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No.25730の一覧
[0] 【完結・改訂完了】リリカルなのはSts異伝~子連れ武人活人劇~(×史上最強の弟子ケンイチ)[やみなべ](2013/07/16 20:55)
[1] BATTLE 0「翼は散りて」[やみなべ](2013/07/16 00:16)
[2] BATTLE 1「陸士108部隊」[やみなべ](2013/07/16 00:17)
[3] BATTLE 2「新たな家族」[やみなべ](2013/07/16 00:17)
[4] BATTLE 3「昼の顔、夜の顔」[やみなべ](2013/07/16 00:18)
[5] BATTLE 4「星を継ぐ者達」 [やみなべ](2013/07/16 00:18)
[6] BATTLE 5「不協和音」 [やみなべ](2013/07/16 00:19)
[7] BATTLE 6「雛鳥の想い」 [やみなべ](2013/07/16 00:19)
[8] BATTLE 7「一人多国籍軍、起つ」[やみなべ](2013/07/16 00:20)
[9] BATTLE 8「断崖への一歩」[やみなべ](2013/07/16 00:20)
[10] BATTLE 9「地獄巡り 入門編」[やみなべ](2013/07/16 00:21)
[11] BATTLE 10「古巣への帰還」 [やみなべ](2013/07/16 00:21)
[12] BATTLE 11「旅立ち」[やみなべ](2013/07/16 00:22)
[13] BATTLE 12「地獄巡り 内弟子編」[やみなべ](2013/07/16 00:22)
[14] BATTLE 13「誕生 史上最強の○○」[やみなべ](2013/07/16 00:24)
[15] BATTLE 14「機動六課」[やみなべ](2013/07/16 00:25)
[16] BATTLE 15「エースの疑念」[やみなべ](2013/07/16 00:26)
[17] BATTLE 16「5年越しの再会」[やみなべ](2013/07/16 20:55)
[18] BATTLE 17「それぞれの事情」[やみなべ](2013/07/16 00:27)
[19] BATTLE 18「勢揃い」[やみなべ](2013/07/16 20:54)
[20] BATTLE 19「守護の拳」[やみなべ](2013/07/16 00:28)
[21] BATTLE 20「機動六課の穏やかな一日」[やみなべ](2013/07/16 00:29)
[22] BATTLE 21「初陣」[やみなべ](2013/07/16 20:53)
[23] BATTLE 22「エンブレム」[やみなべ](2013/07/16 20:52)
[24] BATTLE 23「武の世界」[やみなべ](2013/07/16 20:52)
[25] BATTLE 24「帰郷」[やみなべ](2013/07/16 00:34)
[26] BATTLE 25「前夜」[やみなべ](2013/07/16 00:34)
[27] BATTLE 26「天賦と凡庸」[やみなべ](2013/07/16 20:51)
[28] BATTLE 27「友」[やみなべ](2013/07/16 00:38)
[29] BATTLE 28「無拍子」[やみなべ](2013/07/16 00:38)
[30] BATTLE 29「悪魔、降臨す」[やみなべ](2013/07/17 21:15)
[31] BATTLE 30「羽化の時」[やみなべ](2013/07/16 00:39)
[32] BATTLE 31「嵐の後で」[やみなべ](2013/07/16 00:40)
[33] BATTLE 32「地獄巡り~道連れ編~」[やみなべ](2013/07/16 00:41)
[34] BATTLE 33「迷い子」[やみなべ](2013/07/16 20:50)
[35] BATTLE 34「I・S」[やみなべ](2013/07/16 20:50)
[36] リクエスト企画パート1「vivid編 第一話(予定)」[やみなべ](2013/07/16 00:43)
[37] BATTLE 35「ファースト・コンタクト」[やみなべ](2013/07/16 00:43)
[38] BATTLE 36「お子様散策記」[やみなべ](2013/07/16 00:44)
[39] BATTLE 37「強い奴らに会いに行け!」[やみなべ](2013/08/01 03:45)
[40] BATTLE 38「祭囃子」[やみなべ](2013/07/16 00:45)
[41] BATTLE 39「機動六課防衛戦」[やみなべ](2013/07/16 00:45)
[42] BATTLE 40「羽撃く翼」[やみなべ](2013/07/16 00:46)
[43] BATTLE 41「地獄巡り~組手編~」[やみなべ](2013/07/16 00:46)
[44] BATTLE 42「闘いの流儀」[やみなべ](2013/07/16 00:47)
[45] BATTLE 43「無限の欲望」[やみなべ](2013/07/16 00:47)
[46] BATTLE 44「奥の手」[やみなべ](2013/07/16 00:48)
[47] BATTLE 45「絆」[やみなべ](2013/07/16 00:48)
[48] BATTLE 46「受け継がれた拳」[やみなべ](2013/07/16 00:49)
[49] BATTLE 47「武人」[やみなべ](2013/07/16 20:49)
[50] BATTLE FINAL「それぞれの道へ」[やみなべ](2013/07/16 00:50)
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[25730] BATTLE 39「機動六課防衛戦」
Name: やみなべ◆33f06a11 ID:1963cf14 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/07/16 00:45

時間をやや遡り、機動六課管制室。
有事に備え詰めていたロングアーチの面々だが、今や状況把握と本部との通信回復のためにここもまた一つの戦場と化していた。
錯綜する情報、時間を経る毎に強度を増す通信妨害。
映し出される画面には、今なお多くのガジェットが本部ビルやその周辺を囲んでいる。
しかしそこで、待機部隊の指揮を任されたグリフィスが呟いた。

「妙だ……」
「妙って…なにが?」

グリフィスの呟きに、この中ではグリフィスに次ぐ地位のシャーリーが聞き返す。

「ガジェットの動きが緩慢過ぎる。
奇襲である以上ことは迅速に進めるべきなのに、やっているのは囲んで閉じ込める事だけ。
これじゃ、周辺部隊が集まってきて包囲が解かれるのも時間の問題だ」

如何にガジェットのAMFが魔導師の天敵とはいえ、対抗手段がない訳ではない。
六課の様に特別意識して訓練をしていなくても、AMFの範囲外から物質加速などで瓦礫などを射出してやれば、それでもガジェットを破壊することができる。
実際、当初は混乱し右往左往していた本部の警備達や周辺部隊も散発的な抵抗を始めている。
これが一つのまとまった反撃に発展するまで、おそらくそう時間はかからないだろう。

「言われてみれば……」
「確かに、地上本部を手玉にとった事実だけでも兵器の威力証明には充分かもしれないけど、本当にそれだけか? たったそれだけの為にこんなリスクを?
 いや、そもそもやろうと思えばそれ以上のことだってできた筈なのに……」

事実、襲撃直後の最も混乱したタイミングなら、今以上の成果だって望めた筈だ。
なのにそれをしない。目的が威力証明だとしても、ここで手を止める理由がない。
やっているのはあくまでも現状維持。ただただ地上本部を封鎖し、抵抗を抑えるのに必要なだけの攻撃しかしない。初期に放たれた砲撃も散発的で、破壊されたガジェットの補充もまばら。
これではまるで……

「時間稼ぎ? だとしたら、なんの為に……」

グリフィスが何かのとっかかりに気付き、そこから相手の思惑を予想すべく考察を始める。
だがそれは、あまりにも遅すぎた。

突如として管制室内を染める赤い照明、鳴り響くアラート。
その二つが、危機がすぐ目の前まで迫っていた事を突きつける。

「っ! そんな、高エネルギー反応2体! 高速で飛来!」
「他、ガジェットの反応多数! 20、50…まだ増えて行きます!」
「くっ、そう言う事か……待機部隊迎撃用意! 近隣部隊に応援要請!」
「はい!」
「総員、最大警戒態勢!」

指示を飛ばすと同時に隊舎内に放送を入れ、バックヤードスタッフを避難させる。
ここはもう後方ではない―――――――――最前線だ。



BATTLE 39「機動六課防衛戦」



避難指示が出てから数分後。迅速な行動の結果、バックヤードスタッフの避難はほぼ完了。
最後まで付き添ったザフィーラと兼一、そしてシャマルは自らも迎撃に出るべく踵を返す。
だがそこで、ザフィーラの蒼い毛並みを何かが引きとめた。

「ん?」
「ザフィーラ……」
「案ずるな。お前達には、我らが指一本触れさせはせん」

アイナの腕の中で、不安げに見上げて来るヴィヴィオに軽く顔を擦りつける。
その横では、兼一もまた一人息子の頭に手をやっていた。

「じゃ、僕も行ってくるけど……いいかい? みんなの言う事をよく聞いて待ってるんだよ」
「……うん」
「そんな顔しなくても、ちゃんと帰ってくるよ。まだまだ教えなくちゃいけない事が、たくさんあるからね」
「そうよ、翔。大丈夫、私がちゃんと二人をサポートするから」

翔の頭を撫でる兼一に続き、シャマルが軽くウィンクしながら胸を張る。
少しは功を奏したのか、二人の表情から僅かだが緊張の色が抜けた。
それを確認した兼一は、二人を抱くアイナに後を託す。

