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No.25730の一覧
[0] 【完結・改訂完了】リリカルなのはSts異伝~子連れ武人活人劇~(×史上最強の弟子ケンイチ)[やみなべ](2013/07/16 20:55)
[1] BATTLE 0「翼は散りて」[やみなべ](2013/07/16 00:16)
[2] BATTLE 1「陸士108部隊」[やみなべ](2013/07/16 00:17)
[3] BATTLE 2「新たな家族」[やみなべ](2013/07/16 00:17)
[4] BATTLE 3「昼の顔、夜の顔」[やみなべ](2013/07/16 00:18)
[5] BATTLE 4「星を継ぐ者達」 [やみなべ](2013/07/16 00:18)
[6] BATTLE 5「不協和音」 [やみなべ](2013/07/16 00:19)
[7] BATTLE 6「雛鳥の想い」 [やみなべ](2013/07/16 00:19)
[8] BATTLE 7「一人多国籍軍、起つ」[やみなべ](2013/07/16 00:20)
[9] BATTLE 8「断崖への一歩」[やみなべ](2013/07/16 00:20)
[10] BATTLE 9「地獄巡り 入門編」[やみなべ](2013/07/16 00:21)
[11] BATTLE 10「古巣への帰還」 [やみなべ](2013/07/16 00:21)
[12] BATTLE 11「旅立ち」[やみなべ](2013/07/16 00:22)
[13] BATTLE 12「地獄巡り 内弟子編」[やみなべ](2013/07/16 00:22)
[14] BATTLE 13「誕生 史上最強の○○」[やみなべ](2013/07/16 00:24)
[15] BATTLE 14「機動六課」[やみなべ](2013/07/16 00:25)
[16] BATTLE 15「エースの疑念」[やみなべ](2013/07/16 00:26)
[17] BATTLE 16「5年越しの再会」[やみなべ](2013/07/16 20:55)
[18] BATTLE 17「それぞれの事情」[やみなべ](2013/07/16 00:27)
[19] BATTLE 18「勢揃い」[やみなべ](2013/07/16 20:54)
[20] BATTLE 19「守護の拳」[やみなべ](2013/07/16 00:28)
[21] BATTLE 20「機動六課の穏やかな一日」[やみなべ](2013/07/16 00:29)
[22] BATTLE 21「初陣」[やみなべ](2013/07/16 20:53)
[23] BATTLE 22「エンブレム」[やみなべ](2013/07/16 20:52)
[24] BATTLE 23「武の世界」[やみなべ](2013/07/16 20:52)
[25] BATTLE 24「帰郷」[やみなべ](2013/07/16 00:34)
[26] BATTLE 25「前夜」[やみなべ](2013/07/16 00:34)
[27] BATTLE 26「天賦と凡庸」[やみなべ](2013/07/16 20:51)
[28] BATTLE 27「友」[やみなべ](2013/07/16 00:38)
[29] BATTLE 28「無拍子」[やみなべ](2013/07/16 00:38)
[30] BATTLE 29「悪魔、降臨す」[やみなべ](2013/07/17 21:15)
[31] BATTLE 30「羽化の時」[やみなべ](2013/07/16 00:39)
[32] BATTLE 31「嵐の後で」[やみなべ](2013/07/16 00:40)
[33] BATTLE 32「地獄巡り~道連れ編~」[やみなべ](2013/07/16 00:41)
[34] BATTLE 33「迷い子」[やみなべ](2013/07/16 20:50)
[35] BATTLE 34「I・S」[やみなべ](2013/07/16 20:50)
[36] リクエスト企画パート1「vivid編 第一話(予定)」[やみなべ](2013/07/16 00:43)
[37] BATTLE 35「ファースト・コンタクト」[やみなべ](2013/07/16 00:43)
[38] BATTLE 36「お子様散策記」[やみなべ](2013/07/16 00:44)
[39] BATTLE 37「強い奴らに会いに行け!」[やみなべ](2013/08/01 03:45)
[40] BATTLE 38「祭囃子」[やみなべ](2013/07/16 00:45)
[41] BATTLE 39「機動六課防衛戦」[やみなべ](2013/07/16 00:45)
[42] BATTLE 40「羽撃く翼」[やみなべ](2013/07/16 00:46)
[43] BATTLE 41「地獄巡り~組手編~」[やみなべ](2013/07/16 00:46)
[44] BATTLE 42「闘いの流儀」[やみなべ](2013/07/16 00:47)
[45] BATTLE 43「無限の欲望」[やみなべ](2013/07/16 00:47)
[46] BATTLE 44「奥の手」[やみなべ](2013/07/16 00:48)
[47] BATTLE 45「絆」[やみなべ](2013/07/16 00:48)
[48] BATTLE 46「受け継がれた拳」[やみなべ](2013/07/16 00:49)
[49] BATTLE 47「武人」[やみなべ](2013/07/16 20:49)
[50] BATTLE FINAL「それぞれの道へ」[やみなべ](2013/07/16 00:50)
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[25730] BATTLE 18「勢揃い」
Name: やみなべ◆d3754cce ID:1963cf14 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/07/16 20:54

管理局執務官にして機動六課ライトニング分隊分隊長、「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン」は思う。
『今日はなんだかみんなの様子がおかしい』と。
もちろん、知り合いが全員様子がおかしいと言うわけではないのだが、それでも変な者が多かったのも事実。

例えば、十年来の親友にして同室の高町なのは。
朝眼を覚ますと、すでに起きていた彼女の心は燃え盛っていた。

「ふふふふ……負けませんよぉ、兼一さん。
 私だって戦技教導官の端くれ。教導のプロとして、あなたに後れは取りません!」

白浜兼一の事は昨日の夜聞いていたし、どんな人種かも聞き及んでいる。
どうやら、一指導者として並々ならぬ対抗心を燃やしているらしい。

聞く所によると、彼の師は無茶・無理・無謀の三拍子が大好きな変人との事。
で、その弟子である白浜兼一も、かなりその色に染め上げられているのだとか。

よりによってそんな相手に対抗心を燃やす事もないのにと思うのだが、既にテンションが全力全開なものだから声もかけづらい。下手な事を言うと、何が起こるかわかったものではないと直感が告げている。
とりあえず、自身が保護責任者を務める二人だけは何としても守ろうと決意するフェイト。
スバルとティアナに関しては、二人を守るので精一杯なので一言「頑張れ」とエールを送る事しかできないが。



他にも、長年の目標の一人でありライバル、同時に自身の副官でもあるシグナム。
出勤の準備を整え廊下に出ると、いつもの凛とした空気はどこへやら。
忙しなく、落ち着きなく廊下を行ったり来たりするその姿は、普段と違ってどこか頼りない。
トレードマークの一つであるポニーテイルも、心なしかしんなりしている。
しかし、いぶかしんでしばし観察していると、さらにすごい事になっていく。

「……ぬああぁぁぁぁぁぁっぁぁあっぁぁぁぁぁぁ!!??」

唐突に叫び出したかと思うと、頭をグシャグシャとかき回すシグナム。
だが、始まるのが突然なら止まるのも突然。
なんの脈絡もなく停止すると、今度は慌てた様子で窓ガラスを鏡代わりに髪をセットし直す。

また、いきなり自分の身体を見直したかと思うと身繕いを始める。
それどころか、先ほど同様窓ガラスを鏡代わりに自分の顔をつねったり引っ張ったり。
挙句の果てに、何やら笑顔の練習までし出す始末。

正直、十年の付き合いになるフェイトでも初めてお目にかかるシグナムがそこにはいた。
あるいはシグナムのこんな姿、はやてや守護騎士たちですら知らないかもしれない。
そんな事を考えつつ茫然としていると、ようやくシグナムが彼女の存在に気付き駆け寄ってきた。

「む、丁度いい所にいた、テスタロッサ!」
「は、はい、どうしましたシグナム!」
「不躾な事は承知しているが、忌憚のない意見を聞かせてくれ。
 こんな事、主はやて達には聞けないのだ」

はやて達にも聞けない事、と聞いてフェイトの頭が即座に覚醒する。
良く見れば、シグナムの顔には隠しようもない程の緊張と焦燥が滲んでいるではないか。
あのシグナムにこんな表情をさせるほどの何か、フェイトの総身に緊張が走る。

生真面目で実直なシグナムは、はやてを心配させないために大抵の事は自分で何とかしようとする。
同様に、守護騎士筆頭として家族達に情けない姿を見せまいと努力してきた事は彼女も知っていた。
それはフェイト達に対しても同じようなものなのだが、そんな体面をかなぐり捨てる話なのだろう。
友として、好敵手として、上司として、彼女の相談に真摯に応えるべくフェイトは覚悟を決めた。
そして、大真面目な顔のシグナムの口から放たれた言葉は、フェイトの思考を混乱の坩堝に叩き落とす。

「私は…………………………………………かわいいのか?」
「……はい?」

あまりにもフェイトの持つシグナムのイメージからかけ離れたその問いに、間の抜けた声が漏れる。
現実に思考が追い付かず、それどころかまだ自分は夢を見ているのではないかと思う。
それほどまでに、たった今シグナムが口にした問いと戸惑いの破壊力は絶大だった。

