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No.25730の一覧
[0] 【完結・改訂完了】リリカルなのはSts異伝~子連れ武人活人劇~(×史上最強の弟子ケンイチ)[やみなべ](2013/07/16 20:55)
[1] BATTLE 0「翼は散りて」[やみなべ](2013/07/16 00:16)
[2] BATTLE 1「陸士108部隊」[やみなべ](2013/07/16 00:17)
[3] BATTLE 2「新たな家族」[やみなべ](2013/07/16 00:17)
[4] BATTLE 3「昼の顔、夜の顔」[やみなべ](2013/07/16 00:18)
[5] BATTLE 4「星を継ぐ者達」 [やみなべ](2013/07/16 00:18)
[6] BATTLE 5「不協和音」 [やみなべ](2013/07/16 00:19)
[7] BATTLE 6「雛鳥の想い」 [やみなべ](2013/07/16 00:19)
[8] BATTLE 7「一人多国籍軍、起つ」[やみなべ](2013/07/16 00:20)
[9] BATTLE 8「断崖への一歩」[やみなべ](2013/07/16 00:20)
[10] BATTLE 9「地獄巡り 入門編」[やみなべ](2013/07/16 00:21)
[11] BATTLE 10「古巣への帰還」 [やみなべ](2013/07/16 00:21)
[12] BATTLE 11「旅立ち」[やみなべ](2013/07/16 00:22)
[13] BATTLE 12「地獄巡り 内弟子編」[やみなべ](2013/07/16 00:22)
[14] BATTLE 13「誕生 史上最強の○○」[やみなべ](2013/07/16 00:24)
[15] BATTLE 14「機動六課」[やみなべ](2013/07/16 00:25)
[16] BATTLE 15「エースの疑念」[やみなべ](2013/07/16 00:26)
[17] BATTLE 16「5年越しの再会」[やみなべ](2013/07/16 20:55)
[18] BATTLE 17「それぞれの事情」[やみなべ](2013/07/16 00:27)
[19] BATTLE 18「勢揃い」[やみなべ](2013/07/16 20:54)
[20] BATTLE 19「守護の拳」[やみなべ](2013/07/16 00:28)
[21] BATTLE 20「機動六課の穏やかな一日」[やみなべ](2013/07/16 00:29)
[22] BATTLE 21「初陣」[やみなべ](2013/07/16 20:53)
[23] BATTLE 22「エンブレム」[やみなべ](2013/07/16 20:52)
[24] BATTLE 23「武の世界」[やみなべ](2013/07/16 20:52)
[25] BATTLE 24「帰郷」[やみなべ](2013/07/16 00:34)
[26] BATTLE 25「前夜」[やみなべ](2013/07/16 00:34)
[27] BATTLE 26「天賦と凡庸」[やみなべ](2013/07/16 20:51)
[28] BATTLE 27「友」[やみなべ](2013/07/16 00:38)
[29] BATTLE 28「無拍子」[やみなべ](2013/07/16 00:38)
[30] BATTLE 29「悪魔、降臨す」[やみなべ](2013/07/17 21:15)
[31] BATTLE 30「羽化の時」[やみなべ](2013/07/16 00:39)
[32] BATTLE 31「嵐の後で」[やみなべ](2013/07/16 00:40)
[33] BATTLE 32「地獄巡り~道連れ編~」[やみなべ](2013/07/16 00:41)
[34] BATTLE 33「迷い子」[やみなべ](2013/07/16 20:50)
[35] BATTLE 34「I・S」[やみなべ](2013/07/16 20:50)
[36] リクエスト企画パート1「vivid編 第一話(予定)」[やみなべ](2013/07/16 00:43)
[37] BATTLE 35「ファースト・コンタクト」[やみなべ](2013/07/16 00:43)
[38] BATTLE 36「お子様散策記」[やみなべ](2013/07/16 00:44)
[39] BATTLE 37「強い奴らに会いに行け!」[やみなべ](2013/08/01 03:45)
[40] BATTLE 38「祭囃子」[やみなべ](2013/07/16 00:45)
[41] BATTLE 39「機動六課防衛戦」[やみなべ](2013/07/16 00:45)
[42] BATTLE 40「羽撃く翼」[やみなべ](2013/07/16 00:46)
[43] BATTLE 41「地獄巡り~組手編~」[やみなべ](2013/07/16 00:46)
[44] BATTLE 42「闘いの流儀」[やみなべ](2013/07/16 00:47)
[45] BATTLE 43「無限の欲望」[やみなべ](2013/07/16 00:47)
[46] BATTLE 44「奥の手」[やみなべ](2013/07/16 00:48)
[47] BATTLE 45「絆」[やみなべ](2013/07/16 00:48)
[48] BATTLE 46「受け継がれた拳」[やみなべ](2013/07/16 00:49)
[49] BATTLE 47「武人」[やみなべ](2013/07/16 20:49)
[50] BATTLE FINAL「それぞれの道へ」[やみなべ](2013/07/16 00:50)
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[25730] BATTLE 21「初陣」
Name: やみなべ◆33f06a11 ID:1963cf14 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/07/16 20:53

薄汚れた廃墟を思わせる、至る所に経年劣化によるヒビの走るビル群。
しかしそこに人気がないと言うわけではなく、同時に静けさとも無縁だった。
なぜならその一角で、今日もまた機動六課が誇る戦技教導官『高町なのは』の下、期待の新人達は今日も今日とてハードな訓練に明け暮れているのだから。

舞い上がる砂塵、飛び交う魔力弾、響き渡る衝突音と交わされる声。
立て続けに起こるそれらが、行われている訓練の激しさを物語っている。

そして、キャロのサポートを受けたエリオの渾身の一撃と共に、一際大きな音と煙が発生した。
エリオが煙から弾き飛ばされながらも、体勢を立て直し近場のビルに着地する。

「うわぁぁぁぁあ……くぅ!?」
「エリオ!!」
「外した?」

エリオの身を案じるスバルと、先の一撃が不発に終わったのではと危惧するティアナ。
今彼らがしている訓練は、5分間なのはの攻撃を捌き切るか、あるいはその間に一撃入れるまで何度でも繰り返される。既にボロボロのあり様の新人達としては、5分間もなのはの攻撃をしのぎ切る自信は皆無。ならば何としてでも一撃入れるしかないのだが、何度も繰り返せばそれだけ体力を消耗し一撃入れる可能性は下がる一方。
彼らとしては、1回で何としてでもクリアするより他はなく、これが不発に終わればかなり不味い事態であろう。

成功か、失敗か。今できる中では会心の一撃だったが、上手くいったかは分からない。
新人達四人は煙が晴れるのを息をのんで待ち、やがて風と共にこれと言った傷のないなのはが姿を現す。
その光景に一瞬落胆を覚える新人達。
だが、なのはの顔に浮かぶのは微笑み、彼女は自身の愛機レイジングハートと共に頷き合う。

《Misson complete》
「お見事、ミッションコンプリート」

告げられた結果は合格。
しかし、やはりなのはにはこれと言って傷らしきものはない。
直接打ち込んだエリオですら合格と言う結果を信じられず、思わず聞き返していた。

「本当ですか!?」
「ほら、ちゃんとバリアを抜いて、ジャケットまで通ったよ」

そう言ってなのはが指差すのは、左わきの当たり。
確かにそこにはうっすらとだが汚れの様なものがあり、彼女の言葉が偽りでない事を教えてくれる。
皆はようやく合格と言う事実に実感がわいたのか、各々の顔に喜色が浮かぶ。