「アイナさん、翔とヴィヴィオちゃんをお願いします」
「ええ、気をつけて」

その言葉を背に、今度こそ一歩を踏み出す三人。
ザフィーラは曲がり角を曲がり、皆の姿が見えなくなった所で通信回線を開く。

「グリフィス、ザフィーラだ。避難誘導は完了した、我らも打って出る」
「はい、お願いします」

待機部隊と言っても、六課の主力の大半は地上本部の警備に回ってしまっている。
この三人を除けば、めぼしい戦力はないも同然。
つまり、六課防衛はこの三人に掛かっていると言っていいだろう。

「それで、配置はどうする?」
「……隊舎正面で迎撃するしかないでしょうね。
 あまり前に出過ぎると、今度は私達を迂回されてしまうし……」

あちらとて、こちらにほとんど戦力が残っていない事は承知しているだろう。
ならば当然、三人が前に出過ぎれば敢えて戦おうとせず回り込んで直接隊舎を狙う恐れがある。
そのため、六課側が取れる戦術は酷く限られた物だ。
その限られた自由の中で、より効率的な方法は何か。
守護騎士たちの中にあって参謀役を務めるシャマルが、その頭脳を高速で回転させる。

「そうなると、二人はAMFをモロに受けちゃいますよね?」
「已むを得んだろう。確かに苦しいが、やるしかあるまい」
「いえ……一つ策があります」
「「……」」
「兼一さん、かなり無茶なお願いになりますけど……」
「大丈夫ですよ。大概の無茶は、もう師匠と新島にやり尽くされましたから」

申し訳なさそうなシャマルに対し、兼一は「大抵の無茶はもう経験済みだ」と肩を竦める。
その身体が僅かに震えているが、この場では「武者震い」という事にしてほしい。
とそこへ、先ほど通信を切った筈のグリフィスから再度通信が入る。

「みなさん、少しよろしいでしょうか?」
「「「?」」」
「敵の数が概ね確定しました。ガジェットの総数、約500。戦闘機人が2体。……今の所、達人と思しき人影などは観測されていません。ですが、あまり常識の通用する相手ではありませんから、なんとも……」

イーサンが多少なりともあちらに組みしていた以上、当然警戒すべき存在に達人も含まれる。
いるかどうかは定かではないが、いると思って対処するべきだろう。

「500……多いわね」

対処しきれないとは言わない。だが、守らなければならない物の大きさなどを考えると…苦しい。
ザフィーラとシャマルの場合、さらにガジェットのAMFのこともある。
正直、500機のガジェットに囲まれれば、発生するAMFの濃度だけでも非常に危険だ。
ましてやそこに、戦闘機人も絡んでくるとなると……。

「他の部隊からの応援はどうなのだ?」
「難しいでしょう。どこも、今発生している事態への対処に終われていますし、余剰戦力は本部の支援に出払った後でしょうから……」

おそらく、それを狙った上での包囲と時間稼ぎだったのだろう。
新人達も本部ビル内部に入ってからはほとんど連絡が取れず、隊長達は完全に音信不通。救援は望めない。

「状況は、良いとは言い難いわね……」
「はい、その上で僕から提案があるのですが、よろしいでしょうか?」
「聞こう」

最も六課が置かれている現状を把握しているであろうグリフィスが語る案。
それは今よりも、これから先を見据えた上での提案だった。

「如何でしょう。よろしければ、みなさんの御意見を伺いたいのですが……」

尋ねるグリフィスの声には、抑えきれない苦渋が滲んでいる。
自分が言った事は、三人に……いや、三人を含めた何人かに「犠牲になれ」と言っている様な物だ。
指揮官は時に、部下に対し「死ね」と命じるのも役目とはいえ……まだ若いグリフィスには、割り切れるものではない。
だがそれでも、三人はその提案を是とした。

「私は構わん」
「ええ、僕も」
「となると、やっぱりさっきの策で行くしかありませんね。
 すみません、兼一さん。あなたに押し付けるような形になってしまって……」
「この状況じゃ大変なのはみんな一緒ですから、気にしないでください。
 むしろ僕の働き次第なわけですし、みんなの命を預かるのも同然じゃないですか。
 そっちの方がプレッシャーですよ」

しかし、そう言う時にこそ真の勇気と力を発揮するのが白浜兼一という男でもある。
今回ばかりは、「スロースターター」などとは言っていられない。
迅速に、初手から全力を出さねばならないのだから。

「でも、兼一さんには翔だっているんですから、危なくなったら……」
「それこそみんな同じですよ。みんな帰りを待っている人がいるんです。なら、全員を生きて帰すのがここに残った僕の役目ですから…って、ホントは僕達が帰りを待つ側なんですけどね」

これでは立場が逆だと、兼一は困ったように頬をかく。
とそこへ、三人に代わりにバックヤード陣の護衛を任されたヴァイスが、汎用デバイスを手に駆けて来る。

「兼一!」
「ヴァイス君! ごめん、みんなをお願い!」
「おう、おめぇもしっかりな! ガキ共のこと泣かすんじゃねぇぞ」
「うん」

握り拳で軽く兼一の胸を叩くと、今度はザフィーラとシャマルに向き直る。

「旦那達も、気ぃつけて」
「ああ、お前もな」
「ヴァイス君も、あんまり無茶しちゃダメよ」
「ははは…知ってるでしょ。俺の場合、したくてもできねぇんですよ」

むしろヴァイスの場合、こうして戦闘に参加する方が無茶なのだ。
彼は以前、とある部隊でアウトレンジからの狙撃に関してはエース級の腕前とまで称されたことがある。
しかしある事件を機に、彼は銃を置いた。
それ以来、本来なら彼はもう二度と武器を手にする事はない筈だったのだから。
そんな彼にとって、再度武器を手に取る。それは、何よりも心を擦り減らす無茶なのだ。

「それじゃ、また今度!」

いつもと変わらぬ挨拶を残し、ヴァイスは通路の奥へと進んでいく。

「では……」
「はい、僕達も行きましょう」
「ええ」

三人も、それぞれ再度向かうべき戦場へ向けて走り出す。
地上本部に続き、機動六課もまた戦火の波に晒されようとしていた。



  *  *  *  *  *



場面は移って、地上本部地下通路。
連鎖的に巻き起こり反響する爆音が聴覚を麻痺させ、眩い閃光と爆炎が視覚を潰す。
そんな、碌に五感さえも働かなくなりつつある戦場を、ギンガは縦横無尽に疾走する。

「はぁぁぁあぁぁ!」
「シッ!」

眼帯をつけた少女…チンクは迫りくるギンガに向けて、右手の指の間に挟んだナイフを放つ。
ギンガは即座に軌道を予測し、ウィングロードで大きくS字を描くように回避する。

本来、ギンガならば紙一重の所で回避することも不可能ではない。
回避の動作を最小に抑えることができれば、それだけ効率も良い。
だがこの敵は、それを許してくれるような相手ではない。

「させん!」

チンクが右腕を払うと、それに従いナイフ達が一斉に軌道を変えてギンガに向けて殺到する。
チンクのIS「ランブルデトネイター」は、何も金属を爆発物に変えるだけのものではない。
爆発のタイミングはチンクの任意で決められるし、中距離での遠隔操作も可能。

故に回避した瞬間の爆破も可能であり、そうなれば最小限の回避では余波の餌食となる。
それがわかっているからこそ、ギンガも大きく回避したのだが……それでもなおこれだ。
次々に襲い掛かるナイフから逃げるように速度を上げるが、ナイフ達は猟犬の如き執拗さでギンガを追いたてる。

「ハッ!」

そこへ更に、左手に構えていたナイフが追加された。
背後に続き、正面からもナイフが迫る。

曲がるにせよ止まるにせよ、僅かでも速度を緩めれば背後のナイフの餌食。
しかしこのまま進んでも、それはそれで正面から迫るナイフに晒される。
『前門の虎、後門の狼』そのままな状況で、ギンガが下した決断は…………強行突破だった。

「ブリッツキャリバー!」
《All right》

愛機はギンガの想いを汲み、さらにローラーの回転を上げる。
ナイフが目前にまで迫った所で、ギンガはウィングロードを蹴って跳躍。
両腕で頭を守り、膝を曲げる事で身体を可能な限り小さくまとめ、正面にシールドを展開。
そのまま一気にナイフの群れの中へ突っ込んだところで……爆発が生じた。

(自棄になったか? ……いや、そんな相手ではない!)

