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No.22726の一覧
[0] 【完結】He is a liar device [デバイス物語・無印編][イル=ド=ガリア](2011/01/28 14:30)
[1] 第一話 大魔導師と嘘吐きデバイス[イル=ド=ガリア](2010/11/17 15:40)
[2] 第二話 プロジェクトF.A.T.E [イル=ド=ガリア](2011/01/01 22:19)
[3] 第三話 悪戦苦闘 [イル=ド=ガリア](2010/10/26 08:12)
[4] 閑話その一 アンリミテッド・デザイア [イル=ド=ガリア](2010/11/15 19:05)
[5] 第四話 完成形へ [イル=ド=ガリア](2010/10/30 19:50)
[6] 第五話 フェイト誕生 [イル=ド=ガリア](2010/10/31 11:11)
[7] 第六話 母と娘 [イル=ド=ガリア](2010/11/22 22:32)
[8] 第七話 リニスのフェイト成長日記[イル=ド=ガリア](2010/12/26 21:27)
[9] 第八話 命の期間 (あとがきに設定あり)[イル=ド=ガリア](2010/11/06 12:33)
[10] 第九話 使い魔の記録 [イル=ド=ガリア](2010/11/08 21:17)
[11] 第十話 ジュエルシード[イル=ド=ガリア](2010/11/10 21:09)
[12] 第十一話 次元犯罪計画 [イル=ド=ガリア](2010/11/13 11:18)
[13] 第十二話 第97管理外世界[イル=ド=ガリア](2010/11/17 15:34)
[14] 第十三話 本編開始 [イル=ド=ガリア](2010/11/17 15:58)
[16] 第十四話 高町なのは[イル=ド=ガリア](2010/11/19 19:03)
[17] 第十五話 海鳴市怪樹発生事件 [イル=ド=ガリア](2010/11/21 22:20)
[18] 第十六話 ようやくタイトルコール [イル=ド=ガリア](2010/11/23 16:00)
[19] 第十七話 巨大子猫[イル=ド=ガリア](2010/11/25 10:46)
[20] 第十八話 デバイスは温泉に入りません[イル=ド=ガリア](2010/11/26 23:49)
[21] 第十九話 アースラはこうして呼ばれた[イル=ド=ガリア](2010/11/27 21:45)
[22] 第二十話 ハラオウン家[イル=ド=ガリア](2010/11/28 16:21)
[23] 閑話その二 闇の書事件(前編)[イル=ド=ガリア](2010/11/28 16:47)
[24] 閑話その二 闇の書事件(後編) [イル=ド=ガリア](2010/11/28 16:51)
[25] 第二十一話 二人の少女の想い [イル=ド=ガリア](2010/12/08 16:11)
[26] 第二十二話 黒い恐怖 [イル=ド=ガリア](2010/12/03 18:44)
[27] 第二十三話 テスタロッサの家族[イル=ド=ガリア](2010/12/04 21:38)
[28] 第二十四話 次元航空艦”アースラ”とクロノ・ハラオウン執務官 [イル=ド=ガリア](2010/12/06 21:36)
[29] 第二十五話 古きデバイスはかく語る [イル=ド=ガリア](2010/12/08 17:22)
[30] 第二十六話 若き管理局員の悩み[イル=ド=ガリア](2010/12/10 12:43)
[31] 第二十七話 交錯する思惑 [イル=ド=ガリア](2010/12/13 19:38)
[32] 第二十八話 海上決戦 [イル=ド=ガリア](2010/12/14 13:30)
[33] 第二十九話 存在しないデバイス[イル=ド=ガリア](2010/12/17 12:46)
[34] 第三十話 収束する因子 [イル=ド=ガリア](2010/12/19 15:59)
[36] 第三十一話 始まりの鐘 [イル=ド=ガリア](2010/12/24 07:56)
[37] 第三十二話 魔導師の杖 閃光の戦斧 [イル=ド=ガリア](2011/01/12 19:18)
[38] 第三十三話 追憶 [イル=ド=ガリア](2010/12/29 07:59)
[39] 第三十四話 それは、出逢いの物語[イル=ド=ガリア](2011/01/03 11:55)
[40] 第三十五話 決着・機械仕掛けの神[イル=ド=ガリア](2011/01/03 19:38)
[41] 第三十六話 歯車を回す機械 [イル=ド=ガリア](2011/01/09 20:30)
[42] 第三十七話 詐欺師 [イル=ド=ガリア](2011/02/19 21:46)
[43] 第三十八話 最初の集い[イル=ド=ガリア](2011/01/12 19:11)
[44] 第三十九話 ”あなたはフェイト”[イル=ド=ガリア](2011/01/14 20:39)
[45] 第四十話  ジュエルシード実験 前編 約束の時が来た [イル=ド=ガリア](2011/01/18 08:33)
[46] 第四十一話 ジュエルシード実験 中編 進捗は計算のままに[イル=ド=ガリア](2011/01/18 16:19)
[47] 第四十二話 ジュエルシード実験 後編 終わりは静かに[イル=ド=ガリア](2011/01/19 22:24)
[48] 第四十三話 桃源の夢 アリシアの場所[イル=ド=ガリア](2011/01/24 20:18)
[49] 第四十四話 幸せな日常 [イル=ド=ガリア](2011/01/24 20:50)
[50] 第四十五話 夢の終わり[イル=ド=ガリア](2011/01/27 15:31)
[51] 最終話 別れと始まり[イル=ド=ガリア](2011/01/28 21:24)
[52] 最終話 He was a liar device (アナザーエンド)[イル=ド=ガリア](2011/02/25 20:14)
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[22726] 第四十一話 ジュエルシード実験 中編 進捗は計算のままに
Name: イル=ド=ガリア◆ec80f898 ID:97ddd526 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/01/18 16:19
第四十一話   進捗は計算のままに



