※今回は番外中の番外、超番外編です
「佐天さん遅いなあ」
初春飾利はそう言って時計を見る。彼女は今、駅前の噴水で友人の佐天涙子と待ち合わせをしていた。
待ち合わせの時間は１０時、それに対し今の時刻は９時５９分。しかし相手の姿は全く見えない。
「後、１０秒、９、８、７……」
友人の遅刻は確定だと思いながら何となく小声でカウントダウンを口ずさむ。そして１０時まで残りは３秒となる。
「３、２、１「はあ、間に合った！！」うっ、うわあ！？」
秒単位まで正確な電波時計が１０時丁度をさした瞬間、目の前に突然、現れた佐天に初春は思わず腰を抜かしてしまう。そう、彼女は本当に突如、何も無い空間から現れたのだ。そのことで二人の元に視線が集まる。しかし、直ぐにその視線は離れて行く。彼女達が住むこの場所、学園都市では今のような現象は格別に珍しいものではないからだ。脳の開発により超能力を使える者が大勢いるこの街では突然、虚空から現れること、つまりはテレポートを使えるものもそれなりの数が居る。故に、周囲の人間は佐天はその内の一人だと思い多少の物珍しさだけで直ぐに興味を失ったのである。
だが彼等の認識は間違いであった。彼女は超能力者では無い。レベル０、つまり学園の基準で言えば、超能力を使えないと烙印を押された無能力者だったである。
「ごめんごめん、驚かしちゃった？ 実は寝坊しちゃってね。家から飛んできたんだ」
「あっ、いえ、大丈夫です。けど、凄いですね。佐天さんの家からここまでテレポートするなんて、最低でもレベル３、いえ４並じゃないですか？」
転んでしまった初春に佐天は謝りながら手を差し伸べ、それを掴んで彼女は立ちあがる。そして、彼女が見せたテレポートに驚いたと言った声を漏らした。その言葉に褒められた彼女は自慢気に胸を張る。
「でしょう？ なんだったら、初春も覚える？ あたしは何時でも教えたげるよ」
「うっ、遠慮しときます……」
気前のいいように見える佐天の言葉に初春は冷や汗を流し、後ろに下がる。彼女とて興味が無い訳では無い。使えるようになるものなら、使えるようになりたいと思う。しかし、以前にそう言った時に佐天が習得のために行ったと言うトレーニング内容を聞いて以来、二度とその言葉を口に出すことはなかった。何故ならそれは運動の苦手な彼女には、いや、そうでなくても地獄としか思えないハードな内容だったからである。
「そう？ まっ、気が向いたら何時でも言ってよ」
「あっ、はい」
とりあえず肯定の意思を返し、そこで彼女はふと思いつき尋ねた。レベル０である彼女がこのような力を得ることができた理由、それを与えてくれた人物について。
「そう言えば、前から聞いて見たかったんですけど。佐天さんにそれを教えてくれた人ってどういう人だったんですか？」
「えっ、先生のこと？ うーん、そうね、いい人だったけど。何て言うか言動とかかなり変な人だったかな」
答えながら、佐天は昔のことを思いだす。今から２年前、彼女が小学５年生の時、能力開発の結果からレベル０であると彼女は認定された。そして落ち込む彼女の前に、一人の男が現れたのである。丁度、今さっき、彼女が初春の前に現れたように。
そしてその男は驚いたことに大人だった。能力開発はまだ成長が完了していない子供しか受けられない。そして超能力開発の歴史はまだ新しい。つまり、大人の能力者と言うのは本来居ない筈なのだ。にもかかわらず、その男は明らかに大人の姿でありながら、何もないところから突然現れて見せたのだ。
それを不思議に思った佐天が男に尋ねると、男は学園都市のことも脳開発もことも知らず、その力は別の方法で身につけたのだと答えたのである。信じられない気持ちで彼女が質問を続けると、更に驚いくことに男は学園の能力開発では理論上あり得ないとされる多重能力者だったである。
遠く離れた距離を一瞬で移動するテレポート能力
空を生身で自由に飛ぶ飛行能力
エネルギーを生み出し物体を破壊する能力
人の記憶を読み取るサイコメトリー
弱った人間を回復させるヒーリング
生物を探査するサーチ能力
自分以外のもののエネルギーを集約する能力
肉体強化
変身能力
そして限定的ではあるが、他の生物と融合する能力までも男は持ち合わせていると語ったのだ。そのことに驚き、そして能力開発以外の手段でその力を得たと言うことに佐天は希望を持ち、男に頼んだ。その力を教えて欲しいと。すると男はあっさりとそれを承諾し、彼女は弟子入りを果たした。
