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No.25730の一覧
[0] 【完結・改訂完了】リリカルなのはSts異伝~子連れ武人活人劇~(×史上最強の弟子ケンイチ)[やみなべ](2013/07/16 20:55)
[1] BATTLE 0「翼は散りて」[やみなべ](2013/07/16 00:16)
[2] BATTLE 1「陸士108部隊」[やみなべ](2013/07/16 00:17)
[3] BATTLE 2「新たな家族」[やみなべ](2013/07/16 00:17)
[4] BATTLE 3「昼の顔、夜の顔」[やみなべ](2013/07/16 00:18)
[5] BATTLE 4「星を継ぐ者達」 [やみなべ](2013/07/16 00:18)
[6] BATTLE 5「不協和音」 [やみなべ](2013/07/16 00:19)
[7] BATTLE 6「雛鳥の想い」 [やみなべ](2013/07/16 00:19)
[8] BATTLE 7「一人多国籍軍、起つ」[やみなべ](2013/07/16 00:20)
[9] BATTLE 8「断崖への一歩」[やみなべ](2013/07/16 00:20)
[10] BATTLE 9「地獄巡り 入門編」[やみなべ](2013/07/16 00:21)
[11] BATTLE 10「古巣への帰還」 [やみなべ](2013/07/16 00:21)
[12] BATTLE 11「旅立ち」[やみなべ](2013/07/16 00:22)
[13] BATTLE 12「地獄巡り 内弟子編」[やみなべ](2013/07/16 00:22)
[14] BATTLE 13「誕生 史上最強の○○」[やみなべ](2013/07/16 00:24)
[15] BATTLE 14「機動六課」[やみなべ](2013/07/16 00:25)
[16] BATTLE 15「エースの疑念」[やみなべ](2013/07/16 00:26)
[17] BATTLE 16「5年越しの再会」[やみなべ](2013/07/16 20:55)
[18] BATTLE 17「それぞれの事情」[やみなべ](2013/07/16 00:27)
[19] BATTLE 18「勢揃い」[やみなべ](2013/07/16 20:54)
[20] BATTLE 19「守護の拳」[やみなべ](2013/07/16 00:28)
[21] BATTLE 20「機動六課の穏やかな一日」[やみなべ](2013/07/16 00:29)
[22] BATTLE 21「初陣」[やみなべ](2013/07/16 20:53)
[23] BATTLE 22「エンブレム」[やみなべ](2013/07/16 20:52)
[24] BATTLE 23「武の世界」[やみなべ](2013/07/16 20:52)
[25] BATTLE 24「帰郷」[やみなべ](2013/07/16 00:34)
[26] BATTLE 25「前夜」[やみなべ](2013/07/16 00:34)
[27] BATTLE 26「天賦と凡庸」[やみなべ](2013/07/16 20:51)
[28] BATTLE 27「友」[やみなべ](2013/07/16 00:38)
[29] BATTLE 28「無拍子」[やみなべ](2013/07/16 00:38)
[30] BATTLE 29「悪魔、降臨す」[やみなべ](2013/07/17 21:15)
[31] BATTLE 30「羽化の時」[やみなべ](2013/07/16 00:39)
[32] BATTLE 31「嵐の後で」[やみなべ](2013/07/16 00:40)
[33] BATTLE 32「地獄巡り~道連れ編~」[やみなべ](2013/07/16 00:41)
[34] BATTLE 33「迷い子」[やみなべ](2013/07/16 20:50)
[35] BATTLE 34「I・S」[やみなべ](2013/07/16 20:50)
[36] リクエスト企画パート1「vivid編 第一話(予定)」[やみなべ](2013/07/16 00:43)
[37] BATTLE 35「ファースト・コンタクト」[やみなべ](2013/07/16 00:43)
[38] BATTLE 36「お子様散策記」[やみなべ](2013/07/16 00:44)
[39] BATTLE 37「強い奴らに会いに行け!」[やみなべ](2013/08/01 03:45)
[40] BATTLE 38「祭囃子」[やみなべ](2013/07/16 00:45)
[41] BATTLE 39「機動六課防衛戦」[やみなべ](2013/07/16 00:45)
[42] BATTLE 40「羽撃く翼」[やみなべ](2013/07/16 00:46)
[43] BATTLE 41「地獄巡り~組手編~」[やみなべ](2013/07/16 00:46)
[44] BATTLE 42「闘いの流儀」[やみなべ](2013/07/16 00:47)
[45] BATTLE 43「無限の欲望」[やみなべ](2013/07/16 00:47)
[46] BATTLE 44「奥の手」[やみなべ](2013/07/16 00:48)
[47] BATTLE 45「絆」[やみなべ](2013/07/16 00:48)
[48] BATTLE 46「受け継がれた拳」[やみなべ](2013/07/16 00:49)
[49] BATTLE 47「武人」[やみなべ](2013/07/16 20:49)
[50] BATTLE FINAL「それぞれの道へ」[やみなべ](2013/07/16 00:50)
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[25730] BATTLE 30「羽化の時」
Name: やみなべ◆33f06a11 ID:1963cf14 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/07/16 00:39

「アイツ、不器用だろ」

己が策を語るに当たり、まず新島が言い放ったのがこの一言だった。
しかしその場に集まった面々は、前後の脈絡も何もない唐突な切り出しについて行けず、首をひねるばかり。
果たして、それとこれと一体何の関係があると言うのか。いや、それ以前に……

「そーか? どっちかっつーと、スバルとかのほうが不器用だろ」
「うん。むしろ、ティアナは色々器用にこなせるタイプだと思うんだけど……」

とは、ヴィータとフェイトの弁。
他の面々にしても概ね似たような意見らしく、静かに首肯するばかり。
何しろ「大抵の事はそつなくこなせながらも、これはと言う物がない」。それこそがティアナが今ドツボにはまっている原因なわけで……。
だがそんな皆に対し、新島は呆れたように肩をすくめながら溜息をつく。

「全く、わかってねぇなぁ」
『むっ……』
「いいか、確かにあのガキは小器用な奴ではあるが、俺様が言ってるのはそんな小手先の事じゃねぇ。
 不器用っつーのは、アイツの生き方の話だ」

はじめは不快そうに眉をしかめたが、続く言葉に納得の意が露わになる。
確かに新島の言う通り、ティアナはあまり器用な生き方ができるタイプではない。

「ま、わかりきった話ではあるんだがな。
 いくら夢半ばで、それも殉職してなお貶められた肉親の為とは言え、その夢を継いであそこまで意地張ってるんだ。お世辞にも生き方が器用とは言えねぇって。ありゃ、ある意味谷本並だ」
「確かに彼も、妹さんとの約束を守って……」

兼一もまた、友にして義弟たる男の生き方とティアナのそれが被る事に難しい顔する。
他の皆もまた、ティアナの生き方が不器用である事は認めざるを得ない。
密かになのはを除く面々が「谷本って誰?」とは思っているが、話の腰を折るのもアレなので黙っている。
とそこで、はやてがある事に気付く……

「ってちょい待ちぃ! なんでそんな詳しくティアナの個人情報知っとんねん!?
 私、さすがにそこまでは話とらんで……まさか、兼一さんが?」

幾ら可愛い部下の為とは言え、本人の同意もなしに個人情報を必要以上に語る程はやても非常識ではない。
となると、他に新島に話しそうなのは兼一くらいだが……。
武術以外に関しては常識人な彼が、そんな事をする筈もなく。

