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No.27519の一覧
[0] 転生妄想症候群 リリカルなのは(転生オリ主TS原作知識アリ)【空白期終了】[きぐなす](2013/11/24 21:34)
[1] 第一話 目が覚めて[きぐなす](2011/10/30 12:39)
[2] 第二話 ファーストコンタクト[きぐなす](2011/10/30 12:46)
[3] 外伝 レターオブ・アトランティス・ファイナルウォリアー[きぐなす](2011/11/27 11:19)
[4] 外伝2 真・ゼロ話[きぐなす](2012/01/06 18:20)
[5] 第三話 好感度イベント 三連投[きぐなす](2011/05/25 18:56)
[6] 第四話 裏返る世界[きぐなす](2011/05/06 00:33)
[7] 第五話 希とカナコの世界[きぐなす](2011/05/25 18:57)
[8] 第六話 入学式前の職員会議[きぐなす](2011/05/25 21:56)
[9] 第七話 ともだち[きぐなす](2011/05/09 01:17)
[10] 第八話 なのはちゃんのにっき風[きぐなす](2011/05/08 10:13)
[11] 第九話 シンクロイベント2[きぐなす](2011/05/25 19:05)
[12] 無印前までの人物表[きぐなす](2011/05/09 21:24)
[13] 無印予告編 アトランティス最終戦士とシンクロ魔法少女たち[きぐなす](2011/05/13 17:58)
[14] 第十話 いんたーみっしょん[きぐなす](2011/05/12 20:38)
[15] 第十一話 シンクロ魔法少女ならぬ○○少女?[きぐなす](2011/05/15 10:56)
[16] 第十二話 ないしょのかなこさん[きぐなす](2011/05/16 21:30)
[17] 第十三話 魔力測定と魔法訓練[きぐなす](2011/05/20 07:54)
[18] 第十四話 初戦[きぐなす](2011/05/28 11:40)
[19] 第十五話 やっぱりないしょのかなこさん[きぐなす](2011/05/28 13:40)
[20] 第十六話 ドッジボールとカミノチカラ[きぐなす](2011/06/01 21:14)
[21] 第十七話 アリサと温泉とカミ[きぐなす](2011/06/03 18:49)
[22] 第十八話 テスタロッサ視点[きぐなす](2011/06/05 14:04)
[23] 第十九話 フェイト再び[きぐなす](2011/06/12 01:35)
[24] 第十九・五話 プレシア交渉             23/7/4 投稿[きぐなす](2011/07/04 10:26)
[25] 第二十話 デバイス命名と管理局のみなさん[きぐなす](2011/06/12 15:20)
[26] 第二十一話 アサノヨイチ[きぐなす](2011/06/15 10:50)
[27] 外伝3 おにいちゃんのお葬式[きぐなす](2011/06/25 12:59)
[28] 第二十二話 猛毒の真実 [きぐなす](2011/07/03 23:20)
[29] 第二十三話 悪霊[きぐなす](2011/07/04 13:50)
[30] 第二十四話 おにいちゃんとわたし ……おかーさん[きぐなす](2011/07/10 06:51)
[31] 第二十五話 浅野陽一のすべて[きぐなす](2011/07/17 19:15)
[32] 第二十六話 復活と再会 [きぐなす](2011/07/24 15:55)
[33] 第二十七話 再び管理局と女の友情[きぐなす](2011/08/11 19:20)
[34] 第二十八話 三位一体[きぐなす](2011/08/11 19:10)
[35] 第二十九話 すれ違いの親子[きぐなす](2011/08/11 20:38)
[36] 第三十話 眠り姫のキス[きぐなす](2011/08/20 21:51)
[37] 第三十一話 次の戦いに向けて[きぐなす](2011/08/29 17:50)
[38] 外伝4 西園冬彦のカルテ [きぐなす](2012/03/30 00:12)
[39] 無印終了までの歩みと人物表及びスキル設定[きぐなす](2012/03/29 23:49)
[41] 空白期予告編 [きぐなす](2012/04/03 00:34)
[42] 第三十二話 アースラの出来事 前編 [きぐなす](2012/04/07 19:33)
[43] 第三十三話 アースラの出来事 後編 [きぐなす](2012/04/17 22:13)
[44] 第三十四話 梅雨の少女とさざなみ寮[きぐなす](2012/05/05 18:58)
[45] 第三十五話 わかめスープと竜の一族[きぐなす](2012/05/12 00:36)
[46] 第三十六話 見えない悪意と魔法少女始まるよっ![きぐなす](2012/05/20 15:50)
[47] 第三十七話 アトランティスの叫び 前編[きぐなす](2012/05/29 17:34)
[48] 第三十八話 アトランティスの叫び 後編[きぐなす](2012/06/07 00:32)
[49] 第三十九話 幽霊少女リターンズ[きぐなす](2012/07/11 00:38)
[50] 第四十話 暗躍と交渉、お泊まり会 [きぐなす](2012/09/02 23:51)
[51] 第四十一話 トラウマクエスト そして最終伝説へ… 前編[きぐなす](2012/12/01 14:37)
[52] 第四十二話 トラウマクエスト そして最終伝説へ… 後編[きぐなす](2013/03/09 22:08)
[53] 第四十三話 暴走と愛憎の果てに行き着いた先 前編[きぐなす](2013/04/07 22:40)
[54] 第四十四話 暴走と愛憎の果てに行き着いた先 後編[きぐなす](2013/05/25 14:36)
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[27519] 第三十五話 わかめスープと竜の一族
Name: きぐなす◆bf1bf6de ID:142fb558 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/12 00:36
第三十五話 わかめスープと竜の一族



幽霊騒動も片付き俺たちは重大な課題に直面していた。



希ちゃんは体力がない。

ただでさえ内臓が十分な栄養を摂取できないのに、廃スペックな脳が大量に栄養を持っていくのだ。生命維持に必要なカロリーをさっ引くとマイナスになってしまう。成長のための栄養が不十分だった。ましてや希ちゃんが起きて活動する日も多くなり需要が増している。

この間の事件で、那美さんが生命力が低下していると評した希ちゃんの体をなんとかしなければならない。生命力が強くなれば、この間のやつみたいにつけ込まれることもないし、肉体と精神は強く結びついている。クロイオンナの力をさらに弱くすることができるならばやっておいて損はない。

