第一話 目が覚めて
深いまどろみの中、二人の女の子の声が聞こえる。俺は死んだはずだ。ここはあの世だろうか?
彼女たちはきっと転生の神様に違いない。絶対に間違いない。なぜなら俺は選ばれた……うっ
頭ぐらぐらして気持ち悪い。ちょうど高熱でうなされているときの状態に似ている。だから声は聞こえていても内容を理解することができない。
「ーーーれるわよ。」
「カナコ、あとは全部任せるよ。ちゃんと見守ってあげてね。もう働きたくないよ~ 」
「希、あなた小学生のくせに…… まあ任せておきなさい。あなたは引きこもっていいわ。でも心配だわ」
「どうして? カナコが勧めてきたんじゃなかったっけ。この騎士さんがしてくれるのは私の代わりに外に出ているだけの簡単なお仕事でしょう? 」
「他に使えそうな記憶が見つからなかったとはいえ、欠陥がひどいのよ。それを整えるのに強引に記憶いじくったから、変な行動とか勘違いをしてないといいけど… 」
「カナコの説明は長い。短くわかりやすくして」
「もろくて出来の悪い守護騎士システムね」
「名前を呼んだらダメなんだっけ? 」
「そうよ。フルネームが記憶の鍵になっているの。呼ばれたら記憶を取り戻すからアウトね。魂も紛いものだし、自己矛盾を起こして消滅するのは間違いないわ。でも心配はいらないと思う。あなたの外見じゃまずない。小学3年生の女の子に20代男っぽい何かが入っているなんて誰も思わないわ。スペアもあるし、壊れたらそれはそれでかまわない」
「そうなんだ。だったらもう眠りたい。疲れちゃった」
「今は引きこもってなさい。来年くらいから本気出すといいわ。でもね、コイツ次第じゃ起こされるかもよ。なんせ馬鹿だし」
「馬鹿はひどいよ。起されるのは…… いやだけど、仕方ないよ」
「わかった。でもやばいことしそうだったら、手綱はとるわ。それから、できる限り存在を補強してみるわね。手っとり早いのは ……やっぱり愛なのかしら? 」
う~ん、さっきから聞いてるが何を言っているんだ? 雑音の様にしか聞こえない。今から起きて聞いてみるか。
「あっ! …起きたよ」
「さて、お目覚めですか? 騎士様、しっかり外で役目を果たしてきてね」
俺は目を開けようとするが、その前に体が持ち上がる。えっ!? 何?
「じゃあ、いってらっしゃい。えいっ! 」
浮き上がるような感覚、落下していく。
ひゅーーーーーーーーー
「なんじゃーーーーそりゃーーーー」
俺は目を開ける。
ぼやけながらもだんだん焦点があって、白い蛍光灯と白い壁が目に入った。
「知らない天井 ……う、いかん、ついお約束な言動をするところだった」
ひとり無意味につっこむ。周りを見渡すと、白いカーテンで囲われて、シーツやベットが目に入る。病院か。なんでこんなところに?
手と腕をみると、点滴の跡もみえる。それより、何か変だ。俺の手と腕こんなに小さく細くて白かったかな?
