夜にフェイトがこっそり俺の元に訪れたことが今回の始まりだった。
テスタロッサ家の乱が続いて約半年。今も続いているのだが、フェイトは現在孤児院で寝泊りしてる。
アリシアの妹で、虐待を受けていたと聞いては彼女の滞在もあっさり認められた。
実は虐待云々で一時は警察に通報とか何とかな展開になり掛けたがそこはフェイトが必死にブロック。
虐待されてもなお必死に母を庇おうとする健気さに折れたとか。そこで折れるな大人ども。
とはいえ俺もアリシアも警察沙汰になってほしくなかったので、そこは何も口には出さなかった。
閑話休題。
とにかく夜にフェイトが訪れたのが、今回の始まりだった。
「あのねナオト、実はお願いがあって」
「お、おう」
いつも思うがフェイトはもう少し自身の能力を理解するべきだと思う。
お前が“お願い”言うと大抵の奴は聞いちゃうから。
ちなみに俺も例に洩れない。
「孤児院を抜け出すの手伝ってほしいの」
「ブッ!?」
吹いた。
い、いやだってフェイトだよ?
フェイトは間違ってもそういうこと言うキャラじゃない。
なのはさまは数ヶ月前に俺に要求したけど。それはさておき。
「あ、あのね、本当はいけないことだって分かっているんだけど」
慌てて弁明された。
「で、でもナオト何度か抜け出してるって聞いたし、それにこんなことナオトにしか頼めないし」
困ったような表情でどんどんと言ってることが早くなってる。
あー、何この癒し系。
アリシアがことあるごとに愛でるのも分かる気がする。
「…………えっと、ナオト聞いてる?」
「き、聞いてますよ」
うん、大丈夫。
フェイトはここを抜け出したいと。
大丈夫、俺分かってる。
「と、とにかくお姉ちゃんに見つかる前に行きたいから」
「アリシアに?」
珍しい。
この姉妹隠し事をしないのか、お互いの情報はほぼ筒抜け状態なのに。
ちょっとだけ好奇心に駆られ、俺は思わず聞いてみた。
「なぁ、俺も付いていってもいいか?」
「…………う、うん、いいけど」
少し悩んだ素振りを見せてからフェイトは頷いてくれた。
よかった。
いや、本当にフェイトにはここ最近微妙に避けられている気がするから気になっていた。
嫌われてないとは思うんだけど。
強いて言うなら、遠慮されているような感じ。
特にアリシアと一緒の時だと強く感じるんだよなぁ。
逃げられているような、そんな感じ。
その際にアリシアから色々とよく分からない怒りをぶつけられる俺の身を考えてほしい。
俺は頷いてくれたフェイトに内心嬉しさを感じながら抜け道を案内した。
ちなみに抜け道言うが、道は決まっていない。
つまりはどうやって見つからずに行くか、だ。
もう秋も終わり冬に入ったこの頃、この時間はすでに日は落ちている。
「寒いなぁ」
「そうだね」
コートを羽織ながら小さく苦笑するフェイト。
「この時間に外に出るのも久し振りな気がする」
そう呟きながら。
まぁ、普通は補導される時間帯だもんなぁ。
ちなみにフェイトが出歩いていたのはジュエルシードの際だろうなぁ、とか思ってみる。
夜遅くまで探し歩いてたとか聞いたことあるし。
「……母さん暖かくしてればいいけど」
遠くを見ながら。
やっぱりフェイトはプレシアさんのことが気になるのか。
アリシアの手前、口には出さないが素振りは隠せてなかったし。
つーかアルフからしょっちゅう様子を聞いてるらしいし。
「プレシアさんに会いに行かないのか?」
「ううん、私は。待つって決めたから」
「待つって?」
「母さんとお姉ちゃんが仲直りするまで」
俺の足が止まる。
フェイトがプレシアさんに会いに行かないのはアリシアに止められているのかと思ったが、そうでもないらしい。
あの二人は仲直りできる、俺は少なくてもそう信じている。
プレシアさんのタイムリミットだけが心配だが、それも多分大丈夫だろう。
アリシアは、本気でプレシアさんを嫌っているわけじゃない、はずだから。
「その日が早く訪れるといいな」
「うん」
そう頷いて、フェイトは笑顔を見せた。
これで少しは俺を避けるような真似も減るといいんだけど……
「そういえばどうして抜け出したいとか言い出したんだ?」
忘れていた本題。
よほどの理由じゃないと、言い出さないであろうフェイトが言ったおそらくよほどの理由。
「う、うん。気のせいだといいんだけどね」
そう切り出してから。
「なのはの家のほうから結界が感じられたの、もしかしたらなのはに何かあったのかって心配になって」
…………え?
「やっぱり感じられる! 急がないと!!」
俺の手を掴んで走り出すフェイト。
え、ちょっと待って。
時期的にちょっと待てよ、まさかまさかまさかまさかまさかまさか!!?
「あは、あははははははははは」
「ふ、ふふふふふふふふふふ」
俺とヴィータの間で乾いた笑いが流れる。
現在なのはさまはヴィータに倒されお休み中、フェイトはシグナムと戦っている。
で、俺VSヴィータ。
無理、勝てません。
そして、付け加えるならば。
「なぁ、ナオト」
彼女は、俺の名前を呼ぶ。
実はさ、俺とはやて以下ヴォルケンリッターって顔見知りなんだよな。
「どーやら見ちまったようだな」
まるで見られてはいけない現場を見られたかのようって思いっきりそのままだった!
その手のハンマー、ヴィータのデバイス・グラーフアイゼンがゆっくりと俺に突きつけられる。
「はやてのこと知られてるし、しょうがねぇ記憶が飛ぶまで殴り飛ばしてやる!」
「死ぬ!?死んじゃうよ、俺!?」
「むしろ死ねぇ!!」
星にされました。
本日の教訓、好奇心は猫をも殺す、と…………
「ナオ君!? いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
***
今回のお話の纏め
×フェイトとのお話
○ヴィータのSLBフラグ
次回も遅くなりそうです。