自身もまた爆風に煽られながら、なおもチンクは気を緩めない。
確かにギンガは爆発のど真ん中に自ら突っ込んだ。
だがその代わりに、背後から迫るナイフは爆風により四散。
結果的に、最悪のシナリオである前後からの同時爆破という事態を回避して見せたのだ。
そんな強かな相手が、これで終わるとは思えない。

そして、そんなチンクの予想は正しかった。
爆煙を掻き分け、ギンガが着地すると同時にローラーと床の間に眩い火花が生じる。

「ぶはぁ!」

息を止め、煙や熱気を吸い込まないようにしていたのだろう。
ギンガは新鮮な酸素を求め、大きく口を開けて肺の中の空気を入れ替えた。

その姿は先ほどまでよりなお一層みすぼらしく、バリアジャケットは至る所が焦げている。
また長く艶やかな髪は爆風に煽られた事で乱れ、端麗な顔は煤で汚れ所々に火傷の痕が見て取れた。
しかしそれでもギンガの戦意には一片の揺らぎもない。
彼女はチンクの姿を再度発見すると、そのまま一息に間合いを詰める。

だがそこへ、再度スローイングナイフ「スティンガー」が放たれた。
さすがにそう何度も爆発の真っ只中へのダイブはしたくないのか、ギンガはリボルバーナックルを装着した左腕を構える。

「リボルバー……シュート!」

カートリッジを一発消費し、ナックルスピナーの回転により生じた衝撃波が打ち出される。
それ自体は小ぶりなナイフに過ぎないスティンガーは煽られ、チンクへと続く道が開かれた。
チンクは急ぎスティンガーを操作して穴を埋めようとするが、それよりギンガの方が早い。

ブリッツキャリバーを加速させ、一息の内にスティンガーの隙間を駆け抜ける。
そしてようやく、ギンガはチンクを間合いに捉えることに成功した。

「チィッ!」

ギンガほどの機動力のないチンクでは、今更飛び退いた所で再度間合いを取ることは難しい。
かといって、先ほどの様に至近距離で爆発させようにも…最早ナイフを投じてコートを翻す時間はない。
已む無く両手にナイフを構え、チンクは迎撃態勢に入る。

「はぁっ!」
「おお!」

拳とナイフ。両者がぶつかり合う度に激しい火花が散る。
ギンガはチンクにナイフを投げる隙を与えないよう大振りを避け、手数中心に息もつかせぬ連撃。
それに対しチンクも、順手に構えたナイフで丁寧にそれらを捌いて行く。

体格差、パワーの差を考えればそれも当然。
まともに受け止めれば、それこそ致命の隙を生むことになるだろう。
それがわかっているからこそ、チンクは決して真正面から受ける事をしないのだ。

しかしそれは、ここに来て戦況は覆ったことを意味する。
それまで攻め手に回っていたチンクが、接近戦になると同時に守りに徹しているのだ。
無理もないだろう。決して苦手としている訳ではないにしても、チンクの専門は接近戦ではない。
それに対し、ギンガの専門は接近戦。どちらに利があるかは、言うまでもない。

「ぐっ、ぬぅ……」
(見事なナイフ捌き……この人、接近戦でも強い)

さすがに押され気味になってはいるが、それでも中々有効打を入れさせない相手の技量に舌を巻く。
むしろ、一瞬でも隙を見せればあのナイフは蛇の様に滑り込んでくるだろう。

こうして攻め込んでいる今も、手首や前腕の付け根、肘の内側を狙っているのが分かる。
隙を見せれば、チンクは確実にそれらにナイフを滑り込ませてくるだろう。
そこで腱や太い血管などを切られれば、今の状況は再度ひっくり返る。
それどころか、直接正中線への致命傷を狙ってくる可能性も拭えない。
それだけの鋭い眼光が、鉄壁の防御の隙間から垣間見える。
しかも、厄介なことがもう一つ。

「でやっ!」
「くぅ……」
(やっぱりこの装備、貫手も拳も通さないか。
良いのは何発か入れてる筈なのに、まるで手応えがないなんて……)

どのような構造になっているかは定かではないが、少なからず有効打は入っている筈。
にもかかわらず、相手は少し顔を歪めるだけで動きが鈍る様子もない。
これでは、いくらやっても意味がないのではないか。
そんな不安が、徐々にギンガの胸の内で湧き上がってくる。

「どうした、もしや不安なのではないか?
 このまま私を倒しきることができず、また振り出しに戻ってしまうのではないかと」
「……っ!」

図星を突かれ、僅かにギンガの心が揺らぐ。
その隙を逃さず、チンクのナイフがギンガの右肘の内側を斬り付けた。

「つっ!?」

幸い踏み込みが浅く、大きなダメージにはなっていない。
バリアジャケットを裂き、内側に隠された肌から僅かに血が滴っている程度。
しかしそれが、かえってギンガの頭に冷や水をかけることになる。

(落ち着いて、焦っているのは相手も同じ。そうでなければ、この程度で済んでいる筈がない)

自分自身に言い聞かせるように、手を止めることなく何度も何度も反芻する。
この考えが正しいかどうか、実の所ギンガにも自信がある訳ではない。
もしかしたら違うのかもしれないが、そう考える事で落ち着きを取り戻そうとしている。

ギンガが焦りを押さえ、心を落ち着けるまでの僅かな時間。
二人の力は拮抗し、何閃かの斬撃がギンガの身体を撫でていく。
その度に赤い血の線が刻まれたが、ギンガは努めてそれらを思考から締め出し目の前の敵に集中する。
そして、なんとか落ち着きを取り戻した所で……ギンガは手を変えた。

(掌打? それとも手刀か?
 同じ事だ。それではシェルコートの守りを突破する事は……)

滑り込ませるようにして右手の側面を突き出し、相手の体に密着させる。
だがそれだけで、これと言って何も起こらない。
そのあまりの弱々しさに、チンクはここが好機と右手首を断ちに いく。
しかし、それよりわずかに先んじる形で、ギンガはその場で強く踏み込み掌を押し出す。

「フンッ!」
「がはっ!?」

あまりの衝撃にチンクの体が僅かに後ろにたたらを踏み、その口からは大量の空気が吐き出された。
何が起こったか理解できないチンクだったが、そこへ更に追撃が掛かる。

後ろに下がったチンクに向け、間合いを詰めると突き上げと膝蹴りを同時に行う「迎門鉄臂(げいもんてっぴ)」。
これによりチンクの体が浮き上がり、眼前に浮かぶ胴体目掛けて堅く握りこんだ左の正拳を叩きこむ。

「せや!」

必倒を着した一撃により、チンクの体は大きく後方へと飛ばされる。
だが、渾身の一撃を入れたギンガの手に残った手応えは満足のいくものではなかった。
それどころか、ギンガは生じた痛みに眉を歪める。

(凄い人。あの状況、あのタイミングで防ぐだけじゃなくて反撃までしてくるなんて……)

先の一撃、入るには入ったがチンクは両腕を挟みこむ事で防御していた。
おそらく、あれでは戦闘不能には至らないだろう。
さらに視線を落とすと、ギンガの左太股に一振りのスティンガーが突き刺さっていた。

ギンガはとりあえず刺さったナイフを引き抜き、放り捨てる。
それなりに深く刺さっていたようで、脚からの出血と痛みは決して軽視できるものではない。

また厄介なことに、ギンガは左利き。それはなにも腕だけではなく脚にも言えること。
これでは、先ほどまでの様な思い切った踏み込みは難しくなる。
ちゃんとした治療をしようにも、状況がそれを許してはくれないだろう。
なにしろ視線の先では、チンクがスティンガーを滞空させて立ち上がってきた所だ。

「貴様、どうやってシェルコートを……」
「中国拳法とかにはね、鎧を着た相手にダメージを与える技って言うのがあるの。
 シールドやバリアだと対象との間に隙間があって効果がないけど、あなたのそれは身体に押し付けてやれば密着する。だから使えた技よ」

『浸透剄』。その名の通り、身体の表面ではなく内部、それもより奥深くへとダメージを刻む技だ。
シェルコートの上から攻撃したのではダメージが薄い。そこでギンガは、シェルコートの上からその先へダメージを送り込む事でこれを攻略したのだ。

「なるほど、武の世界は深淵という事か……だが、理解できんな。なぜ、ISを使わない」
「……」

チンクからの糾弾にも似た問いに、ギンガの肩が僅かに震える。

「貴様のISがどんなものかは私も知らんが…それを使えば、今少し戦いやすくなる筈だ。
 なのに、何故使わない。これは試合ではないのだぞ。
まさか使わなければ、否定し続ければ……それが現実に、貴様達が人間になれるとでも思っているのではあるまいな。タイプゼロ・ファースト、我らと同じ戦闘機人であるお前が」

タイプゼロ。それは、チンク達ナンバーズの元となった実験体の名称。
製作にはスカエリッティの技術が使用されているが、誰がどういった経緯で製作したのかは不明。
それはスカリエッティ側も同様で、彼らですらその詳細はわからない。
わかっているのは実験体が二体いること、両者は同じ遺伝子を用い生みだされたという事、二名はある事件を機に救出され検査の結果オリジナルであることが判明した女性の下に引き取られた事。
そしてその二人は以後、「ギンガ」と「スバル」という名を与えられて生きてきた事だけ。

「貴様もセカンドも、我らと同じ戦闘機人だ。どれほど否定した所で……」
「そうね、現実は変わらない。私もスバルも、一生この身体と付き合っていかなければならない以上、それはどうしようもないんでしょうね」

ギンガとて、言われなくてもわかっている。
否定できるのなら否定したいが、それでも揺るがぬ現実として彼女は戦闘機人。
生命操作技術によって生み出され、体内に無数の機械を埋め込み、戦う為に造られた兵器。
それは確かに事実であり、変えようのない真実でもある。

