第二十八話 三位一体
「これが私の全力全開、スターライトブレイカァァーーー」
なのはちゃんのかけ声と共に桜色の魔力の奔流がフェイトを飲み込んでいく。やはり生でみると違うなぁ
「なあ、カナコ、再現できそうか? アレ」
「無理、真似するだけならできるけど、5割がいいことね。あの出力のコントロールは困難だし、わたしたちには魔力効率も悪いから他のを使ったほうが賢明よ。なのはとレイジングハートだからできる技ね」
「闇の書も使ってなかったけ? 」
「推測でしかないけど、膨大な魔力と出力で再現しているんだと思う。威力の点では申し分ないんじゃないかしら? 闇の書があの場面でスターライトブレイカー選択してるからね」
「そうか。あ、フェイト落ちた」
「おしまいね…」
こっちはすっかり観戦モードである。なのはちゃんが海中に潜りフェイトを助ける。決着である。うんっ! 実に見応えのある勝負だった。
次はプレシアの次元干渉魔法かな?
「どうする? 」
「下手に関わらないほうがいいわね。こっちは良いデータが取れたわ。それで十分」
「どんな感じだ? 」
「大技ははっきり言って使いものにならないと思う。主にデバイスと出力の問題だからそれさえ解決すれば使えないことはないけど、そこまでするメリットはないわ。誘導弾や設置型バイントこっちは有効に使えそうよ」
「地味だな~」
「文句言わないの。私たちの理想のスタイルはクロノなんだから、そろそろ来るわ」
カナコがそう言うと空が歪み、紫雷がフェイトを襲う。フェイトが出したジュエルシードをすべて運んでしまった。
私たちはなのはちゃん達とアースラに移動した。アースラのブリッジではリンディさんが待っていた。
慣れない女性は怖いが、以前と比べるとだいぶましになっている。
触れられなければ平気だ。これも存在の力が増しているおかげだろう。むしろ俺的にはお近づきになりたいと思っている。
プレシア逮捕に武装局員たちが動く。
リンディさんはフェイトを思いやって、席を外そうとするが、その間に状況は動いた。
プレシアがアリシアに近づいた局員たちを攻撃したのだ。
リンディさんは急いで命令を出して、局員たち引き上げさせる。プレシアは愛おしそうにアリシアを見つめながら、何かつぶやく。急に険しい顔で振り向く。
そして、フェイトにとって残酷な事実が打ち明けられる。
「でも、もういいわ。終わりにする。この子を亡くしてからの暗鬱な時間も、この子の身代わりの子を娘扱いするのも、聞いていて? あなたのことよ。フェイト、せっかくアリシアの記憶をあげたのに、そっくりなのは見た目だけ、役には立ったかしら? あの子を見つけてくれたんですもの。それも無駄に終わったけれど」
あれ? なんか少しだけ台詞が違うな。私たちが絡んだせいかな? エイミィさんが補足する。
「最初の事故の時にね。プレシアは実の娘アリシア・テスタロッサを亡くしているの…」
ここは原作通りだ。エイミィさんから人造生命の生成、死者蘇生の秘術、開発コードフェイトと重要なキーワードを伝えられていく。
「よく調べたわね。あの子が教えたのかしら? でもダメね、ちっとも上手く行かなかった。作りものの命は所詮作りもの。失ったものの代わりにしてはいけなかったの」
??
プレシアはフェイトに厳しい目を向ける。そして、フェイトとアリシアを比較し、貶めていく。私はそれを黙って聞く。知っているとはいえ、胸が痛い。
プレシアは少しだけ目を伏せて、すぐに鋭い視線に戻すと、最後に止めの一言を宣告する。
「べ、別にフェイトのことなんか全然好きじゃなくて、大嫌いなんだからぁ」
……
どう見てもツンデレです。ありがとうございました~
顔も少し赤らんでる。なんかアリサとダブるな。まさかプレシアがデレるとは思わなかった。見てはいけないものを見た気がする。
さっきまでの悪意に満ちた台詞が台無しだった。なんか一気に説得力がなくなってしまった。しっかりしてくださいプレシアさ~ん
「母さん、どうして? 」
フェイトはゆっくりと膝を落として、倒れる前になのはちゃんに抱き止められる。ありゃ? 気づかなかったのかな? でもどう見ても気持ち反対だろ!
