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No.2721の一覧
[0] 奇運の管理局員 [霧](2011/01/13 03:22)
[1] 奇運の管理局員 第1話[霧](2009/06/25 11:04)
[2] 奇運の管理局員 第2話[霧](2010/03/15 02:01)
[3] 奇運の管理局員 第3話[霧](2008/05/17 16:55)
[4] 奇運の管理局員 第3話 裏話[霧](2008/05/17 16:56)
[5] 奇運の管理局員 第4話[霧](2008/05/17 16:56)
[6] 奇運の管理局員 第5話 前編[霧](2009/06/25 11:09)
[7] 奇運の管理局員 第5話 後編[霧](2009/06/25 11:09)
[8] 奇運の管理局員 第6話[霧](2009/06/25 11:10)
[9] 奇運の管理局員 第7話 前編[霧](2009/06/25 11:13)
[10] 奇運の管理局員 第7話 後編[霧](2009/06/25 11:18)
[11] 奇運の管理局員 第7話 裏話[霧](2009/06/25 11:18)
[12] 奇運の管理局員 第8話 前編[霧](2009/06/25 11:19)
[13] 奇運の管理局員 第8話 幕間[霧](2009/06/25 11:19)
[15] 奇運の管理局員 第8話 中編[霧](2009/06/25 11:19)
[16] 奇運の管理局員 第8話 後編[霧](2009/06/25 11:19)
[17] 奇運の管理局員 第9話[霧](2009/06/25 11:20)
[18] 奇運の管理局員 第9話 裏話[霧](2009/09/29 14:08)
[19] 奇運の管理局員 第10話 前編[霧](2009/06/25 11:21)
[20] 奇運の管理局員 第10話 後編[霧](2009/06/25 11:21)
[21] 奇運の管理局員 第10話 裏話[霧](2009/06/25 11:21)
[22] 奇運の管理局員 第11話 前編[霧](2009/09/29 14:09)
[23] 奇運の管理局員 第11話 後編[霧](2009/07/13 11:07)
[24] 奇運の管理局員 第12話[霧](2009/07/13 11:31)
[25] 奇運の管理局員 第12話 裏話[霧](2010/06/17 21:53)
[26] 奇運の管理局員 第13話 前編[霧](2010/03/15 02:00)
[27] 奇運の管理局員 第13話 後編[霧](2010/12/13 01:18)
[28] 奇運の管理局員 第13話 裏話[霧](2011/01/13 03:34)
[29] 奇運の管理局員 番外・前編[霧](2008/09/08 15:38)
[30] 奇運の管理局員 番外・後編[霧](2008/07/28 10:37)
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[2721] 奇運の管理局員 第10話 裏話
Name: 霧◆535a83f8 ID:5cb1832c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/25 11:21