幸いなことに、戦いで倒した木の封印は毒を司る奴で、強制的とはいえトラウマに向き合い、克服する形になり、俺が食べるときには症状は大幅に軽減された。水の奴は行方はわからない。しかし、食べる量を増やしても体がその状態に慣れていないので急には難しい。身体が受け付けないのだ。百合子おかーさんに頼んで高カロリーしてもらってはいるが慣れるまで少し時間がかかりそうである。

体力作りも行っていて、カナコから毎朝早く起きるように言われている。はっきり言ってしんどかった。前の俺は完全な夜型タイプだからだ。そのため、カナコが一度夢の世界で毎朝起こして、門をくぐって現実に行くようになっている。今日もあの声が聞こえてきた。

「起きなさい。もう起きて外にでる時間よ」

最近はこのようにすっかり女房気取りである。あれからもカナコは妻を自称し続けた。俺もいちいち否定するのも面倒くさくなり、ある日とうとう受け入れた。

「やっと認めたわね。じゃあこれに血印を押しなさい」

カナコは魔導書のみたいな本の表紙に血印を押させた。婚姻届みたいなものだったのかもしれない?

脳内夫婦の誕生であった。希ちゃんも含めれば脳内ファミリーである。

あの笑顔に悪魔との契約とか人生の墓場とか不吉な言葉が頭をよぎるが言ってしまった以上もはや何もいうまい。どうせ何か変わるわけでもないし、見た目は子供だからおませな背伸びだと思えば気にならない。実年齢は知らんけど、少し前のことを思い出しながら、眠い体で返事を返す。

「今日は休む~」

最近はついつい夫になったつもりで合わせてしまう。寝起きは頭が回らないのだ。







「起きないと、この包丁で腹を裂いて、胎に誰もいないことを確認するからぁ~ 」










「ナイスボートはやめんかぁああああああああーーーー」

俺はバッと起きあがると、綺麗な笑顔で両手持ち逆手に包丁を振り降ろそうとしているカナコが手を止める。包丁だけはマジでやめてくれませんか? 希ちゃんレベルのトラウマなんですけど、心の傷をかっさばこうとしないでください。

心の傷と言えば今日の夢も気分は最悪だ。あの事件はもう解決したというのに俺はまだ悪夢を見続けている。まだ小さい俺を義理の母が反抗的だからとしつけと称して何度も何度も頬が赤く腫れるまで平手打ちする夢だった。しかも夢のくせに再現度がたかいんだよな~ 

俺をムカつかせる言葉が蘇る。

「あなたは道ばたに落ちてるゴミと同じよ。なんの役にも立たない。でもね、私は見捨てない。だってあんたはここの子だもの。面倒は見てあげる。せめてイツキに恥をかかせるないでちょうだい」

もう~ イライラする。

心の整理はとっくについたとおもっていたのに、こうも高い頻度で夢に見るとさすがに堪えるし、胸がわけもない焦燥感でチリチリする。夢の中の義母はやたら挑発的で忘れ去った俺の憎悪を呼び覚まさずにはいられない。

良くない。良くないなぁ引きこもり初期の心情に似ている。ネガティブスパイラルだ。

静まれ。静まれ。俺の右手ッ!

俺の中に封印された獣はかなり凶暴で、先日も授業中に疼き、右手を押さえていたらみんなに心配された。怖い顔したと言われたから、うまく隠すことができなかったようだ。あるいは良く気がついてくれているのだろう。

そう思うと不思議と心が安らぎ、右手の疼きも焦燥感も消えてしまうのだった。

あ~忘れよう忘れよう。もう過ぎたこと。体感時間で30年も前で大人ならもう定年近くになっているような時間だ。そんなものをいつまで引きずるなんてどんだけ粘着質な人間だよ。

こんな醜い自分は誰にも知られたくないし、相談することもできない。俺はかぶりを振って、心から嫌なものを追い出す。よし起きよう。あれ、カナコが近くにいない。

「あらっ? やっと起きたの。今味噌汁できるわね」

目を向けるとカナコは今度はうつろな顔で何も入っていない鍋をおたまでかき回していた。




「……空鍋もやめてね。怖いから」

カナコのおかげもあってすっかり私も健康的な朝型人間になりつつある。軽く食べて玄関から外にでる。いつもの公園に顔出す。ここ最近は梅雨も終わり、カラッした晴れの日が多くなっている。気持ちのいい朝だ。朝活して目指せ女子力アップ。

違った。

朝、まだ暗さの残る公園で柔軟体操を始めながら空を眺める。今日は雲の激しく動き、何が光る。



俺の中のスイッチが切り替わり、警戒態勢に入る。

「始まったか。今日は多いな。雲がいつもより騒がしい。どうやら増員したらしいな」

(どうしたの? )

「奴らだよ。くそっ! 右手が奴らの血を求めて疼く」

俺は激しく反応する右手を押さえながら、呼吸を整える。最近この辺で多くのUFOを見かける噂が流れていた。あまりの多さにUFO研究家にしてBL作家の八尾井純子氏も滞在しているという。

心当たりがあるとすれば一連のジュエルシード事件に奴らが感づいて調査をしているのかもしれない。まあ今の俺には関係ないか。俺は抜けた身だ。いつか奴らに俺のカミを失ったことに対する復讐のため贖罪と裁きを行うつもりだったが、カナコに反対されてあきらめた。希ちゃんを危険にさらすこと考えれば当然のことだ。せっかく日本の情報収集主任ジョーンズ氏へのメールアドレスも使わないかもしれない。

「ふん、忌々しい監視者どもめ、まあいい。奴らは見逃してやるか。くっくっくっ、だが俺たちに害が及ぶならばその限りではないと思え」

俺は空をにらみながら風に乗せてそっと忠告する。そうおまえたちは運がいい。しかし、俺たちの好意につけ上がって手を出してくるならば容赦はしない。火の粉は振り払らうものなのだよ。

(さっきから、何をぶつぶつ言ってるの? )

カナコの怪訝な声に我に帰る。

……どうやら気づかぬうちにまた染まっていたようだ。いくら心の安定を保つためとはいえ、恥ずかしくなってきた。

ちくしょう。これも夢のせいだ。あの日以来ストレスがピークに達するとジークフリードクラスの痛い男になり思考も言動も怪しくなってしまう。幸い俺より重度のカナコやよくわかってない希ちゃんは気にしてないようだが、俺自身が行動を振り返るともだえるくらい恥ずかしい。最近はいつのまにかスイッチが入っていることも多い。

