第二十六話 復活と再会
俺の名前は浅野陽一。
真っ白な空間にふわふわ浮かんでいる。確か事故で死んだはずだ。ここはどこだろう? 死後の世界だろうか。それとも実はまだ生きていて、夢でも見ているのだろうか?
「よう! 俺」
「わあ、誰だ。おまえ? 」
いきなり声をかけられて驚いた。ふりむくと、まるでファンタジーの世界の住人が着るような黒い外套を着て、赤い龍の銃を持ったコスプレ野郎がこっちをみていた。まず最初に思ったのは……
あイタたたたたttttt
いい歳してこんな格好なんかして勘弁して欲しい。卒業しろよ! おっさん。黒い外套と赤い銃はいい。何というか俺の心をくすぐるカッコいいフォルムだ。しかし、顔がいかんな。どこにでもいそうな冴えない日本の男が着て、すべてを台無しにしてる。髪もなんだか危機的状況だ。中国の砂漠化現象くらい深刻だ。
んんっ? どっかで見た顔だな。
………俺じゃん。
自分にそっくりな顔を冴えないなんて思ってしまった。今思ったことがそのままマホカンタされダメージとなった。
痛い。
でも髪はまだ俺の方が大丈夫なはずだ。絶対そうだ。
「おまえは誰だ? なんで俺そっくりでコスプレしてんだ。なんかこっちまで恥ずかしくなるだけど…… 」
「恥ずかしいとは何だ!! これは俺の誇りだ。元になった人物とは言え失礼だぞ! ここは名乗っておくか。俺はアトランティスの最終戦士ジークフリード。王剣を守る小手なり」
俺そっくりな顔でキモいポーズを取る奴に、頭痛とめまいを覚えながら、まず発した言葉は
「頼むから、死んでくれないか? 速やかに」
だった。声までそっくりでやめて欲しい。軽い殺意がわいてきた。
「もう死んでる自分から言われるとは思わなかったぞ」
アトランティスの最終戦士とやらは少しがっくりした様子で答えた。とりあえず話を聞いて早くあのコスプレを辞めさせよう。さっきから何かの値が急降下で落ちている。
事情を聞く。希ちゃんとは懐かしい名前だ。もうひとりの妹だ。おかーさんと元気に暮らしているだろうか? もう一度会いたいと思っていた。詳しい状況は掴めないが、奴の話では死んだ俺は希ちゃんに新しく再生されたそうだ。
意味が分からんな
??
んでコイツは今まで俺の代わりにいろいろやっていたらしい。
「とういうわけだ。さあ!! 俺とひとつになろう! 」
「どうしてそうなるんだ! それに言い方が嫌だ」
思わず両手で臀部を守りたくなる。
「やらな…… なぜ殴る? 」
俺は自分でも驚くスピードで男を殴っていた。
「もっとイヤに決まってるだろ!! 」
自分と同じ顔の男になんて、いや、人によってはご褒美かもしれない。しかし、ナルシストで男色なんてどんな廃ブリットだよ!! 俺はノーマルだ。女の子がいいです。ツイてるなんて御免こうむる。
「だが、俺と貴様元は一つ。お互いの魂が引かれあうの感じるだろう」
「認めたくない認めたくない。こんなイタいコスプレ野郎が俺と同じだなんて認めたくない」
俺は頭をぶんぶん振りながら、拒否する。
「仕方あるまい。少々強引に行くぞ! うほ! 合体!! 」
「だからそれはやめろーーーー アァーーーーーーーーーー 」
幸い掘られることはなく、男は霧状になって俺の中に溶けていく。
「頼むぞ。希ちゃんとカナコを助けられるのは俺たちしかいないんだ!! 」
カナコ? 誰だ? ふざけた男だったが、この言葉だけは真摯な想いが伝わってきた。最初から真面目にやれよ。
男の記憶が流れ込んでいく。
希ちゃん大きくなったなぁ。でも少し痩せてないか? 顔が暗い。もっと笑う子だったと思うんだけど、
カナコっていうのはこの娘か。希ちゃんに少し似てる。気の強そうな子だ。歳は今の希ちゃんと一緒くらいで。紫のバラをアクセントにした黒いゴシックロリータに白いエプロンとはどんな趣味なんだろう? アンバラスな感じが売りなんだろうか。
なるほど、俺は魔法少女リリカルなのはの世界に生まれて、それに気づかないまま死んだのか? 俺も間抜けだよな。しかし、俺が生まれた当時はなのはちゃんたちは生まれてもいないのか。まあ知ってたとしても接点つくるのは難しそうだな。
そして、俺そっくりの男の所業が流れ込んでくる。
う?
あうあう!
おいやめろ!!
うああああああああああああああああああああああああああaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa
俺は頭を押さえながら転げ回る。
「大変だよ! カナコ。おにいちゃんが苦しんでる」
「どうしたのかしら? こんなに苦しむなんて、想定外よ!! 何がそんなに苦しいのかしら? 」
誰かが心配してくれているが、俺はそれどころじゃない。死ぬ死ぬ死ぬ、いや死んだほうがましだ。恥ずかしいってレベルじゃねえええええええええええ
抹消したい。すべて消してしまいたい。主に俺を、それから、現場を見た人の記憶を……
過去をやり直したい。今ならド○○もんを直す決意をしたの○太くらいの覚悟で、タイムマシンを開発できそうだ。
俺のSAN値はガリガリ削られていた。アンデットにエリクサーを与えるくらい強力な勢いだ。
もうどうでもいい。なにもかもがどうでもいい。
どうでも……
「誰か、誰か俺を死なせてくれ」
俺は本気だった。
「……」
それから遅れること数秒後、顔面に強烈な痛みが走った。
「……殺してあげるわ」
見上げると、見慣れた少女が凍りつくような笑顔のまま、素足で俺の顔を何度も踏みつけている。うらやましいシチェーションかもしれないが、痛い痛いマジで、断っておくがそっちの趣味はない。どっちかいうと言葉で攻められたほうが……
隣では髪の長い少女がおろおろしている。
「痛いです。カナコさんやめてください」
俺が抗議するがカナコさんは止めようとしない。目がマジだ、踏み続けながら怨念込める。
「人がせっかく苦労して生き返らせたって言うのに、あなたと来たら、死なせてくれだなんて、上等だわ。生まれてきたことを後悔させてやるわ。
今からあなたを傷付けてあげる」
死にたがりの病弱な女子中学生か! おまえは!!
口に入ったじゃねーか。このアマ!! 吉○A作みたいにしっぽり舐めまわして、感じさせたろか!
「カナコ許してあげて、なにか理由があるんだよ」
希ちゃんが助け船をだしてくれる。やっとカナコの足が止まる。助かった。危うく子供には見せられない展開になるところだった。
「立ちなさい! 命令よ!! 」
「はいっーーー」
カナコのドスの利いた低い声に、俺は上官命令を受けた軍人のように反応して素早く立ち上がる。反抗心はあるが、心に刻まれた習慣は抜けないようだ。
「どうして、死にたいなんて言ったの? 」
「それは、その…」
「さっさと答える。曲げるわよ」
曲げるってなんだよ?
「自分のアトランティスの最終戦士と思いこんでた頃の記憶が私を苛むのです、猛毒のように、穴があったら、突っ込み ……ぐはっ」
瞬きするような、わずかの間に俺は地面に背中を打ちつけていた。今何をされたか全くわからなかった。恐ろしや、頭の上からカナコの冷たい声が響く。
「誤魔化そうとしない」
こっちのつっこみのキレは抜群である。どうしようもない思いを口にする。
「これでもいい大人なんです。確かに今でもアトランティスな成分はあるのですが、節度はわきまえてるつもりです。それが邪気眼ヨロシクエターナルフォースブリザードを全開でしてしまうとは、この恥ずかしさはこれからも発作のように思い出しては私を苦しめるでしょう」
おそらく一生モノだ。たとえばふと歩いているとき思い出して、衝動的に壁を殴ったり、蹴ったりしたくなるのだ。
まして月日が流れて同窓会でもあってみろ。
「そういえば、昔コイツさあ」
とか黒歴史公開処刑を酒の肴にされるのだ。想像するだけで恐ろしい。
「いいじゃない。外では子供なんだから、可愛いものよ。子供ならね。知っているのは私たちだけよ。アトランティスの最終戦士さん」
「おいやめろ! やめてくださいマジで」
「俺の隠された力が覚醒するぜ ……ぷっ」
「やめろおおおおおおお それを言うなああああああ」
蒸し返すんじゃね~~~ 死ぬから、ほんとに死ぬから、首を吊るぞ。この野郎。
「纏え黒き外套、我が愛銃よ、ここに来たれ!! ディスティ なかなか素敵な詠唱ね」
「お願いです。死なせてください」
「あら? これは褒めてるのよ」
「皮肉にしか聞こえんわ!! 」
カナコの精神攻撃に俺の心はブレイク寸前だ。もう許してください。お願いマジで、足とか舐めてもいいから。
「カナコ、もう止めて!! おにいちゃんのライフポイントはゼロよ」
またまた希ちゃんが助けてくれる。この子はマジ天使だ。さすが魂の妹。
「まだよ。まだ私のバトルフェイズは終了していないわ」
カナコが恐ろしいこと言い放つ。
「カナコいいかげんして! カナコばっかりおにいちゃんと遊んでずるい。私だってお話したいよ~ 」
「わかったわよ。これくらいにしとくわ」
ほっ 助かった。これ以上されたら、また魂が砕けるところだった。
「ねえ、おにいちゃん」
「なんだい。希ちゃん? 」
ああ癒される。
「聞きたいことがあるの」
ほうほう可愛いおねだりだ。顔がにやける。
「なんでも答えるよ~ 」
「俺のコックがエレクチオンってな~に? 」
うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
そっち方からくるんじゃねええええええええええええええええええええええ
俺は今度こそ気を失った。
「あっ!? 倒れた。大丈夫かな? 」
「平気でしょ。また、エレクチオンとか、あとから聞きなさい。私も聞きたいわ」
カナコはまだ恐ろしいことを言っている。この魔女め。まだ言うか。俺はこのまま眠っていたほうがしあわせかもしれない。
再び記憶が流れ込んでくる。
まだ思い出してる途中だった。
希ちゃんに関する記憶が流れ込んでくる。
え!?
おいおい待ってくれよ!
なんだそりゃ? 体の傷? トラウマ? 拒食? 黒い女? なんでそんなことが起こる? あの子の家は離婚したけど、おかーさんはいいひとで心配いらなかったはずだ。それがどうしてこんなことなってんだ!!
ふざけんな!!
