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No.27519の一覧
[0] 転生妄想症候群 リリカルなのは(転生オリ主TS原作知識アリ)【空白期終了】[きぐなす](2013/11/24 21:34)
[1] 第一話 目が覚めて[きぐなす](2011/10/30 12:39)
[2] 第二話 ファーストコンタクト[きぐなす](2011/10/30 12:46)
[3] 外伝 レターオブ・アトランティス・ファイナルウォリアー[きぐなす](2011/11/27 11:19)
[4] 外伝2 真・ゼロ話[きぐなす](2012/01/06 18:20)
[5] 第三話 好感度イベント 三連投[きぐなす](2011/05/25 18:56)
[6] 第四話 裏返る世界[きぐなす](2011/05/06 00:33)
[7] 第五話 希とカナコの世界[きぐなす](2011/05/25 18:57)
[8] 第六話 入学式前の職員会議[きぐなす](2011/05/25 21:56)
[9] 第七話 ともだち[きぐなす](2011/05/09 01:17)
[10] 第八話 なのはちゃんのにっき風[きぐなす](2011/05/08 10:13)
[11] 第九話 シンクロイベント2[きぐなす](2011/05/25 19:05)
[12] 無印前までの人物表[きぐなす](2011/05/09 21:24)
[13] 無印予告編 アトランティス最終戦士とシンクロ魔法少女たち[きぐなす](2011/05/13 17:58)
[14] 第十話 いんたーみっしょん[きぐなす](2011/05/12 20:38)
[15] 第十一話 シンクロ魔法少女ならぬ○○少女?[きぐなす](2011/05/15 10:56)
[16] 第十二話 ないしょのかなこさん[きぐなす](2011/05/16 21:30)
[17] 第十三話 魔力測定と魔法訓練[きぐなす](2011/05/20 07:54)
[18] 第十四話 初戦[きぐなす](2011/05/28 11:40)
[19] 第十五話 やっぱりないしょのかなこさん[きぐなす](2011/05/28 13:40)
[20] 第十六話 ドッジボールとカミノチカラ[きぐなす](2011/06/01 21:14)
[21] 第十七話 アリサと温泉とカミ[きぐなす](2011/06/03 18:49)
[22] 第十八話 テスタロッサ視点[きぐなす](2011/06/05 14:04)
[23] 第十九話 フェイト再び[きぐなす](2011/06/12 01:35)
[24] 第十九・五話 プレシア交渉             23/7/4 投稿[きぐなす](2011/07/04 10:26)
[25] 第二十話 デバイス命名と管理局のみなさん[きぐなす](2011/06/12 15:20)
[26] 第二十一話 アサノヨイチ[きぐなす](2011/06/15 10:50)
[27] 外伝3 おにいちゃんのお葬式[きぐなす](2011/06/25 12:59)
[28] 第二十二話 猛毒の真実 [きぐなす](2011/07/03 23:20)
[29] 第二十三話 悪霊[きぐなす](2011/07/04 13:50)
[30] 第二十四話 おにいちゃんとわたし ……おかーさん[きぐなす](2011/07/10 06:51)
[31] 第二十五話 浅野陽一のすべて[きぐなす](2011/07/17 19:15)
[32] 第二十六話 復活と再会 [きぐなす](2011/07/24 15:55)
[33] 第二十七話 再び管理局と女の友情[きぐなす](2011/08/11 19:20)
[34] 第二十八話 三位一体[きぐなす](2011/08/11 19:10)
[35] 第二十九話 すれ違いの親子[きぐなす](2011/08/11 20:38)
[36] 第三十話 眠り姫のキス[きぐなす](2011/08/20 21:51)
[37] 第三十一話 次の戦いに向けて[きぐなす](2011/08/29 17:50)
[38] 外伝4 西園冬彦のカルテ [きぐなす](2012/03/30 00:12)
[39] 無印終了までの歩みと人物表及びスキル設定[きぐなす](2012/03/29 23:49)
[41] 空白期予告編 [きぐなす](2012/04/03 00:34)
[42] 第三十二話 アースラの出来事 前編 [きぐなす](2012/04/07 19:33)
[43] 第三十三話 アースラの出来事 後編 [きぐなす](2012/04/17 22:13)
[44] 第三十四話 梅雨の少女とさざなみ寮[きぐなす](2012/05/05 18:58)
[45] 第三十五話 わかめスープと竜の一族[きぐなす](2012/05/12 00:36)
[46] 第三十六話 見えない悪意と魔法少女始まるよっ![きぐなす](2012/05/20 15:50)
[47] 第三十七話 アトランティスの叫び 前編[きぐなす](2012/05/29 17:34)
[48] 第三十八話 アトランティスの叫び 後編[きぐなす](2012/06/07 00:32)
[49] 第三十九話 幽霊少女リターンズ[きぐなす](2012/07/11 00:38)
[50] 第四十話 暗躍と交渉、お泊まり会 [きぐなす](2012/09/02 23:51)
[51] 第四十一話 トラウマクエスト そして最終伝説へ… 前編[きぐなす](2012/12/01 14:37)
[52] 第四十二話 トラウマクエスト そして最終伝説へ… 後編[きぐなす](2013/03/09 22:08)
[53] 第四十三話 暴走と愛憎の果てに行き着いた先 前編[きぐなす](2013/04/07 22:40)
[54] 第四十四話 暴走と愛憎の果てに行き着いた先 後編[きぐなす](2013/05/25 14:36)
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[27519] 第四十一話 トラウマクエスト そして最終伝説へ… 前編
Name: きぐなす◆bf1bf6de ID:142fb558 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/12/01 14:37
第四十一話 トラウマクエスト そして最終伝説へ… 前編



ここはデバックルーム、舞台裏のような場所である。プレイヤーは通常入ることはできないし、見ることもできない。ここから俺とカナコがプレイヤーを見守る席である。

今はなのはちゃんたちとシンクロするために波長を合わせているところだ。初期設定から職業選択、オープニングムービー、希ちゃんを除いた三人のアリアハンに至るまでのイベント全部終わるまで時間がかかる。その時間を使ってゲームが始まる直前、俺とカナコは最後の打ち合わせを行っていた。

「俺たちの倒すべき黒い女って結局何なんだ? 俺はおまえの話からまだ覚醒してない希ちゃんが不完全なまま再生させた希ちゃんのおかーさんの魂って解釈していたけど、月の管制人格は精神を壊すことに特化したウイルスで、自律した意志を持ち学習しながら、負の感情を栄養にどこまでも成長するって言ってたし、那美さんたちは悪しき意思とか念でやっぱり負の感情を糧にどこまでも成長するって言ってたからちょっと混乱してる」

黒い女については情報が錯綜していてわからないことが多い。この場である程度考えはまとめておきかたかった。カナコは顎に手を当て一点を見つめながら考えている。しばらくしてふうと息をついて口を開いた。

「どれも決め手に欠いてまだ私にもはっきりしたことはわからない。ただ前に希に母親には悪霊だとか怨霊だとかが憑いてひどいことをさせてるって適当に言ったことがあるけど、それが的を得てた気がするの。あの力は希が死んだとはっきり意識していないと完全には発現しないはずだから、得体の知れない何かの可能性があるのよ。あの子は母親が生きてると信じているからね。だからあなたが危惧してる雷蔵の再婚相手がすべての原因で、虐待の連鎖という名の呪いが希の母の中で負の感情を吸収しながら年月を経て離婚と夫の死で一気に拡大して、虐待という形で二年かけて希へ伝播した。そして、魂を再生させる力で本来は意思を持たないはずの虐待の記憶が黒い女という形を持ってしまったと考えると一応筋は通るわ。希の力は不完全な状態で記憶の断片が少なくても発動することは前のあなたで証明されているもの」

「本当に適当だったわけか。そうだよな。もうアレは希ちゃんのおかーさんですらないもんな」

本当に希ちゃんのおかーさんならば虐待していた期間を除くと浅野陽一が知っている優しかった時期も含まれるはずだからだ。ただもし違うものだったとしたら騙る理由がわからない。

「ここで大事なのはあの黒い女は希の負の感情を増大させて力を強め最終的に希の心を殺すのが目的なのは間違いないってこと。そういう点では私たちを含めどの見解も一致してるでしょう? 」

「結局わかるのはそこだけか… 後は希ちゃんのおかーさんに聞くしかないんだよなぁ」

お祖父ちゃんや伯父の総一郎氏は何も知らない。すべての鍵を握っている希ちゃんのおかーさんが生きて見つからない限り真相は闇の中だ。仮に生きて見つかったとしたどうなるのだろう? どうするべきなのだろう? それはそれで問題が多くて、いろいろ状況を考えてみたがさっぱりわからん。俺は頭を抱えた。気がつくとカナコが袖を引っ張り少し鋭い目でにらんでいる。

「起こってもいないことをあれこれ考えるのは後にしなさい。今は目の前のことだけ考えて! 」

「そだな。続けてくれ」

カナコの厳しい指摘に俺はふうやれやれとため息をつくとオーバーアクションで肩をすくめ、持ってもいないのにライターを付けタバコを吸う仕草をする。葉巻を吸うには年が若いのでくしゃくしゃになったマルボロにジッポライターの組み合わせだ。ヤンキーの国ではワイフの愚痴はこのように聞くと相場が決まっている。

「何よそれ? まあいいわ。じゃあ、まずは希の状況についてのおさらいするからね。今の希は私の力によってあなたと別れてからの二年の虐待の記憶を封印されている。理由はつらい記憶を受け止められなかったから。これは内から外に対しては極めて強力な封印だけど、希の精神状態に左右されるの。前にあなたが消えたときの悲しみで内から簡単に破られてしまった。ただ封印自体は機能していたから毒に関する木の封印だけだったの。ヴォルケンリッターに蒐集された場合を最悪を想定するなら封印そのものがなくなり、ダムが決壊するようにつらい記憶が一気に蘇り、あの黒い女が一気に優勢になるでしょうね。感情は一度悪い方に傾くと良い方に戻すのが難しいの」

「ああ、わかるよ。ん? でも水の封印の時はどうなんだ? 」

「水の中に無理矢理押し込められて息ができないという命の危険を感じる体験をしたから思い出したの。普段ならそうそう起こらないわ。水の核が新たな宿主を見つけて襲ってきた想定外のこともあったし、イレギュラーな事態と考えて、私が押さえているのは記憶の中枢だけど、それだけでは完全ではないの。記憶は手がかりがあれば一気に思い出すものでしょう? だから希本人が思い出す事象に対しては特に弱い。記憶は強い感情を伴ったものは情動の中枢にも刻みこまれている、いえ脳だけじゃない全身に記憶されているの」

