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No.19866の一覧
[0] ダークサイド・クロニクル(オリ主転生? なのは×スパロボOG)[マスク](2010/12/24 21:59)
[1] [マスク](2010/06/27 02:54)
[2] [マスク](2010/06/27 02:55)
[3] [マスク](2010/06/27 02:56)
[4] [マスク](2010/06/27 02:56)
[5] [マスク](2010/06/27 02:58)
[6] 6・5[マスク](2010/06/27 02:59)
[7] [マスク](2010/06/27 02:59)
[8] [マスク](2010/06/27 03:00)
[9] 番外[マスク](2010/06/27 03:03)
[10] [マスク](2010/06/28 23:47)
[11] 10[マスク](2010/07/14 00:51)
[12] 11[マスク](2010/08/22 06:24)
[13] 12[マスク](2010/08/28 20:18)
[14] 13[マスク](2010/09/11 22:46)
[15] 14[マスク](2010/10/10 00:41)
[16] 15[マスク](2010/10/16 19:49)
[17] 幕間[マスク](2010/11/14 23:55)
[18] 16[マスク](2010/12/24 21:59)
[19] 17[マスク](2010/12/27 18:15)
[20] 18[マスク](2011/01/16 11:39)
[21] 19[マスク](2011/02/04 22:29)
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[28] 26[マスク](2012/08/06 14:10)
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[19866] 幕間
Name: マスク◆e89a293b ID:4d041d49 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/14 23:55
新暦40年 オルセア帝国 首都 バラルの園





オルセア帝国は建国から1年も経っていない。
この世界統一帝国は恐ろしい程の速さで建国された国家だ。
何をもって“建国”と述べるかは国家によってその概念や考え方は大分異なるが、少なくとも今まで数千年続いたオルセアの歴史の中では
最も独立宣言から、完全な独立までの速度が速かっただろう。独立戦争の開始から終戦まで所要時間は僅か数時間なのだから。



そして独立を認なかった国家は完全に滅んだ。その残党もほとんど滅ぼされ、終わったのだ。
何千年と言う歴史を持つ2つの大国の歴史はほんの一晩であっという間に幕を下ろされ、その全てがオルセアから強制的に消去されたのだ。



この帝国に属する帝国臣民、またはバラルの民とも呼ばれる者らの総数は現時点で帝国が把握している限りでは大体1億10万人程度。
かつては10億を超える人数が居たオルセアはその総数を劇的に減らしていた。
あの終焉と再生の夜で亡くなった者は死体が残らず完全に消えたか、もしくは死体をマリアージュに作り変えられたか。
存在の痕跡も残さず消えうせるのと、死体さえも利用される、果たしてどっちが幸せなのだろうか。




戸籍、インフラなども今は急ピッチで再整備されている最中である。後は食料の生産のための農場やらも。
特に首都バラルの園から遠く離れた辺境は未だに酷いモノがある。インフラが徹底的に崩壊し食料や水、そのほとんどが流通していない状態だ。
何せ、あの独立戦争という名の破壊の暴風によって1度全て崩壊してしまい、今はそれを作り直している真っ最中。


何十万という数の機動兵器が文句一つ言わずあらゆる施設を建造していく様は辺境のバラルの民にとって、正に神の救いに見えたであろう。
しかし、その街を再建している蟲やエゼキエルなどが街を崩壊させた張本人だと思うと、何ともいえない気持ちになる者もいたはずだ。


どうしようもない、と判断された場所に住まう者は速やかに首都バラルの園に用意された住居に移転させられる。
眼を真っ赤にさせた彼らは長年住んだ自らの家を躊躇無く捨て去り、新たな神の膝元で暮らせる事にむせび泣きつつ引越しをするのだ。