「えぇ!? ぼ、僕じゃありませんよ! 新島、お前今度はなにをやった!
 ハッキングか、それともウイルスか! まさか…また誰か洗脳したんじゃないだろうな!!」
「おいおい、人聞きの悪い事言うなよ相棒。そんなに俺様が信じられねぇのか?」
「信じられるとでも思っているのか? 今日までの数々の悪行、忘れたとは言わせないぞ!」
「ふっ…俺様は、過去を振り返らない主義なのよ」

と、ニヒルな笑みを浮かべる新島。つまりそれは、数々の悪行とやらは否定しないと言うことか。
それはそれで大いに問題があるのだが…それにしても、真っ当に仲の良いなのは達には理解しがたい友情で結ばれた二人である。正直、傍で見ている面々の表情のなんと微妙な事か……。
この二人、どうして今日までこの仲が続いたのか甚だ不思議だ。

「まぁ、安心しろ。今回は本当に何もしてねぇ。
 そもそもだ、あんなもん見りゃわかるだろ」
『いやいやいや……』

『わからないはずないだろ』と言わんばかりの新島に、揃ってあり得ないとはかりに首を振る。
いったいどんな眼力があれば、見ただけで相手のバックボーンがわかるのか。

「話を戻すぞ。お前らも知っての通り、あのガキはどうしようもなく生き方が不器用だ。お前らは『才能の差への悩み』とか細かい枝葉の問題ばかり見ていやがるが、それこそが根本的な原因なんだよ」
「つまり、そこを治せば解決すると、貴様はそう言いたいのか?」
「できねぇと分かってる事を聞くなよな。治せるなら治すに越した事はねぇが、ありゃ無理だ。そんなこと、お前らの方がわかってるくらいだろ」

胡散臭げなシグナムの問いに、新島は「そんな事はやるだけ無駄」とさじを投げる。
まるでティアナが性質の悪い病気の様な言い草だが、さもありなん。
彼女のそれは、ある意味下手な病気よりもずっと性質が悪い。何しろ、その点にかけては手の施しようがなく、直接死に至るわけでもないので長い人生を通して付き合っていくしかないのだから。
まぁ、年齢と共に改善はするかもしれないので、そこに期待と言ったところか。
とそこで、いい加減話を進めたいなのはが問いを投げかける。

「じゃあ、具体的にどうするんですか?」
「結論を急ぐなって。問題を解決するには、まず原因を明らかにする必要がある」
「でも新島さんが言う通りだとすれば、ティアナの不器用さが原因なんですよね?」
「一言で不器用つっても色々だがな。ただ、その不器用の最たるものが克己心と責任感、そして気の強さだ」

克己心が強いが故に妥協を知らず、責任感が強いが故に投げ出さず、気が強いが故に奮い立つ。
その三点はティアナの長所でもあるのだが、今はそれが不味い方向に働いていると新島は語る。
克己心の強さに追い詰められ、責任感の強さに押し潰され、気の強さがどんな弱さも許せない。

「おそらく、アイツはこれまでほとんど弱音を吐いたりしてこなかったんじゃねぇか?」

その問いかけを否定できる者はこの場にはいない。
思えば、この場にいる誰もが一度たりともティアナの弱音や泣き言を聞いた事がなかった。
彼女が口にするのはいつでも負けん気に溢れた自分を奮い立たせる言葉。
それはつまり、頼られた事がないのも同然なのではなかろうか。
もしかしたら、スバルでさえも同じかもしれない。

「だがな、辛いなら辛い、苦しいなら苦しい。そうやって弱音を吐く事も必要だ。
 なのにアイツはそれをしてこなかった。アイツの中途半端な強さがそれを許さなかったんだろうよ。
 仮に漏らしても、そんなもんは氷山の一角。心ん中に溜めこんだもののほんの一部だ。
 溜め込むもんばかり増えて吐きださなきゃ、そりゃいつかは限界が来るってもんだろ?」
「まぁ、確かにな……」
「お前なんてしょっちゅう弱音を吐いて…それどころか良く脱走もしてたくらいだしな」
「そうそう…って、余計な事を!!」
「だが、だからこそお前はパンクしないで済んだんだろ?」
「む……まぁ、確かに……」

兼一も、新島の言う事に一理ある事を認めるしかない。
もしティアナがもっと弱ければ、素直に弱音を吐いていただろう。
あるいはもっと強ければ、弱さを認める強さを許容出来たかもしれない。
しかし、彼女はそのどちらでもなかった。

「抱えてるもんが大きくなりすぎて、今のあいつには冷静に周りを見る余裕がねぇ。助言を受け入れる余地がねぇ。どんな配慮も正論も、鬱屈したもんに捻じ曲げられて終わりなのはわかってんだろ?」
『……』

そう、だからこそ慎重に対応する必要があった。
同時に、早急に改善しなければさらに悪化する事もわかっていた。
その二律背反。急ぎたくとも急げず、ゆっくりでは間に合わない。
これでは、いったいどうすればいいと言うのか。

「お前らはアイツが抱えてるもんを少しでも吐き出させようとしてたらしいが、そんなもんはとっくに手遅れだ。
 いまさらそんな悠長なことやっても、吐きだしきる前に爆発するか、あるいは吐き出しきれなくて詰まっちまうだけだろうよ。ま、あの性格じゃ普段のままでもそう簡単に吐き出したりなんぞしねぇだろうがな。
 それこそ梁山泊の連中みたく、普段から弱音を吐くしかねぇ位に追い詰めれば話は別だろうが……」
「じゃあ、どうすりゃいいってんだ。今のままじゃ、遅かれ早かれ爆発するぞ」

新島の言は正しい。だが、新島がティアナに追い打ちをかけた事で、さらに悪化してしまった。
これも策の内らしいが、ではその策とはいったい何だと言うのか。
そう問うヴィータに、新島は禍々しい笑みを向ける。

「いいじゃねぇか、爆発させてやりゃぁ」
『はぁっ!?』

まさかの発言に、いっせいに鼻白む面々。
これは、どうやってティアナの爆発を回避するかと言う話だ。
なのに爆発させてしまっては、それこそ本末転倒甚だしい。

だが、もちろん新島とて無闇矢鱈と爆発すればいいとは思っていない。
今まさに再度怒りが再燃しそうになる面々に対し、新島はその機先を制して続きを語る。

「まぁ、そういきり立つなって。何もあのガキを潰そうってんじゃねぇんだ」
「どういう事なのか、説明してくれはるんでしょうね?」
「ケケケ。いいか、いまとなってはアイツの爆発は避けられねぇ。
 だが、爆発のタイミングをこっちで操作する事は出来る。例えば……」
「追い詰めて追い詰めて爆発のタイミングを早める、とかですか?」
「その通り」

新島の考えを正しく察したシャマルの答えに、新島は抑えきれない様子の笑みをこぼす。
つまり、新島の策とは「爆発を避ける」ものではなく、「爆発を前提にそれすらも利用する」ものと言う事。

しかしその為には、爆発を先送りするのはむしろ悪手。
先送りにすればするほど、任務などが入ってくる可能性が高まる。
となれば、最悪実戦の最中に爆発する事もあるだろうし、その場合利用することも難しい。
故に新島は爆発を早めようとしている。任務などが入ってくる前に、片をつけるために。