「す、すまん! 愚かな事を聞いた。
 こんな言葉、本来私とは最も縁遠い…いや、そもそも縁のない単語なことは承知している。
 おそらく、アレも何かの間違いか気の迷いだったのだろう。
 だが、念のため第三者の意見を聞いておきたくてだな……」
「は、はぁ……シグナムが、かわいい…ですか?」
「う、うむ。実は昨日、とある男に言われたのだ。
自慢するわけではないが、これまで『カッコイイ』や『綺麗』の類の言葉は飽きるほど聞かされた。
だから、正直その手の文句を聞いてもなんとも思わん。
しかし、こんな事を言われたのは初めてでな。自分では判断がつかんのだ」

実際、シグナムにはなのは達に負けず劣らずファンが多い。
凛々しく、気高く、質実剛健にして忠義に厚い才色兼備の騎士。
厳しさと優しさを併せ持つ人格者であり、いついかなる時も毅然とした態度を示す彼女は、女性局員の憧れの的だったりする。なので、シグナムとなら禁断の世界に突入する事も厭わないと豪語する者は多い。

その為高嶺の花扱いされる事も多いが、同じくらい言い寄る男(ついでに女)も多い。
この十年、この手の輩が後を絶たなかった事もあり、すっかりその手の文句には耐性がついていた。

しかし、昨日投げかけられた言葉はそれまでのどれとも違う。
褒め言葉という意味では同じだが、ベクトルが違うのだ。
『綺麗』と見惚れるのではなく、『カッコイイ』と恍惚に浸るのでもない。
それは、上記二つにも引けを取らない褒め言葉にして、第三の方向性。

かわいいには『愛らしい』という意味も含まれる。
そんな事を、まるで年下の女の子を褒めるように言われたのだ。
身長が高く、剣腕に優れ、『烈火の将』と讃えられる高潔な精神の持ち主が。
自分とは無縁と思っていた単語を投げかけられたことに対する衝撃は、予想以上に大きかった。
何しろその方向性には免疫がない。それも、邪念も下心もない純粋な言葉だ。

好いた惚れたはともかくとして、それでもシグナムのメンタルは紛れもない女性。
自分にそんな面があるのかと思うと、どうしても気になってしまう。
数々の奇行も、全てはこれに起因していた。

「で、ど…どうなのだ?」
「ええっとぉ……」

シグナムが可愛いか否か。その答えを、フェイトも上手く言葉にできない。
彼女は紛れもない美人だし、スタイルも抜群、顔の造形にも非の打ちどころがないだろう。
また、その在り方はある意味理想の男性像、白馬の王子様に近いかもしれない。
男装の麗人、男物の格好をさせれば間違いなくそういう状態になる。

だが、彼女が問うているのはそんな事ではない。
だからこそフェイトとしても判断に困るのだが、困っているうちに勝手にシグナムは首を振りだした。

「いや、皆まで言うな。答えなど聞くまでもなかったのだ。
そう、これは気の迷い! 慣れない単語の幻聴を聞いて、気が動転していただけにすぎん。
忘れてくれ、忘れろ、忘れるんだぞ!! とにかく、お前は何も聞かなかったし見なかった。それが全てだ!」
「は、はい……」

あまりの迫力に押し切られ、結局答えらしい答えを返すことなく機械的に首を縦に振るフェイト。
それに満足したのか、あるいはフェイトの返事を聞く余裕すらないのか、シグナムは足早にその場を後にする。
昨日はあまり実感がなかったようだが、一晩明けてその意味が沁み渡り、気が動転しているらしい。
そんなシグナムの後ろ姿を見ながら、ようやく冷静さを取り戻してきたフェイトの口からある単語が零れた。

「今のシグナム、ちょっと……かわいかったかも」
「のあっ!?」

まるでバナナの皮でも踏んだかのように、盛大にこけるシグナム。
どうやら、今の呟きが聞こえてしまったらしい。



そして、隊舎の外に出るとそこには、一種異様な光景が広がっていた。
立ち並ぶ樹木から放たれるのは、なにやら不気味な鈍い輝き。
一つや二つではない。それが並木にそって無数に点在している事を、フェイトの眼が捉えた。

(なんだろ、あれ?)

輝きの位置は決して高くない。凡そ地上1mから1m50㎝にまばらに点在している。
不思議に思って近づいてみれば、すぐにその正体は明らかになった。
ただ、明らかになってもその意味と意図はさっぱりだったが。

「…………………釘と…人形、かな?」

鈍い輝きの出所にあったのは、木の幹に打ちつけられた人形と釘。
人形の胸、人間なら心臓に相当する場所を貫通する形で、釘が刺さっている。
だが、いくつか見渡して見ると、刺さっている所が異なるものもある様で、中には額のあたりをぶちぬかれている個体もある。まぁどちらにせよ、人間だったらかなりスプラッタな状態だ。

また、その人形も一般的にはあまり目にするプラスチックや布製ではなく、材料は藁。
文字通りの「藁人形」という奴だ。
そこでフェイトは、その存在に既視感と似ているようで違う何かを覚え、記憶の糸をたどりだす。

(あれ? そう言えば昔、いつだったかアリサからこんな感じの話を聞いた事があるような……。
 確か、時期は夏場の夜。怪談……だっけ?)

そう、それはなのはやはやて同様十年来の親友が話してくれたお話。
アリサとはやてが企画した怪談大会で聞いた事がある。
あの時は日本文化への理解がまだ乏しく、完全に理解できなかったおかげでそれほど怖くはなかった。
ただその後懇切丁寧に説明され、しばしの間怖くて夜中トイレに行けなくなったのだ。
なので、その度に自身の使い魔や義兄、あるいは義母、後の義姉にトイレに同伴してもらったのは親友たちにも言っていない絶対の秘密である。まぁ、そのおかげで完全に忘れた筈の今でも思い出せてしまったのだが。

「うぅ、イヤな事思いだしちゃった……」

恥ずかしい過去という名の黒歴史を思い出し、微妙に凹むフェイト。
アレからずいぶん経つが、それでも皆には知られたくない過去である。
特に、自分が保護責任者を務める二人には。そんな情けない過去を知られれば、二人を失望させてしまう。
今のフェイトにとっては、怪談などよりそちらの方が怖い。むしろ、次元震や世界の崩壊よりも。
とそこで、やや離れた所からフェイトの耳に恐らくは釘を「カーン、コーン」と打つ音が聞こえてくる。

「な、なに!?」

明るい時間帯なので別に怖くはないが、それでも不気味なことに変わりはない。
できるなら無視したいが、隊の敷地内で起こった異変を無視できるほど彼女は器用ではなかった。
何が起こっても大丈夫なように警戒しながら恐る恐る音の出所に近づいて行くと、やがて音もはっきりしてくる。
そうして聞こえてきたのは、妙に振動していながらも明るい子どもの声。

「いっか~い、にか~い、さんか~い」
「きゅうか~い、じゅっか~い、じゅういっか~い、じゅうにか~い」
「きゅく~」
「……やっぱり一回たりない」
(あれ、これってまた別の怪談のネタじゃなかったっけ?
 って言うかこの声、この鳴き声…まさか!?)

徐々に昔の事を思い出して来たらしく、内心冷静な突っ込みを入れるフェイト。
その一因、聞こえてきた声に聞き覚えがあったのも無関係ではあるまい。

「なにやってるの? エリオ、キャロ」
「「あ、フェイトさん!」」
「?」

木陰から顔をのぞかせてみれば、そこには案の定の顔ぶれ(若干一名除く)。
エリオとキャロは突然現れた意外な人物に目を見開き、心当たりのない翔は「誰?」とばかりに不思議そうに首をかしげている。

フェイトにとっても、当然ながら相手は見ず知らずの子ども。
故に、「誰?」という気持ちは同じだ。だがその仕草と表情に、そんな疑問などどうでもよくなる様な、胸を掻き毟られる感覚を覚える。

(か、可愛い……!)

キメの細かい滑らかな白い肌、風に揺れる艶やかな黒髪、陽光を受け輝く無垢な蒼い瞳。
その全てが愛らしく、思考がマヒしどうしていいのかわからなくなる。

(抱きしめたいなぁ、ほっぺたプニプニしたいなぁ……つ、連れてっちゃダメ…だよね?)

湧き上がるのは、このままお持ち帰りしてしまいたい衝動。
しかし、そんな少々危ない衝動は一先ず置いておくとして……。
翔にエリオがフェイトの事を紹介している間、キャロがフェイトの質問に答えてくれた。

「えっとですね、ナカジマ陸曹とまた無事に生きて会えるようにって言うおまじないです」
「おまじない? (そう言えば、ギンガの練習がもっとハードになるってなのはが言ってたけど、だから?
そんな願掛けをするのもどうかと思うけど、そもそもこれは確かおまじないじゃなくて……)」

フェイトも詳しく知っているわけではないが、それでも僅かに憶えがある。
彼女の記憶が正しければ、これはおまじないとは真逆の代物ではなかったか。
だが、これを安全祈願のおまじないと信じて疑わない子ども達。

「その呪い……もとい、おまじない誰が教えてくれたの? はやて?」

ここで彼女の名前が出る辺り、はやてがどんな扱いになっているか分かると言うものだろう。
しかし、エリオはフェイトの問いに首を横に振り、その情報源を明らかにする。

「いえ、『おひゃくどまいり』は翔が教えてくれたんです!」
「うん、アパのおじ様としぐれ姉さまに教えてもらったの! 百個作ると大丈夫って言ってた!」

教えてくれた人をよほど信じているのだろう、エヘンと胸を張って満面の笑顔で教えてくれる翔。
ただ、所詮は子ども。どうやら、しぐれ達が教えた内容から、さらに若干ずれてきているらしい。
もちろんそんな事、アパチャイ達を知らないフェイトが知る筈もないが。

(丑の刻参りを百って……善意しかなくても呪われそう)

とりあえず、彼女としても早めに直した方が良いと思う。
だが、翔をはじめ、エリオやキャロまで心の底からこれがギンガの為になると信じてやっている事がそのキラキラした瞳から伺える。甘いフェイトには、彼らに残酷な真実を告げる事は出来なかった。

「えっと、それ実はね……」
「「「?」」」
「……ううん、何でもない、頑張って」
「「「はい!」」」
(ホントは頑張っちゃダメなんだけど……ギンガ、大丈夫かな?)