俺は恥ずかしさを忘れて、あまりの理不尽さに怒りが沸いてくる。希ちゃんは他人だけど、本当の妹のように思っている。あの子はしあわせにならないといけないんだ。
俺も前世と今の母親からいい扱いを受けたわけではない。
主に精神的で粘着質なものだったけど、希ちゃんよりひどくはなかったと思う。ましてや俺とは違って希ちゃんは女の子なのだ。
俺は立ち上がり希ちゃんの前に立つ。
「希ちゃん、久しぶりというべきなのかな? 」
改めて挨拶する。
「えっ!? ……うん」
「元気だった? 」
希ちゃんは首を振る。何かをこらえるような顔をしている。
俺のバカ!! もっと気の利く言葉があるだろうが!
「会いたかった。会いたかったよぉ~」
希ちゃんは俺の腰にしがみついてきた。何か染み込んできて濡れた感触がする。
希ちゃんの心の病気、体の傷痕、この子に何が起こったかはわからないが、背筋が寒くなる。よく心が壊れずにいたもんだ。
俺は胸が痛みに耐えられなくなって、希ちゃんの頭をなでる。希ちゃんは涙で濡れた目のまま、不思議そうな顔で見上げる。
「どうして頭なでるの? 」
「いやだった? 」
「そんなことないよ、うれしいよ」
希ちゃんは猫のように目を細めてごろごろしている。よかった笑ってくれた。過去に自分の子供はいないが自分の娘ってこんな感覚なんだろうか?
ふと横目で見るとカナコは母親のような目でこちらを見ている。急に恥ずかしくなってきた。俺は手を引っ込める。
「……あっ! 」
希ちゃんは急に手を引っ込めたので、おいて行かれたような目でこちらを見てる。
ああヤヴァイ。この子はヤヴァイ。性的な衝動は皆無だ、むしろそんなもの感じたら去勢したってかまわない、この子には俺がいないとだめだという使命感が俺を支配している。
この子は魔性の女だ。男の庇護欲というか父性を限界値まで高めてしまった。頭が熱でぼーっとなる。
俺は熱に浮かされたように、再び手を伸ばし希ちゃんの頭をなでる。
希ちゃんが笑う。いい顔をしている。俺自身もこんな満ち足りた気持ちは初めてだ。
結局希ちゃんが満足するまで俺は続けた。
「疲れた。 ……眠る、またね、おにいちゃん」
希ちゃんは自分の寝室?に戻った。ここには俺とカナコだけだ。俺が話を切り出すタイミングをつかめずに、手をブラブラしているとカナコから聞いてきた。
「聞きたいことがあるんでしょう? 今度こそ隠すことはない」
俺はこの図書館を見渡す。すべてが始まったこの場所を
「俺たちがいる希ちゃんとカナコの夢の世界はどうなっているんだ? 」
「ここはね、私と希二人の視点でできてる場所。ふたりの視点が重なっているの」
「カナコはどこにいるんだ? 」
「肉体は持たないけど意志は持ってる。あなたの魂の依り代は希の脳よ。それを私のちからで希の記憶を分離させて組み上げて個として成り立たせているの。医学的には多重人格が適当ね。私自身は希の記憶からは完全に独立している。意識と記憶を持った魔力が本体ってところね、希に脳に宿った守護天使と捉えればいいと思うわ。だから、希の肉体を動かすときには全身に私の魔力を通して操作するから長時間の活動には向いてないの」
「守護天使ねぇ? 幽霊みたいなもんか。急にオカルトになるとは思わなかった」
「管理局に魔力測定されたのは私そのものになると思う。だから魔力蒐集を恐れている。私たちには死活問題だからよ」
「カナコのちからって何? 」
「主に記憶の力、私は記憶を自由に操作できる。それから、簡単な暗示くらいならかけられるし、他にも対象に触れることで情報を読み取って自分のものにできる。私はリーディングとシンクロと呼んでる。ただし魔力の資質があるものか魔力を帯びたもの限定みたいね、百合子に試したけどだめだったわ」
「シンクロ? 」
「私自身は肉体を共有してなくてもシンクロできるの。例えばこの力を使うと眠った状態にある人間をここに招くことができるのよ」
「へぇ便利だな。ぜひなのはちゃんとか招待してほしいな。じゃあ希ちゃんのレアスキルってなんだ? 」
「魂の記録『ソウルプロファイル』対象の魂の残滓から情報を読み取って自分の体内限定で再生させるものよ。魔力の模倣はその副産物ね」
「じゃあ俺が生まれたのって、希ちゃんが魂を読みとって、体内で再生して、カナコが偽物と俺の日記から記憶を構築して、記憶の本棚作って、今の俺がいるわけだな」
「正解。その通りよ」
「あれ? 俺の魂どこで読んだんだ。不完全って言ってなかったけ? 」
カナコは笑って言った。
「あなたの部屋に残ってたわ。特にパソコンのHDDの中に残っていたわ。『魂のHDD』がね、あなたのすべてはそこにあったんじゃないの? あと髪の毛にも 」
「そうか、髪はもちろんだけど、確かにパソコンは仕事も趣味もコイツ頼りだったし、バックアップだけはまめに取ってたからなぁ」
「器物にも残滓が残ることがある。思い入れがあればなおさらよ。ただ普通は肉体にとどまるものだし、死体になれば抜けて行くものよ、アリシアの肉体は記憶は引き出せたけど、魂のかけらはほとんどなくて、ただの抜け殻だったわ」
「魂はどこにいくんだ? 」
「私は拡散して生きている人の中に溶けてしまうと思っている。よく言うでしょ。死んでも心の中に生きている。あれは記憶のことだけを指しているんじゃなくて魂も含まれていると思うわ」
「なんかロマンチックだな」
「でも死者の魂は死んでなお生きている人間を苦しめることもあるわ ……黒い影のようにね」
カナコの言葉は不吉を纏っていた。黒い影には俺の知らないことがまだあるのだろうか?