第10話 裏話
―間違いだらけの正答者―




朝の空がある。
日はまだ薄明程度の明るさで、静かな空気に空がよく映えていた。

毎朝の日課である訓練を終えて、シャワーで汗を流した身体に朝特有の清涼な風が心地良い。

いつも通りに管理局の制服を着ようとして、


「そうか、今日は・・・」


約束がある、と。

休日であるが出かけねばならない事を思い出し、クローゼットを開け、
豊富にはないが選べる程度にはある服の中から一番気安いものを取り出す。

管理局の制服以外の服を着るのは久しぶりか、と少し苦笑がうかんだ。

リビングに下りていくと既に出かけたのか誰も居らず、朝食だけが用意されていた。

約束の時間まではまだ余裕があると、ニュース番組を見つつ、ゆったりと朝食を摂る。

ゆったりとしすぎてタイトになった時間に慌てつつ、洗面所で身だしなみを整える。
鏡に映る自分はいつも通り。健康面には問題なさそうだ。


「行ってくる」


写真立てに映る家族にそう言い、家を出て、やや明るくなった日差しに目を細める。

今日も良い天気になりそうだ。









待ち合わせの場所が見えた。時刻は約束の10分前。

私服姿の相手は既にそこに居て、こちらを待っていた。


「何をしている、ティーダ」


手を突いて、額を地面に擦りつけそうな程に頭を下げた、綺麗な土下座の体勢で。


「不肖ティーダ・ランスター!シグナムさんを見込んで恥ずかしながら、
 一生に一度の願いを聞いていただきたいと思う次第であります!」


下げた頭から聞こえるのは気迫の篭もった叫びにも近い言葉。

道行く人の視線が集まるがティーダは気にする風も無い。


「なんだ、一生に一度とは。介錯の為にその首でも落として欲しいのか」
「はは・・・その、それも確かに一生に一度ですけど、違います」


なんだ違うのかとやや期待はずれな気持ちと溜息が出た。
TVドラマ「必殺介錯人」で色々と学んだのだが。

正面、土下座の体勢から立ち上がったティーダは服の埃を払い、
ええと、と前置きして、


「そういうエクストリームなのではなく、半日ほど俺に付き合っていただきたいんですよ」
「何かあるのか?」
「ええ、ちょっとばかり、尾行を」
「尾行?休日なのに犯罪者でも追う気かお前は」
「まあ、ある意味犯罪者と言えば犯罪者なんですけど」


俺にとっては、と小さく付け足すティーダ。

その言葉に更に疑問が深まる。

そんな私に対しティーダは苦笑し頭を掻きながら、


「少し、事情がありまして。シグナムさんとの約束がある事は承知していたんですが、
 それでも、その、気になるというか、知らずにはいられないというか」
「それは、私が付き合う意味があるのか?こちらの用件はせいぜい諸所の確認と世間話位なのだが」
「いえ、その、これから尾行して行く所が少々特殊なんで、俺単品だとかなり目立つんですよね。だから、ええと・・・」


迷うように言葉を選ぶティーダ。

今の話を総合するならば、


「お前にはとある用事があり、それには特殊な場所に行かなくてはならない、
 だがお前一人でそこに行くと目立ってしまう。だから、私と行動してその尾行の成功率を上げたい、と?」
「はい。まあ、その途中かもしくは終わった後でシグナムさんの話を聞く、という形になると思うんですが」
「その用事、と言うのはそれほどに大事な事なのか」
「ええ、まあ、他人には下らない事でしょうが、俺にとっては、大事です」


軽い問いかけのつもりだった。
だが、嘘の無い、真剣な色の瞳がそこにあって。


「シグナムさんに対して失礼である事も承知の上なので、かなり手前勝手な願いなんですが・・・」


やっぱ駄目ですよねー。と瞳の色を消して、緩い笑みを浮かべるティーダ。

そんな顔を見ながらもう一度ふむ、と考える。

いつもの休日なら主と守護騎士全員が揃っているのだが、今日はそれぞれに予定がある。

主はやてとリインは高町やテスタロッサ、月村やバニングスとお出かけして、ヴィータは海鳴地域のゲートボール大会。
シャマルは近所の主婦達とスパリゾートへ、ザフィーラはアルフに会いに行くと言っていた。

差はあるだろうが、それぞれ帰ってくるのは夕方近くになるだろう。

それに引き換え、私は今日、ティーダに会う以外に予定が無い。

主やシャマルに趣味を持てとは言われるが、剣のみに生きてきた私にはあまり興味が沸かないモノばかり。
馴染みの剣道場に顔を出そうにも一日中開いている訳ではない。

こういう、自由に行動して良い日は逆に何をしていいか分からなくなるな。

自分が何か楽しめる物はと思い、


・・・・・・しいて言えば戦う事と美味いモノを食べる事ぐらいか。


いかん。それは駄目人間の思考だ、と内心で首を振る。

だから、と思い。


「まあ、いいだろう」
「そうですよね、駄目ですよ・・・って、えぇ!?」


ティーダは、自己完結しようとした言葉が否定され、酷く驚いた顔を作る。

確かに私のイメージは堅いとか怖いとか罵られたいだとか一部意味不明なモノも混じっているが、
一貫してとっつきにくいモノばかりではあることは知っている。

しかし、そこまで露骨に反応されると腹立たしい。


「なんだ、人に頼んでおいてその失礼な反応は」
「ええ・・・だって、その・・・ええぇ?」
「本気で失礼な奴だな。深い意味はない。ありていに言えば、今日は予定が無くて暇なのでな」