彼女がそんな事を思ったその時、やや離れた場所でギンガの「大丈夫なわけありませんよ!」という絶叫が響いたかは、定かではない。ついでに、ギンガの食器類の尽くが縦に割れると言う怪奇現象との因果も不明だ。

しかし一つだけ言える事がある。
それは、後にフェイトはこの時これを止めなかった事を激しく後悔するだろう事。
詳しい過程と経緯は省くが、やがてこの呪いは元の形からは明らかに間違った形である「願いがかなうおまじない」として、時空管理局全体に広まるのだった。



BATTLE 18「勢揃い」



場所は変わって訓練場。
そこにはすでに、この日行われる兼一とザフィーラの模擬戦の準備が整っていた。

シチュエーションは前日同様、高層ビルの並び立つ「市街地」。
恐らく、少しでも公平を期すためのセッティングなのだろう。何しろ、ザフィーラと違って兼一に飛行はできない。兼一自身の要望により一切のハンデなしとされた為、その差を埋めやすくする処置だ。大方、飛べないにしても兼一の身体能力ならビルの壁を利用して、相手が空中にいてもある程度戦えると考えたのだろう。

兼一に伝えられた集合時間は、早朝訓練を終え朝食を取ったその後と伝えられていた。
それまではギンガの修業や自身のウォーミングアップに当て、食事を済ませておくようにとの事。

今頃は皆食事を取っているか、食後の僅かな休憩時間を満喫している所だろう。
故に、今現在この訓練場は無人…………の筈だった。

だが実際には違う。皆より一足早く、早々に訓練場…より正確には陸戦用空間シミュレータの使用許可をもらった白浜親子とギンガがいた。
その理由は簡単。前日の約束通り、ギンガにさらにきつい修業を課すためである。
今まで以上の修業をするには、食後の休憩時間さえも惜しい。幸い、食後間もなくハードな運動をした程度で具合が悪くなる様な鍛え方などしていないのだ。

「きぃぃぃいぃぃ重いぃぃぃ!!」
「ほら、あと一往復。急いで急いで。みんなが集まるまで時間がないよ。
 ただでさえ修業時間がキツキツなんだから」
「だったら重り減らしてくださいよ!!」
「それじゃ修業にならないじゃないか」

優に高さ十階を超えるビルの屋上の縁で胡坐をかいて弟子を見守る兼一。
しかし、屋上のどこを見渡してもギンガの姿はない。
いるのは、呑気に食後の茶を飲む兼一とビルの縁から下をのぞき込み「アワアワ」と震える翔だけ。

それもその筈。何しろのギンガの声は、丁度兼一の真下から聞こえてくる。
より正確には、ビルの壁面からと言うべきだろう。

そこにいたのは、ヤモリの如くビルの壁面にへばりつくギンガ。
それも、その背中には等身大の地蔵が、両腕には黒光りする仁王しがみついてた。
挙句の果てに、脚からは鉄球までぶら下がっている始末。

「う、腕が、指が……というか上半身がいい加減限界です!!」
「限界に挑んでこその修業さ。ああ、わかってると思うけど、くれぐれも脚は使っちゃいけないよ」
「縛っといて何言ってんですか!! というか、パンパンで元から動きませんよ!!」

ギンガの言葉通り、その脚は荒縄でぐるぐる巻きにされ動かない。
つまり、今彼女は両腕だけを頼りにビルを上っているのだ。

元来、ビルの壁面の凹凸などたかが知れている。
それをよじ登るとなれば、生半可ではない指と腕の力を要するだろう。
その上脚が使えず重りまで付いているのだから、最早拷問の域だ。

「弱音を吐いてる暇があったら早く上る。凹凸は少ないけど、滝じゃないだけマシじゃないか」
(滝なら下が水だから死ぬ可能性は低いけど、その分……)

水の質量と落下エネルギーが加わるので、実に甲乙つけがたい。
まぁ、ギンガの場合いざとなれば魔法を使えば死ぬ事はないので、兼一の言う通り滝じゃないだけまだマシだろう。とはいえ、だからと言って今の修業が軽いと思える筈もないし、実際軽いわけでもない。

「っと、30秒経ったね。翔、それとって」
「う、うん」
「ほら、いくよ」
「いくって、まさか!?」
「はい、避ける!」
「きゃ――――――――!?」

頭上から降ってくるのは、頭ほどの大きさの石。
それがギンガの頭めがけて降ってくる。

大慌てでギンガは片手を離し、身体を揺すってそれを避けた。
だがそれで終わらず、次々とギンガを追い掛けるようにして石が降ってくる。
絶え間なく降ってくる石に対し、一度は離した手で壁を掴み、今度は逆の手を離して避けた。
左右の手で壁を掴んでは離しを繰り返し、その全てをやり過ごす。

「よし、良く避けたね。さ、次はまた30秒後だよ」
「むきぃぃぃぃぃぃ!!」

早く登らなければまた石が降ってくる。
その危機感に突き動かされ、半ば自棄にでもなった様に壁を這い上がるギンガ。
努力の甲斐あり、その後三回の落石を経て、見事生きてビルの壁を登り切った。

「ハァハァハァハァハァ……」
「よし、良く生きて帰った」
(よ、ようやく終わ……)
「じゃ、今度は下りようか」
「まだやるんですか!?」
「だって、まだあと一往復って言ったでしょ?」
「確かに、確かに言いましたけど……」

すでに限界を迎えているのか、両腕がプルプルと震えて力が入らない。
それは何も腕に限った話ではなく、僧帽筋や広背筋など背筋全般に言える事。
腕や肩の運動には背筋が密接に関与しているので、当然の結果だ。

しかし、この状態で下りなど自殺行為にも等しい。
それがわかっているからこそ躊躇いを見せる弟子に対し、兼一は一つ別の条件を提示する。

「しょうがないなぁ。じゃあ、下りを免除する代わりに」
「どうするんですか! これ以外なら何でも……」
「海に」
「下ります」

兼一が一言「海」と言った瞬間、最後まで聞かずに返答するギンガ。
湾岸地区という立地上、機動六課は海に面した区画にある。その為、やろうと思えばいつでも海に出られるわけだが、今の彼女は正直海など見たくもないらしい。
故に、そのままビルの縁に手をかけそのまま今来た道、ならぬ壁を下り始めた。
ちなみに、海に出られなかった兼一は少し寂しそうだった…かもしれない。

「良い修業になるんだけどなぁ…海」
(まさか、海に沈めたんじゃないよね?)
「何か言ったかい、翔?」
「ウウン、何モ言ッテナイヨ」

不思議そうな顔で覗き込む父に、翔は首を振る。
早朝はエリオ達と一緒に件の「おまじない」をしていたので一緒にいなかったが、ギンガの様子から今まで以上にハードな事をやったのは間違いない。何をやったかは想像できないが。
とそこへ、呆れの感情を露わにヴィータが、その後ろには苦笑気味のなのはの姿もある。

「あ、おはようございますヴィータ三尉。それになのはちゃんもおはよう」
「おう」
「どうも、おはようございます兼一さん、翔もね」
「うん、おはようございます!」
「つーか、あたしには敬語でなのははタメなのな」
「あ、そう言えば……直した方がいいかな?」
「いえ、別にいいですよ。兼一さんに敬語で話されるのも変な気分ですから。
 それを言ったら、ヴィータちゃんだって敬語使わないでしょ?」
「お前相手に敬語なんて気色悪ぃ。ま、時と場所くらいはわきまえるけどな。
 ここならうるさく言う奴はいねぇだろうけど、外だと気にする奴もいるからそこだけは気をつけろよ」
「ま、そう言う事で」
「はい」

要は、メリハリをつけろと言う事なのだろう。
六課はほとんど身内所帯なので、その辺は緩い。
だが外ではその限りではない以上、変に目をつけられない為にもそう言う事が必要なのだ。

「(それにして、何度見てもちっちゃい人だなぁ。とてもじゃないけど尉官には見えないよ)あたっ!?
 な、何するんですか!?」
「てめぇ、またあたしの事『小さい』とか思っただろ」
「え? ああ、その……もしかして、考えるのも禁止?」
「あ・た・り・ま・え・だ! だいたいお前、学習能力ってもんがねぇのか? それともあれか、ところてんみたいにドンドン押し出されるのか?」

眼は口ほどに物を言うと言われる。
今まで散々そういう目で見られてきたヴィータには、相手の視線からそう言った事を考えている事がわかるのだ。
そして、このネタはヴィータにとって最大のコンプレックスの一つ。
迸る怒りのオーラは天を突かんばかりに立ち登り、兼一をして後退りさせるには十分だった。

