「というか、管理局的に重婚ってOKなの?」
俺は机に物理的に縛られて書類を書きながら素朴な疑問をぶつける。
「それはもちろん管理世界では基本一夫一妻なんだけど」
俺の前にはフェイト。
縄を解いて欲しいと言ったが、困った顔で断られてしまった。
さて、今回のお題は重婚、つまり多夫、あるいは多妻について。
現在進行形で俺に来ている問題である。
「その前にナオトって管理局の法令に関する特例って知ってる?」
「何それ?」
初耳です。
そうだよねぇ、とフェイトは頷きながら説明してくれる。
「次元世界って広いよね」
「広いなぁ」
地球のある世界が第97管理外世界。
97と言うにはこの間にも大量に世界がある。
もちろん後にも、だが。
ついでに言えば管理外世界ということは管理世界がまた別にカウントされているわけで。
「で、それらを管理するのが管理局で管理世界ではもちろん管理局の法が適用されるのもいいよね」
「それも大丈夫」
時々どうよそれ、と言いたくなるが。
法を統一しておかないと問題に発展しやすくなるのも分からないでもないが。
「で、ここからが本題だけど広い世界に対して一つの法。これがある問題に発展してきたの」
「問題?」
「民族や宗教問題」
その言葉にすぐに察する。
ミッドチルダで挙げるなら一番大きな宗教として聖王教会。
滅びた世界であるベルカの流れを汲むあの宗教は管理局とは強い融和を果たしているものの、しかしベルカの風習は残っている。
騎士制とかいい例だよな。
聖王教会最大の問題として現在の名目上のトップ、あの頭痛の元である奴のことだが、俺には関係ない。関係ないったら関係ない。
近親婚の法改正案とか出す変態娘なんて知らないんだから。
「えっとナオト、続きいい?」
「あーうん、大丈夫大丈夫」
ちょっと欝な俺を心配してくれたフェイトの優しさに心が洗われる。
「これに対して管理局で一つの特例が出されたの」
「ああ、そこで最初に繋がるのか」
俺は納得したように頷く。
「民族的、あるいは宗教的理由により管理局の法を著しく逸脱しないならば申請が受理された上で特例を受けることが出来る」
さすが法に詳しい執務官。
あんまり知られていない部分だって知っているぜ。
いや、でも俺ってミッド出身だし、どこかの宗教に属しているわけじゃないから関係ないよな。
「これ実はキャロに言われるまで気付かなかったんだけどね」
小さく苦笑してみせるフェイト。
あー、キャロか。確かにル・ルシエという部族出身だからそういうのにもある程度敏感にもなるか。
「で、実はこの特例ある穴があって」
「穴?」
「うん穴」
そう言ったフェイトの言葉に雲行きが妖しくなってきた。
法律の穴とか聞きたくねぇ。
「次元世界が広い、って話はしたけどこれが実は問題になって」
「うんうん」
「民族や宗教って言ったけど、この部分の区切り方が世界ごとになってるの」
「…………は?」
いやちょっと待て。世界単位っておかしくないか?
