どうしてこうなった?
「ナオ君」
「主」
「「どっち?」」
俺に突き刺さる二対の視線。
その手にはそれぞれレイジングハートとルシフェリオン。
「あ、あっち!」
俺は明後日の方を指して叫ぶ。
そして逃げ……
「バインド!?」
あっさり捕縛。
「ナオ君がはっきりさせないのがいけないんだよ」
「ええ、主は少しその辺の配慮が欠けてますね」
「あはははは、そうなんだ……」
笑いしかでないよ。
もうやだ、こんな生活。
そもそもの始まりはなのはさまが撃墜され病院から退院してしばらく経った日のことだった。
「ナオ君、私に魔法を教えて!」
「三時間で俺を追い抜いたことを忘れるんじゃねえですよあんたって人は!?」
今でも俺に深いダメージがあるんだぞ、あの一件。
「ええ、主は忙しいのであなたに教えることはありません」
と、奥からひょっこりと顔を出す星光さん。
ちょ、おま、顔出すなよ!?
「ナオ君。その子、誰?」
自分と同じ顔の少女。
元々なのはさまがモデルとなって生まれた存在だからそりゃ似るに決まってる。
性格は似てない……いや、過激な辺りが似ているか。
「星光の殲滅者といいます。彼の守護騎士、みたいなものだと思っていただいて構いません」
「そうなんだ」
とりあえず納得はしてないが、引っ込めてくれた。
こいつに関しては突っ込まれると不味過ぎるんだよ。
存在そのものがグレーを通り越してブラック過ぎる。
「そうじゃなくて、ナオ君に教えて欲しいのは魔法そのものじゃなくてどちらかというと心構えとかそんな感じの」
「なんでまた?」
「入院とかリハビリとかしている時に思ったの、魔法を覚えてみんなの役に立って、うかれっちゃって基礎を疎かにしちゃったな、って。だから原点に戻って」
そう言って。
「もう一度なのはに魔法を教えてください」
頭を下げた。
「えっ、ちょ、やめっ!? なのはさま、頭を上げて!?」
むしろ慌てたのは俺。
えっ、なんで俺なのはさまに頭を下げさせてるの?
「むしろそれならなおさら主に教わるのではなく訓練校でもやり直してくるべきですね」
冷静に突っ込む星光さん。
「私はナオ君がいいの!」
そう言うなのはさまだが、俺はちょっと考える。
なのはさまが言うように心構えとかならさすがに教えることはできる。
そしてこれはなのはさまの何かあったらとりあえず砲撃という困った悪癖を治すチャンスでは!?
ついでになのは“さま”脱出の機会もあるかも!?
これは、受けるべきだ!!
「よし、それなら俺が教えよう」
「うん!」
「…………」
そう、これがいけなかったんだ……
「あの、星光さん。何でそんなにくっ付いているん?」
とりあえずちゃぶ台を囲んで簡単に教えていたのだが、何故か星光さんがくっ付いて来た。
「いえ、別に」
さらっと流された。
いや、流しちゃ駄目だから。
「むぅ……」
なのは様の視線が痛いです。
「なのはさま、なのはさま」
「どうしたのナオ君?」
やたら近くから聞こえる声。
「そんな引っ付いて書き辛くない?」
ぴったりと横にくっ付いているなのは様。一応教えるに当たってノートに纏めているが、絶対書き辛い。
「ううん、全然」
そう言って再びノートに書き始める。
「…………」
とりあえず反対側の星光さんの視線が痛かった。
「ナオ君、今日はシュークリーム持ってきたの!」
そう言ったなのはさまの手には袋が。
「お母さんに教えてもらいながら作ったの」
さすがは喫茶店の娘。
普通においしかった、おいしかったけど……
「む……」
味わえませんでした。
「主、クッキーを作ってみたので味見してもらえませんか?」
「ふえっ!?」
星光さんの言葉に驚くなのはさま。
俺も驚いた。
「えっ、あれお前料理できたの?」
だって一回も料理してるの見たことないし。
「初めてですが、多分大丈夫です」
そつなくこなせるタイプだからな、うん。お約束なガリッ、なんて音がするクッキーじゃないだろ。
星光さんはクッキーの一つを取り、
「あ~ん」
と俺の口の前に。
「にゃ!?」
えっ、あれ何でこんな展開になってるの?
あ~んなんて初めてだよ?
「主?」
「ああ、うん……」
俺はクッキーを食べる。
あれ……おかしいな、何か隣からの視線が痛すぎて味が分からないや…………
「今日はお疲れ様でした」
今日の授業も終わり、なのはさまを労わったのは星光さん。
ん、あれ?
なのはさまもそんな星光さんの様子に首を傾げる。
「では、また明日」
「う、うん……」
きっといがみ合うことの愚かさに気付いたんだ。
「では主、帰りましょう。一緒に」
「!!」
全然気づいちゃいねぇ!?
煽ってる煽ってる!?
俺はぷるぷると震えているなのはさまを呆然と見ながら星光さんに連れられていった……
「あれ、なのはさまその荷物は?」
「今日は泊まるの!」
なのはの発言に噴く。
こいつら、どんどんエスカレートしてやがる!?
「主の迷惑を考えてください」
今日だけは頑張れ星光さん!
「ナオ君、いいよね!?」
そう言ったなのはさまだが、俺の視界の隅ではレイジングハートが点滅していた。
脅してるよ、このお方!?
「あはははははは、しょうがないなぁ……はぁ」
ごめん、屈した。
「主、背中を流します」
なのはさまが泊まった日、風呂に入っていると乱入してきたのは星光さん。
「……なななななな!!」
「日本語でお願いします」
日本語だよ!? そ、そうじゃなくて!!
「なななななに入ってきてるの!?」
「だから背中を流しに」
「一度もそんなことしたことないよね!?」
というかそんなキャラじゃないよね、君ぃ!?
「だめーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「なのはさままで!?」
えっ、なんなのこの状況!?
確変!?
確変かッ!!?
何があった俺の人生!?
「ナオ君の背中は私が流すの!」
「ではどうぞ」
あっさり引いた星光さん。
……あれ?
「ふぇ?」
二人首を傾げる。
そんな俺たちに星光さんは爆弾を放り投げた。
「私は前を洗いますので」
俺は風呂場から逃げ出した。
「レイジングハート」
「ルシフェリオン」
「ちょ、ストップ、デバイス起動させないで!?」
それぞれのデバイスがその手に。
「そろそろ決着を付けましょう」
「お互いの得意分野で、だね」
=砲撃。
「私の方が先にナオ君の側にいたの!」
あっ、ディバインバスター。
「主の側にいるのが従者の務めです!」
ブラストファイアー。
「この泥棒猫!」
「元々あなたのものではありません!」
二つの閃光。
「スターライト」「ルシフェリオン」
「「ブレイカーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」
「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
二人の収束砲撃魔法にトラウマが!!トラウマががががががががががが……………………
この後さらにエスカレートしていくが、俺が倒れたことにより二人の争いは沈静化した、したのだが……
ヴィヴィオの所為で再燃し、さらに過激な戦いになるのだが、それはまた別の話。
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この頃からなのはさんはぐるっ、とキャラが変わっていくことになります