<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

とらハSS投稿掲示板


[広告]


No.22726の一覧
[0] 【完結】He is a liar device [デバイス物語・無印編][イル=ド=ガリア](2011/01/28 14:30)
[1] 第一話 大魔導師と嘘吐きデバイス[イル=ド=ガリア](2010/11/17 15:40)
[2] 第二話 プロジェクトF.A.T.E [イル=ド=ガリア](2011/01/01 22:19)
[3] 第三話 悪戦苦闘 [イル=ド=ガリア](2010/10/26 08:12)
[4] 閑話その一 アンリミテッド・デザイア [イル=ド=ガリア](2010/11/15 19:05)
[5] 第四話 完成形へ [イル=ド=ガリア](2010/10/30 19:50)
[6] 第五話 フェイト誕生 [イル=ド=ガリア](2010/10/31 11:11)
[7] 第六話 母と娘 [イル=ド=ガリア](2010/11/22 22:32)
[8] 第七話 リニスのフェイト成長日記[イル=ド=ガリア](2010/12/26 21:27)
[9] 第八話 命の期間 (あとがきに設定あり)[イル=ド=ガリア](2010/11/06 12:33)
[10] 第九話 使い魔の記録 [イル=ド=ガリア](2010/11/08 21:17)
[11] 第十話 ジュエルシード[イル=ド=ガリア](2010/11/10 21:09)
[12] 第十一話 次元犯罪計画 [イル=ド=ガリア](2010/11/13 11:18)
[13] 第十二話 第97管理外世界[イル=ド=ガリア](2010/11/17 15:34)
[14] 第十三話 本編開始 [イル=ド=ガリア](2010/11/17 15:58)
[16] 第十四話 高町なのは[イル=ド=ガリア](2010/11/19 19:03)
[17] 第十五話 海鳴市怪樹発生事件 [イル=ド=ガリア](2010/11/21 22:20)
[18] 第十六話 ようやくタイトルコール [イル=ド=ガリア](2010/11/23 16:00)
[19] 第十七話 巨大子猫[イル=ド=ガリア](2010/11/25 10:46)
[20] 第十八話 デバイスは温泉に入りません[イル=ド=ガリア](2010/11/26 23:49)
[21] 第十九話 アースラはこうして呼ばれた[イル=ド=ガリア](2010/11/27 21:45)
[22] 第二十話 ハラオウン家[イル=ド=ガリア](2010/11/28 16:21)
[23] 閑話その二 闇の書事件(前編)[イル=ド=ガリア](2010/11/28 16:47)
[24] 閑話その二 闇の書事件(後編) [イル=ド=ガリア](2010/11/28 16:51)
[25] 第二十一話 二人の少女の想い [イル=ド=ガリア](2010/12/08 16:11)
[26] 第二十二話 黒い恐怖 [イル=ド=ガリア](2010/12/03 18:44)
[27] 第二十三話 テスタロッサの家族[イル=ド=ガリア](2010/12/04 21:38)
[28] 第二十四話 次元航空艦”アースラ”とクロノ・ハラオウン執務官 [イル=ド=ガリア](2010/12/06 21:36)
[29] 第二十五話 古きデバイスはかく語る [イル=ド=ガリア](2010/12/08 17:22)
[30] 第二十六話 若き管理局員の悩み[イル=ド=ガリア](2010/12/10 12:43)
[31] 第二十七話 交錯する思惑 [イル=ド=ガリア](2010/12/13 19:38)
[32] 第二十八話 海上決戦 [イル=ド=ガリア](2010/12/14 13:30)
[33] 第二十九話 存在しないデバイス[イル=ド=ガリア](2010/12/17 12:46)
[34] 第三十話 収束する因子 [イル=ド=ガリア](2010/12/19 15:59)
[36] 第三十一話 始まりの鐘 [イル=ド=ガリア](2010/12/24 07:56)
[37] 第三十二話 魔導師の杖 閃光の戦斧 [イル=ド=ガリア](2011/01/12 19:18)
[38] 第三十三話 追憶 [イル=ド=ガリア](2010/12/29 07:59)
[39] 第三十四話 それは、出逢いの物語[イル=ド=ガリア](2011/01/03 11:55)
[40] 第三十五話 決着・機械仕掛けの神[イル=ド=ガリア](2011/01/03 19:38)
[41] 第三十六話 歯車を回す機械 [イル=ド=ガリア](2011/01/09 20:30)
[42] 第三十七話 詐欺師 [イル=ド=ガリア](2011/02/19 21:46)
[43] 第三十八話 最初の集い[イル=ド=ガリア](2011/01/12 19:11)
[44] 第三十九話 ”あなたはフェイト”[イル=ド=ガリア](2011/01/14 20:39)
[45] 第四十話  ジュエルシード実験 前編 約束の時が来た [イル=ド=ガリア](2011/01/18 08:33)
[46] 第四十一話 ジュエルシード実験 中編 進捗は計算のままに[イル=ド=ガリア](2011/01/18 16:19)
[47] 第四十二話 ジュエルシード実験 後編 終わりは静かに[イル=ド=ガリア](2011/01/19 22:24)
[48] 第四十三話 桃源の夢 アリシアの場所[イル=ド=ガリア](2011/01/24 20:18)
[49] 第四十四話 幸せな日常 [イル=ド=ガリア](2011/01/24 20:50)
[50] 第四十五話 夢の終わり[イル=ド=ガリア](2011/01/27 15:31)
[51] 最終話 別れと始まり[イル=ド=ガリア](2011/01/28 21:24)
[52] 最終話 He was a liar device (アナザーエンド)[イル=ド=ガリア](2011/02/25 20:14)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[22726] 第十八話 デバイスは温泉に入りません
Name: イル=ド=ガリア◆ec80f898 ID:76b202cd 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/26 23:49
第十八話   デバイスは温泉に入りません