「今のあいつは限界まで膨らんだ風船も同じ、ちょっとした機会や刺激で破裂する。
戦場で爆発されたんじゃ危なっかしくてかなわねぇが、手元で爆発する分には対処の仕方はよりどりみどりだ。
 それも、爆発をコントロールして溜め込んだもん思い切りぶちまけさせてやれば、少しは話を聞く余裕もできるだろうよ」

それには、爆発の規模は大きければ大きいほどいい。
規模が大きい程、胸の内に溜めこんだものを洗いざらい、あますことなく吐き出せてしまえるから。
そうして一度空っぽにしてしまえば、ティアナにも話を聞く余裕が生まれるだろう。

「ま、その場合、爆発を受け止める適任は高町の小娘か」
「私、ですか?」
「確かに、なのはちゃんはティアナの直属の上司。スバル以外なら、一番吐き出しやすい相手よね」
「実際、ティアナの個人訓練も今はお前が受け持っているのだしな」
「……はい! ちゃんと、ティアナを受け止めてみせます!」

シャマルとシグナムの後押しを受け、なのはもまた覚悟を決める。
ティアナは大切な部下であり、可愛い教え子。その為なら、どんな事でもしてみせるとばかりに。
まぁ、若干誤解を受けそうな発言なのは御愛嬌だろう。
が、そこへ新島からさらに注文が入る。

「タイミングとしちゃ近々予定してる模擬戦が妥当だろ。精々……………ぶちのめしてやれ」
「はい! ……………って、ええ!? う、受け止めるんじゃないんですか!?」
「は? もちろん受け止めるぞ。その上でぶちのめせと言っている」
「な、なんでですか、それじゃ……!」
「模擬戦でなら言葉じゃなくて行動も伴う。当然それだけ効果も期待できるだろうよ。
 だが、そこでお前がやられちまうと、今度はあのガキが自分の実力を勘違いする。
 しっかり受け止めて、しっかりシメて躾をしてやるんだな」
(い、いいのかな……?)

確かに行動を伴った方が効果的だろうし、しかしそれで実力を勘違いするのは危険だ。
その意味では、新島の言っている事は正しいとは思うが……。
しかし、そんななのはを余所にはやてはある事に気付いていた。

(なるほどなぁ。だから、敢えて「悪役」になっとったわけか)

新島の策は理解したが、一点不可解な部分がある。
それは、新島一人が必要以上に悪役に徹している事。
ティアナを追い詰めるにしても、それなら全員で分担すればよかった。
そうすれば、個々に対する不満は分散化される。
これでは、全てが終わった後でもティアナをはじめとした新人達の新島への悪印象は完全には消えないだろう。

しかし、そうすることもまた新島の策の内だった。なのはの役目はティアナ達からの反感が残りやすい。
だが、そこでわかりやすい悪役としての新島がいて、その上一連の策も新島の立案となれば、全てが終わった後その矛先は新島に向きやすくなる筈だ。彼自身の性格や風貌も、その役目に一役買っている。
所詮、なんだかんだ言っても新島は一時だけの来訪者。全てが終わった後、部隊内に気まずい空気を残さない為には最適の人選であろう。

(役者が違う、か。敵わんなぁ……)

最初から最後まで新人達の心を操り切るその深慮遠謀に、はやてはただただ感嘆する。
見習いたいかと聞かれると困ってしまうが、頭が下がるのは事実。
それも、結果的に自分達の至らなさの尻拭いをさせるとなれば尚更。

ならばせめて、その策を完遂させるのが自分達の役目なのだろう。
こうして、機動六課上層部は一丸となってこの策を推し進めるのだった。



BATTLE 30「羽化の時」



新島の策を周知した後、あの場は解散となった。
だが、皆が立ち去った後もその場に残った影が二つ。
兼一と、その兼一に呼び止められた新島だった。

「お前の策は大体わかった。無茶ではあるが、効果的なのは認める。
 でも、一つだけ聞かせろ。お前、なんでティアナちゃんを引きこもうとしない?」
「……」
「いつものお前なら、ここは確実に手のうちに引き込む所だろう。いったい、どういうつもりだ?」

実際、普段の新島ならばあの手この手を使ってティアナを、あるいは「ティアナ達」を手に入れようとする筈だ。
新白連合自体、この男の話術や策略で多くの人材を吸収した側面がある。
今でものこの男は貪欲に人材を求めているし、ティアナを放置する理由がない。
特に、今のティアナは精神的に弱っていて幾らでも付け入る隙があるのだから。

その上、連合は魔法世界での基盤が不足している。この点でもティアナと言う人材の吸収は有益だろう。
まさか、この男に限って「弱っている所へ付け込む事は出来ない」などと甘い考えで避けたとも考えられない。

「安心しとけ、お前が考えてるような事はねぇからよ」
「なら、どういうつもりなのか、はっきり聞かせてもらおうか」
「簡単な話だ。今あのガキを引きいれるより、ここの連中に恩を売っておいた方が有益だからな。
 あのガキやその周りの連中位、いくらでもやり様はある」

ティアナを手駒にした場合、機動六課の上層部を敵に回す可能性がある。
そこまではいかなくても、あまり良くない印象を与える事は想像に難くない。
如何に有益な手駒が手に入るとは言え、それは正直旨くなかった。
早い話、リスクとリターンが釣り合わないのだ。

むしろこれから管理局と付き合っていくためには、彼女達に恩を売った方がいいとの判断である。
さすがに、上層部全員に洗脳を仕掛けるのはこの男にも無理があるのか。

「納得したか?」
「ああ。そしてお前の思惑通り、みんなはお前に感謝してる。ティアナちゃんだけでなく、六課全体がお前の策に嵌められているわけか」
「ウヒャヒャヒャ! 別に、教えてもかまわねぇぞ」

自信満々に言ってのける新島に、兼一は最早溜息しか出て来ない。
例え新島の思惑を知っても、それでも恩は恩である。
ここの子達は素直な良い子たちばかり、知った所で多少苦い顔はしても恩を感じることに変化はあるまい。
それがわかっているからこそ、新島の顔には揺らがぬ笑みが浮かんでいるのだ。

「そして、お前はこれを足掛かりにさらに上層部との繋がりを得るわけか」

今回の件で知恵を課す代わりに、新島がはやてに要求した報酬。
それは可能な限りの上層部、最低でも六課の後見人達との面会の機会を設ける事。
これ自体はたいした報酬ではないので、はやてはいぶかしみながらも了承した。
しかし、今回の件を解決した事は自ずと後見人達にも知られる筈。
そうなれば、新島への印象もよくなることは請け合いだ。つまり、早い話が一種の売名行為である。
ティアナの件を解決するという一石で二鳥も三鳥も狙っている辺り、実にこの男らしい。

「まぁ、別にいいけどな。お前がそういう奴なのは、今に始まった事じゃないし」
「そうそう、何事も諦めが肝心だぜ」
「お前が言うな!」
「ああ、そうそう。それと、模擬戦の時にはお前にもやってもらう事がある」
「相変わらず、人使いの荒い奴め……」
「そう言うなって。あのガキの成長の為だと思えば、安いもんだろ」