「じゃ、今朝はここまで。一端集合しよ」
「「「「はい!」」」」

なのはは地上に降り、バリアジャケットを解除した。
指示に従い新人達が自身の周りに集合するのを待ち、なのはは彼らに優しく言葉をかける。

「さて、みんなもチーム戦にだいぶ慣れてきたね」
「「「「ありがとうございます!」」」」
「ティアナの指揮も筋が通ってきたね。指揮官訓練、受けてみる?」
「い、いやぁあの…戦闘訓練だけで一杯一杯です」

上司の提案に、少々引き気味になりながらも遠慮するティアナ。
そんな相棒の様子に、スバルは苦笑気味の声を漏らす。
とそこで、キャロの足元にいたフリードがきょろきょろと首を動かしていた。

「きゅくる?」
「え? フリード、どうしたの?」
「なんか、焦げ臭い様な?」

フリードに続き、エリオもその異変に気付く。
皆がその出所を探す中、それを見つけたのはティアナだった。

「あぁ!? スバル、アンタのローラー!」
「え? わ、わぁ、やばぁ!?」

言われてみれば、スバルの足元からは僅かな黒煙となにかの回路がショートする様な音。
スバルは大急ぎでローラを脱ぎ、それを抱え上げる。

「あちゃ~…しまったぁ、無茶させちゃったぁ」
「オーバーヒートかな? 後でメンテスタッフに見てもらおう」
「はい」
「ティアナのアンカーガンも結構厳しい?」
「ぁ、はい。だましだましです……」

実際、先ほども弾詰まりの様な事が起きていたし、あまりいい状態とは言えないだろう。
二人の表情は明らかに気落ちしており、色々と不安がある様子が伺えた。
なのはもまた思う所があるのか、上を向いて思案にふけている。

「そう言えばギンガさんも、パーツの損耗が激しくてそろそろ新調した方が良いかもって言ってましたっけ……」
「あ、ギン姉も?」
「ま、ギンガさんは…っていうか、兼一さんはかなり無茶させてるみたいだし、当然と言えば当然だけどね」

一応スバルも二人のところに押しかけて、ギンガと共に整備をし、意見を交わす事は多い。
が、やはりその辺りの事情に関しては、やはり同室のキャロの方が詳しいらしい。
まぁ、夜遅くまでギンガが整備のために起きている所を見ているのだから、当たり前かもしれないが。
とそこで、それまで何か考えていたなのはが意を決したように皆の顔を見る。

「みんな、訓練にも慣れてきたし、そろそろ実戦用の新デバイスに切り替えかなぁ……」
「新…」
「デバイス…?」
「うん。スバルとギンガのは少し手間取ってたんだけど、最近ようやく完成したからね。
 近々とは思ってたんだけど……」

自作のデバイスも限界にきているようだし、タイミングとしては丁度いいという事なのだろう。
どのみち、今のデバイスでは彼らの力を最大限に引き出せているとは言い難いのだから。

「まぁ、そういうわけだから、後でちょっと時間を貰うよ。
 そうそう、ギンガにも連絡しておかなきゃいけないんだけど……」
「ああああああああ~」
「あ、ギン姉また飛んでる……」
「今は…無理そうだね」

視線の先はとあるビルの屋上。
また危なっかしい所でやっているようだが、どうせ怪我らしい怪我などさせないのだろう。

「あの調子だと、ちょっと今は無理そうかな?」
「ですね……」
「しょうがない、ギンガには後で知らせるって事で」
「「「「……はい」」」」



BATTLE 21「初陣」



三人にはとりあえず先に戻る旨を伝え、六課隊舎に戻る道中。
なのはと新人達は軽い雑談に興じていた。

「そういえば、スバルとエリオは良く兼一さんに話を聞きに行ってるんだよね?」
「あ、はい」
「色々と教えてもらっています」
「お兄ちゃんともよく試合してたし、対武器戦の経験も豊富だからねぇ」

実際、ギンガと同じスタイルのスバルはもちろん、エリオとしても兼一からのアドバイスはためになる事が多い。
技術的な話から心構え、あるいは思想的な話など。これまでの一ヶ月少々の間に交わされた話題は多岐に渡る。
それこそ、戦いや武術とはまったく関係のない雑談まで。
しかし、当然そうではない人間もいるわけで……。

「そう言えば、キャロとティアはあんまりそういう話ししてないの?」
「えっと、私はその……」
「しょうがないでしょ。使うデバイスが銃型って言っても、やっぱり普通の銃とじゃ勝手が違うし。
 かと言って、兼一さんに魔法の事を聞いても仕方ないんだから」

対魔法戦ならいざ知らず、魔法そのものを兼一に聞いても意味がないと言えば確かにそうだ。
何しろ単純な知識量だけを問うたとしても、兼一のそれは新人達に遠く及ばない。
それはキャロも似た様なもので、魔法によるサポートがメインの彼女からすると、兼一にいったい何を聞けばいいのかさっぱり、と言う部分があるのだろう。

「私も、普通のお話とかはしますけど、あんまりそう言ったお話は……」
「まぁ、それはそうなのかな」
(……案外、そうでもないと思うんだけどね)

エリオの呟きに、なのはは声には出さずに思う。
確かにエリオやスバルと比べると、ティアナやキャロが兼一から学ぶ事は多くないかもしれない。
だが、いずれは二人も自身の属性を選ぶ時が来る。そうなれば、静の極みに近い所にいる兼一の助言は大きな意味を持つ筈だ。場合によっては、直接兼一に預けるのも一案だと思う。
それでなくても、一人の戦闘技能者としてのキャリアと技能が次元違いなのだから、畑違いでも学ぶ事は多い。

なので、いっそのこと兼一に学びに行くように指示する事も考えないわけではない。
が、今のところは「希望者が自発的に聞きに行く」という形を取っている。
それというのも、基礎を固め直している段階であまり先の事ばかり気にし過ぎるのもよくない。
実際兼一には、助言を求められても基礎的な部分の話に重きを置くよう頼んである。

まぁ、いずれは本格的に新人達の面倒も見てもらう時が来るだろう。
しかしその時になっても、恐らく全員纏めて預けると言う事は滅多にない筈だ。
なにしろ兼一の教え方は、あまり一度に大勢の面倒をみると言う事に向かない。
なのはの家族や梁山泊を見てもわかるが、彼らのやり方は一人の武を徹底的に掘り下げると言う物。
教える人数を絞り、完全管理かそれに近い状態の下で行うのが望ましい類である。
さすがに全員纏めて面倒を見てもらうのは、色々な意味で上手くないだろう。
と、そんな事を考えていると、なのはの眼に何やら珍妙な光景が飛び込んできた。

「あれって……」
「ザフィーラ、ですよね?」
「うん、どうかしたのかな?」

スバルとティアナの問いに、なのはも首をかしげる。
眼に映るのは、自分達目掛けて駆けてくるザフィーラ。
何か急ぎの用でもあるのかと思ったが、すぐにそれを否定する。
なにせ、もし急ぎの用があるのなら、念話で伝えれば済むだけだ。

だがそこで、ある事に気付く。ザフィーラの青い毛並みの中からはみ出す黒い何か。
ザフィーラに黒い毛などなかった筈だが、と首をかしげていると、ザフィーラはなのは達のすぐ目の前で停止した。そして、その黒い何かが唐突に動くと、そこにあったのは満面の笑顔を振りまく幼い人の顔。