「つまり、心や体が覚えているってことだな」

心臓移植された人が心臓の本来の持ち主に似た嗜好に変わってしまったという不思議な話もある。まして全身となると、俺の時に感じていた希ちゃんの症状はそうした理由から起こっていると考えればいいだろう。

「そうよ。幸いこの半年でかなり良くなった。あなたの心で良い体験を積み重ね、身体にしみついた病的な条件反射も取り除かれてきているわ。人間の脳は生理的に刺激に学習して慣れるものなのよ。パブロフのバター犬って有名でしょ?」

「バターが余計だ。バターが」

一気にエロくなったじゃないか。もしかしてわざと言っているのか? カナコはそんな俺の言葉に目を丸くする。

少し真面目に考えるならば、パブロフの犬とは犬にベルを鳴らしてからエサを与える事を繰り返すと、ベルを鳴らしただけでよだれを出すようになるという、条件反射の実験の事を指す。さらにベルを鳴らし続けると次第に反応は消えていくが、数日後同様の実験をしても犬は唾液を分泌する。前者を『消去』と言い、後者を『自発的回復』と言う。希ちゃんには二年の虐待によって病的条件反射が肉体レベルで染み付いていた。年配の女性に対する恐怖心、毒を盛られ続けた経験から食べ物を受け付けない症状が該当する。これは頭で理解していてもどうにもならない。まず身体が拒否するからだ。さらに人間の生活で考えるならば避けられないシチュエーションなので深刻な問題となっていたが、俺という別人格が肩代わりすることで消去は進んでいる。ただ希ちゃん本人ができるようになるにはまだ時間がかかるだろう。むしろ俺がいることで嫌なことを簡単に避けたり肩代わりできるから社会復帰の妨げになる可能性もある。

他にもあまり目立たないが、特定の香水の匂いだったり、陶器やガラスが割れる音でもパニックを起こすほどではないにしろ気分が悪くなったりする。また、水や火や刃物では限定的な状況次第で記憶を呼び覚ましパニックを起こす。俺も苦手だ。カナコの話は続く。

「希も心の奥から出てきてなのはたちと交流して外は怖くない。暖かいものだと知ったことこれが一番大きな成果よ。希は良くも悪くも普通の子とは違うからね」

「違うって、記憶力のことか? 」

「そう。完全に覚えて劣化しない記憶力はいろいろ役にも立った。でも弊害もあるの。前に少し話したわよね? 普通の人間の記憶は時間の経過とともに劣化する。不便かもしれないけど、イヤな記憶も忘れられていくからそうそう悪いことばかりじゃないでしょう? 劣化しないつらい記憶はストレスをもたらすだけで害悪でしかない。つらい記憶を追体験するフラッシュバック現象はパニックを起こして暴れたりするところに注目集めがちだけど、本当の問題は思い出すたびに強く刻まれて、いつまでも色あせないで心に負担をかけ続けるところにあるんじゃないかしら? 」 

……

……

ん? カナコ先生は今大事なことを言ったような気がする。それが心に引っかかったが、今は希ちゃんのことだ。そっちに集中しよう。年寄りが徐々に物忘れがひどくなるのは迫り来る死の恐怖と身体の衰えや近しいものの死のような深い悲しみや強いストレスから逃れるために起こる生理現象という考えもあるから、忘れることは心を穏やかに癒す意味では必要なことなのだ。

以前の希ちゃんは母親の虐待と別離、俺の死による悲しみから現実に絶望した。しかもその記憶はいつまでも劣化せずに希ちゃんを苛むのだ。普通の人間なら頭の隅に追いやることができるかもしれないが、希ちゃんはそうではない。苦しくてたまらないだろう。俺にも察することができる。嫌なことに思考が捕まっているときは次から次へと悪い想像をして悪循環するのだ。しかもわかっていても止められない。俺だって浅野陽一のときに思考法を鍛えたけれど、嫌なことを振り払うのは困難だった。とりとめのないことと次から次に考えて思考誘導したり、カッコいい自分を創造したり、酒と女に頼ったこともある。アトランティスの創作や深夜の髪の手入れはかなり効果的だったと思う。しかし、希ちゃんはうまく処理ができず心が壊れても仕方のない状態だった。そこでカナコはつらい記憶を封じ、イヤなことを思い出さないで済むように記憶を封じて、気力を回復するためのまどろみの部屋で休ませたのだ。

過去を振り返ってみよう。

あの世界を家に見立てるならカナコは自分の部屋に閉じこもって出てこないニート娘をどうにかしようとしている親なわけだ。部屋で休息が必要なことは十分理解している。しかし、現実は進んでいるので学校とかまずいので、替え玉のニセ俺を用意して希ちゃんに変装して学校に通わせた。偽物は憧れのなのはちゃんと一緒にいることができるのが楽しくて黒歴史に葬りたいくらい少々ハメを外した面もあるが、すぐに友達を作ったり上手くやっていたと思う。引きこもる娘に学校は楽しいところだと部屋の前で語り続け、やがて少しだけ心が癒えた希ちゃんは俺とカナコと話すために部屋から出て来るようになり、やさしいなのはちゃんに惹かれ外へ興味が出てきた。途中替え玉のニセ俺が死んだり、紆余曲折を経て、生き返った本来の俺とカナコがふたりで協力しながら、ほかにも友達を作り、今ようやく少しずつではあるが外に出るようになったのだ。

「今回の目的だけど封印をすべて解放する。これが本来の記憶の状態よ。過去に起こった悲しくつらい出来事を受け止めるための試練なの。あなたが生きているなら大丈夫なはずよ。あの子が現実に絶望した理由の半分はあなたの死が原因だったもの。封印の解放そのものがゲームに組み込まれているわ。なのはたちにもゲームの目的は伝えてある。そして、希が苦しいとき支えてくれるように翠屋で桃子を克服したときの手の方法を使うわ」

ずいぶん昔のことのように感じる。思えばあれがトラウマ克服の最初の一歩だったんだな。友達がそばいることがどれだけ心強く勇気を与えてくれるか知るきっかけになったと思う。ひとりじゃないというのはすごく大事なことで人を強くしてくれるものなのだろう。

「おまえのことだから希ちゃんに関しては心配はしてないけどな」

俺は少々いいよどむ。計画通りに進めていたとはいえ、本当に大丈夫かと余計な心配をしてしまう。

「封印がすべて解かれた状態で大丈夫なら私たちが蒐集されても魔力を抜かれるだけで心が壊れずに済む。最悪私たちがいなくてもね。悪いけどなのはたちにも過去を知って希に深入りしてもらうわ。事情を知れば同情してあの子たちは希をほっとけなくなる」

ゆっくり言葉を吟味してその意味を考え、かっとなった感情を拳に力を入れてぐっと言いたいことを飲み込み冷静に問う。

「……あからさまだな。 ……そこまでしないといけないんだな? 」

本当なら馬鹿なことをするなといってやりたい。同情を逆手に取るのだから悪辣な手段だ。これは裏を返せばなのはちゃんたちを信頼してないということになる。それに優しい彼女たちがどんなに怒り悲しむか一切考慮されていない。世の中の醜さをわざわざみせることなんてない。ただし例の温泉旅館での背中の傷を見たときのアリサちゃんの態度を見る限り効果は大きいだろう。恐らくそこまで計算してるはずだ。思わず顔を歪めるとそれに気づいたのかカナコは俺より強い目で見つめてきた。

「不満そうね。じゃあ考えてみて。私たちにとっての一番の最悪って何? 」

「俺たちが希ちゃんのそばから離れること… 」

カナコは不服そうに首を振って応えた。

「違う。一番の最悪は希の心と身体が死ぬことよ。だから誰かが支えてくれるなら、必ずしもそれは私たちである必要はない。雨宮の家だけじゃ不安なのはあなたもわかっているはず。これも保険の一つよ。あからさまなのは認める。なのはやアリサ、すずかの性格も把握しているわ。その上で利用する。情に訴えて、情でかんじがらめに縛るの。私はあなたと希と違って何があっても他の人間は完全には信用しないわ」

俺たちがいなくなったとき、希ちゃんがひとり残されることを思うと、できることはすべてやっておきたいと考えるカナコの気持ちもわかる気がした。俺は百合子さんや雨宮家人々を信頼しているが、希ちゃんはそうではない。結局アプローチしながらも今の今まで百合子さんたちに関心を示すことは一度もなかった。カナコが百合子さんに不満がありながらも俺のやることに口を出さなかったのはこれも保険の一つと考えたのかもしれない。

百合子さんのことは誰よりも信じてる。しかし、希ちゃんにとってどんなにひどいことされても実の母親に代わる者など存在しない。希ちゃんは百合子さんを受け入れないだろう。お互いを傷つけ合うことが容易に想像できる。ましてその母親の死が可能性が高いとなるとなおさらだ。俺は予想される悲しい未来を恐れていた。カナコも本当は虚勢を張っているだけでおびえているのかもしれない。考えれば考えるほど最悪の結末が約束された運命のように感じられて、愚かな手段であることがわかっているのに止められない。

結局、嫌悪感はあってもそれを覆すだけのものを持ち合わせてはいなかった。決断はカナコに委ね、藁にもすがる思いで同じ年頃の女の子たちを頼りにしているわけだ。情けない話である。

「誰かに任せるって不安じゃないか? 」

思ったまま口に出す。俺はカナコに反対する気はなかったが、何が何でもというほど覚悟は決められていない。

「もちろん本当なら誰かに任せるなんてできないわ。私たち以上に希を想っている者はこの世にいないもの。そのくらいの自負はあるでしょう? だから蒐集されないために全力で抵抗する。そのために頑張ってきた」

「そうだよな」

ブレない。

わかっていたことではあるが再確認できたと思う。カナコはずっとひとりで希ちゃんを支えて戦ってきた。ひとりでだ。フェイトちゃんが心を閉ざしたときもプレシアの魂を再生させなかった。俺だったらその場の感情に流されてしまったかもしれない。他にも恋愛というものがわかっていないのに俺の心を繋ぐためにいろいろ的外れなアプローチをやっている。とにかく手段を選ばない側面があるのだ。今回のこのゲームもアイツの思考としては十分に考えうることだ。話は続く。

「でも想いだけじゃ限界がある。私たちは同じ身体を共有しているからこそできることがあるけど、決してできないことが存在するなら、どんなこともするわ。現状はヴォルケンリッターに一人でも負ける可能性が高いわ。仲間を呼ばれたらほぼアウト、どこかに隠れるは期間的に現実的ではないし、ヴォルケンリッターの探知能力的に確実性がない。管理局はグレアムの手が伸びているから、保護を求めるのは先に事件に遭遇しないと怪しまれる。だから私たちは能力を上げて一度は戦う必要がある、最大戦力のなのはとの距離を保ちながら、あなたがメールではやてを牽制して事件が起きなければ良し、遭遇したらうまくやるしかないわね。」

「こうして聞くといろいろやってきたなぁ」

「本番より準備の方が大切ってことよ。最悪を想定して進めてきた。準備は半分は終わってる。罪滅ぼしってわけじゃないけど、なのはたちにはこのゲームで怒りとか悲しみを感じさせないくらい楽しんでもらうつもりよ。希の精神力の評価とサポート要員の役割、不測の事態への備えもして、時間もかけた。問題はないわ。後十分くらいで舞台に降りるわね。時間までゆっくりしましょ」

そういうとカナコはカップの紅茶をたしなむ。今回のゲームは敵はこれ以上ないくらい弱り、負ける要素として考えられるのは希ちゃんの精神状態くらいのものだが、それを取り除くために打てる手はすべてやっている。


不安はない ……はずだ。

でもなんだろう。この胸のざわめきは、何か致命的なことに気づいていないんじゃないだろうか? 