とはいえ、その後は楽なものではなかった。初春が拒絶したように、彼のトレーニング内容はハードを通り越した目茶苦茶なレベルで、彼女は弟子入りしたことをかなり後悔することになったが、しかし途中で諦めることだけはしなかった。それは彼女の超能力への憧れと、たまたま彼女が弟子入りした日に耳にした同い年の超能力者の少女の優越感の籠った台詞が意地を張らせたのと、男が目茶苦茶な性格ながらも優しさと温かみのある……っと言うか無邪気で投げ出すのに罪悪感を感じる人物であったからであった。
そして１年半の訓練の結果、彼女は見事テレポート能力とサーチ能力の２つを習得するに至ったのである。
「何て言うか凄い人だったんですねえ。ところでその先生の名前は何て言うんですか？」
話しを聞いた初春が最後に佐天の師匠の名前を尋ねる。ちなみに佐天と初春は中学に入ってからの友人であり、佐天の師匠だった男は彼女が中学に入る頃、急にふらっと居なくなってしまったため、初春には彼と直接の面識は無かい。
そして佐天が質問に答えようとした時だった。
「奇遇だな」
強面な男が佐天の後ろから近づき、彼女に話しかけ、彼女の言葉を遮る。振り返り、その顔を見た彼女は露骨に嫌そうな顔を浮かべる。
「あっ、もう、スキルアウトには入らないって言ってるでしょ？」
「分かっている。無理に誘ったりはしない。入ってくれればありがたいのは確かだがな」
佐天が追い払うように言うと大人しく去っていく男。すると佐天の横で初春が驚いた顔を浮かべて居た。そして彼女は尋ねる。
「あの人、駒場利徳ですよね？」
「あっ、知ってるんだ。まあ、初春は風紀委員なんだから当たり前か」
スキルアウト、平たく言えばレベル０の不良集団のことであるが、その中で不良達を纏めあげ、罪を犯すどころか逆に不当な暴力を働く者達から弱者を守る集団がある。そのリーダーが駒場利徳であった。能力者の学生による治安風委員である彼女達、風紀委員からすると非合法な警備組織である彼等は色々と扱いに困る存在であり、当然のリーダーである彼の顔と名前は知られているのである。
「佐天さん知り合いなんですか？」
「うーん、実は前にスカウトされちゃったのよね。勿論、断ったけど」
「ス、スカウト！？」
返ってきた言葉に驚く初春。しかし少し考えて見て納得する。スキルアウトはレベル０の集団だ。そして佐天は学園の区分ではレベル０であるが超能力者に匹敵する力を持っている。
「佐天さん、学園１２強の一人ですもんね」
「周りが勝手に言ってるだけだけどね。それにあたしは超能力が使ってみたかっただけで、別に強くなりたかった訳じゃないんだけど……」
ぐだっとした感じに体を前に垂らし、嫌そうな顔で溜息をつく佐天。学園１２強とは超能力者の最高峰レベル５の７人と、レベル０にも関わらずそれに匹敵する戦闘力を持つと噂される５人を合わせた１２人に対し、何時の間に言われるようになった呼び名であった。ちなみに彼女以外の４人には、先程の駒場利徳とその組織のナンバー２とナンバー３の二人、そして『最速』『反逆する』『そげぶ（その幻想をぶち壊す）』が口癖の特別な右腕を持ち、幼い頃、ある出会いをしたことにより生来の突きぬけた気質が更に鋭角化してしまった一人の少年が入る。
「あ、そう言えば、話し戻りますけど、先生の名前教えてもらえます？」
「あ、そうね。変わった名前でね。中国の御伽話……って、あれって御伽話しって言うのかな？ まっ、いいか、とにかくあの有名な話しの主人公と同じ名前でね……」
そこで一拍置き、そして彼女は言った。
「『孫悟空』って言うの」
（後書き）
遠く離れた距離を一瞬で移動するテレポート能力→瞬間移動
空を生身で自由に飛ぶ飛行能力→武空術
エネルギーを生み出し物体を破壊する能力→かめはめは等
人の記憶を読み取るサイコメトリー→ナメック星到着時にクリリンの記憶を読み取り
弱った人間を回復させるヒーリング→フリーザに気を分けたあれ
生物を探査するサーチ能力→気を探る
自分以外のもののエネルギーを集約する能力→元気玉
肉体強化→界王拳
変身能力→スーパーサイヤ人１～３（４）
他の生物と融合する能力→フュージョン
強さの方はみんな知ってるけど、改めて考えるとそれ以外も悟空って結構チートだなと思いついて書いた話し。当麻に影響を与えた人も含めて達人じゃないような気がするけど番外編なので許してください。