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No.25730の一覧
[0] 【完結・改訂完了】リリカルなのはSts異伝~子連れ武人活人劇~(×史上最強の弟子ケンイチ)[やみなべ](2013/07/16 20:55)
[1] BATTLE 0「翼は散りて」[やみなべ](2013/07/16 00:16)
[2] BATTLE 1「陸士108部隊」[やみなべ](2013/07/16 00:17)
[3] BATTLE 2「新たな家族」[やみなべ](2013/07/16 00:17)
[4] BATTLE 3「昼の顔、夜の顔」[やみなべ](2013/07/16 00:18)
[5] BATTLE 4「星を継ぐ者達」 [やみなべ](2013/07/16 00:18)
[6] BATTLE 5「不協和音」 [やみなべ](2013/07/16 00:19)
[7] BATTLE 6「雛鳥の想い」 [やみなべ](2013/07/16 00:19)
[8] BATTLE 7「一人多国籍軍、起つ」[やみなべ](2013/07/16 00:20)
[9] BATTLE 8「断崖への一歩」[やみなべ](2013/07/16 00:20)
[10] BATTLE 9「地獄巡り 入門編」[やみなべ](2013/07/16 00:21)
[11] BATTLE 10「古巣への帰還」 [やみなべ](2013/07/16 00:21)
[12] BATTLE 11「旅立ち」[やみなべ](2013/07/16 00:22)
[13] BATTLE 12「地獄巡り 内弟子編」[やみなべ](2013/07/16 00:22)
[14] BATTLE 13「誕生 史上最強の○○」[やみなべ](2013/07/16 00:24)
[15] BATTLE 14「機動六課」[やみなべ](2013/07/16 00:25)
[16] BATTLE 15「エースの疑念」[やみなべ](2013/07/16 00:26)
[17] BATTLE 16「5年越しの再会」[やみなべ](2013/07/16 20:55)
[18] BATTLE 17「それぞれの事情」[やみなべ](2013/07/16 00:27)
[19] BATTLE 18「勢揃い」[やみなべ](2013/07/16 20:54)
[20] BATTLE 19「守護の拳」[やみなべ](2013/07/16 00:28)
[21] BATTLE 20「機動六課の穏やかな一日」[やみなべ](2013/07/16 00:29)
[22] BATTLE 21「初陣」[やみなべ](2013/07/16 20:53)
[23] BATTLE 22「エンブレム」[やみなべ](2013/07/16 20:52)
[24] BATTLE 23「武の世界」[やみなべ](2013/07/16 20:52)
[25] BATTLE 24「帰郷」[やみなべ](2013/07/16 00:34)
[26] BATTLE 25「前夜」[やみなべ](2013/07/16 00:34)
[27] BATTLE 26「天賦と凡庸」[やみなべ](2013/07/16 20:51)
[28] BATTLE 27「友」[やみなべ](2013/07/16 00:38)
[29] BATTLE 28「無拍子」[やみなべ](2013/07/16 00:38)
[30] BATTLE 29「悪魔、降臨す」[やみなべ](2013/07/17 21:15)
[31] BATTLE 30「羽化の時」[やみなべ](2013/07/16 00:39)
[32] BATTLE 31「嵐の後で」[やみなべ](2013/07/16 00:40)
[33] BATTLE 32「地獄巡り~道連れ編~」[やみなべ](2013/07/16 00:41)
[34] BATTLE 33「迷い子」[やみなべ](2013/07/16 20:50)
[35] BATTLE 34「I・S」[やみなべ](2013/07/16 20:50)
[36] リクエスト企画パート1「vivid編 第一話(予定)」[やみなべ](2013/07/16 00:43)
[37] BATTLE 35「ファースト・コンタクト」[やみなべ](2013/07/16 00:43)
[38] BATTLE 36「お子様散策記」[やみなべ](2013/07/16 00:44)
[39] BATTLE 37「強い奴らに会いに行け!」[やみなべ](2013/08/01 03:45)
[40] BATTLE 38「祭囃子」[やみなべ](2013/07/16 00:45)
[41] BATTLE 39「機動六課防衛戦」[やみなべ](2013/07/16 00:45)
[42] BATTLE 40「羽撃く翼」[やみなべ](2013/07/16 00:46)
[43] BATTLE 41「地獄巡り~組手編~」[やみなべ](2013/07/16 00:46)
[44] BATTLE 42「闘いの流儀」[やみなべ](2013/07/16 00:47)
[45] BATTLE 43「無限の欲望」[やみなべ](2013/07/16 00:47)
[46] BATTLE 44「奥の手」[やみなべ](2013/07/16 00:48)
[47] BATTLE 45「絆」[やみなべ](2013/07/16 00:48)
[48] BATTLE 46「受け継がれた拳」[やみなべ](2013/07/16 00:49)
[49] BATTLE 47「武人」[やみなべ](2013/07/16 20:49)
[50] BATTLE FINAL「それぞれの道へ」[やみなべ](2013/07/16 00:50)
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[25730] BATTLE 22「エンブレム」
Name: やみなべ◆33f06a11 ID:1963cf14 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/07/16 20:52

そこは、いずことも知れぬ閉ざされた一室。
照明は暗く、調度こそ整っているが、それがかえって無機質な印象を与える、そんな部屋。

常人ならば居心地の悪さすら感じそうなものなのだが、その主はそうと感じてはいない。
まぁ、その人物の趣味を反映して作られているのだから、それは当然なのだろう。
しかしその事実こそが、この部屋の主が『普通』から逸脱している事を証明するわけだが。

そんな部屋の主。紫紺の髪の白衣の男は、中空の大型モニターを注視している。
モニターに映っているのは、山岳地帯を走る列車とそれに取りつく機械群。中には崖上や崖下、あるいは空からも迫っている。
だが、その人物の視線を独占するのはそんな木偶どもではなく、それらを撃破する少年少女達。
その瞳は、まるで新しいおもちゃを手にした子どもの様だ。
だがそこで、唐突にモニターの一角に女性の顔が映し出された。

「このままでは彼女達に確保されてしまいますが、いかがいたしましょう。増援を送りますか?」
「ふむ…やめておこう。レリックは惜しいが……」

そこまで言ったところで、唐突にその人物は口を噤み、顎に指をやって思案に入る。
視線の先には、密林の中で機械兵器を次々破壊していく青い長髪の少女。

「いや、やはり頼めるかい」
「では、3機種合わせて百機ほど……」
「余興でそこまでやる必要はないさ。出すのは2機だけで良い」
「ですが、それでは……」

意味がないのではないか。
実際、映像を見る限り1機や2機増やした所で意味があるとは思えない。
何しろ、列車で戦っている面々ですら、一度に十数機の機械兵器を相手にしてもものともしていないのだ。

「ああ、だからその代わりに“アレ”を出そう。
 余興とは言え手を抜いては失礼だ。より楽しんでもらえるよう、少しくらいアクセントが欲しいじゃないか」
「よろしいのですか?」
「ヒントは出してあるし、他に何か気付いたとしてもタカが知れている。
研究の副産物とはいえ、アレも所詮はおもちゃだ。
おもちゃはおもちゃらしく、子ども達の遊び相手になるのが分相応だよ」
「承知しました。それならば目標は……」
「ああ、片方は彼女に、もう片方は一応レリックに設定しておいてくれ。まぁ、どのみちリニアレールには彼がいる。大人の相手は、おもちゃには荷が勝ち過ぎるからね。正直、レリックの方は物のついでさ」
「承知いたしました」