少しやりすぎた。とは、ヒドラの言である。最も、あの人の皮を被った化け物が反省などはするはずもない。
彼は独立戦争の悲惨な光景をたっぷりと収録した動画を暇な時には気まぐれで視聴し、フフフフと不気味な笑いを漏らして楽しむのが日課のようだ。
あの無機質な仮面の内側を知っている者はルアフ以外には存在しない。そのルアフとて、アレの正確な正体など知らないし、知りたくも無い。



誰が夜の闇よりも深い“本当の闇”の本質を探ろうと思いたがる? そんなことは何処かの狂気に取り付かれた教授がやっていればいい。
少なくともルアフはやりたくない。ただ判るのはあの存在は僕に力をくれた。僕を認めてくれた。それだけでいい。
あの3つの紅い眼を持った“ナニカ”には例えガンエデンを使ったとしても勝てる気がしないのも事実。




この国家は国教にバラル教を取り入れ、その教えの元全てのバラルの民は生活している。
バラル教の教祖にして建国者であるヒドラは魔法としか言いようの無い技術の数々を用いてオルセアを立て直しつつある。


霊帝たるルアフの仕事は簡単だ。霊帝宮から指示を出すだけでよい。
彼が着々と完成しつつある霊帝宮の玉座の間から命令を空間モニターを操作し
オルセア中に存在する無数の機動兵器に複雑に暗号化されたシグナルを送るだけで、その意は即座に実行されるのだ。
彼が現時点で支配している兵器に搭載された武器の全てはこのオルセア帝国の隅々までカバーしていると言っても過言ではない。



バラル教の者は無条件で彼に従うが、まだそうでない者がいるのも事実。



例えば、つい数日前も一つ命令を彼は下していた。
ヒドラがオルセアを離れて僅か2日後、一つの報告が入ったのだ。



未だに古い宗教を信仰し、バラル教を受け入れない者らの集落があると。
いや、集落というよりは難民キャンプ、もしくはスラムと言ってもいい。数千人単位の結構大きなキャンプだ。


正直な話、これだけならばまだいい。ルアフ自身バラル教には興味などないし、民の前だけではこの宗教の神の役を演じていればよい。
最も、彼がどんな事をしようが、完全に『洗礼』を受けたバラルの民らがルアフに疑いを抱くことなどありえないが、この集落は違った。
洗礼どころか、この集落の者はバラルの教えそのものを信じていない。
故、彼らはルアフに対して抗議的な活動を繰り返していた。最初は無視していたルアフであったが、遂に我慢の限界を迎えた。



それに、彼は今は権力を少し使って見たいと思ってもいた。
霊帝といわれ、事実上の帝国の支配者でもある彼は実際の所、彼自身が命令を出し、兵器らを操ったことはなかったのだ。
先のオルセア開放戦線を崩壊させた戦いも出撃命令を下したのはヒドラだ。






霊帝宮玉座の間。


豪奢という言葉を体現したようにありとあらゆる宝石類や金で装飾を施された玉座が、部屋の奥にある他の場所よりも1メートルほど高い特別なスペースに置いてあり
エゼキエル程度なら一個小隊入れても随分と余裕がありそうなもはやホールと言っても過言ではない大きさの部屋には
オルセア中から集められた美術品や絵画などが飾られており、それら放つ歴史の重みという名のオーラは部屋全体の空気を神秘的なものへと変えていた。


キラキラと銀色に輝く天井や床は特別に強化されたチタニウムで形作られており、この部屋、更に言うならばこの建物全体がどれほど頑強な作りであるかもわかる。




「で、君はこの光景を見て、どう思う?」




バラルの塔やインペリアル・パレスとも呼ばれる巨大な軍事センター兼ね居城である城の玉座に腰掛けたルアフが、空間モニターを見ながら気だるげに声を出した。
モニターに映るは無数のマリアージュが彼の気分を損ねた集落を焼き払っていく様。そして殺された人間には核を植え込み、亡者の軍勢は更に増殖を続ける。
まさしく蹂躙という言葉が相応しい光景だ。オルセア帝国の秩序がどのようなものなのか、はっきりとわかる映像。


