<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

とらハSS投稿掲示板


[広告]


No.24797の一覧
[0] 錬鉄の騎士の新たな主(Fate/stay night×なのはThe MOViE 1st)[メイシー](2011/09/30 00:25)
[13] プロローグ[メイシー](2013/01/09 01:23)
[14] 第一話 今、私に出来ること[メイシー](2013/01/09 04:06)
[15] 第二話 今、私にしか出来ないこと[メイシー](2011/06/17 18:19)
[16] 第三話 手に入れたモノ[メイシー](2011/10/01 01:50)
[17] 第四話 出逢いは戦い[メイシー](2011/10/01 01:50)
[18] 第五話 魔法と魔術[メイシー](2011/06/17 18:06)
[19] 第六話 トレーニング、開始 [メイシー](2011/10/01 01:54)
[20] 第七話 譲れない願い、届けたい想い[メイシー](2011/07/03 03:00)
[21] 第八話 知りたいのは、瞳の奥のその秘密[メイシー](2011/10/01 01:55)
[22] 第九話 信じている想い[メイシー](2011/08/02 02:18)
[23] 第十話 そんな日常[メイシー](2011/08/11 00:23)
[24] 第十一話 信用と信頼[メイシー](2011/12/29 18:32)
[25] 第十二話 停滞、そして進展[メイシー](2011/12/29 18:43)
[26] 第十三話 信じた想いを心に抱いて、伝える答えは一つだけ[メイシー](2011/12/31 04:58)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[24797] 第八話 知りたいのは、瞳の奥のその秘密
Name: メイシー◆9fb748c3 ID:38f40151 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/10/01 01:55




 夜、放課後に行っているなのはの魔法練習が終わると、そのまま街の中心部へと行く。

 目的はもちろんジュエルシードの探索だ。

 なんでもその辺りにジュエルシードの魔力を感知したらしい。

 当然なのはを一人で歩かせる訳にはいかないので私も実体化し、以前購入した服に着替えて共に行動している。

 唯一ユーノだけは別行動だ。

 敵対するものがいる以上、万全の状態ではないユーノを一人にするのは気が引けたが、何でもフェレットの大きさでしか通れない所を探すのだとか。

 遺跡探索を日常としていたユーノは、その辺りお手の物なのだろう。  

 そして今夜、二人と一匹でジュエルシード探索へと夜の街に繰り出した。










          知りたいのは、瞳の奥のその秘密










「エミヤさん、その服どうしたんですか?」


 一緒に街の中を歩いているなのはが聴いてきた。

 そういえばまだ言っていなかったな。


「街中で鎧など着ける訳にはいかないからな。君が学校に行っている間に買っておいたのだよ」


 確か召還された翌日に買ったのだったか。

 あの時は随分とホストだ何だのと言われたが、今日は声を掛けられることもない。

 
「はぁ、それはいいんですけど。なんだかものすごく見られているような……」   
 

「まぁ、確かにな」


 声こそ掛けられないものの、なのはの言う通り多くの視線を感じた。

 さすがにこの時間帯に、小学生と大人が一緒に歩いているのは不味いか?

