第三話 好感度イベント
※ 三本立てです
〈 好感度イベントなのは なのは様と呼んで 〉
お昼休み
お昼ご飯は食べようと、なのは様のところに行こうとしたら、先生に呼ばれた。
「雨宮さん」
「はいっ。先生」
「先生とお弁当たべない? 」
「と、友達と約束してるので」
「そう」
先生はしゅんとうなだれた。すごく残念そうだ。
(苦手だなあの先生。なんか寒気とか感じるし)
今日はちゃんとお弁当を用意してもらった。今日は体育もないので、余裕もある。
「今日は普通のお弁当なのね。」
(蒸し返さないでよ~)
「普段はこれだよ」
(本当は今日からなんだけどさ)
さらりと嘘ついて、心の中でつっこみを入れながら、お弁当を広げる。中身はイチゴとオレンジ、野菜サンドだった。
わかめがない。ガックリ。
「へぇー きれいね」
「そう? 」
(さすが、おかーさん注文通り。わかめないけど)
みんなそれぞれお弁当をひろげ食べ始める。三人とも育ち盛りを意識してか高カロリーなものが多い。
「そういえば、希ちゃんって普段何してるの? 」
すずかが何気なく聞いてくる。
(えっ…そういえば、この身体になってから、学校調べるのにPC検索を少ししたくらいでだけど、この体のせいか上手く使えないんだよな。
タイピングソフトもいろんなタイプクリアしたはずが、手が全然覚えてないし。それに、前はいろんなソフト使ってたはずなのに、使い方すらわからん。
あとはひとりでは何もしてない。
うちの親けっこうかまってきて、なんでも一緒にやりたがるからなー。
深夜アニメ一緒にみたときは隣が気になって、全然おぼえてないよ)
「アニメとかドラマをおかーさんと見てる」
いろいろ考えたが無難な答えにする。
「ふ~んアニメはわかるけど、ドラマって何をみてるの? 」
「白い巨○」
「うわっ …さすが医者の娘ね。」
(わかるのかよッ。違う世界だけど、ここにもあるんだな~と感心したもんだけど)
「難しいのをみるんだねぇ~ でも原作の作家さんは好きだよ」
「これおとーさんがモデルだって、病院の人はもっとえげつなかったって言ってたよ。今は丸くなったらしいけど」
「どんなパパなのか聞くのが怖くなったわ。でも、将来の参考になりそうね。」
アリサは少し興味があるようだ。ウチのおとーさんは財○教授を地でいく、権力志向の強い人らしい。その代わり忙しくてあんまり帰ってこない。
おじーちゃんはさらに特殊で一度だけ会った。ただの孫馬鹿だったけど、髭の感触を思い出すと寒気がする。
いくら孫とはいえ拷問だ。そういえば聖祥大学付属小学校に入ることを伝えると理事長とは知り合いだから任せておけと言っていた。
ただアイツは話を大げさにしたがるからなと悪口も言っていた。
そこからは長話である。じじいの武勇伝で、眠くなる話だ。ホントか嘘かもわからないが、嘘の部分が多いはずだ。
マッカーサーと一騎打ちをしたとか、ワシが3人いれば日本は戦争に勝っていたなんて、理事長のことをとやかく言えない気がする。しかし、体格はすごく良くて今でも筋肉質だ。
ただものとは思えないところはある。
「おじーちゃんはぶとーをやってるの?」
と聞いたら、コレは内緒の話だよ。もったいつけてた上で
無斗論式という拳法を体得していると教えてくれた。『神鳥撃』と呼ばれる空中から急所に向かって体当たりを仕掛けたり、 『禁断の秘奥義 神詞』と呼ばれる全エネルギーを声に集中して相手を共振させて破壊する技とか冗談としか思えない。ただ、若い頃の写真を見せてもらったときの感想はシルエットが流線型でどことなくヤツに似ている気がする。
そのとき一緒に写っていたのが後のおばーちゃんだった。小柄で可愛らしく、とてもそうは見えないが、当時は珍しい武道娘らしく、相手の動きを読んで相手の力の向きを反らす柔良く剛を制すを体現した人だったらしい。実際おじーちゃんは生涯一度しか勝ったことがないと言っていた。
そのおばーちゃんは若くして病気で亡くなり、後に連れ子のいる人を新しい奥さんに迎えたらしいが、その人も結婚して数年で亡くなりそのあとはずっと独身らしい。寂しそうに言っていた。
思考が横に逸れたな。
「みんなはどうなの? 」