「我らと来い。お前達もまたドクターの技術によって生み出されたのなら、ドクターは親同然ではないか。大人しく付いてくれば、悪い様にはしないことを約束しよう」
「確かに、スカリエッティは戦闘機人の生みの親。そして私も、あなた達と同じ戦闘機人」
「ならば……」
「だけど私は…人間よ」

手を差し伸べるチンクに、ギンガはどこか気の抜けた表情で目を閉じながら言い切る。

「戦闘機人であることは否定しないわ。でもね、そうであると同時に私は人間よ。ギンガ・ナカジマという、クイント・ナカジマとゲンヤ・ナカジマの娘で、スバル・ナカジマの姉。そして、『一人多国籍軍』白浜兼一の一番弟子。それもまた、覆しようのない現実なんだから」
「……」
「別にね、私は自分の生まれを否定する為に使わない訳じゃないの。例えば、こんな風に」

言うと同時にギンガが瞳を開くと、そこには普段の翠の瞳ではなく金色の瞳。
また、足元にはベルカ式魔法陣とは違う…藍紫色のテンプレートが出現する。
それはまさしく、彼女が戦闘機人であることの何にも勝る証明だ。

「スバルはまだ踏ん切りがつかないみたいだけど、私はこのエネルギーを使うのだって、実を言うともうそれほど抵抗はないの。だって、折角あるんだし……使わないのも勿体ないでしょ?
 この力を使わなくても私が戦闘機人であることが変わらない様に……使ったとしても、私が人として生きてきた今までがなくなる訳じゃないんだから」
「ならば、なぜISを使わない!」
「そっちはもっと簡単な話。単に私が……使わないと決めただけよ。活人と同様、私がそうすると決めたから使わないだけ。ISは確かに強力だけど、その分頼れば心に隙が生まれるから」

今、ギンガが頼みとするのは今日まで培ってきた心技体。
彼女にとって、ISという力は強力であるが故にそれらを曇らせる。
だからこそ、今はまだこの力を使わないと戒めた。
いずれ解禁するのか、それともこの先も使わないのかは分からない。
それでも今はまだ……。

「それが、お前の信念か」
「ええ、それが私の信念よ。まさか、人の闘いの筋の通し方に口出しするなんて、野暮なことはしないでしょ?」
「…………一つ聞こう。お前は、戦闘機人でも人に成れると思うのか?」
「当たり前よ。あなた達も望めば、きっと……」

顔を伏せたチンクからの問いに、ギンガは確信を持って答える。
確かに、それまでには多くの障害があるだろう。
だがそれでも、必ず出来ると彼女は信じている。
人として生きられるようにと育ててくれた両親がいる。人として接してくれる友人や仲間がいる。
自分達に出来たのだ。なら、他の誰かにもできないという事はない。

「魅力的だな、それは……機会があるなら、妹達にも言ってやってくれ。
 ただしそれも、お前達が勝った後の話だが」
「あなたは……」
「「チンク姉!」」
「来たか。すまんが、ここからは少々卑怯な手を使わせてもらうぞ」

ノーヴェとウェンディが加勢に入り、チンクと共にギンガを包囲する様にバラける。

「ISを使わないのが信念というなら好きにしろ。
 だが、それで我らが手を抜くとは思わないことだ」
(不味いわね。さすがに三対一となると……)

今まででも、チンク一人と互角だったのだ。
更に二人も増えては、さすがにギンガでも持ち堪えられるだろうか。
ただ、撤退しようにも逃げ道は塞がれている。
ギンガには最早、「逃げる」という選択肢すら許されてはいない。

(まぁ、しょうがない。戦闘機人三人を引きつけていると思えば、他への負担も軽くなるって事だし。
 スバル達が加勢に来てくれることを期待して……)

現状、ギンガにできる事はとにかく持ち堪えること。
できるかできないかではなく、それ以外に活路がない。
幸い、打たれ強さには少しばかり自信もある。

「なんとか、耐えきってみせようじゃないの!」

妹達にカッコ悪い所は見せられない。
気を入れ直し、ギンガは『生き残るため』の闘いに身を投じる。



  *  *  *  *  *



時を同じくして、機動六課。
銀色の装甲であるガジェットも、500を超えるとなると遠目には最早黒い津波に等しい。
隊舎前に陣取ったシャマルとザフィーラは、刻一刻と濃度を上げるAMFに顔を歪めていた。

「やはり、かなりの濃度になりそうだな」
「ええ。多分、あれ全部に囲まれたら魔法はほとんど使えないでしょうね」

AMFが濃くなればなるほど、魔法のパフォーマンスは下がっていく。
二人の力量を持ってすれば、それでもガジェット程度ならなんとでもなるだろう。

問題なのは、同時に迫ってきている戦闘機人。
アレを相手にするには、さすがにそこまで抑えられては目が薄いと言わざるを得ない。

「そう言う事だ。頼めるか、白浜」
「が、頑張ります」

通信越しに、なんとも頼りにならない返事が返ってきた。
どうやらあちらも配置についたようだが……この声を聞くと本当に大丈夫だろうかと不安になる。
今頃、通信の向こうではガタガタブルブルと震えていてもおかしくない声だ。

「兼一さん、ガジェットの先頭が作戦開始予定ラインを越えます」
「う、うん! じゃ、お先に行ってきます!」

と同時に、遠方に見えるガジェットの波に飛沫が混ざる。
良く見ればそれは、宙を舞うガジェットであることが分かるだろう。

シャマルが立てた策というのは、それほど奇をてらったものではない。
ガジェットの数が多ければ多い程、シャマルとザフィーラのコンディションは悪くなる。
そうなれば必然、六課前で防衛ラインを敷いても高い効果は望めないだろう。
より確実に六課を守るのなら、少しでも二人をフルパフォーマンスに近い状態に持って行けるようにせねばならない。

その為にはどうすればいいか。
答えは一つ。とにかく、何でもいいからガジェットの数を削ること。それも、六課に到達する前に。
そこで白羽の矢が立ったのが兼一だ。
彼は六課で唯一、AMFなど気にすることなく戦闘能力を振るう事ができる人材。
その兼一を文字通りガジェットの中に突っ込ませ、徹底的に暴れさせる。
そうすることでガジェットの数を削り、AMFの濃度を下げようという目論見だ。

普通に考えれば、敵陣の真っ只中に一人特攻させるなど正気の沙汰ではない。
常識的に言えば、これは捨て駒も同然の扱いだ。
だが六課の面々は知っている。アリが500程度群がった所で、ゾウは倒せない。
そもそも、白浜兼一という一人を一度に攻撃できる数に限度がある以上、彼が一度に相手取らねばならない数はその限界からは程遠い。だからこそ実現可能な無茶な策。

兼一が暴れれば暴れるほど、六課防衛ラインの能力は向上していく。
さらに、兼一が暴れることにより敵に混乱が生じ、陣形が崩れてくれればなお良し。

(本音を言えば、兼一さんにここで戦ってほしかったんだけど……)

彼方でガジェット相手に孤軍奮闘しているであろう兼一を心配しながら、シャマルはもどかしい思いに駆られる。
本来、兼一を特攻させるのは次善の策。
最善は三人が一致団結し、六課前で迎え撃つ形だ。
そうすればそれぞれにかかる負担は分散されるし、いざとなればフォローもし合える。

だが、それは選択できなかった。
500ものガジェットに囲まれてしまえば、魔法を大幅に封じられた二人は兼一にとって足手纏いになりかねない。そうなれば、それこそ兼一が一人で全てを背負い込むことになる。
兼一の闘いやすさを想うのなら、彼は一人で闘った方が楽なのだ。

戦闘機人にしても、兼一がどこにいたところで真っ向から戦おうとはすまい。
あちらの目的が兼一の拿捕ないし撃破でもない限り、確実に兼一以外を攻撃する。
彼の性格上、その間に敵を倒すなどできる筈もなし。間違いなく、守るために身を呈す。
後は簡単だ。兼一一人がどんどん傷つき、いつかは倒れる。
そして、ガジェットに囲まれた残された二人ではいずれ六課を守りきれなくなるだろう。
それがわかっていたからこそ、シャマルはこの案を棄却したのだ。

「案ずるな。奴は、そう簡単に死ぬような男ではない」
「そうね。わかってはいるんだけど……」
(我らは所詮プログラムに過ぎん。だが作り物だとしても……心がある。
 ならばお前もまた、一人の女となりうるという事か……)

昔から彼女は優しかったが、同時に参謀役としての冷徹さ、冷酷さを併せ持っていた。
それが近年、多くの優しい人達との交流で薄れてきたように思う。
あるいはこれが本来の彼女の人格で、昔はそれを抑え込んでいただけなのかもしれない。
守護騎士プログラムとして考えれば由々しき事態だが、ザフィーラはそれでいいと思う。
なぜならそれこそが、彼らの主の望みなのだから。

「(守ってみせるさ。いつか、真にお前を守る男が現れるその時まで……!)
…………………来るぞ!」

ザフィーラが天を仰ぐと、そこには二刀を構えたロングヘアの少女と、中性的なショートヘアの少女。
それから幾らか遅れて、まばらにガジェット達が付いてきている。
どうやら、兼一が上手く撹乱と足止めをしている成果の様だ。
本隊もいずれは抜けて来るだろうが、それまでには些かの猶予がある。