今回は状況が分かりづらいかもしれないので、あらかじめ大まかな流れを。


ジュエルシード事件の流れは、

クラーケン、セイレーンの両駆動炉を、ブリュンヒルト試射行動訓練の名目で臨界起動させる。これの目的はジュエルシードの魔力のカモフラージュ。

合同演習は、陸側は20名の魔導師を落せば勝利、海側は砲撃と傀儡兵をかいくぐり2つの駆動炉を停止させれば(もしくは中央制御室の制圧)勝利。

ただ、海側は行動演習と平行してジュエルシードをテスタロッサ家が不当に使用していないか、調査しなければならない(立場的に)

それで、ジュエルシード実験が終了後に、海側がテスタロッサ家のプライベートエリアに入れば問題ない。

ただ、地上本部側は(レジアス以外)ジュエルシード実験のことを知らないので、手を抜けば不審に思われる。

なので、時の庭園側は、海側が全力でくるのをジュエルシード実験が終わるまで防がなければならない。

 という風になっています。トールはクロノたちと綿密な打ち合わせの元、実験に望んでいますが、けっこうシビアな内容となっています。
























 アリシア、聞こえますか?

 貴女が何時から目覚めているのか、それとも、目覚めていないのか

 しかし、約束の時はやってきました

 現在時刻は新歴65年 5月10日のAM12:00です

 私は貴女の母、プレシア・テスタロッサがインテリジェントデバイス、トール

 お預かりしていた貴女の時間を、返す時がついに来ました

 さあ、起きてください、もう朝はとうに過ぎています

 優しいママが、忙しい中で作ってくれた朝食が、冷めてしまいますよ

 起きてください、アリシア











新歴65年 5月10日 次元空間 (第97管理外世界付近) 時の庭園 東の塔 PM 0:01



------------------------Side out---------------------------



 「始まった。アスガルドさん、いけますか?」


 【No Problem】

 ユーノ・スクライア と アスガルド

 この二人が、ジュエルシード実験における魔力制御の要である。

 西側に配置された7個がジュエルシードモンスターとして発動した経緯を持つものならば、こちらの7個は逆の特性を持っていた。


 学校で発動したが、現地の生物を取り込む前に封印

 フェイトが強制発動させ、二人の魔導師によって封印、その後に再起動しかけるが、“ミョルニル”で再封印

 海の祭儀場で発動し、積層型立体魔法陣によって封印×4

 ミネルヴァ文明遺跡で発見され、時の庭園において発動と封印を繰り返される


 いずれも、魔力を放出する形で発動はしたものの、“願いを叶える”という特性は発揮しないまま封印されたジュエルシード。つまりは、ジュエルシードの力をそのまま扱うことが与えられた願いともいえる。

 なのはが発動させた7個のジュエルシードの共振によって高められた魔力を、ユーノが純粋な魔力を扱ってきたジュエルシード7個の共振を用いて、“願いを叶える魔力”の特性を維持したまま高めつつ、方向性を定める。

 これにより、膨大な魔力量を秘めつつも、“入力待ち”の状態を作り出すのである。

 その作業を行うジュエルシードのうち、中心となる東の塔に設置されるのは、ミネルヴァ文明遺跡にてフェイト達が発見した石。

 21個のジュエルシードの中で、最も発動と封印を繰り返されている歴戦の石である。

 そして、当然の帰結として東側の二人には膨大な計算と精密な魔力調整が求められるが、アスガルドはそれを成せるだけの演算性能を持ち、ユーノは現在の時の庭園に存在する魔導師の中で最も魔力の調整を得意としていた。

 もし、プレシア・テスタロッサが万全であれば彼女が最上だが、今の彼女は危篤状態に近く、精密な制御は望むべくもない。

 それ故に、時の庭園の管制機はジュエルシードを集めても万全な形での発動は不可能だろうと計算していたが、高町なのはとレイジングハート、そしてユーノ・スクライアの存在が計算を覆した。


