第二十七話 交錯する思惑
新歴65年 4月28日 第97管理外世界 日本 海鳴市 近海
雑誌
空き缶
携帯電話
カード
印鑑
預金通帳
トンファー
キーボード
首輪
サッカーボール
ストロー
スプレー
トルコ国旗
海底での探索を続ける。
時刻は既に夜7時。朝の8時ごろに目を覚ましたフェイトには今後の予定は既に伝えたので、私は海底でジュエルシードを捜索している。
次元航行艦“アースラ”からの監視は間違いなくフェイトとアルフの二人に向けられているはず、ジャマー結界を張りながら動き回る二人は囮として申し分ありません。
そして、私は海底でジュエルシードを捜索するとともに儀式魔法の準備を進める。
ジュエルシード封印用デバイス“ミョルニル”の補助装置となる端末を6つほど海底に設置し、それらを持ち込んだ耐水コードで接続し封印用の術式を構成する。
さらには積層型立体魔方陣の準備も進めなければなりませんが、ジュエルシードを捜索しながらであっても10日もあれば全ての準備は整うという演算結果が出ている。
作業を、続行。
新歴65年 4月29日 第97管理外世界 日本 海鳴市
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「捕まえた! なのは!」
ユーノのバインドが、鳥型のジュエルシードモンスターを縛り上げる。
「うん! 任せて!」
『Sealing mode, setup――』
「行くよ! レイジングハート!」
『Stand by ready.』
「リリカル・マジカル……ジュエルシードシリアル8――封印!」
『Sealing!』
同時刻 次元空間 時空管理局次元空間航行艦船“アースラ”
「状況終了です。ジュエルシードNo8、無事確保。お疲れさま、なのはちゃん、ユーノ君」
「はーい」
「ゲートを作るから、そこで待ってて」
親しみを込めて話し合う民間協力者とスタッフを眺めながら、クロノ・ハラオウンは安堵の息を吐いていた。
「うん、中々優秀だわ、このままうちに欲しいくらいかも」
艦長であるリンディ・ハラオウンの言葉も頷ける。確かに、人材不足の管理局にとって、彼女のように才能に溢れた者は是非とも勧誘したい存在だ。
しかし―――
「その時は、彼女の意思を最大限に尊重する必要がありますね」
そこは徹底せねばならない。8歳から管理局員として働いてきた彼だからこそ、思うところもある。
「そうね、だけど、彼女は家族に恵まれているみたいよ、クロノ。貴方の危惧していることは高町家では起こり得ないでしょう。“ルミナス”の再現にはさせません」
「はい、次元航行部隊の誇りにかけて」
「それより、こちらは片付いたようだから、貴方はエイミィの方を手伝ってあげて」
「了解です。艦長」
「ぬおー、やっぱりだめだ、見つからない。フェイトちゃんってば、よっぽど高性能なジャマー結界を使ってるみたい」
大型スクリーンを睨みながら、エイミィ・リミエッタが凄まじい速度でコンソールパネルを操作する。
「使い魔の犬、多分こいつがサポートしてるんだ。公式資料では、アルフという名前になっているけど」
その背後に立ち、同じくスクリーンを睨みながらクロノ・ハラオウンも考察を進める。
「だけど、姿を隠すってのは、事情聴取されたくない事情でもあるのかな」
「まあそうなるだろう。どういう事情があるかまでは推察するしかないが―――」
「材料が少なすぎるよねえ、プレシア・テスタロッサも最近は地上本部と協力してるって話だけど」
「ああ、それも気になる。地上本部は管理外世界での事件は管轄外だからまさか関わることはないと思うが、その娘がジュエルシードを求めて活動している以上、少なくともプレシア・テスタロッサが無関係ということはないだろう」
「SSランクの大魔導師の娘かあ、それにしては小さいけど、プレシア・テスタロッサってそろそろ50歳に届くよね」
「彼女は9歳だから、41歳で産んだことになる。うちの母さんといい、外見からはとてもそうは見えないな」
「確かに、高ランク魔導師の女性は化け物としか思えないよ。若さの秘訣を今のうちに伝授されたいなあ」
「そんなことはどうでもいいから、しっかり索敵してくれよ」