新歴65年 4月20日 第97管理外世界 日本 遠見市




 「温泉?」


 「そう、お前らは最近働きっぱなしだからな、ここらで少し休めというお母様からのお言葉だよ」

 子猫事件より三日後、相変わらずジュエルシードレーダーを片手に探し回っている俺達だが、流石に9歳のフェイトには疲れが見え始めてきた。

 その辺のことをプレシアの報告したところ、とりあえず休ませろという指示が来た。

 なので休暇の代表格である温泉宿を勧めることにしたわけだが。


 「でも―――」


 「反論は禁止だ。なあに、お前の言いたいことも分かるが、この資料を見よ」

 高町なのはの監視は俺の仕事だったので、あの家族が定期的にある温泉宿に旅行に行くことは把握している。

 これまでのジュエルシードの発動場所を考えるとやはり高町なのはの行動範囲内にある傾向が強い。ならば、その場所の近くにもジュエルシードがある可能性が高いという理屈が通る。

 かなり無理やりな理屈だが、とりあえずフェイトに納得させられればそれでいい。もしあったら御の字だが流石にそこまで都合がいいこともないだろう。


 「これってつまり、あの子が出かける先にジュエルシードがある可能性が高いということ?」


 「そういうことだ。というわけで、お前達は漁夫の利を得るために温泉へ潜り込むことになる。怪しまれないように一般客を装ってな」


 「だから、あたしらの出番ってわけだよ。こいつが温泉なんかに入ったらボロが出る可能性があるからね」


 ちなみに、アルフには事前に話して協力者に仕立てあげてある。最近フェイトがオーバーワーク気味であることをアルフも気にかけていたのだ。

 そして、俺は温泉に入らない、というか入る意味がない。

 魔法人形はお湯に浸かろうが疲労が取れるわけではなく、魔法人形に必要なのは調整用のカプセルや、専用の機材一式である。


 「じゃあ、トールはどうするの?」


 「俺は俺で時間をかけて調査しておきたいところがあってな、こっちは逆にお前達には任せられないところだ」

 といいつつ別のデータを表示する。


 「海の中?」


 「ああ、ジュエルシードはほぼランダムに海鳴市にばら撒かれた。だったら、少なくとも二、三個、多ければ五、六個は海の中に落ちているはずだ。チーム・スクライアはまだ海の中には目をつけていないから今の内にこっちで回収しちまおうという魂胆だ」