カナコの疑問の声に答えないまま流し、考えごとをしてうちに柔軟体操が終わる。一息ついて水分補給をしておく。


「希ちゃ~~~~ん」

なのはちゃんの声が聞こえる。どうやら来てくれたようだ。この子の朝も早い。起きていれば希ちゃんも出てきてくれるときがあるから一石二鳥である。来ない日やいなくなるとすぐに引っ込んでしまうのが難点だ。でもこうして現実に出てくるだけで今はいいと思う。

なのはちゃんと魔法の訓練。またはカナコが指示する通りに体を動かしている。カナコ曰く筋肉をつける必要はないが、何度も反復して体を動かし、効率的かつ迅速に動かせるようにするそうだ。ただその動きは独特である。

「希ちゃん、何してるの? 」

最初の頃はなのはちゃんも不思議がって聞いてきた。

「何って、体を鍛えているんだよ。これは鶴の構え」

両手を羽のように広げ、左足を持ち上げ片足立ちする。

「踊ってるみたいだね? 」

「恭也さんや美由希さんに聞いてみればわかるかも」

もはや景色の一部となっていた。

私たちはひょんなことから近所に住むアメリカ帰りのカラテマスターミヤギさんに弟子入りしていた。最初の一週間は車のワックスかけや広い庭の柵のニス塗り、床板のヤスリかけだけをさせられていいように使われているだけかと思い文句を言ったが、なんと今日までやってきたことは空手の防御の型になっていて、ミヤギさんの鋭い突きをなんなく受け流せるようになっていた。このまま二ヶ月も練習すれば地方の大会で優勝できるという話だ。ジャパニーズファンタスティックである。

なのはちゃんは魔力コントロールのために、空き缶を魔法弾でリフティングをやっている。そこに希ちゃんも興味を持って真似を始めた。上達は早くすぐになのはちゃんと並ぶところまで来た。それに触発されたレイジングハートはなのはちゃんへのハードルを上げた。

負けず嫌いなデバイスですね~

この前はレイハさん同じデバイスである俺がふがいないことに目についたのか説教された。デバイス心得とデバイスプログラムみたいなもの渡されたけど、プログラム言語で書かれていた。

読めないっす。

カナコも無理だったが、なぜか希ちゃんだけは余裕しゃくしゃくだった。

「れいじんぐはーとあたまいいな。こうやって演算すればいいだね。これなら今までできなかったことができるよ」

とのたまっていた。希ちゃんの魔法処理能力はさらに向上したそうだ。三人の役割で俺がデバイスに宿ってサポートをしているが、どちらかと言えば希ちゃんの方がデバイス向きかもしれない。俺の役割は発動イメージと決め台詞を言うだけだから、見た目は派手だが実は大したことはやっていない拡声器で、せいぜい威力の上乗せをするくらいだ。計算とか大の苦手である。

どっから見てもダメダメでしゃべるくらいしか脳のないデバイスで、とてもレイハさんやバルディシュと比較できるようなシロモノではないのだが、後日レイハさんにもらった資料は読めなかったと言うと、ため息っぽい何かをついて今度レクチャーするからコネクターを持って来いとか言ってたけど、家電のUSBコードとかでいいのか?

見込みはあるの俺?

なんでこんなに面倒を見てくれるか聞くと、レイハさんが言うには強い競争相手がいることで、レイジングハートの想定よりなのはちゃんは成長しているという。そのため、競争相手である俺たちにも強くなってもらいたいそうだ。

やはりマスターのためですか。そして、カントクみたいにマスターはわしが育てたと言いたいのだろう。それは冗談だがなのはちゃんも戦闘民族の血が騒ぐのか競争相手がいると燃えるようで、すごく楽しそうな目をしている。

その他にも空中模擬戦とかやっているけれど、最初はほぼ負け越しで距離を取られてるとほぼ一方的だった。なのはちゃんは砲撃魔法に関係なく空戦にものすごく強い。訓練で空中鬼ごっことかやってるとよくわかる。こっちはすぐ見失うのに、なのはちゃんはこっちの動きを完全にとらえてられて、余裕で背中にタッチされてしまう。他にもプロテクションとバリアジャケットの防御力が高いので容易には落とせないし、マルチタスクもクロノ君ほどではないが高レベルだ。長距離攻撃は言うまでもない。

飛行魔法も一つでも簡単ではない。なのはちゃんは優秀なインテリジェンスデバイスのレイジングハートが自動で管理してくれるから安心だし、元々空間把握力が高く3Dに自分と他のもの位置をしっかり捉えている。しかし、こっちはすべてマニュアル運転である。安全のためにバリアジャケットと自動プログラム魔法は入れてもらっているものの、戦闘で行うような動きはできていない。

管制・機動・索敵担当のカナコは飛行魔法もそれなりに使えるし、位置を捕らえるのは得意でクロスレンジには強いが、得意の攻撃は投げと受け流しなので空中ではなのはちゃんみたいなタイプにはあまり意味をなさない。長所を発揮できずに苦労しているようだ。

演算担当の希ちゃんは座標をしっかり指定すれは正確無比な攻撃をすることができるが、それは相手が止まっていればの話である。マルチタスクも苦手で足止めするための操作系の誘導弾の魔法はなんと一個しか使えない。意外と欠点が多かった。

カミノチカラ担当の俺は海で泳ぐタコみたいに展開してカナコの指令に合わせて攻撃してる。頑張ればイソギンチャクくらいは増やすことはできるが、安定して使えるのはタコの足くらいだった。空間支配範囲は半径30メートルくらい。その範囲ならば攻撃斜線を妨害したり、背面攻撃で邪魔したりできる。今でも余裕で弾かれますけど。

苦手なもの弱点の多い俺たちだったが、ここ一ヶ月で経験を重ねるうちに中距離、近距離で何度か勝ちを拾うことはできるようになり、最近では引き分けで終わることも多くなった。理由はカミノチカラを盾に使うことによる防御力アップ・カナコの空中機動のバリエーションの増加による回避力アップ・カナコの機動予測から希ちゃんが目標地点に魔法打ち込むことにより命中率が向上したことが大きい。

具体的には言うなら、ようやく防御魔法と飛行魔法を使えるようになった俺がカミノチカラの先端に展開したシールドで魔法を防ぎ。カナコはムーンサルトや宙返り、きりもみ飛行などの乗り物酔い必至の曲芸飛行で翻弄し、希ちゃんがミサイル迎撃の要領で即座になのはちゃんの飛行速度・進行方向・移動パターンから座表を高速演算して機動予測地点に向けて魔法を打ち込むという戦術を採っている。