「じゃああたしからね。あたしは習い事と塾でいっぱいだけど、テレビゲームとか好きよ」
「どんなゲームが好き? 」
「なんでもやるけど、RPGとか最近が好きね」
「ウィザー○リィとか○ーグとかウ○ティマみたいなやつ? 」
「何よそれ? 聞いたことないわ」
「三大古典。知らないならいい」
さすがに世代が違うか? いやそもそもこの世界に存在しないのかもしれない。記憶の欠陥で映像は思い出せないが、私も前世で多くのRPGをクリアしてきた。アリサと話が合いそうだ。
私は気を取り直して、次はすずかに聞く
「じゃあ、すずかちゃんは? 」
「私も習い事と塾で忙しいけど、本を読むのが好きかな。どんな本でも読むよ」
「最近注目してる作家さんは? 」
「デビューして五年で死んじゃった作家さん。さっき話してたドラマの原作者だよ。五年のあいだにいろんなジャンルの本を出したみたい。執筆スピードがものすごく早くてね。月に何冊も出したことがあるんだって、でも途中のが結構あったのに死んじゃってファンとしては悲しいよ」
「おもしろかった本は? 」
「えっ! ……その、ないしょ」
なぜかすずかは真っ赤だ。どんな本か気になるな。まあいい、次は本命のなのは様だ。
「なのはちゃんは? 」
「私は特に何も、塾は行ってるけど始まったばかりだし、得意なこととかないし」
なのは様は自信なさげに答える。
「ま~た始まった。なのは、何でアンタそんな自信ないわけ? 」
「だってアリサちゃんもすずかちゃんも、将来のこととかちゃんと見つけてるし…」
(そうか、まだ魔法に目覚める前だから…)
「将来ねぇ、アンタ、喫茶翠屋の二代目じゃないの? 」
「それも、将来のビジョンの一つではあるんだけど、やりたいことが何なのか、はっきりわからないんだよ」
なのは様は迷っているようだ。そういえば、この話どっかで聞いたような気がする。
「アタシはなのはを認めてるの。だいたい理数系の成績ははアタシより上だし、それだけじゃなくて、アンタがそんなんじゃ ……立場ないじゃない。」
「私もなのはちゃんはすごいと思ってるんだよ? あのときだって… 」
自信なさげななのはを、アリサとすずかはそれぞれ励ます。
「希ちゃんだって、最初になのはちゃんにお友達になってって、言ってくれたじゃない? 」
「そうよ、アタシをさしおいてね。自信もちなさいよ」
「うん、なんでわたしが最初だったの希ちゃん? 泣いてたし? 」
なのは様は首をかしげて、こっちをみる。
「えっ、それは… 」
(う、何て答えよう? 生まれる前から好きでしたなんて言うわけに行かないしな。最初会ったとき泣いてた理由もお友達になってくださいで、済んだと思ったんだけど。よしっ、ここは魔法的なことと夢見る少女的な何かを混ぜてみよう)
私は考えをまとめると静かに語り出す。
「私ね、よく見る夢があるの」
「夢? 」
「うん、とっても強い女の人、白い服を着て赤い宝石の付いた金の杖を持って、空を飛んでるの。その人は鉄砲とか刃物を持ったたくさんの機械の人形と戦っているんだけど、杖をふるうたびに滝のような桜色の光が敵をどんどん倒していくの。敵の攻撃はその人の桜色の魔法陣にはじかれてちっとも届かない。夢のなかでは私はその人の部下なんだけど、見とれてしまって全然うごけないの。そして、戦いが終わって、その人が私に近づいてきて満面の笑みでこう言うの」
「ちょっと頭冷やそっか? 」
「「あたま? 」」
「なんでよっー 」
なのは様とすずかは首をかしげ、アリサはつっこむが気にせず続ける。
「その夢何度も見るんだけど、最後台詞だけね変わるの。おはなししようとか全力全開とか悪魔でいいよとか。なのはちゃんを初めてみたときね。あの女のひとはきっとこの人だって、やっとおはなしできるんだって、そして、これは運命だって思ったの。だからつい泣いちゃったんだ」
夢自体は作り話でおおげさに言っている部分はあるが、そこに込められた気持ちは本物だ。
「そんなのって…」
なのは様は顔が真っ赤だ。かわいいなちくしょう。
「なんかちょっと変なとこあったけど、ロマンチックね~」
すずかは女の子らしいコメント
「やっぱり、アンタって、ちょっと」
アリサはブツブツ何か言っている。ちょっとなんだよ?