それに、


「お前だったら問題は無いだろう」


管理局員の中でティーダは主や高町達を抜かせば、三指に入るくらいには長い付き合いだ。
何度か個人的に会ったりしているので人となりはそれなりに理解している。

休日を過ごすには十分に気安い人物だろう。


「え、いや、その台詞はちょっと俺の心に対して問題があるというか・・・」
「何を言ってるんだお前は」


意味不明な言葉を発し、頭を抱えて悶えていたティーダだが、迷いを振り切るように勢い良く頭を振る。

そして、やや照れたような微笑を作り、


「では、お付き合いお願いいたします」
「承知した」









そうして、現在。
ティーダと共に看板の陰から覗き込んだ視線の先、ティーダの目的である二人組みがいる。

少年と青年の中間ほどの男子と、出会った時の主くらいの年の頃の少女だ。

男子の方はどこかで見た事があるな、と記憶を探る。


「あれは確か・・・終夜三士、だったか」
「ええ。今は二士ですけど。で、もう一人が俺の妹でして」
「・・・何処が犯罪者なんだ?」
「いえ、大事な妹を俺から奪おうとする賊は例え後輩であろうとも犯罪者でいいかと」
「・・・」
「あ、移動するみたいです。行きましょう、シグナムさん」


呆れて声の出なくなった私を気にせずにそう言うティーダ。

こいつはハラオウン執務官と同類か。


「まさか、こんな事の為に・・・」


頭を抱えながら、休日の人ごみを歩いていく。

つけられている等とは考えもしないのだろう上条とティーダの妹、
ティアナ・ランスターは後ろを振り返る事も無く、更に先を歩いていくのが見える。

このまま行けば、あちらにばれる事はないだろう。


「チィッ、終夜め、魔力弾の一つでも叩き込んで魔力を空にしてやろうか・・・!!」


ティーダがもう少し落ち着いたならば。

ティーダ・ランスターと言う男は私から見て、端正な顔立ちをしている。
周囲を歩いていく女性達が振り返る事を見れば、その説得力は十分だろう。

偶に私を見て、少し悔しそうに顔を歪める女性がいるのがよく分からないが。

その上に、人混みで頭ひとつ出てしまう程の長身だ。
故に、雑踏に紛れようと目立つ。

そんな人間が鬼のような形相で拳銃型のデバイスに手をやる様子。

目立たぬはずも無く、不穏当な言動も相まって、結果、周囲の視線を集めている。


「ティーダ。もう少し落ち着け。自分から台無しにする気か。まずデバイスをしまえ」
「ですが、シグナムさん。妹が今にも襲われそうな今の状況は俺の繊細なハートには刺激が強すぎます・・・!」
「何処が襲われそうなのか、お前の何処が繊細なのか私にはわからんが、落ち着け」
「俺の繊細なハートがッ!?」


バッと両手で胸を押さえてよよよと泣き崩れるティーダ。

更に周囲の注目を集まっているのだが、お前本気で尾行する気はあるのか?

言葉の通り、ティーダの用事のあまりの下らなさに帰りたくなってきたが、
付き合うと約束した手前、それを破る事は騎士としての誇りを汚す事と同意だ。

先程の浅慮であった自分を少し悔いつつ、先を歩く二人に視線を飛ばせば、
「893遊園地」と看板を掲げた華やかな娯楽施設の入り口をくぐっていくのが見えた。

遊園地。

前に主はやてに話を聞いた覚えがある。
その話によれば、御伽話の魔法の国を再現した大人から子供まで楽しめるとても楽しい場所だとか。

主はやてが行きたいなぁ、と言っていた様子が思い出された。

・・・何故、一番縁の無さそうな私がここにいるのだろうな。

だが、ともう一度、件の娯楽施設を見やる。

何故だろう。目の前にあるその施設からはどこか懐かしい、戦場のような緊迫感の匂いがする。


「ああ!?馬鹿な事をしているうちにティア達が中に!追いますよ!シグナムさん!!」
「その感情のアップダウンの幅をどうにかしてくれ」


だが、


「今日はお前と話すだけの予定であったから、それほど金を持ってきてはいないぞ」
「大丈夫です。こんな事もあろうかと予めフリーパス買ってありますから」
「そ、そうか・・・」


ティーダが差し出してきたチケットを受け取る。


「用意が良いな・・・ん?」


予め、買ってあった・・・?