 「凄い魔力だ、流石だね、なのは」

 ジュエルシード実験は、万全に近い形で進んでいる。アスガルドが演算をしつつも、並行して状態遷移のデータを処理し、データベースを構成することが出来る程に。


 【フェイト、これからそっちに魔力を送るから準備してて。なのは、そっちは一旦魔力を抑えて、必要になったらまた指示を出すから】

 彼もまた、マルチタスクを用いて魔力調整と連絡役の両方を兼任していた。

 これが、ユーノ・スクライアの本領である。

 攻撃力や膨大な魔力はないが、魔力の制御に関してならば群を抜き、さらに並行しながら他の作業を行える。

 デバイスを用いずにこれらをこなすのは、彼以外の人間には不可能に近いことであり、彼という存在がどれほど管制機の計算に影響を与えたか計り知れない。


 「行くよ、フェイト」

 彼は静かに集中し、黙々と手順を進める。

 その作業により、14個ものジュエルシードが生み出した純粋な魔力が時の庭園の中心へと向かっていく。

 すなわち、テスタロッサの家族が待つ、玉座の間へと。











新歴65年 5月10日 次元空間 (第97管理外世界付近) 時の庭園 玉座の間 PM 0:03


------------------------Side out---------------------------


 「私で………最後」

 金色の髪を持つ少女は、緊張でかすかに震えていた。

 玉座の間にはあらゆる機械コード類が集中しており、それらは中心に座する大型機械へと繋がっていた、そしてその大型機械の内部には、最後のジュエルシードが設置されている。

 その周囲にはいくつもの機械端末が並んでおり、箱型の制御盤の前にはプレシア・テスタロッサが立ち、ユーノの仕事を補助するためにコンソールパネルに入力を行っていく。

 彼女はSSランクに達する大魔導師ではあるが、その本領は魔法ではない。機械を作り上げ、制御する技術者こそが彼女の本来の姿である。

 そのため、玉座の間に設置された数々の機械類を操作し、実験の経過を見守る役としては彼女以上の適任はいない。機械の管制だけならばトールにも可能だが、ジュエルシード実験は前例がないため、機械ではなく人間こそが管制役に相応しい。

 そして、フェイトは知る由もないが、その光景は、奇しくも“ヒュウドラ”の実験環境に酷似していた。


 “クラーケン”や“セイレーン”といった駆動炉が生み出す個人単位ではあり得ない膨大な魔力、それらを伝送するための巨大なバイパスの流れを把握し、制御する。

 なのはが火種となり、ジュエルシードを魔力炉心とし、ユーノとアスガルドが出力面での制御を行う。その流れは、大規模な駆動炉を制御する際の基本に則っており、時の庭園そのものが、それらを可能とする造りを持っているのだ。

 ただし、直接触れると人体に影響を与える高エネルギーを生み出す“ヒュウドラ”と異なり、ジュエルシードが生み出す魔力は反応してモンスター化する場合を除けば、人体にほとんど影響を与えない。

 とはいえ、ここまで機械類がひしめき、ものものしい駆動音が響いていれば9歳の少女が緊張するのも無理はなかった。西の塔や東の塔は、魔法の儀式のための祭壇というおもむきだが、この玉座の間は完全に最先端技術の実験場となっている。


 だが―――


 『It is not worrying. Master(大丈夫です。我が主)』


 「バルディッシュ……」


 彼女の傍らには、常に彼がいる。


 『If we fail there can be no(私達二人ならば、失敗はあり得ません)』


 「うん………そうだね」

 その言葉によって、彼女の心にあった不安はあとかたもなく消え去っていた。


 閃光の戦斧は揺るがない。

 いついかなる時でも主を支え、主が迷った時にはその道を照らし、切り拓くことが彼の持つ命題なのだから。


 【フェイト、これからそっちに魔力を送るから待機してて】


 【分かった】

 一つ前の工程を受け持つユーノから連絡が入る。

 彼の工程までで作り出された“入力待ち”の膨大な魔力は、パイパスを通して大型機械内部のジュエルシードへと注がれる。

 このジュエルシードこそ15個の中枢であり、子猫の“大きくなりたい”という願いを不純物が混ざらない形で叶えた、唯一の成功例。

 このジュエルシードに純粋にして膨大な魔力を注ぎ込むことで、フェイトは願いを託す。


 “アリシア・テスタロッサとプレシア・テスタロッサを治療する技術の具現”


 玉座の間にはアリシアが入った医療カプセルもあり、彼女の身体にもコードが取り付けられている。

 外部で生成した“レリックの代わりとなる結晶”を埋め込むのではなく、ジュエルシードの力でアリシアの体内で直接“彼女を生きた状態にして安定させる結晶”を作り上げることがその目的である。

 前者の方は失敗してもアリシアには一切影響はないためリスクは少ないが、より効果が期待できるのは後者。そして、ジュエルシードで駄目ならばアリシアの治療にはもう後がないため、3時間の会議の結果、こちらが採用された。

 本来ならば、複雑な計算とあらゆる不確定要素の考慮を必要とする人体への干渉を、ジュエルシードは過程を無視して結果を紡ぎ出す。

 そして、願いを託す本人が“理論的に可能であること”を理解していれば、その実現性はさらに高まる。条件として、その理論を微塵も疑わないことが必要となるが、その点ではフェイト・テスタロッサは最適であった。

 プレシア・テスタロッサがアリシア・テスタロッサを救うために組み上げた理論を、フェイト・テスタロッサが疑う要素は、まさしく微塵もない。純粋に母を信じる9歳の少女だからこそ、奇蹟は起こせるのだ。