『って、翔?』
「おかえり~♪」

どうやら、ザフィーラの背中にしがみついてここまで運んでもらったらしい。
まだ小さい翔だからできる事だし、大型の動物に乗って走りまわると言うのは一種の夢だろう。
事実、エリオやキャロなどは少しばかり羨ましそうにしていたり……。

「でも、なんでまたザフィーラの背中に?」
「乗せてくれたの~」
「まぁ、何だ。ああもせがまれると断りづらくてな……」

寡黙ではあるが人の良い彼らしく、翔の頼みを断り切れなかったらしい。
元々子どもに好かれる性質でもあるので、ある意味当然の結果かもしれないが。
しかしこの分だと、いずれ彼は翔の乗り物にされてしまうのではなかろうか。

そんななのはの危惧は正しかったのか、その後もザフィーラに跨ってみなと移動する翔。
ザフィーラもすっかり乗り物に徹してしまったらしく、その後積極的に会話に参加してくる事はない。

「それじゃ、父様と姉さまはまだ終わらないの?」
「うん」
「先に戻ってご飯食べててって」
「そっかぁ……」

エリオやキャロの言葉に、少し残念そうにションボリする翔。
彼としては父や姉と一緒に食べたかったのだろう。
特にギンガは普段忙しくしているので、最近はあまり翔にかまってやれていない。
我儘を言って困らせる事が滅多にない翔ではあるが、別に寂しいという感情がないわけではないのだ。

「翔はどうする? 先に私達と食べる?」

そんな翔の気持ちは分かるが、かと言って一人待たせるのも忍びない。
だが、自分達も色々予定があるので一緒に待つのも難しいだけに、スバルとしてはこういうしかない。
そんなスバルの問いに、翔は少し悩んだ後こう答えた。

「う~…待つ!」
「……そっか」

敢えて意思確認はせず、少し寂しげな笑みを浮かべながら翔の頭を撫でるスバル。
翔の顔を見れば、彼が前言を撤回する気がない事はわかる。
やはり、彼にとっては父や姉の存在は特別なのだろう。
自分がそうではない事には少し寂しい気はするが、こればかりは仕方がない、そんな笑みだった。

「えっと、そう言う事だからザフィーラ……」
「わかっている。こちらは任せてお前達は気にせず先に行け」
「ごめんね」
「気にするな。これも守護の獣の務めだ」
(あれ? そんな役目ってあったっけ?)

ザフィーラの言に首をかしげながらも、とりあえずは感謝しておくなのは。
そのまま彼らは分かれ、翔を乗せたザフィーラは訓練場に、なのは達は隊舎へと向かった。
その後、なのは達は出掛けるフェイトとはやてに出会うのだが、それはまた別の話。



  *  *  *  *  *



それからしばらく経った機動六課隊舎の一室。
新型デバイス支給の為に集められた新人組およびギンガ…………そして何故か兼一。
皆は一様に最新技術の粋を結集して作られた真新しいデバイスに目を輝かせている。

そんな面々を尻目に、開発にも参加したリインとシャーリーは意気揚々と喋りまくっている。
曰く、これらは六課の前線メンバーとメカニックスタッフの技術と経験の粋を集めた最新型。
曰く、部隊の目的に合わせると共に、皆の個性に合わせた文句なしに最高の機体。
曰く、ただの武器や道具と思わず大切に、だが性能の限界まで使いきってほしい。
曰く、すぐにでも使えるが、何段階かの出力リミッターがかけられている等だ。
そのまま話は隊長達自身にもかけられている出力リミッターや、スバルやギンガと言ったちょっとした特殊例にも話が及んでいた。

「ぁ、スバルとギンガさんの方は、リボルバーナックルとのシンクロ機能も上手く設定できてます」
「っ! ホントですか!」
「持ち運びが楽になる様に、収納と瞬間装着の機能も付けときましたよ」
「あ、ありがとうございます!」

リボルバーナックルは重い上に色々かさばるので、携帯性と言う点では非常に不便だった。
しかし今回、その辺りが改善されたと聞いて互いに微笑みあう仲良し姉妹。
シャーリーとしても、その笑顔を見ると苦労した甲斐があったと言わんばかりに喜んでいる。
ただ、これまでは静観していたが、兼一としてはなのはにどうしても聞いておきたい事があった。

「ねぇ、なのはちゃん」
「はい?」
「やっぱり…僕もこれ、持たなくちゃダメ?」

そう言って眼の高さまで持ち上げたのは、一見すると普通のアナログ腕時計。
だがその実、これまた時空管理局の最新技術が惜しげもなく注ぎ込まれた逸品である。

愛用のバッジを使っていないのは、色々と思い入れのある物に手を入れたくなかったからだ。
ただその代わりといってはなんだが、文字盤が兼一のトレードマークでもある例のバッジと同じ柄をしているあたり、中々に芸が細かいと言えよう。
まあ、それはともかくとして、兼一からの問いに対するなのはの答えは決まっている。

「ダメです」
「どうしても?」
「どうしても! です」
「う~ん……」
「やっぱり、気が乗りませんか?」

困惑気味に問いかけられるも、兼一は腕を組んで唸るばかり。
確かにこういうものがあると便利なのは事実なのだが、あまりそういうものに頼りきりになるのもどうか。
なにより、防具が万全過ぎると心に隙が生まれそうで怖い。少々お調子者な面があるのは本人も自覚する所なだけに、その辺りが心配だったりする。

「でも、さすがに現場に出るのに帷子と手甲だけ、ってわけにはいきませんよ。体は帷子が守ってくれてるとは言え、さすがに直撃を受けたら危ないですし、頭なんて防具すらないじゃないですか」
「う”……」

一つ一つが日本刀と同じ製法で作られた鎖帷子とはいえ、次元世界水準の兵器の直撃は不味い。
実際、かつてしぐれの鎖帷子も弾けた事があるし、直撃しても絶対安全とは言い切れない。
当たらなければいい話ではあるが、絶対に当たらないと断言できる根拠もない。
特に兼一の場合、誰かを庇って被弾することなど大いにありうる。
その意味で言えば、なのはの危惧は至極当然の物なだけに、兼一としても反論の余地がないのだ。

「なにより、私達には部下の命を守る努力と、必要と思われる装備を持たせる義務があります。
 幸い、技術部の方で兼一さん向きの装備を開発してる事ですし……」
「それが、これ?」
「はいです! AMFをはじめとした対魔力結合不可状況装備の一つ、バッテリー式の防護服です!」
「と言っても、これ自体は別に防護服を生成するわけじゃありません。あくまでも、装備者の周りに身を守る為の疑似フィールドを展開するためのものです。
 でも、これならとりあえず動きを阻害される心配もありませんから、兼一さんに向いてると思うんですよ」

なのはの言葉が示す通り、兼一があまり防護服の類を必要以上に付けたがらない理由の一つがこれだ。
ガチガチに固めれば確かに身の安全は保たれるかもしれないが、その分動きの邪魔になる。
そう言うのは兼一としても好ましくないのだが、これならとりあえずその問題は解消される。
となると、兼一としてはますます断り辛くなるわけで……。

「確かにまだいくつか課題もあって、その解決に必要なデータの蓄積が不十分な関係からまだ正式採用はされてません。でも、バッテリーの耐用時間はまずまずですし、強度も実用レベルには問題ありませんから」

なんでも、なのは達とコネのある技術部の人間が手掛けてくれたそうなのだが、正式採用には間に合いそうにないのだと言う。管理局自体の腰の重さもあって、中々本腰を入れてくれないのも原因だとか。
魔導技術全盛の時代だけに、そこから外れた技術にはまだあまり目を向けてくれないらしい。