 流石に海の中で発動されてもデータを取る役には立たない。

 海の中で活動するには専用の装備が必要になるからどうしても演算性能は落ちるし、“ミョルニル”の発動もやりにくくなる。


 「トールって、水の中で活動出来たの?」


 「いいや、だが、状況に合わせて様々な人形を使い分けられるのが俺の最大の特徴だ」

 押入れの中からあるものを引っぱり出す。新型サーチャーの研究を行った際に時の庭園から持って来たものだ。


 「何コレ? サメ人間かい?」


 「うーん、半漁人、かな?」


 「近接格闘型魔法人形、水中戦仕様だ。魔法を扱うのに優れているわけじゃあないが、魔力をそのまま水中移動用の推進力として利用する機構を搭載していて、体型も流線型で水の抵抗が少なくなるように設計した。水かきなんかも付いている。こいつを使えば海中だろうが問題 なく探索できるし、ジュエルシードレーダーも既に組み込んである」

 似たような感じで鳥人間っぽい空中戦仕様も作ってみたが、そっちの飛行性能は人間の形と大差なかった。

 やはり空気よりも水の抵抗というもの人間にとって動きづらいものらしく、水中の動作は人間の形態ではかなり遅かったが、空戦は人間形態のままでもかなりいけた。


 「でもこれ、どうやって海まで移動するの?」


 「だよね、こんなのが街を歩いていたら間違いなく警察が呼ばれるし、第一こいつの足じゃ陸地は歩けそうにないじゃないか」


 「いい着眼点だ。こいつには陸を歩く機能がないから、フェイトが空を飛んで運んだ後、空中から海に放り投げることになる。回収する時はバルディッシュから俺の本体に通信を飛ばしてくれればこっちも魔力反応を返すから」


 「これを抱えて空を飛ぶってことは………」


 「夜しか無理だね、まさか海まで広域の結界を張るわけにもいかないよ」

 夜に空を舞い、半漁人を抱えて疾駆する魔法少女か、実にシュールな光景になりそうだ。


 「捜索する範囲はかなり広くなるから数日では無理だから何回かに分けて捜索は行う。多分一週間以上の時間をかけても全域の捜索は不可能だろう。ジュエルシードがばら撒かれてからそろそろ時間も経って来たから時空管理局の次元航行部隊もやってくる可能性はあるから、そ れまでに可能な限りジュエルシードを集めておきたい」


 「次元航行部隊はいつ頃?」


 「んー、可能性があるとは言っても今のところはまだ動く段階じゃあないと考えている。ジュエルシードが引き起こしているのはあくまで生命体の変異だけで地上部隊であっても十分に対処できる事件だ。管理外世界にロストロギアがばら撒かれている状況を放置しておけるわけ もないが、説明したように時空管理局は万年人手不足で、仕事がやたらと多いからな。あまり重要度や緊急度が高くない事件のために管理外 世界まで次元航行部隊を派遣するわけにもいかんのだよ」

 これにはスポンサーの意向も強く関係している。

 時空管理局は、各管理世界の先進国家が中心になって作り上げている次元連盟の一部局という位置づけになる。

 つまり当然、その運営資金は管理世界の国家の税金や永世中立世界ミッドチルダの税金だ。そういう組織である以上、被害が管理外世界の住人にしか出ない事件に対しては腰が重い。

 管理局員のモラルの問題ではなく、組織的な構造上仕方ない部分ではある。

 他の国に援助金を出すのはいいが、自分の国の治安を疎かにしてまで行う国家は存在しない。

 時空管理局にゆとりがあり、管理世界の治安が問題なく保たれているなら管理外世界にも手を差し伸べられるだろう。

 だが現実は管理世界ですらロストロギア災害は起きているし、戦争もあれば広域次元犯罪者によるテロやクーデター、革命なんかもある。

 管理局が本当の意味で次元世界の平和を守れる機関となるにはあと50年はゆうにかかるだろう。

 それに、現在ですら高ランク魔導師にかかる仕事の負担は大きく、子育ての時間すらとれていないというのが実情だ。

 遠くの世界の人々の安全よりも、まずは自分達の子供達が無事に育ってくれるのを願うのは人間として当然のこと。 社会的な問題がなくなり、他に気を回す余裕が出来た時に初めて管理外世界の治安を考えればいいだろう。