「ちょっと待て。ティーダ、まさかお前、始めから・・・」
「ああ!?ティアが行ってしまう!?シグナムさん早く早く!!」


少し目を放した隙に先に行ってしまっているティーダ。

その横顔を確認すれば、悪戯に成功した時のような幼い笑みが浮かんでいて、
こちらの抗議の視線は無視するつもりのようだ。全く。


「何故こんな事をしたのかは知らんが・・・はぁ・・・」


溜息を吐き出し、呆れの感情を胸の中に感じながら、それでもティーダの後を追う。
昔の私なら間違いなくこの時点でティーダを叩きのめして、帰っていたのだろうな。

甘くなったか。この調子では主はやてにもテスタロッサにも笑われてしまう。

が、


「それもまた良し、か」


ひとり呟いて、苦笑が込み上げる。

主はやてに似た強引さで先を行くティーダに対しての不快の感情はない。
温かさすら感じられるのは、自分に余裕がある状態だからだろう。

昔のように戦闘に塗れて、気を張り詰める必要の無い、
いつかの自分は思い描く事すらなかった、平穏の日々の中。

日常には日常の過ごし方があって。
戦場の冷たさは今、ここにはない。

ならば、私には似合わなくとも、偶にはの御人好しも良いか。









おお、と周囲から歓声が上がっている。


「は、箱乗りで最後まで残った人が・・・」
「すげぇ・・・」
「うっわ、超美人・・・」
「決めた、俺あの人に告白してくる」
「止めろ馬鹿。あの人連れが居たっつの。しかもお前と比較すんのが可哀相なほどのイケメン」
「ガッデム!俺の恋出撃三秒で撃墜かよ!おのれ、ハンサムめ!」


声と視線が煩わしいな、と周囲の視線から逃げるように少し足早にジェットコースターのホームから出る。

身体には今までに感じたモノとは少し違う、高揚の熱がある。

・・・ただ速いだけの乗り物かと思えばなかなか侮れない。
私もアレくらいスリリングな運転をしたいものだ。

そう思い、息を吐く。


「私は一体何をしているんだ・・・」


柄でもない、と痛くはないが重いこめかみ辺りを撫でる。


「シグナムさん。どうぞ」
「む?」


軽い思考の横からティーダの声。

差し出されたモノはたこ焼き。
今焼きあがったばかりなのか、鰹節とソースが焼かれた香ばしい匂いと湯気を立てている。


「時間が無かったんで一船しかないですけど」
「何故たこ焼きなんだ」
「何言ってるんですかシグナムさん!尾行にはたこ焼きが付きものなんです!モグラ警部海苔弁派でやってました」
「ああ、そういえば主はやてが見ていたな。
 その時は確か、たこ焼きの匂いを犯人に気付かれて逃げられたはずだが」
「ハッ!そういえば!なんという状況的欠点!端的に言えば「迂闊!」と言う奴ですねこれは!」
「私の気分的には「うつけ」と言いたい気分だがな」


どちらにせよ、今の状況では匂いは有ろうと無かろうとあまり関係無いが。

たこ焼きの一つに爪楊枝を突き刺し、タコを口の中へと放り込む。
高温、味とプリプリの触感の両方が口の中で踊る。

うむ、焼きたてのモノはやはり美味い。


「あの二人は?」
「シグナムさんがアレに乗っているうちに隣の「ヤクザハウス」の中に。・・・俺はアレに乗らなくて正解だったな」


それを聞き、しばらく動く必要は無いなと備え付けられたベンチに座る。

隣に座ったティーダは全くアイツは、と溜息を吐いた。


「どうかしたのか?」
「いや、アイツがシグナムさんの乗ってたアレを見て首捻ってたんで」
「勘は良いようだな。それでお前は乗らなかったのか」
「それと目も良いんですよね。視力、動体視力のどちらも」


成程、と頷きをかえす。

こちらの尾行はティーダの奇行を抜かせば、ほぼ完璧。
だが、終夜二士は何度かこちらに疑問の視線を送ってきた。

アレに乗れば、面識の薄い私ならまだしもティーダは即座に発見されただろうな。


「フェイト嬢との模擬戦の経験で索敵能力が上がってますしね。厄介な事この上ない」
「お前達がアースラに出向していたのは聞いていたが、テスタロッサと戦ったのか」
「ええ、主に終夜が、ですけど」