それは形を持たない不安だ。柳の下の幽霊とか、夜中に聞こえる物音、後ろを歩く男、壁の染み、廃墟になった病院。死んだはずのホラー映画の怪物が最後に生きてるようなそんなものだ。その怪物はちゃんと殺すべきなのだ。二度と蘇らないようにきっちり念入りにでないと心の中で不安を餌に成長して、俺の中から食い破られる。

そんなイメージがわいた。

っ!? おっといかん。また考えてしまいそうになった。ダメだなこれじゃ。どうも悪い方へ悪い方へ考えてしまうくせがついているようだ。まだまだ時間はあるし、うまく切り替えないといけないな。じゃあ今回のゲームについて考えてみるか。



このゲーム世界は希ちゃんや俺の記憶をベースにドラクエ3の登場人物を当てはめて構成されている。シナリオは敵を倒しながらレベルを上げアイテムを集めて、ダンジョンの謎を解くことで先に進んでいく。楽しみながら希ちゃんが精神的に強くなるための仕掛けも用意されている。メインである各封印破壊はゲーム要所で用意されたイベントで希ちゃんが記憶を思い出す行為から生じた負の感情をゲームのボスという器に封印され倒されることで克服される仕組みになっている。希ちゃんの負の感情が強けば強いほど敵は強力なるらしい。しかし、今回は心強い味方がいるから心配ないはずだ。俺たちだって見守って、いざという時には手助けできる体制を作っている。

さらにバーチャルではあるが、伝統なPRGであるターン制コマンドバトルを採用している。このゲームの世界のルールでありすべての登場人物とモンスターがその大原則に縛られ破ることはできない。それは希ちゃんたち主人公たちも含まれ、配置された封印もそのルールの中で戦う。唯一の例外はこのトラウマクエスト世界の創造主のカナコだけである。

この世界はふたつ目的で作られた。ひとつは希ちゃんがつらい記憶を受け止めるために、ふたつめは黒い女を実体を完全に滅ぼすためである。

それが世界の秘密… でもなんでもないな。知っていることだし、今のままだと弱すぎて現実を受け入れられないから鍛えるために同じ時間を何度も巡るなんてしない。一回限りだ。

また、ドラクエ式ウインドウをゲーム的な演出と使い勝手の良さから使っている。これが和製RPGの歴史を定めたと言っても過言ではない。実際の装備とか持ち歩いていたら大きいし、装備したらちゃんと装着される仕組みになっている。タッチパネル式で音声認識でも操作できるから便利だ。前に使っていた携帯をイメージしている。

携帯ねえ。

そういえば携帯を仕事と家族以外ではほとんど使わなかったなぁ。もっぱら外出したときの暇つぶしに使っていたような気がする。ちなみに携帯キャリアは携帯三社の通称マッシュルーム、ガーデン、スキンヘッドうちガーデンを使っている。タッチパネルでパソコンと携帯電話の機能を融合させたスリムフォンを最初に対応したのはスキンヘッド社だったが、名前からして論外だったので、次に採用したガーデン一択だった。マッシュルームも早いとこ対応して欲しいものである。

そのスリムフォンはオレンジというみかんのマークのヤンキー国の会社製で、他にもポッドだとかパットだとか似たようなものを出していた。アリサちゃんの話ではパソコンのOSでは窓の会社負けたものの。再任した創業者が次々と活気的な商品を売り出し、現在世界一の会社と言われてる。まるで魔法のデバイスだともっぱらの評判だ。たしかに生産数が少なく値段は高いが性能はずば抜けすぎている。特にCPUはスリースターという日本に近いアジアの国の国有財閥系企業がコピーに失敗し、世界最大のCPU開発会社ハイッテルでさえも再現できないそうだ。

そのCPUを提供しているのは新興のCPU開発会社のサイバーダイン社。オレンジ社の出資100パーセントの子会社であり、CPUはそこから完全独占供給されている。開発者のマイルス・ダイソン氏のインタビューを外出先のテレビで見た記憶がある。なぜ覚えているかというと青く光る部屋に剥いた目をした汗だくの中年黒人がはあはあ言いながら話す映像がシュールすぎて強く印象に残ったからだと思う。

近いうちにアメリカ軍にもそのCPUが供給されるらしいが、嫌な予感がするのは気のせいだろうか? 近いうちに核戦争が起こり世界は終末を迎えると訴えて精神科に収監されて現在脱走している女性テロリストとかに狙われないといいけど。

そのオレンジ社のCEOは当然のように毛髪はない。一時は失踪して行方知れずだったことも注目されている。ただ失踪前から髪は危なかったらしい。ライバルの窓の社長はふさふさだが、風が吹いてもなびかない不自然な髪、日本に来た時にアート○イチャーとかアデ○ンスに訪問してなぜか融資を決めたそうだから、ズラだともっぱら噂だ。俺は間違っていると言いたい。

なぜなら髪は天然自然ものいわば人体の一部それを忘れて何が悩み無用、自然な髪を演出だ。共に生きる髪を忘れてのズラなど愚の骨頂ッ!!と思っている。

かつらにすればいいじゃないかと悪魔の誘惑がよぎったことは何度もある。しかし、俺がすでに悩んでいたのは十代前半、そのような贅沢品を買えるはずもなく、せめて現状を維持しようと髪の手入れを始めた。高校生の頃ある着想に達する。それは生えてきてくれた髪に対する感謝であった。

鏡の前で手を合わせ祈り力をためて髪をすく。これを何度も繰り返す。一連の動作が終わるまで五秒。最初は寝る前に千回を一時間半かけてやっていた。一分12回一時間で720回の計算だ。それは大学に入ってから習慣のように続き髪の手入れをしないと眠れないくらい染み付いていた。おかげで泊まりとか飲みとか旅行とかだいぶ変人扱いされた気がする。だいぶスピードも速くなり一時間を切るようになっていた。

二十歳になり大学を辞めて母親に刺されて落ち込んでいたときは何かを振り払うかのように自室に篭り感謝の髪の手入れを一万回に増やしめざ○しテレビが終わるころまで続け、ようやく眠りにつくことができていた。昼過ぎまで寝て、夜中までシナリオライターとしての活動というのが当時の俺のライフサイクルだった。何か没頭していると嫌なことも忘れることができた。あの頃の俺はやはりどこかおかしかったと思う。一年がすぎて異変に気づいた。髪の手入れを終えても夜が明けてないっ! 代わりに祈る時間とシナリオライターとしての時間が増えた。




齢二十五で完全に羽化する。

感謝の髪の手入れ一万回一時間を切るっ!

その驚くべき成果は中国旅行であきらかになる。



「何ぼーっとしているの! そろそろみんな終わったみたいね。始めるわよ」

カナコの声で現実に帰る。どうも思考が支離滅裂になってしまったようだ。わずか5分くらいの間にゲームの内容から携帯電話にはてはアメリカの経済事情に髪のこととわけわからんトビかたをしてんな。でもおかげで気持ちも落ち着いたようだ。うまく気を嫌なことから逸らすことができた。


そして、幕が開く。







ではトラウマクエスト 悪霊と髪 そして最終伝説へ… ミッド式の者たち 月の花嫁 幻のレムリア アトランティスの戦士たち 空と海と大地と取り憑かれし母君 キチェスの守り人 目覚めしムーの一族

始まり始まり。

ここはアリアハン王国のある二階建ての一軒家。いつもの黒いドレスに白いエプロンをしたカナコが扉を開ける。ピンク色の病衣姿の希ちゃんは例のやたら豪華なベットですやすや寝てる。希ちゃんが普段使っているベットだ。このように制作時間の都合上使い回している素材も多い。

「おきなさい。 おきなさい わたしの かわいいのぞみや…… 」

「う~ん」

揺らすカナコにまだ意識のはっきりしない様子で唸る希ちゃん。

「おはよう のぞみ。 もう あさですよ。きょうは とても たいせつなひ。 のぞみが はじめて おしろに いくひ だったでしょ。このひのために おまえを ゆうかんな おとこのこ として そだてたつもりです 」

「まだ眠いよ~ カナコ 」

抗議の声を返す。どうやらマジ寝してたようだ。

「コラッ! 母親を名前で呼ばないの。ちゃんと母様と呼びなさい。あなたは今日から10歳になるんだから、うう、この立派な姿をあの人にも見せてあげたかった 」

母親のところをやたら強調して、よよとエプロンの端で涙をわざとらしく拭うカナコ、希の父役のヨウイチつまり俺は王の要請を受けて、魔王を倒す旅に出かけたまま帰ってこなかったというオルテガポジションだ。カナコが覆面パンツのどう見ても変態です衣装を勧めて来たが断固として断った。しかし、代わりに火口でサタン相手に溶岩の立ち回りをやらされる羽目になりひどい目にあったよ。サタンなんて名前からして雑魚っぽい。一説によるとテドンの村を滅ぼしたのはコイツらしい。熱いのは胸がざわめいて苦手なんだよ。

希ちゃん10歳で旅は早すぎるかもしれない。しかし、勇者の娘ということで引きこもりがちではあったが旅に

出る出番が回ってきたのだ。

普通の家にはそぐわない天蓋付きのベットから希ちゃんが顔を出す。

「わかったよう。おかあさま」

本当に眠そうな目をこすりながら、面倒くさそうに答える。一方のカナコはまばたきもせず固まったままだ。

「おかあさま? 」



「はう~ いいわ。もう一回言って、わんすもあ」

もう一度疑問系で呼びかける希ちゃんにカナコは顔を赤らめながら、甘えるように訴えてきた。キャラ違うぞおまえ。いくら母親になりたかったとはいえ、だらしない顔すぎる。この役だけは絶対に私がやると言った理由はここにあるのだろう。

「え~ おかあさま? 」

「すごくイイー」

誰だよ?