ティアナの成長の為、そう言われてしまえば兼一に否はない。
彼自身、悪意がなかったとは言えティアナを追い詰めてしまった事には罪悪感があるのだ。

「さっきはああ言ったが、吐き出しただけじゃ素直に話を受け止める事は難しそうだ。
 今のあいつに必要なのは、『成長の実感』だろうからな」

思う存分に吐き出せば、確かに少しは余裕ができるだろう。
だが、それだけでは足りない。ティアナには一度、自分自身の勘違いを払拭する必要がある。
その為にも、模擬戦と言う舞台は都合がいい。

「何事も節目ってのは不安定になるもんだ。その意味でも、あのガキはいっぺん肩の力を抜いた方がいい。
 上手くすりゃ、面白いもんが見れるかもしれねぇぜ」
(しばらく会わないうちに、益々得体が知れなくなってくるな、こいつ……)

兼一とて、ティアナが一つの節目を迎えようとしている事には気付いていた。
しかし、まさかそれすらも策のうちに盛り込んでいようとは。
この男はいったいどれほど先まで、どこまで奥を見通しているのやら……。
兼一は改めて、この悪友の底知れなさを認識するばかり。



  *  *  *  *  *



そうして新島の策は着々と進み、運命の時が来た。
午前の訓練の締めとなる2on1の模擬戦。
なのはを相手に、スターズの二人が挑む形だ。

その間手の空く事になるライトニングの二人とヴィータはやや離れたビルの上に陣取り観戦。
だが不自然な事に、先ほどから妙にヴィータに落ち着きがない。
しきりに時間を気にし、キョロキョロと周りに視線を配っている。

「ったく、アイツら何やってんだ……もうはじまっちまうぞ」
(どうしたんだろ、ヴィータ副隊長?)
(だれか、待ってるのかな?)

そんなヴィータの様子に二人も気付き、不思議そうに顔を見合わせる。
とそこへ、三人の背後にある鉄製の扉が開く音。

「遅せぇぞ! もう少しで始まっちまうとこだったじゃねぇか!」
「……ぅ、ごめん」

弾かれた様にヴィータは物音の方を向き、焦れた様子で怒鳴る。
エリオとキャロもそちらに視線を向けると、そこにはシュンとした様子のフェイトに肩に何かを担いでいる兼一。
そして、いつの間にか大きな顔をして六課に居座っている新島の姿。

「兼一さん……」
「それに新島さんまで……どうしたんですか?」

本来、今日の午前中に兼一達と合流する予定はなかった。
その上、どういった理由で居座っているかエリオ達は知らないが、訓練に直接的に関わる事のない筈の新島までいるのだ。ならば、二人の疑問も当然だろう。

ちなみに、兼一の肩に担がれている人物についてはスルー。
誰が担がれているかなど一目瞭然だし、最早半死人になっている程度では驚くに値しないからだ。
もちろん、床に下ろされたギンガの口からエクトプラズムが漏れているのも気にしない。

「ん、ちょっと用事があってね」
「そう怒んなって、まだ始まってねぇんだからよ」
「…………………ちっ」

並の者なら一歩後ずさってしまいそうな視線に晒されながらも、新島は余裕の態度を崩さない。
ヴィータもこれ以上の詰問や非難は無意味と悟り、不愉快そうに舌打ちするだけにとどめた。
ほんの数日の付き合いだが、この男の面の皮の厚さが常軌を逸している事を理解させられているからだ。

代わりに、ヴィータは魔力を帯びた一発の鉄球を空に向けて打ち上げる。
空中に展開されたモニターに映し出されたなのははそれに気付き、小さく首を縦に振り……

「それじゃ…………………はじめ!!」

模擬戦と策の開始を宣言した。
スターズの二人はその一声と共に動きだし、モニターを眺める新島はうすら笑いを浮かべている。

「始まったな」
「ああ……………だけどよ、ホントに大丈夫なんだろうな」
「任せとけって。俺様が練って、直々に動かした策だ……手落ちはねぇ。
 ほれ、こっちもそろそろ始めるぞ」

言って、新島はフェイトを一瞥する。
フェイトはそれに小さく首肯を返し、同時に足元に金色の魔法陣を出現した。
すると、瞬く間の内にエリオとキャロ、それにギンガの三人をケージが包みこむ。

「っ! フェイトさん!」
「な、何するんですか!?」

被保護者にして部下の二人は、突然のフェイトの行動に眼の色を変える。
何故、フェイトが突然自分達を拘束したのか、その理由がわからないから。

「ごめんね。でも、今はそこで成り行きを見守ってて」
「ケケケケ……ったく、ずいぶんと甘い女だ」
「……みんなに、手荒な事はしたくないですから」

揶揄する様な新島の口ぶりに、「ムッ」とした表情を浮かべつつ弁明するフェイト。
策が動けば、場合によっては子ども達がスターズを助けに向かう可能性がある。
そうなれば、最悪力づくで押さえつけることも考慮しなければならない。
フェイトとヴィータの二人なら、三人を同時に制圧することも可能だろう。

しかし、フェイトとしてはそんな事は出来ればしたくなかった。
故に、そうなる前に子ども達の動きを封じることにしたのだ。

(……………………フェイトの案、じゃなさそうね。とすると、あの人…なにを企んでるのかしら?)

動揺を露わにする年少者達を尻目に、ギンガはさりげなく新島を睨む。
一連の流れと会話から、黒幕が新島である事を察する事は難しくない。
が、その企みの内容までは無理だ。

わかる事があるとすれば、フェイトの発言からするに企みは模擬戦の方の筈と言う程度。
とそこで、ギンガは改めて師の横顔を覗き見る。
その表情は、やはり彼にしては珍しいどこか不機嫌そうなもの。
恐らく、兼一は新島の企みについてある程度以上知っているのだろう。

そこまで考えた所で、ギンガはそれ以上の推測を辞める。
代わりに、未だ動揺を隠せずにいる年少者二人の肩に手を置いた。

「二人とも、ちょっと落ち着いて。ね?」
「ギンガさん?」
「もしかして、何か知ってるんですか!」

敢えてボロボロのギンガを連れてきて、わざわざケージの中に一緒に閉じ込める。
そして、そのギンガが落ち着いた様子で二人をなだめようとしているのだ。
偶然で済ますにはでき過ぎと言うものだろう。
故に、二人はギンガも企みに加担しているのではと思ったのだろう。だが、返ってきた答えは……

「いいえ」
「なに……?」
「師匠達が何を考えているのか、私は知らない。
 でも、師匠達がスバルやティアナにとって不利益になるような事をするとは私には思えない。
 だから……………ただ信じるだけよ」

事実、ギンガは此度の策について触りすら知らされてはいない。
故に、正直全く不安がないと言えば嘘になるだろう。
しかし、ギンガの兼一に対する信頼はそんなチンケな不安を大きく上回る。

「二人とも、驚くのはわかるけどもう少し冷静にね。
 あなた達の知ってるフェイトさんは、そんなに不安になるような人なのかな?」
「「……」」

ギンガの問いに、二人は無言のまま首を横に振る。
そんな事はない。二人にとってフェイトは、この世のだれよりも信頼している人だから。

年長者としての威厳を見せるギンガに、兼一は僅かに照れくさそうに頬を掻く。
まったく、ここまで信じてもらえるとは、師匠冥利に尽きると言うものだろう。
フェイト達はそんな師弟に優しい笑みをこぼすのだが、そこへ無粋な声が割って入る。

