「いやね、もう予想付いてたよ、うん」
偽フェイトに偽はやて。
本人達の言葉通りなら闇の書の残滓で作られた存在。
性格は違うが、姿が似通ったそんな二人と会えば嫌でも思う。
「…………」
黒いバリアジャケットに身を包み、その手には細部は違うもののレイジングハートのようなデバイス。
偽なのはさま。
どうみても砲撃が飛んできます、ありがとうございました。
「無理無理ッ、なのはさまは無理! 魔力でも何でもあげますから砲撃はご勘弁を!!」
頑張ってマスターしたジャンピング土下座を今こそ!
練習中をすずかに見られ、可哀想なものを見るような目で見られたけどさっ!!
「ええっと……」
ちょっと困った、というか視線を逸らしながら偽なのはさま。
「私は他のマテリアルたちと違い、あなたの魔力を蒐集するつもりはありません」
「へっ、そうなの?」
「はい」
「砲撃は?」
「とりあえずは」
とりあえず、とりあえずと言ったかこの偽なのはさま……!
「ナオト・タカサキ、あなたには闇の書の主になっていただきたいのです」
「……………………………………は?」
あまりの発言に俺は一瞬呆然とした。
えっ、闇の書?
「えーと、ワンモアプリーズ?」
「だからあなたを、闇の書の主に」
「いやいやいやいやすでにはやてがいるでしょ!?」
最後の夜天の主とか何とか呼ばれてたじゃん。確か。
「はい、ですが今回はそのこととはあまり関係ありません」
「えっ、あれ?」
「順に説明します。闇の書、いえこの場合は夜天の書と言い換えますが、それが喪失したのはいいですか?」
リインフォースが還ったあの雪の日のことか。
アリシアがプレシアさんと和解した日でもあるからよく覚えている。
「その際、全てが失われたわけではなく、残滓となってこの世界に残りました」
「ふんふん」
「その残滓が残っていたデータを用いて造り出したのが、私たちマテリアルと呼ばれる存在です」
確かになのはさまもフェイトも闇の書に蒐集されたし、はやてに至っては主だ。
あるいはデータが残っていてもおかしくない。
なのはさまの偽物を作るのは俺的にどうかと思うけど。
主に俺のトラウマ的意味で。
「私たちの目的は魔力を蒐集し、闇の書を再生させることです」
「だよなぁ……」
そもそも再生プログラムとか転生プログラムやら面倒なもの山積みな代物だし。
これも再生プログラムの一環か何かといったところか?
「あれ、で何で俺が闇の書の主になってほしいとかはやてが関係ないとかそんな話に?」
「守護騎士……ヴォルケンリッターは完全に切り離され、闇の書自体も管制人格は無く、一度失われてます。ですのであなたを新たに主にすることは難しくはありません」
だからはやては関係ない、と。
でも、ぶっちゃけそっちはどうでもよかった。
「じゃあ何で俺が闇の書の主になってほしいかは?」
「あなたはその奥底では強い魔力を望み、あまたの女性を侍らせる欲を持ち、それにさきほどのマテリアルとの戦いでも卑怯なことを平気でする狡猾さも持っています」
「ないから! 最後はまぁ、とにかくどっからそんな話が出てきたわけ!?」
確かに不意打ちとか平気でやって勝ったけど!
他のはどこから来た。
「それに、あの魔導、エターナルフォースブリザードと言いましたか。一炊の夢とはいえあれほどの魔導、想像しえるものではありません」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
取り込まれた時!?
取り込まれた時なんだな!?
確かに、ハーレムで最強オリ主とか望んじゃったけどさ!!
「あぁ、エターナルフォースブリザードは相手は必ず死ぬという魔法……非殺傷設定をも無視した魔法を平気で使う残忍さもありましたね」
「ぎゃふうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
傷が、傷口が開く!!
なんて凶悪な精神攻撃をするんだ!?
「強い力を望み、深い欲を持ち、狡猾さや残忍さを兼ね備えた者、魔力こそ少なくともいままでの闇の書の主の中でこれほどの者はいませんでした」
「もうやめて、俺のライフはゼロよッ!!」
そんなの違う!
俺じゃないから!!
「それ明らかに勘違いだから!」
マテリアル作った責任者誰だよ!?
アホの子うっかり勘違いとか闇の書再生させる気ないだろ!!