目標はスターライトブレイカーとやりあって勝つことなのだが



無理無理絶対無理

どんなに強固なプロテクションを張っても紙のように破られて、どんなに避けようとしても余波で吹き飛ばされてしまう。きっとあんパンチとか十万ボルトとか水戸黄門印籠とか威力云々ではなく、勝利を確定させる因果を持っているのだろう。


アレを撃たせないようにするが、一番現実的な手段だった。



さすが将来のエースオブエースですね。

「なのはちゃん、パネぇっす」

希ちゃんその言葉遣いはだめだからね。

しかし、ここにきて少し不満も出てきた。カナコによるとなのはちゃんとの模擬戦はよい特訓なのだが、ヴォルケンリッターを想定するなら近距離タイプと戦いたい。シグナムやヴィータの攻撃を正面から受けてフレーム強化がどこまで持つか。クロノ君にもレクチャーしてもらったけどカナコの近接戦闘がどこまで通用するかはまだ未知数だし、なるべく時間を割いて鍛えたいとのことだった。

そこで候補に上がったのが高町家の人々である。なのはちゃんにお願いして、早朝の訓練に顔を出す。

「というわけで、参加させてください! 」

「えっ!? 」

恭也さんと美由希さんはあっけにとられている。美由希さんは困った顔で私を見つめて

「希ちゃん、これは遊びじゃないんだよ。私も恭ちゃんも真剣にしてるの。怪我なんてしょちゅうだし、危ないよ? 」

と諭してきた。もちろん。それは承知の上だ。

「遊びじゃないです! 真剣なんです。こう見えても私、心得があるんです。TATUJINなんです。ミヤギさんのところに弟子入りしてますし、刀とか持った相手のきんせつせんとーを学びたいんです。」

達人はカナコだけどな。

「う~ん、恭ちゃん。どうしよう? 」

美由希さんはますます困ったようだ。どうみても背伸びする子供に手を焼いているおねーさんの表情をしている。

むぅ、心配するのは当然か。でもミヤギさんの名前出してもダメか。あの人アメリカで空手未経験の素人をたった数ヶ月でチャンピオンに育てるくらいなのに。

まあ普通に考えたら邪魔にしかならない。ここはそれなりに実力を見せないといけないらしい。 

「じゃあ、なのはちゃん鬼ごっこしようか? 手が私の体に触れることができたら負けでいいよ。両腕は防御に使うからナシね」

「えっ!? う、うん」

こうしてなのはちゃんと立ち会うことになった。



始めの合図とともになのはちゃんはすっと手を伸ばすが、カナコは動きを読んで、体をひねってゆるりと避ける。最初はゆっくりだったなのはちゃんもあせって徐々に動きが早くなっていく。不規則に動く手も先読みしてたおやかに力の向きを変えてそらしてしまう。

(なのはの魔力は大きいから読みやすいわね。動きが手に取るようにわかる)

(なあ、砲撃避けられないのはなんでだ)

(来るのはわかってるわ、でも空中機動は私も初心者だもの。どうしても避けられないことがあるの。有能なデバイスもいるし、避けられないように追いつめられて詰められてハメられてる)

なるほど、来るのがわかっていても限界はあるってことか。

(カナコ、なのはちゃんケガさせないようにね)

希ちゃんが注文にカナコはわかったとばかりになのはちゃんが転びそうになると手で服の裾を引っ張り重心を安定させると、触れようとする手をするりとよける。見方によってはダンスの得意な人が転びそうな下手な人をうまくフォローしているように見えるからおもしろい。

一分ほど踊り続ける。

すげえな。空戦のときと立場が逆転してしまった。

最初は微笑ましいものでもみるような顔をしてした恭也さんたちだったが、徐々に真剣なものになっていく。

(なのはが疲れてきたみたい。そろそろ終わらせるわ)

そう言うとカナコはなのはの手首を掴み前に素早く引っ張る。運動が苦手ななのはちゃんはたやすくバランスを崩し、前のめりになり足が前に出そうになる。

「わわわっ」

カナコはなのはちゃんの足が地面につく前に自分の右足の指で手のように掴むとそのまま横から跳ね飛ばした。

飛ばされた足は羽が付いているようにふわりと浮かび頭と同じ高さまで上がる、なのはちゃんの体は一回転して、背中から道場の床に無音で着地した。ちゃんと頭を打たないように手は添えられていた。

こっちの感覚で言えば立った姿勢のなのはちゃんを空中でお姫様だっこにして優しく地面に寝かせたとでもような感じだ。

「あれ? 」

なのはちゃんは何が起こったかわからない顔をしている。

(現実で使ったのは前の学校以来ね。今回相手はなのはだから痛くないように投げたわ。さすがにあの女には足払いくらいしか使えなかったけど)

なんとなくカナコが前の学校で恐れられた理由がわかった気がした。夢の世界でカナコの投げくらったことがあるが、本当に何が起こったかわからないのだ。

投げ技は痛くないように投げるには力量差もあるが、高度な技術が必要になる。しかも足の指がなのはちゃんのかかとをがっちり掴んでいた。どういう足の構造してるんだよ。

美由希さんと恭也さんは今度こそ驚いた顔をする。

「希ちゃん、いくつだっけ? 」

「9歳」

美由希さんと恭也さんは難しい顔で首をひねっている。

「いくらなのはが鈍いからって…… 」

「お姉ちゃんひどい」

身も蓋もない家族の評価になのはちゃんは抗議の声を上げる。

「ミヤギさんって空手家だよな? なんであんな高度な投げ技を? 」

あれはミヤギさんの技じゃないけどね。

「どうですか? 」

「どうする? 恭ちゃん、今の見たら良いと思うんだけど」

「そうだな」

少し悩んでいた恭也さんだったが、最終的には了承してくれて週に数回くらいこちらの要望する特訓してもらえることになった。カナコは主に相手の一撃をどう捌くかに重点をおいて、ついでに素人の俺のために戦いの心得みたいなことを聞くことができたのは非常に参考になったと思う。