「してやられました。まさか、守る側のそちらから先制攻撃とは……」
「おかげですっかり予定が狂ってしまったよ。まさか、僕達だけでやる破目になるなんて……」
「こちらにとっては好都合だ。数が揃えばAMFが厄介だが」
「今なら影響もそれほどじゃない。あなた達をここで捕まえられれば、充分に勝機があるわ」
「やれるのでしたら」
「どうぞ」
「言われんでも!」
「ここから先、一歩たりとも通しません!」

戦闘機人達目掛けて、狼形態のザフィーラが飛びかかる。
さらに、それを支援する様にシャマルのクラールヴィントも飛ぶ。
それを二刀を構えた少女が迎え撃ち、後ろからショートヘアの少女が六課へ向けて光の奔流を放つ。

「させません!」

クラールヴィントを操りつつ、シャマルは六課へと向かう翠の光の前に更に翠の壁が出現させる。
幾筋もの奔流を防がれ、その間にザフィーラとロングヘアの少女が接触した。

「おおおおお!」
「IS『ツインブレイズ』」

紅い光の刃がザフィーラ目掛けて振り下ろされるが、ザフィーラはそれを掻い潜って体当たり。
少女は弾き飛ばされ、そこへクラールヴィントがワイヤーで拘束に掛かる。
少女はそれを二刀で切り裂き逃れ、シャマルへと目標を変更。
ザフィーラがそれをさせまいと牙を剥くが、そこへ翠の光が牽制してくる。

なるほど、確かに後衛から先に仕留めた方が楽に事が進む。
されど、相手は夜天の守護騎士が一角。
後方支援が専門とはいえ、そう簡単にやられはしない。

「風よ!」

シャマルが両腕を突きだすと、そこから直進する翠の竜巻が発生。
少女はそれを二刀を交差させて防ぎ、なんとかその場に踏みとどまる。
その間に、後衛の少女が放った光がシャマルを狙う。

「テオラ――――――――!」

しかしそれも、ザフィーラの一吠えと共に天より降り注いだ棘に阻まれる。
前衛の少女はさすがに踏みとどまれなくなったのか、一端後退して後衛の少女の所まで戻った。

「どうやら、こちらも一筋縄ではいきそうにありませんよ、オットー」
「そうだねディード。ガジェットが揃うまでは手間取るかもしれない」

ディードとオットー、二人の戦闘機人は予想外とばかりに認識を改めているが、それでも余裕は崩れない。
それもその筈、所詮は時間の問題だ。
今はまだAMFの影響が少なく、二人にも対抗できているようだがそれも長くは続かない。
ガジェットの数がある程度揃ってしまえば、いずれはジリ貧になるのだ。

なるほど、確かに兼一がいる以上相当数が撃破される事は想像に難くない。
しかしそれも……

「ぬりゃぁ!」

Ⅲ型の触手を掴み、ガジェットの密集地へと投げ落とす。
あまりの速度に、地面と衝突するやひしゃげ「バチバチ」と危険な火花を散らすⅢ型。
やがてそれは爆発へと発展し、間もなく周辺のガジェットにも連鎖、数度に渡る爆発が巻き起こる。

とはいえ、未だ前後左右どこを見てもガジェットだらけ。
ここまで来ると、ある意味では右も左もない様な状態だ。

事実、兼一が振り向き様に手刀を放つと、今度はⅠ型が横一文字に両断される。
どこに向けて何を放っても、とりあえずガジェットが破壊されていく。
そう言う意味では、何も考えずに闘う事も出来るだろう。
しかし、当の兼一はそう言う訳にもいかなかった。

「ア~パパパパパパパ!!」

拳が無数に分裂したかのようにも見える突きの連打が、次々にガジェットを蹂躙する。
上空から見れば、ガジェットの群れに突如亀裂が入ったかのようにも見えるだろう。

30機ほど粉砕しただろうか。
しかしそれでも、全体として見れば僅かな被害でしかない。
兼一が作り上げた亀裂は瞬く間の内に埋められ、あっという間に視界はガジェットで埋め尽くされた。

しかも、兼一からやや離れた所のガジェット達はなにも気にすることもなく進軍を続けている。
当初は突然発生した異変に状況分析のためその場に停止したガジェットだが、既に大半が六課に向かい始めているのだ。

わかり切っていた話だが、やはり相手はハナから兼一を無視してかかるつもりらしい。
むしろ、その為にこんなバカみたいな物量を投じたのだろう。

兼一一人で500機のガジェットを破壊できるかと言われれば…恐らくできる。
だがそれは、時間を問わず、全てのガジェットが兼一を目指すとすればの話だ。

その場、その瞬間だけでも兼一の手の届かない所にいるガジェット達が兼一を無視して進む。
当然兼一はそれを止めるために向かう訳だが、そうなると余所のガジェット達が進み始める。
更にそれを止めに行き……これを繰り返せば、徐々にだが確実にガジェット達は六課に近づいて行く。

その間にガジェットの数も減るだろう。
しかし、もし敵に余剰戦力があり、それを投入されれば最終的には押し切られる。
兼一は確かに負けてはいない。だが言ってしまえば、ガジェットは別に兼一に勝つ必要がない。
兼一を倒せずともある程度以上の数を六課の前まで送り込めれば、オットーとディードがザフィーラとシャマルに対し優位に立つ。
後はそのまま二人を破り、六課を破壊すれば目的は完遂されるのだから。
その結果兼一が無傷で立っていたとしても、それにどれほどの意味がある。

「はぁ、はぁ……どっせい!」

手近な所にいたⅠ型に指を突き立て、人手裏剣の要領で投げる。
進路上のガジェットを次々に巻き込み、やがてⅠ型は爆砕。

だが、相変わらずガジェットの群れにこれといった変化はない。
突入した時と変わらず、圧倒的な数で、兼一を無視して進もうとしている。

終わりの見えない、それこそ終わりなどないかもしれないマラソンバトル。
休むことなく闘い続け、兼一の額にも汗が滲み息に乱れが出始める。
まだまだスタミナには余裕があるし、その気になれば明け方まででも戦える。
しかしそれまで、六課が保ってくれる保証はなかった。

兼一一人が如何に優れた武を誇り、立って闘い続けようと、圧倒的物量はそれを歯牙にもかけない。
そんな化け物の相手を真面目にしなくても、物量を上手く使ってやれば目的は達成できるのだから。
もしこれが生きた人間であったなら、兼一に対する恐怖や畏怖で動きが乱れたり逃亡を図ったりすることもある。されど、相手は心を持たない鉄クズの群れ。

様々な意味で、兼一は対人戦に特化している。今回は、その弱点を突かれた形だ。
一心不乱に目的の達成だけの為に動くそれは、白浜兼一という戦力の長所を塗りつぶすには十分過ぎた。

(やっぱり、猶予はそうないか……みんな、急いで!)

とはいえ、この状況は兼一達とて予想していたこと。
圧倒的物量が相手では、たった三人ではその全てを支え切る事が叶わないことくらい。
言わば、この闘いははじめから負け戦。
だがそれならそれで、やりようはある。



その頃、六課隊舎内では人員のほとんどが慌ただしく動き回っていた。
隊舎内に設けられた…だが普段は機材などで蓋をされている穴に向けて。

「ほら急げ! 時間がねぇぞ! 旦那達が時間を稼いでくれちゃいるが、時間の問題だ!
 旦那達の頑張りを無駄にすんじゃねぇ!」

指示された場所に移動していく六課職員の最後尾に付き、大声を張り上げるヴァイス。
とそこへ、その後輩「アルト」がひょっこり顔を出す。

「それにしても、ヴァイス陸曹」
「あんだ、アルト?」
「兼一さん、なんでこんなもの掘ってたんですか?」
「知るか。アイツが言うには、修業時代の癖らしいぞ」
「はぁ……」

ヴァイスの愛車を転がしながら、アルトは心底不思議そうにしている。
無理もない。彼女達が集まっていく穴は、全て兼一が六課に来た頃から地道にこっそり掘っていた物だ。

六課ではまだ知る者はほとんどいないが、修業時代の彼は脱走の常習犯。
何かあると…というほどではないにしろ、数ヶ月に一度は梁山泊から脱走しようとしていた前歴がある。
その頃に身についた習性なのか、あるいは裏社会科見学に連れて行かれるうちに至った結論なのか。

真っ向勝負で梁山泊の豪傑達から逃げる事は困難な以上、裏をかくのが肝要と考えた。
なので彼は、とりあえず「逃げ道」を確保しようとする。
その一例として、しぐれの相棒でもあるネズミの闘忠丸に、壁に穴を開けてもらっていたこともあった。
それが段々とエスカレートしていき…ついには地下道を掘るにいたったらしい。

それをある日の深夜、穴から出てきた兼一をザフィーラが発見。
その話がはやてまで伝わり、面白がった結果「じゃ、正式に抜け穴として採用」となってしまった。
以来、兼一は部隊長公認で毎晩毎晩穴を掘り続けてきたのだ。
まさか冗談で作ったものが、こんな形で役に立つことになろうとは……。