「はいはい、けど、例の怪人は何やってんだろ? ジャマー結界の中で一緒に動いてるのかな?」
「さてな、あいつがどう動くかだけはさっぱり読めない。そもそも、正体が不明過ぎる」
「一応、公式資料ではフェイトちゃんの伯父ってことになってるけど、どう考えても偽物だし」
「それだけでも立派な罪だが、あの怪人が自身で言うようにデバイスと魔法人形だったらその限りじゃないな」
「偽証罪は、あくまで人間に適用されるからね」
「嘘をついたデバイスを裁く法律は存在していない。というか、その法律が存在する意味が分からない」
「確かに、普通デバイスは勝手に人形を操って動いたりしないもん」
「まったく。何とも摩訶不思議な存在だ」
溜息をつきながら、仕事を続ける二人。
なんだかんだで、艦長に次いでアースラで最も忙しい二人であった。
新歴65年 4月30日 第97管理外世界 日本 海鳴市 近海
儀式魔法用端末の二つ目を設置完了、作業は順調に進行中。
カートリッジも既に半分以下となってきているので、この状況でもう一つ設置するのは少々厳しいと考えられる。
よって、残りの設置は一度拠点に戻ってからとし、カートリッジが続く間はジュエルシードの探索に専念。
ティーポット
鎖
ブーメラン
プロテイン
携帯食糧
防弾チョッキ
鎖鎌
水筒(鉄製)
手榴弾
ビデオテープ
トランシーバー
スタンガン
電子辞書
機関銃
手紙
手帳
金庫
鍵
腕 (機械製)
白い粉
拳銃(コルトパイソン)
注射器
マリファナ
阿片
大麻
コカイン
ジュエルシード
ヘロイン
シンナー
斧
アサルトライフル
薙刀
鋼糸
輸血パック
小刀
薬莢
指 (機械製)
弾倉
クロスボウ
トンファー
首 (機械製)
仕込みナイフ
拳銃(ベレッタ)
日本刀
護符
毒針
中国国旗
一体、この街には何者が潜んでいるのでしょうか?
高町家を観察していた限りでは、彼らが“とあるもの”を生業とする存在である可能性が高かったですが、海底で見つかる物品からはその裏付けとなりそうな品が次々と見つかる。
ちなみにこれらは特に深い部分に重しを付けて沈められていたものです。
これはもう、違法組織を壊滅させ、その組織が保持していた違法物品をまとめて海の底に沈めたとしか考えられません。
つまり、それを成した存在がいるということであり、その可能性が最も高いのが高町なのはの家族であるというのは何とも複雑です。
そして、恐らくはある意味で“高町家ゆかりの品”と思われるこれらに引き寄せられるようにジュエルシードがあったのも何と評すべきか。
高町なのは、貴女は空を征き、光の道を歩むべきだ。決してこのような闇と関わるべきではありません。
彼女もフェイトも、人間社会の暗部に染まるのではなく、それらを切り払う光になって欲しい。
気を取り直し、探索を続行します。
新歴65年 4月30日 第97管理外世界 日本 遠見市 テスタロッサ本拠地 PM7:15
カートリッジが無くなる頃にバルディッシュに対して念話を飛ばし、フェイトによって回収され、マンションに戻ってきた。
「そっちの成果はどうだ?」
「一つは向こうに確保されたけど、もう一つは手に入れたよ」
「流石に、管理局がバックアップに付くと手数は向こうの方が上になるね」
ふむ、一つを手に入れただけでも僥倖というべきか。
「となると既に地上のジュエルシードは残り一つか」
「こっちにはジュエルシードレーダーがあるけど、条件は五分だと思う」
「レーダーもあんまり精度がいいわけじゃないし、ある程度の絞り込みが済んでいるとはいっても、やっぱり厳しいもんがあるさ」
なるほど。計算通りの展開だな。
「やはり海のジュエルシードが焦点になりそうだな、こっちも一つ見つけたが、偶然に助けられた部分が大きかった。儀式準備が終わる頃までにあと一つ見つけられるかどうかは微妙だな」
まさか、あんなもんの傍にジュエルシードがあるとは。
「偶然?」
「高町なのはと関係の深い場所にジュエルシードがあるという仮説は多分正しかったみたいだが、予想外の部分でもそれが発揮されていた」
別にあれらが魔力を保有していたわけではないが、多分、怨念めいたものでも宿っていたんだろう。
あ、それと護符らしきものからはミッドチルダ式とは異なるが魔力らしきものが検出されていたな。多分この世界独自の魔法理論で構成された物質なんだろう。
