第十六話 ドッジボールとカミノチカラ
小学生の体育の定番、それはドッチボールである。いや今時は違うかもしれないけど。サッカーの方が多いのかもしれない。
とにかく、球をぶつけるという合法的な暴力は今も子供たちを魅了してやまないのだろう。
小学部くらいだと、体力的な男女差も小さいので、クラスで男女混合の二手に分かれて行われる。私は今回が初参加というだけのそんなどこにでもある一幕でそれは起こった。
本当なら参加するつもりはなかった。というのも、体育の前にのど乾いたのでジュース買ったら、ボタンを間違えてどろり真っ赤なトマト100%ジュースというものを買ってしまった。なんでこんなものがあるんだよ!
他にも普通のジュースに混じってゴーヤとかピーマンとかおよそ100%に向かないものばかり置いてあった。にはは。
なんのトラップなんだ? 後で聞いた話だと理事長の仕業で、健康教育云々ということらしい。
今はセレブだが、転生しても抜けない貧乏性せいで飲んだのが間違いだった。案の上まずいし気持ち悪くなった。喉越し悪ッ!
保健室で休もうかなと思っていたところ、なのは様が来て
「体育の時間だから着替えようか? 希ちゃん」
なんて笑顔で言うものだから、ふらふらとついていってしまった。私がなのは様の誘いを断るなんてありえない。
体操服に着替える。髪が多いので、リボンを結んでまとめる。それでも邪魔になるけどないよりはましだ。ちなみになのは様にリボンをお願いした。なのは様は
「希ちゃんの髪は柔らかくてきれいだね。うらやましいなぁ」
と言ってくれて、少し気分が良くなった。そのうち、リボン交換もやりたいな。私がなのは様の白いリボンを…… 実に素晴らしい!
腕や足の傷はだいぶ目立たなくなってきたが、体は意外と傷が深く、薄くなるにはまだまだ時間がかかりそうだ。いくら元が男とはいえ今は女なので恥ずかしさもある。見られないように上手く隠したがヒヤヒヤした。
そして、私は参加することになった。
アリサの話だと、このクラスいやこの学年にはある法則が存在している。それはすずかとは戦うな。彼女は外見はお嬢様で、性格もおとなしく、本が好きというおよそ体育に向いているとは言えないのだが、身体能力のスペックがクラスメイトを大きく超えるもので、同じクラス男子生徒であっても正面から戦うことはないそうだ。
否。
昨年度、挑んだものもいたがことごとく屍をさらした。数回の戦いを経て、いくら負けず嫌いな男子生徒も学習して、女なんかにというプライドは捨てざるえなかった。
彼女はクイーンであった。彼女の陣営にあるものだけが、その恩恵を得て、敵となったものはことごとく彼女に蹂躙される。そのため、組分けじゃんけんがこのクラスの明暗を分けるという話だった。
今回の組分けは、私とその他のみなさん対すずか、アリサ、なのは様、モブ共だった。
神様を呪う。すでにこっちの陣営は葬式ムードだった。やれついてなかった。月村に勝てるわけないだのネガティブオーラが包んでいる。逆に向こうはすでにもう勝った気でいるらしい。雰囲気は明るい。アリサなんかこっちみてニヤニヤしている。
なんかムカつく。なのは様は申し訳なさそうにこちらに手を振っている。少しだけ癒されました。
(ねぇ、ちょっと代わってくれないかしら? )
カナコがこんなときに話かけてくるなんて珍しい。
(いいけど、どうしてまた? )
(この間の件であなたが荒事では役立たずだと判明したでしょ。それで、希の身体能力を計るために実際に身体を動かしたいのよ。データが新しければこっちもシュミレートを正確にできるし、この間よりはましに動けるようになるわ)
(あってるけど、ひどいこと言うな。でも理解はした。それから俺はやればできる子だぞ!)