あの兄弟、普段の訓練もかなりのオーバーワークに加えて、昼夜問わず動きまくり、学校帰りに予告なしで特訓始めたり、ふたりで山ごもりしたりしてるらしい。

……妖しい。デキてるんじゃなかろうかと思ってしまう。

それはさておき、自分なりに理解したこととまとめるなら、実戦においてはどんな状況になっても落ち着いて普段通りにできることが一番大事ということだった。そのための特訓だと考えられる。

しかし、それが一番難しい。人間はさまざまな環境的要因からプレッシャーを受ける。例えばオリンピックの下馬評で練習では世界一と言われるような人が本番で失敗するように、普段通りに動けるということはそれだけで奥義なのである。



実際くらってみてわかったことだけれど、魔力の圧迫感やダメージによる痛みを恐れて身がすくんでしまうことがある。感情にも振り回されてミスを連発してしまう。そう考えると俺の周囲の魔導師のみなさんはなのはちゃんをはじめ化け物揃い。戦闘の重圧や魔力ダメージによる痛みといったきついプレッシャーをものともしないで、自分の能力を十分に発揮し、ほど良い緊張感を保ちながら、頭は冷静に、感情を完全にコントロールしていた。なのはちゃんやクロノ君の背中はまだまだ見えそうにない。

俺の最強への道は限りなく遠い……



夢の世界

最近の習慣として、俺は現実世界で眠ったあとここに来てカナコとときどき希ちゃんを交えて、検討したり、体を動かしたり、遊んだりしていた。

バーチャプレシアはあいかわず待機時間は拳法の動きをしてるもう休みなしで何ヶ月になるだろうか? 最近は残像が見えるし攻撃魔法も使うし、黒い影が出てきても瞬殺してる。頼もしすぎる守護プログラムだ。

カナコ曰く。魂のかけらと記憶は積み込んだものの人格を構成をするまでレベルまでは行っていない。しかし、俺のイメージと希ちゃんのちからがコラボってカナコでも把握できない事態が起こっているらしい。今のところ絶対命令に従うように調整して、黒い影の撃退プログラムとして運用している。おかげで楽ができるそうだ。

遊びと言えば、希ちゃんの要望でママゴトをするのだが、設定が俺が夫で、カナコは妻、希ちゃんが浮気相手という生々しい設定だった。しかも、どちらが先に妊娠するかとか、どっちがヤンデれるか決めて、オチは刺されて死ぬか心中して終わるというイヤすぎる結末だった。

カナコの場合だと希ちゃんの妊娠がバレて

「お兄ちゃんの子供だお」

希ちゃんが服のしたに本を詰めてお腹を膨らませて登場する。浮気相手にお兄ちゃんと呼ばせるのはどうかと思う。
カナコはやけに気合いの入った声で

「この泥棒猫!」

キラリと光る包丁を取り出すと希ちゃんに向けて突進する。

「危ない! 希ぃーーぐふっ」

というふうにかばって刺される。辺りは血の海だ。

でもさ、俺が流している血は本当にリアルで痛い。そこまで臨場感あふれるものにしなくてもいいと思うんだ。すぐ戻るけど痛い。痛いよ。痛いよ。おなか痛い。

特に包丁は勘弁してほしい。人の心の傷にさらにえぐってるのわかっているのだろうか? しかし、希ちゃんにやってと言われると俺も弱い。つい今度はどんな死に方をしようかと張り切ってしまう。

ちなみに希ちゃんのヤンデれるバージョンはカナコから別れるように迫られて刺されるのだが、

「あなたにお兄ちゃんは渡さない、ちねーー」

たまに台詞をかむのが微笑ましい。



他には俺の部屋で記憶を辿って、アニメやマンガを見ていた。カナコの力を使うと一度でも読んだり視聴していれば完全に再生できる便利な技で、ほとんど記憶にないものもあったからなつかしかった。それに今までは俺の言葉と文字で表現できなかったから、マンガ絵やアニメ、音声音楽でみせられるのはありがたい。

「お兄ちゃん言ってたのってこんなんだったんだね」

と感心しながら頷いていた。俺の太ももをイスの代わりにしてぺったりくっつく。なんか生きてるときもこんなことしてたな。ヤなことがすべて吹き飛んで癒される。ひだまりのような暖かい光を感じる。

もう何も怖くない。天井から光が差し込んできた。

「ちょっと、また成仏しかけてるわよ」

カナコの一言で我に返る。少し離れた場所でジト目で見ながら、分厚い本にペンで何か書いてる。字は黒じゃなくて赤い。最近はこの作業をよく目にする。その本もどっかで見覚えがある。

「なあ最近そればかりやっているよな? 」

「まあね。ようやくあなたがその気になったから準備をしているところなの。そんなことより、懲りないわねあなた、まだ包丁が足りないみたいね」

「怖いこと言うな。死なないってわかってるけど、痛いんだぞ」

「あなたのためよ。ほら成仏するってことは生きてる実感が足りてないと思うの。痛みを感じれば、痛い。やっぱり自分は生きてるんだって再確認することができるはずよ。よく風呂場で刃物を愛用してるダウナーな女性たちが言ってたわ」

「それは病んだ人間の発想だよ!!」

どっかからそんな知識を知ったんだよ。それに最近は最初に成仏しそうになったとときに感じた浮遊感みたいなものが感じられなくなっていた。それがどういうことかわからなかったが、どうせ成仏するつもりはないし、大した問題じゃないだろう。

視線を向けるといつのまにか執筆に戻っている。その顔は真剣そのもので、ときどき希ちゃんを見るときのような柔らかい表情することがある。何か大事な意味があるのだろう。

しばらくすると筆を置いて、いつもの話し合いが始まる。



第30回 ヴォルケン対策会議

もう何回やったかわからないこの会議。

カナコの見立てでは、このまま順調に成長したとしても、ヴォルケンリッターひとりに勝てる確率はシャマルを除いても4割を切る。

カナコの注釈が入る。

「まず前提条件ヴォルケンリッターははやての道を血で汚さないために殺しはしない。死なないように加減をしなければならないから、私たちの勝ちの目がある。殺し合いならほとんど勝ち目はないわ。

それからアースラでしたクロノとの模擬戦となのはとよくやる模擬戦とあなたの闇の書事件の記憶を照合して、だいたいの勝率を割り出してみた。

一番低いのがシグナム。超攻撃型で近距離、中距離、遠距離なんでもござれで、近距離得意な私も分が悪いと見てる。ガチタイマンならまず負けるわ。フェイトもよくあんなのと戦えたわね。防御力は意外に低いと考えてるけど、倒す前に倒されるのがオチね。