「どういうことだい?」
「簡単に言えば、この街には怪物が潜んでいるということだ。全く姿を表さない例の結界を張った奴とは別にな」
高町なのはの家族とは口が裂けても言えんが。
「そういえば、あの結界の主は全然姿を見せないね」
「それなんだがな、どうやら奴は思った以上に用心深いみたいだ」
海底で準備を始める前に一応結界の様子を『バンダ―スナッチ』で念入りに調べてみたところ、予想外の事実が判明した。
「用心深い?」
「例の猫さんが監視していた家は文字通りただの家だった。魔力の痕跡らしきものは見当たらなかったし、リンカーコアを有する人間が住んでいるわけでもなかった」
「何だって?」
「じゃあ、いったい」
「多分、ミスリード狙いだな。何も入っていない宝箱に厳重に鍵をかけ、強力な番人を配置しておく。そして、本当に守りたい本命は鍵をかけてることすら諭られないように巧妙に隠す。今思えば、最初にサーチャーを迎撃したのもそれが狙いだったのかもな」
サーチャーを破壊し、“何かある”と思わせ、詳しく調査すれば発見できる程度の結界を敷設する。
だが、それは囮、本当に隠したいものは別にあり、俺らが囮に気を取られている隙に本命をさらに秘匿するといったところか。
「一杯喰わされたってわけかい」
「とはいえ、元々俺達とは無関係だからな、相手が隠れたいんならわざわざ探す必要もないさ。ジュエルシードにはまるで興味がないようだし、もし行動に出るようなら次元航行部隊に知らせてやればいい」
既にアースラが到着している。
例の結界の主が動いたところで、今度は時空管理局がその行動を制限する。
特に、クロノ・ハラオウン執務官は優秀だ。彼を出し抜くのは容易ではあるまい。
「じゃあ、予定に変更はないってことでいいの?」
「ああ、お前らは残る一個のジュエルシードを探索、俺は海底を探索しながら儀式魔法の準備を進める。全ての準備が整い次第、一気にジュエルシードを回収する」
「上手くいけば、私達のジュエルシードは……」
「現在俺達が10個、アースラ組が6個、地上が残り一つ、海が残り四つだ」
「海の4個を一気に回収できれば、目標数は完全制覇だね」
「というわけだ。つまり、地上の一個を血眼になって追い求める必要はない、海で逆転すりゃいい話だからな」
だがしかし、それだけでも困る。
「でも、海では多分、あの子たちとぶつかることは避けられないよ」
そう、それも必要な要素なのだ。
俺が用意してやれる高町なのはとの邂逅はもうそれほど多くはない。故に、失敗は許されん。
お前達二人はまた騙すことになるが、そこは許せ。
「ジュエルシード争奪戦の最終対決ってやつかねえ」
「時空管理局の後ろ盾を持つチーム・スクライアと、事前に周到な準備があり、地の利を得ているチーム・テスタロッサ、どちらに転ぶかは神のみぞ知るというやつだ」
「でも、私は絶対に負けられない、母さんと姉さんのために」
「大丈夫、あたしがついてるんだから、負けることなんてないよ」
「おい、俺は?」
「あんたが来るとロクなことがないからね」
「もう、“アレ”はやめてね」
黒い恐怖はフェイトの深層心理にまで強力な爪痕を残している模様。
「心配するな、“アレ”を超える最終兵器を開発中だ」
「嘘!? 嘘だよね!!? 嘘だと言って!!!」
「マジかい・・・・・・」
「極秘事項だが、開発コードだけは教えておこう。“ゴッキー”と“カメームシ”と“タガーメ”だ」
期待の大型ルーキーである。それにしても必死だなフェイト。
「ヤメテ止めて考え直して、お願いだから止めて」
「アンタねえ、絶対フェイトの前で使うんじゃないよ!」
「ふむ、善処しておこう」
「やっぱり、殺っちゃった方がいいのかね?」
「うん、うん、かもしれない」
俺にはとことん遠慮がない二人である。というかフェイトの目が渦巻状になってる。相当混乱してるな。
まあ、そうでなくては困る。そのための人格機能なのだから。
新歴65年 5月3日 第97管理外世界 日本 海鳴市 近海
さらに三日が経過し、補助端末も5つ目の設置を完了。
残るは一つ、それを設置し魔法陣の中央に“ミョルニル”を据えれば完成する。