(はいはい。だったらあなたも繋がりなさい。一緒に動く訓練よ。主導権は私、あなたは合わせるだけでいいわ)
(へいへい)
こうして私はカナコと一緒に女王に挑むことになった。
試合は予想どうりというか、最初は人が多いので運の悪い人、運動の苦手な人から脱落していった。それは女王の陣営も同様であったが、すずかはなのは様やアリサをよく庇ってお礼を言われていた。
あとは彼女一人舞台である。
……なんかモヤモヤする。理由はわかっている。すずかがなのはを庇い敵を倒すたび、なのは様の尊敬のまなざしが注がれるのある。その目は私にして欲しいのに……
……そうか! コレが嫉妬か。
しっとマスクがかぶりたくなってきた。
私は気持ちの赴くまま、ありったけの決意をこめて、すずかを指差し宣戦布告する。
「すずかさん、勝負を挑むわ」
私の言葉にボールを持っているすずかの手が止まる。
周りからはざわざわと音が聞こえる。あれぇ~
クラスメイトからは「愚かだわ。転校生だから知らないのね」「女王様に反逆するとは、ひさびさに見れるかもしれないぜ。本気モード」「ほう、まだ牙を抜かれていないヤツがいたとはな」とか誰だよオマエらみたいな声が聞こえてきる。
すずかはにっこり微笑んでいた。そして、笑顔のまま告げる。
「うれしいよ。希ちゃん、最近そう言ってくれる人がいなくて寂しかったの。いいよ。受けて立つよ」
余裕の発言だった。クラスメイトから歓声があがる。大部分は女王が挑戦を受けたことに対してだ。そして、挑戦者を称えて。
いつのまにか、コートは私とすずかのふたり一騎打ちの構図ができあがっていた。他のクラスメイトはコート外に出て囲んでいる。アリサが私とすずかのちょうど中間に位置するコートの境界線に立ち、そして口を開いた。
「まずは、愚かにも女王に挑む哀れな挑戦者を讃えるわ。みんな拍手」
周りから一斉に拍手が起こる。アリサは私を指差し宣告する。
「先にいっておくわ。私たちが見たいのはアンタの勝利なんかじゃない。あなたがあがいて地面にはいつくばるところよ。でもね、あっさり負けるようじゃ困るわ。あなたには私たちを楽しませる義務がある」
アリサ、おまえ何言ってんだよ。いつから世界はこんなに変わってしまったのだろうか? ローマのコロシアムみたいな感じだ。私がおかしいのかもしれない。でも、一度口にした言葉は覆せない。
やるしかない。
いつのまにか審判を始めたアリサは説明を続ける。
「ルールは簡単。お互いに投げて、体のどこかに当たって球を地面に落としたほうの負け、球がコートの外に出たら、投げる権利は自動的に投げた人になるわ。だから避けるか受け止めるしかない。それから顔面は反則負けよ。球はすずかから」
「うん、じゃあいくよ。希ちゃん」
すずかは球を持った右手を横に構えると、野球選手が投げるサイドスロー要領で投げる。球はまっすぐ正確に私の体幹の中心をとらえている。私だけならこれだけで終わりだろう。しかし、今回はカナコが相手だ。
「ねらいが単純すぎるわね」
体を半歩だけ右に横にずらして、体を少しひねっただけで回避してしまった。余裕だな。すずかは少し驚いた顔をしている。
「やるね。希ちゃん、今のは小手調べだけど、ほとんど動かないで避けるなんて初めてみたよ」
「投げる瞬間にどこを狙っているかわかるの。後は球一個分避ければいいでしょう? 」
すずかに球が戻る。
「じゃあこれはどうかな」
すずかは先ほどの全く同じフォームで投げる。狙いまでさっきと一緒だ。逆に凄いかもしれない。野球の選手がストライクをとるような正確さで狙ってくるのだ。しかし、今度はカナコは全く動かない。口に手を当てている。
「子供だましだわ」
球は体に当たるかと思われたが、当たる直前に変化して右に曲がりかすめていく。最初の球と同じ避け方をしていたら、当たっていたのは間違いない。
「これもよけるんだ? これ反射神経の良い人ほど引っかかるんだけど」
すずかはうれしそうだ。カナコは少し怒ったような顔ですずかを睨む。
「なめられたものね。球の回転でバレバレよ」
再びすずかに球が回ってくる。すずかは一度手を止める。
「でもね、希ちゃん、避けるだけじゃ勝てないよ」
「そうね。でも勘違いしているわ。すずか」
「何? 」
「そもそもあなたに当てれるわけないじゃない。だってあなたが投げる動作をしたとき私はすでに回避の動作に入っているんだから、スピードが違うわ。そうだわ。こうやって円を書いて…… 」
「なにしてるの? 」
カナコは自分を中心に50センチくらいの円を書いていた。
「訓練、 …違ったハンデをあげる。私はこの円から出ないわ。もし出たら負けでいいわ」
「へぇ、……じゃあ、試してみるね」
なんかすずか怖い。こころなしか目が赤い気がする。夜の一族モードかな?