 アルフがこの場にいないのは、それが最大の理由でもある。アルフも当然、実験の成功を心から願っているが、それはフェイトのためであり、プレシア・テスタロッサを全面的に信頼しているわけではないのだ。そのため、ジュエルシードに不純物を混ぜないために、彼女は玉座の間にいない。

 アルフが全面的に信頼するのはフェイト・テスタロッサ唯一人であり、彼女が使い魔である限り、これは決して揺るがない。そういった面で、リニスは実に稀有な使い魔といえたが、こればかりは初期設定がものをいうので修正不可能な事柄といえる。


 「行くよ、バルディッシュ」


 『Yes, sir』

 しかし、フェイトが願う事柄はアリシアの治療だけではない。彼女は、アリシアとは逆方向へ視線を移す。

 天井から俯瞰して見ると、玉座の間はほぼ円形を成しており、中心にはジュエルシードを有する大型機械が、その傍にプレシア・テスタロッサと操作端末が在る。

 南側にはフェイトがおり、ジュエルシードの方向へバルディッシュを向けている。その彼女にとって右手、玉座の間の東側にはアリシアの入った医療カプセルが存在しており、中央の機械から彼女へとコードが伸びている。

 彼女の体内に生成される結晶が、悪影響を与えていないかどうかも各種の機器によって常に観測する体勢が整っており、その役は当然、プレシア・テスタロッサが担う。

 そして、その反対側、西側にも台座が設けられ、その上にはあるストレージデバイスの雛型が置かれていた。


 “生命の魔道書”


 プレシア・テスタロッサの使い魔であり、“閃光の戦斧”を作り上げた優秀なデバイスマイスターでもあったリニスが、己の主のために作り上げようとしていた、リンカーコア蒐集と治療に特化した魔道書型のストレージデバイス。

 機能的には、闇の書の縮小版であり、闇の書のリンカーコア蒐集が心臓を抜き出すことに近いならば、献血程度の効果を発揮するように設計されたが、それでも従来のデバイスを遙かに超えた大容量を備えている。

 プレシア・テスタロッサの肉体はリンカーコアが過剰に作り出す魔力によって侵されている。そのため、リンカーコアの余剰な部分を抜き取り、その力を破壊ではなく、肉体の治療に充てるためのストレージデバイス。


 それ故に、“生命の魔道書”と命名された。


 しかし、蒐集行使は古代ベルカ時代ですらほとんど確認されていないレアスキルであり、それを文献もなしに数年で再現するのは無理な話であった。闇の書が手元にあればそれを解析しつつ模倣することも可能であったが、何も無い状況では、空想上のタイムマシーンを作り上げることと同義である。

 リンカーコアを抜き出して保存する技術はあるが、それらは殉職した管理局員や、退職した後、寿命で亡くなった局員から摘出した、いわば“死体からまだ動いているうちに抜き出した”臓器といえる。

 生きている魔導師からでも可能だが、それでは生きたまま心臓を抜き出すことと同義となり、死んでしまう。対象を生かしたままリンカーコアだけに手を加えるという技術は、非常に困難である。外から出力を抑えるリミッターを設けるのとは訳が違う。

 そして、それ可能とする唯一のロストロギアが“闇の書”であり、もしくはそれに付随する守護騎士であった。

 それをリニスが独断で模倣したが、それを知るのは共犯であったトールのみ。二人は闇の書の確保は諦めたものの、そこでプレシアを治療する手段の模索を止めたわけではなかった。しかし、“生命の魔道書”のハードウェアだけは出来たが、蒐集機能と回復機能を行うソフトウェアが手付かずのまま、リニスは息を引き取った。

 そして、時の庭園の管制機は当初、“生命の魔道書”をジュエルシード実験の対象とする予定を組んでいなかった。ジュエルシードの力で“未知のプログラム”を組むという発想は、機械の電脳からは導かれることがなかったために。

 トールは機械であり、プログラムとは絶対の法則である。故に、既に理論的には出来ている対象を、実践面で短縮するという発想はあっても、理論そのものをジュエルシードの力で組み上げるという発想は不可能だった。

 昨日のAM7:00頃に彼はユーノに『闇の書が手元にあれば、“闇の書を扱いやすいものにせよ”というような間接的な願いも可能ですが、我が主を治療する物体がない以上、ジュエルシードが直接余剰魔力を抜き出し、損傷した肉体を治療するしかない。まあつまり、願いを叶える石に頼むしかない状況なのですよ』と語った。

 闇の書は既にプログラムを備えているため、それを改竄することは思いつくが、ジュエルシードに無からプログラムを組みあげさせるという発想は出来ない。

 しかし、3時間の“会議”において、闇の書やそれに近いロストロギアの実際の効果に関して多くの知識を持つハラオウン、デバイスに関してならば次元世界最高峰といえるテスタロッサ、古代ベルカの伝承や文献への造詣が深いスクライア、それぞれの“人間”が集まっていた。

 この三家が揃ったことで、ジュエルシードの力を“生命の魔道書”の完成へ向けることも出来るのではないか、という可能性が浮上した。理論が未完成どころか空っぽのため、アリシアの蘇生と比べて難易度が高いことは変わらないが、少なくとも直接的な願いではないため、失敗してもプレシアの身体に負担はかからないという利点があった。