これらの機材はジュエルシードを封印するものであると同時に、ジュエルシードを制御するためのものでもある。
私達の目的はジュエルシードを集めて暴走させることではなく、“願いを叶える”特性を発揮させることであり、ジュエルシードの制御には細心の注意が必要となる。
そして、最終実験においては少なくとも7個以上のジュエルシードを並行励起させてその力を引き出す予定となっており、この海での実験はそのための予備実験となる。
4個のジュエルシードを暴走状態とし、それらを沈静化、制御状態に移行するのに必要な魔力量は計算から求められているものの、やはり実践に行わなければ信頼性の面で不安が残る。
故に、海での実験は欠かせない要素となる。唯一揃っていないジュエルシードのデータは、複数のジュエルシードによる並行励起状態からの封印シーケンスなのだから。
そのため、私がこれ以上捜索を行う必要性は皆無。6個では暴走状態から封印する実験例として危険すぎ、3個以下では最終実験の予備実験としての意義が失われる。
全ては計算通り、海でのジュエルシード実験において4個のジュエルシードが暴走状態とすることは最初の海での探索の時より定められていた。
作業を、続行。
新歴65年 5月5日 次元空間 時空管理局次元空間航行艦船“アースラ”
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「残り六つ、見当たらないわね」
アースラのブリッジにおいて、艦長のリンディ・ハラオウンが呟く。
2日前、地上のジュエルシードをさらに一つ回収し、アースラ組が所有するジュエルシードは計7つとなっていた。
が、それ以来、空振りが続いている。
地上のジュエルシードはほぼ全て回収済みと判断されているため、テスタロッサ組が6~8個のジュエルシードを保持しているとアースラでは予想されていたが、トールによって海のジュエルシードが2つ回収されていることまでは知りようがなかった。
「捜索範囲を地上以外にも広げています。海が近いので、もしかするとその中かもしれません」
執務官であるクロノ・ハラオウンが報告する。
「海の中か、例の彼の情報端末にもその記述はあったわね」
「はい、ですがどこまで信用できるものか。一応、エイミィがフェイト・テスタロッサと合わせて捜索してくれていますが……」
「難しいところね、かといって、管理外世界に武装隊をいきなり降ろすわけにもいかないし」
原則的に、高度な人類社会が形成されている管理外世界への武力を伴う介入は禁止されている。
これが無人世界ならば問題はなく、第97管理外世界のような世界であっても人里離れた砂漠や山、森林ならば問題はないのだが。
先の一件で、クロノが地球に降り立つことが出来たのは彼が執務官であることが大きな理由となっている。
逆にいえば、咄嗟の状況判断が求められる現場において、いちいち活動許可を本局に問い合わせていては遅すぎる。“事件は会議室で起きているんじゃない、現場で起きているんだ”という事態になりかねない。
そのために、次元航行部隊には執務官が乗り込むのである。彼らは同時に法曹の専門家でもあり、管理局法の執行者なのだ。
「ですね、ロストロギアが暴走でもするか、次元犯罪者が潜伏しているなら話は別ですが」
「今のところ地球にいるのは管理外世界での活動許可を持っている9歳の女の子とその使い魔だけ。なのはさんは現地住民だし、ユーノ君もその協力者、唯一の例外は彼だけど」
「彼も一応法的にはゴールドパスを持っています。彼の戸籍そのものが偽造だとしても、数年間問題を起こさなかったという事実は動きませんし、地球においてもジュエルシードによる災害を喰い止めるために尽力していることを考慮すると―――」
彼らは、レイジングハートの情報記録からジュエルシードを人間が発動させた時の状況を再生する。
さらに、怪人が残した情報端末のデータとも照らし合わせる。
「魔力値50万を超える植物型モンスター、これの増殖を抑えたのが彼ということね」
「はい、そしてフェイト・テスタロッサとその使い魔は民間人を避難させるために広域結界を展開しています。管理局から感謝状が贈られることはあっても、逮捕状が送られる事態はあり得ません。彼女らがいなければ、最悪死者が出ていた可能性もありますから」
