第十三話 魔力測定と魔法訓練
なのは様はあれからジュエルシードを3つ集めたらしい。私も見たかったが、先日決まった外出禁止の件で、おかーさんが学校まで迎えに来るようになった。この間の件も気になったので、車は使わず一緒に歩いて帰ることにした。おかーさんは少し神経質になっているのか、車が通るのをしきりに気にしていた。
…そんなに心配しなくてもいいのになぁ。
日曜が過ぎて、ようやく外出の許可をもらって、包帯も取れた。
待ちに待った魔力を測定してもらう日だ。
学校帰りにそのままなのは様の家に向かう。女性恐怖症のせいで少し遠回りなってしまった。
そして、今はなのは様の家。ユーノ君とレイジングハートも一緒だ。
とうとう隠された俺の才能がわかるときが来たのだ。
念のためユーノ君に結界を張ってもらっている。俺のちからが漏れたら周囲に迷惑がかかってしまうからな。……ふっ
俺はレイジングハートを手に取り呪文を唱える。
なのは様はなぜか苦笑いだ。
レイジングハートが輝き、俺の身体から魔力が引き出される。なのは様のときのような光が立つ。色は黒だ。
やだかっこいい。しびれるぜ。やがて光は収まっていく。アレ? セットアップは?
「魔力測定終了しました。」
「どうレイジングハート? 」
「魔力値推定AAAクラス 良い魔力をお持ちです。しかし、魔力の質と波長が絶えず変化して安定してません。また、頭部にリンカーコアから魔力供給を受けて存在する高密度の魔力情報体が存在して… 」
最初はいい感じだったんだけど、なんか怪しくなってきた。ユーノ君は真剣に聞いている。解説を頼もう。
「教えて、ユーノせんせ」
「せんせ? 希は魔力自体はものすごく高い。なのはと同じくらいはあるよ。けどクセがあってレイジングハートじゃ把握しきれないって、レイジングハート。彼女を使用者登録できる? 」
「いいえ、外部使用者は可能です。探索・封印のみ機能開放できます」
「探索と封印はできるみたいだね。僕と同じくらいかな」
「なのはちゃんと同じくらいなのに、どう違うの? 」
「質と効率かな? 希の場合は、魔力の質と波長が安定しないことと余分な情報が入っていてレイジングハートはそれを生かせない。時間がかかってしまうし無駄になってしまうんだ。魔力変換資質が高いのかな? 」
そういえば、デバイスは乗り物みたいなものだって言ってたな。魔力を乗り物の燃料として考えるなら、なのは様はハイオクガソリンで私が不純物だらけの軽油みたいなものか? 不純物の正体が気になるところだ。フェイトは電動だろう。
「専門の機関で魔力資質を検査するといいかもね。性質を特定してもらえば、デバイスマイスターにカスタマイズしてもらえると思う。魔力を生かして100パーセントの力を出せると思うよ」
なんだかえらく遠回りになりそうだ。
「それにしても、頭部に高密度の魔力情報体ってなんだろう? これも専門施設で検査してみないとわからないよ。希はレアスキル持ちでそれが不完全に発動しているのかも? 」
おお、レアスキル良い言葉だ。
「レアスキル? 」
「使う人が限られている、特別な魔法の事でね。中には、世界で一人しか使えないものもあるんだって、でも、今の段階ではわからないよ」
「つまり…」
私はユーノ君の顔をじっと見る。ユーノ君は申し訳なさそうに下を向きながら答えた。
「その、言いにくいんだけど、レイジングハートはなのはが使った方がいいし、僕はデバイスなくても、結界魔法やバインド、転送魔法みたいな支援系が得意だから、なのはのサポートができる。希はデバイスないし、他の魔法も使えないから、危険が大きいと思う」
「私も同意見です。魔力資質が高いと、標的になります。自衛手段を持たないあなたは危険です」
「手伝うのはダメってこと? そんなぁ~」
「ごめんね。希ちゃん」
せっかく高い魔力があるのに、戦力外通告とは参った。
(決まりね)
カナコの無情の宣告が響く。
現状ではなのは様の足を引っ張るだけだ。先日みたいに巻き込まれたら最悪だ。管理局が来るまでは静観するのが一番だろう。でも、フェイトとの接点は作って置きたい。これは、すずかの家に行くときがいいだろう。
それ以外で何かすることはないか? そうだ。ユーノ君には悪いが力を借りよう。
「ねぇ、ユーノ君、お願いがあるんだけど」
「何? 」
「私ね。どうしてもなのはちゃんみたいになりたいの。でも、危ないから手伝えないのはわかる。だからね、魔法を教えてほしいの」
「魔法を? 」
「うん、もちろん、ユーノ君がジュエルシードの事ですごく忙しいのはわかってる。だから、時間があるときでいいの」
私は一生懸命お願いする。すると、今まで黙っていたなのはちゃんが口を開いた。
「ユーノ君、私からもお願い」
なのはちゃんは私に味方してくれた。うれしいな。アレ? シンクロいつのまに。
「う~ん、なのはがそう言うなら、仕方ない。あんまり時間は取れないし、教えるのはあんまり得意じゃないけど、それでもいいなら」
「もちろんだよ」
というわけで、私はユーノ君から魔法を習うことになった。
そのなかで、私はかねてから気になっていたこと聞く。
「ユーノ君、私は魔力は多いけど一回の放出量が少なかったりする? 」
「瞬間最大出力のこと? 個人差はあるけど、極端に少ないってことはないと思うけど」
あれ? そうなの。アトランティスの最終戦士だった頃は魔力は多かったけど、一回の放出量が少なくて苦労したんだけどな。どうもあの頃とは勝手が違うようだ。
苦労しながらもレイジングハートを使えば、簡易な魔法は使えるようになった。
ミッドチルダ式の魔法や座学もしたが、物理とか数学的なことは苦手だ。もっと実践的なことがしたい。
それから、自宅で魔法のイメージ修行をしていたら、髪の毛に魔力を通して、自在に動かせるようになった。どんなものでも物を掴むことができるし、色や形、質感まで変えることができる。
やったね。
…なってどうする。
四天王でも目指そうかな?