あと髪がなげぇし、その気になればゴンさんごっこができそうだ。
嬉しい。
きっと神様が髪に恵まれなかった俺にプレゼントしてくれたのだろう。髪を持つものと持たざるものの差は大きい。両者はわかりあえないのだ。
俺は自分の髪を撫でて、しばし浸る。しあわせな時間だった。
こうしているのもなんなので体を起こす。のっそりと静かに立ち上がりカーテンを開く。
誰もいない。ほかのベットも見あたらない。個室で広い部屋だ。しかも、大型テレビ、壷やソファーなど普通の病室にはない高級感を醸し出していた。
(おいおい、こんなところに寝泊まりできるほど金持ってねーぞ。鏡はどこだ? 鏡 ……あった)
鏡の前に立つと、ピンクの病衣を着た女の子が立っていた。特徴的なのは艶やかな長い黒髪で膝まで伸びて、ボリュームがあり身体を覆っていている。顔は将来を期待できそうだが、幸薄そうで陰があるタイプだな。身体も同世代の子と比べても華奢で病弱な大和撫子という表現がしっくりくる。女の子はその不思議そうな顔をしてこちらを見てる。誰だ? この子、とりあえず挨拶しとくか。
「こんにちわあーーーーーーーー」
途中から自分だと気づいた。
ひとしきり悶えた後、自分の状況を整理することにした。
① 俺はアトランティスの最終戦士ジークフリードだ。(記憶の劣化がひどく、混乱しているが間違いない)
② 俺はアトランティスの最終戦士の記憶を持ったまま現代人に転生を何度も繰り返している。(これも間違いない。この前の人生ではチートだった。今までの転生でもそうだ)
③ この身体の前は20代前半男だった。(死んだ理由は事故らしいことは何となく覚えている。自分の部屋にいた記憶ははっきり覚えている。引きこもっていたもんな。ただ、外出したのも覚えてないし、こもる以前のことはなんかあいまいで他人事のように感じる)
④ 前の名前や住んでた場所の固有名詞は覚えてない。家族構成や家族の顔をなんとなくイメージできる。(妹の斎のことは覚えている、大学に行っていた。前世でも兄弟だったからなぁ)
⑤ 転生または憑衣してる(どっちかはわからんが)
⑥ おんにゃのこ(男じゃないのは残念は残念だけど、あまり違和感はないな。ペタペタするが何も感じない)
⑦ この女の子本人の記憶がない(記憶喪失みたいだな)
こんなところか。
では、アトランティスのちからが使えるか試してみよう。俺は天を掴むように手をかかげると心に秘められた呪文を唱える。
「来たれ。我が黒き外套、赤き銃身ディスティ」
……来ない。この世界でも使えないようだ。やはり失われてしまったようだ。
(やっぱり、馬鹿だったわ。予想はしてたけど…)
どっかで誰かの嘆く声が聞こえた。失礼なことを言っている。
ふと、視線を横に向けるとテーブルがあり、高級そうな漆塗りのどんぶりが置かれていた。まだほかほかでおいしそうな匂いが食欲をそそる。何だアレ? 誰も手をつけてないみたいだけど。
テーブルに近づいて、どんぶりのふたを開いてのぞき込んだ。すると、色とりどりの野菜とエビのてんぷらが見えた。
「しらない天丼だ…あっ! 」
何かに負けた気がした。
悔しかったので食べる。なんだか胃がムカムカするが気にしない。4分の1くらい食ったところで、いきなりドアが開いた。
俺は箸とどんぶりを持ったまま固まる。視線を向けると30歳後半くらいの女の人が唖然としている。もしかして、この人の天丼か? え~と、何か言わないと。
「い、いただいてます」
女性は驚いた顔のまま近づいてきて、恐る恐る聞いてきた。
「みー、みーちゃん、大丈夫なの? 」
(みーちゃん、この子のことか? この部屋で天丼食べるってことは家族だよな。母親か? 今の状況はやっかいだし話を会わせとこう。えーえースマイル、スマイル)
俺はこの場となんとか切り抜けようと笑顔をつくる。
「うん ……大丈夫だよ。おかーさん」
「おかーさん? おかーさん」
女性は呆けたような顔で、言葉をかみしめるように言うと、下を向いてしまった。
あれっ? 何か変だな。俺は立ち上がり近づくと、女性は肩を震わせて泣いていた。
「うん、うん …おかーさん」
「どうしたの? おかーさん」
「だって、みーちゃんがおかーさんて呼んでくれたのが、嬉しくて」
(ほっ、良かった間違ってなかったらしい)
おかーさんは涙で崩れた顔のまま、急に私の背中を強く抱きしめた。そして、号泣する。
「みぃーちゃん、ああっ、みーちゃん」
ますますヒートアップしてきたみたいで、愛しさをこめて名前を呼ぶ。抱きしめる腕の力はますます強くなる。
(ちょ、まって、強い、強い!! タンマ、タンマ、ギブギブ、気持ち悪ぅ …胃ーー出る)
急激な嘔吐感が押し寄せ、抱きしめる母の肩に思い切り吐いた。
感動のシーンが台無しだった。あたりは酸っぱい匂いが立ちこめ、母のスーツは黄色く汚れていた。最悪である。俺って奴はどうしてこうなるんだよ。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
泣きそうな顔で何度も謝る。すると母はすっと俺の頭に手を伸ばして頭をなでる。
「ふふふっ …病み上がりなのにこんなに食べるなんて食いしん坊さんね」