かと言って、折角実用レベルにある物を持たせないとなると、それはそれで周りから叩かれてしまうのが今の彼女らの立場。
その上、兼一も今は一局員である以上、上の命令には従わねばならない。ましてやそれが、理不尽とか横暴とか言う類の命令でないのなら尚更だ。
いや、兼一に持たせればデータの蓄積にも丁度いいと言うのは否定しないが……。

(まぁ、場合によっては外しちゃえばいいわけだし……)
(どのみち、命令したとしても強制力なんてたかが知れてるんだよね。
 兼一さんの事だから、どうせ『いざとなったら外しちゃえ』とか思ってるに決まってるし。
なら、せめて普段持ち歩くくらいはしてもらわないと……)

実を言えば、なのはも兼一が戦闘時にこれを常に使用することにそれほど期待はしていない。
生真面目で義理がたい兼一の事だから、基本的には自分達の顔を立てて指示には従ってくれるだろう。
しかし、その義理から逸脱した状況が発生すれば話は別。例えば、彼の武人としての誇りや在り方が優先される状況が発生すれば、彼はきっとこれを外す。
なのはとしては、その可能性は決して低くないと思うからこそ頭が痛く、思わず重いため息が漏れてしまうわけだ。

だが同時に、それを絶対にさせない方法と言うのも思いつかない。
まさか、無理に外そうとしない様にトラップを仕込む、なんてわけにもいかないのだから。
そんな感じでそれぞれ色々と思う所はあるわけだが、兼一とていい年をした大人。
さすがに十近くも年下の少女を相手に意地を張り続けるのも大人気なく、相手が自分の身の安全を考えてくれている以上、その顔を立てないというのも格好がつかない。

それになのは達には悪いが、要はこの防護服とやらがその性能を発揮しない様に立ちまわればいいのだ。
先ほど当たらないと断言はできないと言ったが、当たらないよう努力する事はできる。
盾を持っていたとしても、使わなければ本人からすればないのと同じ。
それも、その盾がほとんど動きを阻害しないとなれば、お荷物にすらならないのだから。

「うん。まぁ、仕方ないよね」

その言葉を聞き、シャーリーとリイン、そしてなのはが深々と安堵の息を漏らしたのも当然であろう。
ただ、折角説得が成功したと言う傍から早速新たな問題が浮上するあたり、今日は厄日か何かだろう。

「ぁ、このアラートって!」
「一級警戒態勢!?」

それまで沈黙していたモニター群は、突如として赤い画面に切り替わる。
同時に室内もまた赤い光に染まり、けたたましい警報音が鳴り響いた。
その意味するところはつまり、機動六課設立初となる出動命令である。



  *  *  *  *  *



場所は変わって現場へと向かうヘリの中。向かう先は山岳地帯を移動中のリニアレール。
副隊長二人は交代部隊と共に出動中の為今回の作戦行動には参加せず、外周りをしていたフェイトは現場での合流となる為ヘリには同乗していない。
それでも新デバイス受領の場にいたメンバーのうち、シャーリーを除いた全員が乗っているのだからそれなりの人数ではあるが。

窓を除けば眼下には深い緑、すぐ横にはまだ雪の残った山々。
いよいよ現場が近づいてきた証拠であり、なのははこれからの動きを確認する。

「それじゃ、最終確認。今のところ重要貨物室までは到達してないみたいだけど、多分それも時間の問題。ここからは時間との勝負になる。あんまりゆっくりはしていられないよ」
「それに今入った情報ですと空から飛行型、崖の上や麓にもガジェットが集まってきているようです」
「うん、空は私とフェイト隊長で抑える。その間に、みんなはリニアレールの前後に乗り移って両側からガジェットを排除しつつ、中央に向かい七両目重要貨物室の目標を確保。
スターズの二人にはリイン、ライトニングの二人には兼一さんがついてください」
「うん」
「はいです!」
「あの、私達は?」
「ギンガは崖の上に集まってきているガジェットをお願い。
 私とフェイト隊長も空が終わり次第支援に入るから、無理はしないでね」
「了解」

初陣となるスターズやライトニングだけでやらせるのにはやはり不安があるし、この辺りが無難な所だろう。
ギンガは経験も豊富だし、元より遊撃扱いだ。こういう役割が本来の立ち位置と言える。
そうして一通りの指示を出し終えたなのはは、そのまま操縦席へ向かった。

「ヴァイス君!」
「ウッス! なのはさん、お願いします」

皆まで言わずともわかるとばかりに、手早くメインハッチを解放するヴァイス。
なのははメインハッチへと向かうと、最後に皆を振り返って声をかける。

「じゃ、出てくるけど、みんなも頑張ってズバッとやっつけちゃお」
『はい!』

威勢良く返事をする新人達。だがその中にあってただ一人、キャロはどこか沈んだ面持ちでいる。
その事に気付いたなのはは、キャロへと歩み寄りその頬にそっと触れた。

「キャロ。大丈夫、そんなに緊張しなくても」
「ぁ」
「離れてても通信で繋がってる。一人じゃないから…ピンチの時は助け合えるし。
キャロの魔法は、みんなを守ってあげられる優しくて強い力なんだから。ね?」

僅かに頬を紅潮させながら、なのはの言葉に耳を傾けるキャロ。
しかしそれでも不安を払拭しきれないのか、その顔はどこか頼りない。
なのはもそんなキャロの心を少しでも軽くしてやりたいのだが、考え込む時間も惜しい。
そこでふと、なのはは兼一へと話を振った。

「兼一さんからは、何かありませんか? なんかこう…勇気の出る一言とか」
「え? そうだなぁ……まぁ、人間いつかは……」
「はい?」
「いや、何でもない。忘れて」

『人間いつかは死ぬわけだし』と言おうと思って、すんでの所でやめた。
昔美羽に言われた事だが、全然全く勇気が出なかった事を思い出したからだろう。
ただ、その代わりと言ってはなんだが、キャロの頭に手を乗せこう言った。

「う~ん、キャロちゃんがなにでそんなに悩んでいるか僕は知らないけど……まぁアレだね。難しいことは、とりあえず―――――――――――――ぶっ壊してから考えよう!」
『え、ええ!?』

『良いのかそれで』と言わんばかりの反応。
ただそれを聞いたなのはは「ああ、こう言う所もそっちの色に染まっちゃったんだ」と思い、溜息しか出ない。
なんというか、どこぞの死神や鬼の様な台詞である。まったく、いったい誰に似たのやら。

「で、でも!」
「ほら、そんなに肩肘張らないで。良いんだよ、失敗しちゃっても」
「え?」

失敗しても良い、それは今までどこに行っても言われた事のない言葉だった。
それもそうだ。普通、失敗などしないに越した事はないし、キャロの場合その失敗が高くつく事が多い。
だから、『失敗してはいけない』『ちゃんとやらなくちゃいけない』『そうじゃないと、また居場所を無くしてしまう』そんな恐怖が、彼女の中にはあった。
そしてその恐れが、キャロの身体を固くしている原因でもある。

しかし、そうして身体を強張らせるキャロの姿は、兼一には痛ましく映った。
まだ十歳でしかない子どもが、ここまで思い詰めると言うのは見ていて辛い。
子どもと言うのは、もっと気楽に、無条件に希望を持っていられる大切な時代なのに。