 年齢的には私となのはは親子でも通じるはずだが、如何せん私を見て日本人だと思う者はいないだろう。

 
「いや、問題はそこじゃないと思うんですけど……」

 
「なんだ、先ほどから嫌に歯切れが悪いな」


 言いたい事があるのなら、はっきりと言ってくれたほうが私としては嬉しいのだが。


「いや、エミヤさんがそんな格好をしていると、なんて言うか……」


「まさか、君までホストみたいだと言うつもりか――!」


 などと中身のない会話をしている時だった。

 
「え、これって――!」


 空が、ありえない速さで雲に覆われていっていた。


「これは……魔力を流しているのか?」


 感じるのは空気中に流れていく魔力。

 まさか、これでジュエルシードを刺激して発動させるつもりか。

 
「なのは、バリアジャケットを装備しておけ」


「あ、はい!」


 だとすれば、戦いの時は近い。

 なのはに準備をさせてジュエルシードの発動に備える。


「さて、どこにある――?」
 




 多くのビルが立ち並ぶ街の中心地。

 その中でも最も高いビルの上。

 そこに黒を特徴としたバリアジャケットに身を包むフェイト。

 そして一目見ただけで分かる、人とは明らかに異なる形の耳と尻尾を持つ使い魔のアルフがいた。


「確かに、この辺り」


「うん。でも、細かい位置が特定できない」


 二人もなのはたちと同じ目的で同じ場所にいた。

 だがそこまで。

 なのは達同様、大まかな位置は特定できていたが、それ以降の進展がない。

 発動さえしてしまえば一発で分かるのだが、いつ発動するかは完全に運しだいだ。

 だが、その運に頼っている時間は、この二人には無かった。 

 
「仕方ない。ちょっと乱暴だけど、魔力流を打ち込んで強制発動させるよ」


 魔力流とは魔力の流れを発生させ、一時的に空間内を高密度な魔力で満たす魔法だ。

 それにより範囲内の魔力に強く反応する物、ジュエルシードを探知することが可能となる。
 
 しかし。


「大丈夫? かなり魔力を消費するけど……」


 そう、一見便利な魔法ではあるが、その分消費する魔力量が多い。

 探知した後に行わなければならない封印作業の事も考えれば、あまり有効的な手段とは言えない。

 それを承知で心配して声を掛けてくる使い魔に、少女は落ち着いた声で、しかし力強く言った。 


「平気だよ。私、強いんだから」


 手に持つデバイス、バルディッシュを空へと向け。ありったけの魔力を流し込む。

 魔力は雷となって天にのぼり、雲という形で街を覆っていく。

 その直後。


「これは、広域結界……! やっぱりいやがったか」


 魔力流を打ち込んだ場所に、どこからか結界が張られる。

 誰が張ったのか、予想はついていた。

 
「見つけた」

 
 魔法を発動して僅か数十秒、ジュエルシードの強制発動に成功した。


「向こうも気づいてる。フェイト!」


「うん。アルフ、男の人の方はお願いね」


「フェイトも、無理しないように、ね!」


 魔導師と使い魔二人、夜の街へと飛び込んで行った。  
  
  



