだまだ断片はたくさんいる。フェイトとの通信で足止めされてしまった分、急がなくてはいけない。雷光の如き動きとバルニフィカスでゆく手に立ちふさがる闇の断片を斬り捨て、一路ユーディを目指すレヴィであった。
「キミは誰だ……? どうして、ボクの前に立つ?」
「フン、レヴィの断片か」
行く手に立ちふさがるレヴィの闇の欠片を前に、ディアーチェはあくまでも尊大な態度を崩さない。
「ボクの前に立つのなら……斬り捨てるまでだ……」
「断片ごときの分際で貴様等の王に刃向かうか? 笑えぬ冗談よ……。頭が高いわっ! 跪けぇいっ!」
「そんなぁ……」
レヴィの攻撃を受け止め、問答無用のバインドで地に伏せさせる。いくら闇の欠片のレヴィの動きが早くとも、オリジナルの変幻自在の動きと比べると単調で動きが読みやすい。攻撃に入るその一瞬の隙をつき、見事なディアーチェのカウンターが決まった。
「ハハハ! 絶望したか? この絶対的な力の差に!」
口ではそういうものの、ディアーチェも結構ぎりぎりだった。実際、このあたりはオリジナルのはやてと一緒で、広域殲滅ならともかく、機動力には全く自信がない。
「ボクは……まだ消えたりしないぞ……」
「やかましいわ。さっさと散れ!」
やがて、ゆっくりと闇の欠片のレヴィの姿が消えていく。どんなに良く出来ていても所詮は偽物。オリジナルには遠く及ばなかった。
『ああ、王様? そっちはどう?』
「子鴉、貴様か……。慣れ慣れしく通信などするな」
通信ウインドゥにはやての姿が映し出された途端、ディアーチェは不機嫌そうな声を出す。
『今は協力中やん。助け合いは必要やで』
「たまたま利害が一致した故、貴様等を利用しているにすぎぬ。慣れ合う気などない」
『まあ、それでもええんやけど……』
相変わらずのディアーチェの態度に、いつも通りやね、とはやては微笑む。
『今はお互いにお互いの力が必要な状況やろ? 情報は共有した方がええし、なにを考えてるのかはわかったほうがええやん』
「ううむ……」
確かに利害関係の一致から、現在は管理局と共闘関係にある。この舞台を用意してくれたユーノとシュテルの手前もあるし、ここは一つ寛大な心で接してやるか、とディアーチェは思った。
子鴉にも、王として器の大きいところを見せてやらねばならぬし。
「まあ、よかろう……。子鴉、用件を簡潔に述べい」
『はぁい。あんな、王様。ちょう聞いてほしいんやけど、この事件が終わったら、みんなの落ち着き先……わたし達に用意させてくれへんかな?』
「……はぁ?」
はやての申し出に、ディアーチェは思わず変な声を出してしまう。この大変な時に、いきなりなにを言い出すのか。これではまるで、死亡フラグだ。
『王様も、ユーディ入手以外は明確な目的とかあれへんみたいやし……。王様が、シュテルやレヴィ達と一緒に暴れられる場所、わたし達が紹介できるかなーって』
「ド阿呆か貴様。誰が貴様等の世話になるかっ! 我らがそこにある場所こそが我らの居場所よ!」
『まー、まー、そーつんけんせんと。無理強いする気はないんよ。単に紹介したいだけや』
「くどいぞ子鴉! 我は王ぞ! 誰に指図される気もないわっ」
どうにもこいつは調子が狂う。はやてののほほんとした笑顔を見ていると、なぜだかディアーチェはそう思ってしまう。
「無礼者が……。その口、今すぐ縫いつけてくれようか? その羽むしって、嬲り殺してくれようか!」
『あう……やっぱりあかんかー?』
「どうせ我らをどこぞに閉じ込めて、隔離しようという腹であろうよ。誰が従うか!」
首尾よく砕け得ぬ闇を手に入れれば、ディアーチェ達は何物にも束縛されぬ自由が手に入る。せっかく手に入れた自由を、むざむざと手放す気はない。
『いや、そんなんちゃうて』
言い方がまずかったやろか。火がついたように怒りだすディアーチェの姿に、はやてはそう思った。
とはいえ、ディアーチェもはやてがそこまで邪な人物とは思えない。それに夜天の魔導書の主となったはやても自由を満喫している様子でもあるし、少なくとも悪いようにはならないだろう。
しかし、主を持たない独立した魔導ユニットを野放しにしておくとも思えない。ここは慎重になっておくべきだとディアーチェは判断した。
(……まあ、いざとなればユーノに相談してみればよいか)
『ごめんなー。ほんとは事件が終わってから話そうと思ったんやけど……。なんとなく、今聞いとかなあかん気がして……』
女のカン、というものだろうか。なぜだかはやてはそんな気がしたのだ。
『ダメかな……。お話、聞いてもらえへん?』
「わかった、子鴉。その話、胸に止めおいてやろう。ただし、我らに不利となるような話であれば、受け入れるわけにはいかぬ……」
『おおきに、後でちゃんと話そうな』
「ええい、通信遮断! もう貴様の話など聞かぬ!」
オカンかお前は、とディアーチェは思わなくもない。しかし、今後の事も考えておくべきだ。砕け得ぬ闇を入手する以外に大した目的があるわけでもなく、かといって入手後になにもせずにいるわけにもいかない。
すごいパワーを手に入れても、どう使うかが決まっていないと逆に困ってしまうのではないか。この時代はかつての戦乱の世ではない。自由や野望のあり方も昔とは違う。ユーノと暮らしていくうちに、ディアーチェは色々な可能性について考えるようになった。
「……む? この振動……! 奴か……?」
さて、どうするか、とディアーチェが悩んだ時だった。突如としてすさまじい震動があたりを揺るがした。