「ち、ちらっと思っただけです…よ?」
「自信ねぇんじゃねぇか!!」
「だ、だって、背だって翔とあんまり変わらないじゃないですか…ってしまった!?」

最早言葉は不要とばかりにグラーフアイゼンを振りかぶり、兼一の頭に殴りかかるヴィータ。
兼一としても、不用意に相手のコンプレックスを刺激してしまった負い目から、甘んじて制裁を受ける。
都合30発にも及ぶ執拗なまでの天誅。
その末に、さすがの兼一も頭から白い湯気を上げながら、無数のたんこぶを作って突っ伏した。

「ハァハァハァ……何か言いたい事はあるか?」
「ありません」

常人なら、とっくに脳漿をぶちまけているだけの攻撃を受けながら尚意識があるのは驚嘆以外の何物でもない。
というか、そもそもたんこぶ程度で済む筈がないのだが。
事実としてたんこぶだけで済んでいる兼一に、なのはは呆れとも感心ともつかない呟きを洩らす。

(相変わらず、頑丈な人だなぁ……)

本来、その一言で済ませていい問題では断じてない。
のだが、その事に突っ込んでくれる良識人はいなかった。

「にしても、何やらせてんだよおめぇ」
「? 見ての通り、ビルを登ったり降りたりしてるだけですけど?」
「そう言うと普通に聞こえるけどよ、やってる内容は絶対普通じゃねぇぞ。
 つーか、何だよあの地蔵とか」
「子泣き地蔵としがみ仁王アイアンです」
「子泣きって、おい……」
「僕も昔使ってた修業道具なんですけどね。ホントは金下駄とかプラチナブーツとかを使わせてあげたいんですけど、うちの財政事情だと……」
(無駄に金がかかりそうだな、それ)

今更ながら、闇との格差を思い知る兼一。多少懐が豊かになっても、さすがにあんな真似はできない。
比重としては鉄や石よりも重いので効果的なのだが、如何せん先立つ物がないのではどうにもならなかった。
だがそこで、何かを思いついた様に兼一がなのはを見る。

「ねぇ、なのはちゃん」
「いえ、さすがにそれは予算的に……うちは特殊ですけど、無尽蔵じゃないんで」
「そっかぁ……」

凄く、凄く残念そうな兼一。
とはいえ、さすがに備品として金製の下駄やプラチナ製のブーツなど用意できる筈もない。
なんというか、アナログな癖に費用がかかり過ぎるのだ。
如何に六課が特殊とはいえ、申請した所で決して受理されない事は目に見えている。

「それにしても、登りだけじゃなくても下りもですか……」
「まぁね。手っ取り早く強くなりたいなら、蹴りを突き並みに器用にするか、突きを蹴り並みに強くするかだし。
それに階段とか坂もそうだけど、実は上るより下る方がキツイから。
 折角良い修業になるのに上りだけって、なんか損した気分でしょ?」
((そうか【なぁ】?))

兼一からすれば損した気分なのかもしれないが、それは一般論ではない。
むしろ、下りまである方が損した気分になるだろうと二人は思う。

「そう言えば朝は見かけませんでしたけど、何してたんですか?」
「ああ、ちょっと海にね」
「アレか? 砂浜を走るとかそういうのか?」

海と聞いて思い出す練習の定番、それは砂浜を走る事だろう。
そう思い至ったヴィータは、内心で「結構普通だな」と思う。
だが、この連中に限って普通の事などやらせるわけがない。

「いえ、走ったのは海の中ですよ、腰まで浸かって」
「は?」
「ほら、水の抵抗って結構便利じゃないですか。
 波で不安定になりますし、足場も悪いですから足腰の鍛錬にはもってこいなんですよねぇ。
 バランスを崩さない様に砂を掴まなきゃいけないから、死ぬほど足の指も鍛えられますし」
(壁上りと言い、地味にきつい事やらせんなぁこいつ)

元来の性格に加え、師の薫陶が行きわたっているのだろう。
秋雨もそうだったが、意気込めば意気込む程地味な訓練をねちっこくやらせるのが兼一の傾向である。
水の抵抗があっては思うように動けない上に、波の影響や足場の悪さもあっては猶の事。
ギンガは水中でも突きや蹴りの鋭さを維持する技術を持っているが、それでも相当難儀した筈だ。
そもそも、アレは一々全ての動きに練り込めるような性質のものではない。
故に、なのはが昔の事を忘れてこんな勘違いをしてしまったのも無理はなかっただろう。

「海の中をスロージョグですか、なるほど。
(もうちょっと基礎体力がついてきたらみんなにもやらせてあげようかな?)」
「へ? なに、スロージョグって?」
「え? だって、水の中ですしやっぱりゆっくりとしか……まさか!」
「おい、どうしたなのは」

『スロージョグ? 何それ、美味しいの?』的な反応を示す兼一。
なのははそんな兼一の様子を見て思い違いにいち早く気付き、怖れ慄く。
ただし、達人と言う人種への耐性の低いヴィータはいぶかしむ様な表情を浮かべる事しかできず、なんとなく予想のついた翔は深々と溜息をついていた。

「兼一さん、まさかとは思いますけどペースを落としたりは……?」
「え? そんなことしたら修業にならないじゃないか」
「やっぱり……」
「おい、どういう事だよ」
「兼一さんの走り込ってね、少しでもスピードを緩めると鞭で叩かれるんだ、馬みたいに」
「……………………………マジかよ」

ヴィータも想像がついたのだろう。
本当に鞭を打たれたのかは定かではないが、似たような方法で一切の緩みを許さなかったに違いない事が。

そして、翔は理解した。
何故先ほど、「海」と言う単語が出た時点でギンガが大人しく壁を下りて行ったのかを。
一見すると壁上りの方がハードだが、兼一の足腰を重視する傾向は性癖の領域だ。
恐らく、その内容も走り込みだけでは済むまい。
ただでさえ脚に力が入らない状態だったのだ、下手をすると今度こそ海に帰っていたかもしれない。
それはまぁ、ギンガでなくても回れ右をするだろう。
だからこそ、ヴィータが内心でこう呻いたのも仕方がない。

(限度ってもんを知らねぇのか、こいつは)

ギンガとて、兼一に弟子入りする前は水の中での訓練も積んできた。
そのギンガでさえあの有様となってしまうような訓練。
普通に考えれば、度が過ぎているどころの話ではない。

本音を言えば今すぐにでもとめた方がいいとヴィータは思う。
しかし、一度信じると言ってしまった手前、さすがに昨日の今日で翻すわけにもいかない。
少なくとも、ギンガもなのはもまだ兼一を信じているのだから。
とそんなヴィータの内心を余所に、なのはは視界の端で何かを捉えそちらに顔を向けていた。

「あ、みんな来たみたいだね。じゃ、兼一さん」
「うん。ギンガも降りたみたいだし、上るまでちょっと待ってもらえる?」
「大丈夫ですよ。まだ時間まで少しありますから」
「ごめんね」

やってくるのは、部隊長であるはやてやライトニング分隊分隊長のフェイトを始め、兼一とも共に戦う事になるであろうフォワードメンバー達。他にもシャマルやリイン、なぜかヴァイスなどの姿もある。
どうやら観客と言うか野次馬と言うか、そう言う感じらしい。
とそこで、まだちゃんとした形での面識を持った事のなかったはやてが話しかける。

「どうも挨拶が遅れまして、機動六課部隊長の八神はやてです。はじめまして…やないんですよね、確か」
「あ、いえ、こちらこそ。白浜兼一二等陸士です」
「ええですよ、別に敬語やなくても。白浜さんの方が年上なんですし」
「いや、さすがにそう言うわけには……」
「そですか?」

なのはとは昔の付き合いがあるので抵抗はないが、さすがにほぼ初対面に近い上司にタメ口をきく度胸は兼一にはない。まぁ、この先親しくなれば話は別かもしれないが。
とそこで、こっそり背後に回った翔が兼一目掛けて飛びかかろうと膝を曲げる。
おそらく、昨日に引き続きまた不意打ちを仕掛けようとしているのだろう。
だが、いざ飛び上がろうとしたその瞬間……

「へぶっ!?」

突然、その場ですっ転んだ。

「あの~、お子さんがいきなり転んでもうたみたいですけど……」
「ああ、気にしないでください」
「でも…ええんですか?」
「はい」

翔の方を全く見向きもしない兼一に対し、いぶかしむ様な視線を向けるはやて。
だが兼一は、それに怯んだ様子もなく、あくまでもにこやかな笑みを崩さない。
まるで、背後で起こった出来事は全て想定の範囲内と言わんばかりに。
そしてその間にも、慌てて顔を上げた翔は急いで立ち上がろうと床に手をついた。

「あたっ!? うわっ!? あれっ!?」
「翔、いま八神部隊長と話してるから、ちょ~っと大人しくしてなさい」

起き上がろうとするその度に転び続ける翔。
幾ら慌てているにしても、こうも転ぶのは明らかにおかしい。

(まさか、兼一さん……)

何故か立ちあがる事が出来ない、翔。その理由を、なのはは薄々理解し始める。
素の動体視力では視認できないが、大方目にも映らぬ超高速足払いで翔を平伏せさせ続けているのだろう。
とはいえ、なのははそれを積極的に確認しようとはしない。
するまでもない気もするし…何より、しても頭が痛くなるだけとわかっているからだ。