伝えるべき事を伝えると、恭しい一礼と共に女性の映ったモニターが閉ざされる。
続いて、部屋の主は別の誰かへの回線を開いた。

「私だ。面白そうな出しものが始まるのだが、そちらを切り上げて君もどうかね?
 連日おもちゃと遊んでばかりで、そろそろ飽きてきた頃だと思うのだが」

通信先の人物は、男の提案に諸手を上げて賛意を示す。
その声音は喜色に富み、新たな刺激への渇望を感じさせた。

そのまま2・3言葉を交わし、大急ぎで部屋に向かうと応えてその人物は通信を切る。
男はそんな相手の反応に「やれやれ」とばかりに肩をすくめながら、再度モニターへと視線を移す。

「それにしても、この案件は実にすばらしい。
生きて動いているプロジェクトFの残滓、タイプゼロ、そして…………………………達人級(マスタークラス)とその弟子、か。
滅多にいない希少種にお目にかかれるとは、私も運が良い。
どれもこれも、私の研究にとって興味深い素材ばかりだ」

達人、それは管理世界ではまずめぐり合う事のない人種。
一般人はおろか、時空管理局内部でも知る物の少ない規格外の生き物。
何故この男がその存在を知っているのか、その理由は思いの外単純だった。

「それも彼は、かつて数多の次元犯罪者を怖れ慄かせた悪夢、あの『無敵超人』の縁者。
 できれば現在の彼の詳細なデータが欲しいが……今は諦めるしかないのが口惜しいな。
 データを取るには、こちらも準備不足と言わざるを得ない」

その声音には言うほどの無念は感じられず、むしろその事も含めて諸手を挙げて歓迎している雰囲気すらあった。
なにしろ、その表情は先ほどまでと変わらぬ余裕と喜びに満ち満ちている。

だが、これでこの男がなぜ『達人』を知るのかが判明した。
『無敵超人』風林寺隼人はかつて、執務官長も務めたギル・グレアムと行動を共にしていた時期がある。
彼の尽力もありその存在を知る者はあまり多くないが、情報を完全に統制する事は出来なかった。
特に、裏社会におけるネットワーク内では、その存在は今なお語り継がれている。
長い時間を経て、大抵の者は眉唾物の都市伝説の類と思っているだろう。
しかし、中にはその真偽を確かめた者もいた。その全てが真相に辿り着いたわけではないが、中には辿り着いた者もいる。例えば、この男の様に。

「まぁ、今のところは彼女達のデータをとれる事で満足するとしよう。
 だが、おまけくらいは期待しても罰は当たらないかな?」



BATTLE 22「エンブレム」



リニアレールが走る山岳地帯の崖上。
通常であれば深い緑に覆われ、山鳥のさえずりや草木が風に揺れる音が心に染入る筈の場所。
しかし、今その場を埋め尽くすのは、未だ火花を撒き散らし、所々で小規模な爆発を起こす徹底的に破壊し尽くされた機械群。
そんな破壊の痕跡が散らばる場所だが、まだ何も終わっていない。

「ちぇす!!」

気合の籠った声と共に、ガジェットⅠ型の単眼を鋭い貫手が貫通した。
内部からはバチバチと回路がショートする音が漏れ、爆発が近い事をわかる。
青い長髪の少女、ギンガはそれが爆発するより前に近場にいたガジェット目掛けて投げつける。

2機のガジェットは鈍い音を立てて衝突し、折よく投げつけられた方は爆発。
それに巻き込まれてもう1機も連鎖的に爆発し沈黙した。

また、ギンガは同時に真横から迫っていたガジェットの触手を逆に掴む。
それを思い切り引っ張り、擦れ違いざまに拳で一撃。
さらに背後から迫っていた光線を、身体を傾ける事で回避。
その結果、回避した光線はギンガがたった今殴りつけたガジェットに命中し、そのボディーに風穴を開けた。
そして……

「ブリッツキャリバー!」
《Load cartridge》

新たに得た相棒「ブリッツキャリバー」はギンガの意図を汲み取り、カートリッジを撃発させる。
迸る魔力を拳に集中させ、左拳を覆うリボルバーナックルが唸りを上げた。
そのままギンガはその場で反転、右横より迫っていたガジェットに振り向きざまの裏拳を叩きこむ。

ガジェットの装甲は重い一撃によりひしゃげ、黒煙を吹いて活動を停止。
しかしその間に周囲を包囲され、今はまさに敵陣真っ只中。
ガジェット達はこの好機を逃すことなく、幾条もの光線を放つ。
ギンガはそれを左手の前に展開した「トライシールド」で防ぎ、その間にブリッツキャリバーが動いた。

「っ!」
《Wing Road》

足元から伸びた光の帯に乗り、ローラーブーツ型デバイスであるブリッツキャリバーは疾走する。
垂直にも等しい急勾配を駆け上がり、ガジェットの包囲網から脱出。
その際置き土産とばかりに放ったリボルバーシュートがガジェットの1機を撃破。

続いてウイングロードを蹴ったギンガは空中に身を躍らせ、高々と足を振り上げながら落下。
落下の勢いを利用し、そのまま一気にガジェットへと「踵落とし」を放つ。

「いやぁぁぁあぁ!!」

本人の自重と鍛え抜かれた脚力に加え、ただでさえ重いブリッツキャリバーに重力による加速。
これらの要素が合わさったその一撃は尋常な威力ではなく、それなりの大きさがあるガジェットを見事に蹴り潰すことに成功する。

そのままギンガは立ち上がりざまにガジェットを両手で挟み、真正面から「カウ・ロイ」へとつなげた。
強烈な膝により機能を停止したガジェットだが、ギンガはそれに目もくれずに払いのけ、その先にいる敵へ狙いを定める。

「ハッ!!」

一際深い踏み込みと同時に、左肘を外腕部へ捻る様にしながら突き上げた。
八極拳の代表的な肘技「裡門頂肘」である。

だが、機械仕掛けのガジェットといえどやられっぱなしでいるとは限らない。
ガジェット達は近づくのは危険と判断したのか、各々その赤いコード状の触手をギンガへと伸ばす。
触手を絡め、動きを封じてからと言う考えなのだろう。
しかしその瞬間、ギンガの右腕が再度閃いた。

手刀の一閃により切り刻まれる赤い触手。
ギンガはそれに構うことなく間合いを詰め、返す刀でガジェットを切り上げる。

「へあっ!」

猫手に曲げた手刀の反対側を利用した「背刀打ち」を受け、ガジェットが面白い様に弾き飛ばされる。
同時に、硬く握りしめられた左拳がガジェット達を殴りつけ、瞬く間に薙ぎ払われていく。

そうしてなのは達の期待通り、危なげなくガジェットⅠ型の群れを撃破したギンガ。
残存する敵がない事を確認した彼女は、ようやく肩から力を抜いた。

「ふぅ~……さすがに、こう数が多いと疲れるわね」

とは言う物の、その表情に浮かんだ疲労の色は微々たるもの。
ティアナの様な魔力その物で攻撃するタイプに比べ、ギンガのように自身の肉体を強化することをメインとするタイプは、まだAMFの影響が薄く済む。
なにより、如何に厄介なAMFを発生させるとはいえ、連日の訓練で行動パターンも対処法も身体に染み着いている。
故に、今やギンガにとってガジェットなど、雑魚や雑兵の類でしかない。
気を引き締め、油断さえしなければ不覚を取る事などまずないだろう。

だが、口からこぼれた言葉もまた、あながち間違いという訳でもない。
ただし、肉体的な疲労でなく精神的な疲労という意味だが。

なにしろ、同じ形、同じ性能、同じ戦術。それが延々と続くのだ。
黙々とこなすルーチンワークも決して嫌いではないが…いい加減、辟易してきたというのが本音である。
なのは達と違い、ギンガには纏めて一網打尽にする類の攻撃手段がない。
そのため、一体一体潰していかなければならず、それが精神的な疲労を助長させているのだ。