現在彼が住んでいるこの霊帝宮は巨大な塔と大聖堂と壮大なピラミッドをあわせ、それらの要素を均等に割ったような姿をしており、街の者らには寺院と呼ぶ者もいる。



全周10キロ、全高5キロ。何万という数のマリアージュが警備し、ヒドラの提供する恐ろしいまでに高度な技術で幾重にも守られた要塞。
それがこのバラルの塔だ。予定ではこの塔を中心にして、蜘蛛の巣のように網目状に市街地を作る予定である。


まぁ、まだまだ完成にはそれなりの時間が掛かりそうだが。現時点でよくて5割完成と言ったところだ。
塔の地下施設の建造やらオルセア中にナイトメア・クリスタルの採掘施設を作るやら、ヒュードラが気まぐれでどんどん注文を増やすから
圧倒的な物量を誇る蟲でさえも手が足りていないというのが現状だ。最近ヒュードラ自身も完成予定が1年か2年程度ずれてもいいか、などと思い始めている。



それでも既に電力などは地下に設置された大型の量子波動エンジンなどから供給されており、夜でも建物全体が光性パネルやサーチライトなどの焼けるような光によって
イルミネーションに照らされ、決して暗くなることはない。眠らない建物なのだ。正にオルセア帝国の権力の象徴といえよう。


ここに住めるのはバラル教が発足して以来、最も最初期にヒドラに付き従い協力をした初期の信者達や、ヒドラに多額の出費をした金持ちなどである。
彼らにも約束どおりヒドラは栄光を与えた。何不自由ない完璧な生活を。富も金も、そして心理的な満足さえも彼は与えたのだ。



話しかけられた少女もまた豪華な衣服に身を包み込まれていた。
まだまだ年齢は10にも満たなく、幼い外見ではあるが、少女が持つ気品、高貴さはどこぞの国の貴族と言われても納得できるものである。
オレンジ色鮮やかな色彩の髪にエメラルドの様な綺麗な瞳、もしも彼女が笑えば万人の心を動かす事が出来ただろうが、今の彼女の顔に浮かぶのは深い悲しみだ。
翡翠色の眼には怒りと悲しみと自責の感情が渦を巻いており、それら全てが玉座に座っているルアフに向けられている。



「だんまりかい? つまらないなぁ。ヒドラからの話によると、君はこういう光景が好きなんでしょ? 邪知暴虐の王様?」


「…………」



少女──イクスヴェリアは何も言わない。答えの代わりに無言でルアフを睨みつけるだけ。
気に入らない眼だ。ルアフは素直にそう思った。自分の質問に答えない事もそうだが、何より彼女はこの霊帝である自分を前にして怯えさえもしない。
それどころか、この生体兵器の女の自分を見る眼には幾らかの哀れみさえも混じっているように思える。



「……答えろよ。それとも僕の声が聞こえないのかな?」



ヒドラに「イクスには手を出さないでおいてくださいね。アレは私のモノですから」と言われてなければ
彼は自然の衝動に任せてこの生意気極まりない少女の頭蓋骨の中身を念道力でシェイクしていたかもしれない。
それだけ、彼にとって自分の命令に従わない、自分の意のままに動かない存在というのは目障り極まりないのだ。


暫くそうしてルアフが彼女を睨む様に眺めていると、ようやく彼女は口を開き、ぞっとするような冷たい声で言った。
とても少女が出しているとは思えない声。何百と言う年月を生き、戦乱を体験した者のみが出せる重みだ。


「かわいそうな人ですね、貴方は。私が見た限り、貴方はあの男の操り人形にしか見えません。いつか貴方も飽きられて捨てられるでしょう」


「…………」



今度はルアフが沈黙する番であった。玉座の腰掛けを割れるほどの強さで握り締め、無言で念動力を飛ばす。
イクスのほんの数センチ手前、強化チタニウムで作られた頑強な床がグシャという音と共に呆気なく潰れた。