「誰でもはじめから上手くやれるわけがないし、なんのかんの言ってもまだ二人は子どもだ。
何かやっちゃったとしても、その時は頼っていいんだよ。その為に、大人(僕達)がいるんだから」
「……ぁ」
「エリオ君もそうだけど、二人はちょっと頑張り過ぎだよ。肩の力を抜いて、気楽に行こう。
 もしもの時は、ちゃんと守るから。ね?」

微笑みかける兼一と、少し気の抜けた様な表情のキャロ。
そんな二人の様子を見て、なのははキャリアの差と言うものを痛感する。
戦士としてではなく、一人の人間としてのキャリアの差。
未だ二十歳にも満たない彼女ではどうやっても持ち合わせようのない、「大人の余裕」が少々眩しかった。

「それじゃ兼一さん、後はお願いします」
「うん。なのはちゃんも、気をつけてね」

兼一に掛かると、エースオブエースですら子ども扱いだ。
まぁ、実際になのはが子どものころから知っているわけだし、彼にとっては今でも『かわいい女の子』という認識が残っているのも当然なのだろうが。
その事に苦笑しながらも、最近は子ども扱いする人もいない為にどこか新鮮な気がしてくる。
それを意識すると、エースや隊長としての重責が少しだけ軽くなった気がした。

「……はい。スターズ1、行きます!」

そうしてなのはは大空へと身を躍らせ、バリアジャケットを身に纏う。
やがてフェイトと合流すると、二人は息の合ったコンビネーションで次々と空のガジェット群を撃破。
空には、桜色と金色の線が幾本も刻まれ、次々と爆発と言う名の花火を咲かせていく。

その後、残されたメンツで細かな打ち合わせへと移る。
と言っても、先ほどなのはが行っていた事の確認がほとんどだったが。

「というわけで、スターズかライトニング。先に到達した方がレリックを確保。ちょっとした競争ですね。
それと私は管制を担当するですから、あまりスターズのサポートはできないかもしれませんが、大丈夫ですか?」
「「はい!」」
「良いお返事です! それと、ギンガは私達が降りた後、持ち場に移動してください。
ではみんな、いつもの練習通りに頑張るですよ!」
『はい!』

そうしている間にもヘリは移動を続け、やがて降下ポイントへと到着する。
そして降下の準備が整ったところで、ヴァイスの檄が飛んだ。

「さぁて新人ども、隊長さん達が空を抑えてくれてるおかげで、安全無事に降下ポイントに到着だ。
 準備は良いか!」
「「はい!」」
「スターズ3、スバル・ナカジマ」
「スターズ4、ティアナ・ランスター」
「「行きます!!」」

先に降下を開始したのは前部を担当する事になったスターズとリイン。
二人は臆することなくリニアレールへと飛び降り、着地するまでの間にバリアジャケットを展開する。
リインも空を滑る様にしてその後を追う。
後部へと到着すれば、次はライトニングの番だ。

「次、ライトニング! チビども、気ぃつけてな」
「「はい!」」

ヴァイスの叱咤に、威勢よく返す二人。
だがその実、キャロの顔はまだどこか浮かない。
なのはや兼一の励ましは確かに心に響いた。しかし、何年もかけて培われた物はそう簡単には変わらないのだろう。
その背中を兼一はどこか心配そうに見つめていたが、そこでエリオが手を差し伸べた。

「一緒に降りようか」
「ぇ…………うん!」
「ライトニング3、エリオ・モンディアル!」
「ライトニング4、キャロ・ル・ルシエとフリードリヒ!」
「きゅく」
「「行きます!!」」

二人は手を取り合い、揃って空に身を躍らせた。
それを見送った兼一もまた、リニアレールに降下すべくハッチの縁に足をかける。

「じゃ、僕も行くとしようか」
「兼一!」
「え、なに?」
「しっかり面倒見てやれよ」
「うん、ヴァイス君もありがとね」
「おう、行って来い!」

そうして、兼一もまたハッチから一歩踏み出し落下を開始する。
落下の間にエリオとキャロはバリアジャケットを展開、同時に浮遊の魔法を使い落下速度を調整する。
飛行と違い、物体を浮かせるのは比較的容易な魔法だ。
が、そんな二人の傍を何かがとんでもない速度で通り過ぎた。

「キャロ、今のってもしかして!?」
「兼一さん!?」

ちゃんと目視できたわけではないが、一瞬視界の端を通り過ぎた感じだとまず間違いない。
そういえば、兼一はパラシュートも付けていなかったし、魔法などもってのほか。
如何に達人とは言え、あの速度で墜落すれば不味いのではないか。

しかし、今更二人にできる事はない。
やがて『ドゴーン』というかなり重々しい衝突音が響くと、眼下には穴のあいたリニアレールの屋根。
二人は有るかもしれない可能性に一瞬顔を青くする。
だが、先ほど支給されたバッテリー式防護服を使用していれば大丈夫な筈。
それを希望に二人は着地し、すぐさま兼一が空けた穴を覗き込む。

「兼一さーん!」
「大丈夫ですかー!」

リニアレールの内部で反響する二人の呼びかけ。
しかし返事が返ってくる事はなく、二人が意を決して飛び込もうとしたところで、穴の縁を掴む手が現れた。

「あいたたた、失敗失敗」
「け、兼一さん……」
「よかった、無事だったんですね」
「ごめんね、心配させちゃって。でも、受け身は取ったから大丈夫だよ」

そういう問題なのだろうか、とは思わないでもないが二人ともそんな事に突っ込む余力はない。
普通、あの高さから落下して無事なのも異常だが、衣服にこれと言って傷がないのも異常だ。
というか、それ以前の問題として……

「って、なんで制服のままなんですか!?」
「さっきバッテリー式防護服の端末もらいましたよね!? あれ、どうしたんですか!!」
「え? ………………あ、忘れてた」

こう言った物を使う習慣がそもそもない為か、どうやらすっかり失念していたらしい。
『なのはちゃんに怒られる』と、慌てた様子で右腕に撒いた腕時計を弄っているが、一向に起動する様子はない。
それを見かねたのか、エリオがどこか疲れた様子で教えてくれる。

「あの、別にスイッチとか入れなくても、命令すれば勝手にやってくれますよ」
「え、そうなの!? そう言えばみんなのデバイスもそうだよね、便利だなぁ……」
「あ、あの…本当に急いだ方が良いと思うんですけど……」
「あ、そうだね。えっと、それじゃ『ジャケット・オン』…でいいのかな?」

やはり使い慣れてないせいで、どうにもおっかなびっくりな様子の兼一。
なんとも締まらない話だが、それでも支給された端末は起動し兼一の身体を光が包む。
光が消え去った頃には、その衣装はいつぞや身に付けていた道着や手甲に変わっていた。
どうやら、なのは達の方で瞬間装着の設定もしてくれていたらしい。
ちなみに、この間にリインによるバリアジャケットの解説がされていたのだが、エリオ達はすっかり聞き逃してしまった。

というか、そもそも今はそんな事を気にかけていられるような状況ではない。
兼一が這い出してくるのと前後して、エリオ達の背後で異音が響く。
振り向いた時には、隣の車両の屋根を突き破ったガジェットⅠ型が攻撃態勢に入っていた。
そして、機体正面に配置された黄色いセンサー状の射撃装置から光線が放たれようとした時、二人のすぐそばを一陣の風が吹き抜ける。

「ひゅっ!」

軽い跳躍と共にガジェットの頭上を取ると、突き手を逆の手で支えながら打ち下ろす。
中国拳法の一手、「撃襠捶(げきとうすい)」。
その一撃は深々とガジェットの装甲に突き刺さり、着弾箇所周辺を見るも無残に破壊した。