「にも関わらず、彼女らは時空管理局との接触を避けている。まさかとは思うけど」
「ジュエルシードを用いて何らかの実験を行う可能性は捨てきれません。仮に、この少女が自らの意思で“願いを叶えるロストロギア”を集めているとしたら―――」
「………彼女の母、プレシア・テスタロッサに何かがあったということかしら?」
「プレシア・テスタロッサにはクラナガンの中央医療センターへの通院経験があります。一時はかなり体調を崩していたらしいですから」
「流石は執務官、よく調べました」
「からかわないでください、艦長。ちなみにプレシア・テスタロッサ本人にも連絡を入れてみましたが、現在は時の庭園ごと留守でした。ですので本局の捜査部に彼女の現在地を問い合わせてもらってます」
「そうね、現在はテスタロッサ一家に対して法的な措置は何も取れないから、プレシア・テスタロッサ本人に関しては連絡待ちになるわね」
「それと、中央医療センターや生体工学研究所に問い合わせたところ、彼女には最新の医療器具や医薬品を提供しているらしいです。法に則った正式な契約なので、それに関する資料も問題なく提供してくれました」
「つまり、彼女の母親が体調を崩し、命が危ういところまで来ているかも知れない。それで、娘であるフェイトという少女はジュエルシードをこの1年探していたと、貴方は推測したわけね」
「まだ確証はありませんが、なのはやユーノの話を考慮すると、そのような可能性が一番高いかと」
「そうね――――――だといいのだけれど」
「艦長?」
「いいえ、こっちの話。しかし、テスタロッサ家の資金力は凄いわね」
その資料に記載されていた額を見ながらリンディは呟く。
「“セイレーン”の特許料だけでも相当の額でしょうし、それに、シルビア・テスタロッサの遺産もあります。彼女を起源とするインテリジェントデバイスがメジャーになるにつれて入ってくる金も多くなりますよ」
「資金不足に悩む地上部隊にとっては、羨ましい話でしょうね」
「彼女は最近、地上本部と協力しているとか」
「………噂があるのよ」
「噂?」
「“ブリュンヒルト”の話は聞いたことがあるわよね?」
「はい、地上本部が開発を進めている対空戦魔導師用の追尾魔法弾発射型固定砲台“ブリュンヒルト”。その動力となる駆動炉“クラーケン”。その開発者もプレシア・テスタロッサだったはずですが」
「ええ、そして、彼女の固有資産である“時の庭園”を、ブリュンヒルトの開発場所として提供しているという話があるの。まあ、別に違法というわけじゃないけど、本局には極秘で進められているとかで一部の高官が神経を尖らせているみたい」
「………カプチーノ中将の派閥ですか」
「前戦で動く私達にはあまりクラナガンの事情は分からないけど、最近ちょっとおかしな動きがあるのは間違いなさそうよ。時の庭園はプレシア・テスタロッサの母、シルビア・テスタロッサの工房として機能していたこともあるし、時空管理局とは縁が深い」
「そして、プレシア・テスタロッサの娘が、管理外世界でジュエルシードという次元干渉型のロストロギアを集めている……………いえ、まさか」
「ジュエルシードの力を、“ブリュンヒルト”の動力として利用することは可能だと思う?」
「それは――――恐らく可能だと思いますが、しかし」
「地上本部は本局に比べて予算が少ないし、“セイレーン”のような大型動力炉を開発することも難しい。“ブリュンヒルト”の動力炉の“クラーケン”も出力では“セイレーン”に劣るという話だから」
「出力不足を補うために、ジュエルシードを利用する。そんなまさか―――」
「推測、いいえ、邪推と言うべきね。だけど、それを信じようとする者達が本局にかなりいるというのも悲しいけど事実だわ」
「では、フェイト・テスタロッサは、何も知らず利用されているということですか?」
「そこは分からないわ。多分に勘も入るけど、プレシア・テスタロッサの身体が良くないというのは事実だと思うし、貴方の得た情報もそれを補強する。彼女はあくまで母の身体の治療のためにジュエルシードを集めているはず」
「しかし、そこに地上本部、さらには対立する本局の派閥の意思が介入している可能性があるわけですね」