ほんの数センチずれていたら、イクスの頭部はスイカ割りのスイカの様に粉砕されていたかもしれない。


しかし彼女は恐れなど欠片も感じていない、何処か諦めさえも混ざった声で続けた。


「……私を殺すならどうぞご自由に。最も、私は戦闘能力はともかく、生命力だけは強いですから、結構時間が掛かると思いますよ?」



一瞬その言葉を聞いて、本気でこの冥王を冥界の底にまで叩き落したくなったルアフであったが、彼女に視線を向けた瞬間、そんな考えは吹き飛んだ。



眼だ。薄暗い部屋の奥、イクスから5メートルほど後ろ、窓からの光も余り届かない薄暗い部屋の隅。そこに眼が浮かんでいた。周囲に夜よりも深い絶対的な闇を撒きながら。
闇で形作られた不定形なソレに三つの紅い眼が浮かび上がり、その眼の下にはハロウィン南瓜の様なコミカルな笑みを浮かべた白い亀裂が走っている。
そんな根源的恐怖を煽る眼が、ルアフをじぃっと咎めるように見つめていたのだ。



そして、ソレがルアフにだけ判る声で言った。
酷く罅割れた、深い男の声で。影が囁くように告げたのだ。





─── だ め で す よ と 私 は い っ た ぞ ? ────






「………ふん」



不満気に鼻を鳴らし、判っていると言わんばかりに手をヒラヒラと振る。
同時に脳内で計画されていたイクスに対する残忍で冷酷な処刑計画を霧散させ、完全に消去。
一瞬眼を逸らして、もう一度眼があった場所を見たら、既に眼は居なくなっていた。



「それでは、私はこれで失礼させてもらいます。御機嫌よう。霊帝陛下」


嫌味ったらしくイクスが慇懃に一礼し、カツカツと足音を鳴らして玉座の間から退室していく。
最後に扉が音を立てて閉まるまで、ルアフは恨めしそうにイクスを見ていた。


部屋に一人残った彼がぼそっと呟く。もうどうしもうないという気持ちを込めて。


「そんなこと知っているさ、だけど、お前は僕に何が出来たっていうんだ……?」


母に殺され、気が付いたら霊帝。オルセア帝国の支配者。
最後は自分の意思で選んだとは言え、あの状況で拒絶など出来るものか。


だが、そんなことは今はどうでもいい。あんな女の言葉に惑わされてたまるか。
今大事なのはオルセア帝国を整備し、安定させることだ。軍備を拡大し、自分に従うバラルの民の生活を高度に提供してやり、揺るがない国家の基盤を作る。
それが必要なことだ。ヒドラはそういっていた。
福祉に教育に軍事に経済、正直面倒くさいことばかりだが、自分の意思一つで世界が動く様は面白く、やりごたえのあるゲームだ。



パチンと指を鳴らし、三次元に投影された空間モニターの画像を切り替える。凄惨な光景を映していたモニターの画面が
完全な円──ウロボロスをモチーフにした円と、その中に内包された捻れた『∞』という記号──メビウスを映し出す。
これはオルセアの国旗とも言える紋章だ。バラル教そのものを表す場合もある。


女性の声で『オルセア・アーカイヴへようこそ。必要なサービスをどうぞ』と空間モニターから声が出る。
次いでモニターが複数ルアフの眼前に展開され、それぞれに映った情報を彼に提供。
オルセアの世界地図。各地での民らの動き。新たに建造中の採掘施設の完成率。
他にも各地のインフラの整備率などもモニターには詳細な説明文と共に映し出されている。



「さて、今度は……」



モニターを指で叩き、希望の画面を呼び出す。
即ち、施設やユニットの製造画面を。
幾つかのユニットの名前の横に紅い『×』という印が付いているが、これはまだ今のオルセア帝国では造れないユニットの事だ。