「ま、お涙ちょうだいもいいが、あんま眼を逸らすなよ」
「てめぇ、少しは浸らせろよな」
「新島さん、色々台無しです……」

元も子もない新島の一言に、一転してすっかり意気消沈する二人。
だが、実際に新島の言う通りでもある。
モニターに視線を向ければ、そこにはティアナのクロスファイアを緩やかな機動で回避し続けるなのはの姿。
しかしその先には、ウィングロードを疾走するスバルが迫っている。

「クロスシフト…だな。コントロールは良いが、キレが悪ぃ。とすると……」
「うん……たぶん、そろそろ」

普段のそれと一見変わらぬ様に見える二人の連携だが、ヴィータとフェイトは違和感に気付いている。
ティアナ達は知らない事だが、あれだけ六課の敷地内でトレーニングしていたのだ。
調べようと思えば何をやっているのか知る事はそう難しくない。

特に今の六課には、そういった情報収集に異常に長ける悪魔もいる。
ティアナ達を策に嵌める以上、彼女らが何を考えているかなど真っ先に調べる事柄だ。
故にティアナ達が奥の手として用意したそれは、既に策に織り込み済み。

なのはは迫るスバルが幻影でないと見抜き誘導弾を放つ。
スバルはそれらを障壁を展開して強引にかいくぐるが、全てを防ぎきる事は出来ず、数発が障壁を抜いてその身体を掠めていく。だが、スバルは躊躇することなく尚突き進み、なのはに向けて拳を振り上げる。

「うりゃぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

それをなのははプロテクションで危なげなく防ぎ、さらには受け流してスバルを突き離す。
一端宙に放り出されたスバルだが、なんとかウィングロードに着地して事なきを得るも、そこへなのはの叱責が飛んだ。

「ダメだよ、スバル! そんな危ない機動!」
「すみません! でも、ちゃんと防ぎますから……!」

スバルの言い訳に、なのはは遠目からもわかる位に顔を曇らせた。
そんななのはの表情が、フェイトの心にさざなみを立てる。

(やっぱり、私がやった方がよかったんじゃ……)

正直、ことここに至っても、フェイトには一抹の不安がある。
新島の策を信用しているとかいないとかではなく、単純になのはが心配なのだ。

今回新島が立てた策は、正直なのはにとっても些か辛いものの筈。
なのはの方が適任と言うのはわかるが、それでも…と思ってしまう。

「あの、新島さん、やっぱり私が……」
「諦めの悪ぃ奴だな。何を今さら……」
「確かにそうかもしれません。でもなのは…部屋に戻ってからもずっとモニターに向かいっぱなしだし、訓練メニューを作ったり、ビデオでみんなの陣形をチェックしたり……今回の事だって、本当はすぐにでも無茶を止めに行きたいのをすごく我慢して……」

正直、それがティアナ達の為とは言え、あのなのはは見ていられなかった。
その上、今回のなのはの役割の一つを考えれば、今の彼女が断腸の想いでいる事は想像に難くない。
ティアナの事はもちろん心配だが、そんな親友の事もフェイトは気がかりでならないのだ。

「やめとけって、な?」

そんなフェイトの肩に手をやり、ヴィータは静かに諭す。
気持ちは分かる。だが、それはもう今更だ。
この機を逃すわけにはいかない以上、もうあとは流れに任せるより他はないのだから。
フェイトとてそれがわからないわけではない。これ以上は駄々であると理解し、彼女は僅かに唇を噛みながらモニターを見つめる。
そこには、スバルと鍔競り合うなのはと、彼女に向けて砲撃を構えるティアが映し出されていた。

「砲撃? ティアナが?」

それがよほど意外だったのか、ギンガは驚いた様に声を漏らす。
しかし、兼一達にはそれほど驚いた様子はない。
当然だ。これも含めて、彼らからすれば全てが予定調和の内なのだから。

「あっちのティアさんは…幻影!?」
「じゃあ、本物は……!」

その言葉通り、先ほどまでなのはに向けて照準を合わせていたティアナの姿が消失する。
代わりにオプティックハイドで隠れていたのか、ウィングロードの上を駆けるティアナが姿を現す。
本物のティアナは移動しながらカートリッジをロード、クロスミラージュの銃口から魔力刃を出力した。

(バリアを切り裂いて、フィールドを突きぬける!!)
「…………もう…いいですよね、新島さん」

スバルの拳を止め続けながら、僅かに顔を俯かせたなのはは小さく呟く。
そんななのはの呟きが聴こえたのか、一層笑みを深めた新島は言った。

「ああ、もう充分だろ。さぁ、ショーを始めるとするか」
(まったく、こいつは……)

兼一は悪友の邪悪な笑みに呆れながら、その手のうちでいくつかの小石を弄ぶ。
視線を転じれば、そこにはなのはの頭上を取ったティアナがウィングロードを蹴って降下を開始。
眼下のなのは目掛けて、燈色の刃を振り下ろす姿が。

「一撃必殺! でぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇ!!!」
「レイジング・ハート……モード・リリース」
《All right》

小さい、あまりにも小さな呟き。
だが同時に、全てを凍てつかせる極寒を孕んだ声。

続くティアナとなのはの接触と同時に衝撃と煙幕が巻き起こる。
兼一達の方にまで届く程の衝撃だが、兼一の拳圧で相殺され最終的に届いたのはそよ風程度。
ケージに守られた子ども達に至っては、それすらも届いていない。

「始まったな」

呟いたのは、いったい誰だったろう。兼一か、新島か、あるいはヴィータか。
いずれにせよ、身体を撫でる様にして吹いた風により煙幕が晴れていくことに変わりはない。
そして、ようやく煙の向こう側が見えてきた時、そこには……

「二人とも、自分が何をやってるか…ちゃんとわかってる?」

レイジング・ハートを待機形態に戻し、代わりに左手でスバルの拳を掴み、右手でティアナの魔力刃を掴むなのはの姿。
その顔は俯いており、表情はうかがい知る事は出来ない。
だが、見えずともわかる事がある。
事実、なのはの正面に立つスバルは、危険極まりない何かを前にした様に竦んでいた。

「頑張ってるのはわかるけど、これは……模擬戦なんだよ。喧嘩なんかじゃ………絶対にない」
「あ、ぁ……」
「ぇ……」

声音は冷静そのもの。しかし、その奥深くに秘められた激情を、スバルとティアナは確かに感じ取っている。
静かな……それでいて、魂の芯まで凍りつかせるような極寒の怒り。
その怒りに飲まれ、スバルとティアナは身動きが取れない。否、動くと言う考え自体が生じない。
この瞬間、なのはの怒りにふれた二人の心と体は凍て付いてた。

「練習の時だけ言う事を聞いてるフリで…本番でこんな危険な無茶をするんなら、練習の意味……ないじゃない」

そこで、ティアナの表情がより一層の強張りを見せ、その瞳が大きく揺らぐ。
刃を掴めば斬れるのが道理。魔力刃を掴んだなのは手からは、少なくない赤い血が滴っていた。

「ちゃんとさ…練習通りにやろうよ」

そんなティアナに気付いていながらも、なのはは淡々と言葉を紡ぐ。
演技など性に合わない。根がまっすぐ過ぎて、嘘等もあまり上手い方ではない。
故にこれは、今のなのはの本心そのもの。

ただ、その怒りはティアナに向けられているものとは若干違う。
確かに今日までティアナ達が隠れて続けてきた無茶への怒り、今やった危険な無茶への怒りは無論ある。
蓄積してきた怒りだけでも、確かにティアナ達を圧倒する位は容易い。

