第三十二話 アースラの出来事 前編
フェイトとのお別れも無事に済んだ。無事とは言えないイベントもあった気がするけど終わりよければすべて良しである。部屋のベットに横になり体を伸ばす。
あ~ 何もしたくねぇ。
当分は何も考えずのんびりしたい。アースラでは暇らしい暇が全くなかったのだ。収穫もあったが、それ以上に懸念や課題も山積みになっていた。これからを考えると気が重い。ヴォルケンリッター襲来までできることはすべてやらなければ俺たちに未来はないのだ。
外は雨が降り始めてる。そろそろ梅雨だったな。
ん? 何か濡れた感触がする。雨漏りかな? 私が帰ってからはすぐに家の中も綺麗になったが、ほのかな水の腐臭だけはなぜか残っていた。おかーさんも笑顔だけは変わらないけど化粧が濃いし、疲れているようにも見える。
家の空気も前と違ったまま、まるで見た目だけが同じで違うところに住んでいるような嫌な雰囲気だ。たった数日でこんなに変わるものだろうか? しかも耳鳴りがして、ひどく寒いし、肌がピリピリする。それが心に引っかかっていた。
まあ気にしてもしょうがない。違うことを考えよう。
私は横になりながらアースラでの日々を思い出していた。
1、フェイトちゃんとバーチャプレシア 三日目 午後
アースラ艦内、ジュエルシード事件は解決し、意識不明だったフェイトも何とか生きる力を取り戻し立ち上がることができた。
とはいえ頭の痛い問題もある。いくら自分の使い魔とはいえ愛情込めすぎですフェイトちゃん。アルフ窒息して青くなってたよ。次の餌食は間違いなくなのはちゃんになる。カナコはその問題を解決すべく、寝ている間にフェイトに長距離シンクロをかけて再教育中だ。今日で三日目になる。
そのひとつとしてバーチャプレシアは初期型のたった一言しか言えないカクカクしたサターンタイプからアップデートして百数個の台詞パターンと丸みを帯びたドリキャスタイプへ進化させた。さすがにここまでが希ちゃんの限界らしい。実在の人物ではなくゲームのキャラクターだからこそ、年上女性にトラウマのある希ちゃんが受け入れることができるのだ。ゾンビとDXもそんな理由から生まれたのかもしれない。
その代わりと言ってはなんだが、このプレシア学習タイプで動きがだんだん洗練されてきた。ほんの数日で、打撃は重く動きも鋭くなった。驚くべき進歩のスピードである。しかもプログラムということで休息が必要ないらしく、命令がない待機時間のときは一日中拳法の型で動いている。今では創造主より近接戦闘がよほど強くなった。
……なってどうする?
一度腕試したところ、腕を折られ、アバラを何本か持ってかれ、とどめに首を折られた。
倒れ臥す俺に、
「十年早いのよ」
とか言われた。くやしいのう。くやしいのう。まあすぐに再生したけど。
俺はこの夢の世界では頑丈なのだ。というか最近なった。この間のナイフの件が刺さっても平気だったことをカナコはだいぶ気にしていたようで、アイツなりに検証したらしい。それによると、半身の最終戦士に理由があるという話だ。
最終戦士は自身の存在に絶望して一度は魂が粉々に砕けたが、希ちゃんを助けるためにバラバラに散った魂をもう一度組み上げて、再び力尽きた。その後俺の部屋から魂のかけらを集め奴の砕けた魂と一緒に再生したことで、一度砕けて組み上げると言う課程を経験したことがあの再生力に繋がっているということらしい。
ただ今のところ現実で何かの役に立つというわけではなく、さっきのように夢の世界でサンドバックになるのがせいぜいだ。
体を起こすと、とろけた表情でフェイトがバーチャプレシアの腰にしがみついている。ここに来ると希ちゃんと少しは話をしてくれるが、当の希ちゃんはあまり長くは話せないので、暇があればこのようにして過ごしていた。
「母さん。丸くなったね。痛くなくなったよ」
「フェイトイイコネ」
そういう問題なのか?
このようにフェイトには喜ばれたものの期待したほど効果はなく、今日は暗示をかけると言う。なんとなく不安だ
この交流の中で改めて確認したものがある。アリシアちゃんの魂のかけらである。フェイトの魂と半ば混じりながら寄り添うように存在しているそうだ。もし、プレシアの元に拉致されたとき、魂のかけらに気づいていたなら、このレベルならばソウルプロファイルで再生可能で、肉体へ魂を定着させる課題さえ乗り越えれば完全復活は不可能ではなかったらしい。ただその定着させるのが難しいという話だ。
魂だけでは定着しない。霊体とかエーテル体云々と言っていたが俺にはよくわからなかった。ただ方法はあるらしく、シンクロとリーディングより高度な技術で可能になるそうだ。カナコは使えないとか言っていたが、どうしてそんなこと知っているだろう?