とはいえ、これでこの辺り一帯のガジェットはあらかた処分できた筈である。
すなわち、この緊張感だけは持続させなければならない作業からも解放されたと言う事。
ならば、次にどう行動すべきかをギンガは思案し始める。

「さて、これから……どうしようかしら?」
《加勢にはいかれないのですか?》
「う~ん、リニアレールは師匠がいるから行っても無駄だろうし、その点はフェイトさん達でも同じでしょうねぇ……」

行ったところで、足手まといになるのが関の山。
如何に雑魚同然のガジェットとは言え、兼一がいる以上ギンガが役に立つ可能性は薄い。
かと言って上空を見上げれば、どうやらこちらよりも遥かに数が多いらしく、今もなお分隊長二人は盛大に無数のガジェットを爆散している真っ最中。
というより、桜色と金色の光が複雑な軌道を描いて縦横無尽に空を翔けるその姿は、ある種の『舞い』の様だ。
ただ、「華麗」や「優美」といった感想を抱くより前に、ギンガの脳裏をよぎったのは別の表現だった。

(なんていうか、本当に…………仲が良いなぁ)

動きを見るだけでも、そんな印象を抱いてしまう。
それだけ二人の連携が完成されていると言う事なのかもしれないが、むしろアレは「二人きりの世界」の様にさえ見えてしまう。
一応は空戦にも対応可能な魔法を持つギンガだが、実力的にあそこに入って行っても意味があるとは思えない。
同時に、空気的にも入っていけない気もするのだが。
だが、そんなギンガの沈黙をどうとらえたのか、新たな相棒はあくまでも生真面目な提案をしてくる。

《判断がつかないのでしたら、上官に判断を仰ぐのもよろしいのでは?》

ブリッツキャリバーからの進言は実に模範的だ。
まぁ別に間違っているわけではないのだが、なにやら微笑ましいものを感じてしまう。
なるほど、確かにこれは生まれたばかりだ、と。

「そうね。でも、こんな事で手を煩わせたくないかな?」

新人ならいざ知らず、そこそこ経験を積んだのならある程度は自分で判断しないと。
そういう能力もあると思ってくれたからこそ、部隊長は自分を遊撃要員にしてくれたのだと思う。
ならば、その信頼にこたえたい。

まぁどちらにせよ、なのはやフェイトを除けば自分は一番の高台にいる。
ならば、一端降りて様子を見てから判断しても良いだろう。
そう考えた所で、突如ブリッツキャリバーが警報を伝えた。

《マスター!》
「っ!?」

ブリッツキャリバーが警報を発するのとほぼ同時に、ギンガはある一点に向けて視線を向け、構えを取る。
理由はわからない。ただ、戦闘後間もない事もあって研ぎ澄まされた感覚が、何かを掴んだのだ。

(あれは……なに?)

森の奥から姿を現したのは、人のシルエットをした別の何か。
腕もある、足もある、胴体もあればやけに細長いが頭の様な物もある。
肌の露出はなく、代わりにその全身は銀と薄い青の金属製の装甲で覆われている。
まるで、ガジェットの装甲を鎧として人間に装着させたかのようだ。

また、眼がある筈の部分には黄色のカメラが一つ、背中からは赤いコードが触手の様に伸びている。
これらもまた、ガジェットと非常に酷似していると言えるだろう。

そのため、基本的な形は人間のそれなのだが、人間味と言うべきものがない。
しかし万が一にも人間の可能性も捨てきれない。
故にギンガは、小さくブリッツキャリバーに問うた。

「ブリッツキャリバー」
《解析終了。生命反応なし、またAMFの発生を感知。ガジェットと同様の機械兵器と思われます》
「そう」

相棒からの返事に、ギンガは小さくうなずく。
ガジェットには航空型もいるし、新型のガジェットと言うのであれば、今まさに師が一緒にいるライトニングも遭遇したという報告が来たばかり。ならば、さらに新型がいても別に不思議はない。

そして、だからこそ油断は禁物。
相手は一切の情報がない新型機。それも、これまでのガジェットとは明らかに趣が異なる。
ただでさえ性能がわからない上、第六感が警鐘を鳴らすこの趣の違いが何を意味するのかもわからない。
充分な警戒の下、細心の注意を払って対処すべきだ。
そうギンガが判断した矢先、それは動いた。

「――――――――」
「っ!?」

唐突に、一見すると何の前触れもないかのように動いたそれが放ったのは、一足飛びからの膝蹴り。
ギンガはそれを寸での所で回避し、敵機の行方を眼で追う。

(今のって、まさか……)

嫌な既視感が頭の中を席巻する。
先の一撃には、なんと言うか……嫌と言うほど見覚えがあった。
それはもう、夢に出るのではないかと言うほど記憶に刻みつけられた動きだ。

しかし、一度や二度なら単なる偶然と言う可能性もある。
それよりも、今ので確信した事の方が重要だ。

「……近接、格闘型」

通常のガジェットなら、あそこはまず先制として光線を放つ。
あるいは触手による牽制でもしてくるところだろう。
だが今回の相手は、そのどちらでもなく直接的な打撃を仕掛けてきた。

同時に納得する。
なるほど、確かにそれなら他のガジェットとは趣が異なって当然だ。
打撃を仕掛けるのなら、当然四肢のある…つまり、人間の形を模した方が効率的。
人外の形をした上で、それに相応しい打撃による戦闘法をプログラミングするという方法もあるが、あまり最適とは言えない。
一々そんなものを開発するくらいなら、既存の格闘技とそれを使う為の人間型の機会を作った方が遥かにマシ。
何しろ格闘技とは、長い年月の中で淘汰され、研磨された技術の結晶なのだから。

「格闘型の魔導師に、格闘型の機械兵器をぶつける…か。どこのだれか知らないけど、良い趣味してるわ」

ギンガはこの場にいない誰かに向け、彼女にしては珍しく皮肉気に小さく呟く。
その間に敵はどこか泰然とした態度でゆっくりとギンガの方へ振り向く。
その様は洗練されていながらも、第一印象と違いどこか人間臭い。
まるで実在する人間の情報をデータ化し、それを植え付けたかのように。

(って、あったっけ、そういう技術)

ギンガの脳裏に、とある違法研究の概要が浮かぶ。
彼女とも全くの無縁とは言えないあの技術は、そう言えば記憶を転写する事によって死者を蘇生しようという試みだった筈。その技術を用いれば、もしかしたら人間が持つ技術を機械に植え付けることもできるかもしれない。

しかし、今のギンガにはあまり悠長にその可能性について思考する余裕はなかった。
何しろその可能性が正しいのなら、相手は確かな技術を持つ格闘技者も同然。
先の一撃から推察するに、その技量はかなり高い。
ならば、油断などしている猶予はない。

「―――――――」
(来た!?)