「むしろ、逆も考えられるわ。プレシア・テスタロッサが地上本部や本局を利用している可能性もある」
「いったい、何のために」
「具体的なことまでは分からないけど、そうね、もし私が病気で先が長くないとしたら、残される貴方のために時空管理局や聖王教会に可能な限りの繋がりを作っておこう。と考えるかもしれない」
「………母さん」
「御免なさいね。でも、ひょっとしたら、私はそういう理由でここに派遣されたのかもしれないわ」
「母さんが来た理由ですか?」
「ええ、プレシア・テスタロッサの考えを実体験に基づいて予測できる艦長は少ないでしょうし、もし、ジュエルシードに関する事件が地上本部や本局の上層部と繋がっているだとしたら、私を派遣する理由も想像がつく」
「………協力してくれている彼女らには、口が裂けても言えませんね」
「それから、フェイトという女の子にもね。今の彼女らにはまだ知る必要はないことだわ、まあ、まだ推測に過ぎないことだけど」
「嫌な予想ほど当たるものです。ただ単に、9歳の女の子が病気の母のために願いを叶える石を集めている。それだけの話で済めば良いのですが」
「そうはいかないのが世の中というもの。けど、私達は時空管理局の次元航行部隊。そこにロストロギア災害の可能性があるならば、どんな事情があれ全力を尽くしましょう」
「了解です。艦長」
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新歴65年 5月6日 第97管理外世界 日本 海鳴市
全ての準備は完了、因子は釣り合った。
『約束の時まで、残り12時間を切りました。さあ、ジュエルシード実験を進めましょう』
昨日で水中戦闘型の肉体を用いた海底での準備は終わり、現在までは魔法戦闘型で儀式魔法の総仕上げにかかっていた。
そしてそれも既に終了。後はフェイトが魔力を注ぎ込めば巨大な術式が発動する。
フェイトとアルフには2日間ほど休むように言ってあります。海での儀式はかなりの魔力を必要とするため、万全整えて臨むようにと。
決行は明日。その時が、二人の少女が五回目の邂逅を果たす時となる。
そして、ジュエルシード実験の最終段階、そのための予備実験として海の儀式は執り行われる。
『我が主、全ては貴女の望むままに。次元航行部隊も、地上本部も、スクライアの少年も、そして高町なのはも、皆、協力していただきます』
アリシアとフェイト、二人の娘に光を。
それこそが、我が主の望み。
それを叶えることが、我が命題。
『計画は順調に進行、全てのピースは揃いつつある』
次元航行部隊も、地上本部も、所定の位置についた。
この状況が揃えば、最終実験を始めることが出来る。
最後の予備実験が成功すれば、アリシアのための実験環境は既に整ったも同然。
ですが―――
『フェイト、高町なのは、貴女達は別だ。因子はまだ足りていない』
海での邂逅は成功させねばなりません、これは既に絶対条件と言ってよい。
しかし、まだ足りない。
『二人が友となるためには、さらにあと一度、そして、最大の衝突が必要になるでしょう』
故に、ここで14個のジュエルシードが手に入ってしまうのは望ましくはない。
ジュエルシードが揃ってしまえば、フェイトが高町なのはと戦う理由はなくなるのだから。
『申し訳ありませんフェイト、私は貴女に対してはどこまでも嘘吐きということになりますね』
ならば、二人の少女がぶつかり合う状況を作り出すのみ。
ジュエルシードを賭けて、二人の少女が全身全霊で語り合う状況を。
あらゆる状況をシミュレート、その中で最適解を導き出す。
私はインテリジェントデバイス、人の心を解析し、それを考えることを可能とする機能はそのために。
演算を、続行します。
※一部S2Uの記録情報より抜粋
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前回いろいろとオリジナル設定を出してしまいました。この先もけっこうオリジナル設定は出していきます。
あまり原作と乖離しないよう気をつけます。それとオリジナルキャラは、名前を出るけど本人は出ない(プレシアさんのお母さんなど)ことになると思います・
でもオリジナルデバイスは結構出すかもしれません。