ちなみに俺は機械にも魂が宿る変態と断言された。今の魂の元の材料がパソコンに宿ってた魂のかけらだからというのが理由で、髪の毛を使いこなせるのもその辺に秘密があるんじゃないかということらしい。だったら夢の世界でカミノチカラが使えないおかしくないだろうか? そんな俺に対してカナコは一つの仮説を提示してきた。
「あなたが現実でカミノチカラ使えるのに、ここで使えないのは髪の毛が生えた自分をイメージできないからよ。ここはイメージ力と心の在り方がそのまま力になる。ディスティを使えなかったでしょ? それは最終戦士にしか使えないってあなたが設定してるから、それと同じ、人間は息を止めると苦しい。食べないとお腹がすく、ナイフが刺されると痛いとか崩せない世界観なの。ただしさっき話した再生力のように常識の壁を破るのは可能みたいね」
要は気合いでなんとかなるってことだろう。
夢の世界だし、そういうことになる。逆の見方をすれば希ちゃんがこの世界では神に等しい存在なのに、黒い影や黒い女に手も足も出ないのは心の中で絶対に勝てないと思い込んでいるからなんだろう。あの子の二年間を考えれば当然だ。
自分の身で考えるならば、豊かな髪の自分にはなりたいと切望しているが、過去十数年に渡る髪を守る戦いはジリ貧だった。諦観と絶望に何度も負けそうになりながらも、何度も不毛 ……イヤな言葉だ。無駄なあがきをしてきた。最終戦士の容姿がそれを象徴してる。
つまり髪は死んだ。希ちゃんのような豊かな髪は持つことはできないと、俺の経験と記憶がそう決めてしまっているんだと考えられる。俺がこの世界で豊かな髪を得るためには浅野陽一の髪を守る十数年戦いの記憶を覆すだけの意志の力がいるってことだ。
うん、無理。
残念ではあるが、幸い今までの人生で一番豊かな髪をした女の子を好き放題いじれるのだから慰みものにはなってる。
ん? なんか違うな。これじゃ俺が「来いよ! アグ○ス」と挑発する人たちみたいじゃないか。豊かな髪を自分の髪のように愛でることができると言い換えた方がいいだろう。
さっきから思考がずれまくりだ。髪がからむとどうも考える時間が長くなって困る。ひどいときは気がついた数時間という時もざらであった。アリシアとプレシアについて考える。
もう過ぎてしまったことだが、もしすべてがうまく行きアリシアちゃんが復活していたならば一体どんな結末になったのだろうか? プレシアも病気が完治して、アリシアちゃんもフェイトちゃんも笑顔で、みんなハッピー。
そんな結果があり得たのかもしれない。
でも運命は残酷だ。プレシアは死に、アリシアちゃんも死んだまま、フェイトちゃんは重い心の傷を負ったまま生き残った。仮定のことをいくら考えても仕方がないのはわかっているが、やるせなかった。クロノ君のあの言葉が重くのしかかる。
気持ちを切り替え、俺は床につく。現実世界でやることは山ほどある。肉体と精神をしっかり休まなければいけない。こんなはずじゃなかった未来を避けるために、幸福な結末を目指して、明日も検査室に資料室に訓練場、なのはちゃんとも交流しないとな。カナコはアースラにいる間はなるべく睡眠時間を削り起きているそうだ。魔力だけの存在とはいえ疲労は感じるようで、アースラを降りるときに休むらしい。
大変だな、アイツも。
2、カナコのストレス解消 四日目 午前
次の日、目を開けると夢の世界の俺の部屋だった。何か重みを感じるとカナコが両足を俺のふとももに跨りマウントボジションでじっと見ていた。しばらく見つめあい、やがて口を開く。
「おハロー」
「なにやってんすか? 」
カナコは右手の人差し指を目の前に持ってくるとくるくるまわし始める。
「あなたは~ 私を好きにな~る。好きにな~る」
ああ、やっと合点がいった。
「カナコ、それが通用するのは顔面向こう傷イケメンのガンブレードとかいうオサレな造形で、構造的には武器として間違ってるものを使う兄ちゃんだけだぞ」
「いいのよ。宇宙まで行けば、わけがわからないまま、なし崩しに相手を好きになるし、むしろ好都合」
恐ろしいことを言う。宇宙に行くのか俺?
「そういう穿った見方ができるところは割と好きだぞ」
「あ、あら、珍しいわね。さっそく効果があったのかしら」
動揺したな。少し顔が赤くなった。意外と可愛い奴。
「疲れてる? あんまり寝てないだろ? 」
気になったことに話を切り替える。カナコはまあねというニュアンスで首を縦に動かす。オンナゴコロには鈍いほうだとは思うが、こいつに関してはつきあいの密度が濃いせいかなんとなくわかるようになったと思う。
「さすがに睡眠時間を削っていろいろやるのはつらいわ。でもここにいる間にしかできないことも多いから、今は少し気分転換」
いたずらっぽく微笑み、人差し指で俺のあごをなでる。あまりに妖艶でとても十歳くらいの少女がする目じゃない。男を引き込むというか魔性の力を感じて、どぎまぎしてしまう。なんか吸い寄せられそうだ。
ほんとの年齢いくつ?