しかし、本当に怒っているのは別の事。
教え子たちにこんな事をさせてしまった自分自身の不甲斐なさ。
わかっていたのに、気付いていたのに、こうなる前になんとかしてやる事の出来なかった至らない自分。
もっと自分がしっかりしていれば、新島の策に頼ることなく、ティアナがここまで追いつめられる事もなく、彼女をちゃんと導く事が出来た筈なのに。
そんな自分自身への怒りが、なのはの心を凍らせていた。

「ねぇ…私の言ってる事、私の訓練……そんなに間違ってる?
 私が教えてきた事は…………『喧嘩』でしかなかったの?」

それは、むしろ自分自身に向けられた問いだったかもしれない。
ゆっくりとなのはは顔を上げ、どこか暗い瞳でティアナの眼を見る。
それが自分達に向けられていると疑わないティアナは気付かなかった。
なのはの怒りの矛先も、その瞳に宿る重い自責にも。

だが、確かにこれが最後の一押し。
限界ギリギリまで膨らんだ風船への、針の一刺しだ。

「っ!」
《Blade release》

なのはの声と視線に耐えられなくなったティアナは、魔力刃を消して後ろへ跳躍。
ウィングロードに着地してクロスミラージュを構えると同時に顔を上げたティアナの眼には、大粒の涙が浮かんでいた。

「あたしは! もう、誰も傷つけたくないから!! 無くしたくないから!!」

堰を切って溢れ出る感情と、感情の激流のままに紡がれる言葉。
これまでなんとか抑え込み、自分の中だけに秘めてきた想いの丈。
しかし、弱り、打ちのめされ、張りつめていた心に限界が訪れた。

「だから……………強くなりたいんです!!!」

向けられた銃口の前には、有りっ丈の魔力を掻き集めて作る砲弾。
現時点でのティアナが可能とする中で、最大威力の砲撃「ファントムブレイザー」。
だが、幾らなんでもこんなやり方でそれが通る筈もない。

しかし、ティアナには最早自分が何をしているかもわかっていなかった。
頭の片隅には「抑えなければ」という思いはあれど、一度解き放たれたそれは止まらない。
それまでの抑圧への反動であるかのように、身体さえもが感情のままに突き動かされて。
そして、そんなティアナになのはは人差し指を向ける。

「私は、あなたたちとは違う!! スバルやエリオみたいな才能も! キャロみたいなレアスキルも! 何も……何もない!! 少しくらい無茶でも、死ぬ気でやらなきゃ強くなんてなれないんです!!
 それの…それのいったい何が悪いって言うんですか!!!」
「少し…頭冷やそうか」

腕回りに出現した環状魔法陣と、さらにその周囲に生成される魔力弾。
だがその最中も、なのはのどこかが痛む。
魔力刃で斬れた手は無論痛いが、そこではない。
痛くて痛くてたまらないのに、それがどこなのかわからなかった。
しかし、一つだけ確かな事がある。

(ああ、私が…泣かせてるんだ)

どこか離れたところで、ティアナを泣かせているのが自分だと自覚する。
その涙を見るのが辛い。ティアナの一言一言がどこかに突き刺さって痛い。

(ごめんね……ごめんね、私のせいで)

大切な教え子を泣かせる自分が情けない。
できるなら今すぐにでも抱きしめてやりたいが、そんな事は自己満足に過ぎない事もわかっている。
ティアナの為にできる事は新島に指示された通り、彼女を叩きのめす事だけ。
そんな事しかしてやれない自分が、尚一層情けなくて死にたくなる。
だがそれでも、それがティアナの為になると言うのなら…せめてそれくらいは、やりとおさないと。

「クロスファイア……」
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ファントムブレイ……!!」
「シュート」

ティアナの砲撃に一歩先んじ、なのはの魔力弾が一斉にティアナへと殺到する。
なのはの手を離れた心なき魔力弾は、無慈悲にティアナへと撃ち込まれた。

「ティア!!!」

一方的に蹂躙される相棒を案じ、スバルはティアナの下へと向かおうとする。
しかし、それより速くなのはのバインドがスバルを拘束。
身動きを封じられたスバルには、あとはただ事の成り行きを見守る事しかできない。

「じっとして、良く見てなさい」

憧れ、尊敬していた筈の相手の想いもしない一面。
なのはの指先はうっすらと晴れた煙の向こう、辛うじて立っているティアナに変わらず向けられていた。
やがてその指先に全ての魔力弾が収束され、先ほどより一層強力なそれとなる。
スバルはそんななのはを止めようと、必死に声を張り上げた。

「なのはさん!!」

そんな声も虚しく、無慈悲にそれは放たれた。
ティアナに向かって、真っ直ぐに。
最早、満身創痍のティアナに回避の術はない。それは、誰の目にも明らかだ。
だが、今まさにティアナ目掛けて桜色の魔力弾が着弾する寸前、ティアナの体が大きく後ろに向けて倒れていく。

「えっ!?」

スバルは今起こった出来事が信じられず、我が目を疑った。
しかし、どんなに疑っても現実は変わらない。
後ろ向きに倒れた事により、魔力弾は寸での所でティアナの真上を素通りしたのだ。

無論、スバルには何が起こったかわからない。
だが、とりあえずは相棒が危機を脱した事に安堵しそうになった所で、スバルは再度目を剥く。

「……」

そこには、無言のまま再度ティアナに狙いを定めるなのはの姿。
一撃ならず二撃。幸い二撃目は外れたが、今度はそれをやりなおすかのような追撃だ。
いくらなんでも、こんなことが許されていいはずがない。
いや、たとえ誰かが許したとしても、自分には認められない。
その瞬間、スバルの思考は白熱し、視界が赤一色に染まる。

「ぁ……」
「?」

スバルの異変に気付き、なのははティアナからスバルへと視線を転じる。
そこには全身から怒気を迸らせる、普段とはまるで雰囲気の一変したスバルがいた。

「うあああああああああああああああああああああああ!!!」
「っ!?」

叫ぶと同時に、スバルを縛るバインドが瞬く間に砕かれた。
仮にもなのははスバル達の教導官だ。どの程度の強度があれば拘束するに十分か、誰よりもよく知っている。
そのなのはが作ったバインドを、スバルは力づくで振りほどいた。
本来ならそれは、決してある筈のない出来事。

(リミッターが、外れてる……)

普段と違い、まるで獣の様に襲い掛かってくるスバルから一端距離を取りつつなのはは理解した。
武術家に限らず、闘争の中に身を置く者はいずれ二つのタイプに分類される。
『心を落ち着かせて闘争心を内に凝縮、冷静かつ計算ずくで戦う』「静」のタイプと『感情を爆発させ、精神と肉体のリミッターを外して本能的に戦う』「動」のタイプ。
その中にあって、スバルは動のタイプを選択したと言う事。ティアナを守る為に……。

「がああああああああああ!!!」
(やっぱり優しいね、スバル……)

魔力弾で迎撃しつつ、一定の距離を保つなのはは心中で思う。
自分の為ではなく、大切な誰かの為に自身のリミッターを外して見せたスバル。
目覚めたばかりでとても動の気を御しきれていないだろうに、それでもスバルはティアナを守る様になのはとティアナの間に立ち続ける。それが、彼女の本質を何よりもよくあらわしていた。

『動』のタイプは一つ間違えると精神のリミッターが外れっぱなしになり、人格が豹変して元に戻らなくなってしまう危険性を孕む。しかし、スバルにその心配は無用だろう。
半暴走とも言える状態にありながら、それでもなおティアナを守ろうとするスバルなら。

(さあ、ティアナ。ティアナはスバルにどう応えるの?)