「しかも、道具を使わずに手足だけって……」
「厳密には殴ったり蹴ったりだったらしいけどな。なんだっけ? ええと…………昔『大地を居合い斬る』っつー真理を見出した奴がいたんだったか?」
「なんですか、それ?」
「さぁな、達人の言う事なんざさっぱりわからん」

もちろん兼一とて、遊びと習性だけで穴を掘っていた訳ではない。
丁度良いとばかりに、昔の知り合いに倣い修業がてら突きや蹴りで掘り進めたのだ。
曰く「ああ、なるほど。言われてみれば、地は幾ら砕いても無限だよねぇ」とのこと。
十数年越しに、ようやくあの日言っていたことの意味を理解した瞬間だったらしい。

「ヴァイス陸曹、脱出路付近への誘導完了しました」
「よし、アルト!」
「はい!」
「お前は俺の単車にガキ共乗せて先に行け! その後にバックヤードだ!
 兼一が言うには、こいつはクラナガンの下水道に通じてるらしい。
周辺に個人名義で何部屋か借りてあるから、各々指示された場所に潜伏。
あらかじめ伝えた方法で指示があるまで石に噛り付いてでも無事でいろよ、いいな!!」
『はい!』

ヴァイスに指示に従い、アルトは翔とヴィヴィオを乗せて出発。
それに続き、バックヤード陣や整備員達等が次々に穴に入って進んでいく。

これこそが、グリフィスの言っていた提案。
籠城し、徹底抗戦すれば勝つ事も出来たかもしれない。だが、その場合諸々の状況からして「敗北に等しい損害」を受ける事は免れないだろう。それでは意味がない。
敵の目的がこれで終わるとは限らない以上、重要なのは「次につなげる」ことだ。
そう判断した彼は、そこで勝敗を捨て、「損害を最小限に抑える」方法を考えた。
そこで出したのが、兼一達が時間稼ぎをしている間に可能な限りの人員を脱出させること。

だが六課は海に囲まれ、街に出るルートは橋のみ。
大勢の人間がそちらへ移動すれば、渡り始める前にばれるだろう。
敵の狙いがヴィヴィオかレリックだとして、レリックは本局に移送済みなので、この際無視していい。
また、脱出を子ども達と最小限の人間に絞っても危険性は変わらない。
そこで思い出したのが、はやてから聞いていた戯れに掘った抜け道の存在。
これはどこの資料にも載っていない秘密の抜け穴。
故に、これを知る者はほとんどおらず、脱出に気付かれる可能性も極めて低い。

この状況では隊舎を守り切ることは難しいが、仲間を逃がすことはできる。
敵の目的がこれで終わるとは限らない以上、それが最優先なのだから。

「お、ルキノ。お前で最後か?」
「はい、後は陸曹と管制室に残ったグリフィス補佐官達。それに……」
「兼一や旦那達か。よし、ならこいつ持ってけ」
「? これは?」
「メカオタ眼鏡が花火とかから捻り出した即席の爆薬だ。
 通路の中ほどにでも置いて、通り切ったらそのスイッチを押せ。
そうすりゃ爆発して通路が塞がる」
「って、それじゃ陸曹達は!」

当然、この通路を使う事が出来なくなる。
確かに、爆破して塞いでしまえば敵に後を追われる心配はなくなるだろう。
しかしそれでは、残った面々は……。

「良いんだよ、俺達は。どの道、ギリギリまで残るつもりだったしな」
「え、それは……」
「しょーがねーだろ。入って蛻の殻じゃ、あっという間にばれちまうし、管制がいなくなっても怪しまれるかもしれねぇ。折角兼一達が体張ってんだ、必ず成功させなきゃなんねぇ。
だったら俺も、怪しまれねぇ程度にそれなりに抵抗しねぇとな」

管制室を含め、最早六課隊舎内には外面を取りつくろう為に必要最低限の人員しかいない。
逆に言えば、これ以上減れば敵に怪しまれる可能性が増す。
場合によっては、下手をすると外への捜索の手が伸びるだろう。
そうなればここまでの全てが水泡に帰す。それではダメだ。

「おら、行け。ここは俺らの戦場で、お前らの戦場はまだ後だ。
 役者が出番を間違えるんじゃねぇよ」
「陸曹……」
「ったく、辛気臭い顔しやがって。言っとくがな、別に俺は死ぬつもりなんかねぇぞ。
適当に抵抗したら、そのまま死んだフリでもしてやり過ごすさ」
「……はい!」

ルキノが穴に入るのを見送ってから、ヴァイスは再度穴を塞ぐ。
それから場所を変えてバリケードを作り、さもそこが重要であるかのように見せかける。
とそこで、管制室に残ったグリフィスから通信が入った。

「ヴァイス陸曹、みんなの避難は?」
「とりあえず完了だ。今俺も配置についた、後は精々良い演技しようじゃねぇの」
「そうですね。兼一さん達にも連絡して、それぞれ頃合いを見て逃げるという事で……」
「はは、こいつは敵前逃亡になるのかねぇ?」
「させませんよ。なっても、責任は僕が取りますから」
「そう肩肘張ることもねぇだろ。ここは、下士官含めて連帯責任と行こうじゃねぇか」

若く生真面目な上官の肩をほぐす様に、軽い口調で一緒に背負う事を約束する。
それで少しは重みが和らいだのか、軽いため息が聞こえて来た。

「ふぅ…………すみません」
「気にすんなって。んじゃ、準陸尉殿もほどほどにな」
「……はい、気をつけて」
(さて、いっちょ一花咲かせるとしますかね)

過去のトラウマから震える手を抑えながら汎用デバイスを構え、心中で呟く。
最低でも、あの通路が塞がれるまでは抵抗して見せなければならない。
六課から街まで、普通に橋を渡っても十数分はかかるだろう。
ましてやあの通路は整備されている訳でもないし、大勢がひしめき合う様にして通っている。
となれば、その数倍かかることも視野に入れねばならない。

恐らく、敵が隊舎内に進入する方が先になる。
そうなれば自分もただでは済まないであろうことを、既にヴァイスは覚悟していた。



  *  *  *  *  *



ナンバーズから逃れた後、四人は無事なのは達と合流。
だがそこでギンガと連絡が取れないことが判明し、また六課が襲われている事を知る。
そこで二手に分かれ、スターズはギンガへの援護、ライトニングは六課への救援に向けて動き出す。
今頃、エリオとキャロはフリードに乗り、フェイトと共に空から向かっている筈だ。

そしてここは、明かりが落ち暗く閉ざされた地下通路。
スバルはなのはとティアナに先行し、マッハキャリバーをかって疾走していた。

「スバル、先行し過ぎ!」
「ごめん。でも、大丈夫だから!」

後ろから、なのはに抱えられて後を追うティアナからの叱責。
普段ならそれで多少なりともペースを落とすスバルだが、今回は違った。
脇目もふらず、壁と衝突することも恐れず、狭い通路内で尚も加速する。

「仕方ないね。こういう場所だと、スバルの方が早い。
 大丈夫、こっちが急げばいい!」
「はい!」

そんなスバルに、なのはは自らがペースを上げる事でフォローしようとする。
ティアナもまた、それには異論はない。
スバルが焦る理由も、彼女達には痛いほどよく分かるから。

(ギン姉…ギン姉……ギン姉!)

最早ギンガの事で頭がいっぱいで、他の事を考える余裕はない。
無理もない。この世でたった一人の姉妹で、自分に最初に闘う術を教えてくれた師だ。
特殊な産まれであったからこそ強いその絆が、スバルの心を掻き立てるのだろう。

そしてその頃、当のギンガは……

「ハァハァ…ハァ……ハァ………」
「ちっ、しぶとい野郎だ!」
「ホントっスね~。あれだけボロボロで、よくもまぁ……」
「アノニマートが好敵手と認めた相手だからな。さすがと言うべきか、見事と言うべきか」

眼前に立つナンバーズは三人。連携の練度は高く、特にチンクが中核となる事でそれが上手く作用している。
おかげで、幾度意識が飛びかけたことだろう。
爆風に煽られ、痛烈な蹴りに打たれ、光弾を全身に浴びた。
正直、日々兼一の拳を受けていなければ、とっくに意識を手放していたことだろう。

(もう腕も、脚も上がらない……正直、立っているのがやっと。
こうなったらもう…………笑っとくしかないか)

重い身体に鞭を入れ、なんとか僅かに顔を上げて口元をほんの少しだけ吊り上げる。
本当に、それだけで残った力を使い果たしてしまいそうだ。
だがそれでも、多少は向こうを牽制する位に放ったらしい。

「こいつ、まだ!」
「どうするっスか、チンク姉。押せば倒れる、って感じだと思うんスけど」
(………難しいな。確かにもう満身創痍な筈だが…果たして、迂闊に踏み込んでいいものか)

闘いとは心の駆け引き。『ピンチになったらとりあえず笑っとけ』とは六課上層部が満場一致する所。
それに倣って、最後の力で薄らと笑って見せたが……相手に二の足を踏ませるくらいは出来た。

経験豊富なチンクだからこそ、ギンガの実力を評価して迂闊な攻めに出ることをためらってしまう。
これが経験の浅い二人であれば、間違いなくトドメを指しに来ていた筈だ。
そうなれば、今のギンガに抵抗する術はなかっただろう。
とはいえ、そんな時間稼ぎも長くは続かない。

「…………よし、姉がやろう」
「大丈夫なんスか。チンク姉のISだと、下手すると死んじゃうっスよ?」
「火力を調整すれば大丈夫だろう。余力を残し回避するようなら、お前達で仕留めろ」
「うん」
「了解っス」
(これは、本当に万事休すね……)

全身が軋みを上げる中、微かに残った力をどう使うか模索する。
回避に使うか。それとも相討ち覚悟で一人を道連れるか。

いずれにせよ、ギンガ自身の結末は絶望的。
ならば、次に彼女達と闘うであろう誰かの為に…一人でも敵の戦力を削ごうと覚悟を決める。
例えそれが叶わなくてもせめて腕一本、それが無理なら指一本でも構わない。
とにかく、仲間達の為に……。

その間にもチンクはナイフを構え、慎重に狙いを定める。
ギンガを死なさない程度に、なおかつ受ければもう動けないように。
そして、チンクがナイフを放とうとしたその瞬間……

「ギン姉――――――――――――――――っ!!!」
(っ! ス、バル……!?)