フェイト好き好きなはずだ。
他のみんなも本当に気づかなかったのか? みんな一様に厳しい顔をしている。みんな馬鹿ばっか……
いやまてよ?
俺には原作の予備知識がある。だからある意味でプレシアという人物のバックグランドや心の動きをよく知っている。さらに、俺が知っている世界の流れと違う反応や台詞を言っているから疑問に思うことができたと考えたほうがいいだろう。
フェイトはほぼ原作通りの行動だ。
大丈夫。きっと立ち直ることができる。なのはちゃんと結んだ絆が君を助けてくれるさ。
俺たちの目的は別にある。来るべきヴォルケンリッターとの戦いに備えて実戦経験を積むこと。フェイトのことは気になるけど、彼女は強い子だ。ちゃんと一人で立ち上がる力を持っている。だから余計な心配をすることはない。俺たちは自分の事と希ちゃんの心配をしていればいい。
希ちゃんの体はあまり強くないが走る。手には黒い十字架のデバイスが握られている。
アースラの船内
艦内は大忙しで誰も俺たちを止める人はいなかった。予定通りだ。ここで戦場に立つ前にセットアップすることにした。
(いよいよだな)
不思議と俺は落ち着いていた。高ぶりは確かにあるが、コントロールする自信はあった。前の俺なら ……考えたくないなぁ。カナコも冷静だが今日はいつもより張り切っているように感じられた。
(ここが私たちにとっては始まりよ。私ね、デバイスのことで決めていたことがあるの。この子はイマジナリーってつけたけど、本当は名前に続きがある)
(へ~、なんて名前だよ)
(この子は、この子の名前は『イマジナリーフレンズ』)
(イマジナリーフレンズ、架空の友人たちかよ)
心理学用語で、その名の通り、本人の空想の中だけに存在する友達であり、空想の中で本人と会話したり、時には幻覚を作り出して遊んだりもする。
自分自身で生み出した友達な為、本人の都合のいいように振る舞ったり、自問自答の具現化として本人に何らかの助言を行うことがある。反面、自己嫌悪の具現化として本人を傷つけることもある。つまりなんでもあり。
人間関係という概念に不慣れな幼い子供に起こりやすい現象であり、多くは現実の対人関係を知ることで自然に消滅するそうなのだが、希ちゃんとカナコの世界の表現としてはしっくりくるかもしれない。
(私たちのことを表すのに多重人格よりは適切な言葉だと思うけどね。希がいつか私たちの手を必要としなくなる日が来てほしいと願いを込めてる。でも友人というよりは私たちは家族に近いけど、希が子供で、私がおかーさん、あなたがおとーさんよ)
おとーさんかよ! 前よりずいぶんステップアップしているな。そろそろ突っ込まないとまずいな。だが今は目の前のことに集中しよう。
(そうだな。じゃあ次はどうする? )
(それぞれ役割があるわ。希いるわね? )
カナコが希ちゃんを呼ぶ。
(カナコ、ここにいるよ何? )
(セットアップはあなたがしなさい。バリアジャケットと杖のイメージは任せるわ。陽一、あなたは希のサポートをお願い。それから最初のセットアップだから、ちゃんと三人で契約の詠唱を言うわよ! 結構自信作なんだから)
カナコは契約の詠唱を教えてくれる。
どれどれ?
…………
一言で言うなら恥ずかしい。
これを大声で叫べと? シャウトしろって?
愛と勇気と希望とかいつの時代だよ。ホーリーアップでもするつもりなんだろうか?
(おお、実に良い響きではないか! )
聞こえない。聞こえない。聞こえたくない。いまだに聞こえる奴の幻聴の声もそろそろ対策を考えないといけない。姿は見えないが、すぐ背中に張り付かれて言われているような嫌な気配がする。
カナコ発案?の詠唱について考える。カナコは俺より重度なオサレさんなのはもはや間違いない。タチの悪いことに裏付けとなるちからと使命感、希ちゃんの境遇がそれをわかりにくくしていたと思う。前世もあるって言うし、終わってからこのことも詳しく聞いてみよう。
同志ガーゴイルの例もある。彼と同じタイプなのかもしれない。
ここはまじめにつきあうか。
こういう台詞は照れが出たら自爆してしまう。希ちゃんもいるからちゃんとお手本にならないと、幸い俺たち以外誰もいない。なのはちゃんがいなくて良かった。
(希ちゃん、いける? )
(…うん、でもイメージってどうすればいいのかな? )
(自分が身につけて一番強い服を想像するんだ)
(うん、わかった! )
希ちゃんは黒い十字架を天にかかげ叫んだ。
俺から行く。俺はヒーローかっこいいヒーロー。正義のために悪を滅ぼす愛の戦士。自己暗示をかける。
チュウニだけど恥ずかしくないもん!