愚直な突進を続けるスバルをいなしながら、なのははティアナに心中で問いかける。
これほど健気な相棒にティアナはどう応えるのだろう。
元々、罰は一撃目だけ。二撃目が空振りに終わる事は予想通りだった。
新島は「上手くやる」としか言っていなかったが、それくらいは想像できたから。

(速くしないと、先にスバルが落ちちゃうよ)

なのははスバルの気概を買い、一端ティアナを攻撃対象から外しスバルにのみ集中する。
当然、そうなればスバルはあっという間にジリ貧だ。
元々の地力に大きく差がある上に、ベテランのなのはからすれば半分暴走しているスバルの猪突猛進をあしらうことなど容易い。
どれほど突っ込んできても、絶妙な機動と誘導弾の操作でスバルを近づけない。
そして当のティアナは、のそのそとウィングロードの上で身体を起こし、二人の闘いをぼんやりと見つめていた。

「す…ばる?」

朦朧とする頭では思考が纏まらない。
連日連夜の無理な訓練で蓄積した疲労が、なのはの一撃で噴出したのだろう。

なぜか額に鈍痛がするが、その訳を考察する力すら今のティアナにはない。
彼女はただ、人が変わったように勇猛果敢に…いっそ無謀とも言える特攻を仕掛けるスバルを見ている。
その闘いはスバルの心中を現す様に、燃え上がる炎の様に激しく、爆発しているかのように強力だ。

「―――――――――――――――――っ!!!」

ついさっきまでのスバルとは何もかもがまるで違う。
闘い方だけでなく、力も、速さも、技のキレも、勘の鋭さも。

普段のティアナなら、そんな急成長を遂げた相棒への劣等感を感じていただろう。
だが、今の疲れ切った彼女にはそれを感じる余力すらない。
あるいは、それがかえって彼女の心を落ち着かせているのだろうか。

「ぁ……」

しかし、その間にも二人の闘いは続く。
いや、徐々にそれは闘いとは言えなくなってきていた。
無謀な特攻を続けるスバルと、洗練された戦術でその全てを受け流すなのは。
最終的に行きつく先は、目に見えていた。

スバルは雨霰と降り注ぐ魔力弾を強引に掻き分けていく。
当然ながら、とてもではないがスバルは無傷では済まない。
大半はシールドやバリアで防いでいるが、要所要所でなのはの一撃が通っている。
後一歩と言う所まで迫りながら、その一撃で動きが鈍った瞬間に距離を取られてしまうの繰り返し。
これでは、いつまでたってもスバルの拳はなのはに届かない。
それどころか、いずれは消耗し尽くす事は明白だ。

「守…らなきゃ……」

特に意識することなく漏れた呟き。
スバルは潜在能力と可能性は凄まじいが、まだまだ危なっかしくて放っておけない。
だから自分がサポートして、守ってやらないと。
それが、いつの間にか当たり前になったティアナの認識だった。

ティアナは重い身体をゆっくりと動かして立ち上がり、クロスミラージュを構える。
カートリッジをロードすることなく展開される、五発の魔力弾。
これでは到底スバルに迫る魔力弾の全てを防ぐ事は出来ない。

だが、それでも構わずティアナは魔力弾を放つ。
五発の魔力弾はまっすぐにスバルへと向かい、シールドを回り込んで迫る魔力弾を撃墜した。

その後も、スバルへと迫る魔力弾の中で、防ぎきれない物だけを選別してティアナは撃墜していく。
なのはもティアナの復帰に気付いたようで、再度ティアナを攻撃対象に入れる。
しかし自身に迫る光弾さえも、ティアナは足を止めて着実に堅実に撃ち落としていく。

特に複雑に思考を巡らしての事ではない。それ以前に、今のティアナにそれだけの思考力すら残されてはいない。
だが疲労により虚ろな筈の思考の片隅で、ティアナは思う。

(…………静か、だな)

轟音が轟く訓練場にありながら、自身の息遣いがやけに大きく聞こえる程の静寂。
その中でティアナは、自身の領域を感覚的に把握し掌握していた。

どこまでが自分の射程なのか。
いくつの魔力弾が、どのような軌道を描き、スバルに迫っているのか。
はっきりとしない思考とは対照的に、感覚が研ぎ澄まされ、どこまでも広がっていくかの様な不思議な感触。
それが、心を静める『静』のタイプ特有の感覚だとは知らないままに。



  *  *  *  *  *



「よ~しよし、ドンピシャだな」
「全く…冷や冷やさせてくれるな、お前は」
「良いじゃねぇか、上手くいったんだからよ」

新島は人差し指と親指で作った輪…「新島アイ」で再開された模擬戦を覗きながら愉快そうに笑う。
その隣に立つ兼一は、右手の親指に乗せた小石を捨てながら非難がましい視線を悪友に送っていた。

先ほど、なのはの二撃目からティアナを救ったのがこれだ。
親指の力で小石を弾き、ティアナの額を狙撃したのである。
まさしく、達人級の視力と指の力、そして精度があって初めて可能にする技術だ。

「ティアさん、凄い……」
「う、うん」

キャロとエリオは、そんな兼一達の会話に気付いた様子もなく、ただただ圧倒された様にモニターを注視する。
そこには怒涛の進撃を見せるスバルと、そんなスバルを完璧にサポートしつつ、自身もまたなのはへ攻撃するティアナの姿。

スバルの猛攻にも圧倒されたが、それ以上に今のティアナは凄まじい。
動きは流れるように滑らかで、一つ一つに無駄がない様に二人には映る。
だが、そんな二人に向けて新島は全く逆の事を言う。

「そうか? あれ位当然だろ?」
「な、何言ってるんですか! 今のティアさん、これまでと全然……!」
「そ、そうですよ!」
「いや、ムカつくが今回ばっかりはあたしも同感だ」
「「ヴィータ副隊長!?」」

まさかヴィータが新島に同意するとは思わず、驚きを露わにする二人。
しかし、ヴィータに意見を覆そうとする様子はない。
それも当然。なぜならアレこそが、ティアナ・ランスターの本来あるべき姿なのだから。

「別にティアナはなんも特別な事なんかしてねぇ。
 脚は止めて、視野は広く保つ…んでもって、相手に合わせて弾丸を選び、中長距離を制する。
 全部、なのはが嫌って程叩き込んできた事だ。今のティアナは、ただそれを忠実に実行してるだけなんだよ」
「でも、あんな状態で……」

あれほどまでに、洗練された動きが可能なのだろうか。
そんなエリオの疑問に対し、兼一は首を振って否定する。

「違うよ、エリオ君。むしろ、あんな状態だからこそなんだ」
「どういう事ですか、兼一さん?」
「人間、どんなにぼんやりとしていても歩き方を忘れたりはしないでしょ? それと同じでね、疲労とダメージで意識が朦朧としていても、何度も繰り返して染み着かせたものはなくならない。
 身体の動かし方、必要な思考の組み立て方。その全てを、ティアナちゃんは条件反射の域で身に付けてる。身に付けられるほどの、蓄積があったって事さ」