今度は出会い頭の不意打ちなどではないが、駆け寄る様にして間合いを詰めて来る。
ギンガは一瞬どう対処するか悩み、すぐに腹をくくった。
自身の脳裏をよぎったある可能性が、本当に正しいのかどうかを確かめる為に。

「セイッ!」

相手に合わせる様にギンガも間合いを詰め、なんの変哲もない突きを放つ。
敵はそれを取り、そのまま身体を腕に沿って回転させ背後を回ると、首筋へと肘打ち。
ギンガの回避は間に合わず、吸い込まれるようにして肘が突き刺さった。

「――――――」

だが、その手応えがおかしい事に相手は気付いただろうか。
いや、気付いていようがいまいが同じ事。
ギンガの体は背後の敵へと預けられ、その瞬間大地が震えた。

「甘い!!」

強烈な震脚と共に、強烈な発剄が叩きこまれる。
八極拳の一手、「貼山靠(てんざんこう)」。
肩で体当たりし内部の勁と外部の打撃を同時に与える技だ。

ギンガは肘が突き刺さるその瞬間、首筋に小さなバリアを展開。
それにより直撃を防ぎ、逃れようのない密着状態へと持ち込んだのだ。とはいえ……

(くぅ…さすがにこれだけ密着すると、AMFの影響も大きい)

確かにバリアで粗方は防いだが、その衝撃の全てを殺しきるには足りなかったと見える。
密かに苦悶の表情を浮かべつつ、ギンガは大きく弾き飛ばされた敵に追撃をかけに行く。
しかしその敵は、軽く地面で一転すると即座に立ちあがり構えを取った。

(手応えがいまいちだと思ったら……コレのオリジナルになった人、やっぱり相当できる)

恐らく、寸での所で跳躍し威力を減殺したのだろう。
そんな相手の技量と、それを再現する機体の性能には正直舌を巻く。

だが、それほどの技量を持つ人物のデータが入った相手が悠長な戦いなど許す筈もなし。
ギンガが尚一層の警戒心を抱くのに対し、敵は更なる苛烈な攻撃に打って出る。

展開した制空圏を、強引に押しつぶそうとするかのような猛攻。
次々と放たれる突きが、蹴りが、肘が、膝がギンガの制空圏を犯していく。
幸い辛うじて直撃こそ防いでいるが、気付けば防ぐ両手に痺れを感じていた。

(強くて速くて、それに重い。何より動きに無駄がない。強敵ね、これは)

跳躍から叩きこまれる肘を十字受けで防ぎながら、ギンガは心が湧き立つのを自覚する。
強い相手と戦いたいと言うのは武術家の本能だ。
ギンガもその例に漏れず、劣勢でありながらもどこかでそれを喜んでいた。
同時に、敵のスタイルについても確信を得る。

「やっぱり…………ムエタイ使い」

幾度も攻撃を間近で見て、心を澄まし観察する事で得た確信。
道理で見覚えがある筈だ。何しろそれは、彼女も学ぶ武術。
どうして管理世界で跋扈する機械兵器に、管理外世界の武術家のデータが使われているかは分からない。
いや、達人と言う極みの存在を考えれば不思議ではないのだが……。

(とりあえず、達人級と言うほどの腕じゃないのは幸運ね。
正直、この性能に達人のデータが使われてたら勝てる気がしない)

まぁ、達人のデータなど早々手に入れられるようなものではないが……。
その意味で言えば、まだこのくらいの腕の持ち主ならやり様があるのかもしれない。
ただその代わりに、気になる事がある。

(だけどこのムエタイ、師匠が教えてくれるそれとはどこか異質。
 どれもこれも、本当に相手の命を刈りとる必殺の技ばかり。いったい、これは……)

いくら考えても答えは出ない。なぜならそれは、未だ彼女の知らぬものなのだから。
だがその間にも、敵の猛攻は続く。
ある時は脳天を肘が叩き割りに、またある時は膝が顎をかちあげに。
師の教え通り、防御に重点を置くギンガだが、その守りも次第に苦しくなってきている。
一撃一撃の威力の重さは凄まじく、気を抜けば容易く防御をぶち抜かれてしまいそうだ。

しかしギンガとて、一方的にやられているつもりもない。
必殺の技の連続な分、どうしても繋ぎと速度に甘さが出る。
手数を多くすれば威力が薄れ、威力が上がれば手数が落ちるのは道理。
ギンガは意を決し、その繋ぎ目に割りこむべく動いた。

「ふぅ~……」

取るのは、八卦掌は「托槍掌(たくそうしょう)」の構え。
左手で顔を守り、右手を仰向けにして喉元へ突き出す。
敵はかまわず空いている顔の右側面へと肘を放った。

それを見越したギンガは、構えを逆に取る事で右手で顔を守る。
同時に突きだされた左手が敵の顎を打ち、さらに流れる様な連続技へと繋がっていく。

顎から金的、回りこんで後頭部へ手刀、脇腹に肘。
そして、最後に背中へと渾身の双掌打。

「はっ!」

手数を重視した分、どうしても威力は落ちる。
恐らく、これでは頑丈な装甲に決定打は入れられまい。
急所は狙っているが、機械兵器に急所もへったくれもないのだから。

だがそれでも、相手の流れを止める事は出来た。
ならばここからは、自分の流れで進めていく。

「腕、もらった!!」

人体の構造を模しているのなら、当然関節の形も同様の筈だ。
あまり稼働域を広げ過ぎると、今度は強度が落ちる可能性があった。
そう考えたギンガは、体勢の崩れた敵の右腕を取り、躊躇なくその腕を極める。

あと少し力を加えれば、人間ならば関節が外れるだろう。
手応えからして、これ以上は稼働域を外れる事も確信した。
機械相手に躊躇う理由もなく、ギンガはそのまま腕を破壊しに掛かる。

「――――――――」
「っ!? が、ぁ……!」

敵は関節を取られた状態で器用に身体を回転させ、鋼の踵がギンガの側頭部を打つ。
揺れる視界と共に一瞬力が緩み、その間に脱出を許してしまう。

「やっぱり、そう簡単にはいかないか……」

たたらを踏みながら、なんとか体勢を立て直すギンガ。
しかしその間に、敵もまた容赦なく追撃を仕掛けて来る。

目前まで迫る敵を突き離そうと、ギンガは苦し紛れに蹴りを放つ。
だが、逆にそれを取られ、そのまま側面に回り込みながら首を狙った肘打ちが入る。

「かはっ!?」

首筋からは「ミシミシ」という危険な音が響き、ギンガの顔が苦悶に歪む。
しかし―――――――折れない。
強くしなやかに鍛え上げられた首が、危うい所で命を繋いだのだ。
なにより、なのはとの模擬戦より激しさを増した修業は伊達ではない。

「こんな…ことでぇ!!」
「―――――――!?」

ギンガは首へと突き刺さった腕を反射的に掴む。
自分の指を相手の掌に引っ掛け、捻りながらやや持ち上げる事でバランスを崩し、梃子の原理で投げる。
柔術の中でも合気道に区分される技「四方投げ」だ。
ガジェットは咄嗟に近場の樹木へと触手を伸ばし体勢を保持しようとするが、その動きはどこか鈍い。

その様子を眼の端で捉えながら、ギンガは敵を地面へと強烈に叩きつける。
ギンガはそのままトドメを刺すべく、真上から両肘落としを放った。



  *  *  *  *  *



時を同じくして、リニアレール中央車両の重要貨物室。
先頭車両からガジェットを破壊しながら進み、新型の足止めを受けたライトニングの二人より一足早く目的地に到着したスバルとティアナ。
予定通りレリックを確保した二人だったが、ここで一つの問題が浮上した。

「ねぇティア?」
「ん?」
「そう言えばこれ、この後どうすればいいんだろ?」
「リニアレールはまだ動いてるし、途中下車…ってわけにもいかないしね」

普通こんな襲撃を受ければ、安全装置が働いて緊急停車するのが普通。
しかし今回の場合、リニアレールはガジェットの干渉を受けた事で、黒煙を上げながらも止まることなく走り続けている。
いくら新型のバリアジャケットがあるとはいえ、高速で走っている車両からの飛び降り(ましてや外は断崖絶壁)というのは気持ちのいいものではない。