 まあ、ジュエルシードをばら撒いた張本人である俺が言えることではないが。


 「そっか、時空管理局も忙しいんだったね」


 「向こうとしては俺たちかチーム・スクライアで、全てのジュエルシードを回収して届けてくれるというのが理想的だ。しかし、ものがロストロギアである以上そうも言っていられん。次元犯罪者の手に渡った日にはどんな風に悪用されるか分かったもんじゃないからな」


 「確かに」

 「危険なものってことは間違いないね」

 そして、その次元犯罪者とは俺のことである。


 「そういうわけで、次元航行部隊はいつかは来るがいつになるかは分からない。ひょっとしたら俺達が全てのジュエルシードを回収し終えてからになるかもしれないし、逆に明後日にでも来るかもしれない。流石に明日ということはないだろうが」

 それでもロストロギアの回収は時空管理局の義務だから来ないということはありえない。


 「じゃあ、それまでに多くのジュエルシードを集めておいた方がいいんだ」


 「だがしかし、体調を万全にしておくことも重要だ。簡単に言えば現在は時空管理局の存在を気にすることなく探索できる段階だから、特に周囲に注意を払ったり隠密用の結界を張ったりする必要もない。だが、次元航行部隊が到着すればジュエルシードの回収は向こうの主導に なってしまうし、本来の発掘者であるチーム・スクライアならともかく、一応部外者である俺らは分が悪くなる」


 「うーん、下手したら私達が集めたジュエルシードを没収されるわけかい」


 「没収まではいかなくても危険性の確認のためにいったん預けなくちゃいけないのは間違いない。が、それをされるとアリシアの蘇生が間に合わなく可能性が高いし、プレシアの身体も然りだ。時空管理局は敵対しなきゃいけないわけでもないが、いたらいたで厄介な存在になるわけだ」


 「チーム・スクライアがいる以上、私達がジュエルシードを保有していることは管理局に知られてしまうね」


 「まさか口封じするわけにもいかんからな、そういうわけで、時空管理局が出張ってきた時に備えて体調を整えておくのも重要だ。デバイスである俺と違って人間は疲労が溜まっていく、どんな偉大な魔導師であっても常に全力全開で戦い続けられるはずもないからな」


 「うん、分かった」

 しっかりと理論立てて説明すれば感情に任せた文句を言わないところはフェイトの美点の一つだろう。

 しかし、あまり自分を抑え過ぎてもいけないからたまにはワガママを言うくらいでバランスが取れている。そのワガママの内容が休みなしでジュエルシードを探したいというのは問題があるが、まあそこは仕方ない。


 「アルフ、温泉周囲の探索はお前が担当してくれ、フェイトはひとまず温泉宿内部でチーム・スクライアの動向を探る。本来監視役の俺はついていけないからな、もし彼らがジュエルシードを見つけたら横取りする方針で行け。それと、万が一戦闘になる場合は結界の敷設は忘れるな」


 「トールを海にまで連れていくのはいつ頃?」


 「それは今日の夜でいい、カートリッジは三日間動けるくらい内蔵できるからお前達が温泉宿でジュエルシードを探している間は俺はずっと海の中で捜す」


 これも俺がデバイスだからこそ可能な芸当だ。

 デバイスは飯を食わない、眠らない、排泄もしない。魔力で動く人型をただ動かし続けるだけだ。

 動力源となるカートリッジがなくなるまで。


 「ちょっと申し訳ないけど、私達には無理だろうし………」


 「海のことはアンタに任せるよ、トール」

 そんなこんなで、フェイトは温泉宿付近でジュエルシード探し、という名目で二泊三日の休暇をとらせ、アルフはその監視役。俺はその間海の底でジュエルシード探索ということで決まった。