それを聞き、エリオとキャロは呆気にとられ、ギンガは若干顔を青ざめさせた。
武術を身体の芯にまで叩きこむと、意識がなくても条件反射的に闘う事がある。
今のティアナは丁度それに近い状態なのだが、どうやらギンガにも思い当たる節があるらしい。
何しろ彼女の師は、むしろ意識がない方が技のキレが増すと言う常軌を逸した武術家なのだから。

「ま、言っちまえばアレがあの小娘の本来の実力ってこった」
『実…力……』
「気負い過ぎてテンパって、必要以上肩に力が入っていれば、そりゃ実力を発揮できるわけがねぇわな。
 いいか、勘違いするなよ、ガキ共。アイツはたった今急激に強くなったんじゃねぇ。余計な力が抜けて、本来持ってるものを充分に引き出せるようになっただけだ」

その意味では、兼一とは違った意味で、ティアナは全力を出す事が苦手だったと言えるかもしれない。
兼一はその『甘い』とも言える性格から。ティアナは、自分自身を追い詰めてしまうあまりに。
だが逆を言えば、その足枷さえ外れてしまえば、ティアナはその本来の実力を発揮できる事になる。

そして、今彼らの眼前で繰り広げられる模擬戦がそれだ。
スバルの特攻をティアナがサポートし、同時になのはと中・長距離における主導権の奪い合いまでこなす。
少し前のティアナには到底出来なかったそれも、今ならできる。

いや、本来ならできるだけの力は既にあって、やっとそれを使いこなしているだけ。
そんな教え子を前に、なのはは微かに……………………笑っていた。

「なのは…嬉しそう」
「それは…そうでしょうね。指導者としては、冥利に尽きるとしか言いようがありませんから」

そう、まさに今のティアナのそれは指導者冥利に尽きると言うものだろう。
先ほど見せた付け焼刃の無茶とは違う。
丹念に、丁寧に…いっそ神経質な程緻密になのはがティアナの中に積み上げてきた訓練の成果。
それが今、一つの結晶となって姿を現したのだから。
例えまだまだ小さく、不完全であったとしても…それは指導者として、何にも勝る喜びだ。

ギンガと言う弟子を持つ身として、兼一にはなのはの歓喜が理解できた。
きっと今のなのはは、溢れだしそうになる涙を堪えるので必死に違いない。
同時に思う。かつて自分に多くの教えを授けてくれた師達も、同じ喜びを抱いていたのだろうかと。
とそこで、ギンガが一つの疑問を呈する。

「でも、なんでまたこんな危なっかしいやり方を? スバルとティアナが分かれ道にいたのは…これを見ればわかりますけど、もう少し穏便なやり方もあったんじゃ……」
「できれば、あたしらもそうしたかったんだけどな」
「え?」
「この前の一件以来、ティアナちゃんは『力』そのものを求めて無茶を続けてきた。僕も覚えがあるけど、これはとても危険な状態だ。そこでこの悪魔が……」

口八丁で皆をそそのかしたわけだ。
具体的には『いっそのこと余計なことに頭が回らなくなる位、徹底的に追い詰めちまえば、一周回って頭も冷えるだろうぜ』と。
まぁ、確かにその通りの状況になり、実際にティアナが『静』のタイプを選んだのは事実だが……。

それでも、できるならもうすこしゆっくりと時間をかけてやりたかったのが本音だ。
しかし、そうも言っていられない状況だったのも事実。
下手をすると、ティアナが修羅道に落ちていた可能性すらもあるのだから。
それを考えれば、何はともあれいい方向に転んでいる様なのだからよしとすべきだろう。

「まぁ、スバルちゃんの事は完全に予想外だったわけだが……」

ジロリと、兼一は咎めるような視線で新島を睨む。
なのは達だけでなく、この点に関しては兼一すらも聞いていない。
ティアナの事は確かに上手くいったが、逆にスバルが危険な事になっていたかもしれないのだ。

「そう睨むなって。あっちのガキはどこか自分を抑え込んでる節があったからな。
 ならいっそ、この機に乗じてそのタガを外してやろうと思ったわけよ」

本当に、この男の観察眼はどういうレベルに達しているのやら。
スバルが自分を抑え込んでいる訳を知るギンガは、その常軌を逸した眼力に戦慄を覚える。

「ま、まぁ、とりあえず二人とも一皮むけたのは事実ですし……」
「そう…ですね。そうじゃなかったらさすがに僕もどうしてたかわかりませんが……」

とりなす様に苦笑いを浮かべるフェイトだが、相変わらず兼一の新島への視線はひたすら白い。
が、当然ながら新島がこの程度で恐れ入る筈もなし。
最終的には兼一もその無駄を悟り、溜め息交じりにギンガへと話題を振る。

「でも、確かにフェイト隊長の言う通り、二人が殻を破ったのは事実だ。
 たぶん、二人はこれからさらに伸びる。ギンガも、うかうかしてると危ないよ」
「ぅ…は、はい」

さすがに、まだ二人との間にも差はあるが、安心ばかりもしていられない。
この数カ月でギンガは大きく成長した。それと同じ位、あるいはそれ以上の成長を二人がしないとは言い切れない以上、ギンガ自身もさらに腕を磨かなければと気合が入る。
しかし、それは同時にさらに地獄の深さが増す事も意味するだけに、色々と顔色が優れない。

「さて、俺様は行くぜ。そろそろ約束の時間なんでな」
「なんだ、最後まで見ていかねぇのかよ」
「見るまでもねぇ。それに、こっちに時間を割き過ぎちまってな、予定が押してんだ」

実際、本来は新島にも何らかの思惑、予定があってこちらに来た。
そうである以上、あまり六課の問題に時間を割き過ぎるわけにはいかない。
むしろ、これだけ時間をかける事自体予定外だった筈だ。
その意味で言えば、新島には最後まで見届ける時間的余裕がないとも言えるだろう。

「ま、この後の事は手筈通りにな。何かあった時は『アレ』使えば、まぁなんとかなるだろ。
 それでもダメな時には連絡してこい、連絡先は兼一とチビダヌキが知ってるからよ」

この場は離れるとしても、最後まで責任を持つのは策士としてのプライド故か。
というか、この男はいつの間にはやての愛称を知ったのやら……。

「あの……ありがとうございました!」

そう言って頭を下げるのはフェイト。
エリオやキャロ、それにギンガも彼女に倣って新島に対して頭を下げた。
兼一とヴィータも、渋々ではあるがそれぞれの形で謝意を表す。
そうして、新島がその場から姿を消すのと奇しくも同じタイミングで、スバルとティアナは惜しくも撃墜された。






あとがき

遅くなりました。遅くなったので、今回は久しぶりの2話同時更新です。
と言っても、単に量が増え過ぎて二つに分けただけですが……。

とりあえず、模擬戦の方はこれで終了です。
同時に、ティアナとスバルはそれぞれ一皮むけました。
スバルは言うまでもないでしょうが、ティアナは肩の力を少し抜く位で丁度いいと思うんですよ。
とは言え、ああいう性格なので器用にリラックスなんてできそうにありませんし、この頃なら尚更です。
そこで、徹底的に追い詰めて精神的にも肉体的に一杯一杯になった上で軽くブッ飛ばされれば、良い具合になるんじゃないかなぁと思っての展開でした。


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