緩やかに面白げな笑みを浮かべるティーダ。

最近の私とテスタロッサの模擬戦。
多く剣を交えたわけではないが、テスタロッサは変わった。

揺れ易かった感情が多少落ち着ついたからだろうか。

日常生活においては、柔らかい、気負わない表情が多くなった。
ある程度の精神的な余裕が確保できた、という事か。

戦闘においては視野の広さと戦術の幅の広さへと繋がって、
更に諦めの悪さ、かじりつく様なしぶとさが加わっていた。

油断も隙も全体的に少なくなり、それは手強さに変わり、

―――化けた、と表現しても良いだろうな。

端的に言えば、最近の模擬戦は負け越している。
腹立たしい。ベルカの騎士が何たるザマだ。


「強いのか?」
「弱いですよ。異常にしぶといですけど」
「そうか」


テスタロッサが変わったのはこの二人が要因なのかもしれないな、と口の中の触感を楽しみながら思う。

ふむ、一度戦ってみたいものだが。


「あー、でも、シグナムさんは終夜の戦い方を見ない方がいいかも知れませんね」
「何故だ?」
「いやー、終夜の戦い方はちょっと・・・殺されますね」


その言葉に少しムッとする。


「私はどのような戦い方だろうと強さを認められない程に狭量だった憶えはない。
 認められなくとも否定はしないさ。叩きのめして再起不能にはするだろうがな」
「拗ねたような顔しないで下さいな。武装隊員にとっちゃあ、それは死と同じ事でしょうよ」


苦笑いしながら遠い目をするティーダ。
そうして、自分の爪楊枝で焼きを口に含みながらアトラクションに目をやって、


「しかし、暇ですね」
「暇だな」
「中の様子は流石に見られませんし」
「だろうな」
「待ってるだけってのも時間無駄にしてますね」
「しているな」


迷うような言葉に適当に相槌を返す。

迷っている、という事は話したい話題はあるが切り出すのを躊躇っていて、
今はどうでもいい話題なのだろう。

承諾したとは言え、企みで連れてこられた恨みもある。
本題に入らないのなら本気で返すつもりも問いただす気も無い。


「・・・」
「・・・」


しばしの沈黙。
周りの騒がしさとは壁一つ置かれたかのように音が遠ざかる。


「その・・・」
「なんだ」


気まずげに言葉を紡ごうとするティーダを横目にタコを口に放り込む。

そして、何かを決したティーダは、


「シグナムさん、たこ焼きのタコだけを抉り出す妙技を披露してないで外側も食べてください。
 小麦粉とソースの味しかしない焼きを食べてると中身がなくて寂しい気分になるんで」
「む」