「でもでも、私そんなにかっこ良くないよ~ 普通の女の子だよ」
なのは様は照れた顔のまま、首をぶんぶん振って否定する。私はそんななのは様をますます可愛いなと思いながら
「いいの私が勝手に思ってるだけだから、それになのはちゃんはきっと勇気があってとっても優しい女の子、そうでしょう? アリサちゃんすずかちゃん」
私は半ば確信しているような言い方でふたりに同意を求める。
「「えっ!? 」」
アリサとすずかは驚いたようだっだが、しばらくするとうんうんと頷いた。
周りの過剰なまでの持ち上げっぷりに、なのは様は耳まで赤くしてうつむいた。実に良い顔だ。なんか軽い興奮というか、胸の高まりを感じる。私はその気持ちが命ずるままにあるお願いを口にする。
「なのはちゃん」
「うん… 」
なのは様は顔をあげる。まだ赤い。
「ときどき、なのは様ってよんでいい? 」
「え? ええええーーーー」
なのは様は声を上げた。
結局良い返事はもらえなかった。う~ん残念こちらとしては昔の呼び方を許してもらいたいけど、まあいい、あせらず行こう。
〈 好感度イベント アリサ フラグと金髪縦ロール 〉
次の日の昼休み、四人揃ってお弁当だ。話の先導役はだいたいアリサがやっている。
「そういえばアンタ、頭いいって聞いたけど、本当なの? 」
「えっ? 編入試験は良かったみたいだけど」
見た目は子供だが、頭脳は大人、名探偵である。行く先々で人が死んだりしないけど、私は理数系はやや苦手だがその他はバッチリである。ただ、記憶の欠陥のせいで抜けている部分はある。それでも、小学三年くらいなら相手にならなかった。
「全部満点だって聞いたよ。編入試験じゃなかなかいないみたいだよこの点数」
すずかが補足してくれる、よく知っているなぁ。
「へ~やるじゃない。塾とか行ってるの? 」
アリサの負けず嫌いな部分を刺激したらしい。探りをいれてきた。
「行ってない、私ちょっと体弱いから」
なんせ入院してたし、それどころじゃなかったはず、でも家の状況から家庭教師くらいは雇っていたかもしれない。
「それで、満点って …今度のテストで勝負しなさいよ」
アリサから勝負を挑まれてしまった。
こういうの好きそうなアリサとはこれから同じような場面が何度も出てくるかもしれない。
こっちも楽しんでやらないとな。
友達のテスト勝負は前世でもよくやった。中学までは無敵で、よく言われたのが「なんで勉強しないくせにトップなんだよ納得いかね~」だった。
そうだな、アリサくらいになると抜かれるのも早そうだから今のうちに自分のプライドを満足させておくか。
私はアリサを軽く挑発することにした。イメージは高飛車で高慢で自信たっぷりなお嬢様風で行こう。髪型は金髪縦ロールだ。
「いいわ。アリサさん。結果はわかりきっているけど、受けて差し上げますわ。オーホッホッホッホ」
顎を上げて口元に手を当てるのがポイントだ。挑発が効いたのか、アリサは眉をつり上げてピクピクさせている。まだ押さえることはできているようだ。
「へぇ~、結果はわかりきってるってどっちが勝つのよ? 」
「わ・た・し」
「上等だわ。今に見てなさい。吠え面かかせてやるから」
「アリサさん。あなたのそのセリフは負けフラグです。しかもテンプレートです。まあ先ほどの私のセリフもそれに近いのですが」
「なによそれ。アンタ何言ってるの? 」
「そのセリフを言うと結果が確定してしまうの。結構当たってるよ。特に命かかっている場面では、注意しないとね」
「あっ、私わかった。戦いに行く前は、幼なじみと結婚の約束とかしちゃダメって聞いたことがあるよ」
思わぬところから援護があったすずかだ。
「そう、だからさっきの場面ではこう言うの『勝負はやってみないとわからないよ。お互い全力で行こうね』って言っておけば、まず負けることはないよ」
「へぇーそうなんだ。何か分かる気がするよ。お互いに力を出し切るって大事だよね」
「なのはまで… 」
なのは様は感心してくれる。さすが熱いハートの持ち主。
すずかとなのは様の同意でアリサも揺れているようだ。もう一押しか。