「おーーと出ました。女王の本気モード。かつてここまでたどり着いたのは、他校から挑戦者として来た赤髪の小学生一撃弾平君だけです」
誰だよ? そう突っ込みを入れつつ、すずかの投げる球をカナコは避ける、避ける、避けまくる。
すずかの球はスピードを増していく。最初と段違いのスピードだ。さらにフェイントも混ぜるようになった。それでもカナコは余裕を崩さない。20球ほど投げてすずかは肩で息をするようになった。決着どうするのか考えていると。カナコは、
(そろそろね。データは十分取れたわ。じゃあ後はよろしくね。おやすみ)
といって引っ込んでしまった。外見は変わらないが、残されたのは俺一人、大ピンチだった。
(おいこら! カナコ何で帰るんだよ)
(勝つのが目的じゃないもの)
(あれだけ挑発しておいて何言ってんだよ! すずかさん目が本気だぞ)
(死ぬわけじゃあるまいし、任せるわ。できる子なんでしょ? )
(おい!! )
それ以降はカナコは返事をしなかった。私がやるしかないようだ。ちょうどすずかに球が渡ったところだ。まずいな。
「ちょっとタイム」
私の声にすずかは止まる。
「どうしたの希ちゃん? 」
「ごめん。トイレ行きたくなった。この円を出てもいいかな? すずかちゃんも息を整えてね」
「うん ……いいけど」
5分ほど休憩となった。本当はトイレに行きたいわけではないのだが、ここは少しでも考える時間が欲しかった。トイレにこもりながら私は作戦を練っていた。
現状では体調的に長時間は無理だった。胃がムカムカする。運良く避けても数回が限度だろう。授業時間もまだ余裕がある。どうにかしてすずかの球を受けて、すずかを倒せる球を当てるしかないのだが、かなり困難だ。
降参も考えたが、この空気では無理だろう。みんなすずかの送球とカナコの見切りの競演に酔いしれている。終わりよければすべてよしという言葉がある。この戦いの結末がクラスメイトひいてはなのは様の印象を決めてしまうだろう。
引くわけにはいかない。
勝つために私は考える。まず体調的に短期決戦しかない。
そして、私の武器を考えた。魔法はレイジングハートないと無理だしどうしよ? 待てよ魔法? そうだ! これならいけるかも、後はすずかを倒す方法を ……ここからは賭になるな。
(カナコ、おまえも少しだけ手を貸せよ。具体的にはな……)
カナコにあることを頼んでおく。
私は作戦が決まった。ぶつけ本番で作戦としても穴だらけだ。でも、勝つ可能性があるとしたらこれしかない。私はトイレを出ると校庭に向かう。すずかはボールを持ってコートに立っている息は整っているようだ。
「ごめん、待たせたね。すずかちゃん」
私は呼吸を吸うと、不敵な笑顔で挑発する。
「じゃあ始めようか。そうだね。もう避けるのは飽きたからそろそろ受け止めようかな。 ……本気出すね」
私は髪を止めていたリボンをはずす。
「おーーと、希選手、止めていたリボンをはずしました。どんな意味があるのでしょうか? まさか、これが希選手の本気なのか? 髪がウネウネしているのは気のせいでしょうか? 」
だから誰だよ? いつのまにかいる実況につっこみを入れながら私は構える。本気云々はハッタリだがリボンを外したのには意味がある。そして、さらに挑発する。
「さあ、すずかさん受け止めてあげるわ。ここを狙ってきなさい」
そう言って私は胸を手で叩く。すずかは赤い目のまま猛禽類のような顔でこちらをみている。完全にスイッチが入ったようだ。
「希ちゃん、ちょっと強めにいくけど、我慢してね。」
低い声でそう言うと、すずかはコートの最高尾に下がると助走をつけてコートの半ばあたりで飛び上がった。そして、空中で上半身を大きく後ろにひねり、右手を大きく振り上げ、ジャンプが最高高度に到達したあたりで、右手を振り降ろした。
上半身が後ろから前にバネのようにしなり、鋭く尖って見える球が襲いかかった。
もはや漫画の世界だった。
「出ました~~ 今まで多くの敵を沈めてきた。すずか選手の必殺技。すずか選手の腕力とスピード、全身のしなやな動きが一体となって、さらに地球の重力まで利用した…… 」
解説なげぇよ。それから、時間の流れがおかしいくないか? そんなにしゃべられるわけないから、つっこみどころ満載だ。
とにかく、賽は投げられた。すずかなら必ず正確に狙ってくるはずだ。駆け引きはない。私は手を大きく広げ、魔力を髪に魔力を通す。
私がレイジングハートなしで使える唯一の魔法。髪の毛を自在に操り堅さから柔らかさまで変えることができる。物を掴むことなど造作もない。髪を腹部に展開しグローブのような形をつくる。
すさまじい衝撃が腹部を直撃する。
おおおお、おのれ!