特に、まだよくわかっていない部分の多いレリック。
下手に衝撃を与えれば、最悪誘爆もありうる。
当然、そうなれば爆心地間近の二人に、命の保証などある訳がない。
二人も揃ってその結末が思い浮かんだのか、若干青くなりながら顔を見合わせる。

「とりあえず、慎重に行きましょ。
 レリックは私が預かるから、アンタは警戒と対処をお願い」
「う、うん! 頑張る!」
「ま、そんなに固くなる必要もないとは思うけどね。
 多分、そろそろリイン曹長が……」

といった傍から、それまで常一定の速度で走り続けていたリニアレールが減速を始めた。
恐らく、車両の停止を担当していたリインが、ガジェットからコントロールを奪ったのだろう。

二人は視線を交わし、無言のうちに互いの意図を伝えあう。
ティアナは片腕でレリックのケースを保持し、空いた手にワンハンドモードのクロスミラージュを構える。
そんなティアナに先行する形で、スバルは重要貨物室の出入り口から顔をのぞかせ、周囲にガジェットの姿がないか確認。
安全を確認できた所で、ティアナにハンドサインで続く様に合図を送る。

一応、重要貨物室に至るまでにすべてのガジェットは破壊してきたつもりだ。
とはいえ、見落としがないとは限らない。
あるいは、後半部分の車両から増援が来るかもしれない以上、警戒は怠れない。
レリックを奪われるのもそうだが、衝撃を与えて暴走も言語道断。
故に、緊張感や警戒心という意味で言えば、重要貨物室に至るまでの数倍に相当するだろう。

そうしている間にも、順調にリニアレールの速度は落ちて行く。
やがて、完全に停車した事を告げる様に僅かな振動が車両を揺らした。
と同時に、二人の元に念話による指示が送られてきた。

『二人とも、ご苦労様です。
もう少ししたらヴァイス陸曹のヘリが降りて来るので、外に出て待っていてください』
「了解しました」

リインからの指示を受け、二人は手近な扉へと向かう。
隊長達やギンガの事が気にならない訳ではないが、どちらも二人よりも優れた実力の持ち主。心配はいらない筈だ、と自らに言い聞かせる。
なにより、今自分達がすべきはレリックの輸送だ。
必要なら、その時には何かしらの指示が来る筈である。

などと考えながら扉に手を掛けるが、押しても引いてもびくともしない。
元々車両のドアというのは簡単に開閉できるようなものではないが、どうやら枠が歪んでしまっているらしい。
車両内の戦闘も終了した事だし、できればあまり手荒な事はしたくなかったのだが……仕方がない。

「やっぱり開かないか、スバル」
「オッケ~♪」

わざわざ「何をするか」など言うまでもない。
ティアナの意図を理解したスバルは、今度は力まかせに扉をこじ開ける。
さすがにスバルのパワーの前では枠の歪みなど関係ない様で、軋む様な耳触りの悪い音を立てながら、扉は開け放たれた。

見れば、既にヴァイスのヘリが少々広めの空間を空けて二人の真向かいで滞空している。
空では未だ戦闘が続いているようだが、その数もまばら。ケリが付くまでそうはかからないだろう。
とそこへ、ヘリのローター音とは似ても似つかない重々しい空気を叩く音を響かせながら、巨大な何かがウイングロードの上を移動する二人に降りかかる日差しを遮った。

「「え?」」
「ティアさーん!」
「スバルさん!」

耳に馴染んだ幼い少年少女の声。
二人が揃ってそちらを見上げると、そこには普段の何十倍というサイズにまで巨大化したフリード。
その上には、手綱を握り鞍に跨ったキャロと精一杯手を振るエリオ、そしてフリードの背に仁王立ちする兼一がいた。

「って、これもしかして……」
「あの、チビ竜!?」

管理世界にあっても珍しい竜だが、これほどのサイズなど尚更お目にかかる機会がない。
驚き唖然とする二人に、キャロは首を傾げ、気持ちが分かるエリオと兼一は苦笑を浮かべている。
ついさっきまであった緊迫した空気は既になく、和気藹々とした雰囲気が場を満たし始めていた。

故に、その場にいた誰もが気付く事が出来なかった
“それ”が全翼機のような形状をた航空型ガジェット、Ⅱ型に乗って崖下の森林から迫っている事に。

『っ!?』

真下からウイングロードを掠める様に垂直に上昇していくⅡ型。
リインを含め、全員が咄嗟にその行く先を目で追う。

しかし、真に重要なのはそちらではない。
重要なのは、ウイングロードと擦れ違うその瞬間、ガジェットⅡ型の背を蹴って“それ”はウイングロードの上に降り立った事。

スバルとティアナ、二人の間に着地したそれは、間髪いれずにスバルの延髄とティアナの喉元目掛けて鋭い手刀を放つ。
どちらも、当たれば致命的な威力と速さ、そして正確さを兼ね備えた一撃。
やや遅れてそれに気付いたエリオとキャロは何事か声を上げえようとするが間に合わず、スバルとティアナも脳からの指示が追い付かない。

知らず、二人の中では時間の流れが引き延ばされ、恐ろしくゆったりとした速度で手刀が迫る。
だが、見えているし避けようとしているのに、それ以上に身体の動きが、反応が遅い。
絶望的な現実が、徐々に二人の運命を呑み込んでいく。
そして、ついに“それ”の手刀が二人の命を刈り取らんとした瞬間、手首から先が跡形もなく消失した。

『えっ!?』
「―――――――――っ!」

覆しようがないように思われた現実が、まるで夢幻であったかのように消滅した。
なにが起こったか理解できず、新人達とリインの声が重なる。

同時に、異変を悟った“それ”は大きくその場から飛び退き、リニアレールの上に着地。
しかし、その背後には……

「みんな、残心って知ってるかな?
終わったと思ったけど、実は終わってない。実戦では良くあることだから、注意しようね」

ほんの一瞬前まで巨大化したフリードの背にいた筈の、兼一の姿。
兼一自身は普段通りの穏やかな口調だが、かえってそれが状況の異質さに拍車をかける。

なにしろ、彼の目の前にはたった今スバルとティアナを襲った人型の機械兵器。
装甲の配色や全体から受ける印象がガジェット酷似していることから、同系列である事は間違いない。
これこそが、スバルとティアナを襲撃した物の正体だ。

そして、何故『必死』と思われた二人が無事なのか、何故手首から先が無くなりショートしているのか。
その理由もまた明白だった。
なぜなら、兼一の右手には失われたそれに二つの手が当たり前のように握られているのだから。

とはいえ、理由がわかったからと言って状況を理解できたとは言い難い。
実際、兼一に助けられたのはわかるが、一体何をどうしたのかはさっぱりなのだから。
ただ、そんなティアナ達の混乱を余所に、兼一は再度距離を取ったそれに向かって話しかける。
その手に握っていた二つの手を、握り潰しながら。

「さて、少し気になる事があるんだ。出来れば教えてほしいんだけど…君、言葉は……」
「―――――――――――」
「しゃべれそうにないね」

真半身になり、両腕を前後に大きく広げた様な構えを取る。
恐らく、手が残っていれば掌を上に向けていた事だろう。
その構えが、より一層兼一の中の疑問を濃くしていく。

(この構え、やっぱり……)

スバルとティアナを襲った瞬間から予想はしていたが、これで確信は得られた。
しかし、何をしようとしているかは分かるが、何故それをしているのかがわからない。
人型を模している以上、格闘技を使わせるのは別に不思議なことではないだろう。

ロボット工学などの事はさっぱりな兼一だが、人の形をした物に人の技を使わせるのは自然な事だと思う。だからそれはいいのだが、何故“これ”が選ばれたのだろう。
それに……気になる事がもう一つ。

(なぜ、あんな物が刻まれているんだ?)