俺は一番重要なことを聞くことにする。
「希ちゃんは俺と別れてから、何があった? 」
しばらくカナコは目をつぶって黙っていた。俺は静かにそれを待つ。そして、カナコは重い口を開いた。
「 ………実の母親からの虐待よ」
カナコの発言は過去の記憶を含めて、俺が今まで生きてきて最も驚愕させる一言だった。
「ちょっとまて!! あの人がそんなことするわけない!!! 」
「ちょうどあなたと別れてからだから、あの子が七歳の誕生日に急に始まった。そして二年続いたわ、途中から命も狙ってきていたわね、その頃は親子ふたりで生活してたから逃げ場はなかった、身体の傷跡や希の症状はそれを裏付けるものだわ」
俺は混乱していた。そんなはずない。だってあの人は希ちゃんに優しかった。
「陽一、よく思い出してみて、まだ完全に思い出してないでしょ!! 」
そうだった。俺は目を閉じる。
最後におかーさんの記憶が流れ込んでくる。あれっ!? この人誰だ?
暖かくて、優しい人だ。希ちゃんをみーちゃんと呼び母親のように接する。知らない人からすればこの人が母親であることは疑う余地はないくらい。当たり前で自然だった。
そう自然すぎるからこそおかしい。
だってこの人は俺が知ってる希ちゃんのおかーさんとは違う。
今度は百合子さんが実の母親じゃないことに揺れていた。そして、カナコを問いつめる。
「百合子さんは何者だよ!! どうしておかーさんをやってるだよ!? 」
「希の実の母親は雨宮総一郎の妹だと思う。百合子は総一郎の妻だから、希との関係は叔母と姪になるわね。どうして母親だと称しているかはわからないわ。でも希をみーちゃんなんて呼ぶことに違和感はずっと感じてた。私が百合子を嫌いなのはそこよ。あの女はきっと希のことを見てなんかにない、母親としてやっていることは完璧かもしれないけど、別の誰かなのよ、みーちゃんと呼んでいる子は、私にはそれがどうしても許せない!! 」
カナコが強い怒りを見せている。相当気に入らないようだ。
「なるほど、嫉妬だけじゃなかったんだな」
どうりで百合子おかーさんを嫌っているわけだ。カナコはなにより希ちゃんを大事に思っている。誰かの代用にされるなんて許されざる行為なのだろう。
「前に百合子の家はカッコウの巣だと言ったことがあったでしょ? カッコウは他の鳥の巣に卵を生んで育てさせるの。他の鳥はその子を自分の子供だと思って育てるからそう例えたんだけど、
もうひとつ違う意味がある」
カナコの言葉はだんだん熱を帯びてくる。そんなカナコに違和感を感じながら俺は確認する。
「もうひとつの意味? なんだよそれは」
「カッコウの巣はね、英語で精神的におかしくなった人を指すの」
カナコの目が妖しく輝く。口を開き白い歯と赤い舌を覗かせニィと笑う。俺は背筋が凍る思いがした、カナコとは会ってから日は浅いがそれなりに信頼している、怖いと思ったのは初めてだった。
「ど、どうしてそんなこと言うんだよ」
「どうして? 決まっているわ、周りが異常だからよ。みんながみんな百合子の嘘にわかっててつきあっている。周囲の環境も百合子に合わせられている。病院や学校にも手が回してあるんじゃないかしら? 忌々しい!!
不可解なことだらけよ。何をたくらんでいるかわかったもんじゃない。今までは陽一の成長のために見逃してあげたけど、もうあなたの魂は存在を得たでしょう? すべて知る必要があるわ」
カナコは真実を暴く探偵のように宣言する。俺はそんなカナコを悲しく思いながら訴える。
「カナコ、やめよう」
「どうして? あなただって知りたいでしょう! 真実が、あの女はこっち騙してるつもりなのよ」
俺は首を振る。
「俺には何となくわかるんだ。理由が」
「なによそれ!! どういうことよ? 」
「服がさ、新品じゃなくて古い物で希ちゃんには少しだけ大きいくらいだった。机とかベットもそうさ。俺はそれもあったからここの娘だって全く疑わなかったんだけど、同じ年頃の別の女の子がいたことがあるんじゃないのか? 」
「そ、そんなの確かめたわけじゃないでしょう」
カナコがたじろく。俺はさらに続ける。
「それからな、おかーさんは車をすごく怖がってる。今考えるとあんなに怖がるなんておかしいんだ。しかも一緒に歩いて帰ったときも、道に車が通りすぎるたびに体がこわばるんだぜ。きっと希ちゃんと同じさ。なにがあったかなんて考えるまでもないよな。思えば一番最初を間違えたんだよ。何も知らなかった俺が笑顔で『おかーさん』なんて言うもんだから、今まで悲しかったおかーさんはうれしくて受け入れてしまったんだと思う」
それでも違うのは、偽物で、対象は違ったかもしれないが本物の愛情を注いでくれたってことだ。