 そして、己の過去の事例から、機械の限界というものを誰よりも深く知るからこそ、人の心を計算する機械仕掛けは多くの人間を招いて“会議”をセッティングしたのである。願いを叶えることは、人間にしか出来ないのだから。


 「リニスが残してくれた、最後の希望」


 『Meister's wishes, be sure to play with(マイスターの願い、必ずや果たしましょう)』


 8人と3機が集って話し合ったことにより、僅かに変わった計画。

 プレシア・テスタロッサの肉体の治療という観点で見るならば、結果は特に変わらなかったであろう。ジュエルシードの力の制御は正確に行われており、彼女の身体が破壊される危険はほとんどない。

 だがしかし、この僅かの差異によって不完全ながらも機能を得た“生命の魔道書”が、そのオリジナルである呪われた魔道書と、最後の主となった一人の少女を救う際の切り札となることを、予想できた者は誰もいない。ハラオウンの者らですら例外ではなく。

 その時はただ、集った全ての人間がテスタロッサの家族を救うためだけに知恵と力を出し合った。そこに自分の目的を挟まなかったからこそ、因果は巡り、幸せな結末を得ることが出来るのかもしれない。




 世界は、残酷ではあるが、同時に優しくもあった。









新歴65年 5月10日 次元空間 (第97管理外世界付近) 時の庭園 中央制御室 PM 0:05




 『今のところ、万事順調のようですね』

 実験開始から5分が経過、時の庭園の中枢と繋がった私は、時の庭園の全てを把握する。

 ジュエルシード実験は順調に進み、アリシアの体内で結晶が生成され始めたことを確認しました。また、“生命の魔道書”のソフトウェアにも、変化の兆しが見られます。

 まったく、あり得ないにも程があります。“誰も知らないアルゴリズム”をどうやれば人間の願いで組むことが出来るのでしょうか。

 これでは、“人類の恒久的な平和”を願えば、誰もその方法を知らなくとも実現できることになってしまいます。

 願望機とは、その願いを叶える過程を短縮するものに過ぎない。本人が知りもしない事柄を叶えることなど出来ない筈ですが―――


 『だがしかし、仮定が異なれば別ですね。本人でなくともいい、過去に存在した誰かが知っていればそれでいいのであれば、説明はつきます』

 どこかの次元世界の思想で、アカシックレコードという概念がある。

 事象の過去・現在・未来が全て書き込まれている万能の書、まあ、これは解釈が国や文化ごとに異なるらしく、ローカルルールも数多くあるようですが。

 ですが、未来はともかく、過去に起こった事象を全て記したロストロギアは存在しうる。ある神話では“アヴェスター”と呼ばれるものもありますが、そういったものが例えば、忘れられた都“アルハザード”などに存在し、ジュエルシードはそこにアクセスすることで結果を導いている、という仮説が成り立つ。

 これは流石に飛躍しすぎですが、少なくとも蒐集行使のアルゴリズムは我々のうち誰も知らないものの、闇の書を作り出した古代ベルカの誰かは知っていた、これは事実。

 もし、世界に残された情報を検索することが可能ならば、それを“生命の魔道書”に書き記すことも不可能ではありません。


 『まったく、私は頭が固くていけません。この程度のことにすら、人間から指摘されるまで気付かないとは』


 45年稼動しても、所詮は機械、1と0の電気信号でしかない。

 ですが、それ故に得意なこともあります。要は、適材適所なのだ。


 【A-12からA-36までは地点D-5にて待機、アルファを迎撃なさい。C-6からC-20まではKB-4からQB-7にかけて散開し、情報の収集と報告に勤めるように、B型は全力を持ってベータとガンマを阻止、残りは現状維持】


 【アルフ、貴女はシグマの迎撃にあたってください。既にサーチャーとオートスフィアが先行しているので、位置はそれらの魔力反応を追跡することで特定できます】

 アルフは感覚が鋭く、時の庭園で訓練してきたために、オートスフィアの固有パターンを感覚的に覚えている。これも、獣の使い魔の特徴の一つです。

 ならば、それを利用しない手はありません。


 【任せな】

 短く返事が来る。戦闘が始まれば口数が減るのも彼女の特徴ですね。


 『こちらの戦況は一進一退。20名の武装隊員は5名ずつの4分隊、便宜上、アルファ、ベータ、ガンマ、シグマに分かれ、上空の戦力はクロノ・ハラオウン執務官が一人で相手取っている』

 数は少ないものの、飛行機能を備えた傀儡兵も存在しています。近くの敵を攻撃する程度の知能しかないのは変わりませんが、Bランクの武装隊員では多少手間取るのも事実。その上、ブリュンヒルトが空戦魔導師を狙い撃ちにするという要素もあります。

 かといって、空に戦力を回さなければ上空を抑えられ、各分隊は常に空爆の危険に晒されることとなる。ブリュンヒルトは地上に撃てないわけではありませんから、空に標的がなくなれば、当然地上の敵を狙い打つ。