衝撃吸収に優れたゴムのような材質にしたのにこの強さ!
まずはこぼれないように包まないと!
押される。私は足を踏ん張り耐える。だが、体は後ろに下がっていく。
こうなったら、私は髪にさらに魔力を通し、念じた。
「伸びろ!! 」
私の髪は伸び地面まで届く。
つっかえ棒のように、髪を広げ支える。だんだん、勢いがなくなってきた。ようやくコートぎりぎりで止まった。
あーお腹痛い。私はふらふらしながら前の方に歩いていく。
すずかとの距離は2メートルほど、すずかは驚愕の表情でこちらを見たまま動かない。
観客からはざわめきが聞こえる。「なあ、今、髪の毛、変な動きしなかったか? 伸びたように見えたし」「目の錯覚だよ。髪の毛が動くわけないだろ」「妖怪? 」
(よし、うまくいった。あとは、すずかに隙をつくらないとな。おい、カナコわかってるな)
(わかったわよ)
私ははあはあ息をしながら、すずかに話しかける。
「すずかさん、受け止めたわよ」
「希ちゃん ……今、髪の毛 ……何でもない。」
「次は私の番ね。すずかさん」
私がそう言うと、すずかは顔を引き締め、コートの後ろに下がると、受け止めるように構える。
さて、これが通用するかな? 私は球を投げようと右手を上げる。
「それじゃいくわよ。すずかさん、うっ!? 」
私は球を持った右手を降ろすと、左手で腹部を押さえる。そして、膝を折ってしゃがむ。
「希ちゃん、どうしたの? 」
すずかが心配そうに話しかけてくる。私は苦しそうに息をしながら答える。
「さっきの球、思ったより、衝撃が強かったみたい。でも、続けるわよ、すずかさん、受けてみて私の球、……ウエッ」
私はふらふらしながら球を投げる。カナコにコントロールを頼んである。だが、狙いは正確だが勢いはなく、このままなら簡単に受け止められるだろう。しかし、球を投げると同時に私は胃の内容物を吐いて倒れ込む。そう体育の前に飲んだどろり真っ赤なトマトジュースだ。見た目には私が血を吐いて倒れたようにみえる。
「希ちゃん、…………はっ!! きゃああーー」
「誰かーー 救急車!! 」
一度はボールを取ったすずかだったが、血を吐いて倒れる私を見てボールを落とし悲鳴を上げる。
勝った。血液っぽいのに釣られたな。 ……ふっ
私はあまり倒れ続けていると騒ぎになるので、よろよろと立ち上げると、しらじらしい芝居をする。
「あーもう恥ずかしいなぁ。こんなところで吐いちゃうなんて、ごめんねみんな」
すずかは驚いた顔のまま、恐る恐る聞いてくる。
「希ちゃん、大丈夫なの? 」
「うん。大丈夫。授業の前に飲んだジュース吐いただけだから」
「そうなんだ」
すずかはほっとした表情だ。
「それより、私の投げた球やっぱり取られちゃったかな? 」
私は内心邪悪な顔で笑いながら、すずかに聞く。
( ……詐欺師)
カナコの失礼な言動が聞こえたが、今は無視する。すずかは力なく笑いながら。
「落としちゃった。私の負けだよ」
すずかのその宣言で、観客からどっと声が上がる。
女王陥落である。そして、新女王誕生の瞬間であった。
私は満足感ともに座り込む。やはり吐くのはしんどい。
サイレンが聞こえてくる。あれ、なんか近づいてないか?
