第十話 ジュエルシード
新歴65年2月 ミッドチルダ アルトセイム地方 時の庭園
「トール、最近フェイトの様子はどうなの?」
「まあ、予想よりは落ち着いているかな。やっぱしアンタの娘だけあって芯は強いってとこかね」
リニスが死んでから2か月、最初の1か月は流石に元気がなかったが、ここ最近はそれまでの期間を帳消しにするかのように元気一杯だ。当然、その原因はプレシアなわけだが。
「そう、空元気でなければいいのだけれど」
「その成分もなきにしもあらずだが、俺は心配していない」
「理由は?」
「リニスの最期の願いは『フェイトが幸せになること』だったからさ。“運命を切り開く者”という名前はあいつにぴったりだったようだ」
誓いの言葉も一歩間違えれば呪いの言葉になる。言いたかないが、プレシアのアリシアに対する誓いはそっちに近い。後の人生の方向を一つに定めて路線変更を利かなくする誓いは重すぎて行動を縛りつける。
だがまあ、“幸せになる”なんていう曖昧な表現は、解釈によって行動がいくらでも変わるから、呪いにはなりにくい。“アリシアを助ける”は行動が完全に限定的だが、幸せになる方法なんてそれこそ無限にあるだろう。
まあ、流石に鞭で打たれることを幸せと思うようにはなって欲しくはないが。
「それで、フェイトは頑張っているとは聞くけど進展はあったということ?」
「まあな、2カ月ほど前に見つかったミネルヴァ文明遺跡だったか、そこでかなりの量の考古学的遺産やロストロギアが発見されたんだが、その資料の中に“ジュエルシード”の記述があったそうだ」
「ジュエルシード!―――――ゴホッゴホッ」
プレシアが身を乗り出すが同時に咳き込む。
「馬鹿・・・・・・ 無理すんなよ」
「ん、ンンっ、フゥ・・・・・・ 落ち着いてなんていられないわ。それで、見つかったの?」
「まだだ、かのスクライア一族が調査隊の中心になってミネルヴァ文明遺跡の発掘に当たっているらしく、久々の大きな遺跡の発見ってことでそれ以外にも大小の調査団が派遣されている。フェイトとアルフもそこに混じって発掘してるよ。最も、モノがモノだけに数は限られるが」
ちょうど一週間ほど前に誕生日が過ぎたのでフェイトは現在9歳だが、そんなことは忘れて発掘に没頭している。あまりにも熱中し過ぎてて少し危険な傾向があるから、アルフには常に見張っていろと言ってある。
8歳の時からフェイトは“ジュエルシード”を探して俺と共に次元世界を渡り歩いているが、“ミッドチルダ考古学士会”のような有名組織に所属することは無理なので、時空管理局のある意味で末端ともいえる小さな組織に所属している。
別に違法な組織というわけではないが、各管理世界の政府直属組織ではなく政府の支援を受けているわけでもないので、後ろ盾は弱い。後ろ盾が弱いということは総じて情報収集力が有名どころと比べて低いわけだが、そこは地下オークションとかのコネや“お得意さま”としてのスクライア一族との付き合いとかで補っている。
そもそも、ロストロギアの発掘には、超兵器に区分されるロストロギアの発掘と保有を禁じて、さらに大量破壊を行う質量兵器も禁じている国際次元法“イスカリオテ条約”による制限があるため、政府の主導では行いにくいという事情がある。スクライア一族のように考古学を専門とした一団や、時空管理局から許可を取った小さな団体が行うことが基本であり、独自に調査や発掘を行うことは管理局法で禁じられている。
そういうわけで、ロストロギアの発掘に携わるには、半分くらい嘱託魔導師扱いとなる団体に所属しなければならない。ロストロギアに関連して問題が起こった際には時空管理局がその対処にあたり、それに対して文句を言わないことが条件となる。自分が発掘したロストロギアが暴走し、それを管理局員が破壊しても損害賠償を求めることはできないというわけで、それに同意することを条件にロストロギアの発掘は許可されるのだ。
当然、8歳になったばかりの少女だけでロストロギアの発掘が許可されるはずもないので、俺も偽造戸籍を用意して26歳の成人男性トール・テスタロッサということになっている。立場的にはプレシアの甥ということになるが、この辺をわざわざ調べるような物好きはいないだろう。