……俺に、俺だけに、前世の母親は最初から実の子と他人の子を区別してた。前の母も愛情をもらわなかったわけではないが、斎が生まれてからはそっちに集中してたし、途中からは気味悪がれた。
「大した推理ね名探偵になれるわよ。じゃあ周りのことはどう説明するのコナンくん? 」
「どっちかというと、はじめがいいな。お父さんとおじーちゃんの仕業だと思うけど、精神科医の西園先生がからんでるから、専門家からもOKが出たんだと思うよ。実際の百合子おかーさんの実績はカナコも認めてるんだろ? 」
「そうね。じゃあ最後に聞かせて、はじめ」
「これいいな。なんだい? ふみ」
「私そっちの設定なんだ。どうしてそこまで百合子ことがわかるの? 」
「心病んだ母親を何度も経験しているからなぁ はぁ~ 三度目の正直が二度あることだったとは、なあカナコ許してあげられないか? 百合子おかーさんのこと」
カナコはあっけにとられたようだ、口を開いたまま止まっている。その後、クスッと吹き出す。
「ふふふっ ……そういえばあなたそうだったわね。納得したわ。百合子のことはまだもやもやしてるけど、あなたに任せるわ」
俺はいつものカナコに戻ったことにほっとしながら、お互いに笑いあった。
過去の俺は前世のチートを活かして自尊心を満たし、好きな創作を職として、お金に余裕ができてからは、なんでも買って、風俗にも使った。楽しかったし充実したと思う。だがどこかむなしさや空虚な気持ちを抱えていた。希ちゃんに会ってから少し変わったと思う。それも希ちゃんと突然別れてからは、むなしさ空虚感がますます強くなり、何をしてものめり込めなくなっていた。そんな自分の気持ちがようやく満たされた気がする。百合子さんの注いでくれた愛情は俺のなかに確かに大きなちからとして生きているのだ。
そして、そのちからはきっと希ちゃんを守るために使うことになるんだ。
俺は希ちゃんのために生きよう。誰に言われるでもなく、俺はそう決意した。
まずはすべてを知らなければならない。
「カナコこっちの質問に答えろよ。詳しく聞きたい」
カナコは真剣な顔になると少し目を伏せて話す。
「今から話すことはひどく残酷な物語よ」
「わかってる。こっちも覚悟を決めたよ」
「希はあなたと別れてから離婚した母親と一緒に引っ越したけど、そこは悪霊のすみかだった」
「悪霊? 」
「そう。しかも、悪霊は優しかった母親に取り憑いたの。そう表現するしか希にはあの悪夢を受け入れることはできなかった」
「……」
「母親がなぜ希を殺そうとしたかはわからない。あなたの記憶にあるようにいつもはいい母親だったのかもね。それが希が7歳になってから、急に人が変わったように虐待するようになったって聞いた。そして、時間が経つと元に戻るの。いつも自分のしたことで泣いていたそうよ。私が希と会ったのはその頃よ。私にとってはあの女は最初から敵だった。もしかしたら多重人格だったのかもしれない。しかもだんだん狡猾になってね。いつ変わったか見極めるのが困難になってきた。たまに食べ物に毒を混ぜるようになった。それがトラウマの一つね。捕まることがあったけど、ひどい目にあったわ。黒い女はなんとなく覚えているでしょ? あんな感じよ。あの女、人格が変わっているときは基本的に笑顔なのよ。よく首を絞めながら心底楽しそうにこちらを見てたわ。そして、だんだん変わる時間が長くなって、行為もエスカレートしてきた。浴室やコンロ、包丁、植木鉢、そして、命の危険に変わった。それからは必死だった。今でも観察力と気配の動きには自信があるわ。あの女強かったから力ずくではかなわなかった。ちいさい子供が本気の大人相手に逃げるからそれはもう鍛えられたわ」
重い話だった。あんなにいい人が変わってしまうなんて信じられない。
やはり離婚が原因なのだろうか?
「希ちゃんはお父さんのころへ逃げなかったのか? 」
「残念ながら、父親は死んでいるの」
「はあっ? まさか俺の記憶だと離婚したはずだぞ」
「離婚自体は事実よ。希が旧姓を名乗っているから、でも死んだことと離婚は別問題よ」
「たしかにそうだな。じゃないと二年も過ぎて父親が全くからまないのはおかしいからな」
「その時期から学校に通ってたけど、いじめられていた。でも、途中からは学校はましになった、なんせ私がクラスメイト全員屈服させたからね」
「そういえば前のクラスメイト一回だけ会ったけど、小学生のくせに敬語使ってたし、カナコ、何やったんだ? 」
「主に暴力でね。それに未知の力を人間は恐れる。あの年頃でも自分が触れてはいけないものはわかるわ。いえ、わかるまでじっくり教育したもの。ふふふっ クラス変えたり転校した子が何人いたかしら? 幸い口は堅かったみたいだけど、あの学校の先生で気づいた人間はいなかったわ」