主に今作れないユニットは『フーレ級戦艦』『ヘルモーズ級マザーシップ』『ネビーイーム』などと言った、とてつもなく巨大な建造物の数々。
後数年は待たないと、こういったモノは作れない。ユニット名の隣にヒドラのコメント『まだ駄目ですよ♪』などと書かれているのが眼に止まる。



更に何度かルアフが画面を指で叩く。数回画面が切り替わり、直ぐに望みの情報が映される。


「……これ、かな? マリアージュを増やしておけとも言ってたしね。後は改造……?」



当たり前の事だが、マリアージュとて無限に居るわけではない。
マリアージュを精製するコアそのものは量産に成功しているものの、マリアージュを作成するに当たって、もう一つ大事な存在がある。


即ち、死体だ。マリアージュは死体とイクスの精製するコアによって生み出される生物兵器なのだ。
死体が無限にあれば文字通りマリアージュは無限に生産できるが、逆に言えば死体がなければマリアージュは作れない。
今何億体マリアージュを生み出そうとも、あれらは使い捨ての兵士であり、当然その消耗も激しい。
安定した生産がなければ、やがてその数が0になる可能性だってある。



故にルアフはオルセアを出て行く前のヒドラにアドバイスをされていた。マリアージュを生産する施設を作りなさい、と。



「これだ……“クローニング施設 安定したクローン製造にはデータ蒐集のためかなりの時間が掛かります”……何だ、クローンって?」



ルアフは元は念道力を持っていた事意外はただの少年だった。それもかなり貧しい分類の。
そんな彼がこの言葉の意味を知らなくても仕方が無い事と言える。

そんな主の様子を察したのか、画面が淡々とした声音で説明を開始。


──『簡単に言ってしまえば、コピーです。コレは生命をコピーする施設。同じ存在が何千と生み出される施設』──



「へぇ……まるで魔法だね。確かにそれなら、死体がなくてもマリアージュを増やせそうだ」


脳裏に一瞬だけ、自分と同じ顔をしたクローンが何十という数で歩いている様子が浮かんだルアフが嫌悪に顔を歪める。
自分は自分だけだ。今ここで霊帝として君臨している僕は僕だけだ。そう自分に言い聞かせる。


面白い。
同時に彼はそう思った。
こんな魔法染みた行為が可能な施設を作るか否か、その全てが自分の掌の上にあると思うと……興奮する。




「かなりの時間が掛かるだけの価値はあるかい?」


フフフと笑いながら画面に問いかけた。もう答えなど判りきっているというのに。



『はい。決して失望はさせません、陛下』


ルアフの笑みが更に濃くなり、影の様に暗く陰惨な笑みを浮かべた。
あぁ、楽しい。やはり権力を使うのは楽しい。故に彼は酷くなめらかな声で上機嫌に言う。



「任せるよ。さっきの言葉、裏切るなよ?」



『はい。霊帝陛下』



躊躇いなく、彼は空間モニターを押し、開発を許可した。
数秒後、この建造指令は複雑に暗号化され、オルセア中の『蟲』達に速やかに送信を開始された。
























バラルの塔の廊下。幾つもの鮮やかな光に包まれた白亜の廊下を二人の人間が歩いていた。
一人はオレンジ色の髪の少女『冥王』イクスヴェリア。マリアージュ生産のためにヒドラが手に入れた存在。
もう一人は彼女の世話をするようにヒドラから任されているトレディア・グラーゼという少年。
外見上の年齢などはイクスと大して変わらないというのに、その紅い眼には大人顔負けの自信が浮かんでいるのが特徴的な少年。