「我は心に愛を刻むもの。アトランティスの最終戦士ジークフリード。母より受けた愛を糧として、我が妹の笑顔こそがすべて。カミノチカラを持ってあらゆるものから妹を守る」
次はカナコだ。
「我は心に希望を抱くもの。最後のキチェスを守るもの守護天使カナコ。おのが使命を糧として、我が子の望むものこそすべて、あらゆるものを読み取るちからを持って敵を制する」
キチェスねえ? どっかで聞いたような気がする。
最後は希ちゃん
「我は心に勇気を秘めるもの。魔法少女トラウマのぞみん。安息の眠りを糧として、内なる恐怖と闇と戦い続ける。すべてを記憶し、すべてを記録するちからを持って敵を壊す」
「愛と勇気と希望の名の下に、3つのちからを一つに束ねる」
ホーリーアップではない。
「イマジナリーフレンズ、セーットアーップ!!! 」
黒い光が天井から降りて着服が闇に溶ける。その闇を身にまといバリアジャケットと構成していく。
黒い闇から生まれたのは相反する白き衣。
他に装飾品をいっさいつけないシンプルな無地。
純白のジャケットまるで他の色があることを許さないかのように包んでいく。
完全なる白。
清浄なるモノ。
神聖なる色でありながら、どこか冷たさ、不吉さを感じさせる。
頭部を包むのも尊き白。
黒髪との組み合わせはシンプルながらもコントラストを強調する。
細い布のように巻かれ、額部分でデルタを形成するしていく。
宝冠と呼ばれるものと形が似ていた。
悪魔を祓う意味があるという。
デイバスを構成する。
柄の部分は赤銅色。
見た目は木製のように見える。
先端から30センチ程白銀の刃が伸びている。
東洋の仁の道を行くものが使う最強の武器だ。これを持つものは弾避けの加護が備わるが、使うものの格が低いと逆効果になってしまう。
こうして完成した。覚悟完了である、死すら恐れぬ強い意志が感じられる。
白き衣装は恐怖の象徴であった、東方の小さな島国では子供は大人よりこの衣装の意味を教えられる。最近ではテレビからの出現を確認されている。特に注意が必要だ。その時点での死が確定してしまう。
う~ら~め~し~や~~~
…つまり、日本における伝統的な幽霊衣装にドスを持たせたという日本人からみたら何かの冗談としか思えない衣装だった。
あんたら覚悟しいや。
………
(なぁ希ちゃん? )
「な~に」
(どうして、この衣装にしたの? )
「だって強い衣装ってコレしかないよ。お巡りさんだって逃げていくんだもん! 」
希ちゃんは自信たっぷりだ。ああそうか、そうですか俺のせいか、確かに言っていることは間違ってないなぁ~
まあ、ミッドチルダにはわかるまい。
(あなたのせいよ)
(カナコ、次はどうしようか? )
(スルーしたわね。まあいいわ。今から担当を決める、まずは私が戦闘の全般を担当するわ、希は中で魔法の詠唱と演算補助できるわね?)
(うん、けーさんと覚えるのは得意だよ)
(陽一はカミノチカラとデバイスやりなさい。)
はあ?