時には小規模ながら調査団の一員として、時には違法すれすれだが3人だけであちこちの遺跡を巡って“ジュエルシード”を探してきたわけだが、今回ようやく有力な手がかりが出てきたというわけだ。
「………最後の最後でチャンスが来たということね」
「だな、アンタの身体はそろそろ限界、アリシアにしても似たようなもんだ。このチャンスを逃したらもう後はない」
フェイトもおそらくそれを察している。プレシアの身体の具体的な情報までは知らせていないが、使い魔であるリニスが2か月前に死んだ時点で、主であるプレシアの死期が近いことを予想するのは容易い。フェイトにもアルフがいるから、その辺のことは下手したら俺より詳しいだろう。
「ジュエルシード、何としても手に入れなさい。方法は問わないわ」
「了解だ。ところで俺達が見つけた場合は問題ないが、他の奴等が見つけた場合はどうする? 交渉か、奪うか、奪うとしたらそれは全部か、もしくは一部か」
俺達がジュエルシードを発見できたとしても、それをそのまま自分のものにできるわけではない。一度は管理局の遺失物管理部に預け、そのロストロギアがどういうものかを調べてもらい、個人の所有を許可していいものかどうかの判断を仰ぐ必要がある。危険物と判断された場合はロストロギアの管理を全て管理局に委ねることを代償に、“ロストロギアの発見、回収に尽力した”ということで多額の報奨金が支払われ、この金を目当てにトレジャーハンターとして活動する発掘屋も多かったりする。 その手続きをしなければ完全に違法だ。
だがしかし、俺達がジュエルシードを手にいれ、アリシアの蘇生に成功し、その後で管理局に届ければいい話ではある。何か事件でも起きない限りは俺達がロストロギアを所持していることが管理局にばれることもないので、ジュエルシードの扱いに失敗して次元震でも引き起こさない限りは、その辺の事情をそれほど気にすることはないのだが。
「………交渉で何とかなればいいけれど、ジュエルシードのロストロギアとしての重要性を考えれば民間組織に委ねられるとは思えないわ」
「時空管理局か聖王教会か、スクライア一族なら時空管理局だな。遺失物管理部の管轄なのは間違いないが、どんなに交渉しても貸出までは半年はかかるだろう」
遺失物管理部機動三課とは繋がりが深いが、他の部署が担当になる可能性もあるし、やはり時間がネックだ。というか、解析結果は多分民間への貸出不可能の劇物扱いだろう。
「それじゃあ間に合わない。かといって、奪ったりして管理局に追われるのも危険が大きいわね。もし次元航行部隊にでも目をつけられたら研究の時間がなくなってしまうし、何よりもフェイトに危険が及ぶわ」
相手が地上部隊ならレジアス・ゲイズ少将に手を回してもらえばある程度なら何とかなるが、問題は本局の次元航行部隊だ。各艦艇ごとに半ば独立した権限を持って事件にあたるから、裏から手を回すのは案外難しい。
「直接的な強奪は最終手段だな、それの一歩手前の状態でサンプルを奪うのが最善ってとこか」
「一歩手前?」
「幸運なことにミネルヴァ文明遺跡には傀儡兵の存在が確認されている。だからこそ強力なロストロギアが眠っている可能性が高いんだが、傀儡兵ならこっちの十八番だろ」
フェイトがジュエルシード探索を始めた頃から、時の庭園も少し変化した。駆動炉を“クラーケン”の試作型に改良し、さらには地上本部が手がけている大型魔導砲“ブリュンヒルト”の試作型も設置することとなったのだ。
大型兵器に属するものをクラナガンの市街地で開発するわけにもいかず、他にも騒音問題や物資の補給の問題などから、開発の場所の確保には地上本部も頭を痛めていたらしい。時の庭園は辺境のアルトセイムにあり、なおかつ補給体制は整えやすく、SSランクに届く高ランク魔導師がいるため、非常時の対応も可能ということで打ってつけの立地条件であった。さらに駆動炉の設計者であるプレシアの所有物であることもあって、割とあっさりと開発地として提供することが決定した。
フェイト達が常に過ごしているなら流石に断っただろうが、あいつらが次元世界を飛び回っている以上ここに残るのはプレシアと傀儡兵のみ、地上部隊の研究員や作業員がうろついていても困ることはない。違法研究を行っている場所は、フェイトも知らない(リニスは死ぬまで知らなかった)地下深くで、巧妙に隠蔽しているからまず見つからない。試作型の建設はとりあえず終了したので今は何人かがいるだけだが、最も多い時は200人近くがいたとか。