「あら? 女性の年齢を聞くなんて失礼よ」
いや、言ってないけど、エスパー? いやリーディングか。
「力は使ってない。目を見ればわかる。あなたも意外とわかりやすいわよ。そうね、この世界では生まれて二年よ」
わかるのはお互い様らしい。二歳か。若いなカナコは、ただもとの人物を想像するならばもっと年齢は上になると思う。周囲には年齢と精神年齢が一致しない人たちが多いから油断はできない。ついでに聞いてみるか。
「前世はいくつ? 」
「あんまり覚えてないけど、前の私は二十歳にくらいまで一部の記憶しかないから、ホントのことはわからないわ 」
「月で生活してたんだよな? 」
「ええ、私と希とその他大勢で月まで来たんだけど、元々地球観測用の基地で駐在している人が何人かいたはずなのに誰もいなかったのよ 」
ここがあの世界とは違うところなんだよな。それがなにを意味しているのだろう。
「そして、記憶はそこで途切れているわ 」
「母星のことは覚えている? 」
「あまり覚えていないわ、ただ地球とそっくりだったと思う。竜とかいたけど 」
俺はそうかとうなづくと少し考え込む。手がかりは少ない。カナコは顔を覗き込む。
「そんなに私の過去が気になる? 」
「まあな」
「ふふふっ」
「なんだよ。笑うなよ」
カナコは含み笑いをする。俺もつられて笑う。不思議と暖かい気持ちになる。起き上がりカナコをさわさわと撫でぎゅっと抱きしめる。俺たちの関係ってなんだろうな? 斎との関係とも似ているようで違うし、希ちゃんとの関係も同じだ。友情とも仲間とも少し違う気がする。背中に手を当てる。やわいな。男と女の意識があるかと言われれば、あるとも言えるし、ないとも言える。適切な言葉が見つからない。
「で? 満足した」
気がつくとカナコを抱きしめ、背中をさすっていた。すごく近くにカナコの顔がある。
んっ!? いつのまに、
「なんじゃこりゃあぁぁっっッー」
「ちょっと耳元で怒鳴らないでよ。びっくりするじゃない。でも利いたみたいね。小さな子供にするようなことなのが不満だけど、まあいいわ」
俺は記憶を辿る。心とは裏腹に体は自然に動いた。まるでこうするのが当たり前のように、しかし、冷静になればセクハラだ。カナコは起きたとき何をしてた?
「おまえ、暗示かけたな? 」
「さ~て、なんのことだがわからないわ。でも行動の責任は取ってもらうからね」
カナコはニヤリと笑う。悪魔の笑顔だ。満足したようで、立ち上がると離れて行った。
少しカナコについて考える。
希ちゃんのために俺をつなぎ止めようとするのはわかるけど、男女関係の基本的なこと理解していないのか脅迫してくるし、今日みたいな突飛な行動をしてくる。もし俺が小学生は最高だなッ!と欲望のままに襲いかかるおまわりさんコイツですな奴だったらどうするつもりだったのだろう? 幸い俺は前世から上司の娘さんや斎の世話を焼き、高度に鍛えられてきたから一定以下の年齢の女性に欲望が働く余地はない。シ○タープリ○セスとハッ○ーレッスンどちらがいいかと聞かれれば、悩んだ末にハッピー○ッスンを選ぶくらいは健全である。
結婚がどうのとか言ってたから、行動を制限させるという意味では言うこと聞くのもいいかもしれない。
カナコの前世には竜がいたらしい。どんな国だろうか? それから戦争を逃れるためとはいえ、なぜ月を選んだのか気になる。
「僕の地球を守って」についてはガーゴイルさんって前例もあるくらいだから、考えてもあまり意味はないのかもしれない。ただ誰かに話をしたのは覚えている。誰だっけ?
あっ!?