このちからはなのは様を驚かせるためにしばらく秘密にすることにした。
魔法の勉強の時は希ちゃんと何回かシンクロしたので、カナコがずいぶん喜んでいた。
ユーノくんが簡単なミッドチルダ式魔法を教えてくれたときに、俺にはさっぱりだったが、シンクロしてた希ちゃんは見ただけで再現してユーノ君を驚かせる。しかし、何日かすると飽きてしまって自分の中に引っ込んでしまった。
(もう飽きた。つまんない)
その一言が印象的だ。もったいない。そういえば、声は聞こえたことはあるが言葉を交わしたことはまだない。どんな子なんだろう?
今は私の部屋だ。ベットに横になりながら、心の中でカナコと話をしていた。
(あの子、飽きっぽいのよ。一度見たものは完全に覚えてしまうし)
(ち、ちょっと待て。何だよそれ。そのうらやましすぎる能力は! 希ちゃんって実はすごい子なのか!? )
俺は軽く興奮していた。
(あの世界の本は記憶の象徴よ。綺麗に横に並んでいたでしょ。あなたの本棚の記憶の本は縦積みになってた。新しいもの事や印象に残っている事が上に積まれていく傾向にあるわ。下にあるものほど取りにくい。つまり、思い出すのが難しいってことよ。人間の記憶はあなたみたいに条件によって優劣があるのわ。希にとってはどんな記憶も印象とか時間に関係なく同じ条件で優劣はないの)
まとめると、俺と希ちゃんだと記憶力の容量と思い出すスピードの次元が違うってことか。
(じゃあ、さっきのはプログラム魔法は… )
(そうね。それだけじゃなくて、思考処理スピードも速いから、数式とか覚えてしまえば、あなたが九九を使うような感覚と早さで使えるのよ)
(おいおい、天才ってレベルじゃねーぞ)
(ただし、やる気がないから、発揮されることはないけど、…やる気さえあればねぇ~ あの子が今一番好きなのは寝ることだもの。それに人と話すのは基本的に苦手ね。なぜかコミュニケーションは駄目なのよね)
カナコからため息が出てきた。
(でも記憶力が高いって、うらやましい。楽そうだし格好いいぜ)
俺は軽い気持ちで言ったのだが、これがいけなかったらしい。カナコは激しく反論してきた。
(簡単に言わないで欲しいわ。希の才能は諸刃の剣よ。どんなことも完全に覚えるということは、どんなに嫌なことも忘れられないってことよ。忘れられないのは障害と考えて! それがあの子を苦しめてる。今の性格や行動パターンになったのはある意味しょうがない。生きていくのは鈍感バカのほうが幸せなことが多いわ)
これは俺の考えが短慮だった。確かに嫌なことをいつまでも覚えていると鬱になる。機嫌の悪くなったカナコにしばらく謝り続け、ようやく許してもらった。話題を変えるために魔法の事に話を戻す。
(カナコは魔法とかどうなんだ? )
カナコも魔法の勉強をしているそうだ。ユーノ君の話を聞きながら、希ちゃんとカナコの世界で練習しているらしい。
(意外と簡単ね。力と要領は一緒よ。全身の神経に私の魔力を通して動かすようにして、リンカーコアを意識すればいいのかしら? いままで魔力って認識してなかったけど、これが魔力なのね。あとは実践あるのみか。ということは私の力も外部に作用させることができるってことね)
と言っていたが、聞こえないったら聞こえない。魔法は俺のアイデンティティなのだ。
でも考えてしまう。希ちゃんはミッドチルダ式魔法を簡単に覚えてしまった。カナコも先日の気配を察知して攻撃を避けた件や今の話だと戦闘力は高いのかもしれない。
あれっ?
ひょっとして、俺、いらない子?
(涙拭けよ)
そんな希ちゃんの声が聞こえた気がした。言葉使いがなんか子供らしくない。誰だよ! こんな言葉教えたのは。
何日か過ぎて、なのは様と魔法の修行中。
(ねえ、なのはの手をつないで、魔力を集中させて、魔力に直に触れたいの)
カナコは変わったことを頼んできた。なのはちゃんと手を繋げるなら大歓迎だ。なのはちゃんにお願いして、手を繋ぎ魔力を注いでもらった。柔らかい手だな。心なしか魔力も暖かい感じがする。
( …プロファイル開始)
プロファイル? 何のことだ? あの本のことかな。
(やはり、そういうことなんだ。なのは人形も完成したし、この棚にはそういう意味もあるようね。スキル一覧みたいなものかしら、以前は不完全な状態で無意識に使って、良いもの、悪いもの関係なく引き込んだみたいね)
カナコはなんだか訳が分からないことをしている。
(何してるんですか。カナコさん?)
(また今度教えるわ。私も考えをまとめているところだから)
謎の多いカナコだった。
すずかの家に遊びに行く日は近い。フェイトとファーストコンタクトまで後少し。
作者コメント
カナコの秘密主義がそろそろイライラしてくるレベル。
オリ主強キャラの意味はこういうことです。男は今のところ戦力外。カミノチカラは使えます。