 つまり、ブリュンヒルトと空中戦力を誰かが引き受けねばならないわけですが、彼は一人でそれを行いつつ指示を出し、自身を囮に部下に時の庭園の攻略を任せている。

 こういった戦術は、まだまだフェイトや高町なのはには不可能ですね。彼女らが単身で乗り込んで戦術目標を達成することは出来ますが、部下や仲間を上手く使うことは全く別の技術。

 さらに、全体の管制を行うエイミィ・リミエッタとのコンビネーションも優れている。全体管制と現場指揮、それぞれが高次元で結びついているため、付け入る隙がありません。

 リンディ・ハラオウンは緊急時に備えているので、前面には出てきていない。管理職とは得てしてそういうものですからね。


 『こうなると厄介ですね、空がクロノ・ハラオウン執務官一人に抑えられてしまっては、20名もの武装隊員がフリーで動くことが出来てしまいます』

 いささか、アースラの戦力を見誤っていました。武装隊を率いる分隊長のうち、2名は特に優秀なようで、このままでは早期に“クラーケン”や“セイレーン”に到達され、プライベートスペースへの侵入も許してしまうかもしれません。

 対処しようにも、空と地上と後方の連携は完璧。ブリュンヒルトと傀儡兵とオートスフィアだけではどうにもなりませんね。


 『ですが、完璧なプログラムに穴を穿つことも、私の得意とするところなのですよ』

 機械とは、想定外の出来事に弱い。つまり、完璧な連携を崩せるものもまた、想定外ということです。

 傀儡兵、サーチャー、オートスフィア、ブリュンヒルト、これらはアースラの想定内ですから、どのような奇抜な運用を行ったところで、即座に対応されてしまう。ここまで見た限りでは錬度もかなり高く、事前に様々なシミュレーションを行っているはず。

 だがしかし、流石にこれらを予測することは出来ますまい。

 戦局を覆すための一手を、ここで使うと致しましょう。


 【さあ、出番ですよ、中隊長。ゴッキー、カメームシ、タガーメ、出陣なさい】


 【了解】

 【了解】

 【了解】











新歴65年 5月10日 次元空間 (第97管理外世界付近) 時の庭園 回廊 PM 0:10


------------------------Side out---------------------------


 “それ”と最初に遭遇したのは、トールが“ガンマ”と仮称した分隊の一つを率いており、彼に優秀と評された隊長であった。

 彼はAランクを保有する魔導師であり、現在22歳。第97管理外世界の先進国の基準で考えれば社会に出たばかりだが、空士学校を13歳で卒業し、そのまま武装隊に配属されたため、勤続年数もそろそろ10年になろうとしており、実戦経験も豊富にある。

 彼が率いる4名はBランクの隊員達、フロントアタッカーが2名、ガードウィングが1名、フルバックが1名という内分けで、勤続年数が5年以上の者はいない。ポジションがセンターガードである彼が、分隊長となるのは至極当然の流れである。

 ただし、フロントアタッカーが2名いるとはいっても、共にミッドチルダ式であり、近代ベルカ式ではない。そのため、前線で切り込んで戦う主力というよりも、仲間が射撃を行う際の防御を担当する壁役がメインとなっている。

 逆に、隊長である彼はセンターガードだが近接格闘もこなすことができ、この中で唯一傀儡兵との実戦経験を持つことから、彼が先陣を切って突入し、残りの4名はその援護射撃を行うこととなっていた。もし隊長と切り離された場合は、フルバックが指示を出すという取り決めも忘れずに。

 彼は冷静さと大胆さを兼ね備えており、AAランクとなれる素養も秘めている。仲間からも信頼され、数年のうちには中隊指揮官となれるのではないか、とも言われていた。

 だが、その彼をもってしても、その存在を見た瞬間、思考が停止した。


 巨大メカゴキブリ


 それを表現するならば、そのあたりが妥当と考えられるが、機械らしさはほとんどなく、逆に全身が微妙に湿っており、頭部と思われる箇所からは粘液が垂れている。


 『#$&%?&?@*♪¥!!!』


 それから発せられる音声も実に摩訶不思議であり、これと相対して平静を保てという方が無茶な注文である。

 その存在は、元々は傀儡兵の中隊長機として作られており、通常の傀儡兵よりも大型であり、保有するエネルギー量も膨大である。

 時の庭園のあちこちにあるコードと繋がることで、エネルギーは補給することが可能だが、連続で数時間は動けるだけの容量を備えている。

 だが、管制機による魔改造を受けており、そのエネルギーの用途は攻撃用に非ず、頭部、腹部、臀部などに取り付けられた“ある装置”から、サーチャーを発生させるためのものであった。

 その、“ある装置”とは当然―――


 「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! なんかいっぱい出たああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ゴキブリ型サーチャー発生機である。

 巨大で、かつ生々しいゴキブリから、通常サイズのゴキブリが次々と生産されていく光景は、まさに地獄絵図。



 「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 「なんだああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 「おわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 「ぶるぐわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 隊長に遅れること30秒、残りの4人も、同じ末路を辿ることとなった。