兼一の疑問が胸部に刻まれた物に向けられたのと前後して、それは身体ごと回転させながら、勢いをつけた腕を振りおろしてくる。
本来は掌か手刀で行う技なのだが、肝心の手は兼一が奪ってしまった。
その為、代わりに上腕で代用しているのだろう。

とはいえ、身体を利用し腕の振り自体大きいため、威力・速度友になかなかの物。
例えばスバルが闘った場合、例え万全の状態でも些か分が悪い。
だが、それはあくまでも相手が「白浜兼一」でなかった場合の話。

「まだまだ、動きに無駄が多過ぎる」
「兼一さんっ!?」

腕をだらりと下げ、戦意の欠片も見せない兼一に誰かの悲鳴じみた声が上がる。
それは果たして、スバルだったか、それともエリオだろうか。あるいは、新人達にリインを含めた全員だったかもしれない。

しかし、時すでに遅し。今からでは、どんな言葉も行動も間に合わない。
敵の上腕による打ち下ろしが兼一に当たると思われた瞬間――――――それは見えない壁に衝突したかの様に、大きく弾き返された。

『え?』
「―――――――――――っ!!!」
「うん、良い攻めだ。知らない拳筋だけど、実に筋が良い。
 元になった人が誰かは分からないけど、良い拳士だったみたいだね」

体勢を立て直し、続けざまに間断なく攻め続ける。
だが、そのどれ一つとっても兼一に触れる事さえできない。
打ち下ろされ、振り抜かれ、薙ぎ払われる。
全ての攻撃が、兼一の制空圏に触れると同時に映像を巻き戻す様に、出だしの位置にまで弾き返されてしまう。それも見た所、相手にはダメージらしいダメージがない。本当に、『元の位置』まで『戻している』だけの様だ。

良く見れば、だらりと下げられた腕が、時折霞んでいる。
恐らく、凄まじい速度で迎撃し、また同じ位置に戻しているのだろう。
構えている敵に対し、一切構えない…それどころか脱力した体勢。
明らかに不利な状態にもかかわらず、当たり前のようにこれだけの芸当をやってのける。

一体、どれだけスピードに差があるのだろう。
一体、どれほどの技量があれば出来るのだろう。
あまりにも圧倒的な差は、心が折れても不思議ではない程に絶望的。

だが、相手は心無き機械。
故に、怯む事もなく、恐れる事もなく、ただただ愚直に挑みかかる。
意味がないと言う、敵わないという事すらわからないまま。

「―――――――――――っ」

間合いを広く取った攻撃から一転し、距離を詰め懐に入って脇腹への肘打ち。
そんな変化をつけた攻撃ですら、当たり前のように身体ごと元の位置に戻されてしまう。

「はてさて、君の胸の“それ”と使う技は“彼”を思い出させるけど、拳筋は明らかに別人。
 どういう事なのかな、これは?」

遠近織り交ぜた多彩な攻撃を適当にあしらいながら、兼一は誰にも聞こえない声で小さく呟く。
相手に言語機能がない以上、答えが返ってくる事がないのは百も承知。
故に、これは自分の中で渦巻く疑問と推測を整理する為の独白だ。

それというのも、何かが頭の片隅に引っかかるから。
あと少しで思い出せそうなのだが、その少しが遠い。
もどかしく感じるが、こういう物はえてして後からひょっこり思い出す事がある物だ。
そう結論し、兼一はとりあえずその疑問を後回しにする事にする。

なにしろ、打ち合っていたのは、そうしていれば何か思い出すかと思ったからだ。
その兆候がないとなれば、これ以上付き合う理由はない。
適当に戦力を削ぎ、新人達の練習台にするという案も頭をよぎったが、とりあえずは却下。
今は疲労しているし、精神的な動揺も抜けきっていない。
こんな状況でやっても、あまり身にはならないだろう。

「ふんっ!」

放ったのは、なんの変哲もない崩拳。
速度とて、目にも止まらないと言うほどではない。
普段兼一が放つそれに比べれば、雲泥の差どころではないだろう。
何しろ、キャロやリインでもはっきり見て取れる程、その突きは緩やかだった。

にもかかわらず、あらゆる防御が間にあわず、腹部へと拳が吸い込まれていく。
そして、拳と装甲が接触した瞬間、僅かにその身体を振るわせて、それはその場に崩れ落ちた。

一体何が起こったのか、その闘いを見守っていた全員が内心で首を傾げる。
拳は確かに当たった。だが、速度は緩やかで、それほど威力があったようにも見えない。
撃たれた側の外見にも、これといった変化は無し。
それどころか、打たれた箇所に凹み一つない程だ。

しかしその実、効果は劇的だった。
外見上は確かに無傷かもしれない。だが、内部は違う。
拳が当たった腹部を中心に、装甲内の駆動系や基盤が悉く粉砕されていたのだ。
戦闘用の機械兵器とは言え、精密機器の塊である事に変わりはない。これでは機能停止も当然だ。

とはいえ、本来なら何もここまで手の込んだ事をする必要はなかったし、もっと楽に機能停止に追い込む事も出来た。
そもそも兼一ならば、突きや蹴りで全身を粉々にすることも、手刀で細切れにすることも用意だろう。
それらをしなかったのは、幾ら機械兵器とは言え、人の形をした物をあまり大々的に壊したくなかったからだ。
まぁ、ここまで内部を破壊しつくしていれば、たいした差はない気もするのだが。

(我ながら、どうかと思わないでもないんだけど……性分だしね)

彼是30年近くかけて培った性格だ、今更そう簡単には変わらない。
兼一は内心で苦笑しつつ、動かなくなった戦利品を担ぎあげる。
気になる事もあるし、詳しく調べてもらえれば何かわかるかもしれないと期待して。
そうして、未だ混乱から抜けきっていない様子の子ども達の下へと戻るのだった。



  *  *  *  *  *



仰向けに倒れた敵に向けた、トドメとしての両肘落とし。
だがそれがもう少しで届くと言う時、ギンガの視界で何かが閃いた。

「っ!?」

脳が思考するより早く、反射神経が勝手にギンガの身体を動かす。
勢いに乗った状態で、今更全身レベルでの回避は不可能。
しかし咄嗟に、ギンガは右の肘を引っ込め半身になって何かを回避した。
視界の端で捉えたそれは、ガジェットの攻撃手段として最もオーソドックスなそれ。

(光線!? このタイミングで!!)

これまで使ってこなかった事で警戒心が薄れてしまっていた攻撃。
さらに制空圏を磨くべく行われた修業の成果である研ぎ澄まされた感覚がなければ、今頃腹部に風穴があいていたかもしれない。
だがそんな事を考える間もなく、続いて脇腹に重い衝撃が走る。

「か…はっ!?」

衝撃の正体は、地面に背を預けた状態で放たれた蹴り。
反射的に避けた事で生まれた隙を狙い、狙い澄ました一撃が突き刺さったのだ。
しかし、相手に植え付けられたデータのレベルにしては威力が低い。
右肘は今更戻せないが、左肘はいまだ健在。
多少狙いはずれたが、ギンガはそのまま敵の真上から残る左肘を叩きつける。

「はぁっ!!!」

ダメージを無視した一撃は、見事ガジェットの右肩に打ちぬき破壊した。
本命が胴体だった事を思えば、満足のいく結果とは言い難い。
だがそれでも、相手に対して即座の回復が不能なダメージを与えられた事は大きい。
何より、ギンガもまたこの敵の欠点と言うべきものに気付いていた。