カナコのとんでもない無茶ぶりにとまどってしまう。
(カナコさん何言っているですか? カミノチカラはともかく、デバイスはどうやれというんですか? )
(イマジナリーフレンズにはAIがないの。時間なかったし、機構は魔力変化の対応と容量を多めにとってある。あなたの魂はパソコンのHDDに宿ってたから、できるはずよ)
(俺をデバイスにするメリットが見えないんだけど? )
(私が苦手にしているのは魔法発動のイメージ力、これを援助して欲しいの。とにかく最強をイメージして私と一緒に希の心に響くような詠唱をすれば、魔法の威力が違ってくるはずよ。あなたは妄想力だけが取り柄なんだから)
つまり厨二っぽく詠唱してそれが希ちゃんの琴線に触れれば威力があがる。オサレ・ポイント・システムなわけですね。でも戦闘でいちいち詠唱とか、必殺技を叫んでたら、致命的な隙にならないのだろうか? なにより使うたびに俺のSAN値がガリガリ削られる。
(納得したが、妄想力とか何かひっかかる言い方だな。とりあえず、デバイスにインストールすればいいんだな)
「いくわよ。イマジナリーフレンド・インストール ヨイチ」
俺の魂がデバイスに宿る。それに応じて適した形に変化していく。ドスから形状を変えて弓へとその姿を変化させた。意外と簡単だった。見た目変わっても機能的なものは変わらないらしい。
「 ……与一の弓なのかしら、コレ?」
「まあそうだな、仮にも歴史に名を残す弓の名手だしな。
いだだだだ!!
……すごく痛いです。曲げないでくれませんか」
俺の声はいつもの声じゃない。AI独特のフィルムを口に当てたような機械の声で抗議する。
「誰が笑いを取れと言った」
カナコは絶対零度の声で俺をぎりぎりと曲げる。だから、痛いってば!
(カナコ急がないと、みんなに置いて行かれるよ)
「そうだった。急ぐわよ、私たちはクロノの後を追うわ」
俺たちはなのはちゃんたちのところへ急ぐ。門の前にはなのはちゃんとユーノ君、クロノ君がいる。ちょうどクロノ君が攻撃を始めるところだった。
クロノ君の魔法攻撃は無駄がなく、効率的で確かにカナコが参考にするべきと言うものにふさわしい技術だった。クロノ君は手際良く片づけると俺たちに気づいたようで
「雨宮希!! どうして来た? ここは危険だ!! 」
「私も参加するわ。心配いらない戦える」
「許可できない。君は艦内にいる約束だったはずだ」
「陽一はそうだけど、今はカナコだもの。私は約束した覚えはないわ」
「カナコ? その言い方は卑怯だぞ。この間だって…… 」
「説明している時間はないわ。私のちからを見たほうが早い」
その言うとカナコは門に向かって弓を構えると魔力を集中させる。俺の中に魔力が流れてくる。どんな魔法かはすぐにわかった。先ほどクロノ君が使ったやつだ。
俺がするのは発動時のイメージのみ、コントロールは希ちゃんとカナコがする。
「スナイプ・シューティング」
野球ボールサイズ魔法弾が細長い軌跡を残しながら、不規則に蛇行しながら動き門に当たり炸裂する。先ほどクロノ君がみせた技術を完全に再現していた。
「なっ!? 」
クロノ君は自分の魔法をあっさり真似されて驚愕している。カナコは余裕の表情だ。
「まあまあね、この魔法なら100パーセントで使える。どう? クロノ」
クロノ君はしばし考え込む。
「話と映像で知ってはいたが、実物を見せられると驚かされるな。念のために聞いておくが、防御魔法はどうだ? 」
「気配と魔力の動きから、攻撃前から察知できるし、避けるのは得意よ。カミノチカラによる絶対防御もあるし」
かいかぶりすぎだよ。カナコ、自信がないわけじゃないけどな。前の俺でも使いこなしていた。今の俺ならば十年近くにもわたる修練の成果も上乗せされるのだ。戦いとかは素人だが髪に対する情熱だけはほかの誰にも負けない。
いかんなだんだん高ぶってきた。
「カミノチカラ? ではカナコ、君も協力してくれ。ただしちゃんと指示には従うように」
「雨宮希でいい。もちろん協力するわ」
打ち合わせが終わると、なのはちゃんが近づいてきて何か言いたいことがありそうな表情をしている。
「どうしたの? なのは」
「希ちゃ…カナコさん…その格好は…その…」
「なのはちゃん、言いたいことはわかるけど、今は戦いに集中しよう」
俺はつっこみを入れたそうななのはちゃんに忠告する。
「ひゃあ! しゃべったあ」
「なのはちゃん、俺だよ。俺、陽一だよ。今デバイスにもなっているんだ」
「えー」
「いろいろ非常識だな、雨宮希」
クロノ君は頭を押さえている。確かにデバイスに宿る人格なんてあんまり例はないだろう。
俺たちは虚数空間を抜けて傀儡兵の待ちかまえる場所に立つ。クロノが次の指示を出す。
「ここから二手に分かれる。君たちは最上階にある駆動炉の封印を」
「クロノ君は? 」
「プレシアの元に行く、それが僕の仕事だからね」
「私はクロノについていくわ」