ただ、どうやらなのはだけでなくはやても気付き始めたらしい。
なのはは肩にのしかかる重さを努めて無視しながら、十年来の親友に精一杯のアドバイスを送る。

「はやてちゃん、気になるって気持ちは分かるけど確認はしない方が良いよ」
「っちゅうことは、なのはちゃん。これってやっぱり……」
「多分そう。でも、もう一度言うけど、確認はしない方が良いよ、精神衛生上」
「…………さ、さよか」

繰り返し、それも重々しく諭されては、はやても敢えて確認しようと言う気にはならなかったらしい。
額から冷や汗を流しつつ、兼一の後ろで転び続ける翔を見守る。

「っと、何を話してましたっけ」
「ええです。お話はまた今度で……」
「そうですか?」

首を傾げる兼一に対し、はやては若干声を上擦らせながら言葉を絞り出す。
正直、こんな状況では落ち着いて会話などできやしない。

そうこうするうちに、ようやく兼一は翔の方へと顔を向ける。
だがその頃には、翔は四つん這いになって肩で荒い息をついていた。

「さて翔、まだやるかい?」
「な、なんのこれしきぃ!!」
「おお、良いガッツだ。よし、そのガッツに免じてひとつ活人拳ならではの技を見せてあげよう。よっと」

軽い、実に軽い掛け声とともに兼一の両腕が縦横無尽に流れた。
その間も兼一の脚は止まることなく進み、気付いた時には翔のすぐ横を通り過ぎた後。
しかしこの時、既に全ては終わった後だった。

「な、なにこれ!?」
「馬家 縛札衣」

『馬家 縛札衣(ばけ ばくさつい)』。相手の着衣を剥ぎ、これを利用して身動きを取れなくさせる捕縛の技。
服を用いて無傷で制す活人拳の極みの一つでもあるが……あまり女性には使えない技でもある。
実際、師父剣星と違い兼一はこれを女性に使った事はない。
本当は捕縛と言う事を考えると対女性向きの技なのだが、その性質上セクハラ野郎の烙印を押されてしまう。
妻子有る身として、その烙印はなんとしてでも避けねばならない。特に、美羽にこの技を女性に使った事を知られれば、確実に白い目で見られるのだから当然だ。美羽亡き今でも、弟子や息子にそんな目で見られたくはない。
だが、師父の神経の図太さを密かに尊敬してしまうのは男の性か……。

とはいえ、基本的に身動きを封じられてしまえば勝負あり。
抜けだすまでの間が僅かなものであろうと、その間は無防備な状態を晒すことになる。
そうなれば、煮るなり焼くなり思うがまま。
それを理解しているからこそ、縛られた翔も大人しくしている。

「良いかい、武術と服には密接な関係がある。中国拳法には袖を取る型が多くあるし、柔道は和服を基本として作られている。また、ローマの格闘技は公平を期すために全裸で行われた。
 つまり、服を用いて無傷で制す…この技も活人拳極みの技の一つと言えるね、覚えておきなさい」

今の翔は上着で両腕を、ズボンで両足を縛られている。
その為、身につけているのは上下の肌着のみ。早い話、下半身は下着のみだ。

しかし、ここまではいい。
問題なのは、そんな二人の後ろで雷にでも打たれたかのような衝撃に身を振るわせる、チビタヌキの存在だ。

(にしても敵の服を剥ぐって、またけったいな技を……っ!?)

当初は呆れた様ななんとも言えない視線を向けていたはやてだったが、その視線の種類が瞬く間の内に変わる。
徐々に兼一へと向けられる視線は熱を帯びて行き、今度は兼一がはやての方をいぶかしむ様に振り返った。

「あの、どうかしましたか?
「兼一さん」
「はい」
「先生と呼ばせてください!!」
「なんで!?」

眼を爛々と輝かせ、熱い口調で懇願するはやて。
その源泉はわからないが、熱意だけは本物と分かる。
ただし、その熱の方向性は明らかにおかしな方向を向いているようだが。

「いや、ナカジマ三佐が私の師匠ですんで、それやったら先生かなぁと」
「いえ、聞いているのはそんな事じゃなくて、なんでそんな風に呼ぶのかと……」
「なんでってそら……………………今の技が大きなお友達の夢やからや!!」
「はいぃ!?」

はやての言っている意味がさっぱりわからず、困惑一色の兼一。
そんな彼に、はやてはちょっと背伸びをしながら耳元に口を寄せヒソヒソと小声で話しかける。

「いや、ここだけの話、自慢やないんやけど私…ちょう胸にはうるさくてな」
(もしかして、そっちの趣味の人なのかな?)
「あ、くれぐれも勘違いせんといてほしいんやけど、別にレズとちゃうで。至ってノーマルや。
ただ、ちょう胸も好きなだけの、普通の女の子やから」

本人が言うのだからそうなのかもしれないが、イマイチ信憑性に欠ける。
というか、諸々の発言内容を考えると信じられた物ではない。
そもそもはやては、弱冠19歳にして二佐の地位にある六課一の超エリート。
にもかかわらずその正体がこれとは……。
108にいた時の前情報だと、地位や能力を鼻にかけない気さくな人物と聞いた。
だが、これはフランクとかそういう問題ではないだろう。

「せやけどな、最近……」
「最近?」
「一つの事に拘るっちゅうのも狭量かなぁと」
「つまり、どういうことでしょう?」
「つまり、そろそろ新しい世界に挑戦してみようかとおもっとった所だったんや!!
 そのタイミングでこの出会い! これは、世界が私に新しい世界の扉を開けと囁いとるに違いない!!
 そう、これは運命や!!」

世界に吠える様に力説するはやて。一瞬、その力強さに『そうかもしれない』と思わされた事を不覚に思う兼一。
同時に、きっと彼女はこの技を教えた師父、剣星と自分以上の友達になれる。
根拠も理由もなく、ただ確固たる確信だけが兼一の胸に芽生えていた。
とはいえ、それとこれとはまた別の問題で……

「でもお断りします」
「なんやて!?」
「いえ、そんな悪用する気満々の人に教えるわけには……」
「悪用とちゃう! 新しい世界への扉を開く、これは世界への挑戦や!!
 女に会っては服を剥ぎ、男に会っては服を剥ぐ。まぁ、剥いだ後は胸部マッサージしたり観察したりと色々やけど……とにかく、これはロマンなんや!
 兼一さんなら、この熱い胸の高鳴りをわかってくれると信じてます!」
「わかる様なわからない様な、若干心ひかれる部分がある気もしないでもありませんが…………いくら力説してもダメな物はダメです」

兼一の言葉にはやては打ちひしがれ、その背後からは喝采が上がる。
別に、はやてとて無差別にそんな事をするとは考えにくい。
実際、今の趣味である胸部マッサージにしても、見知った仲の相手にしかしていない。

しかし、何事も何がきっかけになるはかわからないもの。
もしかすると、これがきっかけとなって取れてはいけないタガが取れてしまうかもしれないのだ。
それはまぁ、皆が兼一の英断を称賛するのも当然だろう。
そもそも、兼一からするとそんな事より気になる事がある。

(なんだろ、さっきから視線を感じる。殺気、じゃないんだけど…妙なプレッシャーが)

何と言うかこう、おどろおどろしいと言うか、ドロドロしていると言うか、強い感情を感じる兼一。
だが、結局のところそれだけ。特にこれと言って危機意識は煽られないからこそ、かえって困ってしまう。
ちなみに、そんな事を思っている間にも、定期的に岩を蹴落としているのだから見上げたものだ。
いかなる時も、弟子の修業に手は抜かないらしい。更に言えば、ちゃんと翔の拘束も解いてやっている。
まぁそれはそれとして、視線の主はと言うと……

「うぅ~、うぅ~、うぅ~……」
「なにやってるの、フェイトちゃん?」
「し、しーっ! 静かにしてなのは、気付かれちゃうよ!!」
(どうして気付かれないと思えるんだろう?)