 ―――のだが



 「ちょっといいかい、トール」

 今後の方針決定からしばし後、アルフに呼ばれた。まあ、用件の内容は大体想像つくが。

 ちなみにフェイトはシャワーを浴びている。


 「ジュエルシードを見つけたら横取りの方針で行けって部分に疑問あり、ってとこだろ」


 「ああそうだよ、アンタの方針では可能な限り、フェイトには管理局法に引っ掛かりそうなことはさせないんじゃなかったのかい?」


 「ああそうだ。だからこれはジュエルシード集めとはある意味別件だ。プレシアのためにジュエルシードを集めるんじゃなくて、フェイトのためにやっていることになるな」


 「フェイトのため?」


 「昔の話だが、プレシア・テスタロッサという少女がいた。工学者の家系に生まれた彼女は類まれな魔法の才能を持ち、それだけでなく幼い頃から天才的な頭脳を持っていた」


 俺はプレシアが5歳の時に作られた。アイツのことはほとんど全て把握している。


 「だがそれ故に、学校では浮いた存在だった。知能のレベルも魔法のレベルも何もかもが周囲とずれていたんだ。友達は出来なかったが、そもそもプレシア自身が“低能”な連中と友達になることに意義を見出していなかった。もし、プレシアが自身と対等と認められる奴でもいれば話は違ったかもしれないが」

 冗談抜きで、プレシアの話相手は俺しかいなかった。

 母親が話し相手として俺を作ったことはある意味ではマイナスに働き、プレシアの外界への興味を薄くしてしまったのだ。


 「高い魔力を持って生まれたフェイトにもそうなる危険は大きくある。普通の少女として生まれたアリシアと異なり、フェイトは戦闘能力に限ればプレシア以上の才能を持って生まれた。ミッドチルダの学校であっても、フェイトと対等になれる生徒はおそらくいないだろう」

 “生まれた”というより、そうなるように俺が“作った”のだから、俺の責任なのだ。


 「じゃあつまり、その高町なのはって女の子が、フェイトにとっての“対等”になれるかもしれないってことかい?」


 「ああ、彼女の魔法の才能はまさしくフェイトに匹敵する。もし彼女がフェイトと友達になってくれるならこれ以上のことはないと俺は考えている。そして、だからこそ二人には思い切りぶつかって欲しいのだ。表面的な言葉を交わすだけの“知人”ではなく、あらゆるものを分かち合う“親友”になれるように」

 プレシア・テスタロッサの人生において、“親友”と呼べる存在はいなかった。プレシアはその人生を良しとしているからそこは別に構わない。

 人生の良し悪しを決めるのはあくまで本人だ。


 「作った張本人の俺が言うのもなんだが、フェイトは普通とは違う生まれ方をした。そして、母親は今死にかけている。プレシアが死ねば孤独の身になるのは避けられない。俺はデバイスでお前は使い魔だから、同じ人間としてフェイトを支えることは出来ない」

 フェイトは母が助かると信じてジュエルシードを探し続けている。

 だが、現実というものは常に非情だ。

 確率的に考えれば、プレシアはもう助からない。



 ――――だからこそ、高町なのはという存在はフェイトにとって奇蹟に他ならない。


 “ジュエルシード”という願いを叶えるロストロギアではなく、高町なのはと出逢えたことこそが、フェイトにとっての奇蹟だ。


 「じゃあ、アンタがずっとチーム・スクライアを監視していたのは………」

 “ジュエルシード実験”を円滑に進めるためという要素もある。だが、俺の主であるプレシア・テスタロッサはフェイトが生まれた時に俺にこう入力した。

 フェイトが幸せになれるように全力を尽くせ、と。無論、それはアリシアも同様に。

 “ジュエルシード実験”を進めることはアリシアの蘇生のために尽くす全力。


 そして、フェイトのための全力とは―――


 「高町なのはが、フェイト・テスタロッサの親友となってくれる人物かどうかを見極めるためだ。そして今俺は、高町なのはがフェイトの親友になってくれるようにあらゆる手段を尽くすつもりでいる」