そうきたか。

あえて気にしてやった事ではないのだがそう言われてみればそうだ。
何故私はこんな、無駄な事をしている。

良くも悪くも普段とは違う、この賑やかな喧騒に心乱されているのだろうか。


「あの、シグナムさん」
「なんだ?」
「もしかして、その、こういった所に来るのは初めて、だったりします?」


躊躇いを含んだ質問の声。

そういうのは最初に聞くべき事ではないのかティーダ・ランスター。


「・・・ああ」
「えぇ!?シグナムさんほどの人が!?」
「お前の中の私がどういう位置づけなのかは知らないが、このような場所に来る機会はこれまでに一度もなかった」


色々とあったからな、と付け加える。

そう、色々あったのだ、私達には。と思う胸中、自嘲と暗い感情が混じった。

そんな私の雰囲気を感じ取ったのか、ティーダは馬鹿に明るい声で、


「じゃあ、あの、初めて遊園地に来て尾行だけってのもアレですし、
 その・・・今みたいな時間はやる事も無いですし・・・」


しどろもどろ、振り絞るように、


「俺達もアトラクション周ってみませんか?」


提案の言葉を紡いだ後、居心地が悪そうに気まずげな表情をする。

だが、


「私は元よりそのつもりだが?」
「へ?」


よほどに予想外だったのか、ポカンと口を半開きに間抜けな顔をしたティーダ。

そんな表情に対しこちらは笑みを浮かべ、ベンチから立ち上がり、入り口で入手したパンフレットを取り出す。

それとほぼ同時、少し離れたアトラクションから出てくる人影が見えた。


「あの二人も出てきたようだな」
「え?ああ、そうですね」


言葉を返すティーダはまだ何処か抜けた表情のままだ。


「どうしたティーダ?次のアトラクションには行かないのか」
「いや、その、イメージとの齟齬が予想外過ぎて、頭が微妙に置いてかれてます」


そんなティーダに対し愉快な気持ちがこみ上げ、クッと喉を鳴る。

ああ、初めて会った時からコイツはこんな感じだったな、と。
私が存在してきた膨大な時間の中、懐かしいと言うには新しすぎる過去に少しだけ浸る。

暗い感情は瞬く間に消え、何処とも知れない部分がむず痒い感覚がある。
知らない感覚で、しいて言えば悩みに近いが遥かに曖昧だ。

だが、いつもは嫌うあやふやな感覚は、決して不快ではない。


「ああ、自分でも驚くほどだ。このような未知に対する興奮は久しいからな。知らず混乱してるのかもしれん」


だが、


「なに、どうせ暇なのだ。この機会を楽しまなければ損だろう?」


そんな私にティーダは苦笑。


「シグナムさんがはしゃぐ様子は初めて見ましたが、割と可愛らしいですね」
「ふふふ・・・世辞として受け取っておこう。私も一応、女だからな」


おや、とティーダは肩透かしを食らったような顔。

柄にもなく、心が躍っているのは自覚している。


「からかおうとしても無駄だぞ?ティーダ」
「そのようで。まあ、一応本音だったわけですが」
「私に可愛らしいなどと言う言葉は似合わんさ」


前の二人にあわせ、こちらも並んでその後を追う。

周りは街の賑やかさでもなく戦いのモノでもない、穏やかながら華々しい、祭の繁華。

隣に歩く人物が、主や仲間でないのは少しばかり惜しい気もするが、


「・・・どうかしました?」
「朝と違い、随分と嬉しそうにあの二人を眺めているな?」
「チィッ・・・終夜の奴も気が効かん奴だ。手のひとつ位握ったらどうなんだ」
「フッ・・・」


ティーダのこれまでの経緯は大体知っている。

結局の所、妹だけではなく終夜二士の事も心配なのだろう。

バツが悪そうに取り繕うように悪態をつくティーダに愉快の感情と、
手の掛かるまだ幼い我が家の末っ子の事を思い出し、少しの共感。

主はやてや仲間に対する感情とはまた違う、
軽快ではあるがこそばゆい、ふわふわの感情が少しだけ大きさを増して。

このあやふやさはそう悪くもない、とそう自然と笑みが浮かんだ。











「さて、私もああは言ったが、今日はよくもまぁ連れ回してくれたな」
「いや、その、シグナムさんの意外な表情が見れるのが楽しかったもので」


昼飯時には少しだけ遅い時間帯。昼食を終え、食後の茶を口に含む。

午前の時間帯に回った多数のアトラクションを思い出し、心地良い満足感と少しの疲労。


「それはそうだろう。何しろ、今日初めて見聞きしたものがほとんどだ。
 この貴重な経験、何処かの誰かの思惑に乗った甲斐があったというもの」
「あはは・・・」


乾いた声で笑いながら目を逸らすティーダ。

それに、とコホンと咳払いして、


「あんな姿を見られて表情が変わらぬ程に鉄面皮だった憶えはないさ」
「ああ、いや、その、ホントにすいません・・・」
「・・・赤くなるな馬鹿者。アレはこちらの不注意。不可抗力の一言で済むだろう」
「いえ、ああいう場合は問答無用で男が悪い事になると思うのです、はい」


生真面目なのかそうでないのかティーダは赤面し小さくなっている。
こちらも今更に恥ずかしくなってきたのを誤魔化すように視線を逸らしつつもう一度、茶を口に含んだ。

この遊園地のマスコットキャラクター「サブとアニキ」を私達は捕獲した。
見つけた経緯や捕獲の経緯は・・・思い出すべきではないな。ただの恥だ。

ともかく、ここでの食事は無料となる。
今はそれだけでいいだろう。


「ところで、終夜二士達を追わなくていいのか?」


レストランの二階、窓際の席。
見下ろす景色の中に遠ざかっていく二人組みがいる。


「大丈夫です。ティア達は午後は多分、じゃれあい動物コーナーに行きますので」
「随分と落ち着いてるが、見張っていなくても良いのか?お前の繊細のハートとやらはどうした」


午前の取り乱した態度が嘘のように、のんびりとコーヒーの入ったカップを傾けるティーダ。


「大丈夫です。繊細なハートは午前中どこかに落としてきたみたいなので。・・・後で探しに行かなければ」
「常識も一緒に拾って来い」
「いやですねぇ、シグナムさん。常識は落としてませんよ・・・」
「持っているだけではダメだ、ちゃんと装備しなければな」
「・・・まさか、先手を打たれるとは」