恐るべし。カナコさん
「それからは学校が唯一休まる場所になった。学校の先生からはいつも眠そうにしてる生徒としか思われていないはずよ」
「大人は誰も助けてくれなかったか? 助けを求めなかったのかよ! 」
「7歳の子供に何ができるっていうのよ。当時のことは雨宮家は知らないしこっちも知らなかったわ。あの子にとってはあの場所で頼ることができたのは、私を除くと、まともなときの母親だけだった。それに虐待したあと母親はいつも泣いて謝っていた。あの子も母親が好きで必要だったから、私にもどうすることもできなかった。共依存関係ね。お互いに必要としながら、破滅へ進んで行くのだから、それが一番悲しいことね」
「母親はどうなった? 」
「行方不明よ。年明けたくらいかしら、急にいなくなってね、理由はわからない。私はほっとしたけど、希は母親を求めて、あの黒い女を作ってしまった。そいつもなんとか苦労して封印したけど、希の心はそこで一度折れた」
「折れた? 」
「毎日が命をねらわれる緊張感の連続で、急になくなって気持ちがゆるんだの。同時に母親から見捨てられた悲しさからよ。危なかったのは食べ物も摂取できなかったから、衰弱して私が気づいたときには動けなくなった。不審に思った人間がいて家まで入ってくれたのは運が良かったわ。その後は当然病院に入院することになった。雨宮家はそのとき初めて知ったんじゃないかしら。とにかく命は助かった。でもあの子はまだどこかであの母親を信じてる。だから、百合子のことはあの子の心の癒しにはならないのよ。あなたには必要だったけど、希は百合子のことは眼中にないわ。話はここで終わりよ。あとの話はわかるわね?」
「ああ、苦労かけたな」
俺が死んだことで、希ちゃんは完全に心を閉ざし、外に出る気力を失った。とりあえず、体を動かすために俺が作られうまくいくと思ったが、斎に会ったことで真実を知ってしまう。そこで俺は消滅したが、希ちゃんとカナコの尽力でここに存在することができる。
「そして、今いるのは俺の家か」
「そろそろ帰る時間ね。斎と一緒に帰るといいわ」
「そうだな。妹と話すのも久しぶりだな。 ……って、カナコさんそのハンマーは何でしょうか? 前見た奴と違いませんか? 」
「100トンハンマーよ。女性が男を制するためのもので、『してぃはんたー』はコレをよけることはできないの」
「いいかげんこのパターンは辞めませんか? 」
「いってらしゃい。これからよろしくね。陽一」
人の話を全く聞かないカナコさんは軽々とハンマーを上段に振りかぶると、勢いよく降りおろした。
グシャと音がする。
それは飛ばすんじゃなくて潰してると思うんだ。
自分が潰されると同時に足下が崩れて落ちていく。もう何でもありだなココ。
ーーーーーーーーーーーーー
俺は目を覚ます。懐かしい自分の部屋だ。もう来ることもないかと思っていたが、懐かしいと感じている。
俺は浅野陽一なんだよな?
そんな疑問がよぎる。
死んだ魂は拡散してしまうとカナコは言っていた。ならば俺はコピーの精度が上がっただけで、記憶にある偽者と変わらないのではないか?
う!?
考えるな! 細かいことは忘れてしまおう。不安な気持ちはこれからも苦しられるだろうけど、なんとか自分を騙していくしかないか。俺には使命がある。そのことに集中しよう。
トントンとノックの音が聞こえる。
「希ちゃん、起きてる? 」
「は~い、斎君いますよ」
「えっ? おにいちゃん」
急にドアが開く。斎が慌てた顔で入ってくる。私を見てがっかりした顔になる。
「なんだ~ 希ちゃんか、びっくりさせないで、おにいちゃんかと思ったよ」
なんか昔の呼び方になってるな斎。ここは少しつきあってもらうか。私は希モードになって話しかける。
「斎おねーちゃん、私ね、陽一おにいちゃんからね、物真似を習ったことがあるのだから、ちょっとだけ演技につきあってね。今から私はおにいちゃんだから、どんなこと言っても怒らないでね」
ずきりと痛む。
「わかったわかった。じゃあ ……兄貴」
斎は苦笑いしながら、私にあわせてくれる。すまんな。斎
俺は偽者かもしれんが少々つきあってくれよ。
「元気か斎君? 彼氏はできたか? 」
斎はちょっとだけ驚いた顔をしながらも答える。
「最初に言う言葉がそれなの。兄貴、まだよ。残念ながら」
「彼氏の一人でも見つけないとな。おにいちゃんに気を使わなくていいんだぞ」
「なによそれ! そんなんじゃないって、今の仕事好きでやってるから、本当に暇がないの」
「そうか好きでやってるならいいよ。好きなことを仕事にできるのはいいことだ。おまえの夢だったもんな」
斎は下を向いて黙ってしまった。あれ!? 何か傷つけるようなこと言ったかな?