大型魔導砲“ブリュンヒルト”は地上の戦力を消費しないことを目的に設計されたので、その防衛には魔力炉“クラーケン”の動力を利用した傀儡兵が当たることになる。つまり、俺とプレシアの二人だけでも問題なく運用できるかどうかが“ブリュンヒルト”の真価といえるので、その他の作業員は今はいない。というか、地上部隊も忙しいので人材に余裕がないのだ。
残る問題は未だに発射実験が出来ていないことで、万が一の事故を考えると実験は次元空間か宇宙空間で行うこととなる。大型の駆動炉を搭載しているので暴走が起きれば辺り一帯を焦土と化す可能性すら否定できず、本局の高官が地上本部が“ブリュンヒルト”を開発することに難色を示すのは、暴走した際に地上本部の力で対処できるかどうかが不安だという部分が大きい。
しかし、本局の次元航行艦が射撃訓練を行う演習場を地上本部が借りるには多額の予算がかかるそうで、その辺は難航している。本局が“ブリュンヒルト”の開発に協力的ならまだしも、結構反目している部分が大きいだけに演習場を借りられる可能性は低い。むしろ、適当な無人世界で許可を取り、そこで実験を行うという案が現実味を帯びている。時の庭園は次元航行能力を備えているので、地上本部が許可さえもぎ取ってくれればいつでも出発は可能だ。
まあそういう事情もあって、俺達が傀儡兵を扱うことで怪しまれるところは微塵もない。既に管理局の共同研究者として使用権限を得ている身なのだ。プレシアが正規の職員として5年間ほど働いた経歴や、リニスが本局遺失物管理部機動三課で働いた経歴がここにきて効いて来ている。
ついでにいえば時の庭園の傀儡兵はプレシアの私物で、万年予算不足の地上本部に格安でレンタルしている関係だ。場所代も格安なので地上本部からはかなり感謝されている、これもギブアンドテイクの一環だ。特に、無駄な出費をできる限り削って、陸士の残業手当などの人件費に充てたいと願っているゲイズ少将からは頭を下げて感謝の意を伝えられたくらいだ。
「つまり、私達の傀儡兵にミネルヴァ文明遺跡を襲撃させて、どさくさに紛れてジュエルシードをちょろまかそうってわけね」
「なーに、少し借りるだけだ」
「典型的な犯罪者の発想だわ」
「主犯が何を言うか。んで、一個か二個ジュエルシードを手に入れたらとりあえず引き揚げて、アンタはジュエルシードの特性を把握、俺達は残りのジュエルシードを可能な限り穏便に手に入れるための下準備をするってとこでどうかね」
現状における最善はこれだろう、本局に目を付けられるのは今の段階ではよろしくない。地上本部が庇うにも限度がある。
フェイトの将来も考えると近いうちに本局とも接触した方がいいのは確かだが、それはアリシアの問題が片付く目処が立ってからでよいだろう。プロジェクトFATEのこともある。こっちは広域次元犯罪者が基になった研究だけに管轄は本局よりだ、地上本部だけでは対処しきれない。
「分かった、その方向で行きましょう」
「んじゃ、俺は発掘現場に戻る。ジュエルシードの解析の準備は任せるぜ、一応言っとくが無理はすんな」
「善処するわ」
新歴65年 3月 第29管理世界 ミネルヴァ文明遺跡
「バルディッシュ!」
『Arc Saber』
バルディッシュから発射された圧縮魔力の光刃が遺跡を守る傀儡兵を両断する。
「邪魔だよ!」
さらに、追い討ちをかけるようにアルフが切りこみ、傀儡兵をバリアごと容赦なく拳で吹き飛ばす。
そして俺は――――
「クロスファイア!」
誘導弾を四つ程展開し、収束させて傀儡兵に突撃させるが、
ボシュ、ブシュー
「ぶっ!」
「ぶほっ!」
俺の尻から出るカートリッジと噴出ガスによってフェイトとアルフが噴き出してしまうという欠点がある。
「トール! お願いだから戦わないで!」
「あたしらを笑い死にさせる気かい!」
うーむ、せっかく戦闘能力がAランク相当まで向上した戦闘用の肉体が完成したんだが、いかんせん尻からカートリッジを出すという欠点が残る。