 とはいえやれることは少ない、せいぜい高町なのはとフェイトが逢う機会を増やすことくらいだ。

 親友になれるかどうかは、やはりフェイト本人次第なのだ。


 「そっか、そういうことだったのかい………」


 「フェイトには言うなよ、本人が知ったら意味無いから」


 「言わないよ、ったく、アンタはいっつも色んなことを考えてるんだねえ」


 「デバイスだからな、考えることが本領だ」


 【アルフ、ごめん、髪洗うの手伝って】

 と、そこにフェイトから念話が飛んできた。

 アルフに向けた内容だろうが、あまり意識を割いていなかったのか俺にまで飛んできたが。


 【分かった、すぐ行くよ】

 つられたのか、アルフまで俺に聞こえるように返す。


 「ちょっと、フェイトを手伝ってくるよ」


 「9歳の子供が洗うには、あいつの髪は長すぎるのかもしれんぞ」

 とりあえず、アルフの疑問も解消できたようだ、話はこのくらいでいいだろう。



 さてさて、二人の少女の物語は、いったいどうなることやら。







新歴65年 4月21日 第97管理外世界 日本 海鳴市 近海



 空きビン

 魚

 貝

 藻

 魚

 空き缶

 魚

 プラスチック容器

 ヤドカリ

 魚

 ガラス玉

 魚

 藻

 船の残骸

 碇

 魚

 空き缶

 釣り竿

 魚

 空きビン

 洗濯ばさみ

 ルアー


 水中型の近接格闘用魔法人形には言語機能はない。

 ただひたすら動き回ってそれらしき物体を手当たり次第に回収し、ジュエルシードかどうかを判断。

 三次元的に空間が広がる海ではジュエルシードレーダーの捜索範囲ではほとんど意味がない。

 反応しても空き缶だったりガラス玉だったりルアーだったりがほとんどでした。

 他に何かする機能はないのでただひたすら探索を続行。





新歴65年 4月22日 第97管理外世界 日本 海鳴市 近海


 カッター

 メンコ

 ペットボトル

 ライター

 キャップ

 ルアー

 10円玉

 右腕

 冷蔵庫(どう見ても不法投棄)

 漬物石

 ガラス玉

 CD-R

 割りばし

 カップヌードルの容器

 ドライヤー

 納豆

 携帯電話

 掃除機

 帽子

 死体(胴体のみ)

 鞄

 軽自動車

 ラジオ

 トランク


 対象を人工物に絞ったところ、次から次へとヒットヒットヒット。

 というか、ゴミを捨てすぎでしょう。

 まあ、日本の港の中で比較すれば飛び抜けて汚いわけではないでしょうが、流石にリゾート地のエメラルドグリーンの海とは比較にならないようです。

 それに、これらも人間の視力を遙かに上回る探知能力を持つ俺が底の方を徘徊して見つけたもので、海上からは見つけられるものではない。

 本来なら浮かんでいるはずの軽いものも、重いものに引っ掛かったりして沈んでいた。納豆と右腕が冷蔵庫の中にあったのはちょっとしたホラーだと思います。

 トランクの中の首以外の死体は一番のサプライズでした。私が人間だったら絶叫していたことでしょう。

 誰がいつ沈めたのかは分かりませんが、とりあえず冥福を祈るとしましょう。

 そのうち遺書なども見つかるかもしれません。



 

新歴65年 4月23日 第97管理外世界 日本 海鳴市 近海


 ハサミ

 スプーン

 空き缶

 テレビ

 財布

 500円玉

 50円玉

 鉄アレイ

 マウス

 包丁

 ガラス玉

 DVD-R

 まな板

 焼きそば弁当

 クーラー

 オロ○ミンC

 ジュエルシード

 バー○ー人形

 頭蓋骨

 リュックサック

 ロープ

 ナイフ

 ビニール袋に覆われた白くてところどころ赤い布

 トランク(中身は………)