今度は床にゴロゴロ転がっている。話進めろよ。台本通りやれ! せっかく最初のところはちゃんと言えてたのに母親関連でアドリブいれやがった。ルイーダでなのはちゃんたちが待っているんだからな。俺は合図を送る。

「あら、名残惜しいけど、時間も押してるわ。早く陛下に会いに行ってきて」

「うん」

希ちゃんはピンク色の病衣のような服を着て家を出る。旅に出るというよりは部屋の中を歩き回るような衣装だ。本当なら設定された職業に合わせた衣装を着てもらいたいところだが、あまり乗り気ではないようでいつもの格好をしている。街は中世風の建物が立ち並ぶいかにもヨーロッパへ来ましたという雰囲気で、ゲームマスター視点ならばちょうど上から箱庭を眺めているような感覚である。街の住人の姿も老若男女から金髪さんから赤髪さんまでさまざまな人の姿が見える。

ただしポリゴンである。

この世界のルールで年輩の女性は希ちゃんが怖がるため具現化できないので、ゲームのキャラクターはすべてドリーム○ャストレベルのポリゴンで表現されている。城の門をくぐりアリアハンの王にされたやたらごつい祖父

こと雷蔵王に会う。意外とはまり役だな。

「よくぞ きた! ゆうかんなる ヨウイチのむすこ のぞみ よ! 」

「私、女の子ぉ… 」

そうだよね。どうして息子扱いなのか首を傾げたものだ。きっと母は周囲には男の娘だと言って厳しく育てたに違いない。王様の話は続く。

「そなたの父陽一はサタンとの戦いの末に火山に落ちて亡くなったそうじゃな。その父の跡を継ぎ 旅に 出たいという そなたの 願い しかと ききとどけた! 敵は 魔王じゃ! 世界の ひとびとは いまだ 名前すら 知らぬ。
だが このままでは やがて 世界は 魔王に 滅ぼされよう。魔王を 倒してまいれ!町の酒場で仲間をみつけ これで装備を 整えるがよかろう。では また 会おう! 希よ!」

魔王を倒して世界に平和を取り戻すように命令された。

城のメンツは病院のみなさんでみんな白衣の上に鎧や兜を着ている。ミスマッチだけど希ちゃんの記憶を素材にしているから仕方ない。

長く遊ぶことが目的ではないので、身支度として一万ゴールドと鋼系の武器防具、みかわしの服など中盤並の4人分の装備を揃えてもらえた。

原作でもこのくらいの援助はやってほしいものだ。各シリーズの序盤の城の王様におまえたちは本当に勇者に魔王倒して欲しいかと問い詰めたい。特に2とか王子なのにほとんど追放されてるレベルだ。旅の身支度のこれっぽっちとか勇者の稼業なめてんの? 俺は国の本気がみたいんだっ! と思ったこともしばしばある。どうのつるぎとかたびびとのふくとか出番がなくなるので仕様です言われればそれまでだけどさ。

ルイーダの酒場へ向かう。位置的には町の門に近い勇者の家の道向かいの建物で城から来た道を戻り右に方へ向かう。左は勇者の家である。見えてきたのはこの辺では城を除くと一番大きく、酒場というにはやや質素なつくりでやや古びた看板と茶色いレンガの二階建て建物が見える。中に入ると広いフロアに三十人近く集まり、明るくにぎやかで、ちょっとした熱気さえ感じることできる。それぞれのグループで談笑し、なのはちゃんたち三人も楽しそうに話をしていた。三人とも現実世界ではパジャマ姿だったが、今はデフォルト用の学校の制服を着ている。まだ希ちゃんに気づかないようだ。

他にも楽しそうにテーブルを囲んでいるグループがある。

グリーンリバーライト声の勇者アレル組の戦士ステラ、魔法使いマリス、僧侶ライド、商人ダムス、遊び人ガライ
悲恋の勇者アレル組の戦士クリス、僧侶モハレ、魔法使いリザ、武闘家カーン、商人サバロ、遊び人ロザン。
ニセ勇者組の賢者うおのめ、武道家もりそば、おかま戦士かおる。
半裸勇者アベル組の戦士デイジー、魔法使いヤナック、戦士モコモコ、戦士アドニス
カーメン王国の勇者アルス組の剣王キラ、拳王マオ、賢者ポロン
運のいい方の勇者アルス組の魔法使いドロシー、武闘家シャオ、賢者ミレッジ、僧侶セレナ
竜騎士の勇者ダイ組の大魔道士ポップ、魔剣士ヒュンケル、武闘家マァム、王女レオナ 獣王クロコダイン、竜騎衆ラーハルト、歩兵ヒム、占い師メルル、僧侶ずるぼん、戦士へろへろ、魔法使いまぞっほとかいるが実際には使えない。一部人外もいるものの豪華すぎるモブたちだ。

ここでは仲間にああああとつけたり、唯一装備ぬののふくを奪い取り全裸で酒場に送り返し、名簿から削除する鬼畜な真似はできないようになっている。

もしこの中で仲間から三人選ぶならまずは獣王クロコダインを押す。人外だけど年長者で人格者、いろいろアドバイスとかしてくれそうだ。こういう人が一人はパーティにいて欲しい。安定感がぐっと増す。率先して敵と戦って身をもって相手がどのくらい強いか教えてくれるし、HPと攻撃力と防御力が馬鹿みたいに高い。きっと大工の息子並の活躍が期待できるだろう。やけつく息や獣王会心撃なども見逃せない。ガルーダで空まで飛べるし、マジカッケーっす。

ぜひ強敵の戦いで先陣を切って「ぐわああああああああ」「ク、クロコダイーン」とかやってみたい。

二人目はコミカルさの中に哀愁を感じさせてくれた商人ダムスもいい。

最後のひとりはやっぱヤナックでしょ。エロ友的に、コイツとなら旨い酒が飲めるに違いない。

しかし、おっさんばっかで華やかに欠けるような気がする。硬派気取ってたときは女なんかいらんとか思ってたけど、女性優遇装備に涙目になったこともある。女性だけで組むならアサダじゃない拳王マオ、オズじゃない魔法使いドロシー、マリーンじゃない魔法使いマリスかな。色気的な意味で元遊び人賢者ミレッジ、入浴シーンのあった戦士デイジー、実はマァムと同じくらいお色気要員の王女レオナあたりも推しておきたい。

もっと強い奴らなら他にもいるけれど、チートには用はねーです。他の勇者は主人公力が半端ないので除外しておいた。作ったら恐らく奴らの勇者パワーに飲み込まれてしまうだろう。

希ちゃんは足が止まった。ほとんど人形とはいえ人が多いので緊張しているようだ。このように希ちゃんにちょっとした試練を与えているのもこのゲームの特徴である。

(希ちゃん。ファイト!)

「う~」

希ちゃんはうなり声を上げながらサッと壁に隠れてしまった。片目だけ出して覗き込むように見てる。なんだか微笑ましい。この恥ずかしがり屋さんめ。ここはちょっと奮起させてやらなとな。まずは笑顔で相手を安心させればいいかな。

(希ちゃん、笑顔、笑顔)

「こう? 」

希ちゃんはややぎこちなく笑顔を作る。うん、いいぞ。それならおにいちゃんもイチコロだ。自分から声かけるのはまだ無理かな。

(おやおや、勇者が到着したようですよ)

俺は埒があかないので当初の予定通りゲームマスター権限で放送をかける。このくらいのサポートならば許されるだろう。すると、三人がドアから顔を出してる希ちゃんに一斉に顔を向ける。他の人形はそのままだ。

「ひっ」

三人とも顔がひきつる。

……なぜぇ怖がる。あんなに可愛いのに。

固まっていたアリサちゃんが立ち上がり、希ちゃんのそばまでで近づいてきた。

「も~怖がらせないでよ。希」

そう言ってアリサちゃんが肩に触れようとようとすると、希ちゃんはビクッと跳ね上がり距離を取り、猫のように威嚇する。今十メートルくたい後ろに飛んで、ものすごい身のこなしだったような?

「ふ~」

「ね、猫みたいね。希、何よその格好っ! パジャマじゃない! 」

「アリサ、声大きい。これでいいの」

アリサちゃんがその場に合ってない服装の希ちゃんをたしなめるが、当の本人はつんと素知らぬ顔ですましている。このふたりいつもこんな感じだ。まだまだ苦手意識が抜けない。フェイトちゃんの時みたいには行かないのかな? 見かねたなのはちゃんが声をかける。

「希ちゃん、私と一緒の服に着替えよう? 」

「……うん」

天使の笑顔で声をかけるなのはちゃんを見つめるとこくんとうなずく。

「相変わらずなのはちゃんには素直なんだ 」

「しょうがないわね~ 」

希ちゃんはごく自然になのはちゃんの手を取った。希ちゃんの姿が病衣から制服に変わる。アクセントとしてうさ耳がつく。愛想がない子にうさ耳でギャップ萌えというだけでなく、ちゃんと意味がある。着替えは夢なのでイメージするだけで二秒で完了できた。さすが希ちゃんの扱いには定評のあるなのはちゃんだ。マジで天使だな。あんなふうにお願いされたら誰でも言うこと聞いてしまいそうだ。すずかちゃんとアリサちゃんは苦笑いしながら眺めている。見守ってくれてありがたいと思う。それと同時に罪悪感と葛藤が渦巻く。別に希ちゃんのことをわざわざ教えなくてもいいじゃないかとも考えてしまう。

希ちゃんの足が止まり、何をじっとみつめている。その視線の先はすずかちゃんの耳だ。髪に隠れて見えにくいがすずかちゃんの外観は少しだけ調整されている。ちゃんと質感を本物ようにしたから映えるはずだ。

「どうしたの希ちゃん? 」

「すずかちゃん耳尖って長い。バルカン人? 」

「スタート○ックのス○ックじゃないよっ! ここは中世っぽいから、エルフって言ってよ~ ハーフエルフみたいだけど、希ちゃんだってうさ耳… かわいいね」

……あれを読んでたのか。

「ハーフエルフって何? 」

そのままそれぞれのオープニングの話になった。希ちゃんだけでなく他のメンバーにも設定上の家族がいるのだ。

すずかちゃんはハーフエルフという設定。ノアニールの西のエルフの隠れ里の女王の娘という設定で閉鎖的な里に嫌気が差して見聞を広めるために旅の仲間とバハラタからアリアハン行きの定期船に乗ってやってきた。ところが海の魔物のせいでこの定期船が沈められ帰れなくなってしまった。次の船の予定はない。そこで国へ帰るためにロマリアの通じる洞窟に行くための仲間を求めて待っているところなのだ。このようにドラクエ3では与えられていない仲間の背景を用意した。このゲームは四人のゲームでもあるからそのほうかいいという判断だ。

なのはちゃんはノアニールの村の出身の巨大な魔力を持つ魔法使いの資質を持つごく平凡な少女、家族は桃子さんが宿屋おかみ、士郎さん、恭也さん、美由希さんは高レベルのバトルマスターという構成だ。きっと彼らだけで魔王を倒せてしまうかもしれない。すずかちゃんとは姉を通じて知り合いで、今回のすずかの出奔に付いてきて同じ境遇にある。

平凡じゃないな。

アリサちゃんは生まれはスーの東の名も無き村、名のある大商人であった両親に連れられて交易の盛んなバハラタに移り、成功して船を手に入れるくらいまで栄えた。この定期船はアリサちゃんの両親のものである。

ある日、旅の途中だったすずかちゃんとなのはちゃんと出会い意気投合して仲間に加わる決意をして、アリアハン行きの定期船に二人を誘い帰れなくなったとうわけだ。

「すずかはエルフでいいわね。私のこの世界のパパなんて樽みたいに太ったおじさんよ。元導かれしものだかなんだかしらないけど、牢屋番とか馬車待機要員とか変なあだ名ついてるし、本物はパパはもっとハンサムでカッコイイのに、ママと弟はまあまあね 」

いや君のパパ役はすごい人だよ? ほんとだよ?