背中や腹に突起物でも作ってそこから外部に出すという案もあるにはあるが、その場合どうしても余分な機構を追加することになるので性能が落ちる。魔法人形は人体を基にしているから、口から入ったものは尻から出るのは基本だ、重力は偉大なり。
口から入って胃のあたりでカートリッジを接続して魔力を取り出す、それによってリンカーコアを励起させて魔法を使用。魔法の反動だとか制御だとかその辺の問題はその他の内臓器官に当たる部分に搭載した機構で処理して、用済みのカートリッジは小腸に当たる部分で処理した後、冷却用のガスとかと共に尻から排出。
実に無駄がなく理にかなったシステムなのだが、視覚的に大問題がある。どう見ても魔法を使うたびにう○こと屁が噴き出ているようにしか見えないのだ。普段は排出用の穴を閉じているが、魔法発動時にそれが表面に出てくるのもかなりやばい。
「んなこといってもなあ、傀儡兵はAランク相当だぞ、このシステムじゃなきゃ生き延びるにも問題が出てくる」
この排出システムを完備した肉体でも魔導師としての性能はAランクが限界、しかも魔法を使うたびにクズカートリッジを大量に食べなきゃいけないから燃費は決して良くない。クズカートリッジがただ同然で手に入るのが救いだが、それでも通常のAランク魔導師よりも制約が多いのは確かだ。
製品版のカートリッジを使えば高度な魔法も使えるが、リンカーコアとの連結が完全とはいえないため、魔力が大きくなるとリンカーコアは大丈夫でもそれと繋がる回路に悪影響が出る。つまり、燃料タンクの容量はでかくてもそこに燃料を送るチューブが頑丈じゃないので製品版のカートリッジを使用すると弾けてしまうのだ。
過ぎたるは及ばざるがごとしとはよくいったもので、この身体にはクズカートリッジくらいで丁度いい。リンカーコアに一度に送れる魔力量は減るが、そこは個数を揃えることで補える。とはいってもそのリンカーコアも魔力値に換算すれば最高出力は20万程度といったところで平均は8万程度、フェイトの134万に比べれば圧倒的に低い数値だ。
「だったら後ろに下がってな! あたしとフェイトだけで十分だよ!」
ちなみにアルフはAAランク相当で平均魔力値は43万、流石はフェイトの使い魔だけある。
「それは却下、お前らは確かに強いが罠に対する警戒心が弱いし、それに対する固有スキルを持っているわけでもないからダメ」
俺が現在使用している身体は例の男が提供したものではなく、それを自力で再現できるよう調整されたオリジナルのものだ。あの機体なら、AAランクの魔法も使えるが、今度は”トール”本体の演算性能の問題で、やはりAランクが限界だ。
ジャミングや結界など、そういった相手の魔法活動を阻害するものを見抜く効果を持つIS『バンダ―スナッチ』を非常に再現出来てはいないが、それでも魔力を数値化したり、設置された魔法装置の反応を見抜く程度はできるので重宝している。
こいつにかかれば罠とかは大抵看破出来るし、変身魔法なんかもほぼ一発で見抜けるから遺跡調査には持って来いの技能だ。最も、あくまで“隠すものを見抜く”技能であって探索能力が優れているわけではないというのがポイントだ。
早い話、封鎖結界の内部で何が起きているかは全て見抜くことは出来るが、結界を破って中に入ることは出来ない。その辺はフェイトとアルフの領域ということで役割分担は出来ており、俺の役目は後方での支援活動と罠の突破、後は治療と補助といったところだ。俺の魔法はクズカートリッジがある限り使えるので、安全な場所にクズカートリッジを大量に用意しておけば、ほぼ恒久的に治療魔法を使用し続けることが出来る。
俺の身体は一度に大量の魔力を消費する高ランク魔法は使えないが、治療魔法のように長時間かけ続けることで効果を発揮し、なおかつ出力自体は大きくない魔法との相性は抜群だ。だから補助的な魔法に関しては滅法強い。フェイトは134万の魔力を有するが魔法を使えば当然疲れる、しかし俺は動力源さえ確保すれば疲れることはない、演算性能の限界はあるが。
「でも、逆に笑って危険な気がする」
フェイトの言うことも一理ある。笑い転げているところに攻撃を喰らえばひとたまりもないだろう。
「分かった、出来る限りお前達の視界に入らないように戦うから」
「そうしな、って、新しいお客さんのお出ましかい」