私の前に一台の車が止まる。白く四角い車体。赤いサイレン、救急車だった。中から救急隊員が出てくる。
なんでこんなに早いんだよ!!
「血を吐いたお子さんはどちらですか? 」
「えっ? 」
「あっ君か。安静にしないといけないよ。さあ、すぐに横になって」
「ち、ちょっと ……待って」
私が話す間もなく、救急隊員は私を救急車に乗せると、病院に向かって出発してしまった。病院に着く頃にはこちらの事情もようやくわかってもらえたが、大学病院だったせいで結局一日入院することになった。
担任の先生が素早く電話してくれたらしい。せんせいぇ~
次の日、学校に登校すると、なぜかみんなぎょっとした顔をしていた。アリサに聞くと、
「なんか、アンタ、すずかとの戦いで死んだことになっているわよ」
どう間違えたかそんなデマが飛び交ったらしい。
以来ドッジボールクイーンの称号は私のものとなったが、称号を賭けてあちこちから挑まれるようになり、あんまり嬉しくなかった。さらに、ついた二つ名は……
「ブラックオクトパス」「黒蛸」だった。
…うれしくない。
今は希ちゃんの世界にいる。カナコと今日のことについて話をしていた。
「それにしても、非常識ね。あなたって」
「何言ってんだよ。おまえだってとんでもない見切りをあっさりやってみせたじゃないか」
「私のは単なる技術。観察眼と判断力の速度が人より優れているだけよ。それから、体の動きだって常識の範囲だわ。訓練すれば誰だってできるもの。鍛えるためのノウハウは最初から持ってたけど。
あなたのはそうじゃない。人間の体は元々持った身体能力の他に脳のイメージで動きが違ってくるけど、魔力は神経がないから、より脳のイメージが重要だと思うわ。あなたはその辺が優れているのかもしれない」
「いや~それほどでも、やはりアトランティスの最終戦士ということだろうな」
「逆に言えば、それしか取り柄ないってことね。身体の動かし方や魔法に必要な数学的センスや思考速度、マルチタスクは素人レベルだから、戦力にはならないわね」
「ひど! でも当たってると思う。ミッド式があんなにむずかしいとは、まあ、俺は実戦で目覚めるタイプだし」
「ところで、髪の毛に何か思い入れでもあるの? 」
俺は少し考えて答える。
「そうだな。最初は髪があることが嬉しくてさ、動かせればいいなぁとか思ってからは、イメージ修行を始めたよ。最初は髪の毛を一日中いじくってたな。暇だったから四六時中だよ。目をつぶって感触を確認したり、何百回何千回と絵に描いたり、ずーっとただながめてみたり、なめてみたり、音を立てたり、嗅いでみたり、入院中は暇だったから髪で遊ぶ以外何もしなかった。しばらくしたら毎晩髪の毛の夢をみるようになって、それから退院してしばらくは忙しくて、髪を手入れする時間も風呂くらいしかなくてさ、そうすると今度は幻覚で髪の毛を動かしているんだ。さらに日が経つ幻覚の髪の動きがリアルになってきて、髪の毛の性質を自在に変えられるようになって、魔法の修行をする頃には自然に使えるようになってたんだよ」
「そ、そうなんだ。きっとあなたの妄想力が髪の動きとか性質を可能にしているんだわ」
「妄想言うな。ところでカナコはできないのか。髪? 」
「髪を動かすなんてそんな非常識なことできるわけないでしょ。だいたい神経も繋がっていないのに… 私は脳と神経が繋がっているなら現実でもイメージ通りに動かせるけど、それは、シュミレートして現実にできることの完全に再現してるからよ」
「そっちのほうが凄くないか。そうだ! 魔法はどうなんだよ? 神経は関係ないじゃん。カナコ使えるんだろ」
「あれはちゃんとした理論があるでしょ。気配と一緒で魔力の流れからどういうものがくるかはだいたいカンでわかるし、希のレアスキルは私も同時平行で使えるから、一度見た魔法は使えるわ。威力には差があるみたいだけど、希がやってくれれば楽できるかもしれないわね」
当たり前のようにいうカナコさん、アンタがよっぽど非常識だよ。
作者コメント
ようやく男の魔法が披露できました。戦闘向きというよりネタに向いてますけど…
次話は温泉編です。