「思ったよりも近いな。なのは、行くぞ!」


「はい!」

 
 なのはは空を飛び、私は地面を走る。

 ジュエルシードの発動を感知して、居場所を突き止めたのがつい先ほど。

 もちろんそれは自分達だけではなく、この仕掛け人、あの少女も分かっているはずだ。

 単純な移動スピードは向こうの方が上。

 出来るだけ速く、先に着かなければ。

 
「あ、あそこです!」


 なのはが指し示す方向に、宙に浮く小さな宝石を見る。   

 
「この距離だ。なのは、ここから封印してしまえ!」


「はい! レイジングハート!」


「Cannon Mode.(カノンモード)」


 なのはの声に応じて、杖の形態をしていたレイジングハートが砲撃用の形へと変化する。

 そして桃色の光を放つなのはの魔力が集まっていく。


「Divine Buster.(ディバイン・バスター)」


「あああーーっ!」


 なのはがジュエルシードに向け、トリガーを引く。

 その直後、大量の魔力がジュエルシードに向けて放たれたが、しかし。

 ジュエルシードを挟んだ向こう側からも、同量の魔力が放たれていた。

 そして、桃色と金色の魔力が共にジュエルシードにぶつかり合う。


「ううっ、ジュエルシード、封印!」


 一際大きく発せられた光に、思わず腕で目を隠す。

 魔力同士がぶつかり合う爆発音が響き、次第に収まっていく。


「ジュエルシードは……!」


 見てみると、先ほどまで発動していたジュエルシードはしっかりと封印されていた。

 こうなれば大人しい物である。


「なのは、大丈夫か?」


 息を整えながら空から降りてきたなのはに声を掛ける。

 本当ならもう休ませてやりたいところだが、そうもいかない。


「はぁっ――。ふぅ、もちろんです。それじゃあ私、あの子の所に行ってきますから」


「ああ、がんばって来い」


 そう言うと、なのははジュエルシードのある方へと飛んでいった。
 
 その目的は言わずもがな。

 まだまだ勝つ事は難しいだろうが、真の力とは戦いの中でこそ発揮される物。

 後はなのはしだい、だ。

 マスターの成功を祈るとしよう。


「さて、隠れていないで出てきたらどうだ? お互い手持ち無沙汰だろう?」


 どうやら敵は一人ではないらしい。

 目視は出来ないが気配が一つ、無人のはずのビルに紛れ込んでいた。

 
「なんだ。やっぱり気づいてたのかい? 気づいてなかったら不意打ちかましてやろうと思ってたのに」


 聞こえてきた声は若い女性のもの。

 その声と共に近くにあったビルから姿を現し、立ちふさがるように私の前に跳んで移動してきた。

 となると、彼女の狙いは足止めか。


「私のご主人様がいくら強いったって2対1は避けたかったんでね。あんたの相手は私だよ」


「そんな事をせずとも私はあの子達の邪魔はせんよ。1対1の真剣勝負に割り込んでいくほど無粋ではないさ」


「へぇ~。そんな余裕かましてていいのかい? あんたのとこの、あれ初心者だろ? 魔法覚えたての奴に負けちまうほど、フェイトは弱くないよ」


 フェイトとはあの金髪の少女のことか。

 その人物の事をご主人様、と呼ぶという事は……。


「なるほど、君はあの少女の使い魔か?」


「そういうこと。だから――フェイトの邪魔は、誰にもさせない」 
 

 使い魔の瞳に一気に敵意がこもる。

 そして次の瞬間――――若い女性の姿から、大型の狼へと姿を変えた。

 狼は威圧するように遠吠えを轟かせ、こちらを変わらぬ敵意をこめて睨み付けている。

 どうやらこちらのほうが素体のようだ。

 先ほどまでの人の姿はユーノと同じ変身魔法によって作り出していたものらしい。

 いやまぁ、獣の耳と尻尾をそのままに人間の姿をしていたため、解析するまでも無く分かっていた事だが。

 
「やれやれ。手は出さないと言っているというのに、血気盛んな事だ」


 そう言ってこちらも戦闘態勢に移行する。

 しかし、いつも愛用している干将・莫耶は投影しない。

 なぜかと言うと数日前、なのはの協力の下魔法に対する宝具の有用性を確かめたのだが、それがあまりにも不味かった。

 あまりにも威力が強すぎたのだ。

 なにせ無造作に剣を振り落ろしただけだというのに、なのはのシールドを切り裂いてしまった。

 このあたりはなのは達の使う魔法が、極論ただの魔力の塊であり、なんの神秘も宿していないのが原因なのだろう。

 もっともそれだけなら相性が良くて好都合、なのだが。

 どうやらユーノいわく、魔法は人を無闇に傷つけない物、死なせるなどとんでない、のだそうだ。

 非殺傷設定というものがある以上、当然といえば当然だが。

 そしてそれにより、相手を傷つけずに無力化することを可能とする。

 だとすれば、下手に相手に傷を負わせたりすると、非常に警戒されることになる。

 そんな事をすれば私が魔法を使っていない事が知られてしまうし、それはまだしも私の使う武器の異常性が知られてしまうのは不味い。

 万が一どこかから情報が漏れ、私の武器目当てに魔導師たちが寄ってくる、などという事になったら目も当てられない。

 生前、少なからずそういうことがあった身としては、異常性を知られるのは、百害あって一理なしなのだ。      
    
 
「あれ、なんだい? あんた、前の時みたいに剣を使うんじゃないのかい?」


 こちらが徒手空拳でいる事に疑問を持ったのか、狼の姿のままで問いかけられる。

 どうやら、前回接触した時の事はすべて知られているらしい。


「いや、私は無手でもそれなりに自信があるのでね。少なくとも、獣相手に武器は不要だ」


 嘘っぱちに皮肉もこめる。

 はっきり言って無手で戦うことに大して自信は無い。

 戦うときはたいてい武器を投影し、憑依経験を利用して技術を高めたり、身体能力の水増しなどを行っていたのだ。

 もちろん素手での戦い方は一通りこなせるし、易々と負ける気もしないが、それでも武器を持つときと比べるとその戦闘力の差はかなりのものになるだろう。


「へぇ、言ってくれんじゃないの……!」


 こちらの挑発にあまりにも簡単に乗ってきてくれた敵に感謝しつつ、気を引き締める。


「それにしても武器を使わなかったり、フェイトよりずっと弱いガキンチョを援護もせずにぶつけて来たり。あんた、なめ過ぎじゃないかい?」


 こちらの挑発に対するお返し、という事だろうか。

 先ほどからあった、声に含まれる嘲りの感情が一際強くなった。

 いつもなら軽く受け流すか、挑発し返すかするところなのだが。

 言われた言葉に、一つ、見過ごせないものがあった。

 
「それこそまさか。君こそこちらを見くびりすぎだ。あまり私のマスターを――なめるなよ」



     