アルフの言葉に反対側の出口を見ると8体ばかりの傀儡兵が湧き出してきた。
「アルフ! サンダーレイジを使うから時間稼ぎお願い!」
「OK! トール、フェイトの補助は任せた!」
「りょーかい」
アルフがチェーンバインドで傀儡兵を5体ばかり拘束しつつ残りの傀儡兵に突っ込む。
隣のフェイトが詠唱に入ったのを確認すると、俺も補助に入る。
インテリジェントデバイス“トール”は魔力の制御に特化したデバイスである。そしてそれが動かす魔法人形の真価とは他の魔導師と同調し、魔法の発動の補助を行える点にある。
まあ、今日会ったばかりの魔導師にやれと言われても無理があるが、バルディッシュは俺の設計図も参考に作られた後発機だ。そして共に雷撃系の魔法を制御するのに最適な調整がなされている。バルディッシュのフェイトとの相性は最高であり、演算性能も文句ないがサンダーレイジのような広域攻撃魔法を使用すればどうしても術者に相応の負担はかかる。
だがしかし、俺がバルディッシュと同調しその負荷を引き受けることにより、フェイトは通常の誘導弾を放つ程度の負荷で広域攻撃魔法や砲撃魔法を発動できる。原理的にはユニゾンデバイスに近い。ストレージデバイスやアームドデバイスで魔法を発動する術者を、内部から補助し負荷を減らすのがユニゾンデバイスだが、俺はそれを外部からの同調によって行えるように改造されているユニゾン風インテリジェントデバイス、当然改造したのはプレシアだ。
それを100%無駄なく行えるのはバルディッシュのみだが、相手がインテリジェントデバイスならば70%~80%くらいのロスで補助を行うことが出来る。これらの機能は“トール”本体が備えている機能なので、使用する肉体には依存しない。
現状で俺が使用する肉体は主に3種類、通常の人間と同程度の性能しかなく魔法も使えない一般型、魔法は使えないが身体能力に特化しており鋼の身体を持つ近接格闘型、そして現在使用している魔法の発動が可能な魔法戦闘型で、近接格闘型以外の顔や体形は全て同じである。
一般型は身体の操作に割くリソースを最小限にできるので、デバイスとしての演算性能をフルに発揮できるというのが利点であり、研究開発時やフェイトの遊び相手をする時には常にこれを使用している。燃費が一番いい。
近接格闘型はフェイトと模擬戦をやる時くらいしか使用する機会はない。より実戦に向いた機体を開発するためのデータ採取に動かす場合もあるが、表情が硬くコミュニケーション能力に欠けるためあまり使わない。燃費もあまり良くはない 。これはほとんど傀儡兵といっていい。
そして、現在使用している魔法戦闘型。魔法を発動可能なように調整がなされており、例の男が送ってきた素体を用いた『バンダ―スナッチ』に近づけるように開発した。あれはメインボディであるが同時に目指すべき完成形でもあるという特異な存在になっている。魔法戦闘型の燃費は良くなってきたがまだまだ問題点は多い。
『バンダ―スナッチ』は基が広域次元犯罪者の試作品であり、高ランク魔導師の死体とリンカーコアを用いて作る屍兵器ともいえるものなので、思いっきり管理局法に引っ掛かる。外見こそ一般型や魔法戦闘型と同じになるように改造したので回収されて精密検査でもされない限り屍兵器とはばれないだろうが、リスクを考えるとあまり頻繁には使えない。
「サンダーレイジ!」
通常の半分の速度でチャージを完了したフェイトが広域攻撃魔法を解き放つ、使い魔であるアルフとは声を交わすまでもなくタイミングを合わせられるので完璧な連携が出来あがる。
「さっすが、Aランク相当の傀儡兵8体を一撃か」
「リニスに鍛えてもらったから」
フェイトの顔はちょっと誇らしげだ、確かに師匠が良かったというのは間違いない。
「んー、それにしても解せないな」
「何がだい?」
いつの間にか戻ってきてたアルフに尋ねられる。
「いやさ、何でこの区画に傀儡兵がいたかってことだよ。こいつらは外部から魔力供給がなければ戦えない筈だが、ここは遺跡の中枢からかなり離れている。その割には数が多すぎる気がしてな」
中枢部分にはスクライア一族を始めとした本職の連中がいるから俺たちみたいなアマチュアがいるのは端っこだ。