なのはの背中に隠れ、兼一に対しどこか怨みがましい視線を送りながら小声で叫ぶフェイト。
テンパルと冷静な思考力はなりを潜め、周りが見えなくなるのは昔からの悪癖だ。
だからまぁ、いい加減平常時とのギャップをなんとかして欲しいとは思うが、いつもの事と思えばいつもの事。
ただ、周りから向けられる「何やってんだこの人」的な白い目にも気付かないのはどうだろうと思うなのは。
執務官試験と言う超のつく難関試験をクリアしたエリートなのに、どうしてこう身内の事になると暴走してしまうのだろうか。海の若手トップエース、金の閃光の二つ名が泣いている。

「あの人、なのはの古い知り合い…なんだよね?」
「あ、うん。そうだけど……」
「なのはは、どこにもいかないよね? エリオみたいに、あの人に乗り換えたりしないよね?」
「えっと、何を言ってるのかよく分からないんだけど……」
「キャロも籠絡されそうだし、なのはまでとられたら私、私……」
「籠絡って……」

まるで、捨てられそうな子犬の様な瞳でなのはを見上げるフェイト。
保護欲をかきたてられなくもないが、それ以上に意味不明な言動に首をかしげたくなってくる。
と、そんな不毛なやり取りをしているうちに、件の二人、エリオとキャロが笑顔で兼一の下に駆けて行く。
その様子を見て、フェイトから迸る陰鬱な情念が5割増した。

「「兼一さん!」」
「兄さまにキャロ姉さま!」

駆けて来る二人に気付き、翔もまた嬉しそうに二人を呼ぶ。
どうも、一人っ子だった事と幼さのせいもあるのか、翔の中では優しくしてくれる年長者は、ほぼ無条件に「姉さま」か「兄さま」と言う呼び名になるらしい。ただし、十代半ばまで限定で。
さっきまでのお子様お断りなやり取りなど即座に脳のゴミ箱に捨て去り、兼一は二人に笑顔を向ける。

「ああ、二人とも。朝はありがとうね、翔の面倒見てもらっちゃって」
「あ、いえ、そんな全然」
「私達も、早朝の訓練が始まる時にアイナさんにお願いしちゃいましたから」
「それに、僕達も楽しかったですし。ね、キャロ?」
「うん!」

どうやら、朝翔が二人と一緒にいたのは兼一から頼まれてのことだったらしい。
修業の段階が上がった事で、さらに起床時間が早まったのは良いが、さすがに5歳の子どもに早起きさせ過ぎるのも発育上よくない。そんな考えもあり、起きて食事をするまでの間翔の面倒を頼んでいたのだろう。
同時に、兼一は二人の昨日までとの変化に気付く。

「あれ? 二人とも、昨日まで丁寧語で話してなかったっけ?」
「あ、その…翔と一緒にいたらなんだか不思議と話が弾んで」
「気付いたらこんな感じで…やっぱり直した方がいいでしょうか?」
「同い年でパートナーなんでしょ? なら、別に気にしなくていいんじゃないかな?
 仲が良いに越した事はないと思うよ」
「そう、ですよね!」
「フェイトさんも『なるべく仲良くして欲しい』って言ってましたし……」

どうやらエリオと兼一の時と同じように、翔がいい具合に橋渡しになったおかげの様だ。
別に狙ったわけではなかったのだが、結果的に良い方向に行って兼一の顔にも笑顔が浮かぶ。
だが、それを見て心中穏やかではいられない人もいるわけで。

「いいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいないいなぁ~!!!」
「フェイトちゃん、そんなに気になるなら、どうやって打ち解けたか直接聞いてみたら?」
「で、でも……」
「でも?」
「どう聞いたらいいかわからないし、話した事もない人だから……恥ずかしくて」
(その羞恥心を別の所にも持ってほしいっていうのは贅沢なのかな?)

正直、客観的にみると今のフェイトの方がよっぽど恥ずかしいと思うのだが。
昔に比べれば内気な所も治ってきたが、それでも根本的な所はまだの様だ。

さらに重さの増した視線はさすがに居心地が悪く、思わず兼一は肩を振るわせる。
そんな兼一に、妙に立ち直りの早いはやてが気分を切り替えて問いかけた。

「どうかしはったんですか、先生?」
「ですから、技を教える気はありませんから先生はやめてください。
ただ、なんかこう…肩に何かがのしかかってくるような情念を感じて……」
「あぁ、あんま気にせんほうが良いと思いますよ」
「何か知ってるんですか?」
「まぁなんちゅうか…………疲れますからスルーするのが一番ですって」
「はぁ……」

何か釈然としないものを感じつつも、原因はわかってもいまいち理由がわからない兼一はうなずくしかない。
フェイトとも事実上の初対面。あんな怨みがましい目で見られる理由が、兼一にはさっぱりわからないのだ。
まぁ、当然と言えば当然ではあるのだが。

しかも、それとは別にもう一つ妙な視線を感じる。
チラチラと、まるでこちらの様子をうかがうかのような落ち着きのない視線。

「まぁ、そっちは良いとして……シグナム二尉はどうしたんですか?」
「むしろ、理由を聞きたいのはこっちなんやけど……昨日から様子がおかしいし、模擬戦ができなかっただけやなさそうなんですよね」

集合場所に集まってからと言うもの、挙動不審のシグナム。
兼一の方を横目でチラチラと見ては、難しい顔をして唸っている。
かと思うと、唐突に髪を梳いたり自分の顔をぺたぺたと触りだす。はっきり言って、この十年一度も見た事のないシグナムがそこにはいた。
シグナムが守護騎士筆頭としての権威を乱用し、ヴィータに口封じをしているのでその原因ははやても知らない。

「昨日、何かあったんですか?」
「う~ん……女性は殴らないって言ったのがそんなに気に障ったんでしょうか?」
「いや、あれはそう言う感じやないですね。もっとこう別の……」
「まるで、自分のキャラクターを再確認しようとしてるような感じですね」

はやての言葉を引き継ぐ形で、横合いからシャマルが口を出す。
長い付き合いのシャマルとしても、あんなシグナムは初めて見る。

「何て言うか、はやてちゃんと一緒に暮らし始めた時みたいなんですよね。戸惑ってるって言うか」
「普段とギャップがあって、なんだか今日のシグナムは可愛いです!」
「ああ、言われてみれば確かに」
「まさか十年を過ぎて新たな発見があるとはなぁ、家族っちゅうのは深いもんや」

リインの発言を受けて、何か得心が言った様子のシャマルとはやて。
常に凛とし可憐などの言葉とは無縁、と思っていたシグナムだが、今の戸惑う様は可愛いの一言である。
実際隊舎の中を歩いていても、そのどこか物憂げな表情に振り向いた男女は数知れない。
しかし、ああ言うタイプに慣れており、なおかつあの手の人種を数多く知る兼一からすればそうは思わないわけで……。

「そうですかね? いつも通りの方が可愛らしい方だと思うんですけど」
『は?』
「あの、どうかしました?」
「すいません、兼一さん。もしかして昨日、シグナムに同じこと言いました?」
「? 同じ事?」
「せやから、可愛いとかそういうの」
「はぁ、言いましたけど?」
「なんでまた?」
「え? だって、シグナム二尉って部隊長やなのはちゃん達と同じくらいですよね?
 女の子なんですから、そりゃ可愛くて当然じゃありませんか?」

その言葉を聞き、はやて達の目が点になった。
続いて三人は、吹き出しそうになる自分を必死に抑え込む。

「ぷ、ぷぷ…お、女の子、シグナムが女の子……!」
「た、確かに、確かにそうなのかもしれませんけど……くく、く」
「あははははは! お、おなかが痛いですぅ!?」

あまりに自分達が持つイメージからかけ離れたその言葉に、笑いがこみあげてくるのを止められない。
兼一の台詞を聞いた瞬間、セーラー服やブレザー、あるいはワンピース等々、可愛らしい装いに身を包んだシグナムの姿が脳裏をよぎる。似合わないとは言わない、だがあまりにもイメージから外れている。
特にイメージ上のシグナムが、戸惑ったり羞恥から顔を赤らめていたりするものだから、破壊力はさらに増す。
ちなみに、シグナムは今精神的にそれどころではないので気付いていない。

「せ、せやったら兼一さん、例えばメイド服とかゴスロリとか、似合うと思います?」
「え? ああ、似合いそうですよねぇ」

笑いをこらえながらの問いに、兼一は至極真面目な顔で応える。
はやてを始め、シャマルやリインも笑ってこそいるがおおむねその意見には賛成だ。
普段の彼女なら絶対に着ないだろうし、イメージもあって着せようと思わなかったのが今になって惜しいと思う。
ただ、その理由は些かならず不純だったが。

(なんで、なんで今まで思いつかなかったんや! こんな、こんなおもろそうな事!!
 あの技と良いシグナムの事と良い、この人もしや天然のネタの宝庫!?)
(み、見たい、物凄く見たいわ! きっと凄く嫌がるだろうけど、だからこそ見てみたい!!)
(お、お腹がよじれるですぅ!)
(何を悶えてるんだろう、三人とも?)

シグナムに続いて挙動不審な三人に、兼一はどこか冷めた視線を送っている。
だが、この時の彼はまだ知らない。
自分の不用意な発言が、シグナムに「羞恥」と言う名の苦行を課すことになろうとは。

「はぁ~、久しぶりに思いっきり笑ったわぁ……」
「何か笑うような事ありましたか?」
「ああ、気にせんといてください。兼一さんがそうやから、これは意味があるんで」
「?」

はやての言っている意味がわからず、首をかしげる兼一。
とそこで、それまでエリオやキャロとじゃれていた翔がこれまで一言も発さぬティアナ達に気付く。

「どうしたの? ティア姉さま、スゥ姉さま」
「あ、いやその、うん……」
「ねぇ翔、ギン姉っていつもこんな調子なの?」

二人が立つのは、ビルの縁。つまり、その眼下には今まさに壁をよじ登るギンガの姿。
その額には滝のような汗が浮かび、「なんてことやらせてんだこの人は」という顔をしている。

「ん~、今日はいつもよりきついよ」
「そ、そう……」
「朝といい今といい、良くこんな……」
「うん! 時々死にそうになるけど、お薬使えばすぐ元気♪」
「「どんな薬!?」」

薬と聞き、何かヤバい物を連想する二人。
まぁ無理もないだろう。一連の訓練を見ると、「死にそう」と言うのが冗談に聞こえない。
ならば、死にそうな状態から復活できる薬とは、いったいどんなヤバい物なのか。
下手をすると、末端価格云千万とか云億とかそういう領域に達する非合法なものと言う気がして来る二人。
そんな二人に、兼一は手を振ってその嫌な可能性をにこやかに否定する。

