TVアニメ版「リリカルなのは」のオリ主ものです。主人公は男子高校生。オリ主に原作知識あり。
最強ではありません。ハーレムではありません。アンチ・ヘイトではありません。
一期スタートで、A'sまでが完結済みです。
・ポケモンネタが多いです。苦手な人は注意。
・全体的に軽いノリ。(ギャグ寄り)
・設定はTVアニメ版、またはアニメから受けた印象を重視。アニメで出てこない設定は無視されがち。
・一期はオリ主フルボッコ、A'sは激戦、StSはオリ主無双の予定。
・テンプレオリ主ものでありながらテンプレオリ主を皮肉ったネタ満載ですが、オリ主愛ゆえ。
・作者にとらハ知識なし。とらハ3との矛盾、違和感は多々あると思います。
・A's編は不評。読み飛ばすか読み流すのが吉かも。
◆ プロローグ
その時、そのことに気が付いた者はいなかった。
地球付近を航行していた次元船がプレシア・テスタロッサの魔法攻撃を受け、運搬中だったジュエルシードが紛失した。
物語の開幕のベルが鳴る、まさにその瞬間、その世界は産声を上げた。
「原作」の流れから分岐し、よく似た別の流れを歩む世界となった。
特別なことではない。世界は常に無限に分岐しながら時を進めていくのだから。
別の世界を知る者でない限り、その差異は認識できないのだから。
海鳴市。
都会でありながら自然が多く、都会の喧騒よりも静かな潮騒が似合う街。
海のように青い宝石が、この世界でもやはりこの街を選んだのは偶然なのだろうか。
海鳴市に散らばったジュエルシード、21個。
その散らばり方には何の要因もない。誰の意図もない。完全なる偶然。
ともあれ、それが「原作」とは異なる分布になったことに、まだ誰も気が付いていなかった。
21個のジュエルシードの内、7つはまとまって一箇所に落ちていた。
高校から一人帰宅途中だった少年が、道の外れの草群に散らばるそれらを偶然発見した。内心ではガラス細工か何かだろうなと思いつつも、口では「やべえ宝石がたくさん落ちてる!売ったら億万長者だっ」などと言いながら拾い上げ、吐息と手でいい加減に土埃を落とすとカバンのポケットに押し込んだ。
少年は一人暮らし。元は両親と住んでいたのだが、両親は彼の高校受験合格を知るやいなや、仕事と趣味を兼ねて海外に旅立った。中学の卒業式には一度帰ってきたが、高校の入学式の日を待たずすぐにまた出立してしまった。
入学式も終わり、今日が二度目の授業日だった。
まだ部活にも入っていないとはいえ、慣れない高校生活は肉体的にも精神的にも疲労する。その状態での自炊や片付けはひどく面倒なのだが、そのことさえ目をつぶれば、ごくごく快適な一人暮らしを満喫していた。
まだ緊張の塊である高校から見慣れた自分の家に帰り着いて、知らず安堵の息。
玄関の扉を開ければそこはもう自分の領域。両親と住んでいたときは手狭に感じた一軒家も、一人で暮らすには広すぎるくらいだ。
忘れずに施錠すると、手洗いうがい、脱衣所で靴下を脱ぐと風呂場に行って赤いシールのハンドルをひねる。しばらく待って温水が出るようになったら、足だけを濯いで風呂場を去る。公共料金は両親の口座から引き落とされることを利用した、悪意はないが一人暮らしの学生にしては贅沢な行為だ。
制服から部屋着に着替えて自分の部屋に戻る頃には、宝石のことなどすっかり忘れてしまっていた。
通学カバンを部屋の入口に放り捨て、ゲーム機の電源を入れて、そのままテレビゲームに熱中しはじめた。
「トドメだーーー!! うっしゃ、14周目クリア!」
何度も撃破したラスボスといえど最高難易度ならさすがに手強い。思わずガッツポーズも出ようというもの。
「あー、やっぱラハガは何度やっても神ゲーだわ」
ゲームソフトのパッケージを見て呟く。
それなりに有名な会社のそれなりに売れたソフトだ。発売は三年前。当初はなんの興味もなかったのだが、高校受験終了後に中古ゲーム店でなんとなくパッケージを眺めて回っているときに発見。パッケージ裏のゲーム画面の写真に惹かれ、そのままレジに向かうことになった。
そしてハマった。
文字通り何かの穴に嵌ったんじゃないかというくらい熱中した。そしてその熱はゲームをクリアしてからも治まることはなかった。ちょうどその時期に一人暮らしというゲームやり放題生活が始まってしまったため自重することができなかったのだ。
結果、彼は春休みの生活の大半をこのゲームに捧げてきた。
スタッフロールの横でイベントシーンのダイジェスト映像が流されている。
プレイヤーは昼は通常の学生生活を送り、夜は「世界の裏側」に紛れ込む。景色は昼に生活していた都会と同じだが、人がほとんど存在しない不思議な世界。
夜の世界で出会う者は主人公を含め、皆空を飛ぶことができる。都会の夜空を自由自在に飛び回り、シームレスに戦闘やらイベントやらをこなす、というゲームだ。
基本はスケートボードのような板に乗って夜空を飛ぶが、飛行方法はいろいろあって条件を満たせば翼や箒、マントなんかでも飛ぶことが可能。低空飛行が基本で、無人の道路の上や、ビルの谷間を縫うように飛ぶ。
彼を最も惹きつけたのがその空を飛ぶ感覚。好みの問題かもしれないが、既存のゲームに比べると遥かにリアルで、コントローラーを操作しているだけで、実際に都会の夜空を滑空しているかのような気分になれた。夜中に電気を消してプレイすると、夜風まで感じられるようにさえ錯覚した。
プレイを重ねてもその感覚は磨耗することなく、むしろ操作に慣れることで強くなった。
あばたも笑くぼと言うように贔屓目もあるのだろうが、ストーリーやシステム、キャラクターなども好みだった。グラフィックスに限ってだけは次世代機のソフトには完敗だったが、まだ次世代機を購入していない彼にはあまり関係ない。
「続編出ないかなー。食費削ってハードごと買うのに」
クリアデータをセーブ。夕飯のため米を炊きはじめようと思い立ち腰を上げる。
向かったドアの近くには、奇しくも、通学カバンが置かれていた。
「あーあ、もしなんか一つ願いが叶うなら、」
だからカバンの近くで彼がそう呟いたことは、
そう思ったことは、
「このゲームの世界に行きたいよなぁ、切実に」
全くの偶然だった。
小森白太と印字された通学カバンが、青白い光を放ち始める――