 すなわち、全速力で後退したのである。全員が空戦魔導師だったため、可能な限りの速度で。

 だが、全力の飛行は当然、強い魔力の残滓を残してしまう。

 サーチャーの機能は“近くの魔導師の魔力に群がれ”だけなので、それはゴキブリに自分の逃走経路を教えるようなものであった。


 そして、時を同じくしてゴキブリのみならず、カメムシやタガメに追い回される隊員が、別の場所でも発生していた。









新歴65年 5月10日 次元空間 (第97管理外世界付近) 時の庭園 上空 PM 0:13

------------------------Side out---------------------------


 地上の惨劇の報告を聞きながら、クロノ・ハラオウンは頭を抱えていた。


 【エイミィ、纏めるとどうなるんだ?】


 【私もほとんど見てはいないけど、でっかいゴキブリと、でっかいカメムシと、でっかいタガメがほぼ同時に各分隊の前に現れたとかで、三個分隊が逃走、現在時刻での目標地点を超えてるのは一つだけだね。でも、そっちにはアルフが向かってるみたい】


 【逃げたか………これは、不甲斐ないと怒鳴るべきなんだろうか………】


 【うーん……どうだろ? 逃げるなって言う方が無理があると思うけど】

 クロノ自身、仮に自分がその場にいたとしても、冷静に対処できる自信はなかった。

 いくら執務官とはいえ、巨大ゴキブリや巨大カメムシから、通常サイズのそれらが湧いて出てくる光景はイメージしたくない。


 【一旦引いた人達も怪我はしてないから、動けるなら前線復帰は出来るよ。だけど、指示出しても絶対動かないと思う】


 【だろうな、僕だって嫌だ】

 これが実戦であり、守るべき市民の安全がかかっているなら話は違うが、これは合同演習である。

 傀儡兵やオートスフィアを相手に、自分達の培った戦闘技術を発揮するならともかく、巨大ゴキブリを倒すのも、それに追われるのも御免である。

 とはいえ、一応はジュエルシードの発動がなされていないか確認しければならない。次元航行部隊である彼らは、調査を行う方便として合同演習を行っているのだから。


 【仕方ない、シフトチェンジだ。僕が降りて、何とかギリギリで踏みとどまっている者達を指揮するから、残りは空を抑えるよう伝えてくれ】


 【いいの? クロノ君以外だと、多分途中でブリュンヒルトに撃ち落とされちゃうよ、空戦型の傀儡兵もまだ残っているみたいだし】

 既にクロノがかなりの数の空戦型傀儡兵を仕留めているが、全てを停止させたわけではなかった。

 Bランクの隊員達では、傀儡兵の相手をしながらブリュンヒルトの弾幕を避けるのは困難であることを理解しているからこそ、彼が一人でその役を担っていたのだが――――


 【仕方ないだろう。無傷で合同訓練を終えたところで、ゴキブリやカメムシに怯えて安全圏で震えてました、なんて報告できるわけもない。それなら、ブリュンヒルトに撃ち落とされた方がまだましだ、彼らの名誉のためにも】

 ゴッキー、カメームシ、タガーメの存在によって、アースラの戦術構想は潰えた。

 まさかこんなものが出てくるとは、流石のアースラスタッフといえど、考えつかなかったのである。

 しかし、このまま座して待つわけにもいかない。


 【それしかないかあ、でも、クロノ君は例の三機とぶつかることになるよ?】


 【仕方ないだろう。こういう時に貧乏くじを引くのが管理職というものだし、まあ、上手く迂回するからサポートを頼むよ】

 まさか、自分は巨大ゴキブリと戦いたくないからお前達が行け、とは言えない。

 立ち向かうことすら困難な強敵が出てきたなら、それに真っ向から相対し、味方の士気を上げることも前線指揮官やエース級魔導師の役目である。それ故に、時空管理局の尉官クラスには魔導師の割合が多いのだから。

 そして、実力がエース級であるかどうかに関わらず、こういう局面において先陣を切り、味方を鼓舞させる存在を、ストライカーと称する。

 エースになるには才能が不可欠だが、ストライカーに必要なものは、勇気と根性である。無論、無謀と履き違えないための知性も必須だが。


 【そっか、頑張ってね。でも、帰ってきたら洗浄するまで私の傍に来ないでね】


 【ああ、よく覚えておく。地獄に落ちろエイミィ】


 そして、その会話を聞きながら―――


 「現場に降りずに済む立場って、いいわね」


 艦長であるために、合同演習では現場に出ることがないリンディ・ハラオウンは、久しぶりに自分の地位の高さというものに感謝していた。







新歴65年 5月10日 次元空間 (第97管理外世界付近) 時の庭園 中央制御室 PM 0:30



 『現在までは、計画通り、ですね』

 中隊長達はその意義を存分に果たしてくれている。既に、ブリュンヒルトによって4名の隊員が撃ち落とされた。

 ゴッキー、カメームシ、タガーメの脅威によって空に配置転換した隊員は13名。まあ、この13名が同時にかかったところでクロノ・ハラオウン執務官には到底勝てませんがね。