二番目はヴィータ。攻守のバランスが一番いい。攻撃は近距離に偏りがちだけど、サポート魔法も多彩に使いこなすから厄介よ。ずば抜けた空中近接戦闘のセンスを感じさせるわね。あんな命中率の低そうなハンマーどうやれば当てられるのか教えて欲しいわ。性格的にバインドとか絡め手が有効そうなのが攻略の糸かしら。

三番目はザフィーラ。あんなタフネスそうなのどうやって倒せばいいのよ。バイントとかで筋肉で引きちぎりそうだし、クロノの切り札も筋肉で弾きとばすし、あ~もう筋肉筋肉。他のふたりほど攻撃力が高くなさそうなのが救い。でも時間は稼がれるわね。

シャマルは戦闘要員じゃないけど、他の仲間がいるときは恐ろしいわね。助け呼べないし逃げられないし完全に詰むわ。姿を見つけたら真っ先に無力化するべきね。

ふたり以上になると絶望的と見ているわ。今の状態では一人で遭遇した場合一番可能性が高いシナリオは時間を稼ぐことしかできず。仲間を呼ばれてアウトいう結末ね」

話は続き、最悪を想定した場合どうなるか考える。

魔力蒐集を受けた場合どうなるかははっきりとはわからないが、エイミィさんたちの分析を考慮すると、もし蒐集された場合、最悪のケースは魔力で構成された俺とカナコが吸収されて希ちゃんと引き離されてしまうと考えることができる。

しかもそれだけではない夢の世界が崩壊し、カナコが封印した黒い女や影たちが一気に解放される可能性である。幸いこれは俺たちが期限までに封印を解放して黒い女と3つの封印を倒してしまえば済むことではあるが、封印解放はもはや前提条件になってしまった。

希ちゃんを一人にすることは何があっても避けたい。あの子はまだまだ一人で歩く力はない。

例え俺たちが吸収されなかったとしても、ヴォルケンリッターははやてのために殺しをするつもりはないが、なのはちゃんの例でもあったようにギリギリまで魔力を吸い上げるだろう。その残り少ない魔力を夢の世界の維持のために消費し続けたとしてあまりいい予感はしない。その辺の事情をヴォルケンのみなさんにもぜひ知ってもらいたいものだ。

とはいえはやてたちへの接触はいろんな意味でリスクを伴う。敵はヴォルケンリッターだけではない。グレアム提督とアリア、ロッテの使い魔猫娘も監視している。カナコが魔力気配を辿り、はやてに近づいたことがある。周囲にいつもごくわずかな魔力が感じられるそうだ。刺激するべきではないと判断している。

猫娘たちは原作を見る限りやっている仕事から見てもかなり強いのだろう。だが所詮獣いくら強くても人間様の悪知恵にはかなうまい。

くっくっくっ

と強がってみる。クロノ君レベルではないが俺なりに猫娘に対抗する手段は考えてある。カナコはこんなものが本当に効くのか目で訴えていた。

「まあ真っ当にやったら勝てないけど、手段を選ばなければいくらでも方法はある。まずは猫じゃらしにマタタビと言った基本は押さえるとして、そうだ。猫水があった。透明のペットボトルに水を入れて猫の周りでグルグル回せば首を飛ばす程のダメージを与えられるはず、いや待てよ。いくらなんでも殺すのはまずいな。準備だけして封印しておこう 」

「あなた頭は良いかもしれないけど、バカね」

失礼だぞ。俺だってそんな手で勝てるとは思ってない。単なるジョークだ。あわよくばくらいは期待してるけど

まともな話し合いに戻る。

基本的になのはちゃんと一緒ならば生存率がぐっと上がるので、学校ではそばに付いて、家にいるときはいつでも近くにいけるようにする方針だ。

神様。仏様。なのは様である。

残る課題は相手を無力化する攻撃力。さっきも少し触れたがヴォルケンリッター単騎に接触した積極的に倒しに行く必要がある。短期決戦が妥当だ。仲間を集まってくるからである。



こちらの手札なのだが、プロテクション無効化からの攻撃は格上では現実的でない。クロノ君との一戦が証明している。近接得意で手練れのヴォルケンリッター相手では自殺行為だ。

突破口になるのは、プレシアのスキルによって生まれる強大な魔力によるあの魔法攻撃か、俺のカミノチカラの奥義ともいえるアウトオブコントロールによる攻撃に絞られる。

プレシアのスキル。デバイスを通して外部からのエネルギーを供給し、魔力に変換するレアスキル。アースラのスタッフに聞いたり、プレシアの記憶を検索してみたが、時の庭園のような専用の魔力炉がないと基本的には使えないし、私たちに魔力炉を作ることは不可能ではないけれど、資金や材料の調達、なにより時間の都合で頓挫せざるえなかった。

プレシアはあの魔力炉を自分の体に負担がかからず、大規模に運用できるように調整していた。だから、超遠距離で馬鹿みたいに攻撃範囲が広い次元干渉魔法のようなでたらめなことできた。同じ電気だからといって、雷を家電用の電気に使えないように、エネルギーの指向性や質は意外と繊細な問題らしい。ただし、体への負担を考慮せず、小規模であれば少し選択枝が増える。しかし、AAAクラスからSになるようなものではなかった。

プレシアのレアスキル運用は凍結することとなった。

残念である。何か巨大な魔力の塊でも転がっていればいいのに

次は俺の切り札アウトオブコントロールだが、一日一回であること、一度見られてしまえば二度目は通用しないであろうこと、ドクターから怒られるくらい体に負担がかかることがマイナスではあるが、現時点で50パーセントの威力でクロノ君を圧倒できたことと身体を強化すれば100パーセントに近づけることができることから、重点的に強化する価値はあるとカナコは判断した。

「クロノの件もあったし、魔法戦のときの切り札になるわね。他に手っとり早く強化できないかしら? 」

そういうものの、修行自体も毎日の積み重ねがものを言う。すでに俺自身は極地の域に到達していると自負している。もちろん今の水準を保つため研鑽は怠っていない。

これ以上は伸びしろがないように思えた。でもこうも期待されては何とかしたい。



しばらく、考えて思いついたのはわかめ玉に変わる新たな新薬の開発だった。今のわかめ玉は胃に過負荷がかかるので、できれば安全且つ効果的なものを使いたい。

わかめは兵器ではない。味わうものなのである。

というわけで斎に連絡を取って、我が家を訪問する。親父とカーチャンは留守だった。なんでも親父はカーチャンを最近、外来の心療内科に連れていっているそうだ。遠方らしく遅くなるそうだ。好都合だな。

カーチャン、不眠と無気力がひどいらしい。まあ俺はもう死んだ人間だし、もう関係のない話だ。ただ斎の悲しそうな顔を見ると胸がさわめく。

自分の部屋に入り、物を確認する。前に泥棒に入られたらしいけど綺麗なものだった。盗られたものはっと……

やはり中国で牛と交換した「だいよげ~ん」を盗られた。PCは無事かな? 