ひとり心当たりが思い浮かんだが、そうなるとますますわからなくなる。動機がわからない。その人物は希ちゃんのおかーさんだからだ。少女漫画の話をえらく気に入っていた。これも保留だな。
次はレアスキル。
希ちゃんの力は魂かけらさえ十分にあれば魂ごと記憶も引き出すことができる。カナコの力は記憶の引き出しと封印に特化しているから、ふたりの力の在り方はよく似ているような気がするなぁ。五行封印とか洒落なのか本気なのか? 退魔師とか関係あるのか? 結局なにもわからない。しかし、カナコの出生を知る上で重大なヒントになるのではないかと思う。
3、ユーノ君きちくめがね。 四日目 午後
今日はユーノ君が来る日だ。本人の合意はない。シンクロして拉致ったらしい。
「よく来たわね。ユーノ歓迎するわ」
「あれっ!? ここは」
「私と希の夢の世界、見たことあるはずよ。今日はシンクロしたのよ」
「じゃあ、君がカナコ? あなたが陽一さん」
ユーノ君は確認するように聞いてくる。さん付けが少し照れる。こうしてみるとその辺の女の子をより可愛いからな。
「今日はあなたにお願いがあって呼んだの、あなたの一族は発掘調査が得意なのよね? 」
「う、うん」
ユーノ君はおどおどしながら頷く。何をそんなにおびえているんだ? カナコは用件を伝える。ユーノ君が未来で無限図書館を調べていたときに使う予定の検索魔法の基礎を習うためだ。
カナコがリーディングから得る情報は膨大で、本人が一度しか見てなくてとても覚えてはいないようなものだろうと根こそぎ吸い上げる。そのため余分な情報も山ほどあり検索・抽出するのには時間を要する。ぶっちゃけ一冊一冊読んでいく手作業なのでかなり面倒くさいらしい。希ちゃんの図書館に登録すればそれなりに効率は上がるだが、希ちゃんが受け入れられないプレシアの記憶とかもあるので、少しでも効率化を図ることが目的である。
一時間ほどして、カナコはやり方を覚えた。方法はとても単純、ユーノ君を人形の棚に魔力登録して、検索魔法を実際に見せてもらえばいいのだ。
「終わったか? じゃあ次は俺だな」
俺も実はユーノ君に用事がある。それはアトランティス関連の情報を聞くためで前々からそれなりに考えていたことだ。
はるか昔アトランティスが存在したことはガーゴイル氏程の人が多額の資金を集めて行くだから間違いない。グレイの存在もある。幼かった俺は奴らに手術されたせいで髪の毛が生えなくなってしまった。
絶対に、
絶対に許さない。
髪には代えられないが手術を受けたことで、俺は前世の記憶が蘇り、奴らの使う文字と言葉が分かるようになっていた。また、葉書に書いてたアトランティスの物語はここで知ったことを元に書かれている。手術の順番を待っているときの待合室で読んだのを思い出した。
中国のあの出来事の意味は今の俺でもよくわかっていないところはあるが、グレイは俺を現地の調査員と間違えたのではないかと考えている。しかも上位の調査員と間違えた可能性が高い。なぜなら、俺はただの調査員で現地調査をしてジョーンズ主任にメールすることだけの役割しか与えられてなかった。しかし、牛を持ってきたきただけで端末に使われる「あおいみず」と機密文書「ダイヨゲ~ン」を渡されているからである。さらに合流用の暗号も教えられている。これは普通の調査員ではあり得ないことだ。
「ダイヨゲ~ン」は現地の雑誌に偽装された機密文書である。中身はアトランティスの成り立ちの歴史から主任クラスにしか使えない暗号。現地生物回収の連絡方法までさまざまだった。当然手術された人間以外には読めないし、洗脳により情報が漏れることはない。
つまり、会社の言えば幹部クラスしか閲覧できない社外秘の文書が何かの間違いで一番末端の派遣社員に手渡されて、その派遣社員は面白半分に読んでいたということになる。
怖い話だった。ひょっとしたら消されしまうしれない。ガクブル。まあその前に死んでしまったしけど。
アトランティスの歴史に注目してみよう。
ダイヨゲ~ンには歴史についての記述が10ページ程書かれている。彼らの歴史は古く長い。成立は世界四大文明より古く。それぞれ黎明期・繁栄期・衰退期と分けられる。ただそんな長さをたった10ページにまとめているのだから内容は歴史の授業でするようなダイジェストなものになってしまう。
アトランティス最終戦士物語もほんの1ページ程の記録から生まれている。モデルになったのはアトランティス衰退期のムー帝国侵略戦争から着想を得て作られた。これ以降については戦争には勝った側もこれをきっかけにアトランティス帝国とレムリア都市連合は崩壊し、歴史は終わったと書かれている。どうして滅んだかについてとその後については書かれていなかった。
ムー帝国がずっと悪の帝国と言われそうなことをしたかというと、そういうわけでもなく、黎明期にはムー王国の王ラ・ムーが自ら巨人の力を使って、現地の凶暴な魔物狩りの中心役を担っていたらしい。時は流れ魔物は姿を消し、役目は終わった。繁栄期には正式な血統が途絶え、後継者争いが勃発、王国は崩壊、勝ち残ったものが帝国を建国したという。その混乱で巨人は行方不明になっている。
アトランティス王国騎士団の幹部だった頃、最終戦士が少なからず恨まれている理由はムーこそ正義で、アトランティスの方が悪だと主張するグループがあり揉めたことがあったからである。特に俺はやり玉に挙げられ、ムーの連中に粘着され始め、アトランティス王国騎士団の他のメンバーも見て見ぬふりを始めたので、俺はこれを期に責任を取る形で幹部を引退、ムーの連中に謝罪してその場は済んだ。
詳しくは知らないが、ムーと日本はゆかりが深く、その証拠となる歴史的建造物や遺跡が房総半島に存在するという話で彼らが強気なのはその辺にあるらしい。アトランティスのゆかりの地はエジプトなので少々不利だ。レムリア都市連合についてはわからない。
数年が過ぎてほとぼりが冷めた頃、ガーゴイルさんの取りなしで前のように物語を提供するようになり、ちょうどその頃中国旅行でダイヨゲ~ン入手していたので再び使わせてもらった。特にキィワードはなかなか詩的で日本語訳して物語りの冒頭にそのまま引用させてもらった。『世界を制する聖句』と銘打っていてなかなかカッコ良い。それから例によってムーの連中にまたからまれたが、実名出したら引っ込み、関わってくることはなくなった。
通常は洗脳の段階で強い秘密厳守も刷り込まれるため、文書の内容が表に出ることはないが、この洗脳抜け穴があるようで、フェイクを織り交ぜ、登場人物の名前を適当に当てはめただけで検閲を免れることができた。創作の参考にしたからわかることはないと洗脳を受けていた俺は判断している。しかし、見る人みればヤバいネタが満載だったのではないだろうか?