今撃破したのが8体だが、この他にも7体ほど撃破している。どうでもいい区画を防衛するには多すぎる気もするし、そもそもこの位置でエネルギーの確保が出来るものだろうか、という疑問が残る。
傀儡兵はAランク相当の戦闘力を誇るので、やはり一体当たり10万以上のエネルギー供給が必要になる。その上、戦闘行為で減少する魔力を補給し続けなければならない。それだけのエネルギーを確保するには強力な駆動炉が必要になるはずだが――――
「確かに、言われてみりゃそうだね。これまで潜ってきた遺跡でもこういう奴らは大抵心臓部みたいな地点を中心に配置されてたはず……」
「じゃあ、この傀儡兵達は何かを守っている………待って」
どうやらフェイトも同じ結論に至ったか。
「ああ、守っているものが高密度のエネルギー結晶体なら、それのエネルギーを傀儡兵の動力源に転用できるかもしれない。俺には魔力の流れまで読み取ることは出来ないが、少なくとも傀儡兵達の魔力を総合すれば1000万以上の魔力は恒久的に必要になるな」
魔力というのは遠隔で他者に渡そうとすると効率が非常に悪くなる。一般的な伝達率は25%以下とされており、15体以上の傀儡兵を維持するならやはりそれだけの魔力は必須だ。
魔導師同士で魔力を受け渡そうとするなら、やはり直接的な供給が基本になる。魔力の塊を飛ばして吸収するような真似が出来ればレアスキル扱いされるのは間違いない。理論的には相手の砲撃魔法を吸収することすら可能となるのだから。
「じゃあ、こいつらが守っている先にあるのは――――」
「――――ジュエルシード」
運良く当たりを引けたのか、はたまた見当違いで外れなのか。
「このまま進むぞ、危険はこの際無視して他の発掘チームに追いつかれないことを第一に行く」
「うん」
「了解!」
そして、さらに15体ばかりの傀儡兵をぶっ壊して進んだ先にそれはあった。
「ジュエルシード………」
呆然としたような声をフェイトが上げる、これまで散々探して来たのだから無理もない。
「やっと……見つけたよ」
こちらは感極まったようでアルフ、フェイトと似たり寄ったりな感想のようだ。
「シリアルナンバーは…………6番か、とにかくこれで研究の第一歩にはなりそうだな、フェイト、とっととバルディッシュに格納しちまえ」
俺は特に感慨もないのでフェイトに指示する。デバイスとはいついかなる時も冷静であるべき。
「あ、うん」
フェイトが封印用の術式を展開しバルディッシュの中にジュエルシードを封入する。
「これにて目的達成と、他のジュエルシードを回収する必要もあるかもしれんが結構難しいだろうから一旦戻るぞ」
目的を果たした以上はここに留まる意味もない。ジュエルシードの解析のことや今後の予定を決定するためにもここは一旦戻った方がいい。俺達がどう動くかの判断は俺がすることになっているので、フェイトもアルフもすぐに撤退準備に取り掛かる、このあたりも慣れたものだ。
「ところでトール、他のチームでジュエルシードを見つけたところはあるのかい?」
「んー、スクライア一族のところだけだが、既に大半のジュエルシードを発掘したって話を聞いている。やっぱアマチュアじゃあ本職には敵わんなあ」
ぶっちゃけ一つ見つかっただけでも僥倖だろう。おかげで傀儡兵を用いた強奪作戦を展開する必要がなくなった。
地上本部との兼ね合いを考えても、やはり荒事が少ないに越したことはない。
「とにかく戻るぞ、プレシアが首を長くして待ってる」
「トール、これで、母さんは助かるかな?」
「さあてね、そればっかりは断言できんなあ」
「あんた、そういう時は嘘でも助かるといいなよ」
「そうもいかん、俺は騙すが嘘はつかんからな」
いつも通りの雑談をしながらミネルヴァ文明遺跡を一旦後にする。今後の対策も考えればすぐ戻ってくるだろうが、一先ずはフェイトとアルフを休ませるとしよう。
最も、俺にはジュエルシード研究のサポートが待っているから休む暇はなさそうだ。リニスがいない今、アイツの分も果たさないといけないからな。
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説明多すぎるだろ自分・・・・・・
しかし今は物語の土台を作ってるときなので、仕方ないといえば仕方ないんですが・・・・・・
話が進めば、もっとスムーズに読めるようになる、はず・・・