主はやての思いつきに付き合って居れば嫌でも慣れるさ。


「お前の事だから終夜二士については何かしら確信でもあるのだろう?」
「ええ、まあ。信頼って言うより確定的な未来ですが」


冗談めかすように笑うティーダ。


「終夜は小動物と異性を横に並べて比べたら、迷い無く小動物に飛びつくような不健全な奴ですからね」 


言い、天井を見上げ、少し考えて、


「・・・おのれ終夜め、ティアをアウトオブ眼中とは何たる大馬鹿者!だが飛びついたら処刑だ!!」
「落ち着け馬鹿。デバイスとそれらをとっとと片付けろ」


テーブルにカートリッジを並べ、残数を確認する妹馬鹿。

飲み物の追加を運んできたウェイトレスは並べられたカートリッジや不審者にしか見えないティーダを見て、
期待を打ち砕かれたような落胆を含んだやや引きつった顔。

飲み物と伝票を置いそそくさと立ち去っていく。


「花より団子、か。少しばかり方向がおかしい気もするがお前の弟分なら納得できてしまうのが不思議だな」
「それは酷い。趣味は観察日記、特技は視姦のこのティーダ・ランスターの何処が変人ですか」
「変人と明言した覚えは無いがそういう所が、だ。やはりここで切って捨てておいた方が世の為になるやもしれん」


少しばかり真剣にそう考え、仕方の無い奴だ、と軽い溜息。
馬鹿な奴だ、とそうも思う。


「さて」


一言置いて、場を区切り、問題はないな、と視線を送る。

場の空気が変わったのが分かったのかティーダは軽い笑みの顔を引き締めた。


「こちらに戻る、と言うのは本当の話か」
「ええ。今度の執務官試験の後で戻るつもりですよ。
 合格すれば研修でアースラに行ってから、不合格だったらそのまま―――と言う予定です」
「そうか」


気掛かりなのは、


「終夜二士の事はどうするつもりだ?」


ティーダがあの武装隊に残っていた理由。
今日一日、見守っていた事からも分かるように、相当気にかけているはずだ、と。


「いえ、別にどうも」


至極あっさりと返答するティーダ。


「・・・何?」
「元々俺の自己満足であそこに居ただけですしね。
 俺が居なくても大丈夫なように、生き残れるようにある程度強くなった事確認できましたし」
「お前が居なくなって、それがただのハリボテだと分かったらどうする気だ」
「いやぁ、流石にそこまでの面倒は見切れませんね」


言いつつもその顔は穏やか。何かしらの確信はあるのだろう。


「それに、まだある程度までしか強くなってないですから、率直に言って弱いですよ、あいつ」
「・・・それならばまだお前の守りが必要なのでは無いのか」
「いえいえ。それだからこそ、俺が居ない方がいいんです」