今そんな二人はイクスの部屋に向かって歩いていた。
ポツリとトレディアが口を開き、沈黙を破る。



「陛下にああいう口を聞くのは、あんまり得策じゃないと思うよ? イクス」



「……私は私の思ったことを言ったまでです。それに彼が怒るのは彼も薄々それに気が付いているからでしょう」



「だけど、よく頭を潰されなかったもんだよ……本当に運が良かったとしかいえない」



トレディアの頭をよぎるのはオルセア開放戦線の指導者達の末路。
捕まり、拘束されてルアフの眼前に突き出された彼らがどれほどおぞましい最後を遂げたことか。
人間を減圧室に生身で放り込むなど正気の沙汰じゃない。狂っている、そうとしかいえない。
人間が全身から血を噴出し、口と肛門から小腸や胃などの内臓を垂れ流す光景は思わずトレディア自身も吐きかけてしまった。


アレは……少々刺激が強すぎる。ヒドラは随分と楽し気であったが。
鼻歌交じりに命乞いを右から左へ流して、ご機嫌の様子で減圧のスイッチを押していた。


自分はその場でその光景を見ていたが、もしかすると
あの男達と一緒にあの減圧室に密閉され、腸を吐き散らす者の中に自分も居たかと思うと背筋を冷たいモノが駆け抜ける。


元はトレディアはオルセア開放戦線から帝国に送られた一種のスパイだった。
だが、彼は寝返った。ヒドラに。ヒドラは彼の願いを叶える代わりに、彼はオルセア解放戦線の本拠地の情報を流したのだ。
しかし、彼は後悔などしていない。かつての自分の上司が世にも惨たらしい死に方をしても関係ない。



そうこうしている内に二人は目的の場所に到着する。即ち、イクスの部屋へ。
良質な木材で作られた歴史を感じさせる扉。それを開くと、何処かの高級リゾートホテルのような、柔らかい光に包まれた部屋が二人の眼に映る。


ありとあらゆる最新鋭の家電が揃い、ベッドはふかふかのキングサイズ。
部屋の大きさは一人どころか、十人でも余裕で生活できそうな程に広い。


ヒドラは確かに約束を守っていた。最高級の部屋を確かに用意していた。ついでに世話係も。


「…………」



トトト、と、無言でイクスがベッドまで走りより、その上にとてんと倒れる。
ヒドラは嫌いだが、この部屋は何故だか落ち着く。素直にいい部屋だと認めている。



「少し寝ます。出て行って下さい。それと、コレ、洗っておいて下さい……それと、いつもありがとうございます」



起き上がり、枕を抱きしめながら無表情で言う。
ぽいっとトレディアに向けて靴下などを投げ渡し、直ぐにベッドの中にもぐりこんでしまう。
ヒドラの手により機能不全は完璧に治った彼女であるが、やはり今でも時々猛烈に睡魔に襲われる事があるらしい。
まぁ、1000年間近くも眠っていれば、そういった症状が出てもおかしくないのだろう。トレディアはそう思っている。




「はい。冥王陛下……よい夢を」



小さく会釈し、靴下を手に持ち、トレディアは部屋の灯りを落とした。
そしてなるべく音を立てない様に部屋から出て行った。




まぁ、仕えるなら霊帝陛下よりも、この小さな冥王の方がマシだな、と彼は思った。




















ミッドチルダ 首都クラナガン 新暦40年







「本当にありがとうございます。貴方達がいたから私はここまで戦ってこれた」



プレシア・テスタロッサは深々と眼の前の男達に感謝の言葉と共に頭を下げた。艶やかな黒い髪が揺れ、辺りに色気を撒き散らす。
彼女の言葉にはありとあらゆる感謝。ありとあらゆる希望。そして、隠し切れない感動があった。
ここはミットチルダの首都クラナガン。その街にあるとあるホテルの一室である。
無事に裁判で無罪を勝ち取り、自由になったプレシアはまず世話になったコーディ執務官とグレアム補佐官に礼を述べるために二人を呼んで、持て成したのだ。