「アリサさん。結果はわかりきっているけど、受けて差し上げますわ。オーホッホッホッホ」
私は先ほどのセリフを繰り返す。そして、アリサを見つめる。さあさあと訴える。
アリサは一度こちらを強く睨むと、目をつぶりため息をつく。
「わかったわよ。勝負はやってみないとわからないわ。お互い全力を出しましょ」
アリサは言ってくれた。やった。ある意味勝った。
すずかとなのは様は首をかしげている。
どうしたんだろ? すずかが話しかけてきた。
「ねぇ、希ちゃん。今見間違いかもしれないんだけど、希ちゃんの髪が金色に染まって縦ロールになったように見えたんだけど気のせいかな? 」
「えっ、すずかちゃんもそうなんだ」
どうやら、私の演技力のレベルは相当高いらしい、ふたりに私のイメージ通りの髪型の幻覚をみせるくらいには、自信を持っていいかもしれない。
後日テストがあったがふたりとも100点で引き分けだった。やるなアリサ。
〈 好感度イベント すずか 図書館は危険がいっぱい 〉
※ ちょい百合風味
放課後
図書館に来てる。すずかに誘われた。棚の本を見ていることろだ。今日は静かで誰もいない。
アリサは習い事でキャンセル。なのは様は来る予定だったが、用事が入り、すずかとふたりっきりであった。
すずかとふたりはどうかなと思ったが、さすがに私も断るのは悪い、仲良くしておくのも長いつきあいになるから、無駄にはならないだろうと考えつきあうことにした。
誰もいないので、すずかとおしゃべりすることにする。
「すずかちゃんはどんな本でも読むって言ってたよね。じゃあ好きなジャンルはないのかな? 」
「童話が好きかな」
ありきたりだな。少し攻めてみようか。ちょっと小学生向けじゃないかもしれないけど、私はきわどい質問をしてみる。
「男と男の恋愛物語とかどう? 」
「えっ ……興味はあるけど… 」
すずかは顔が赤い。ほう資質ありか。案外こないだ聞いた内緒の本はBLモノかもしれないな。鬼畜なメガネさんとかいいかもしれない。どんなのか忘れたけど、すずかは今度は私に聞いてきた。
「希ちゃんは本は読むの? 」
「うん… ジャンルは特にないけど、白い巨○の原作ちょっと読んでみたいな」
これは前世にもあったからどんな内容か興味がある。
「大人向けだからさすがにここにはないよ。市立図書館にはあると思うけど、今人気だから借りられてると思うよ」
「そう、残念違うのにするよ。すずかちゃんは今日は何を借りにきたの? 」
「この間借りた本の続き。場所はもうわかってるの。ちょっと高いところにあって取りにくいところにあるんだよ」
すずかは小さな梯子を持ってくると、本棚の前に置き慣れた様子で登る。上の段のハードカバーの本に手をかけるが固くて取り出せないようだ。
少し危ないな。
「すずかちゃん、梯子支えようか? そのままじゃ力入らないでしょ」
「うん、ごめんね~ 希ちゃん。お願い」
私はすずかの背後に回り、梯子を強く握って足を踏んばる。すずかはもう少しで取り出せそうだ。
「う~ん、もうちょっと。取れた…きゃあああ」
すずかの悲鳴と一緒にハードカバーの本が降ってくる。
そこからは一瞬の出来事だった。すずかは素早い反射神経で私に本が当たらないように本をつかむが、今度は自分がバランスを崩して梯子から落ちる。
私は反応できず背中から落ちてくるすずかを受け止める形になるが、勢いついてそのまま後ずさり、反対側の本棚に背中をぶつけてた。そして、すずかの後頭部が鼻に当たり尻餅ついてようやく止まった。
ちょうど私がすずかをうしろから抱きしめる姿勢になる。
「痛たた……希ちゃん、大丈夫」
「大丈夫。ずかちゃん。鼻打ったけど、大したことないよ」
「ケガしてない? 」
うう、鼻打った。すぐ近くにすずかの後頭部が見える。すずかは私を心配して、すぐに振り返りこちらを見る。そして目が合った。
…近い。近すぎ。
すずかの息が頬に直接感じられる距離だ。それになんだか鼻に違和感を感じる。何か垂れているような。
鼻血出た。決してすずかに興奮したわけではない。先ほどのすずかの後頭部のヘッドアタックで血管が切れたようだ。格好悪いなぁ……アレ?