FBIやCIA、フリーメイスンを名乗る外国からのメールやガーゴイル氏の態度はその辺に理由があるのだろう。
当たり前だが、この世界は魔法少女リリカルなのはの世界である。中には俺が意訳したものがあるが、魔法やデバイス等不思議な共通点も見られる。そう考えた上で俺の推論ではこうだ。
アトランティスとは次元世界のことだっだんだよっ!
なんだってー
というわけで、遺跡発掘の専門家でもあるユーノ君に聞いてみようと思ったのだ。彼からきっとアトランティスがどこからきてどこにいってしまったのか地球人より詳しいだろう。
「ユーノ君、俺は遺跡発掘の専門家としての君の意見を聞きたいんだ。アトランティス、ムー、レムリアとか聞き覚えないかな? 」
「えっ? ちょっと待ってください。今考えますから」
難しい顔で考えるユーノ君、返ってきた答えは心当たりはないということだった。空振りだったか。こうなったらダメもとでいろいろ教えておくかな。
「カナコ、検索魔法で俺の中国のときのグレイの出来事とだいよげ~んの内容だけ抽出できるか? 」
「多分できるわよ」
「せっかくだから使ってみてくれよ」
「そうね。ちょうど試してみたいと思っていたところよ。じゃあ、あなたの部屋に入らせてもらうわ」
「ここじゃダメのなのか? 」
「ここの本はあなたの雨宮希としての記憶とPCから読んだ記録。それから、今のあなたの記憶からできてるの。浅野陽一だった記憶は魂に記憶されているからあなたの部屋に行って引き出すのよ」
そういうものなのか。カナコは部屋に入ると10分もしないうちにで出てくる。もう終わったのか早いな~ さっそくユーノ君へ記憶を流し込んで見てもらう。なんか考え込んでる。
「これ便利ですね。見てないはずなのにしっかり記憶されてます。お話はわかりました。はっきり言ってあのグレイについてはわかりませんが、文字の形に心当たりあるので調べてみます。今わかる範囲で言うと先史時代の古代遺跡の碑文に似たようなものがあったと思います」
おお! さすがユーノ君優秀だ。今の言葉だけでも大きな情報である。やはり次元世界と何らかの関係があったようだ。
「もういいかしら、まだ用があるのよ」
ユーノ君はなぜか急にビクッとなる。さっきからカナコと話しているときだけ変だな。よく見るとカナコは猛禽類のような笑みでユーノ君を見てる。
「ねえ、ユーノ、あなた男の子なのに、なのはたちと温泉入ったわよね? この十老頭直属の暗殺部隊っ! 」
カナコそれ淫獣違う。陰獣や。
「ええええっ! あれ」
ユーノ君は思ってもいなかったこと言われたショックで声を上げ、顔を真っ赤にしてモジモジしてる。いきなり直球できましたよこの人、それ言うなら俺も同罪になるんじゃないのか? しかし、最終戦士の記憶とそのとき感じたむなしさのせいかあまりピンとこない。
……股間のことではない。
どうも自分で見たって気がしないんだよな~ 今見たら男の側面が強いから違うとは思うけど、そういう意味ではもったいない。
「いいのよ。あれはあなたは悪くない。悪くないわ。だってあの時点では私たちもなのはも知らなかったもの」
急に不気味なくらい優しくなり、いけしゃあしゃあと嘘をつく。最初から知ってたじゃね~か。最終戦士はユーノをからかうためにわざと恥ずかしがっていたから、カナコはそれに乗っかるつもりなのだろう。悪質なセールスマンのようにじわじわとユーノを追いつめていく。
「その代わりお願いがあるの。私がこれから使う魔法の手伝いをして欲しいの」
そういうとカナコは何かを取り出した。メガネ?