おかしな事を言うティーダに眉が寄るのを感じる。


「アイツは今、迷ってるんです。そうやってウロウロしてるうちは強くなんてなれやしません」
「・・・迷う?一体何を・・・」


軽く笑いつつ、少し迷うような表情を浮かべるティーダ。



「自分が、一体誰であるのか、ですよ」



言葉には隠しようの無い罪悪感が篭もっていて。
隠れていた悲しさの色は、見つかっていないフリを続けていた。


「アイツはまだ、自分が誰であるかを決めてないですから。俺が居たら、邪魔になります」
「・・・そうか」


上条終夜はとある事故以来、記憶喪失のままだという。

それは、知識はあっても過去に培った「上条終夜」が消去されたという事と同意だろう。

「自分」は、誰かに縋って教えてもらう物ではなく、強制され決められる事でもなく、
自身で考え、形作っていかなければならない。

終夜二士がどんな形を作るであれ、解答であったハズの過去を失わせてしまったティーダにとっては辛い事だろう。


「あいつはいつも迷ってばかりですけど、決めた後は迷いませんから。迷わない馬鹿は強くなりますよ?」


少しの時間で、悲しみの色を見事に隠し、おどけるティーダ。


「それは今のアイツの事か?それとも、過去の事か?」
「今は、迷う事の方が多いですが・・・一応どちらも、ですね」
「そうか」


短く言葉を切って、少し冷めた茶を啜る。


「甘いと感じる事も多々あるがそう多くは言うまい。だが、一言だけ言わせてもらうのであれば」


ティーダと終夜二士の関係がどうなろうと、今の私にはまだ関係の無い事だ。

自分の知り得ない事柄に口を出すのは私の趣味ではない。
出したとしても安っぽいモノになるのは目に見えている。

だが―――



「過去に拘るなよ、ティーダ。過去に拘った所で私達は過去に出会えたりはしない」



そう、地にこぼれた水が再び盆に戻る事が無いように、
一度失ったモノを思い、追い続けてもそれが戻る事はありえない。

足りない、私達の仲間の顔が浮かび、チクリと胸を刺す痛み。
完全に失った訳ではない。けれど、もう一度出会える可能性は絶望的で。

ある意味では、私もティーダと同じ感覚を味わっている。

自分の知る痛みを、忠告する事くらいはしてもいいだろう。


「・・・痛い言葉ですね」


それでも、とティーダは、


「良い事であろうと悪い事だろうと自分の行動に納得がしたいんですよ、俺は」
「それならそれでいい。それも、お前らしさだからな」









三杯目の茶が空になった所で、ふと思い出す事。


「そういえば、お前の隊に高町なのはが教導に行く、と言う噂を聞いたが」
「ああ、らしいですね。噂って言うか既に確定事項らしいですけど」
「ついこの間、教導官になったばかりの高町が、何故?」
「うちの隊はミーハーが多いですから。彼女、有名人ですしね」


苦笑。


「なんか、うちの隊に教導隊とコネがある奴がいて、拝み倒してこぎつけたらしいですよ。
 うちの隊の奴らを高町教導官一人で教導させて経験を積ませるとかなんとか理由をつけてましたけど、
 実際は戦う魔法少女をこの目で見たいって奴が大半ですかね」
「なんだそれは・・・」


今日何度目かの呆れの感情にこめかみが重くなる。


「お前は早めにこちらに戻ったほうが良いのではないか?・・・ああ、もう手遅れか」
「あれ?何でそんな哀れなものを見る眼ですか」


哀れなものを見ているからだよティーダ。

拗ねたようにコーヒーを口にして、


「さて、しばらくは暇そうですし、午前と同じように回ります?」
「午前はあの二人について回ったおかげで行けない所もあった。そちらのほうを重点的に回ろう」
「了解です」


カップの残りを飲み干し、席を立つ。

伝票だけレジで渡し、レストランの外へと出た。

日は頂点から下り始める時間帯。
夢の国のにぎやかさは朝よりも増し、楽の感情が自然と浮かぶような暖かさがあった。


「なあ、ティーダ」


ゆるい速度で歩みながら言葉を飛ばす。
朝から、うすうすと考えていた事があった。


「別に無理はしなくても良かったんだぞ」
「何がですか?」
「私との用事の事だ。今日のような事情があったのなら断られても別に失礼とも思わんさ。
 私とお前は同じ組織の同僚でしかなく、肉親の用事を優先するのは当然のことだからな」


家族の大切さは、分かっているつもりだ。

今日の事は、まあ、やり方に問題はあるが、私との約束を守る事と
妹や終夜二士を気に掛ける事を両立する為に色々と手を尽くしたのだろう。

多少の無礼はあってもそのあたりは評価するべき事だ。
実際、私も今日は随分と楽しんでいるのだから。


「私は、まあ、忙しいからなかなか時間は取れんが、それでも今日以外は無理と言うわけでもなかった」


そこで、横に振り向くが、


「・・・何をしているティーダ」


地面に座り込んでのの字を書いているティーダ。


「ふふふー分かってました。分かってましたとも、俺はそういう扱いですさー」


哀愁すら感じる煤けた背中が理解不能だった。


「シグナムさんは・・・」
「ん?」


座り込んだ背中の向こう、小さな声で、


「今日、楽しかったですか・・・?」
「いいや」


ビクリ、と肩が震える。
ティーダが立ち上がり、こちらを振り向こうする。

だから、


「これからもっと楽しくなる予定だ」


笑みを含めた声で答えてやる。

今日はまだ、終わっていない。
過去形で表すにはまだ早すぎる。


「――――――」


驚いたような雰囲気のまま硬直したティーダ。

やがて、肩を落とし、脱力したようにため息を吐いて、


「いや、本当に今日は驚かされっぱなしですね」
「何、手を焼かされた仕返し、と言う奴だ。自業自得と諦めろ」


振り向いたティーダは笑みの顔。


「では、今日をより楽しくする為に行くとしましょう!あの空の彼方へ!!」
「どこまで行く気だ」


馬鹿のように馬鹿な声を上げる優しい馬鹿。
その背中を見ながら仕方のない奴だ、と息をつく。

緩やかな風は、穏やかに私の髪を撫でて、平和の喧騒を風に乗せて運んでいく。
いつもの家族の雰囲気とは違う、それでも暖かい空気。

再度、思う。


――――――ああ、こんな休日も悪くはない。




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