「回想みただけだからいまいち実感ないけど、とにかく私はバハラタへすずかとなのははノアニールに一度戻らないといけないのよ。魔王を倒すだけじゃなくて目標があるのはいいわね。じゃあ、早速外に出ましょう。冒険の旅の始まりよっ!! 」

主人公は希ちゃんだが、場をしきるのはアリサちゃん。えらい張り切っている。RPGが好きなアリサちゃんにとっては夢によって実体験に近いゲームができるのは楽しくて仕方ないのだろう。まあ適任か。

「待って、アリサちゃん、武器と防具は装備しないと意味がないんだよ。ウインドウ開かないと」

「すっかり忘れたわ。希、装備出して」

すずかちゃんがお約束の一言にアリサちゃんが返す。モブ人形の出番が一つ失われてしまった。哀れ。彼女たちの前に半透明のガラス板のようなものがでてくる。ドラクエ式ウインドウだ。これでアイテムの交換を行う。道具整理とか道具袋なんてものは存在しません。キャンプと一緒で不便を楽しんで欲しいという俺の想いが込められる。

「みんな終わった? それにしても使いにくいシステムね。持てる数に制限あるし、道具の一括管理とかできないとかちゃんと考えて作っているのかしら」

……

地味に傷ついた。どうやら俺の想いはアリサちゃんには伝わらなかったようだ。アイテムの分配と装備が終わり、制服姿からこの世界にマッチしたファンタジーな姿に変化している。

「そういえば職業は何? 私はパパ役からやたら商人押されたけど、いろんな武器を使える戦士よ」

「私は早く動ける武闘家」

「私、魔砲使い。なんか画面の字が違わないかな? 」

それはあなただけの仕様です。みんなそれぞれらしい選択をしたようだ。最後に希ちゃんが答える。

「遊び人」



「……」

し~んと微妙な空気が流れる。希ちゃんの真意をつかめないようだ。

「だからうさ耳なのね。遊び人って役に立つの? 戦闘では勝手に遊ぶことがあるし、呪文は覚えない。ステータスも低めで運だけはやたら伸びる変な職業で、他の職業から転職できないわけわかんない制限があるし、何のためにあるのかしら? 」

私しかいないと突っ込むアリサちゃん。このゲームについて何も知らないアリサちゃんが与えられてる情報から判断すれば一番使えないから当然の疑問だろう。俺たちが与えた情報はあくまでこのゲームの基礎的なルールと職業別の特性と特技呪文の効果についてなどのファミコン説明書レベルに過ぎない。遊び人がさとりのしょなしで賢者になれることは当然知らないはずだ。当然ググっても出てこない情報である。

「レベル20になってから本気出す」

「???」

みんな首をかしげる。まあそうだよな。

このパーティには勇者はいない。実はこの物語は勇者の娘の遊び人の女の子が主人公なのだ。というかなった。実はサマンオサ国出身の勇者が別にいて旅立ちを済ませている。初期のプランでは希ちゃんに物語の主人公で初期では選べない上位職の勇者にすることも可能であった。しかし、ふたりでいろいろ話しているうちに勇者の役割や性格は希ちゃんには不向きでそれを押し付けるのは違うと考えた。ありのままの姿で楽しんだほうがよいだろうと、他のみんなと同様に戦士、武闘家、僧侶、魔法使い、商人、遊び人、盗賊の中から希ちゃんに選んでもらって遊び人を選んだ。本人曰く一番楽そうだからというのが理由だそうだ。ただこう言っては何だが、にっこり微笑んだり、桜吹雪を見せたり。セクハラしたり。周囲笑わせたりする遊び人は明るくて社交的じゃないとできない。だから勇者とは違うベクトルで向いてないような気がするが、本人が選んだ以上これで行くしかない。

案外やる気のないダウナー系幼女遊び人というのも新境地がみつかるかもしれん。

このゲームはみんなの個性や資質を考慮して職業には全く関係なく特技や呪文が使えるようになっている。そのためなのはちゃんはは最初から呪文が使えるしMPも高い。希ちゃんも遊び人だが、同様にさまざまな魔法を使う。すずかちゃんは身体能力を生かした特技を最初から使える。アリサちゃんも性格を考慮していくつか特技を選んだ。中には固有のものも存在するから彼女たちがどんな反応をするか楽しみだ。

またこちらの独断と偏見で能力値と初期能力と成長値をデザインしてそれがゲームに反映されるようになっている。だから自分の性格や得意なことに合わせて職業を選ぶと強いということだ。

ちからは現実の気の強さや腕力で数値が攻撃力に直結。
すばやさは運動神経や体育の成績で行動順番と数値の半分が守備力に。
たいりょくは現実のスタミナでレベルアップしたときの上昇値の倍くらいがさいだいHPに反映される。
かしこさは魔力資質なので学校の成績とか関係なく呪文の覚えやすさや効きやすさ、威力(0.8~1.2)に。
うんのよさは家庭環境を考慮した数値で敵の呪文の効きやすさに。
さいだいHPはレベルアップのたいりょく上昇値の倍上がる仕組みと職業補正もついてくる。
さいだいMPは現実の魔力量と職業補正。

レベルと必要経験値は選んだ職業で違う。遊び人が一番早く成長して賢者が最も遅い。

ファミコン版の設定を加味しながらかしこさなどはそれぞれの得意なことが活かされるように独自に調整した。

どう反映されるか具体例で挙げるとすずかちゃんは現実で運動神経が高いのでちからとすばやさとたいりょくが四人の中で一番高いし伸びるので武闘家は良い選択だ。なのはちゃんと希ちゃんは魔力資質と魔力量が高いのでかしこさとさいだいMPはそれ相応に忠実に設定した。説明書でダメージ20ポイントの攻撃魔法がかしこさ50くらいだと16にまで低くなるのに対してかしこさ250くらいで24のダメージを与えるので大きな差である。これは敵が強くなりこちらの使える呪文が強くなるほど大きくなってくるだろう。見た目も威力に応じて派手になるように設計してあるからわかりやすくなっている。

もちろんすずかちゃんとアリサちゃんが魔法使い系、希ちゃんとなのはちゃんが戦士系を選んでも支障が出ないように最初からレベルは12~16と高いし、途中で気づいて職業を変えたくなっても先に進めば救済措置を用意してある。

この世界は他のドラクエ世界からネタをいろいろ借用しているのだ。それは進めていけばおのずとわかるだろう。

逆に作りはしたものの実装しないままになっているアイテムやモンスター、ダンジョン、システム、キャラも存在する。当初は世界観は3ベースではあるが強い敵も参加させたいという理由から毒持ちキングコブラ、仲間を呼ぶ軍隊アリ、スリーマンセルマンドリル、二回攻撃のしにがみ、先制5匹ブレスの恐怖ドラゴンフライ、ガーゴイルとのコンビが厄介なバピラス、ピンクの虎のキラータイガー、サマルキラーのくびかりぞく、ロンダルキアの恐怖の四天王痛恨のギガンテス・ザラキ使いのブリザード・メガンテのデビルロード・イオナズンのアークデーモンは凶悪ということでやめておいた。

自分と互角以上で運悪ければパタパタ死ぬ環境で世界を救った三人の勇者の子孫は歴代の主人公たちとは異端の強さを持っているような気がする。レベルを上げればどうにかなる世界とはわけが違う過酷な世界なのだ。

同じ理由でロンダルキアの洞窟も鬼畜すぎる理由で廃案になった。

アイテムではルビスの剣、はかぶさの剣、はしゃのつるぎ、てんまのつえがバランスブレイカーということでデータとして存在するが実装されていない。

キャラクターでは4からザラキマシーンクリフトや裸の大将マーニャ、最強の勇者の子孫三人とかゲスト参加させたかったが、使いどころがないという理由で不採用になった。



システムでは8からテンションシステムは是非使いたいと希望を出した。なのはちゃんがスーパーハイテンションとかカッコ良くね? と考えたのが始まりである。このシステムはためるというコマンドを使うことで5・20・50・100と四段階まで上昇し、呪文や特技の威力が上がるもので、スーパーハイテンションになると紫色のオーラがスーパーサイヤ人のように出る演出が好きで、たとえ効率が悪くてもためてから重い一撃を放つのが俺のマジャスティスなのだが、ギリギリまで検討したものの一部プログラムは残したまま廃止された。

ただその名残としてちからためや気合いためコマンドは4回まで倍率は8倍、会心の一撃には全身からオーラの出る派手なエフェクトが見られ、隠れパラメータとして感情値補正が設定されて強い感情に呼応して呪文や特技の威力がに影響を与えるようになっている。



彼女たちのステータスはこのようになる。



なまえ ありさ 
しょくぎょう 戦士
せいべつ おんな
せいかく おてんば
れべる 15
HP 90
MP 30 


E きぞくのふく
E りぼん


ちから   60 
すばやさ  30
たいりょく 45
かしこさ  50
うんのよさ 150
さいだいHP 120 
さいだいMP 0 
こうげき力 60
しゅび力  41

とくぎ ちょうはつ (敵を引きつける) 

突きとばし しっぺがえし ゾンビ斬り メタル斬り しっぷう突き つっこみ

ちからため 気合いため ほえろ おたけび

性格は「おてんば」か。おとこまさりかねっけつかんもありかな? おてんばという言葉はもう古いを通り越していると思う。二十年前からすでに死語だった。おてんば姫アリーナは古いとネタになっていたような気がする。おまえはキャンディ・キャンディかと。まあアリサちゃんの生態を表すツンデレも異常繁殖しすぎてネタになりつつあるから言葉とはそんなものなのかもしれない。