俺は母親だというその人を見つめる。俺が吐いたことなど少しも気にしてないように笑っている。これが母親というものなのだろうか? その顔をみていると、ふわっと包まれるような安心感と胸にチクリと針がささったような罪悪感を感じる。
どうしようもない気持ちを込めて、俺は心の中でこっそり告白することにした。
(優しい人だな。なんかこの人好きになれそうだ。でも、ごめんさない。俺はあなたの子ではないんです)
しばらく見つめあうふたり。おかーさんから話を切りだしてきた。
「いつまでもこうしてもいられないわね。担当の看護師さんに連絡しないと。私も着替えてくるわね。それから、掃除もお願いしてくるわね。」
おかーさんは名残惜しい顔で部屋から出ていく。その背中を目で追いながら、俺はこれからどうしようか考えていた。
「あれっ? 」
何か寒気を感じる。心臓の動悸も激しい。冷や汗と鳥肌まで立っている。吐き気もぶり返してきた。頭痛まで感じるようだ。なんでだろ? まあ、病み上がりだし寝とくか。
俺はベットに横になり眠りにつく。眠りに落ちる直前に
(しょっぱなから高度なことするじゃないわよ。次はただじゃおかないから。それから、やっぱり変な勘違いしているわね。せいぜいバカなことはしないでちょうだい)
と起きる前に聞いたあの少女の声が聞こえた気がした。
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二時間後…
「おとーさん? おとーさんか」
「どうしたの? おとーさん」
「希ちゃんがおとーさんって呼んでくれたのがうれしくてなぁ」
(あんたら似たもの夫婦だよ)
先ほどの焼き直しのようなやりとりをしながら、俺は密かにつっこんだ。
おとーさんは医者のようだ。しかも、おじーちゃんは病院長らしい。やべぇ俺セレブじゃん。勝ち組じゃんと喜んだ。どうりでこんないい部屋に入れてもらえるわけだ。
ただ少し気になったのが、喜ぶ父の横で険しい顔をした他のドクターたちが
「雨宮先生、お話があります」
言って父をつれていったことだった。
そのあと、医者と結構長い時間話をさせられて苦痛だった。いらいらしてきたので、話を遮ってアトランティスの戦士の話をしたら、カルテに「転生妄想」と書かれた。鬱だ。
医者が看護師と会話で「やはり、心療内科へ…」とか不穏なセリフが出できたので、「今の嘘です。そうだったらいいなと思っただけです」と誤魔化したところ、今出張中の担当医が戻ってから判断することに決まり一安心した。
前世を嘘だと言うのは心が痛む。
しばらく入院することになった。
すぐにわかったことは、この子の名前は雨宮希、九歳、小学三年生ということだ。
女の子になってからの初めて風呂とトイレも心が男だからといって特に何も感じなかった。年が若すぎるのもあるし、なんというかしっくりくるのである。俺には乙女の資質があったのだろうかと悩んだが、男だった頃の記憶がはっきりとしないからだろうと割り切った。
ほかにもさまざまな問題が判明してきた。
まず、身体中に痣や切り傷の痕があり、背中の火傷のような大きな傷が気になる。長く入院してたからこのくらいの傷は負っていてもおかしくないが、この子に何があったか気になる。傷は成長すれば目立たなくなるだろう。特に背中の傷は見ているだけ頭痛がしてくるのであまり気にしないようにしよう。
看護師さんのかわいそうなものを見る目がチクチクして嫌になる。
ふと嫁に行けるだろうかと少し考えてしまった。男なのに。
他にも初日にも感じた突発的な頭痛と吐き気・寒気にも悩まされた。また、内臓系が弱いのか食が細く、味の濃いモノや油っぽい食べ物は基本無理であった。これは、ジャンクフード大好きだった前世の身としてはさびしい。頑張って挑戦してるが芳しくない。
早く健康になりたい。
意外と制限の多い体だったが、どうにかこれから生きていこうと考えを切り替えることにした。暗いことばかりだと健康にも悪いしな。
なにより、髪の毛を触っているだけで、この身体はしあわせだった。気がつけば一日過ぎてたこともあった。
この気持ちを歌にしてみた。ああティモテ、ティモテ、ティーモテ
幸いなことに、目標はすぐ見つかった。この病院の名前は海鳴大学病院だったのである。
インターネットで調べた結果、喫茶翠屋、月村家、聖祥大学付属小学校が検索に引っかかり、アニメ魔法少女リリカルなのはの世界の可能性が高いと判断できた。
まさに、天啓であった。
なのは様は一番最初の前世では想いを寄せながらかなわなかった相手だ。それから、さまざまな転生を繰り返し、直前の前世でアニメとして知っていた彼女である。もうこれはなのは様のいるところへ行くしかない。
数日が経過して、退院して家に帰る。担当医はまだ出張中だが、家のほうが落ち着くからとおとーさんが強引に退院させたらしい。
家の前に立つ。大きな門と純和風のずいぶん立派な屋敷だ。田舎なら町の有力者が住むようなたたずまいで、さすが医者の一族は違うようだ。
自分の部屋に入り服に着替えるが、長い入院で痩せたせいで少し大きく感じる。新しいの買ってもらうかな?