「そう。あなた、データの同期が上手くいっていないのね」

戦っているうちに感じていた違和感。
触手や光線と言った、ガジェットが本来持っている機構を使う時に感じた齟齬。

考えてみれば当然の話で、アレが実在する人間のデータを植え付けられたのなら、不自然が生じても何ら不思議はない。何しろ、普通の人間に触手などないし、光線だって撃てない。
データの元となった人物が魔導師ならいざ知らず、使う武術の事を考えると管理外世界の人間の可能性が高いだろう。また、ムエタイ自体がそういうものを使う事を前提とした技術ではないのだ。
故に、植え付けられたデータとは別に、触手や光線を使う為のプログラムを入れたと考えるべきだ。
となれば、そこにズレが生じるのはむしろ必然。

その為、触手や光線を使おうとすると僅かに動きが鈍る。
だからこそ、よほどの時以外にはそれらを使わず、格闘技のみを使用していたのだろう。
ならば話は簡単だ。要は、触手や光線を使う様に追い込み、それを使う際の隙を見逃さなければいい。

「まぁ、言うほど簡単じゃないんだろうけど……」

言うは易し、やるは難し。欠点はわかったが、それを突くとなると中々にキツイ。
そもそも、この機体に植え付けられたデータ自体が、かなりの腕の持ち主のデータ。
それを追いこもうと言うのだ、やはり生半可なことではない。

とはいえ、そんな弱音を吐いていると後が怖い。
ただでさえ限界ギリギリだと言うのに、これ以上修業がきつくなっては身体が持たないのだから。

「ちょっと無茶するかもしれないけど、付き合ってくれる? ブリッツキャリバー」
《もちろんです》
「よし、じゃ行ってみよう!」

その一言共に、ブリッツキャリバーが唸りを上げ一気に加速する。
敵もそれ応じる形で間合いを詰め、両者の拳が交錯。

互いの拳を頬を掠める形で回避するも、ガジェットの腕がギンガの首に回される。
そのまま首相撲の形に持ち込まれ、ガジェットは膝蹴りを放つ。

だが所詮は片腕。ホールドが甘く、ギンガは自ら前倒しになる事でこれをやり過ごす。
さらに身を屈めた体勢を利用し、残った足を取った。
ギンガは一気に身体を起こし、足をすくい上げる投げ「朽ち木倒し」へと持って行く。
しかし、取ったと思った足がそこで加速した。

「――――――――」
《上からもです、マスター!》
「っ!?」

見れば、空振りに終わった筈の脚が自分の膝を踏み台にし、取った筈の膝が顎目掛けて迫っていた。
その上、首相撲を外された腕もまた、肘を後頭部へと振り下ろしている。

(手を離して防御…ダメ、間に合わない!)

決定的に出遅れ、今からではどんな防御も間に合わない。
だがそこで、染み着いた動作が無意識のうちにギンガの身体を動かした。

ギンガは敢えて回避も防御もせず、前のめりに身体を投げだす。
その結果肘と膝の着弾地点がずれ、肘が背中を、膝はギンガの胸を打った。

辛うじて急所を外したが、それでも強烈な挟み打ち。
肺の中の空気が纏めて吐き出され、改めて吸い込む事が出来ない。
しかし、ギンガはそれでもなお歯を食いしばり、さらにさらに身体を前に出す。
同時に膝を踏み台にした足を取り、ついにそれが届いた。

「―――――――!」

敵の胸部に叩きこんだのは頭突き。
心意六合拳の技、「烏牛擺頭(うぎゅうはいとう)」。
そのまま一気に取った膝関節も持って行きたかったが、そちらは振り払われて断念する。

代わりに相手の肩と股間を掴み上げ、自分の肩まで乗せ「肩車」へと持ち込んだ。
それが外せないと判断すると、ガジェットは触手を伸ばす。
瞬く間の内に絡みついた触手がしめあげるが、ギンガが頭から地面に落とす方が早い。

「やああぁぁぁあぁぁ!!」

重厚な落下音と共に、ガジェットの頭部が地面に叩きつけられる。
その結果とったのは、先ほど四方投げにより投げられた時と同じ体勢。
ムエタイは立ち技であり、こうなれば使ってくるかなり限定される。

何より、機械はある一定パターンに沿って動くもの。
自身で思考するのではなく、与えられたプログラムによって動くからこそ生じるそれ。
ならば、同じ状態に持ち込めば同じ方法でその状況を打開しにかかる可能性が高い。
そして、そんなギンガの予想は的中する。

(来る!)

首筋に走る怖気。それに従いギンガは右掌にシールドを展開。
それに刹那遅れ、光線はシールドに弾かれ四散した。
しかし、その一瞬の隙をついて身体を跳ね上げ起き上がるガジェット。

だがギンガはそれに動じることなく、起き上がったばかりのガジェットの腹部に拳を押し当てる。
気付いた時には、ガジェットの体はバインドによって拘束されていた。
AMFを用いれば脱出は難しくないだろう。しかし、要はその前にケリを付けてしまえばいいだけの事。
間もなくギンガの左腕の周りに幾条もの環状魔法陣が展開され、その拳が淡い光を放つ。

「悔しいけど、今の私じゃコレ一発であなたを倒す事はできない。
 だから、ちょっと小細工させてもらわよ!!」
「―――――――――――」
「ちぇりゃあ!!」

押しあてていた右拳を引き、代わりに淡い光を放つ左拳が繰り出される。
放つのは基本に忠実な惚れ惚れするような「正拳突き」。
それがガジェットの腹部に突き刺さると、青の魔力光が迸る。

淡い青の光の奔流はガジェットの胴体を呑み込み、跡形もなく消し飛した。
上下にちぎれたガジェットは、力なく地面にその身を横たえる。
僅かな時間痙攣するかのように四肢を蠢かせ、間もなく活動を停止。
それを確認した所で、ようやくギンガは深々と息をつき身体を後方へ倒す。

「はぁ~……なんとか、勝てたぁ」

天を仰ぎ、大の字になって地面に身体を預けるギンガ。
その顔には色濃い疲労が滲み、いつの間にかボロボロになっていたバリアジャケットが戦いの激しさを物語る。

《お疲れ様です》
「こっちこそ御苦労さま。初陣でいきなり無茶やらせちゃってごめんね」
《いえ、私はあなたの道具。あなたの思う様に使ってくだされば本望です》
「…………そっか。だけと、ちょっと違うかな。あなたは道具じゃなくて、もう私の一部。
この腕や足と同じね。だからやっぱり、ありがと」
《身体の一部に礼を言う事こそナンセンスでは?》
「そんな事ないわ。この腕もこの脚も、そしてあなたも…私の信頼通りに動いてくれた。
 だから私は勝てたんだし、最後まで付いてきてくれた事にはどれだけ感謝してもし足りない。
 私はまだまだ未熟で上手く使ってあげられないけど、だからこそそういう気持ちを大切にしたいの」
《良く分かりませんが…………今後も期待に添いたいと思います》
「ええ、私ももっとあなたを上手く使えるよう、頑張らないと……」

今回の勝利が、自分だけの実力によるものだとは思わない。
間違いなく、道具…この相棒に救われた面は大きいだろう。
それも含めて実力の内と言えばそうかもしれないが、もっともっとこの相棒の力を引き出してやりたいと思う。そうすれば、自分達はもっと良いコンビに慣れる筈だから。
同時に、ギンガはたったいま倒したばかりの敵に目を向ける。

(できれば、本物のあなたと戦ってみたかったかな。
 でも、その時はきっと……)

負けていたのは、自分だったのではないかと思う。
戦ってみて強く感じたが、一拳士としての格は相手の方が上だ。
少なくとも、一人のムエタイ家や武術家として比べたなら。
魔法を使えば話は別だが、あまりその仮定をする気にはならない。