「いやいや、自然由来の昔ながらの薬だよ。もちろんちゃんと合法」

とんでもない匂いを放ち、死人も生き返ると言う秘伝の漢方だが。
果たして、原材料さえ怪しいそれは本当に合法なのだろうか。
しかしそこで、ティアナの発言になのはが食いつく。

「ねぇティアナ」
「なんでしょう?」
「朝といいって、もしかして朝の訓練見たの?」
「あ、その、ちょっと早く目が覚めたので、外に出たら偶々……」

見てしまった、という事なのだろう。
その時の事を思い出したのか、ティアナの顔が引きつり蒼白になる。
何しろその内容ときたら……

「ぞわぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁっぁぁっぁぁぁぁぁ!?」
「遅い! カンナツノザヤウミウシにも置いてかれるぞ!!」
「あいた!?」

一喝されるや否や、尋常ではない衝撃がギンガの額を打つ。
やったのはデコピン、だがやる人間が達人級だとその程度ですらシャレにならない威力を持つ。

ただ、兼一の下に弟子入りして早二ヶ月。
もういい加減この手のやり取りにも慣れてきた余裕からか、思わずギンガは突っ込んだ。

「ってかなんですか、カンナツノザヤウミウシって!?」
「無駄口叩く前にいいから走る! ヤマトホシヒトデの方が幾らか俊敏だぞ!!」
「ヒトデ以下!? って、はぅあ!?」

追いうちをかける様にもう一発デコピン。
並々ならぬその衝撃に脳が揺れ視界が歪むも、それでもギンガのペースは落ちない。
これもまた、まさしく慣れの成果であろう。

そんな、傍から見るとリアクションに困るやり取りを繰り返す師弟。
だがちょうどこの時、遠方からそれを見る人影がある。

早朝、気持ちのいい朝にもかかわらず、前日の事もあってどこか心に雲の掛っていたティアナはなんとなく表に出ていた。特に理由もなく海辺に出ると、そこには今はあまり会いたくない人物の姿。
しかし、そんな事を思う間もなく、真っ先に思ったのはこの一言だった。

(んな無茶な……)

腰まで海に浸かった状態で、水を掻き分けての全力疾走。
後先など考えない。今出せる最高速度のまま、ギンガは汗と共に白い飛沫を撒き散らして突き進む。
その背中には兼一を担ぎ、あまつさえ胴体からは一本の鎖が海中に伸びている。
海面に反射してその先に何があるかは分からない。はてさて、鉄球を引いていた事に気付かなかったのは、幸運なのか不運なのか……。

その後朝の訓練が始まるまでの間、しばしギンガの修業を見学する。
だが、その間見た光景は、どれもこれも常軌を逸していた。

「じゃ、その状態で蹴り百本いってみよう」

百本と聞けば穏やかな数字に聞こえる。しかし実際には違う。
というか、問題なのはギンガが身を置くその「状態」。
何しろ彼女は、今まさに腰まで砂に埋められている状態なのだから。

「ど、どうしろってんですか!?」
「え? だから、蹴りあげるんだってば」

さも当然、とばかりにのたまう兼一。その手には、蹴り上げた砂を埋め直す為のスコップまである。
しかし、重い砂に腰まで埋まった状態でそんなことできるわけがない、と普通は思いそうなものだが。
如何にアンチェインナックルを修めているとはいえ、水と砂では質量が違いすぎる。
砂中にあっては、そもそも足を持ち上げる事自体一苦労。
これでは、「はじめは脱力して途中はゆっくり、インパクトに向けて加速」も何もあったものではない。
ましてや、魔法を封じて身体能力のみでやれなど正気を疑う。

とはいえ、幾ら文句を言っても撤回する様な男ではない。
その事をよく知るギンガは、どこか絶望的な顔つきのまま言われた通り蹴りを放つ。

「くっ、重い!」

日頃の鍛錬の賜物か、思いの外脚の上がるギンガ。
日夜ひたすら足腰を鍛えに鍛えているのは伊達ではないらしい。
ただし、その隣では……

「ぬりゃ!!」

いつの間にか自分も砂の中に入り、平然と砂を蹴り上げる師の姿。
しかも、一蹴りで巻き上げられる砂の量が尋常ではない。
たった一回で兼一の半身を埋めていた砂は吹き飛ばされてしまった。

「とまぁ、こんな具合に一蹴りで出られるようになったら合格かな」
(何十年後の話ですか、それは……)

ギンガにしてもティアナにしても、それを見た瞬間に自信等木っ端微塵に消滅してしまったのは言うまでもない。
で、それが終われば今度はどこからか調達してきた小舟に乗り込む。
兼一の手にはなぜか丸っこい岩が二つ。それを船の中に積み上げ……

「じゃ、これに乗って」
「はぁ、とと……」

ただでさえ揺れる船、その上さらにバランスの悪い丸っこい岩に乗っているのだ。
普通に立つだけでもかなりのバランス感覚と、岩を掴みコントロールする足腰及び体幹の力を要する。

「で、これでどうするんですか、師匠?」
「その状態で型打ちを一通り千いってみようか」
「この状態でですか!?」
「慣れてきたら海中ね」

こんなバランスの悪い状態で型打ちなど、最早曲芸の領域だろう。
しかも、いずれは海の中で同じ事をやると言う。
今のままでもバランスが悪いと言うのに、水に濡れて滑りやすくなればさらに姿勢を維持するのが難しくなる。

「いいかい、ギンガ。戦いって言うのは、時と場所を選ばない。
 いつか、水の中みたいに足場の悪い所でも戦わなきゃならない時が来るかもしれない。
 足場に関係なく十全な力を発揮できるようにする、これはその修業だよ」

何を意図しているのかはわかった。
ギンガの戦闘スタイル上バランス感覚は最重要項目の一つだし、改めて足腰を鍛え直そうと言う腹なのだろう。

「………………」
「あ、ちなみに、もし落ちたら隊舎十周だから。もちろん海中を」
「もうヤダ、この人……」
「なんの話だい?」
「今まさに後悔してるって話です!!」

そんなわけで、更なる発展を遂げる前に壊れてしまう気しかしないギンガだった。
しかし、そんな師弟の様子を遠目に見ていたティアナの心は暗い。

「これが、あの人たちの日常だって言うの?」

思わず口を突いたのは、劣等感に満ちた呟き。
今日まで必死になって努力してきた。才能豊かで優秀な相棒に追い縋り、自身の夢を叶える為に。
特別な才能や突出した魔力がなくともやっていける、兄と自分の魔法は無力じゃない。
そう信じ、一日たりとも休むことなく努力してきたはずなのに、その努力が無意味に思えるような事をする二人。
自分がして来たことなど、努力でも何でもないのだと言われた気がした。

ヴィータは言った、「達人とは神童と呼ばれる程の才能が無限の努力の果てに辿り着けるかどうかの領域だ」と。
天賦の才能があってそれでは、才能のない者がいくら努力した所でその領域には届かないのではないだろうか。
そもそも、才能のある者だけが挑める領域というのがあるのかもしれない。
そんな、今まで必死に否定し続けてきた事柄が、イヤでも脳裏をよぎった。

(違う! 私の努力にはちゃんと意味がある! 練習は、努力は絶対に裏切らない!
 そうじゃなかったら、私は……)

なのはの問いに、普段は押し殺している不安が顔をのぞかせる。
それを辛うじて抑え込み、なんとか外面を整えるティアナ。
なのははそんなティアナを少々心配そうに見やる。

だが、その事を深く考える前に、いつの間にか壁を登り切っていたギンガがようやく合流を果たした。
コンクリートの床に手を突き、肩を上下させて荒い息を突くギンガ。
そして、ようやく役者がそろった所でなのはが口を開く。

「さて、みんな集まった所で簡単に模擬戦のルール説明をしますね」
「あ、ちょっと待ってなのはちゃん」
「ありゃ? ど、どうかしました、兼一さん?」

始まって早々に話の腰を折られ、微妙にこけるなのは。
しかし兼一の方を見てみると、そこには非常に怪訝そうな表情を浮かべている。

「相手のザフィーラさんがまだ来てないみたいなんだけど……」

きょろきょろとあたりを見回し、首を傾げる兼一。
なのはの性格上、人が集まり切っていないのに話を進めるとは考えにくい。
だが、ザフィーラと思しき人物の影が見当たらないのも事実。
まだ面識はないが、なのはが兼一の主義を慮って組んだカードなら、確実に成人男性かそれに近い年だろう。
見た所、ヴァイス以外にもそれくらいの年齢の男性はいるが、誰も彼も観戦気分の野次馬。
これから自分が戦うと言う、ある種の緊張感や気の高ぶりはなく、気組を練っている様子もない。
そんな兼一に、なのはは一瞬「何を言ってるんだろう」と不思議そうな顔をし、続いてその理由を理解した。

「あ、そっか、そういうことか」
「えっと、何がそう言う事なの?」
「いえ、ザフィーラならもういますよ、そこに」
「へ?」

なのはが示す先にいるのは、やけに体格のいい青と白の毛並みが見事な狼。
赤い瞳は力強い光を宿し、その額には翠の宝石が輝き、口元からは立派な牙が生えていた。
てっきり人間だと思っていたのだろう、少し驚いた様子で手を打つ兼一。
早い話が、伝えた情報が足りなかった為に起きた認識の齟齬である。
リーゼ達の事もあってこの手の存在の事はもう知っているし、腕が立つ者もいる事は承知の上。
どんな相手なのかやや不安だった兼一も、実物を見て少し安心する。