 『How about the result?(成果はどうですか?)』

 探索を続けていると、バルディッシュから連絡がやってきた。


 『ジュエルシードを一つ発見しました、私ごと回収を願います』

 返事を出すと同時に魔力を放出しつつ海面へ移動。


 『It comprehended.(了解しました。)』

 海上に出ると、真上にフェイトとアルフがいた。


 「トール、大丈夫?」

 現在は人間との念話機能もなく、バルディッシュとしか通信できない肉体なので、身振りでOKサインを出す。

 このままでは話が進まないので、とりあえずマンションに移動してから話を聞くことに。










新歴65年 4月23日 第97管理外世界 日本 遠見市 テスタロッサ本拠地



 「んで、そっちはどうだった?」


 「うん、トールの読み通り、ジュエルシードがあったよ」


 「マジか」


 「ああ、マジだよ」

 アルフが半分呆れ気味に呟く。

 フェイトに休暇を取らせるために無理やりな理屈をつけたが、どういうわけかヒットしたようだ。何かの引力でも作用しているのだろうか。


 「それから、あの子とも戦ったよ」


 「あたしの相手はスクライアのガキの方だったけど、大分回復していたみたいだよ」


 「ほほう、高町なのはと戦ったか、結果は?」


 「私の勝ち、約束どおりにジュエルシードを一つもらったの」

 なるほど、対等な条件でジュエルシードを一つ懸けて勝負したわけか。

 未成年の賭けごとは禁止というのはこの際置いておいて、管理局に思いっきり引っ掛かるわけでもないな。

 勝負の経過を詳しく聞いたが、高町なのはが撃った砲撃魔法をフェイトがサンダースマッシャーによって迎撃。

 砲撃戦自体は高町なのはが勝利したようだが、砲撃そのものをフェイトは躱した。そして、カウンターでサイズフォームのバルディッシュを高町なのはの首筋に押し付けた。


 「そしてそのまま刃を引き抜き、首なし死体の出来あがりと」


 「そんなことしてないよ! あの子のデバイスがその瞬間にジュエルシードを放出しただけ!」


 「冗談だ。結果は上々、ジュエルシードを二個入手、というわけだな」

 つまり俺達のジュエルシードは―――



 ミネルヴァ文明遺跡で見つけたもの

 少年少女が発動させた巨大植物から回収したもの

 ジュエルシードレーダーの地道な探索で発見した市街地のマンションの屋上に落ちてたもの

 巨大子猫から回収したもの

 温泉宿でフェイトとアルフが見つけたもの

 高町なのはから勝ち取ったもの

 俺が海で見つけたもの

 の計7個というわけか。


 「アンタの方はどうだったんだい?」


 「俺の方でも一個回収したからこれで合計7個だな。とりあえずアリシアの蘇生に必要な数の最低ラインは突破したことになる」

 最低で6個、最高で14個という話だから、結構いいペースではあるだろう。


 「えっと、ジュエルシードは全部で21個。私達は7個持っていて、あの子達が4個、つまり残りは10個」


 「ちょうど半分か、折り返しまで来たわけだね」

 俺達が探索を開始したのは4月5日から、今日が23日だからほぼ20日で半分が回収されたことになる。

 このペースなら全てのジュエルシードの回収完了は5月の半ば頃、ちょうどいい。

 “ブリュンヒルト”の発射実験の方も5月半ばでほとんど決まり、綿密な日程を組む段階に来ている。

 既にほとんどの申請は終わっているそうで、後は時の庭園を現地に移せばいつやっても構わないところまで来ているとか。

 となれば後はどのタイミングで本局に知らせるかどうかと、どうやって知らせるかだ。

 ジュエルシードがばら撒かれたことはもうとっくに伝わっているだろうが、未だに次元航行部隊が現れないのは重要性が低いと判断しているからに他ならない。

 次元震でも引き起こせば一発だが、まさかそんな真似をするわけにはいかない。

 要は、ジュエルシードが次元震、果ては次元断層すらも引き起こせる次元干渉型ロストロギアであることが本局に伝わればそれでいいのだ。

 ここで、ポイントは一つ。

 テスタロッサ一家がジュエルシードというロストロギアをこの一年間探していたのは周知の事実ということ。

 だからこそミネルヴァ文明遺跡にいた他の発掘チームがフェイトにジュエルシードが“事故で”地球にばら撒かれたことを伝えてくれたのだ。

 ならば、プレシア・テスタロッサから時空管理局へジュエルシードの危険性を示す資料が送られたとしても違和感はない。

 わざわざ伝えたことに何か思惑があるとは判断されるだろうが、無視できる情報でもないだろう。

 プレシアの実績や、スクライア一族からの追加報告を考慮に入れれば次元航行部隊が派遣されるのは間違いない。


 ならば、それを最も有効に生かすには―――――



 「レジアスのおっさん、少々力を借りるぜ、ギブアンドテイクといこうじゃないか」


 フェイトとアルフに聞こえぬよう、一人呟く俺だった。少しクラナガンに行く必要がありそうだ。





前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.024402856826782