最悪のタイミングで、彼女が来てしまった。

「セカンドか!」
「うわっちゃぁ、時間かけ過ぎたっスかねぇ……」
「ちぃ……ノーヴェ、ウェンディ、ターゲット変更だ。セカンドを仕留める!」
「おう!」
「了解っス!」
「だ…め……スバル、下がって!」

スバルはチンクの能力を知らない。
もしここに来た瞬間に爆破を喰らえば、一撃で事が決する可能性すらある。
それだけの威力が、チンクのISにはあるのだ。

チンクは構えていたナイフをスバルに向けて投げ放つ。
続いて、ノーヴェが右から弧を描く様にスバルへと向かい、ウェンディの光弾が左から。
それを見た瞬間、ギンガは満身創痍とは思えない動きでチンクとスバルの間に割って入った。

「なに!?」

驚きの声はチンクの物。
鬼気迫る表情で自分とターゲットの間に割って入り、そのまま自身へと向かう敵の姿。
それに本能的な畏れを抱いたチンクは、投げたスティンガーを咄嗟に起動。

その瞬間、ギンガの視界が曇りのない白一色で染め上げられた。

「「チンク姉!」」

突然の予期しない場所での爆発に驚き、攻撃の手を止め、急ぎチンクの元に駆け寄る二人。
至近距離での爆発により、チンク自身もダメージを負ってしまったのだろう。
大きく後方に吹き飛ばされたチンクは、瓦礫にまみれながら震える手で身体を起こす。

「大…丈夫だ。それより、タイプゼロを……」

思いの外ダメージが大きいのか、思う様に声が出ずノーヴェとウェンディには届いていないらしい。
二人は、チンクの声に反応することなく真っ直ぐ駆けよってくる。

その時、より爆心地に近かったギンガの体はほぼ水平に飛び、やがて…………スバルと正面から衝突。
二人はもんどりうって床の上を転がり、ようやく止まった所でスバルは身体を起こす。
だがその瞬間、視界の右半分が鮮烈なまでの赤で塗りつぶされていることに気付く。

「あれ、これって……」

反射的に目元を擦ると、何かが腕にこびり付いて視界を塗りつぶしていた赤が消える。
代わりに手に残ったのは、どこか「ヌルリ」とした温かくも不気味な液体の感触。

身体に重さを感じ、視線を落とす。
するとそこには、自身に覆いかぶさる様にして横たわる最愛の姉の姿が。

「ギン…姉? ギン姉…ギン姉! お願い、返事して!!」

幾ら呼びかけても返事がない。
身体はまるで糸の切れた操り人形のように力が抜け、右腕は千切れかけている。
肌の下から覗いたのは、赤い肉ではなく火花を上げるコード類。
そのあまりに生々しい光景に、スバルの中で亀裂が走った。

「ぁ、ぁぁ…………ぅあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

動かない姉の身体を抱き締め、獣のように絶叫する。

「今の声……スバル!? なのはさん!」
「うん、さっきの爆発音も気になる、急ぐよ!」

通路に響き渡る、ただならぬ相棒の絶叫にティアナの顔色が変わった。
なのはもまた何かを予見し、ティアナを抱え直して速度を上げる。

「チンク姉!」
「大丈夫っスか!?」
「私の…事は良い。それより、タイプゼロを。応援が来たのなら、今を逃せば機を…失うぞ」
「でも!」

チンクに駆け寄った二人だが、ノーヴェはチンクの事以外見えていない。
そこでウェンディが肩を掴み、強く揺さぶる事で引き戻す。

「しっかりするっス、ノーヴェ! 今はチンク姉の言う通りにするんスよ!」
「ぁ……ああ!」

ウェンディに怒鳴られ、ようやく落ち着きを取り戻したノーヴェ。
チンクを心配する気持ちを怒りに変え、彼女はギンガ達に怒りに満ちた眼差しを向ける。
しかしそこには、それ以上の激情を宿す、金の瞳のスバルが迫っていた。

「うああああああああああああああああああああああああ!!!」
「なっ!?」
「はやっ……」

獣の様な唸り声を上げながら、怒りにまかせて拳を叩きつけるスバル。
咄嗟にノーヴェはそれをガードするが、想定外の衝撃が襲い掛かった。

「な、何だこりゃ…うあぁぁぁ!?」
「ノーヴェ! ったく、ブチ切れたいのはこっちっスよ!」

殴り飛ばされたノーヴェをフォローすべく、ウェンディが光弾をばら撒く。
だが、スバルはそれを意に介することもなく、シールドも張らずに真っ直ぐに突き進む。

「ヤバッ!」

いくつもの光弾をその身に浴びて、傷つく事もかまわず突貫してくるスバル。
そして、ウェンディを間合いに捉えると我武者羅に拳を振り被った。
ウェンディは盾をかざしてそれを受け止めるが、拳と蹴りの連打が後先考えずに放たれる。

「くぅ……ノーヴェ、大丈夫っスか!」
「あ、ああ」
「だったらこっち! ちょ、さすがにそろそろ……!」

元々白兵戦型ではないウェンディでは、スバルのパワーを支えきれないのだろう。
ただでさえ今は、動の気が暴走している上に戦闘機人としての力まで解放しているのだから。

なんとか立ち上がったノーヴェだが、ガードした右腕に力が入っていない。
何かしらの理由で、腕に相当なダメージを負ったのだろう。

(あいつのIS…接触兵器か。直接戦闘は不味い……だけど、このままじゃウェンディが……)
「ウェンディ、下がれ!」

声のする方を見れば、そこには立ち上がって周囲にスティンガーを展開したチンクの姿。
ウェンディは即座にその意図を理解し、スバルが振りかぶったと同時に後ろに下がった。
そこへ、入れ替わりにチンクのスティンガーが襲い掛かる。

「これで!」

大振りになっていた所への攻撃で、スバルに回避する余裕はない。
為す術もなくスティンガーの爆発に飲みこまれるであろうスバル。
しかしその直前、スバルへと殺到するスティンガーが全て燈色の光弾で打ち落とされた。

「……………っ! しまった、時間切れか」
「スバル!」

チンクがスバルが着た通路の方を見ると、そこにはなのはに抱えられクロスミラージュを構えたティアナ。
なのはは素早くティアナを下ろすと、レイジングハートを手に砲撃の構えを取る。

「ティアナはギンガの状態確認! スバルは私がなんとかする!」
「お願いします!」

指示に従い、急ぎギンガへと駆け寄るティアナ。
なのははなおも敵に向かって行こうとするスバルを已む無くバインドで拘束。
代わりに、自身は三人に向けて問答無用の砲撃を放つ。

「ディバイ―――――――――――――ン…バスタ――――――――――――――!!!」
「く、退くぞ、二人とも。私の周りに!」
「了解っス!」
「うん!」

桜色の巨砲が迫る中、チンクは自分達の周りに円を描く様にスティンガーを突きたてた。
続いて、それらを一気に爆発させる。

「……………逃げられた」

構えを解いて砲撃を放った箇所を見れば、そこには歪な円を描いた穴。
恐らく、ランブルデトネイターで床に穴をあけて逃れたのだろう。
後を追っても良いが、今はスバルとギンガ、二人の事が気に掛かる。
なのはは僅かに後ろ髪引かれながらもすっぱりと気持ちを切り替え、未だバインドに捕らわれながらももがくスバルの背に優しく手を回す。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「落ち着いて、スバル。もう大丈夫、もうあの子たちはいないから」

落ち着けるように背中を軽く叩き、頭を撫でる。
それはまるで、泣きじゃくる子どもをあやす姿に似ていた。
スバルもそれで徐々に落ち着きを取り戻したのか、少しずつ声のトーンが下がっていく。

「あ、あぁ……」
「…………そう、心を落ち着けて。ゆっくり…ね?」
「…………」
「ふぅ……ティアナ、ギンガの様子は?」
「正直、危険な状態です。急いで病院に連れて行かないと……」
「そう…聞いたね、スバル。ギンガは今の状態だと危ない。助けるには急いで病院に連れて行かなくちゃいけない。出来ればスバルに運んでほしいけど、その様子だと……」
「ぁ……マッハ、キャリバー」