「これは? 」
「鬼畜メガネ~ これをかけるとねユーノ君、気が弱い君も強気なナイスガイに大変身するのよ 」
青狸風に説明する。
(どういうつもりだよ。カナコ? )
俺はカナコにユーノ君にわからないように耳打ちする。
(簡単に言えば、暗示の実験ね。時間に関係なく、条件によって発動するかとか、どのくらい性格に影響を与えることができるかとか、いろいろよ。なのはだと希が嫌がるし適任でしょ? )
こっちが本命か。俺にもやってたな。幸い効果はなくなったみたいだけど。
(普段は気が弱くて誘い受けなユーノがメガネをかけると強気な攻めに変身するの一粒で二度おいしいわ。年下眼鏡攻めユーノ×クロノわっふるわっふる)
受けと攻めとか不穏な言葉が聞こえる。俺はユーノ君の無事を祈りつつこの件には関わらないことに決めた。
しばらくして
「ちっ、だりい 」
ヤンキーみたいに視線が鋭くやさぐれて、イヤな舌打ちが聞こえた気がするけど、無視する気にしたら負けだ。
俺のユーノ君が舌打ちなんかするわけない。
ユーノ君の検索魔法はカナコにその他に恩恵があったようで、記憶の本を圧縮して一冊にまとめることができるようになった。分かりやすく言うなら本だらけだったカナコの部屋が本を裁断して、スキャナーで取り込み、パソコンにデータだけ入れて、部屋のスペースが広くなり、持ち運びが非常に楽になったと喜んでいた。ただし、能力の許容量が増えたわけではない。
後日、なのはちゃんからユーノ君に関して相談を受けた。
「メガネをかけたユーノ君がね。ちょっと怖いの。いきなり上着を脱ぎだして、ピンク色のオーラが出たかと思ったら、俺の女になれとか先にシャワー浴びてこいよとか変なこというんだよ。私びっくりしちゃって突き飛ばしたら、メガネ外れていつものユーノ君に戻って急に恥ずかしがってさっき言ったこと忘れてたんだけど、希ちゃんに何か知らない? 」
「イイエ、シリマセン」
ユーノ君はそんなこと言わないっっッ!
4、エイミィさんと魔力検査 五日目 午前
検査室。
希ちゃんの魔力と俺とカナコがどのように存在しているか精密に検査するためである。実験動物みたいであまり気分は良くないが、俺はもちろんカナコも自分たちがどのような存在なのか知る必要があるからだ。
魔導師にはあるランクから大きな壁がある。わかりやすく言うならクロノ君やシグナムレベルと戦う場合負ける可能性が高いということだ。これからの修行でその差を少しでも縮めなければならない。
戦うときは敵を知り、己を知ればとよく言われているその一環なのだ。
「希ちゃん分析終わったよ」
エイミィさんのアナウンスが聞こえる。
「じゃあ、これは前に希ちゃん抜きで話し合ったことに修正を加えながら進めるね」
そんなことやってたんですね。私がよく知らない医者とつまらない問答をしている間に。
「まず、希ちゃんの魔力だけど、波長と質がバラバラだね。今回は時間をかけて詳しく検査したよ。そしたらなのはちゃん、フェイトちゃん、クロノ君、プレシア・テスタロッサ、によく似た性質の魔力が混じり合ってね。他にも誰かわからない魔力がいくつかあったよ。その中で強い反応を持つ魔力が三つ。三つとも密度の高い情報を発してる。位置は一つは希ちゃんの脳全体を包んで、側頭葉と前頭葉に広がって魔力で神経パルスを阻害してるみたい。二つは側頭葉の海馬記憶中枢のごく一部にくっついてる。それから、今回詳しく調べてわかったけど、前頭葉にもわずかだけど神経パルスを阻害しているものがあるよ」
なるほどね。カナコの話と合わせればじつにわかりやすい。カナコは魔力だけの存在で希ちゃんの記憶を司っている。俺という存在は希ちゃんの魔力で作られた魂と間借りしている記憶中枢がすべてなわけね。
もうひとつはやはりあの黒い女だろうか?
ずいぶんはかない存在だよな。
「脳に広がっているのがカナコで、記憶中枢にちょっとだけくっついているのが俺だと思う。もうひとつは希ちゃんの悪夢かな? 心の病気のことは前に話しましたよね」
さすがに元が母親とは言えない。
「えっ? そうなんだ。ごめんなさい」
エイミィさんは触れてはいけないものに触れてしまったような雰囲気だ。微妙な空気が流れる。気遣ってくれているのはわかるが、本人じゃないから苦手だなこういうの。
「本人今寝てるし、俺も他人事なんだけど、あまり気にしないでください」
「ありがとう。それから魔力を個別に調べて後で確認してみるね。今回も画像が取れそうだから」
エイミィさんは安心しながらも説明を続ける。
「ねえ、画像って何? 」
カナコが割って入ってきた。
「前に魔力の中の情報を分析してみたら、こんな画像が出てきたんだよ。今見せるね」
と見せてくれた画像は夢の世界の俺たちだった。図書館に俺の部屋、始めてみるカナコの部屋と希ちゃんの部屋、こういう構造だったか。
「ふ~ん」
カナコは軽くうなずくと何か考えているようだ。
「私の予想だと、希ちゃんは魔力で情報を送り込む精神感応・同調系の資質があってそれが常時発動しているんじゃないかと」
エイミィさんが補足していく。
「それはきっとシンクロね。私のスキルは記憶の管理・封印だからつきつめれば情報の送受信と遮断に特化してる。だから、触れれば確実に繋がるし、魔力登録しておけば長距離もいける。フェイトとともそうやって話をすることができるわ」
そう言うとカナコは自分のスキルについて簡単に説明する。
「会話じゃなくて、情報そのものを直接共有できるから、すごく便利だね。」
なのはとユーノ君がやっていたのが携帯電話なら、こっちはお互いの頭の中直接繋いでいるから、直接会っているのと変わらない。
「ねえ、もしかしてカナコさん、そうやってフェイトちゃんとずっと会っているの? 」
「ええ、そうよ」
「へ~そうなんだ」
なのはちゃんの声が固い。ニコニコしてはいるがなんかプレッシャー出まくり、もしかして嫉妬してる?