兼一は手応えから仕留めた事を確信すると、即座に飛び退く。
すると、間もなく配線や基板がショートし、ガジェットは爆砕した。

だがまだそれで終わる筈もなく、何機ものガジェットが這い出て来る。
一人で全て撃破することなど容易いし、実際先ほど中に落ちてしまった一両目にいたガジェットはあらかた兼一が撃破していた。

しかし、それでは二人の成長に繋がらない。
あくまでも兼一はほどほどに、二人が危なくなった時にはフォローするのが役目。
ならば、二人にもしっかりやってもらわなければならない。

「二人とも切り替えて! まだ来るよ!」
「あ、はい!」
「フリード!」
「きゅくー!」

エリオはストラードを持ち直し、キャロはフリードに目配せする。
二人の体勢が整った事を感じ取った兼一は、一気にガジェットとの間合いを詰めた。

「吽っ!!」

一声と共に、兼一の剛腕が横薙ぎに振るわれ、上腕の部分全体で打撃を与える。
『腕刀』と呼ばれる技により弾き飛ばされたガジェット達は、リニアレールの外へと放り出された。

「フリード、ブラストフレア!」
「きゅく!」
「いくよ、ストラーダ!」

フリードから放たれた炎弾がガジェットを炎に包む。
また、エリオはソニックムーブで宙に放り出されたガジェットにとりつく、その場でストラーダを数閃。
エリオが再度リニアレールに飛び移ると、数か所を輪切りにされたガジェット数機が爆発した。

「ダメだよ、二人とも。ここはもう戦場、一瞬の油断が命取りになるんだから」
「……はい」
「ごめんなさい」
「…きゅくる」

やんわりと注意する兼一に対し、二人と一匹はしょんぼりとうなだれる。
そんな子ども達に苦笑を浮かべながら、兼一は二人の背を軽く押す。

「わかってくれたのならもういいよ。
さ、まだまだ敵は多い。気負わずに行こう」
「「は、はい!」」



  *  *  *  *  *



時を同じくして、リニアレール前部。
こちらも、とりあえずは順調に事を運んでいた。

「スバル、そっちは?」
「こっちは大体オッケー。
 さすがに新型だよね、アレだけやっつけたのに全然余裕」
「あんま浮かれてると、足元すくわれるわよ」
「ぁ、ごめん」

目標に向けて車両の前部から進攻を続けるスバルとティアナ。
さすがにこれまでの訓練データをもとに調整されただけあり、ぶっつけ本番で使っても違和感がない。
それどころかかつてない程に調子が良い。

「でも、エリオとキャロは大丈夫かな?」
「大丈夫でしょ、何かあっても兼一さんがいるんだし」
「うん、そうだよね」
(それに、いざとなればあの人一人でも蹴りをつけられるんだから……)

まぁ、スバルの心配もわからないでもない。
自分達はこれまでにも戦場ではないとはいえ、災害現場と言う危険な現場でやってきた経験がある。
しかし二人の場合、こういった危険な現場と言うのは初めての経験だ。
ヘリの中でのキャロの様子もおかしかったし、気負いや緊張で普段通り動けるかは心配だ。

だがそれも、白浜兼一と言う自分達とは比べ物にならない戦闘能力を持つ人間がいるのでは意味がない。
むしろ、自分達は余計なことなど考えずに、自分達の心配をするべきである事もわかっていたが。

「ほら、車両の停止はリイン曹長がやってくれてるんだから、その邪魔をさせないのが私達の仕事。
 一端合流して、一体ずつ打ち洩らさない様に潰していくわよ」
「うん!」

そうしてリインが陣取る車両の手前で合流する二人。
とそこで、車両を揺らすかのような振動と共に、まるで重機が何かを破壊するかのような音が響いてきた。

「ティア、今のってもしかして……」
「あっちも派手にやってるわね。ここまで聞こえるってなにやってんのかしら?」
「じゃあやっぱり、今のって兼一さん?」
「それ以外にここまで派手な音がする原因、思いつく?」
「つかない」
「でしょ。ならそう言う事よ」

実際、スバルとティアナが知る限り、エリオやキャロにこれほど派手な振動と音を生みだす様な魔法はない筈だ。
となると、残る候補は兼一以外にはなのはとフェイト、そしてギンガ。
ギンガはともかく、なのはとフェイトならここまで振動や音が伝わってくる魔法も持っているだろう。
しかし、それを今の状況で使うとは考えにくい。正確には、使う程の状況ではないと言う意味だが。

故に、消去法から言って兼一以外には考えられないという結論に至る訳だ。
どんな技を使ったのか知らないが、よほど派手な大立ち回りでもしているのだろうか。

「でも、確か兼一さんってエリオとキャロのサポートの筈じゃ」
「そう言う事になってる筈だけど……」

まさかとは思うが、あまりにも危なっかしくて見ていられなくなり、全部兼一一人で片づける方向に方針を変更したのだろうか。
そんな想像が一瞬脳裏をよぎるが、ティアナは直に否定する。
もしそうならとうの昔に制圧が終了していなければおかしいし、そもそもティアナ達の出る幕すらなくなっている筈だ。
今こうしてガジェット達が立ちはだかってくる以上、兼一はちゃんと役割をわきまえて行動しているのだろう。
なにより……

「普段あれだけギンガさんに無茶させてるんだし、さすがにそこまではやらないでしょ」
「ああ、確かにねぇ~。今の状況より、ギン姉の修業の方がよっぽどだもん」
「そういうこと。ほら、無駄口叩いてないでいくわよ」
「う、うん。ごめんね、ありがとうティア」
「……なによ、藪から棒に」
「いっつもさあたし、ティアにフォローしてもらってばっかりだから。
 ティアが一緒じゃなかったら、きっとあたしはここにいなかったと思うし。
 だから、いつも助けてもらってばっかりでごめんね、それで…………ありがとう。あたし、ティアに敢えてホントに良かった」
「な…な……」

その言葉を聞いた途端、ティアナの顔が瞬く間に紅潮する。
スバルが恥ずかしげもなくそういう事を言える奴だとよく知っているティアナだが、時折不意をつかれるから心臓に悪い。ティアナは必死にスバルから赤くなった顔を隠し、なんとか平常心を取り戻そうと躍起になる。

(あ~も~! こいつはホントに、どうしてこう……!!)

こうやってスバルに不意打ちを食らうと、なぜか無性に腹立たしくなる。
だが、同時にスバルには感謝もしていた。

正直、ティアナには六課の面々が眩しい時がある。
目も眩まんばかりの輝きを放つ隊長達、既に自分と同格の力を持つ年少者、日に日に力を蓄えて行く先輩。そして、比較することすらバカバカしく思える怪物的な生き物。
彼らの存在が、ティアナに己の身の程を痛烈なまでにつきつけて来る。

しかし、スバルがこうしてあけっぴろげな好意と信頼を示してくれるからこそ、そんな自分を必要以上に卑下しないでいられるのだ。『自分は自分』『今まで通り、努力していくだけ』なのだと、思い出させてくれる。
とはいえ、感謝の気持ちを真っ直ぐに伝えられるほどティアナは素直ではない。
結局、思っている事とは裏腹に、ついついぶっきらぼうな事しか言えないのだった。

「ほら、バカなこと言ってないでさっさと行くわよ!!」
「う、うん!」
(……ありがと。私も、アンタがいるから今の自分でいられるんだと思うし…正直、救われてる)
「え、ティア、何か言った?」
「別に何でもないわよ!」
「そう?」