「ちょっと待て、君はなのは達と一緒に行くんだ、勝手な行動は許さないぞ」
ついて行くというカナコにクロノ君は厳しく命令する。
「妥当な戦力比よ。プレシアまでの道と駆動炉までの道では魔力の気配から敵の数が倍近く違うわ。ふたりならクロノの負担は減る。それに私がいれば敵の索敵範囲外から安全に攻撃できるから、時間も短縮できる」
カナコの戦力分析にクロノ君の動きは止まるが、それは一瞬のことで素早く判断を下す。
「……わかった、君の力を借りよう。僕が先頭で君がフォローしてくれ。離れないように」
「じゃあ、まずここから掃除しましょう」
「陽一、あなたの番よ! カミノチカラを存分に振るいなさい」
俺はカナコに応える。
(了解! カナコ! 両手のコントロールを俺に合わせろよ)
俺はデバイスから手を離す。
祈るように
両手を合わせて、
集中して、
髪を
手で
すく。
感謝のトリートメント。
十代の頃から二十代後半まで続けていた儀式だ。
呼吸をするように簡単できる。デバイスは床に落ちることはなく、再び握られていた。その動作はデバイスが手の支えを失って重力を感じさせる間も与えずに完了していた。
「ちょっと!! 今何したの? 手の動きがぜんぜん知覚できなかったわ」
そのスピードはもはや音すら置き去りにする。髪に魔力が十分行き渡る。魔力展開の早さ、これもこの奥義の特徴だろう。前の俺の時で十分下地はできているようだ。髪は魔力を帯びて輝きウネる。
ウネり輝く。
浅野陽一では使えなかった技を使うときが来た。
「行くぞ! カミノチカラ」
俺のかけ声とともに髪は爆発的に伸びる。あっという間に数十メートル離れたところにいる傀儡兵に巻き付いた。傀儡兵は刃物で切ろうとするが、そんなものでは切れるわけがない。俺はおかしくてたまらない。
「くくくっ、あははははははははははははははははははははは そんなものは効かないわ! そーおーれ 辮締旋風大車輪!!」
俺は傀儡兵を持ち上げると、そのまま振り回して、周囲の兵を巻き添えにしていく。
「くけけけけけけけけけけけけけけけけけ」
テンションが上がってきた俺は、首を大きく回しながら、笑い叫び声を上げる。ちょっと興奮しすぎて、口に泡がついて涙まで出てきた。
傀儡兵たちは倒されあちこち破損しているが、まだまだ動けるようだ。
この技は威力が足りない。首をグルグル回してなんか痛いし、じゃあ次の技行くぞ! もう一度手で髪をすくと髪の形状を変えて、およそ十数個もの拳を作る。拳は堅く固められて、腕は良く鍛えられたボクサーをようにしなやかだった。
「ウネウネのおおお、ガトリングゥゥゥーーーーーーー」
十数もの拳が周囲にいる傀儡兵に降り注ぎ、スクラップに変えていた。う~んまだ半分くらいは残ってるな。
これも威力はまあまあのようだ。牽制には向いているかもしれない。
カミノチカラを使う才能がありながら、不遇だった俺の能力は肉体を変えてようやくその真価を発揮することができたのである。
それはもうひとつの能力もいつか使うときが来ることを予感させた。ただ、あの技は希ちゃんの体には負担が大きいかもしれない。前の俺のときでさえ、よく考えずに使い、医者にめちゃくちゃ叱られた。下手をすれば死んでいたそうだ。
クロノとユーノはあっけにとられて固まっている。
……なのはちゃんは膝を抱えてブルブル震えていた。
「希ちゃんが怖いよぅ。怖いよぅ」
「なのはちゃん? 」
「きゃあああああああああああああああああああ。ごめんさない。ごめんなさい。ごめんさない」
俺は様子がおかしいなのはちゃんに近づいて、笑いかけると悲鳴を上げられてしまった。
(客観的にみると、ものすごく怖い幽霊ね。希、元々肌白いし、アンタが興奮して笑うもんだから余計に怖いわ)
それにこの格好だしな。希ちゃん可愛いけど、薄幸そうな顔で幽霊向きだ。なのはちゃんも日本の女の子だから、怖がるのは無理もないかもしれない。
「なのは、なんであんなに怖がるんだろう? その魔法、髪の毛がデバイスのような魔力媒体になってるのかな? 手の動きもみえなかったし、とても魔法を覚えたばかりとは思えないよ。普通あそこまで魔法がなじむまで何年もかかるはずだし、魔力展開のスピードが尋常じゃないよ」
ユーノ君は不思議がっている。解説ありがとう。ほめてくれたようだ。うれしい。
「兵を片づけるわ。大技使うから時間を稼いでね。シークエンスは10秒」
そう言うとカナコはデバイスに構えて集中する。クロノは黙って敵の目を引きつけてくれている。
(じゃあ今から応用編ね、必殺技いくわよ! モードはプレシア、媒体からエネルギー供給を受けることで自身の魔力として運用する技術、プレシアと錯覚させて、エネルギーを横取りする。この庭園なら使用可能よ、魔力充填の限界は私が見極めるから、あなたは発動イメージ、希はコントロールをお願い。後は詠唱はカッコ良く決めるわよ!!)