アリサちゃんは元々の資質としてあの名のある商人の娘ということで商人の才能があり、商人を選んでいれば父親と同じ性能が発揮できたはずだったが、彼女はせんしを選んだ。ただちからとうんのよさが高く伸びやすく特技も戦士系とも相性がいいので間違いではない。せんしは職業特性として力が強く多彩なスキルと攻撃力の高い武器と特殊な効果や防御力が高い防具を装備できる点で優れ敵によって武器と防具を変えることで強さを発揮する。ただし素早さが低いため元々の防御が低く一番の問題は金のかかるタイプであることだろう。

装備したのは

E はがねのつるぎ
E はがねのよろい


である。最初から鋼系を装備させるのは苦労してお金をためてはがねのつるぎを買った時の感動を味わうことができないという意味で無粋であるのは承知だが、ドラクエ3の戦士でレベルに似合った装備という意味ではこれしかあり得なかった。固められたその装備は堅牢でモンスターの攻撃にも容易にしのぐことができそうだ。見た目は無骨で鈍重なイメージではあるが、アリサちゃんが着ることで流れるような金髪がかかりむしろ華やかさが際立っている。城の兵士にも好んで使われる鋭いはがねのつるぎも同様に鋼の重さを感じさせない軽量な印象を与えていた。あえて欠点を言うならば全体的にミニマムで細身で威厳や威圧感が足りていないところだろう。



なまえ すずか
しょくぎょう 武闘家
せいべつ おんな
せいかく おじょうさま
れべる 16
HP 170
MP 40

E きぞくのふく
E りぼん

ちから   60
すばやさ  120 
たいりょく 70
かしこさ  50
うんのよさ 50
さいだいHP 140
さいだいMP 40 
こうげき力 60
しゅび力  86

とくぎ きゅうけつ(敵か仲間のHPを吸い取りHP回復ステータス強化)    まがん(魔眼の力で敵の動きを封じる) 

とびひざげり せいけん突き ばくれつけん きゅうしょ突き すいめんげり かみつけ ムーンサルト 

マホトラ 

しのび笑い

性格はおじょうさまか… 俺があえて選ぶならむっつりスケベを送りたいが、男性用なのでやめておこう。

すずかちゃんは元々の資質としてハーフエルフなので魔法の資質も持っているが選ばなかったようだ。しかし、地力としてちからとすばやさとたいりょくが高く成長しやすく特技は戦士系でもいける。ぶとうかは職業特性としても力が強く足が速いため安定した火力を発揮できるから選択としてはいいと思う。しかも会心率30パーセントと通常攻撃の期待値も高い。武器や防具は軽装だから攻撃力と守備力がそれなりでブレスや特殊攻撃に弱く、多彩さに欠ける代わりお金があまりかからない良い点もある。そのぶんアリサちゃんの装備にお金をつぎ込めるという点ではバランスが取れているかもしれない。

装備したのは

E てつのつめ
E ぶとうぎ

である。ファミコンならあとはまほうのビキニやほしふるうでわを装備すればラストまでこの格好のスタイルだ。もちろんそれだけはつまらないので、スーファミ仕様の女尊男卑防具やほのおのつめやキラーピアスも用意されている。髪は左右でお団子に束ねられ中国風の赤い拳法着は手首と肩と膝にウロコのようなプロテクターがついて強者を象徴するかのように胸に龍の文字の書かれている。右手には3本の長いカギ爪の付いたてつのつめが鈍く輝いていた。これで背丈があって足や手が長くて太ければいいのにね。武闘家にしては華奢に見える。



なまえ    なのは 
しょくぎょう 魔砲使い 
せいべつ   おんな
せいかく   ねっけつかん
れべる 14
HP 75
MP 999     

E ぬののふく
E くろいりぼん

ちから   30 
すばやさ  30
かしこさ  255
たいりょく 30
うんのよさ 50
さいだいHP 60
さいだいMP 999
こうげき力 30
しゅび力  50

とくぎ ひらてうち(敵をひるませる) ほほえむ

    メラ ヒャド ギラ ベキラマ マダンテ ボミロス スカラ    スクルト ルーラ リレミト  

    気合いため ちからため


性格はねっけつかん。ごうけつあたりでもいいかもしれない。

なのはちゃんは元々の資質としてかしこさとさいだいMPに優れて強力な攻撃魔法をいくつか使える。この数値は敬意の表れでさいだいMPに関しては見た目は999だが実際はファミコン版の限界値に達しているから恐ろしあ。魔砲使いは正しくは魔法使いであるなのはちゃんだけそのように表記される仕様だ。多彩な攻撃魔法を高威力で使う得意だが回復魔法は使えず他の数値は残念なことになっている。

E まどうしのつえ
E みかわしのふく
E くろいりぼん

赤い宝玉が先端についた杖はMPを消費せずとも火炎魔法メラを使うことができるが、残念ながらなのはちゃんから使われることはないだろう。全身緑色で頭をすっぽり包めるフードのつきでやや厚みのあるゆったりとしたみかわしのふくは白を基調としたイメージの強いなのはちゃんにはややミスマッチといえるが、古典的な魔法使いの衣装としてはむしろ正統派といえるかもしれない。くろいりぼんはフェイトちゃんと交換した思い出の品でデイン系に耐性がついている唯一の装備品だ。

「なのは、マダンテは間違っても使ったらダメよ。MPが設定限界の六万五千五百三十五を越えているからこの世界が消滅のするわよ。なのはのマダンテはすべてをゼロに還して時空すら歪めるわ。それだけじゃない隣接した勇者の名前とレベルで記録された他の2つ平行世界まで巻き込むから気をつけなさい。兄弟とかいたらただじゃ済まない。過去に多くの人がなすすべなく崩壊する世界を眺めながら阿鼻叫喚しながら、涙を乗り越えて最初から物語を始めたものよ」

な、なんて恐ろしい呪文なんだ!! 俺も世界崩壊のさまを3度ほど経験してる。思い出すだけであの世界崩壊の音がトラウマを呼び起こす。

おきのどくですが
ぼうけんのしょ1ばんは
きえてしまいました。

うがああああああああああああああああ~。

それってバグじゃん! これはマダンテの呪文の性質としてさいだいMPがダメージに換算されるから起こったのか? これなら復活の呪文のほうがよっぽとましだよ。液晶と違って構造的に丸みを帯びたブラウン管は文字を歪めてよく書き間違いのトラブルを起こしたもの、ビデオ録画という手段で解消できていた。また現代は携帯デジカメ撮影でより手軽にできるので復活の呪文を書き間違えることはなくなったから安全性は確保されているのだ。

(時間足りなかったわ。他にもバグはあるかもしれないからその都度修正していくわよ)

これはしょうがないか。通常のゲーム制作は数ヶ月はかかる。それを一ヶ月だからある意味仕方がないのかもしれない。致命的なものがないことを祈るだけだ。幸い進行しながら修正することはそんなに難しいことではないらしい。イベントを追加するのも簡単なことらしい。

なまえ のぞみ 
しょくぎょう 遊び人  
せいべつ   おんな
せいかく   なまけもの 
レベル 12
HP 55
MP 999     

E ぬののふく


ちから   10 
すばやさ  20
かしこさ  255
たいりょく 20
うんのよさ 30
さいだいHP 20
さいだいMP 999
こうげき力 10
しゅび力  15

とくぎ ものまね(敵か味方のどんな技でも真似をする MP消費しない) 

パルプンテ ホイミ ベホイミ めいそう ねる ザオラル ザオリク メガザル アストロン モシャス ぶきみな光  

希ちゃんは元々の資質としてかしこさとさいだいMPがなのはちゃんクラス、違いは回復蘇生魔法が得意でやや僧侶寄りであるだが、他のステータスは非常に残念だと言わざる得ない。それに遊び人でなまけものなんてマイナスイメージしかない。さらにレベルも低く経験値が足りない。ただ経験を積んでいない分レベルは上がりやすいので後が期待できるだろう。大器晩成型できっとそのへんのにわかじゃ相手にならんはずだ。遊び人は職業特性としてうんのよさが高く伸びる可能性があり必要経験値が低いため、資質的に低いうんのよさを伸ばしながらレベルを早く上げられる点では良かったかもしれない。転職してないのにすでに賢者に覚醒している気がするがそれは主人公補正というものだろう。

装備は

E てつのやり
E みかわしのふく

となのはちゃんとみかわしのふくはお揃いである。すごくうれしそうだ。仲の良い友達と同じ格好をしたい気持ちはなんとなくわかる。同じような格好ではあるが受ける印象は全く違う。白い肌と艶やかな黒髪が神秘的な雰囲気を醸し出していたが、てつのやりはつえみたいに持ち方をされてやや台無し感がある。さらにうさ耳が妙なマッチングしていた。遊び人あることを主張しているという意味では正解かもしれない。それにクールで物静かなキャラにうさ耳をつけるのもそれなりに需要はあるはずだ。

??

需要って何だ?



(ちなみにあなたは年齢……じゃなくてレベル25のまほうつかいで性格はむっつりスケベ、さとりのしょじゃなくてエッチな本で賢者になれるわよ)

嫌なこと言うなっ! 俺がまほうつかいなんて濡れぎぬだ。ただ玄人多めなのは認める。でも仮免じゃなくて高校の時に本免許をちゃんを取得したぞ。どちらかといえば戦士の方だ。それにむっつりスケベはセクシーギャルには劣るけどステータスの伸びのバランスがいいんだぞ。



パーティの順番はアリサちゃんすずかちゃんなのはちゃん希ちゃんになった。後方に来るれば来るほど敵の攻撃を受けにくいからこの順番でいい。ただこの並び方は序盤ならば問題はないが、中盤・終盤ならこの順番には合格点は与えられない。なぜなら他のRPGならばともかくこのゲームはファミコン版ドラゴンクエスト3をベースしているので×だ。いつ気づくか楽しみである。

パーティの役割はすずかちゃんかアリサちゃんがメインアタッカーでなのはちゃんは攻撃魔法を打ちまくり、希ちゃんは唯一回復役であるため、この子が倒れたらパーティは回復手段がなくなるため瓦解することになる。希ちゃんのHPの低さはこのパーティ最大の弱みだ。まあ有効な方法はあるし、レベルが上がれば解消されるはずだ。