すずかの様子がおかしい。まだ顔近いしなんだか、目が赤いしうるんでるし、頬も赤らんでる。すずかは私の目を見てない。視線の先は鼻、あのもしかして…
動く間もなく、すずかは両手で頬を掴むと、唇が私の鼻の出血部分に触れる。
誰もいない図書館、あたりは夕暮れて黄金に染まっている。寄り添うように伸びた長い影が少しだけ動いて重なりあう。
すずかは私のくぼみに口をつけながら、次から次に染み出してくる赤い液をねぶる。伸ばした舌でなかの方まで責め立てる…
ちょ、ちょっと待て!! 待てやゴルァー。ここは百合モノじゃありません。余所でやってください。舌とかご勘弁……あっ!?
私の手は力を失いバタンと落ちる。
そのとき赤い椿の花が落ちる映像が目に浮かんだ。鼻だけに……シクシク
しばらくして、我に返ったすずかはようやく離してくれた。気まずそうだ。どう話しかけていいかわからないのか、こちらをチラチラ見ている。一族の秘密もあるんだろう。
はっきり言って、すずかとは仲良くしていくのはいいが、一族の秘密を共有するほど関係を深めるつもりはない。目的はあくまでなのは様だからだ。
それに、百合なんて……ぽっ、
しっかりしろ私。今ちょっといいかもと思っただろ。ひとり悶えていると、すずかが話しかけてきた。
「ご、ごめんね、希ちゃん… あの、私ね」
どうやら秘密の告白に入るようだ。まずいなぁ。ここは月村家ご招待コースだ。こんなところですずか攻略フラグを立ててる場合じゃない。
こうなったら気がついていないフリをするのが一番かな?
私はすずかの口に手を当てると、困った表情をしながら、顔を赤くして、体をクネクネと悶えさせ、恥ずかしさを演出する。
「すずかちゃん。鼻血綺麗にしてくれてありがとう。おかーさんみたいだね。でもね、女の子同士でこんなことするのは少し恥ずかしいよ。私、すずかちゃん好きだけど、まだ知り合ったばかりだし、でもやっぱりちゃんと考えないと…」
私の予想外の反応にすずかはパニックになる。
「ち、ちょっと待って、希ちゃん、ち、違うの~」
私はすずかの話を聞かずに勘違いを加速させていく。もちろん演技だ。
「いいよ、今日のことは秘密にするから、私とすずかちゃんふたりの思い出だね、今度私のおかーさんとおとーさんに紹介するね」
「だから、違うのーーーーー」
すずかの声が図書館に響く。
すずかは私が吸血のことを愛情表現だと勘違いしていると思ってくれたようだ。本当のことをいうわけにもいかず困っていたが、
「今度、し、紹介してね… 」
ぎこちない愛想笑いを浮かべて、その場は収まった。なんかいらんフラグ立てた気がするけど、まあいいか。
だが、その日から、時折すずかの熱い視線を感じるようになった。恋慕ではない。好きな食べ物を眺めている目だ。よだれ垂れてますよすずかさん。
絶対にふたりきりにならないようにしよう。でもいつか彼女に血を吸われる日がくるのかもしれない。
作者コメント
三本立てにしてみた。
すずかが変な方向へ行きそうで怖い。ネタのベースは昔、型月のコメディを妄想したこときに思いついた。誰かと誰かは秘密です。