 大口を開けてこちらに噛み付こうとする狼の動きを見切り、ぎりぎりで身を翻し避わす。

 今度は人の肌程度軽く切り裂いてしまいそうな、鋭くとがった右足の爪を振りかざしてくる。

 これを手で横から軽くはたき、攻撃の進路を僅かにずらせて避ける。

 そこで敵に大きな隙が出来るが、それを突かせないように魔力弾を放ってくる。

 となればこちらは反撃が出来ずに回避をとってしまう。

 そしてその隙に相手は態勢を立て直し、また攻撃してくる。

 先ほどから始まった私とこの使い魔との戦闘は、この繰り返しだった

 こちらが無手で一撃の重さに不安があることも一因だが、それだけではなくこの狼、なかなかに良い攻め方をする。

 が、単調すぎる。

 戦闘開始二、三分で、もうほとんどの動きの癖やパターンを掴めていた。

 しかしこちらもそれですぐ、どうこう出来るわけではない。

 この使い魔、と言うより今のところ魔法を使える者全員に言えることだが、基礎防御力がかなり高いのだ。

 魔導師はバリアジャケットによって、この使い魔は動物が素体だからか。

 なんにせよ、打撃による攻撃がほとんど通らないのだ。

 そしてこちらは徒手空拳。

 かなりの手詰まり具合だった。

 もっともこの状況を打開するあてはあるのだが……。


「エミヤさん! すみません、遅くなりました!」

 
 と、あてがきたな。


「なかなかにいいタイミングだぞ、ユーノ」

 
 視線も意識も敵に向けたまま、声だけでユーノに声をかける。 


「ちっ、なんだい。もう一匹いたのかい」


 攻め手を緩めず、めんどくさそうに呟く目の前の狼。

 しかし目線は僅かに新しく現れたユーノに向いている。

 そういえば先日の戦闘でユーノは、フェイトと呼ばれる少女が去った後に来たからな。

 知らなくて当然か。

 しかし、まぁ。


「戦闘中に敵から目を離すとは。いくらなんでも油断しすぎではないのかね?」


 振るわれてきた右前足を正面から掴み取り、無理やり上に引き上げる。

 
「え、うわっ!」


 この驚きは自分の攻撃があまりにも簡単に止められた事によるものなのか。

 悠長な事を考えているうちに狼の胴体が丸々無防備になる。

 そしてそこに、渾身の力をこめて蹴りを叩き入れる――!