「あなたなら闇の書を、その破壊の魔導を十全に使うと私は思ってます」
「もうやめてよっ、この勘違い娘ッ!!」
なんで俺が闇の書復活させて暴れないといけないんだよ。
というかオチは海鳴海上大決戦の防衛プログラムが俺に置き換わるだけだろ。
つまりイコール……
「砲撃はやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「……頭は大丈夫ですか?」
頭……!?
頭の心配された……!?
「そ、そんな男を主にしたいの君は!?」
「むしろ狂人な方が闇の書の主に相応しいですね」
……あれ?
何で好感度が上がるのおかしくない?
「どうしても俺を闇の書の主にしたいの?」
「なってくれますか?」
「やだよそんな死亡フラグ!」
なのはさまに殺されるよ!
「どうしてもですか?」
「どうしてもだ!」
偽なのはさまは小さくため息を吐く。
「あまりこういった手は使いたくなかったのですが……」
「砲撃!? 砲撃なんだな!?」
とりあえずと言ったのは忘れてないぞ、大丈夫!
なのはさまの砲撃を何度も受けてきたんだ、ちょっとくらいだいじょうぶぶぶぶぶぶ……
「…………その予定はなかったのですが、撃たれたいみたいですので、ルシフェリオン」
そう言って彼女はデバイスを構える。
ん、あれ撃つ気なかった?
「ちょ、ストップ、撃たなくていい、撃たなくていいから!?」
「いえ、せっかくですのであなたの杖となる我が魔導をお見せしましょう……!」
「ノーセンキュゥーーーーーーーーーーーー!!」
撃たれました。
「えー、撃たれ損した気もしないけど何だっけ?」
「……復活が早いですね」
「よくボッコボコにされてれば早くもなるよド畜生ッ!!」
痛みは慣れるって聞いたけど砲撃なんか慣れたくないよ!
「あなたが闇の書の主になる話ですが、なってくれませんか?」
「ならん!」
「仕方ありません」
だから俺はそんな見え見えの死亡フラグなんか踏まないと言っているのに。
彼女は少しだけ躊躇いを見せて、言った。
「闇の書の主になってください。だいすきっ」
「…………は?」
ごめん、耳がおかしくなったかも。
今、何か理解不能な単語が混じってた。
「えっと、ごめんもう一回」
「闇の書の主になってください。だいすきっ」
「空耳じゃなかったーーーー!!」
あれか、闇の書に取り込まれた時の!?
「えっ、なんで?」
「あなたは闇の書に取り込まれた際にあらゆる女性にこの言葉を言わせてました。なのでこう言われるのに弱いはず。だいすきっ」
ごめん、さすがにタイミングは読んでほしい。
真面目にギャグやられても見てるほうが辛いだけだから……!
俺は彼女の肩を叩く。
「もう、いいんだ……そんな無茶しないで……」
「では、闇の書の主になって……!」
「ああ、なってやるから無茶するな……」
俺は涙が出そうになるのを堪える。
う、ん……あれ?
「ついなるって言っちまったーーーーーーー!!」
俺から同情心を引き出させるなんて、恐るべし……
「ではさっそく他の魔導師から魔力の蒐集に行きましょう」
「ストップ、ストップ!! ノーカウントだ、ノーカウントッ!!」
俺は叫ぶ。
「言ったことを早速なかったことにするのはさすがですが、今回は譲れません」
だから何でそこで好感度上がるの!?
よーし、待て俺。
何とか死亡フラグを避けてこいつを納得させるんだ。
そうすればとりあえずOKだ。
「いいか、今は闇の書事件が終わって緊張が解けきってないんだ、こういうのは時期が必要なんだ」
「……雌伏の時ということですね」
納得してくれたけど、何でだろう釈然としない。
とりあえずこの問題を何事もなく永久に先送りさせないと……!
でもまぁ、せっかくだから。
「なぁ、“だいすきっ”ってもう一回言ってくれ」
「…………」
冷たい視線。い、いいだろ別に!?
「だいすきっ」
ま、まぁ、悪い子じゃないし、後々矯正すれば大丈夫だろ。
ごめん、全部面倒投げた。
ちなみに割と早く勘違いは解けたがその代わりよく砲撃を喰らうようになった。
マテリアルSのSはドSのSらしい。
***
マテリアルの娘、星光の殲滅者との出会い。
勘違いが酷かった……