「いや、俺らは最後は何も出来なかった。最終的にはあのヒュー・ラーとか言う奴が全部持って行ってしまったからな」



バツが悪そうにコーディがそっぽを向きつつ言う。
事実、彼の言うとおり世論を大きく動かす情報を世界にばら撒き、プレシアの運命を決めたのはヒュー・ラーという顔も声もわからない謎の人物だ。
彼らの情報網によると、この人物を捕まえるのを既に動画サイトの運営者やら、サイバー犯罪対策部は半ば諦めているという話らしい。
余りにも凄すぎて、尻尾どころから、存在の痕跡さえもが掴めないらしい。全く持って笑い話になりもしない。


勿論二人やサイバー犯罪対策部はプレシアにこのヒュー・ラーという存在に心当たりがあるか? と聞いたが、答えは「知らない」だそうな。
まあ、二人は執務官ではあるが、サイバー犯罪対策部でもないし、何よりあの動画が原因で彼女が無実になった手前、複雑な心境だ。



「いえ、それでも貴方が私を立ち直らせてくれた。貴方がいなければ、私は今頃は狂ったまま自殺してしまっていたわ」



プレシアがコーディの手を取り、ギュッと強く握り締める。そして彼女はもう一度、彼に深く頭を下げた。
コーディの顔が小さく歪んだ。あぁ、全く堅物め。グレアムがやれやれと溜め息を吐く。



──テスタロッサの馬鹿が欲に眼を駆られて炉を暴走させちまった、あのヒュードラさ。



こんな事を過去に言ってしまった。
何も知らなかったとはいえ、今の輝かしいプレシアの顔を見ていると、こんなふざけた事を抜かした自分への自己嫌悪で気がどうにかなりそうだ。
それと同時に、純粋に人に感謝されることへの喜びが彼の中を駆け巡る。二つの感情はコーディの中で混ざり合い、やがては涙という形であふれ出た。


ゴシゴシと片手で涙を拭き、必死に何とか声を絞り出す。



「……いや……その、幸せに、生きてくださいね」


フフフとプレシアがそんな執務官を見て小さく微笑んだ。
もしも最初に彼に出会わなければ、この人と自分は結婚してたかも。そんな乙女的な事を思いながら。



「はい。ありがとうございます。コーディ・ハラオウンさん、ギル・グレアムさん」



既に精子バンク機構とのコンタクトも済ませ、夫の精子の手配も完全に済ませた。
金の問題も一切無い。大魔導師としての貯蓄と、企業が彼女をかつて雇うために支払った金、それと賠償金。
この全てを持っているプレシアにとって、精神バンクを利用した体外受精の費用など雀の涙程度だ。
かつてアリシアが存命中に言った一言。それが彼女を突き動かしていた。



『私ね! 妹が欲しい!!』



当時は言われて本当に焦ったが、現実味を帯びてきた今の状況ではそんなさり気ない一言でさえ思い出すだけでも涙が出る。



──アリシア。貴女はもう居ないけど、天国でお母さんを見ていてね。私、頑張って生きるわ。



かつての狂気染みた顔も今は穏やかになり、新たな人生を踏み出すべくプレシアは前に進む。
その顔にあるのは、希望とアリシアを忘れず、生きていこうという決意であった。



小さく、小さく、誰にも気付かれること無く、そんな彼女の決意を見下し足蹴にする様な嘲笑いの声が一瞬だけ、微かに部屋に響いた。






あとがき





皆さんこんにちわ。チラシの裏から来ました。更新はまったりとした速度になりますが、よろしくお願いします。






今回は幕間でした。第二部からようやく原作キャラがぽつぽつ出すことが出来そうです。


それと何故か書いているとイクス×トレディアになっていくから困る。
ヒドラ? アレにヒロインはいらんでしょうw


後はプレシアが主役の座を奪おうとしたり……中々プロット通りには進まないものです。


では皆様、次回更新をゆっくりとお待ちください。




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