「ぐ、ごはっ――!」 


 そのまま近くにあったビルに激突し、力なく倒れこむ。

 さすがにいくら防御が優れているとはいえ、英霊の渾身の攻撃を防ぎきる事はできまい。

 もっとも回復するのにそう時間は掛からないのだろうが。 

 だが、今必要なのは僅かでもいいから動きを止める事。
 
 それさえ出来れば、終わらせられる。
 
 倒れこむ狼の元へ走りより上からのしかかって、動きを封じる。

 
「ユーノ、捕縛魔法を頼む」 


「あ、は、はい。リングバインドでいいですよね」


 とまぁ、そういうことだ。

 わざわざ倒さずとも動きを封じてしまえばいい。

 そしてその点においても魔法はとても優秀だ。

 ユーノの足元に魔法陣が浮かび、狼の体にいくつもの輪の形をした魔力が固定される。
 
 これで動く事はできない。

 のしかかっていた狼から離れ、ユーノのほうに声をかける。

 
「いや、助かった。私がまともに魔法を使えない以上、君を頼る事しかできなくてね」

 
 実際はまともにどころか、欠片も使えないのだが。

 その辺りは敵がすぐそこに居るからであって、決して少しでも見栄を張りたいからではない。

 ちなみに私も魔法を使ってみようとした事はあるのだが、当然のごとく出来なかった。

 リンカーコアがないので出来る訳が無かった。

 もしかしたら気付いていないだけで、私の体にもリンカーコアが有るのではないかと思い、ユーノにその有無を調べてもらったがやはり無かった。
 
 まぁ、魔術師が自分の体にあるものを把握していない訳も無いので当然だが。 

 ところで、リンカーコアが無い状態で非殺傷設定の魔法が当たるとどうなるのだろう。

 この体は魔力で出来ているのだから、もらった攻撃力分の魔力量を削り取られてしまうのだろうか。

 英霊同士の戦いはお互いの魔力の削りあいであるため、この仮説はなかなかに信憑性があるな。

 今度試してみよう。


「さて、ユーノ。私達のやるべきことはひとまず終了だ。後はなのはに託すとしよう」


「やっぱり、援護はしないんですね」


「ああ。なのは自身がそう望んでいるからな。よほど危険な事にならないかぎり手は出さんよ」


「そうですか……。でもそう簡単に負ける事は無いですよね。なのはも頑張ってきましたから」


「そうだな。どうやらなのはは本番に強いようだし、勝ち目はあるだろう」


 空を縦横無尽に飛び回る二人の少女の戦いは、一進一退の接戦だった。

 基本的には金髪の少女が戦いの主導権を握っているが、なのはもそれによく喰らい付いている。

 
「っと、ユーノ。一応ジュエルシードの様子を見ておいてくれないか。私はここでこの使い魔を見張らなければならないのでな」


「はい、分かりました。暴走などの兆候があればすぐになのはを経由して、念話で伝えますから」
 
 
「いや、出来れば念話は使わないでくれ。戦闘中になのはの意識を少しでも逸らしたくないからな」


「それなら……そうだ。ここにリングバインドを設置しておきます。何かあったときは消滅させることで知らせます」


「ああ。それでいい。頼んだぞ」


「はい。僕も一応ですがあの二人を刺激しないように、ジュエルシードから少し離れたところで見張ってる事にします」


 私の目の前の何も無い空間にユーノはバインドを作り出し、そのままジュエルシードの方に走っていった。

 隣で縛られている狼はまだ目を覚まさないし、ジュエルシードから感じる魔力もある程度落ち着いている。

 ここはゆっくり戦闘観戦といこう。





 目の前に居る名前も知らない女の子。

 その子から放たれる魔法を必死になって避ける。

 でも、驚いた。

 こんな速さで動いてるものをしっかりと見て、反応する事ができるなんて。

 運動はもともと苦手で、だからこそエミヤさんに頼み込んだりしたんだけど。

 こんなに上手くいくようになるとは思わなかった。

 泣きそうになっても頑張って耐えた甲斐があった。

 そんな事を考えながら目の前に居る女の子を見る。

 私はどうしてこんなに頑張ろうって思ったのか。

 私の正面で飛んでいる、この子の目を見る。

 思わず吸い込まれそうなその目は、悲しいくらいに強い。

 そして、それを見たとき――なんとなく分かったような気がした。

 私が戦う理由。

 始めて出遭ったときに思ったんだ。

 「知りたい」って。

 この子が瞳の奥に隠してる寂しさと、儚い強さの、その理由を。





 高町なのは。

 私立聖祥大付属小学校 三年生。

 そういった彼女と私は戦っていた。

 その感想は、正直驚いた。

 前に戦ったときは丸っきりの素人だったのに、今は私と空戦をしている。

 進歩がとてつもなく早い。

 特にすごいのはその避け方だ。

 ベストアングルから撃っているにも係わらず、すべて避けられてしまう。

 その上避けながら向かってきたりまでする。

 攻撃面でもシューターはもう誘導弾になっているし、そのせいでとても避けづらい。

 そんな事を考えているうちに、また目の前に魔力が迫っている――!

 どうしても避けることが出来ず、防御をとる。

 そこで生まれる僅かな停滞。

 その時、彼女、高町なのはが話しかけてきた。


「目的があるなら、ぶつかりあったり競い合う事になるのは、仕方が無いかもしれない。だけど、何も分からないままぶつかり合うのは嫌だ!」


 真っ直ぐに私を見つめて、真っ直ぐな言葉を向けてくる。


「私も言うよ、だから教えて! どうしてジュエルシードが必要なのか!」


 それに対して私は。

 私の戦う理由は――。

 頭に浮かんでくるのは、優しかったかつての母の笑顔。

 そして、今の変わり果ててしまった母の顔。

 
「私は……」


 思わず顔を伏せてしまった。

 何と言えばいいのか、分からない。

 あの真っ直ぐな言葉に、何と返していいのか分からない。

 そう思っていると、視界の端にあるものが飛び込んできた。

 少し破損しているビル。

 積み上がっている瓦礫。

 そしてその場所に――アルフが、倒れていた。


「――っ」


 一気に動揺が走った。

 アルフが相手にしていたはずの男の人の姿は見えない。

 でも、ダメだ。このまま二対一に持ち込まれたりしたら、負ける。

 ジュエルシードを取り逃してしまう。

 母さんの願いを、叶えられなくなってしまう。

 それだけは絶対に、嫌だ!