「カナコさん、フェイトさんと接触しているの? 規則では禁止しているのだけど」
リンディさんの声だ。やぶ蛇だったらしい。
「じゃあ、希ちゃんとフェイトちゃんから出てた正体不明の魔力波動は」
「これだったようね」
エイミィさんによると私たちが寝ているときに水面に波紋が広がるように微量の魔力を観測したという。それと共鳴するように寝ているフェイトちゃんからも同じようなものがでていたということらしい。どういうものか今までわからなかったそうだ。結論としてカナコのシンクロ魔法はこのようにして作用しているということだろう。それから、リンディさんからはあまり頻繁には使わないようにお願いされた。リンディさんとしては禁止することもできたのだろうが、私たちに選択肢をくれたのはありがたい。あと一回で終わると約束してこの話は終わった。
「まだ質問があるわ。前頭葉って何、私はそんなもの把握してないわ」
「ちょっと待って、その付近の魔力を測定した画像を送るね」
そう言ってエイミィさんがディスプレイに画像を写す。
「何だ? 」
そこに写っていたのは、燃えるような赤い部屋、床には鎖がクモの巣のように広がり、部屋の中心には細長くて白い何かが突き刺さっている。
剣? いや武器と言うよりは別の、
「巨大な針みたいだね。」
そうか。エイミィさんの言葉に納得がいった。あれは針と呼んだほうがしっくりくる。針に炎のようなものが吸い込まれている。
「知らないわ。あんなもの。何よアレ」
カナコは声がこわばり落ち着かない。何か見てはいけないものを見たようなそんな不穏なものを感じさせる。
「なあ、エイミィさん、前頭葉の神経パルスが阻害されているって言ってたよな。ということは」
「うん、前頭葉は人間の感情を司るところだから、希ちゃんは何らかの感情を出せない。表現できないと考えられるけど、でも、全体じゃなくてほんの一部だからどんな感情にどの程度影響しているかわからないよ」
「カナコ、何かわかるか」
「今考えられるのは、希の無気力ね。なんだかイヤな気分だわ。まるで長いこと住んでいた自分の家であかずの間を見つけたみたいな。私の部屋の檻とあの鎖は近いのものを感じる。エイミィ、魔力の波長はわかる? 誰に似てる? 」
ちゃんとさんをつけろよ。
「えっとね。多分カナコちゃん、情報密度も濃いね」
「……そう、でもあれは何かを封じてる様子はないのよね」
沈むような声で返事をする。その後も検査結果の報告は続いたがカナコから質問が出ることはなかった。何か奥歯に引っかかったような出来事だったが、そればかりに囚われている時間もない。
「他にある? 」
「じゃあ最後よ。希のリンカーコアが限界まで消耗した場合、私たちがどうなるかわかる? 」
これが俺たちがこの検査を受けた理由である。想定しているのは最悪の事態闇の書に蒐集された場合を考えている。
「えっとね。カナコちゃんと陽一君の本体は意志を持った魔力といえばいいのかな? 希ちゃんのリンカーコアから発する魔力を糧に存在してる。魔力の流れを見る限り、構成を維持する魔力はそんなに必要としないけど、リンカーコアが限界まで消耗してた場合、希ちゃんからの魔力の供給が一時的に途絶えてしまうの。しばらくは持つみたいだからおとなしくしていれば大丈夫だけど、無茶をすると消えてしまうかもしれない」
「消耗した希から強制的に吸収し続けることはあり得る? 」
真剣な声だ恐らくこれを一番心配しているのだろう。リンカーコアからの蒐集は下手をすれば命に関わる。
「わからない。でも可能性はあるよ」
カナコとエイミィさんのやりとりは続く。結局どうなるかはっきりしたことはわからなかった。ただし楽観はできないことだけは確かである。
結論として封印を解放し、希ちゃんがトラウマを克服し、ヴォルケンリッターを退けるしか俺たちに道はないということだろう。
うんっ。わかりやすいじゃないか! 俺たちは次に進むことにした。
次の日、泣きそうな顔のエイミィさんにいきなり正面から抱きしめられた。豊か双房に挾まれて、希ちゃんのトラウマ症状と男の本能で一瞬天国に飛びかけるが
「エイミィさ~ん、私、陽一、心は男の子、それから、希ちゃんのトラウマ、トラウマ、うぷっ」
「あっ! ごめんなさい」
と言ってようやく離してくれた。ふう、天国と地獄同時に味わった気分だ。希ちゃんの体は俺の時はだいぶましになったがまだ女性拒否が残ってる。特に不意打ちはきつい。久々に味わう寒気と吐き気と頭痛のトリプル攻撃にくらくらする。だが男としてはなかなか良い体験ができたと思う。後にクロノ君のものになると思うと嫉妬してしまう。
ただ俺の男の魂は哭いていた。叶うならあの胸に顔をうずめて、両手でもみしだきたかった。残念。エイミィさんに何で抱きしめたか聞いたところ、黒い女の魔力分析した画像を見てこうせずにはいられなかったという。
どんな画像だったか想像がつく。なんせあの黒い女は希ちゃんの悪夢そのものだから、あえて見ないことにする。いや見れない。なぜなら、直接見れば希ちゃんのおかーさんを間違いなく憎んでしまう。あの痛みと苦しみは遠い時になかで記憶が薄れ、癒されてはいたがときどきジクジクと心が痛む。まして大事な希ちゃんが同じ目にあったというのならば感情を押さえることができるはずがない。それにどこかであの優しかった希ちゃんのおかーさんを信じている。俺を殺した義母と希ちゃんを虐待した実母を同列にしたくない。好きな人と結ばれて自分の体を痛めて産んだ我が子を実の母親がそんなことしたらだめなのだ。許せない。
いかんな。
静まれ。俺の中の怪物。てめえは引っ込みな。
(くくくっ、その黒き衝動を心の赴くままに解き放つがいい。おまえは俺の鏡さ。いつかおまえを乗っ取ってやるからな)
だめだ。幻聴まで聞こえた。
(俺の名は竜殺しジークフリード。聖杯戦争に呼ばれなかった漢さ。出ていればセイバーたんの天敵になれたものを)
……
それはやっぱ弱点がわかりやす過ぎるからじゃないかな?