うわあ、やられた。

どうやったかわからないけどHDDのデータだけやられてる。DVDにバックアップ取ってて良かったよ。創作物が無駄になるとところだった。ただメール関係は全滅だな。

おのれ~ だが手段はまだある。  

ついでにOSを入れ直してあるソフトをダウンロードしてパスワードを書いておく。これで雨宮家からここをパソコンを操作できる。さて本来の目的を果たすとしますか。

俺は龍の髭とかを置いてあった棚からあらゆる髪のための薬を取り出す。髪の毛関係の薬剤はほとんど直接塗布するものだが、漢方系には飲み薬もある。

前の浅野陽一のときには髪を生き返らせることと現状維持が目的だったため、塗布する薬剤に落ち着き、豊富な髪を生かす方面にはほとんど手を出していない。というか関心が向かなかった。

その中に実は生前使うことのなかった秘密のレシピがある。ネットオークションで手に入れた非売品で、手書きのレシピノートだった。内容は至郎田正影シェフによるワカメスープである。七桁くらいの値がついたが買ってしまった。

彼は異端の料理人で身体強化を可能するスープを熱心に研究していたそうだ。そのレシピノートには漢方とわかめを使ったスープが書かれていた。他にも赤と青の「ミラクルキャンディ」とか「Jリーグカレー」の作り方も記載されている。しかし、材料がネットでは入手不可能で中国まで直接買いに行かないとダメな物ばかりだった。

幸い中国旅行の際、そのほとんどを手に入れた。持つべきものは現地の友人である。ただふたつ材料が見つからなくて、七日七晩かけて作るのが面倒くさくて結局作ることはなかった。ちんどう氏に聞いても手に入らなかったものだから、たぶん手に入れるのは難しいはずだ。

でも材料が足りなくても、50種類もうちたったの二つだからなんとかなるだろうというのが俺の結論だった。

家に帰りさっそくワカメスープ作りに入る。

台所はおかーさんに料理に目覚めたと言って使わしてもらってる。こうして料理本を読むといろいろ入れる順番や火加減など難しい要素が多い。アク取りってどうやるんだ?

こうして、途中おかーさんに味見に冷や冷やさせられたりしたが、ようやく至高のワカメスープが完成する。出来上がったスープは冷まして寒天で固めておく。これで持ち運びも楽になった。さすがおかーさんナイスアイディア

おかーさんは最初はできたら最初に食べさせてねと言っていたが味見をして以来、何も言わなくなった。

そんなにまずかったのだろうか?  

ただ、料理しているときに見守ってくれていたのは確かだった。困っていたら、手助けしてくれた。寒天もおかーさんのアイディアだ。

さすがに家で実験するわけにはいかないので、朝早くなのはちゃんと一緒に公園ですることにした。

「なのはちゃん、今日は前にクロノ君に使ったあの技の練習をするけどいいかな? 」

「え゛っ!? 」

なのはちゃんは固まる。

「大丈夫。なのはちゃんに向けて使うわけじゃないから、見てて欲しいだけ、じゃあ見ててね」

私は念のためバリアジャケットを身にまとうとさっそく角砂糖くらいのワカメスープ寒天固めを飲み込む。



ドクンドクンと心臓が脈打つ。耳に直接に聞こえてきている。

体が熱い。全身の血液に炎が巡り焼けそうだ。わかめ玉を使ったときとはまた違った感覚がする。髪ではなく全身がふくらむような妙な気分だ。さっきから熱くて熱くて叫びたい。

ん? 我慢することはないよな。じゃあ、せーの。









「ぶらぁああああああああああああああああああああああ」

燃えるような昂陽感に私は強力わかもとな雄叫びを上げる。女の子の声とは思えない渋い声が出た。



…………


…………



十分後、

「なのはちゃん! なのはちゃん! しっかり!」

私は気絶したなのはちゃんを起こす。なのはちゃんは薬の効果で変貌した私の姿を見て音もなくパタッと倒れてしまった。幸い効果は5分程で切れたし、あれほどの変貌をしたはずなのにちょっとした疲労感だけで体に異常はなかった。それからバリアジャケットってかなり伸縮性に優れているということを初めて実感できた。

「う~ん、筋肉がぁ~ 筋肉がぁ~ 渋い声がぁ」

なのはちゃんはうなされている。結局気絶したなのはちゃんを背負って翠屋まで運ぶ。聞いた話によるとなのはちゃんは当分の間、

「怖いのが、怖いのが来るの~」

とガクブルでうなされ、恭也さんや士郎さんを見て異常におびえて、エアロビの番組を見て急に悲鳴を上げるようになったらしい。ごめんねなのはちゃん。でも何か勘違いした士郎さんと恭也さんが怖すぎるから早く誤解を解いてあげてね。

結論 ワカメスープダメゼッタイ

失敗作のワカメスープは封印された。やはり材料そろえてレシピの通り基本に忠実に作らないといけないらしい。破棄しようとがおかーさんはみーちゃんが始めて作ってくれた料理だからもったいないと譲ってくれなかった。まあ試食してたおかーさんには何の影響もなかったから大丈夫だろう。あれはわかめ玉のように俺にしか効果がないたぐいのものだからな。



手詰まりになったので、カミノチカラの師匠にたずねることにした。

師匠に浅野陽一が死んだこととカミノチカラの後継者が見つかった旨メールを送る。すぐに返事が来て、焼香しに数日中に来日すると返事があった。ついでに後継者の腕前をみせてもらうとのことだった。待合い場所に海鳴市を指定して、斎に連絡して家の方には弔問客が来ることをつたえておいた。