 運良く出逢わずに済んだシグマの5名と、Aランクにして勤続年数が10年に届く2名の隊長は流石に肝が座っており、最初の動揺から立ち直り、地上に残って奮戦しています。

 この二人のような魔導師は、ストライカーと呼ばれるのでしょうね。仮にAランクで魔導師としての成長は止まったとしても。

 4名の分隊長のうち、最も若いと見受けられる人物は、空に上がって隊員達の指揮を執っている。しかし、自分以外の12名に的確な指示を出すにはまだ経験不足なのでしょう。


 『つまりは、空の隊員はブリュンヒルトに対する盾ということですね。撃ち落とされることは前提であり、その時刻を如何に伸ばせるかどうかが手腕の見せ所。そして、その間に地上の8名が勝負を決める』

 8人とはいえ、そのうち3人は執務官とAランクの隊長2人。彼らがゴッキー、カメームシ、タガーメを攻略したならば、戦局は再び傾く。


 『しかし、既に30分が経過。ジュエルシード実験の終了は近い』

 アリシアの結晶生成はほぼ終了しています。現在は我が主がチェックしていますが、特に問題はないようです。

 ただ、問題がないことがそのまま、実験の成功を示すわけではありません。理論通りに進めばアリシアは目覚めますが、それが身体に定着し、普通に生きられる身体となるかどうかは別問題、やはり、やってみなければ分からない事柄ですから。

 “生命の魔道書”のソフトウェアのインストールも78%程が終了、アプリケーションの一部は既に起動可能ですね。ただし、こちらも我が主の症状に有効かどうかはやってみなければ分かりません。

 そして、機械類を操作している我が主はともかく、フェイト、高町なのは、ユーノ・スクライアの三人の限界は近い。高町なのはとフェイトは、30分間、魔力を放出し続けているに等しいわけですし、ユーノ・スクライアも放出こそしていませんが、複雑な魔力調整を行い続けている。


 『それぞれの限界はあと10分程と予想、ジュエルシード実験の終了予想時刻はPM0:38』

 ギリギリですが、何とかなりそうです。ただし、終わった後は三人とも倒れているでしょうが。

 ともかく、こちらは順調のようです。


 【アルフ、大丈夫ですか?】


 【現在のところはね、でも後30分あるんだろ】


 【ええ、さらに、クロノ・ハラオウン執務官もそちらに向かっています】


 【マジかい、ったく、一般の隊員ならなんてことないんだけど】

 アルフはランクではAA+に相当しますからね、十分エース級魔導師と呼べるレベルです。

 如何に連携が取れているとはいえ、Bランク5名ではきついものがあるでしょう。シグマの隊長はAランクではなく、簡単に言えば副隊長格ですから。


 【いざとなれば、執務官と刺し違える覚悟で臨めば、勝機があるかもしれません。極小確率で】


 【そりゃあどうも、けど、なんだって演習で刺し違えなきゃならないのさ】


 【その通りです、ですからここはタイムアップ狙いの持久戦で行きましょう。貴方はクロノ・ハラオウン執務官を避け、二人の隊長を仕留めていただきたい】

 この二人さえ仕留めれば、クロノ・ハラオウン執務官が指揮をとらざるを得ないため、彼の行動を縛ることが出来る。“クラーケン”の停止はジュエルシード実験さえ終了すれば問題ありませんから、彼がそちらへ向かうなら止める必要もない。


 【分かったよ】


 ただ、中央制御室に到達されるのは少々困りますね。ここにはジュエルシード実験の証拠が満ちていますから、隠蔽を済ませるまでは踏み込ませるわけにはいきません。

 もし、クロノ・ハラオウン執務官が“クラーケン”や“セイレーン”ではなく、こちらに来たならば、現在の戦力では迎え撃てませんね。


 『やはり、アレを使わざるを得ませんか。片付けが大変なのであまり使いたくなかったのですが』

 強力ではありますが、室内戦には致命的に向いていない。

 相手のアジトに破壊目的で送り込むならいいですが、それではエネルギーの確保が出来ませんし、防衛用として用いるには破壊力が大き過ぎる。

 やはり、過ぎたるは及ばざるが如し、というところですか。拠点防衛に用いるならば、人間サイズの傀儡兵と中隊長機を組み合わせ、陣形の穴をオートスフィアで埋め、情報収集はサーチャーに任せるのが最善でしょう。


 『ですが、その機能はこれから先、誰のためのものとなるのか』


 テスタロッサ家のプライベートを守るためのセキュリティとなるか、それとも――――


 『墓を守るための機能となる可能性も、ゼロではありません』


 レイジングハートやバルディッシュは若い、主が亡くなった時のことなど考えないでしょう。

 ですが、年寄りというものはどうしても考えてしまうのです。そして、その場合に自分が行うべき行動も。


 『いずれにせよ、私の命題の入力が終わる時は近い』

 もう、私がマスターに使われることはない。

 アリシアのための命題が終了した時、私に残るものは果たして――――


 『いや、それは私が考えることに非ず、全てはマスターの意思』

 それが、機械の在るべき姿。機械は、人間に命じられた通りに動いてこその機械です。

 演算を続けましょう、いつの日か、命題が終了するその時まで。



 演算を――――続行します



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