((了解))
カナコの魔力が紫色に変化する。魔力がデバイスの先に集中していく。魔力は雷属性だ。
雷はカナコから魔力を吸って、膨れ上がっていく、すでに体の大きさを越えている。
「暗黒の玉座もて来たれ風の精霊……」
おいおい。その呪文は確か、膨大な魔力を必要とするため王族にしか使えない。あの魔法!
「古き御力の一つ今その御座に来臨す 闇の王にして光の王 闇より出でて其を打ち砕く者
九十九なる光の蛇にて我が敵を打ち滅せ 」
詠唱が終わり、巨大な雷が出来上がっていた。これが放つ魔力はなのはちゃんやフェイトの大技に匹敵するだろう。
「希、陽一発動を… 三人で合わせるわよ! 」
おしゃあああああ いったれーーーーーーーーー
「「「打て(スート) 雷撃(ソールスラグゥゥゥーーーーーーー)」」」
巨大な雷球から放たれた雷撃は蛇のように獲物を求めて次々に蹂躙していく。一瞬にしてフロア全体に拡散して、残った兵を動かぬがらくたに変えていった。
さすがに雨までは降らないようだ。
ああ気持ちいい。ちょー気持ちいい。やべぇ癖になりそう。心の奥にふたをしたものが沸きだしてきた。
(ふふふっ、やはり貴様は俺と同じ存在。いい加減受け入れるがいい。おのが心の衝動を)
うるさいよ。最終戦士、俺にだってなあ、そういう気持ちがあることは認めるけど、時間がかかるんだよ! いろいろあるんだよ! 少しは考えさせろ!
(考えたところで、答えは一緒だと思うが? )
分かったように言うんじゃねーよ。自分自身ながらアタマくるな。
俺が悶えているとクロノはあきれた顔で
「雨宮希、威力はとんでもないが、無駄が多いぞ。今ので大分消耗したんじゃないのか? 」
「大丈夫よ。魔力自体は外部から取り込んだから、私の消耗は少ないわ。プレシアのスキルで、デバイスのデータもちゃんと入ってる。この庭園であれば後先考えないで、魔力を使えるの」
カナコの余裕の正体はこれなんだろう。消耗を考えなくていいし、敵の位置は射程外から把握して、フルボッコ。最強の護衛までいる。イージーモードだった。魔法で好き勝手に暴れたいのもあるんだろう。
「もう何も言うまい。君たちを見てるとこちらの常識と自信も揺らいでくるよ、だが今は任務に集中しよう 」
「心配しなくてもクロノは強いわよ。さっきの魔法ひとつでも見習うところはたくさんあるわ。戦いが終わったら約束は守ってちょうだい。クロノ先生」
カナコはからかうように言う。クロノは苦笑して
「君はいったいどこまで強くなるつもりなんだ。じゃあ僕たちはプレシアのところへ向かうよ」
私たちはクロノと一緒にプレシアの元に向かう、なのはちゃんとユーノは駆動炉へ行く。その後をふたつの影が追いかける。あれ? フェイトこんなに早かったんだ。アルフと一緒には来なかったはずなんだけど、まあ今気にしてもしょうがない。
愛娘のために狂った母親の最後の時が迫っていた。
作者コメント
少し早めの投稿です。時間が遅いのでここまで、修正は明日もします。