民族なんて一つの世界にいっぱいいる…………ってまさか。
「もしかして世界が多過ぎるから?」
「うん」
少しだけ困ったように頷かれた。
大量にある世界。その一つ一つの民族、宗教に注目していったらキリがない。
ただでさえ人不足な管理局にさらに死ぬほど細かい分別。
それをやれ、って言われたら俺は逃げる。
もっとも、それをやらないとまずいのが本来法律なんだけど。
「で、今回のケースだと当事者の一人であるなのはが一夫多妻制がある宗教がある世界の出身になるの」
「色々間違ってるだろそれ!」
突っ込んだ俺は間違っていない。
いや、間違っているのは大雑把な仕事をする管理局か。
「う、うん、そうなんだけど。じゃあナオト、誰か選べって言われたら選べる?」
「……それは」
結婚とか考えたことないし。
うん、それを無理矢理押し付けてきてかつ選べとか言われたから逃げたんだけど。
「もしそれができるなら今回の話は全部白紙に戻せるけど、できる?」
真剣なフェイトの目。
俺は思わず視線を逸らしてしまう。
「いつまでもこのまま、っていう訳にはいかないんだと思う。だってそれはナオトを好きでいてくれる人への裏切りだから」
「…………ッ」
あまりにも正しすぎる正論。
俺は小さく舌を噛む。
「私はもちろん姉さんを選んでくれるなら嬉しいんだけど」
付け足しながら小さく笑うフェイト。
あー、誰かを選べね。
「……何故か誰を選んでも死ぬ最期しか見えなかったんだけど」
「そんなことないよ。ナオトの選択ならみんな祝福してくれるよ」
苦笑された。
「……えっと、話を戻していい?」
「あー、うん」
少し横道へ逸れてしまった。
フェイトの言葉に納得できてしまえたからなぁ。
「どこまで話したんだっけ。あっ、なのはが地球出身だって話だったね」
何故か西アジアの人と一まとめにされた話だったはず。
「で、今回は婚姻に関してで、なのはが関係者だからこの特例の最初の前提条件を満たせて」
「その前にどういう条件で申請が受理されるの?」
先にそこを聞いてみないと話にならん。
「あっ、ごめんね。まず特例を受けるにあたって直接の関係者の内最低一人がその世界出身であること」
さっきも言っていたがこれがなのはか。
「次に法的手続きをするにあたってそれ相応の資格を持つ者が確認すること」
これはフェイトか。
執務官である以上、間違いない。
「最後に管理局に関わりがあり、かつその世界出身で、さらに関係者いずれかと血縁関係でない二名によるその保証」
ああ、言わば保証人か。
血縁関係、つまり家族でないのは特例の悪用を避けるためか。
家族内でできるならかなりでっちあげやすくなるしな。
「……って、三番目ってどうやって抜けたんだ?」
片方は想像付くが。
「一人ははやてがOKしてくれて」
ほらな、やっぱりあのたぬき。
「もう一人はグレアム元提督に」
……あれ?
「あの人ミッド出身じゃなかったっけ?」
「……グレアム元提督はイギリス出身だってば」
予想外だった。
海鳴に住んでいてもリンディさんとかは出身は違うから誰かと思ったら。
「…………って申請通るのかよ!?」
うーわーありえないだろー。
「姉さん達説得するの大変だったんだから。特にヴィヴィオが駄々こねちゃって」
あー、それはお疲れ様。
よくあの痴女娘説得できたよな。聖女とまで言われ始めたストラトスってまだ寝込んでいるとか聞いたし。
「で、あとはナオトが申請書を書いて婚姻届を出せば終了」
「ん、婚姻届?」
ふと見ると署名を書いていた書類は婚姻届だった。
しかも相手の名前がヴィヴィオだった。
「執務官さんや、これ」
「…………」
黙ったままフェイトはヴィヴィオの名前が書かれた婚姻届を破り捨てた。
法の穴を抜けるのはよくても法的にまずいのは駄目らしかった。
いや、その件は例のベルカ戦争で敏感になっちゃうけどさ。
「っていうかこんなやり方で結婚ってよくないだろ、今更だけどさ」
個人の意思全部無視してるし。
「ナオト、政略結婚ってあるよね」
「いつからそんな自由が奪われるほどのVIPになった!?」
「現聖王陛下の父親」
……わー、そりゃVIPだ。
確かにあの変態痴女娘も残念なことに聖王教会のTOPだからなー。
「ほ、ほら、ハーレムって男の夢なんだよね、よかったね」
「そんな慰めいらねぇ!!」
おかしい。
確かにハーレムはオリ主の必要要素なのにまったく嬉しくない。
「オリ主って何だろうな?」
「全然分からないってば」
結局全部婚姻届にサイン終えるまでフェイトは開放してくれませんでした。
***
新PC移行作業中になぜか投稿した覚えのないSSが。
いまさら上げるのもちょっとあれなのでsage投稿です。
あるいは今回は墓場へのサイン編でもよかったか……
あと、当たり前ですが公式設定じゃないですよ、今回のフェイトさんの云々は。