(最終戦士、俺の心の中で変なことささやくんじゃねえ)
(少しは落ち着いたか? 負の感情に飲まれてたぞ)
うっ!? コイツに助けられるとは不覚だ。冷静な奴のつっこみに頭が急速に冷えていく。
(心配せずとも、俺とおまえは記憶と感情を共有した存在だ。まあ俺はおまえの過去をどこか他人事のようにとらえているから冷静だったともいえるが、俺が出てきたという事はおまえの理性がちゃんと働いたということだ。それに元々俺はおまえが悪夢を克服するために創作した存在だろう。だから自分の役割を果たしたに過ぎん)
(でも、礼はいっとくぞ。ありがとう。でも、その某弓の人を思わせる口調は止めてくれ)
自分の声でだと思うと痒くなって仕方がない。
「そうだよ。もうどうしようもない過去に囚われる必要はない。家で火事まで起こしたんだ。周りは住宅地だから絶対に誰かに気づかれて、絶対に警察に捕まったはずだ」
膿を出すように言葉にする。カナコが気にしていたが、ちょっとイヤなことを思い出しただけと言って誤魔化した。
その後、ユーノ君で味をしめたカナコはエイミィさんにもメガネを渡して暗示をかけた。倫理に囚われず自分の心に素直になりましょうと悪質度がさらに増していた。アースラの機密資料にアクセスし、情報を閲覧していた。本命はプレシアの使ってた魔力炉の運用の可能性。ついでに俺もキーワード検索でアトランティスやムー、レムリアをかけてみるが、検索結果は0件だった。
ここにないってことは少なくとも管理局は把握してないってことだろうか? それとも発音が違うのかもしれない。
管理局の歴史は150年程、最初に地球と接触を持ったのは50年くらい前、グレアム提督が関わった事件が初らしい。管理外世界には関知しないことになっているが、魔導師確保の観点から人材と資金を投入して、会社みたい形で拠点を作っている。表向き資金を集め事業をしながら、多くの現地人を雇用し社会的信用を得て、政治にも近づき、こっそり魔導師集めに励んでいるそうだ。エイミィさんの説明は丁寧で聞いていて心地が良い。
ついでにいろいろ調べとくか。エイミィさんが片っ端からスライドショーをして何が書かれているか簡単に説明していく。アニメーションが作れそうなくらい早い。そればかりでは飽きるので特定のキーワードを調べる。
おっ! アルハザードについても乗ってるな。歴史家の見解では滅びたのは間違いないらしく、どこかの文明が都市ごと葬ったらしい。ただ相当昔の話で千年とか一万年単位の出来事でまだ見つかってはいないらしい。スカリエッティとかはさすがに秘匿されているだろうな。
俺たちの悪事は長くは続かず一通り見たあたりでリンディ提督の知るところとなりエイミィさんと一緒に説教された。
リンディ茶はもう嫌だ。勘弁して欲しい。
一応処分は閲覧のみだったため今回は不問ということになった。しかし、何を検索したかについては洗い出された。中には機密レベルの高いものもあったが、まず所属ではない管理外世界の民間人であることから法の適用ができないこと、ミッド語が読めないこと、知っていたことでどうしようもない情報が多かったこと、見た情報が膨大すぎて覚えきれないだろうということが決め手になった。しかし、希ちゃんの瞬間記憶については誰も知らないからこのくらいで済んだと思う。
ただし漏れたらおしおきしますって言ってたリンディさんの笑顔が怖かった。横で聞いてたクロノ君がさりげに自分の尻を押さえて、熱い熱いと言ってたのが印象に残ってる。
何があったの? クロノ君、イヤな汗かいてたよ?
さて明日はその彼と最後の模擬戦だ。三戦して完封されている。今度こそヒイヒイ言わせちゃる。
「あっ 暗示解くの忘れてた。まあいいわ今度で」
カナコぇ~
作者コメント
長くなったので、分割しました。来週更新予定。