視線を落とせば、そこには自身の無茶に付き合ってボロボロになった相棒の姿。
全損という訳ではないが、それでもこれ以上酷使すべきではないだろう。

「ティアナ、スバルをお願い。私がギンガを病院に運ぶ」
「はい!」
「ティア……」
「まったく、一人で突っ走ってくれちゃって……」

なのはに代わり、バインドから解放されたスバルを抱きしめるティアナ。
今のスバルには、こうして人の温もりを感じさせてやることが必要だ。
そうでないと、ただでさえ不安定になっている心がさらに揺らいでしまうから。

「なのはさんは先に行ってください。私達も、スバルが落ち着いたら後を追います」
「うん。もうあの子たちも逃げたと思うけど、気をつけてね」
「はい」

ギンガを慎重に抱きかかえ、なのははそのまま来た道を引き返して飛んでいく。
出来るなら、ここから地上までぶち抜いてしまいたいところなのだろう。
とはいえ、管理局員の手でこれ以上地上本部ビルを破壊する訳にもいかないのがもどかしい。

「……ごめん、ティア」
「……後で説教と拳骨の一つや二つ、覚悟しておきなさい。思いっきり絞ってやるから」
「うん」



  *  *  *  *  *



皆の奮戦も空しく、炎上する機動六課。
六課へと繋がる道には足の踏み場もない程にガジェットの残骸が散乱し、至る所から黒煙を上げている。
その中でも特に破壊の激しい正面玄関では、それを為した面々が揃っていた。
だが……その顔には一様に困惑が浮かんでいる。

「どうですか、ルーお嬢様」
「だめ、何も見つからない」

六課正面を守っていたシャマルとザフィーラを降し、早々に六課内部の捜索に入ったオットーとディード。
そこへ更にルーテシアとガリューも合流したのだが、目的の物が何一つとして見つからない。
それどころか、六課内にあまりにも人の気配が少な過ぎることに気付く。

「そうですか……あの達人もいつの間にか姿を消していますし、これはいったい……」
「それを言うなら、さっきまで抵抗していた筈の二人の姿もない。
 聖王の器を始め、ドクターに判断を仰ぐべきかもしれないね」

ディードの呟きに、オットーがアジトへの報告を提案する。
現状わからないことが多過ぎるとあって、それは即座に実行に移された。

「ふむ、それは…………今回は相手が上手だったかもしれないね。
戦力以外にも、随分と人材を揃えていたようだ」
「と言いますと?」
「恐らく、かなり早い段階から彼らはこれを撤退戦と考えていたのだろう。
 闘っていたのはあくまでも殿であり囮。我々は、まんまと出し抜かれたという事だ」
「ですが、街に繋がる橋は監視していましたし、どの資料にも他に脱出経路は……」
「だが実際に彼らはいない。ならば、そう考えるのが自然だよ」

二人の報告を受けても、スカリエッティには特に動じた様子はない。
むしろ、あの状況から逃げおおせて見せる相手の機転を楽しんでさえいる風情だ。

「如何いたしましょう。まだそう遠くへは行っていない筈ですが……」
「インゼクトなら、探すのは簡単」
「確かにね。なら……いや、よそう。出来ればここで確保しておきたかったが、次善の策を使えば済む。
 ここは、敵の知略に敬意を表するとしようじゃないか」

確かにルーテシアのインゼクトを用いれば、捜索はそう難しくないだろう。
だが問題なのは、行方を眩ませた最後まで残っていた戦闘要員達。
彼らの内、どれほどが未だ戦闘可能なのかはっきりしない。

オットー達も、ザフィーラを降した後はそれほどちゃんと確認せずに内部の捜索に入ってしまった。
あるいは、やられたのも演技だった可能性がある。
もし彼らが既に逃げた仲間達と合流していれば、少々面倒なことになるだろう。
ここは一端手を引いたと見せて、次の機会を狙うべきとの判断である。

「なに、そう気落ちすることもない。初の実戦としては中々だった、今はとりあえず帰ってくると良い」
「「了解」」
「ルーテシアも、あまり遅くなるとゼストやアギトが心配するよ」
「うん………ごきげんよう、ドクター」
「ああ、ごきげんよう、ルーテシア」



そしてその頃、そのまんまと戦闘機人達を出し抜いた面々はというと……。

「ここまでくれば、とりあえず大丈夫だろう」

背中にシャマルとヴァイスを乗せ、至る所から血を流しながらも走っていたザフィーラが膝をつく。
高濃度のAMFの中での戦闘機人との戦い。それも、六課やシャマルを守りながらだ。
彼が受けた傷は、決して浅いものではない。

「ザフィーラ、もう良いから! もう休んで!」
「そうですよ、後は任せてください」
「すまんな、そう…させてもらう」

それだけ言い切ると、ザフィーラは力尽きたようにその場に倒れ伏す。
六課から市街地の路地裏まで、傷を押して二人を背負ってきたがそろそろ限界だったらしい。
そんなザフィーラの身を案じながら、兼一はここまで運んできた他の仲間達をその場に下ろす。

「シャマル先生、ザフィーラさんとヴァイス君は?」
「かなり酷いわ。ザフィーラはまだしも、ヴァイス君はこれ以上となると病院に行かないことには……」
「そうですか……」

恐らく、少しでも皆が逃げる時間を稼ぐ為に、無理を押して粘ったのだろう。
兼一が内部に残った皆を助けに忍び込んだ時には、既に手酷い傷を負って意識がなかった。
その代わり、グリフィスをはじめとした管制室に残った面々は意識こそないが軽傷だ。
ヴァイスの奮戦が、敵を引きつけた結果だろう。
ただ、応急処置はここまでの道中ザフィーラの背の上で済ませたが、これ以上の処置は病院でないと難しい。

「兼一さんも、早く治療しないといけませんし」
「いえ、僕はそれほど重傷じゃありませんし……慣れてますから」
「何言ってるんですか! ガジェットの爆発に巻き込まれておいて!!」
「あ、いや、一応回し受けで逸らしましたし……」
「そう言う問題じゃありません!!」
「しゃ、シャマル先生! しーっ! あんまり大きな声出すとばれちゃいますよ」
「あ…そ、そうでした……」

ガジェット如きでは相手にならないとはいえ、全方位を囲まれた状態で一斉に自爆でもされれば堪ったものではない。さすがの兼一も、あの時はかなり危なかった。
正面は守れるが、その代わり横と後ろまで手が回らない。
おかげで深手こそないが、兼一も決して無傷という訳にはいかなかった。

「とはいえ、ここからどうしたものか……ヴィヴィオちゃんが狙いだとしたら、また襲われる可能性もありますし……」
「そうですね。ヴィヴィオ達の所に行く役、ザフィーラとヴァイス君を病院に運ぶ役、それにグリフィス君達の安全を確保する役、最低でも三役必要ですし……」

必要なメンツは最低でも三人。されど今動けるのは僅かに二人。
後一人足りない以上、どれかを切り捨てねばならない。
とそこで、空を見上げていた兼一がある物を発見した。

「あれは……フリード!」
「え!?」

兼一の視線の先には、本来のサイズに戻ったフリードリヒの姿。
とは言っても、ここから見える大きさは豆粒同然で、シャマルには確信が持てない。

「間違いないんですか?」
「ええ。たぶん、六課への救援に来たんでしょう」
「なら、二人を呼んでグリフィス君達の事をお願いしましょう。
 兼一さんはヴィヴィオや翔達の所に。私が二人を運びますから」
「すみません、お願いします」

そうして手早く役割を決め、同時にフリードに乗っているであろう二人に通信を送る。
こうして、波乱に満ちた一日は形はどうあれ、ようやくその幕を閉じた。






あとがき

なんだかんだで、結局こういう形に。
兼一がいるってわかってるんなら、それ相応の対応をするだろう………という事で、とにかく物量頼みの力押し。
ですが、無理に兼一を倒す必要がないという事を踏まえれば、これで充分なんですよね。
面倒な敵は適当に足止めして、その間に目標達成すればいいんですから。
そうなってくると、当然色々無事に済まない訳で……。

とはいえそれも、兼一が変なもん作ってたおかげでご破算ですが。
六課側の被害としては、物的には隊舎とヘリ等々……原作と概ね変わりません。
ですが、人的には大分軽微に。まぁ、ザフィーラとヴァイスが重傷ですが………男気を見せたんです。

警備にあたっていたメンツも、ギンガは重傷ですが攫われる事はありませんでした。
代わりに、チンクが健在ですけどね。
まぁあれですよ、都合が良過ぎる位の能力ってやっぱり敵キャラにしてこそって言うか……敵キャラの特性というか。

そして、最大の戦果はヴィヴィオが無事なこと。
実は抜け穴って、他の所で思いついた案だったんですが……兼一ならやりかねない理由があったので採用。
これがなかったら、普通に無双して守り切っていたでしょうね。
とはいえ、それでは「ゆりかご」が出て来ないので、スカリエッティは次なる策に。

それにしても………今回は早かった。でも、次はきっとこんなに早くないでしょうねぇ……。


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