「一通り揃ってるし、今はわざわざ買う必要はなさそうね。ウインドウ開いて武器と防具は装備したわね? 」

「うん、じゃあ次はどこに行けばいいのかな? 」

「町の外じゃないの? 目的はこの国から外に出ることだから、城を出て次の村まで行けばいいでしょ? 」

希ちゃんたちは門をくぐり外にでる。外は明るい太陽と草原が広がり、遠くには海や山が見えた。その海のさらに先には塔がそびえたち橋も見えている。夢とは言え臨場感は抜群。みなそれぞれ景色に圧倒されているようで、口を開けてポカーンとしている。驚きながらも、草原を歩き橋を渡り村を目指す。

しばらくすると黒い影が走るようにいくつも近づいていた。どうやら最初の戦闘が始まるらしい。

「何か来るよっ! 」

一番早く気づいたのはすずかちゃん、すぐに身構える。アリサちゃんたちも反応して戦闘体勢を取る。希ちゃんだけまだぼーっとしていた。

現れたのはスライム3匹とおおがらす2匹。

彼女たちはひるんだ様子はない。特にアリサちゃんはやっと来たと言わんばかり表情をしている。彼女たちの目の前には透明のウインドウが出てコマンドが並ぶ。この中からコマンドを選ばない限り時間は動かない仕組みだ。この世界のモンスターはすべてコマンド入力式ターン制に支配されている。それはなのはちゃんたちも同様でその支配には逆らえない。そして、これこそがこの世界の最大の楔だそうだ。

「なんか可愛いね。戦うのはかわいそう」

「なのは! 見た目に騙されないの。ゲームなんだから、蹴散らすわよ。最初は私で攻撃を選択、すずかも攻撃を選んだわね。なのはは高威力のグループ魔法ベギラマを使って。どうせ使い切れないわ。そうね。希はものまね使って」

「うんっ! 」

アリサちゃんに勇気付けられるように、すずかちゃんとなのはちゃんは声を上げて答える。あの、主人公希ちゃんだよね?

「行くわよっ! 」

「やあ!! 」

「え~と、これかな? ベギラマっ! 」

「まごまご」

……それはマネマネだ。

スライムとおおがらすは霧になって消えた。

ドラクエ式のターン制とはいえ敵に攻撃する猶予すら与えない。レベルが違いすぎる。素早いすずかちゃんの先制攻撃になのはちゃんのグループ魔法攻撃でほぼ全滅されて、最後のアリサちゃん攻撃で討ち取りワンターンキルだった。レベルと装備的には当然の結果と言えるし、序盤からベキラマはやりすぎだったかもしれない。しかもMPが多すぎるのでベキラマだけ打ってても問題はないのでヒャドとイオはともかくギラとメラの出番が無くなってしまった。せっかく専用エフェクト用意したのに無駄になってしまうかもしれない。

経験値とゴールドが手に入る。

「やったわねっ 楽勝、楽勝」

「うん、初めてだったから緊張したけど、なんとかなるもんだね」

「ふ~」

「まごまご」

まだやってたんだ…

君らいくらゲームとは言え適応力高いね。もう少し戸惑うと思ったよ。大きさもそれなりだから圧迫感とかあると思うんだけど、全然怖がらないし、肝が座った娘たちだなあ。ただ最初の敵はマスコット的な可愛さのある敵も多いから、女の子的にはあまり戦いたくないという心理がわからなかった。ももんじゃとか出さなくて正解だったかも知れない。あれは可愛いすぎる。

希ちゃんはまごまごしてないでもう少しがんばろう。攻撃するときちゃんと敵を見なかったり、敵の攻撃ひるんむと感情値が下がり、ミスする確率が上がるペナルティがあるから気を付けないとね。ダメージも夢とはいえ軽く痛みを感じるようにできてるから、この先が心配だ。ゲームではあるが意味はそれなりに意味があり、夢の世界で戦えない希ちゃんが黒い影の戦いに対する恐怖に慣れるためでもある。

ここでは勝てないと思うとどんな敵にも勝てないし、勝てると思うとどんな敵にも勝つことはできる精神力の世界なのだ。

本来なら希ちゃん>カナコ>越えられない壁>俺>黒い女、バーチャプレシア、ジークフリード>黒い影、なのはちゃん、アリサちゃん、すずかちゃんという図式になるのだが、希ちゃんが虐待の影響で染みついた恐怖感がそれを崩れてしまっているのだ。ちなみにここでのヒエラルキーの頂点はカナコである。カナコだけがこの世界のすべてを見通し、あらゆる場所に存在し、ターン制に縛られない。

その後も数回戦闘を行ったが、希ちゃんをかばいつつ、ダメージは希ちゃんが回復しながら危なげなく先へ進み中継地点のレーベの町に着いた。

「着いたわね。さっそく情報を集めましょ? 次のところへ行くヒントがあるはずよ。ついでにお店もみたいわね 」

勇者たちは村人に話しかけながら情報を集める。ついでにタンスや壷を割るのも忘れない。なのはちゃんとすずかちゃんは「いいのかなぁ? 」とやや引き気味だったが、アリサちゃんはお約束を心得ているので遠慮がなかった。希ちゃんはタンスこそ一緒に漁っていたがなぜが壷の割れる音を聞くと耳を塞いで丸くなってしまった。

「どうしたの? 希ちゃん? 」

心配そうななのはちゃんの声、アリサちゃんも手を止めて何事かと見つめている。



俺にはわかった。そうか、割る音に反応したんだな。日常生活でこの音を聞くのはレアで、俺の時も数える程でカナコに言われなければ症状には気づかなかったくらいだ。

(早かったわね。じゃあ封印を解放するわよ。土の封印、リリース! )

ここでかっ! 予想外だよ。台本を書いたのは俺だが、どこで封印を解放するかを決めるのはカナコの役割になる。最初はカンダタあたりだと予想してたが外れてしまった。



急にすべての景色が変わり、古い家屋に姿を変える。ひどく散らかった部屋だ。ビール缶、ウイスキーボトル、一升瓶があちらこちらに散らばっている。部屋の住人の荒れた生活環境を思わせた。黒い女のシルエットが瓶をラッパ飲みしている。

ここは希ちゃんがおかーさんと二人暮らしをしていたときの部屋なのだろう。

黒い女は飲み終わった瓶をおもむろに降りかぶると壁にめがけて投げつけた。瓶はものすごい音を立てて粉々に砕け、それと同時に頭を抱えていた希ちゃんはひくっと小さな身体を震わせる。

(思い出したわね。希? )

カナコの声は硬い。恐らく緊張から来るものだろう。カナコにとって希ちゃんは生きる目的そのものだ。それほど大事な希ちゃんにつらいことを強いているのだから、その気持ちは十分わかる。

(あなたも思い出した? )

っ!!

心の中に声が響く。耳障りでイヤな声だ。いったい誰だよ。俺の一番嫌い奴の声色を真似ていて嫌悪感しかない。

黙れよ。

ああ、俺も思いだしたよ。錯乱して百合子に皿を投げつけた場面を…

でも今は希ちゃんの大事な場面なんだ。おまえの声に耳を貸している暇はない。俺のことはどうだっていい。右手の封印に力を込める。封印は赤黒く光りうっすらとではあるが熱を持つようになった。右手が熱いッ!! よし!これでいい。収まった右手に安堵しながら痛ましい様子の希ちゃんに視線を向ける。

「平気? 」

「うん… 」

心配そうに声をかけるカナコに希ちゃんは丸くなって顔を伏せたまま小さくつぶやいた。

(なのはたちに聞いてもらう? 聞いてもらえば楽になれるわよ)

なのはちゃんたちを連れてきたのは希ちゃんのつらい想いを一緒に受け止めてもらう意味もあった。話を聞いて共感してくれる人間がいることで心を癒すことができる。

「いいよ。まだ始まったばかりだもん。我慢できるよ」

(黒い影はなし。土の核消滅。最弱とはいえ実体化もしないなんて、よく堪えたわ上出来よ。希、本当に偉いわっ! )

カナコは本当にうれしそうにやや興奮気味に喜ぶ。封印の解放はイヤな記憶を思い出すこと、それは精神に負担をかけ心がマイナスに傾き黒い影を生み出すことになるはずなのだが、それがなかった。

ということは思い出してもマイナスに傾かないだけの心の強さを希ちゃんが持ちつつある証明にほかならない。

この子も成長しているのだ。

(ところでカナコ、なんでなのはちゃんたちにはさっきの見せなかった? )

打ち合わせのときはそう話していたはずだ。

(あなたの顔を見て変更したのよ。元々土の封印は命の危険は少なかった体験だから思い出したところで負担は少なかったのはわかってたの。だから順番を変えてなのはたちに知らせなくてもいいならそうしようと思っただけよ。試練の設置場所もなるべく後になるように変えたから ……って何よその驚いた顔、だけど次の封印からはそうはいかないから。ゲームは手段であって目的じゃないんだから)

そうか俺の意を汲んでくれたわけか。こういうところはいいやつだよな。

(ありがとな)

自然と言葉が出る。今度はカナコが驚く番だった。

(ふ、ふん。殊勝じゃない)

目を逸らして照れる。なのはちゃんたちに同情してもらうためにやっていることは褒められることではないが、ここだけ見ると可愛げがあるかもしれない。



場面は再びゲームに戻る。なのはちゃんたちは不思議そうな顔で希ちゃんを見ていた。

「どうしたの? 」

「何でもないよ」

すずかちゃんの問いかけにそう答える希ちゃん、周囲に気を使えるのはグットだ。おにいちゃんとしてはすごくうれしい。全部これで済めば一番良いのに、心からそう思う。つらいときは話してもいい。でもお互いのことを思うなら友達といえどすべてを知らなくてもいい。

そして、俺とカナコは俺たちのエゴのために希ちゃんの過去を暴き、友情に泥を塗る行為をこれからしようとしているのだ。そんな俺たちをよそ目に彼女たちは楽しそうである。

「アリサ、私もやる」

壷を持ち上げると壁に叩きつけた。不快な音はせずどこか打楽器のような心地よい音がする。この音が希ちゃんを苛むことはもうないのだろう。

アナウンスが流れる。

つぼまじんを倒した。レベルアップの音が聞こえる。

「今の敵を倒したの? こんなことでレベルが上がるのかしら? 」

「きっとレベルの高いつぼまじんだったんだよ」

このつぼまじんはカナコが用意した土の封印を解除したときの寄り代になるモンスターだったようだが、希ちゃんが堪えて見せたので戦うまでもなく壷を壊しただけ倒されてしまった。毒消し、やくそう、キメラの翼などを数個づつ手に入れて情報収集を続ける。

集まった情報は「レーベの村へようこそ」「おお勇者様タンスの中身はどうぞ旅にお役立てください」あまり意味のないものも多かったが、次の目的地のロマリアに行くためには「スクワイアの鍵」と「ミッドチルダ式のたま」がいることはわかったようだ。そして、鍵を持つ者は塔の最上階で待っている。