「どうした? おにいちゃん何かいけないこと言ったかな? 」
「ねぇ ……本当のおにいちゃんじゃないの? そんなこと知ってるなんて」
斎は顔を上げると何か求めるような目でこっちを見てる。
「違うよ。斎、浅野陽一ことおまえのおにいちゃんは死んだ。それはわかっているだろう? 」
「そうだけど、そんなこと知ってるなんて、おにいちゃんしかいないもん」
なんか幼児退行してるな斎、ちゃんと説明しないとな。
「わかりにくいかもしれないけど、俺は希ちゃんの力で生きているんだ。記憶と魂もあるけどリサイクルされてるし、おにいちゃん本人じゃないんだ」
なんか偽者って自分から言うのはきついなぁ。でも事実だし、変に期待させるのもかわいそうだ。
俺は最後に宣告する。
「だから俺は本物じゃない」
斎はまだこっちをみつめている、無垢で透明な子供の目だ。俺が告げた真実など少しも気にしてないようだ。斎はささやくようにつぶやく。
「どうだっていいんだ。そんなことは、私の今感じてる気持ちは本物だもん。細かい理屈なんていいよ。例え希ちゃんの物真似でも私が希ちゃんの中におにいちゃんがいると信じているなら、それが私の真実だもん」
ああ、ありがとう斎、血のつながった妹。
俺は希ちゃんから再び生まれたから、あの子のために生きる覚悟をしているけど、まだどこかで自分の存在を不安に思っていたんだ。
おまえの言葉で認められて、俺は自分が浅野陽一だと信じることができる。信じてこれからも生きていける。おまえの言葉でやっと俺は完全になれる。
「ありがとう。斎、おまえが妹で良かった」
「私もおにいちゃんの妹で良かった」
斎は笑ってくれた。
俺は浅野陽一とは別人だけれど、それを受け入れて生きていこう。
ふとみると天井から光が射している。俺の周りを優しく包んでいる。
暖かい光だ。
ああなんて気持ちがいいんだ。体が浮かぶようだ。赤ん坊が母親に抱かれるような暖かさ、かつてない幸福感、恍惚に満たされ、身体が天に上っていく。どこまでもどこまでも
「……逝ける」
「逝くなあああああああああああああああああああ」
俺は地面に叩きつけられた。さっきまでの幸福感が嘘のようだ。羽をもがれた天使。あるいは羽衣とられた天女だった。
顔を上げると地獄の鬼がこちらを睨んでいた。
「誰が鬼よ!! 」
「なぜバレた。カナコ」
「顔を見ればわかるわよ! 」
カナコは俺の胸ぐらを掴むとカツアゲするヤンキーのように凄んできた。
「なに勝手に成仏とかしようとしてるわけ? 」
「なぜと申されましても、なんか幸福感でいっぱいで未練なんかないと思ってしまって…… ごめんなさい」
「成仏なんかしたら、あの世まで追いかけて、ここまで引きずり込んでやるから」
「ずいぶん質の悪い鬼だな」
「お願いよ。ここにいて、希の為に」
さっきまでの勢いが嘘のような、しおらしいカナコを前して、俺は戸惑ってしまう。カナコは目を伏せて、すがるような目でこっちをみてる。
「わかった。悪かったよ。俺も今の状態が良くわかってないところがあるから、今度は成仏しないように気をつけるよ。うん! 」
なんかわけがわからないことを言っているな。俺、成仏しないようにってなんだよ? 普通は逆じゃないか?
カナコは下を向いてボソッとつぶやいた。
「ぷろぽーずまでしておいて、勝手に逝かないでよ、責任取りなさい…… 」
は?
なんかとんでもない地雷発言が聞こえたような、気のせいか?
それよりも斎だ。斎
どうにか戻って再び話す。
「そうだ、斎、親父とかーちゃんは元気か? 」
斎はうつむく。
「おとうさんは大丈夫だけど、おかあさんは心配だよ。落ち込んでるみたい。変なこと言い出すし、おとうさんの話だと、一時的なものだから、ゆっくり休めばきっと元に戻るって言っているけど… 」
「へぇー、てっきり俺が死んでせいせいしてると思ったんだけどな」
「最初はそんな感じだったけど、おとうさんが珍しく怒っちゃってさ」
「すげーレアだな。それ俺が大学辞めたときも、長年引きこもっていたときも怒ったことなかったのに」
「今になってわかったけど、5年前からお金渡したでしょ。おにいちゃん、それまでは、いつ就職するのか、おとうさん心配してたよ」
「お金の力は偉大だな。そうだ、斎」
俺は今の話から大事なことを思い出した。これは死んだ浅野陽一の意志でもある。
「何? おにいちゃん」
「斎、実はなおにいちゃんには秘密があるんだ」
「もしかして… 」
「俺には前世の記憶があるんだ」
「やっぱりそうだ。前世はアトランティスの戦士だとでもいいたいの」
斎は苦笑いしている。
「あ~、あれな、割としんどい前世を誤魔化すために作った創作話なんだ」
「子供の頃は信じたわよ。今は信じてないけど、前世って何? 」
「おまえさ子供の頃の俺を不思議に思わないか? 全然子供らしくなかっただろ。勉強しないくせに成績トップだし」
「そういえば、高校に入るまでおにいちゃんが宿題以外で勉強したとこみたことないよ」
「それから、俺の仕事はもう知っているな? 」
「作家さんで、しかも新進気鋭のすごいペースで本出してたんでしょう? 」
「そうそう、出版社からしたら俺は怪物だそうだ。ありえないペースで本出しているし、ストックがあるにしてもありえないってさ、おおげさに言っているだろうけど、当然盗作も疑われたよ、正解だけど、でも見つかるわけないよな、この世界にはないだから」
「斎ちゃんシリーズは? 」
らめええええええええええええええええええええええええ、
俺は何とか正気に戻る。同じ技で何度もつぶされてたまるか!
「ぐっ……やはり知っていたか、これは俺のオリジナルだ。これでも前世で物書きで食っていくつもりだったからなぁ。全然売れなかったけど、洒落で書いたんだけど、評判よくてさ、俺もプライドはあったし、盗作してるうしろめたさもあったから、これは頑張って書いたよ……読んだ? 」
「10巻まで読んだよ、おにいちゃんの気持ちは良くわかったよ ……この変態」
斎の赤くなりながらも抗議の目が痛い。
俺の股間の集中線がズキューーンものだ。
やべ! 創作意欲わいてきた。今日はなんだかいけそうな気がする。
「違うんだ。斎、これはな、創作でさ本当にしたかったわけじゃないないんだ」
「だいたい、実の妹にあんなこと……」
斎は顔を紅潮させて、手と足をもじもじとしている。
天・元・突・破
俺の男の尊厳はかつてないほど高まっていた。
はっ?