そして、両親に頼んで聖祥大学付属小学校への編入学試験を受けた。当然のようにトップクラスだった。
前の小学校は春休みが始まる前に一度だけ通った。お別れを言うためである。前に通ったのは恐らく二ヶ月も前になると思う。大学病院からはだいぶ離れた場所にあり、当日はおとーさんに車で送ってもらったが、ずいぶん遠い学校を選んだもんだと不思議に思った。
家の教育方針なんだろうか?
見ず知らずのクラスメイトは全員俺に対して敬語で話して、なんだかビクビクしていて、友達らしき子はいないのには不思議に思ったが、先生は普通だったのでおぜう様だからみんな気遅れしてたんだろうと思うことにした。
お別れ会はおおいに盛り上がった。
「いつも寝ている雨宮さんが名門校に入学できるくらい頭良かったなんて知りませんでした」
最後に先生が言ってくれた。そりゃそうだ。中身は仮にも成人だからな当然だ。
春休みが終わり、特に何事もなく過ぎ去り、入学式が始まる。式自体には体調不良で参加できなかった。久しぶりに大勢の人の前に出て気持ち悪くなったのかもしれない。
ひとしきり休んで身体を起こして。ある場所へ向かう。どうしても確認したいことがあるのだ。
クラス発表の掲示板には月村すずか、アリサ・バニングス、高町なのはの名前が書かれていた。
完璧だ。
ここまでで人生の運を使いきった感はあるが、俺はどうやら舞台に上がる資格があったようだ。
(おかしいわね? 違う世界は本当にあるのかしら? )
病院で最初に気がつく前の少女の声が聞こえた。この身体は幻聴がたまに聞こえる。やばい病気なんだろうか?
あれから、この身体の生まれてから記憶が戻る気配はない。周囲には隠しているが記憶喪失のような感じである。誰かに取り憑いているような感じだ。そのため、この娘の優しくしてくれる両親にますます申し訳ない気持ちになるのだった。
女の子であることは、もう悩んでいない。だから、心の中で俺から私に呼称を変えた。とにかく女として生きていくのだと決心する。ただ、髪の重さやスカートで歩くときや首もとの締め付けの違和感には悩まされていた。
細かいことは考えないようにしよう。とにかく焦がれてやまなかったあのなのは様にもう一度逢えるのだから……
「ーーさん、雨宮さん」
誰かかが肩を叩く。考え事をしていて誰かが近くにいたのも気づかなかった。誰だろ? と冷静に考えたが、身体は思いよらない反応をしてしまった。
「きゃああーーーーー」
と悲鳴を上げて飛び跳ねるとそのまま床に尻餅をついた。
う~ん、すでに私は完璧な乙女になりつつある。
「ごめんなさい。そんなに驚くとは思わなくて…」
上を向くと学校の先生らしき若い女性が申し訳なさそうな顔で見ている。
「いえ、こちらこそ申し訳ありません、学校の廊下で大声出してしまって」
「クスっ …恐がりさんね。今日が初日ですもの。緊張してるみたいね。少し汗もかいてるわ」
「ええ、はい」
言われてみて気づいたが、夏でもないのに襟元は汗で濡れて、心臓の動悸も激しい。頭痛と吐き気もある。原因不明の虚弱体質はこれだから困ったものだ。
首元の締め付けと汗の湿気が気になり、シャツの首元は引っ張るとパタパタし始めた。親父っぽい仕草である。
こういうところで微妙に男が残っているのはご愛敬。
(ああもう、今まで生きてきてリボンなんてつけたことなんてなかったのに、早く慣れないといけないな。女形の道は厳しいな…あれ? この場合、どっちなんだろう? )
手が止まり考え事を始める。
「あらあら、汗拭いてあげるわね」
にこやかに笑顔を浮かべた先生がハンカチを手に私の首もとに手を伸ばしてきた。それに対して私は反射的に先生の手を振り払ってしまった。オートガード発動である。
「あっ…… 」
(しまった。アトランティスの戦士だったときの癖で急所への接触には無条件で反撃してしまうんだよな。それこそ俺の後ろに立つんじゃねぇレベルで、これも危険の中で身に付いた哀しき習性だな。……ふっ、あ、それどころじゃない。先生大丈夫かな? )
おそるおそる顔を上げると、先生は驚いた顔をしたまま固まっている。その後、何か考え込み、急に何かを思い出したような顔をして、涙目になっていた。
ヤヴァイ先生を泣かせちゃった。こんな噂が広まったら私の立場はない。なのは様との百合じゃなかった。バラ色の学校生活が、とにかく何かジョークを言って場を和ませないと …そうだ!