 バルディッシュを近距離戦闘用のサイズフォームから、大魔法用のグレイヴフォームへと変形する。

 ジュエルシードまでは、彼女よりも私のほうが近い。
 
 これなら……!

 ジュエルシードに向けて一気に加速する。

 後ろから、当然追ってこられる。

 しかもこの子、短距離加速力が凄い。

 追いつかれそうになる。

 でも、この調子で行けば!

 目の前にまで来たジュエルシードに、デバイスをぶつけようとしたその時。

 誰かに、素手で掴まれた。










 空間把握能力、というものがある。

 それは平面の地図を見たとき、脳内で立体化でき適切にその場所を認識・判断できるというような能力だ。

 そしてこの能力を用いれば、死角から飛んでくるものを始めからから見えていたかのように、正確に捉える事ができる。 
  
 なのははこの数日間、必死に頑張ってきていた。

 それは近くで見てきた私が一番良く分かっている。

 だが、それでもまだあのフェイトという少女には及ばない。

 純粋に戦闘を目的とした訓練の時間差による、確固とした戦闘力の差がそこにはあった。

 しかし、なのはのもつ天性の空間把握能力。

 それが両者の絶対的とさえ言える差を埋めていた。

 二人が向かい合いながら交互に魔法を撃ちあう。

 フェイトは四つの魔力弾をなのはに放つ。

 なのははそれを危うい動きで、しかし余裕を持ってかわす。

 この回避能力、というか攻撃に対する見切りの巧さは、私との訓練が役に立っているのだろう。

 涙目になって微かに震えている小学三年生に、当たらないし加減しているとはいえ、真剣を目の前で切りつけ続けた甲斐があったというものである。

 それに対しなのはの魔力弾は誘導追尾性能付である。

 だからといって当てられる訳ではないが、フェイトのすばやい動きに対する戦術としては大正解だ。

 事実かなり避けずらいし、それによって回避のため減速を強いられている。  
 
 なのはがその隙を突き少しばかり大きめに距離を置く。
 
 そこから威力よりも速度を重視した砲撃魔法を放つ。

 さすがに避け切れなかったフェイトが防御し、後ろに下がる。

 レイジングハートが教えたであろう戦術はかなりの的確さだった。

 と、その時――ほんの少しだけ、ジュエルシードから感じる魔力量が上がったような気がした。 

 それと同時にユーノが設置したバインドが消える。

 どうやらまだやるべきことは残っているらしい。

 バインドに捕まったままの狼を確認し、ユーノがいる場所へと走っていった。





「どうかしたのか、ユーノ」

 
 エミヤさんが走ってくる。

 どうやら即席で考えたバインドによる方法は上手くいったようだ。

  
「はい、実はさっきジュエルシードから漏れ出てる魔力の量が一瞬だけ多くなったんです」

 
「やはりか。私の方もそれを感じていたが、大した量ではなかったし気のせいかとも思ったのだが……」

 
 エミヤさんが考え込むように腕を組む。

 僕もそれにつられる様に、今起こった現象について考えてみる。

 ジュエルシードは封印状態のまま放置されていた。

 封印が強引だったからか、魔力が少しばかり漏れ出ているが、特に周りに影響は及ぼしていない。

 単純に時間が経過した事によって、漏れ出る魔力量が増えたのか。
 
 それとも……。


「そういえば、さっきなのはが一際大きい魔法を使いましたよね?」


「ああ。威力こそ低めだが砲撃魔法だった。その直後に私はジュエルシードから感じる魔力量が大きくなったのだが……」


 大きな魔法を放った後で量が大きくなった。

 もしかして。


「周辺にある魔力に反応している……?」


「だとすると不味いな。これ以上戦闘が続けられるとジュエルシードが暴走しかねん」


 とはいっても今の僕じゃ封印し直すほどの力は戻ってないし、エミヤさんも魔法は使えない。

 となれば……。 


「やむを得んな。二人の戦いを止めてこよう」


「やっぱりそうなりますか。なのはの邪魔はしたくなかったんですけど……」


「さすがに、そうも言ってられん。ジュエルシードほどの魔力を持つ物が暴走したら、下手をすればこの町一つ消し飛ぶ事も有り得るからな」


 確かに。