そして、当日、斎から連絡があり、なんかヤクザみたいな人が来た。お兄ちゃん中国でなにをやったのと怖がっていた。家はちょっとしたパニックだったらしい。

「ただでさえ、お母さん不安定なのに…… 」

と愚痴っていた。親父もせっかく退職したのに大変だな。

とある公園で待ち合わせる。スーツを着たごっつい中国人と小学生の女の子の組み合わせ、見ようによっては犯罪の匂いがするが、誰も気にした様子はない。

鎮獰さんは後継者が若すぎることに驚いていたが、カミノチカラを使うと納得したようで、お互いに自己紹介をした。俺こと浅野陽一との関係についても話しておく。

「今、君が使ったのは魔力だろう? 」

へえ知っているんだ。説明によると使う人間の極めて少ない力のことらしい。普通の人間にはない核という器官から発するらしく、聞けば聞くほどリンカーコアのことを示していた。

鎮獰さんは懐から白い紙片を取り出すと手渡してきた。

「この紙に力を集中してみてくれ」

言われるままに紙に魔力を集中すると紙片は真っ黒に染まった。すると感心したように

「かなり強いちからがあるようだな。残念ながら、私には魔力を使うことはできない。もしよければ、魔力を使う竜の一族を紹介する。彼らの一族は長年魔力について研究しているそうだ。君ほどのちからがあればきっと向こうから来てくれるはずだ」

(どう思うカナコ?)

(怪しすぎるわね。身の危険とかないかしら?)

(鎮獰さんの紹介だから、信頼できると思うぞ)

しかし、カナコの心配はもっともだ。詳しく聞いてみよう。

「竜の一族とはどんな方たちなんですか? 」

「そうだな。まず世界で竜から取れる漢方を手配できる唯一の窓口だ。君の持ってた竜の髭はここから供給されたものだ。ブータン産・国竜の両髭・幼年期生え替わり部分500年モノと聞いてる」

何その専門用語、なんで特産品みたいなってるの。だいたい竜ってこの世界にいるものなのか?

でも考えてみれば、久遠とか美緒、すずかの一族のことを考えれば不思議ではないかもしれない。

「どうかしたかね? 」

「いいえ、続けてください」

さらに説明は続く。それによると竜の一族は超古代文明の力をその血に残し、遠い世界から来たルイエという竜を使役する一族の血が混じりあったことで、絶大なる力を得て、魔力を使いさまざまな術で時の権力者たちに仕えたという。時を経て徐々にその役割を変えていったそうだ。

ルシエ? どっかで聞いたことあるな。

今では政府公認の希少な漢方を取り仕切る一族らしい。希少な漢方? もしかしたら俺が見つけられなかったあの漢方も手に入るかもしれない。

(カナコ、会ってみる価値はあるんじゃないか? 魔力はともかくカミノチカラを強化できるかもしれないぞ。あのレシピの通りに作れば今度こそ大丈夫さ)

(仕方ないわね。でも気をつけなさい)

その後、連絡を取ってもらうと、一族の代表が数日中に会いに来てくれるらしい。詳しい話はそれからということだった。鎮獰さんはかつて自分を破った日本一の極道の親分に会いに行くと言って去っていった。やくざが来たと思われたのは的外れではなかったらしい。







ここはあるホテルの一室、目の前にはスリット厳しいチャイナ服を来た色気むんむんの女性ふたりを両隣にはべらせた30代くらいの柔和な印象の男と難しい顔をした老人が座っていた。
男は白魔導士のような白いフードを頭に着けているのが印象的で、老人のほうは年の割にがっちりしている以外はどこにでもいそうな人なのだが、ある一点だけがものすごく気になっていた。

「どういうことだね? 劉君」

老人は男を厳しい目で睨んでいる。その眼光は鋭く相手を殺さんばかりで、私に言われたわけでもないのに心臓が縮み上がっていた。









「何のことアルか? 」

そんな老人の言葉など意に介さず、目の前の男は最初の印象のまま飄々と聞き返してきた。ただし見た目はシリアスなのに片言すぎる日本語と語尾アルが台無しにていた。



「どうして、ウチの孫がこんなところにいるのかと聞いているんじゃ! 」







…それはこっちの台詞ですおじいちゃん。

雨宮雷蔵。希ちゃんの祖父。よくいる孫馬鹿で豊かな髭で頬ずりして困らせる人、怪しげな武術と大ボラ吹いてはいるが体は鍛えられて筋肉質で海鳴大学病院病院長という本人を見たらわけがわからない役職、希ちゃんの叔父の総一郎結託して、今の環境を作った人物であり、何度か会ったことがある。

私と会うときはニコニコしたじいさんなのに今は鬼のように見える。

男は柔和な顔のまま考えるようなしぐさをして、ふっと向き合うと答えを返してきた。







「アイヤー、それは誤解アルよ。久々に優秀な魔力の持ち主が現れたという話を聞いただけヨー、ちょうどあなたが近くということだったので、先達として見てもらおうと思ったアルよ。アナタとワタシ、古来から血を交流させてきた親戚同士仲良くするアル。それにココは世界有数の人外魔境アルから心細かったヨ」

中国人ェ。シリアス空気が台無しじゃないか。

「ふんっ 狸め、大方わしに先に連絡入れたら会わせてもらえないと思ったか。わしはもう魔力は使えん。五十年近く前からな。一族もGHQのマッカーサーによって解散させられた。今は魔力とは関わりのない世界で生きとる。まあいい今回の経緯を詳しく話せ」

男は鎮獰さんの話をそのまま伝える。おじいちゃんの顔はだんだん厳しいものになっていく。



俺は汗がタラタラ出てきた。

やべ、なんて言おう。

話が終わるとおじいちゃんは顔を伏せたまま口を開いた。

「しばらく、孫とふたりにしてくれ。家族同士でお話がある」

「わかったアル。済んだら呼んでくれアル」

アルアルがいちいち気になる人だ。

おじいちゃんの飲み込むような声に男はうなずくと名刺を取り出しテーブルの上に置き、美女ふたりをはべらせたまま、部屋を出ていった。

「さあ、希ちゃん、おじいちゃんはおはなしがあるんだけど、聞いてくれるか」

さっきまでの厳しい声はなりをひそめ、気持ち悪いくらい優しい声がこれからの波乱を予感させた。

おはなしってなんですか?





作者コメント

ここから先は捏造世界史がリリカルなのはの世界を飲み込んでいきます。借金が雪達磨式に増えるように、フラグを回収しても回収しても増えてる。



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