ティアナに怒鳴られるのは慣れっこのスバルなので、この程度ではびくともしない。
だがそこへ、突然通信が入った。

『スターズ1、ライトニング1、制空権獲得』
『ガジェットⅡ型、散開開始。追撃サポートに入ります』
『ライトニングF、8両目突入………………エンカウント、新型です!!』
「「え!?」」

本部からの通信に、二人は揃って驚きと不安の入り混じった声を漏らす。
兼一がいるとはいえ、全く性能がわからない相手と戦うからには通常以上の危険が付きまとう。
しかし、今の二人にできるのは、ただ仲間の無事を願う事だけだった。



  *  *  *  *  *



場面は戻ってリニアレール後部。
エリオとキャロの前には、新型のガジェットと思われる球形の比較的大型な機体。

それまで二人の後ろを守る形でガジェットの相手をしていた兼一も、二人を庇うべく前に出ようとする。
だがそれは、エリオとキャロの緊張の混じった声音で遮られた。

「あの、私達にやらせてください!」
「我儘だってわかってます。でも、守ってもらってばっかりじゃなくて、自分たちでやりたいんです!」

二人の切実な願いに、一瞬ためらいがちな表情を浮かべる兼一。
基本的な部分はⅠ型と同じだろうが、詳細な性能は不明。
正直、二人の安全を考えるならここは兼一が相手をすべきだ。

しかし、それが過保護だと言われれば否定できる材料もない。
ここは戦場、立つ者は望むと望まざるとにかかわらず相応のリスクを背負う。
そして、二人はそのリスクを背負う覚悟で六課に来たのだろうし、今もそのつもりで言っているのだろう。
その点で言えば、過保護も過ぎれば二人の覚悟を蔑ろにする事になる。
かと言って、子どもを危険な目に合わせるのはどうかと言う倫理観もあるわけで……。

そこで兼一は、師達なら何と言うかを思い浮かべる。
まぁ、この時点で明らかに思い浮かべる相手を甚だ間違っているのだが。

(岬越寺師匠なら『獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすものだよ』って言うだろうなぁ。馬師父なら『中国のことわざでは「摩擦なく宝石を磨く事が出来ない様に、試練なしに人は完成しない」と言うね』って言うんだろうし。逆鬼師匠やアパチャイさんは考えるまでもないとして、しぐれさんなら『なせば…なる』とか意味もなく自信たっぷりに言いそうだ。長老はどうせ『成り行き任せ大作戦じゃ!!』って言うな、うん)

つまり、要約してしまうと「とりあえずやらせちゃえ」と言う事なのだろう。
問題が起きた時はまぁ、その時に何とかすればいいや。
結局、そういう結論に至ったらしい。

「よし。がんばって、二人とも」
「きゅく!」
「あ、フリードもね」
「「はい!」」
「きゅく~」

兼一が二人の後ろに下がると、タイミングをはかっていたわけでもないだろうが、ガジェットはベルト状の腕を伸ばす。
二人はそれを跳び退いて回避、キャロは着地と同時にフリードに指示を飛ばす。

「フリード、ブラストフレア!」
「きゅくー」
「ファイア!!」

吐き出された炎弾は、真っ直ぐにガジェットの腕目掛けて飛んでいく。
しかし威力が足りないのか、それは容易く弾き返され斜め後ろの壁面に着弾し、黒煙を上げる。
その間にエリオは、自身の魔力変換資質により帯電させたストラーダで本体に斬りかかった。

「てやああぁぁぁぁぁ!!」

だがそれも、分厚い装甲に阻まれ通らない。
兼一は二人の背後で残ったガジェットを撃破しながら、その様子を見守っている。
しかし、ガジェットから強度のAMFが展開された。

AMFの効果により、魔法の大半を封じられた二人。
エリオは大型のガジェットを相手に圧倒的な不利に力比べに持ち込まれ、魔法を封じられてはキャロは支援もできない。

(これは、ちょっと不味いかな? そろそろ、代わった方が……)

正直、この様子ではそろそろ危ないと兼一でも思う。
実際問題として、魔法を封じられてしまえば二人は普通の子どもと大差がない。
二人とも訓練の甲斐あって年の割には腕も立つが、それではあの大型のガジェットの相手は苦しい。
故に、もうこれ以上は危険、選手交代が望ましいと考え兼一が一歩踏み出そうとしたところで、キャロがエリオにおずおずと声をかける。

「あ、あの!」
「くぅ……大丈夫! 任せて!!」
(そう…だね。任せると言ったのは僕だ。なら、信じないと。
 今手を出せば、二人の覚悟を踏み躙ってしまう。
 弟子云々はともかく、子どもの闘いに大人がしゃしゃり出るものじゃないか)

今はまだ二人とも戦える。
いざとなれば二人の救出も不可能ではない以上、まだ手を出すべき時ではない。
兼一は踏み出しかけた足を引き、再度二人に背を向けガジェット達と向かい合う。

「ぜりゃあ!」

突きが、蹴りが、次々とガジェットへと突き刺さり、鋼鉄の機体が砕かれていく。
背後からはエリオの苦悶の声と、キャロの息をのむ音が聞こえてくる。
いても立ってもいられない自分をなんとか抑え、兼一は目の前のガジェットだけを相手取っていた。

しかし、やがて背後から無理矢理何かをこじ開けるような音がした所で、兼一は時間切れを悟る。
そこには、大型ガジェットの腕につかまったエリオの姿。
良く頑張ったが、力及ばなかったのだろう。
その小さな体は宙に投げ出されるが、兼一なら抱きとめ再度リニアレールに戻る位は容易い。

(よく、頑張ったよ、エリオ君。後は僕が……)

だが、そこで兼一は思いもよらぬ物を見た。
なんと、投げ出されたエリオを助けようと、キャロもまたリニアレールから飛んだのだ。
まさか比較的おとなしいキャロがそこまで思いきった行動に出るとは思わず、反応が僅かに遅れる。
そして、AMFの影響で魔法を封じられている今のキャロに、再度リニアレールに戻る事は不可能だ。

「いけない!」

なんとかキャロはエリオを抱きしめることには成功した。
だが物理法則に基づき、放物線を描いて落下を開始する二人。
兼一はそんな二人の後を追い、自身もまたリニアレールから飛び降りる。

崖を駆け降りながら二人を追う兼一。
かなりの高さの為、まだ二人が地面と激突するまでには間がある。
兼一の脚力なら、追いついた上で崖を蹴って二人をキャッチ、空中三角飛びでも使って崖に戻れば済む。
そう言う計算を立てていたのだが、通信機から聞こえてくるなのはの言葉はその意表をついた。

「発生源から離れれば、AMFも弱くなる。使えるよ、フルパフォーマンスの魔法が!」
「え? それってもしかし、て……」

自分がやってる事は、単なる取り越し苦労なのか。
そんな危惧が兼一の胸の内で芽生えた時、それは現実の物となる。

キャロを中心として、二人の周りをピンク色の光の球体が発生。
それと共に落下速度が落ち、二人は空中に浮遊する。
やがてその球体を、まるで卵の殻か繭を破る様にして巨大な何かが姿を現す。
それは、サイズこそ大違いだが、全体的なシルエットとしては良く見慣れたもので……。

「これ、フリード!?」

そう、そこにいたのは雄々しい雄叫びを上げる翼長10メートル以上に及ぶ堂々たる白銀の飛竜の姿。
まさかフリードがこんな姿になるとは思っておらず、その威容に僅かに圧倒される。
が、気付けば兼一はものの見事に二人と一匹を追い越し、崖下目掛けて疾走を続けていた。