すくっと立ち上がると先生に背中を向けて首だけくるっと先生に向けた。
「俺の後ろに立つんじぇ…あぅ……噛んだ。」
再び驚いた顔をした先生だったが、涙をぬぐうと笑顔見せる。うまくいったようだ。
「ごめんなさい。次は許可をもらうわね、さあ行きましょう、あなたの友達になる子たちが待っているわ、私のクラスの生徒はとってもいい子達なのよ」
先生の背中を追いかけながら、廊下を歩いていると、先生はふと立ち止まり顔をうつむくと背中を向けたまま話しかけた。
「雨宮さん ……さっきは気を使ってくれたのね。ありがとう …優しい子ね。先生に困ったことがあったら何でも相談してね。先生、ちょっとトイレに行ってくるわね」
先生の声はまた涙声だった。
(なんでまた泣くのせんせー)
出てきた先生は化粧は直っていたが、目は赤くうるんだままで、泣いていたことはバレバレである。そして、あっという間に教室の前に着いた。
「じゃあ、ちょっと廊下で待っててね。」
(そんな顔で大丈夫かな)
先生は教室の中に入る。中のやりとりは声は小さいがよく聞こえた。どうやら先生は泣いていたことの生徒につっこまれたようだが、うまく誤魔化したようだ。良かった。いらん誤解を与えるところだった。
「それじゃ今日は新しい友達を紹介するわね。雨宮さん入ってちょうだい」
おおっ緊張してきた。あの金髪はアリサか、紫のすずかもいると 内心は喜びで踊りだしそうだったが、素知らぬ顔で教室の黒板に移動すると皆の前に立つ。そしてふたつに揺れる白いリボンに目が止まった。
(見つけた。ようやく逢えた)
間違いない彼女だ。見つけた瞬間心臓が止まりそうだった。今は逆に鼓動が激しく脈打っている。
(なのは様 …私は女の身ではありますが、あなたに逢うため想いを伝えるために再び御身の元へ参りました。)
「じゃあ雨宮さん自己紹介を、えぇーー、雨宮さんどうしたの? 」
どうやら、私は泣いているらしい。先生はあわてた顔でクラスメイトも困惑しているようだ。
(いけない、いけない、自己紹介ちゃんとせねば)
私は淑女を意識してスカートの両端の裾を両手で掴みバレエダンサーがするように頭を下げ、顔を上げると涙を浮かべながら私は笑顔を作りこう言った。
「はじめてまして、ごきげんよう。私の名前は雨宮希と申します。こうしてみなさまと逢えたことをうれしく思います。これからよろしくお願いしますね 」
どこぞのセレブを意識した挨拶をする。髪が綺麗に波打った気がした。
決まったわ。……ふっ
「…変な娘」
呆れたアリサのツッコミが聞こえた気がした。
オリキャラ人物表
男・・・アトランティスの最終戦士、何かがおかしい。
希・・・小学生ニート、出番は大分先。
カナコ・・・説明キャラ、コイツがいろいろややこしくしてます。出番は少し先。
おかーさん・・・やさしい。
おとーさん・・・出番あまりない。
担任の先生・・・なんか勘違いしてる。
作者コメント
とうとう投稿してしまった。