 内包する魔力が爆発するような暴走がもし起これば、本当にとんでもない被害が出かねない。

 ここは無理やりにでも止めてしまうべきだ。

 
「さて、それでは――――っ!?」


 エミヤさんがジュエルシードのほうへ歩き出してすぐ、声にならない驚きを発する。

 
「どうかしたんで、ってええええええ!?」

 
 不思議に思って見たエミヤさんの視線の先には、二人の魔導師が競い合うようにジュエルシードへと突撃してくる姿があった。

 今さっき魔力に反応してるって仮定が出て、二人の戦いを止めよう結論が出たばっかりでこれは無い。 
 
 あんな風に突撃なんかしたら間違いなく、ジュエルシードは封印される前に暴走するよ!
  

「エミヤさん!!」


 そう呼びかけた人は、目もくらむ速さでジュエルシードの元へと跳んでいった。






 ジュエルシードと突撃してくる魔導師二人の間に急いで割り込む。

 もともとの距離が近かったため、ぎりぎりで間に合った。

 しかし、だからといって二人が止まれる訳ではない。

 全力でスピードを出すとすぐには止まれないのは当然だ。

 そのまま私に突進してくるような形になる。 

 突き出されたデバイスが、私の体に当たりそうになる直前。

 ――横からの形で、二つのデバイスを掴み取った。

 右手になのは。左手にフェイト。

 驚きに満ちている目の前の二人をデバイスごと、ジュエルシードから引き離すために、それぞれ反対方向に放り投げる。


 「きゃぁっ!」


 「くっ!」


 バリアジャケットを着ているのだ。
 
 着地によるダメージの心配は無いだろう。

 そして急いで後ろにあるジュエルシードの状態を確認する。

 するとそこには、今にも破裂しそうな風船のごとき状態のジュエルシードがあった。

 これは、不味い。

 破壊してしまおうにも宝具を投影する余裕すらなさそうだ。

 よってなのは達の封印魔法も間に合うべくも無い。

 先ほどユーノにも言ったようにジュエルシードは非常に危険だ。

 万が一にもこんな形の暴走などさせるわけにはいかない。

 となれば……。


「――くっ、うう……っ!」


「エミヤさん!?」


 力ずくで押さえ込むしかない。

 今やっていることは単純だ。

 暴走しそうになっているジュエルシードを手でつかみ取り、自分の魔力で無理やり押さえつけているのである。

 外に漏れ出そうになっている魔力に私の魔力をぶつけて相殺させる。

 ともすれば私の魔力が空になり消えてしまいかねない方法だった。

  
「止まれ、この――はぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあああっ!!」  

 
 が、どうやら成功したようだ。

 手は大量の魔力によって焼きただれ、自身の魔力もかなり持って行かれてしまったが、何とか抑える事ができた。

 そのことに気が抜けた事もあるし、何より大量の魔力消費も手伝って膝から崩れるという失態を犯してしまった。

 さすがに膝に手を置き倒れこむことは避けられたが、それでも片方の膝を折って地面に、もう片方の膝に手を突き、しゃがみ込んでしまった。

 しかし、このとき私の最大の失態は、ジュエルシードを手放してしまった事だろう。

  
「フェイトっ!」


 そう言って目の前に転がるジュエルシードを拾い上げて投げる女性。 

 先ほど戦った使い魔の、人間時の姿だった。

 
「しまった……!」


 と言っても、もう遅い。

 おそらく目を放した隙に、バインドから抜け出たであろう使い魔は主人の下へと走ってき、そして彼女に放り投げられたものは――。


「ジュエルシード、封印!」


 鎌の形をしたデバイスをもつ少女。

 彼女の主である魔導師に一閃されていた。
 
 そしてその直後、主人の下にたどり着いた使い魔と共に、フェイトと封印されたであろうジュエルシードもろとも消えてしまった。


「……はぁ。奪われてしまった、か」


 あまりにも一瞬の出来事に少しばかり呆然としてしまって。

 一瞬の隙を突かれた事に対する油断と、己の未熟さからきた失態に思わずため息が出ていた。











前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.025735139846802