勝てたのは、本当に単純に相手が機械だったから。
データをなぞる事しかできない機械で、結局は模倣の域を出なかったことが敗因。
全ての技の伝承が模倣から始まるとはいえ、その先に行かねばいつまでたっても猿真似のまま。
丁度今回の敵がそう。工夫し、発展させる事がなかったから勝てた。
本来は持っていない筈の武器や道具とのすり合わせが上手くいかなかったからこその結末。

(どこの誰のデータかは知らないけど、今回は命拾いしたってところかな……)

敵の攻撃は、まさしく一撃必殺の連続だった。
一瞬でも気を抜けば命がなかった事を思うと、本当にそうだったと思う。

「って、こんな所で休んでる場合じゃなかった! みんなは!?」

達成感をひとしきり味わった所で、ギンガは大慌てで起き上がる。
疲労と痛みでだるい身体に鞭を打ち、駆け足で森を抜ければ目の前には断崖絶壁。
崖下を見下ろせば、そこには黒い煙を上げて停車しているリニアレールの姿。
至る所に破損とガジェットの残骸が見受けられるが、辛うじて原形はとどめている。
そんなリニアレールからヘリへと続くウイングロードの上には、既にレリックと思しきケースを持った妹とその親友。
ウイングロードの脇には、少し見ない間にとてもとても大きくなったフリードに跨ったライトニングの姿も見える。そのすぐ近くには、何かを担いだ師の姿。どうやらこちらの方も、案の定無事らしい。

一ヶ所にかたまっていた4人だったが、やがてヘリへと移動を始める。
師もそれについて行く様子なので、ギンガも合流すべくウイングロードを展開。
リニアレールへと伸ばしたウイングロードを通って崖を下るその直前、トドメの一撃で抉られた腹部の上、胸部に刻まれたそれに目を向けた。

(そういえばコレ、文字みたいだけどなんて書いてあるのかしら?)

兼一に学んでいるとはいえ、ギンガはあまり日本語には明るくない。
故に、彼女がガジェット達の胸に刻まれたその文字の意味を理解できなかったのは仕方がないだろう。

しかし、もしそれをなのはやフェイトなど地球で暮らしていた面々が見ていたなら、その意味を解説してくれていただろうが、なぜそんなものが書かれているのか首を傾げた筈だ。
故に、その文字の意味を真に理解できる者は六課に一人だけ。
そして、そこにはこう書かれていた。

「炎」と「月」と。



  *  *  *  *  *



場所は再度いずことも知れぬ部屋へと移る。
そこで事の顛末を見届けた白衣の男は、予想通りの結末に肩を竦めていた。

「0型、二機共撃破を確認しました」
「やれやれ、スポンサーの依頼で作ってはみたが、やはりこんなものか」
「使用されたデータは確実に今の彼女達を上回っていた筈ですが……」

通信越しの女性は、どこか釈然としない様子で呟く。
データ上はあの機体の方が優れていた筈。にもかかわらず、結果は敗北。
それが納得いかないとばかりに。しかし、白衣の男はそれに首を振る。

「ふむ、私に言わせれば善戦した方だと思うよ。
如何に優れたデータを入れ、優れた性能を持たせた所でアレが単なる機械の限界さ。
元来、あの技術は人間が人間と戦うために編み出された物。
人の形を取り繕ったところで、所詮鉄の塊が人になる事はできない。
生命ならではの輝きなくば、それを真に活かす事はできないという証拠さ。
そういう意味では、アレは君達の価値を裏付ける結果とも言えるかもしれないね」
「なるほど……」

女性は白衣の男の言葉に感銘を受けたかのように、深くうなずく。
自分達はただの道具や機械ではない。偉大なる父の作品である、それを証明する材料の一つ。
今回の事を、そう言うものだと受け止めているのだろう。

「だから私は彼らに言った筈なのだがな。
 所詮は機械、人に近づく事はできても人にはなれないと」
「確か、かつて海で武を振るった彼の人物を再現できれば世界の安定につながる筈、と言う事でしたか」
「気持ちはわからないでもないのだがね。確かに再現できればこの上ない。
 しかし、あの御仁に遥かに劣るアレらのデータですらあの有様だ。仮にあの御仁のデータが手に入ったとしても、万分の…イヤ、億分の一でも再現できれば奇跡だろう」
「研究の過程で得たノウハウと、なんとか手に入れたデータがあっても思うような成果が出ませんでしたから」
「ああ。つまりは、私の言った事を裏付けるだけに終わったと言う事さ。
 まぁ、そんな事とは無関係にあのデータには興味があったので別にかまわんがね。
 ただ、弱点を補うためにああいった道具を装備させろとは、全く以って彼らには機微を察する感性と美学がなくて困る」

白衣の男としては、アレらにああ言った武装を付けるのは本意ではなかった。
スポンサーの意向なので、仕方なく付けただけに過ぎない。
今のところは、スポンサーにそれなりに配慮しなければならないから。
しかし、それにしてもアレは無粋に過ぎると思う。

「アレがなければ、もう少しやれたかもしれんと言うのに。君はどう思うかね?」
「え? なんですか?」
「まったく、あなたはもう少し人の話を聞きなさい」
「あははは…………ごめんなさい!」
「…………ふぅ」

白衣の男が話を振ったのは、やけに高い所に腰かけ足をぶらぶらさせる人影。
彼はどこか憎めない仕草で手を合わせ謝るが、女性は溜息をつくばかりでそれ以上言及はしない。

「いやいや、かまわないよ。それより、彼女はどうだい。君の眼鏡にかなうかな?」
「そんな! そんなこと言ったらあの人に失礼ですよ!!」
「では、気に入ったかい?」
「はい! だから、今から行っちゃダメですか?」
「ふむ……今はやめておこう。
 今日は、彼女らの事を知れただけでよしてしてくれないかな?」
「はぁ~い……」
「安心したまえ。いずれ、近いうちにあわせてあげるよ」
「ホントですか! 約束ですよ」
「ああ、約束だ。それまではすまないが、当分はあのおもちゃで我慢してくれたまえ」

そう言って、白衣の男が視線を向けるのは先ほどギンガが戦ったガジェットの同型機。
あまり気乗りしないで作ったものだが、あの子の遊び相手としてはそれなりだった。
だがそれも、最近は少々苦しくなってきている。
その意味でも、あの子にはそろそろ新しい遊び相手が欲しいところだ。

「ギンガ・ナカジマさん、かぁ。こっちに来て友達になってくれないかなぁ?」
「なれるさ。君たちなら、きっといい友達にね。
 そう、命をかけて磨き合う、そんな関係に。
 フフフ………アハハハハハハハハハ!!」






あとがき

なにやら、オリキャラやらオリジナル兵器やらのオンパレードでございます。
オリキャラの本格的な出番はもう少し先ですが、ある意味徐々に人間関係が複雑化していく予定です。

オリジナルの兵器ですが、名称は面倒なんで0型に。
まぁ、他のガジェットとは開発コンセプトが違うので、通常のナンバリングとは別と言う感じです。
というか、ガジェットと言う呼び名も型番も、前部管理局が勝手に付けたものなんですけどね、元々は。
「炎」とかに関しては、次回で補足じゃないですけど触れることにしますので、それまでお待ちください。
まぁあれですよ、長老が暴れてた時点でそれに目を付ける人はいて当然なんですよね。
ちなみに、ああいうのを思いついたのはForceのほうで出てきたラプターが根幹です。あのマッドサイエンティストなら、これ位作ってしまいそうだなぁと。


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