「ああ、使い魔の方だったんですね」
「まぁ、確かにそんなものなんですが…厳密に言うと……」
「守護獣だ」
「え! ザフィーラって、しゃべれたの!?」
「び、びっくりしたぁ……」
「きゅく~」

どうも、ザフィーラはしゃべれないと勝手に思い込んでいたお子様二人。
元来寡黙であまり口数の多くないザフィーラなので、仕方ないと言えばそうだが……。
フェイトの使い魔、アルフは良くしゃべるのに何故二人は気付かなかったのやら。

「すみません、ご挨拶が遅れて。白浜兼一です」
「ヴォルケンリッター、盾の守護獣ザフィーラだ」
「よろしくお願いします、ザフィーラさん」
「敬称と丁寧語は不要だ。気易く読んでくれて構わん」
「そうですか?」
「どうも座りが悪くてな。守護獣や使い魔にそんな話し方をするのは一般的ではない」
「まぁ、エリオ君やキャロちゃんもそうみたいですね」
「特に階級なども持っていない。畏まる理由もないのだ、普通に話してくれれば有り難い」
(そう言えば、リーゼさん達もそんな事を言ってたような……)

思い返して見ると、リーゼ達からも基本敬称や丁寧語はいらないと言われた気がする。
ただ、グレアムの使い魔であり見た目に反しかなりの年月を生きている事や、外見が妙齢の女性という事もあり結局兼一から敬称や丁寧語は抜けなかったが。

「その、この辺りは性分みたいなものなので……」
「まぁ、今すぐとは言わん。ゆっくり慣れてくれ」
「ありがとうございます。僕の事は兼一で構いませんので」
「そうさせてもらおう」

何か共感するものでもあったのか、交えた言葉は少ないながらザフィーラの口元に笑みが浮かぶ。
ザフィーラにはシグナムの様なバトルマニアの気はない。
ただ彼は、恐らくヴォルケンリッター内で最も肉体の鍛錬に重きを置いた者。
十年前、肝心な所で仲間を守れなかった事を悔い、日夜その身を強く鍛えてきた。

そんな彼にとって、ある意味この一戦は僥倖だったのだろう。
達人相手に、今の自分の力と技がどこまで通用するのか、それを知ることができるから。

(さすがに、達人相手に技で勝ると自惚れる気はないがな)

純粋な身体能力で敵う筈もないが、その差は自己強化で補う事ができる。
己が肉体を統制することに特化する達人相手に、繊細な技術では及ばないだろう。
しかし、そこは今日までの戦闘経験の蓄積と、魔法というアドバンテージを駆使すればいい。
なにしろ、夜天の書の歴史は優に千年を超えるのだから。まぁ、千年以上の間常に稼働し続けていたわけでもないので、実際には千年の蓄積と言うわけではない。ただし、それでもその実働時間は長く、また活動時間の大半を蒐集に伴う戦闘に当ててきた以上、その蓄積は生半可な物ではないだろう。
もちろん勝敗はやってみなければわからないが、差を埋め得るだけの物はある。
むしろ、決定的なアドバンテージが“二つ”ある事を考慮するなら……。

「それじゃ、今度こそ内容を確認しますね。飛行有り、その他バインドやケージなど諸々の魔法も有りで、寸止めは無しの制限時間15分の一本勝負、いいですか?」
「ああ」
「うん」

最終確認をするなのはに対し、二人はそれぞれ言葉少なに同意する。
元より、前日のうちになのはから通達されていた事だ。
それに、兼一の力量を測る上でもできる限り実戦に近い方が良いに決まっている。
故に、ザフィーラへの制限がほとんどないのは必然だった。

「それと二人とも、くれぐれも、くれぐれも怪我のない様に。
 二人だとホントにシャレにならないんで」
「わかってるよ、なのはちゃん」
「そう何度も念を押すな」
「なら、いいんですけどね……」

とはいえ、なのはが必要以上に念を押すのも当然の事。
そもそも一武術家でしかない兼一には非殺傷設定などないし、ベルカ系の攻撃は魔力ダメージ以外に物理ダメージも伴いやすい。つまり、どちらも相手に怪我を負わせる可能性の高いスタイル。
一応二人ともその辺は配慮する筈だが、万が一という事もあるだろう。
兼一とザフィーラの実力がどの程度の拮抗するか、あるいは差があるかわからないなら万全を期す必要がある。
だからこそ試合時間を短めに設定し、二人がヒートアップし過ぎる前に終わらせられるように配慮したのだ。
まぁ、こんな物は気休めかもしれないが……限界ギリギリまでやると危険なので、この辺りが妥当だろう。

「あと、魔力を持たない人に魔力ダメージは決定的だし、ザフィーラは魔力ダメージは少なめでお願い。
 幸い、兼一さんは確かすごくタフだったはずだから」
「了解した」

およそ、これが唯一と言っていいザフィーラにかけられた制限。
魔力を持たない兼一にとって、最弱クラスの魔力ダメージでも決定打になり得る。
魔力ダメージによる昏倒とは、魔力値の枯渇と身体的衝撃による一種のショック状態だ。生身で戦いぬいてきた兼一にとって、生半可な身体的ダメージでは意識を手放すことなどあるまい。
ただ、これが魔力値の枯渇となるとその限りではないだろう。
この模擬戦の最大目的を考えれば、些細な一撃で気絶されては本末転倒だ。
その意味において、なのはがこの制限だけは残したのも当然である。
同時に、彼女もまた達人という人種を甘く見ている証左でもあるが。

「あ、それならお構いなく」
「はい?」
「それは、どういう事だ?」
「いえ、魔力ダメージに関しても特に制限はなくて良いかなぁと」
「でも、兼一さんリンカーコアすらないんですよね。そんな状態で魔力ダメージを受けたら……」
「まぁ、その心配ももっともだとは思うんだけどね。とりあえず、論より証拠かな。ギンガ」

なのはの危惧に同意しつつも、相変わらずそんな物は必要ないという態度の兼一。
彼はそのまま弟子を呼び、続いて自身の頬を指差す。
それだけでギンガは師の意図を理解し、いつの間にかリボルバーナックルを装着した拳を構える。

「これは、賭けの対象外ですよね?」
「別にカウントしても良いけど?」
「いりません。自力で入れなければ意味がありませんから」
「うん、それでこそだ」
「それじゃ、いきますよ」
「って、ギン姉何を!?」
「リボルバー…シュート!」

構えた拳から、兼一の頬目掛けてナックルスピナーの回転によって生じた衝撃波が飛ぶ。
それはまっすぐ兼一目掛け奔り、その顔に突き刺さった。

『ああ!?』

一様に上がる驚きの声。誰もが「模擬戦の前に何やってんだ!?」と思った事だろう。
実際、衝撃波の直撃をもろに受けた兼一の頭がその威力を物語るように傾き…………すぐに元の位置に戻された。

『え!?』
「いやぁ、何度受けても結構効くなぁ」
「な、なんで……」
「魔力ダメージによる昏倒や気絶って言っても、結局は一種のショック状態でしょ?
 覚悟して歯を食いしばれば、ある程度は意識を繋ぎとめられるよ」

考えてみれば、兼一からすると意識が飛ぶ経験など数えきれない。
どんな種類のダメージであれ、彼にとってその感覚は馴染み深い物。
だからこそ、飛びそうになる意識を繋ぎとめ、引きずり戻す技術にも長ける。
まぁ、元も子もない事を言ってしまうと単なる根性論なのだが……。

「嘘でしょ……?」
「まぁ、鍛え方が違うから」

なんとなく、その一言だけで全て納得してしまえるのだから恐ろしい。
いや、修業時代の美羽でも成人男性が一時間は指一本動かせないような電撃を受けて平然と立ち上がっていた。その事を考えると、マスタークラスなら常人を10人ショック死させ得るような電撃でも耐えきるだろうが。
その範疇と考えれば、納得できなくもなく……。

「何度か試してみたけど、とりあえずよほどの大技じゃない限りは大丈夫だと思うよ。
 いちいち意識が飛びそうになるからちょっと大変だけど」
(そう言う問題か!?)

六課内ではそれなりに耐性がある方のなのはですら、内心の叫びを抑えるので精一杯。
まさか、ここまで常識の通じない相手だったとは……常識の枠が可哀そうとはよく言った物である。
何はともあれ、これで最後に課せられていたザフィーラへの制限も解除される事だろう。
その意味では、余計な加減をする必要がなくなった分やりやすくなった、のかもしれない。






あとがき

どうもすみません。ホントはここでザフィーラ戦をやってしまうつもりだったのに、やりたい事が後から後から出てきてしまい、結局模擬戦手前で終了。
次こそ、次こそ本当にザフィーラ戦です。
兼一には色々と不利な要素があるのですが、その一つである魔力ダメージについてはこんな理由で解消。まぁ、作中でも書いたとおりに根性論ですけどね。
でも、彼らならその根性論でなんとかできてしまいそうだから凄まじい。
残るザフィーラのアドバンテージである飛行にしても、逆鬼や長老の事を考えると……。
まだまだ達人の世界は深いと言う事ですねぇ、どんだけ深いんだか。


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