なじみの洞窟の敵は外より強く生理的嫌悪のある人間サイズ蛙や蜂が出るから怖がると思ったけれど、最初だけですぐに適応してしまった。すでに戦う行為そのものに慣れいっぱしの冒険者のような雰囲気である。

序盤からベキラマとイオを使えるためグループで出てこようと楽勝だった。作り手の視点で見るとなのはちゃんはヒャドをたまに使うことはあったが、メラとギラだけはわざわざ使う理由がないので、せっかく作ったエフェクトを一度も見ることはないかもしれない。なんだかもったいない。

洞窟を抜けてなじみの塔にたどり着いた。ここで待ち受ける敵もたいした驚異にはならない。登るのを楽しんでいるようだ。楽々と最上階に到達して、ユーノ君からこの鍵をもらいにくるものの夢をみたと言われてスクワイアの鍵をもらった。本来は飛び降りて外に出てキメラの翼を使うのが一番早いのだが、高いところから飛び降りるのは抵抗があるようで、リレミトの呪文を使って脱出した。その鍵を使って閉ざされたドアを開けて待っている人から「ミッドチルダ式のたま」をもらうことができた。

ロマリアへ向かう準備ができた。

「このまま行けるかな? 」

「そうね。どんな敵が出るか知っておきたいし、ダメそうだったら途中の村に戻りましょ」

この洞窟から少々難易度が上がる。敵も強くなり絡め手を使う敵も多くなるし、階段を上ったり下ったり、行き止まりもあるし裂け目をうまく使わないと次の町まで着くことができない。また、待ちかまえる敵は体力と防御と攻撃力が高く、魔法が効くにくいさまよう鎧、回復するホイミスライム、毒攻撃のバブルスライムなど立ち回りや準備に工夫が必要になってくる。

「コイツ固いわね。一撃じゃ倒せないときがある 」

「どうしよう魔法が効かないよお 」

「毒受けちゃった」

少々手こずっているようだ。ここは毒消しが少ないとすぐに足りなくなり大変なことになる。幸い用意周到な彼女らに余念はなく毒消しを多めに揃えていったので問題はなかった。こうして敵も段階的に強くなるように設計されている。

ほとんどワンターン以内でケリをつけ洞窟を進んでいく。ここで一番てこずったのは裂け目にわざと落ないと先に進めないところで、落ちるときにはさすがに抵抗があったようだ。難なく飛び降りたのが上空から飛び降りても割と平気な鉄の心臓のなのはちゃん、次が身体能力に自信のあるすずかちゃん、アリサちゃんと希ちゃんは同順で時間がかかった。夢のときに感じる落下感に肝を冷やしたようである。苦労しながらロマリアへの道を塞いでいる壁の前に着いた。

「はあ~ やっと着いたわね。落ちるときのあの感覚嫌になるわ」

「えっ!? アレ気持ちよくない? 」

なのはちゃんはアースラから飛び降りて以来、個性的な感覚を持つようになったようだ。降下訓練とか途中でアクシデントや気絶したり下手したら死ぬんだけど、これが戦闘一族高町家の血筋なのかもしれない。

「なのはちゃん… そ、そういえば、ここでミッドの玉を使うんだね。この穴かな? 」

わかりやすく話題を逸らすすずかちゃん、でかい石壁にくぼみが用意されている。ミッドの玉をはめると玉が光った。あわててその場から離れる轟音と共に壁にひびが入り崩れていく。その演出を耳を塞ぎながらみんな眺めていた。

「くっ、んんっ、耳がキーンってするわ」

耳を押さえて堪えるアリサちゃん。火薬の量が多かったのかもしれない。ミッド式の玉になのに火薬を使うとはこれ如何に? こうして旅の扉にみんな目を回した以外は危なげなくロマリアにたどり着いた。

さっそく情報を集める。ロマリアはやや小規模な町並みではあるが、モンスター闘技場があるのが大きな特徴だ。一部アリアハンで使った家素材や家具もあるがカラーリングや模様を変えることでうまく誤魔化せているだろう。ここの王様はうちの理事長、ギャンブルが好きで金の冠をかぶっている。大事な金の冠をスクワイアの発掘団に盗まれてしまうが、たったひとりで電撃魔法を使う金髪の勇者に倒されてしまったそうだ。こっちの勇者は仕事が速いようで何よりです。

「ライバルがいたなんて 」

「金髪で雷撃魔法を使うって、ひとり? アルフさんは? 」

「燃えるわ。負けてられないわね。私たちもどんどん先に行くわよ」



ますます気合が入るアリサちゃん、北上してカザーブの村へ向かう。ここのエリアに出現するアニマルゾンビは見た目グロくて怖いので少々抵抗があったようだが、適応力の高い彼女たちは数回繰り返すうちに近接でも平気になった。希ちゃんだけは最初からグロいのも平気なようでやりでチクチク突いて攻撃していた。着く頃には夜だったので町の住人の姿はなく、ちょうどいいタイミングだったのでどくばりを拝借する。

「黙って持っていっていいのかな? 」

「いいんじゃない? ゲームだもの。あんなところにあるなんて持って行ってくださいっていっているようなものよ」

「ふふふっ。どくばり、なのはちゃんがぷすって急所一撃、ふふふっ」

なのはちゃんは良心がとがめ、アリサちゃんはゲームだと割り切っているようだ。希ちゃんはちょっと怖い笑顔でどくばりの先端を眺めている。すずかちゃんはそんなのぞみちゃんにびびっていた。どくばりの効果はてきめんでダメージ1しか与えられないことに最初は抵抗を感じていたが、なのはちゃんが急所を一撃で刺して倒したときすぐに使えると判断して戦術として組み込んだ。まどうしのつえは希ちゃんが持つことになった。これで敵によってはメラで攻撃できる。しかし、早速道具として使われたもののメラだけにしょぼいエフェクトの呪文だった。

宿屋に泊まり、次の朝、町を出る間に情報収集をすることになった。

「どこかに ねむりのむらが あるなんて しんじられないよ。」
「だからね そのむらは エルフをおこらせたために むらじゅう ねむらされたわけ!」
「うわさでは ノアニールのにしの もりのなかに エルフたちが かくれすんでいるそうです。」

村の住人からは重要な話が聞くことができた。ひと通り聞いて回ったので話し合う。なのはちゃんの故郷に異変があったらしく、その原因がすずかちゃんの一族のエルフにあるというのだから話は複雑だ。

「もしかしなくても、私となのはちゃんに関係があるよね。何があったのかな? 」

「ゆめみるルビーとゆるされない恋、エルフの女王とめざめのこな… 」

「えっ? なにそれ? 」

希ちゃんはあっさりネタ晴らしするがなのはちゃんたちには伝わらなかったようだ。希ちゃん単語だけ言っても知っている人しかわかんないよ。誰がどこでいつ何をしたかを伝えないとね。

「まあ考えてもしょうがないわ。村に行って確かめればいいじゃない」

「そだね」

アリサちゃんが指針を示し、なのはちゃんはそれに同意する。

そして、このパーティの目的のひとつノアニールに着いた。

この町にはなのはちゃんの一家が住んでいるが、ある事件が発生して村は大変なことになっていた。不思議なことに村の住人は立ったまま眠りについているのだ。その中には桃子さんや士郎さんの姿があった。なのはちゃんは悲しげな顔で眠ったままのふたりをみつめていた。

「お父さん、お母さん… あれっ!? お兄ちゃんとお姉ちゃんは? 」

「お姉ちゃんも居ないみたいだし、恭也さんとお姉ちゃんは人間とハーフエルフの恋人同士だから、エルフがこんなことするのはきっと訳があるんだよ」

なのはちゃんとすずかちゃんは恭也さんと美由希さんと忍さんがいないことに気がついたようだ。旅立つ前にすずかちゃんとなのはちゃんはふたりと忍さんに見送られているから姿がないのはおかしいことになる。村中をさらに歩き様子を見て回る。唯一生き残った住人の話ではエルフの秘宝ゆめみるルビーをこの村の住人が持ち出したまま行方不明だという。まだおぼろげではあるが村に何か起こり、その原因はいなくなった三人にあることがわかってきた。すずかちゃんとなのはちゃんが難しい顔をしているなか、希ちゃんは立ったまま目をつぶり村の住人に溶け込んでいた。

「私、ここの住人になりたい」

「ちょっと希、こんなところで寝ないの! とにかくエルフのかくれ里に行ってみましょう! 」

寝ている希ちゃんをガクガクとゆらすアリサちゃん。希ちゃんは嫌そうな顔で睨む。

「アリサ、揺らさないで、急ぎすぎ、私休みたい」

「まだカザーブからほんの少し歩いてきただけじゃない。なのはたちのことが気になるでしょ? 行くわよ」

「う~ なのはちゃん、わかった。でもそろそろぼうけんしょ。エルフのさとはルーラじゃ行けない」

しぶしぶながら返事をする希ちゃん、アリサちゃんもだいぶこの娘の扱いがわかってきたようだ。希ちゃんは希ちゃんでたどたどしいながら的確な提案をしている。

「そうね。でもあの呪文の飛ぶ感覚苦手だわ。ロマリアがいいわね」

こうして再びロマリアに飛ぶ。ここの城は王様との距離が近いので拠点にしやすいが、カンダタ以降は毎回王様になれと進めてくるので避けている人が多いはずだ。それにちょっと遠くてもイシスの女王様の方が気分的にはいい。

「よくぞ きた! ゆうしゃヨウイチの うわさは ききおよんでおるぞよ。
ありさが つぎのレベルになるには あと12の けいけんが ひつようじゃ
すずかが つぎのレベルになるには あとの100けいけんが ひつようじゃ
なのはが つぎのレベルになるには あとの120けいけんが ひつようじゃが、もう じゅうぶんに つよい! それいじょうつよくなってどうするつもりじゃ?
のぞみが つぎのレベルになるには あと1の しゃかいけいけんが ひつようじゃ 」

なのはちゃんが難しい顔をしている。

「やっぱり! なんで私と希ちゃんだけ違うのっ! なんか十分強いとか言ってるし」

二回目で気づいたか。それはもちろん魔力と魂のことを言っている。ただ巨大な魔力を生かす武器や呪文がないという意味で、今の肉体は未熟でまだまだ伸びしろがあるということだ。

「そなたらの たびのせいかを この ぼうけんのしょに きろくしても よいかな? 」

はい ←
いいえ

「しかと きろくしたぞよ。」

「どうじゃ? また すぐに たびだつ つもりか? 」

はい
いいえ←

「では しばし やすむがよい! また あおう! のぞみよ!」




作者コメント



間空けて申し訳ないです。次回は早めに更新予定。
また長くなったので前後編に分割します。


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