「って、兼一さん!」
「何してるんですか!?」

二人を助けようとしたのだが、全く以っていらぬお節介だったらしい。
なにしろ二人はフリードの背に乗り、優雅な空の散歩状態。
兼一はとりあえずそれに安堵し、いよいよ地面が近づいてきた所で方向転換する。

「おぉっとと……」
「「…………」」

『逆さ白頭鳥(さかさひよどり)』を用い、非常識にも垂直の壁を駆け上がっていく兼一。
いつぞや、副隊長達が兼一が垂直の壁を駆け上がった事を思い出し、二人は顔をひきつらせる。

「まぁ、二人とも無事で何より。
 危ないと思ったんだけど、早とちりだったみたいだね」
「あ、はい」
「すみません、心配させちゃって」
「いや、それは良いんだけど……どうする?」
「「え?」」
「まだ、続けるかい?」
「「…………………………はい!!」」

追いついた所で交わされる意思確認。
だが、そんな事をする必要はなかったらしい。
二人の眼には、まだ諦めの色はない。
ならば、見守ると言った以上好きなようにやらせてやるべきだろう。

兼一は二人に先行する形でリニアレールへ追いつき、軽やかな動作で屋根に降り立つ。
眼下にはそれを追いかけるフリードの姿。
目の前には、大型のガジェットが屋根を突き破って姿を現しているが、それには手を出さない。
あくまでもアレを仕留めるのはエリオとキャロなのだから。

とはいえ、二人がやりきるまでの間、兼一とて遊んでいるつもりはない。
大型以外にも、まだのこったガジェットはそれなりにいる。
しかもそいつらときたら、フリードとその背にいる二人に狙いを定めているではないか。
これはさすがに見過ごすわけにはいかない。

「折角子どもたちが頑張っているんだ。
 そこに水を差すと言うなら、ちょっと手加減してあげられないなぁ」

一見すると朗らかな笑顔、だがその実何やら得体の知れない気配を放つ兼一。
その後の結末は、最早語るまでもないだろう……。



そうして、危ういながらも大型ガジェットを撃破したライトニングの二人。
しかし喜びもつかぬ間、難敵を倒して一安心した所で、ようやく周りを見る余裕ができてビックリ。
なにしろ、周囲には破壊し尽くされたガジェットの残骸で埋め尽くされているのだから。

「これってもしかして、兼一さんが?」
「キャロ、ガジェットの反応は……?」
「えっと……もうない、かな?」
「い、いつの間に……」

兼一の戦闘能力はある程度知っているつもりだったが、さすがの早技に驚きを隠せない。
自分達が大型と戦っているそう長くない時間の間に、これだけの数を撃滅していたのだから。

「あ、そっちも終わったみたいだね」
「これってやっぱり、兼一さんが?」
「うん、まあね。でも、リニアレールを壊さないように加減するのは難しいなぁ」
「これで加減、ですか?」
(やっぱり怪物だ、この人……)

今更かもしれないが、そのあまりの非常識さを再認識する。
五体を用いた直接攻撃しか攻撃手段がないと言うのにこれだけの早技ができるのだから、まぁ普通ではない。
しかも、本人としてはこれでも加減していると言うのだから……。

「ところで二人とも、目の前の敵に集中するのは良いけど、少し周りを疎かにし過ぎ。
 今回は僕がいたけど、場合によっては背中を狙われていたかもしれないんだから、気をつけないと」
「「はい……」」

『僕は怒ってるんだよ』とばかりに腰に手をやって説教する兼一。
確かにサポートするのが兼一の役目だったが、それを当てにして戦っているようでは危なっかしくて仕方がない。
二人の成長の為にも、言うべき事は言っておかなければならないのだ。

「それとエリオ君、あのおっきいのを相手に力比べに持ち込まれたのはいただけない。
 君はまだ身体が出来てないんだから、狭い場所でももっと動きまわって攪乱しないとね」
「はい……」
「キャロちゃんはキャロちゃんで、もっとズバッと物を言った方が良い。
 君達はパートナー、対等の関係だ。相手の事を慮るのはいい事だけど、それで尻込みしてちゃいけないよ」
「はい……」

その後も次々と二人の問題点を指摘していく。
二人としても、反論の余地がないだけにうなだれて反省するしかない。

「まぁ、まだまだ言いたい事はあるけど、とにかく二人はまだまだだって事」
「「はい……」
「……………………………………でも、よく頑張ったね。エライよ、二人とも」

そう言って、兼一は腰にやっていた手を二人の頭に移す。
そのまま優しく、労いの想いを込めて撫でてやる。
二人は一瞬呆気にとられ、それからくすぐったそうにそれに身をゆだねた。

「「えへへ♪」」
「きゅくる~♪」

一頻り撫でてやったところで、二人の頭から手を離す。
二人はどこか名残惜しげだが、気恥ずかしくて口には出せない。
その代わり、エリオの口を突いたのはこんな言葉だった。

「あの、ギンガさんの方はまだ終わってないみたいですけど…いいんですか、手伝わなくて?」
「ああ…そうだね。気にならないと言ったらうそになるけど、弟子のケンカに師匠は出ないのがルールだから」
「そういうものなんですか」
「うん、そういうものなんだ」

別に覗く分には問題ないので、正直いくかどうかは悩みどころだ。
しかし、だからと言ってこちらを投げ出すわけにはいかない。
一応敵性兵器は全機撃破した筈だが、不測の事態と言うのはいつでもおこり得る。
子ども達を残していくわけにもいかないので、せめてスターズと合流してからとなるだろう。

そんな理由もあってスターズと合流すべく、重要貨物室に向かおうとする一向。
だがそこで、突如兼一がその足を止めた。

「どうかしたんですか、兼一さん?」
「きゅく?」
「あ、いや、何でもないよ。どうやら、気のせいだったみたいだ」
「「「?」」」
(いま、誰かに見られている気がしたんだけど……気のせいだったのかな?)

気配は探っているが、特にこれと言って不穏な気配はない。
もしかしたら、山の動物からの視線か何かだったかもしれない。
そう思う事にして、兼一はスターズとの合流を優先することにするのだった。






あとがき

とりあえず、今回は珍しく進行重視です。なので、少しばっかし拙速っぽいのが心配ですね。
流れ自体もほとんど原作どおりですし、そういう意味では面白みのない回だったかも。

言い訳させてもらうと、正直ここで兼一が派手に暴れても色々な意味で仕方ないんですよね。
そりゃそれが一番楽なんですけど、その場合新人達の経験になりませんし。
なので、結局今回の兼一は引率の親御さん的な立ち位置になり、あまり絡む事ができませんでした。

その代わりと言ってはなんですが、次回はこの話の裏です。
つまり、別行動を取っていたギンガの話ですね。
こちらはちょっとちがう展開を考えているので、ある意味こちらがメイン。
早めに出せるよう頑張ろうと思います。

まぁ実を言うと、一番心配なのは兼一に持たせたバッテリー式の防護服なんですけど。
管理局のシステム的に持たせないと問題になるでしょうし、ただでさえ叩きどころ満載の六課。
そんな些細な事で叩かれるのは御免被りたいでしょうから、これ位は普通かなと。
それにあれですよ、結局は兼一があってもなくても同じなように立ちまわり、役立つ場面では何かしらの理由をつけてとっちゃえばいいんです。
あのアイテムは結局のところ「対外的にちゃんと安全には気を配ってる事をアピールする為の小道具」ですしね。


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