これ以上はまずいな。万が一シンクロでもされたら、子どもの心が穢れてしまう。
自重。自重。
「とにかく、俺がただ者じゃないことはわかっただろ。それから、今出してるシリーズはちゃんと完成してるから、出版社に持っていけ。部屋のアダルトDVDの棚に混ぜてあるから」
「なんでそんなところに混ぜるのよ!? 」
斎は頭を手で押さえながら、苦々しく問いかける。
「だって木を隠すなら森の中って言うじゃないか」
「私に確認しろっていうの!? 」
「そう」
「おにいちゃんの変態、妹にアダルトDVDを無理矢理みせるなんて」
「そう考えるとなんか興奮するよな」
いい加減にしろ俺
「あたま痛い。でもおにいちゃんの本のファンがいるんだものしょうがないね。まさか希ちゃんにさせるわけにはいかないし」
「そうなんだ。だから頼むよ。それから後でコピーをくれよ、確認しときたいんだ」
「わかったわ。これからどうするおにいちゃん? 」
「帰るか。今の私は雨宮希だからな。そろそろ戻らないと、おかーさんが心配する」
「へんなの。帰ろうかおにいちゃん」
こうして、雨宮希とカナコの浅野陽一復活の旅は終わった。俺にとっては死んで生まれて衝撃の事実と密度の濃い時間だった。
だが、俺の人生は続いていく。
俺たちの戦いはこれからだ。
完
嘘です。ジュエルシード事件ははまだ終わってねー
余談1・・・斎は苦労して俺の小説データを見つけた。50本のエロDVDから見つけるのは苦労したはずだ。ラベルまで偽造したから、中身を確認するまでわからないなかったはずだ。「妹モノの多さに絶望した」は斎の談である。
ちなみに偽造したラベルのタイトルは「妹は女教師」だ。
余談2・・・出版界に激震はしる、亡くなった新進気鋭の作家アサノヨイチ氏の新作が大量に見つかった。数にして5000本。その膨大な数に出版界では中堅に過ぎない民明書房は業界トップに名乗りをあげることになる。読者の眠れない日々が続きそうである。
噂によると本名浅野陽一氏は古代王国の子孫でその記憶を継承し、本にしたという、その噂の根拠となったのが、古代王国の研究者である冬月教授に多額の支援がされたことがそれを裏付けるといわれている。
余談3・・・遺跡発掘集団ネオアトランティスただの大学教授が主催するサークルに過ぎないが、いろんな意味で今注目されている。業界トップの出版社からの多額の援助。人類未曾有の規模の海底遺跡の発見である。世界四大文明より古く、幻のアトランティスではないかと噂もあり、その文明レベルは考古学の常識を根底から覆すのではないかと言う学者もいるほどである。彼らが世界に羽ばたく日が来るかもしれない。
余談4(月刊ムウ2月号より抜粋)・・・この世には私たちの知らない世界がある。悪霊、祟り、妖怪と退魔士、超能力者、魔法使い、宇宙からの侵略、次元管理局を名乗る組織、今回はある情報をキャッチした。世界各国の組織が躍起になってアトランティスの最終戦士という男を調べているそうだ。なんでもこの男、異世界の技術に関する情報を持っているそうだ。この世界にはごくまれに革新的な技術を開発する人物が現れるという。
有名なのが中国に実戦配備された『先行者』である。開発者は研究途中で派閥闘争に巻き込まれ、育毛剤と偽った毒薬で暗殺された。未完成にもかかわらず、その運動性能は日本陸上自衛隊の主力二足戦車『アシモ』に迫る勢いだという。しかし、開発者の技術に誰も追従できず完成の見込みが立たない状態だ。
噂ではこの男、某国の暗殺者に事故を装って、殺されたそうだ。本当なら残念な話である。
次回は日本に溶け込んだ妖怪と怨霊たちと退魔士を大特集。羽のついた天使、刀に宿る怨霊、双子の猫娘、狼女、雷少女、白い悪魔、4つ騎士の亡霊たち、吸血鬼の一族、片目の髪女、妖怪車椅子、妖怪大戦争、鹿児島の退魔の一族、警察官から退魔士になった男、退魔士が裸足で逃げ出す最強の妖怪ひがしはら、廃屋で殺された少女の霊、怨霊この子のななつのお祝いに、今時VHSなんてみねーよとそっぽ向かれがちなテレビから出てくる井戸女、封印された九尾、総力を挙げてお送りするよ。
次号を待て!!
余談5・・・俺の記憶は完全に戻った。希ちゃんに再生されたことが影響されているかもしれない。彼らのことも思い出してきている。そう俺は奴らにアブダクションされ、記憶を操作され、任務を与えられた。主に地球人の調査を行っていた。さまなざな生態調査と斎ちゃんシリーズも転送していた。そのことに疑問を抱くことは全くなかった。
今は違う。
転生した記憶は奴らのインプラントによる副作用だと思われる。だがそんなこといいのだ。逆に感謝しているくらいだ。俺が許せないのは奴らは俺からカミを奪ったからだ。その報いは受けてもらわなければならない。しかし、やつらは巨大だ。手の打ちようがない。ここを出てすぐに俺の部屋に泥棒が入ったそうだ。部屋は荒らされていなかったそうで、何を取られたか俺にしかわからないが、蛍光塗料のような色で、質感がアメーバ状の奇妙な足跡が残されていたそうだ。誰の仕業かはわからないが、おそらく奴らだと思われる。一度調査主任のジョーンズ氏とコンタクトを取ってみようと思う。
謝罪と賠償を求めるつもりだ。
作者コメント
この作品にはさまざまな作品のネタを使っていますが、使用した作品の重大なネタバレになりそうなときは注意を入れていこうと思います。今のところそこまで使う予定はありません。
ようやく本編に戻れる。