「ん…………?」
何か違和感に気付き、目を覚ます。
隣を見ると、無垢な寝顔。
ヴィヴィオが布団に潜り込んでいた。
「うん、パパ……」
その寝言に俺の頬が緩むのを感じる。
パパのお嫁さんになる!、と微笑ましいことをガチで実行する困った子だが、こうしていると普通の子供でしかなかった。
ヴィヴィオの髪を撫でる。
気持ちよさそうな、くすぐったそうな表情。
あ~和むな。
「うん……」
寝返り。
めくれる布団。
「…………ッ!?」
よかった!!
大声出さないで本当によかった。
とりあえず慎重に、ヴィヴィオに布団を掛け直す。
「ふー」
最高度のミッションをこなして俺は一息。
よし、何もなかった。
俺は何も見なかったし、ヴィヴィオのパジャマもなかった。
うん落ち着いてる。
昔みたいに簡単に取り乱してないぞ、うん。
「あいつらか……!」
俺はその代わりここにはいないヴィヴィオに悪影響しか与えない悪い大人たちに怒りをぶつける。
聖王陛下の恋を応援する戦闘機人の団。
何でナンバーズじゃなくて戦闘機人?、って聞いたらこう返ってきた。
それじゃあSじゃなくてNになってしまうから。
意味が分からない。
「ん、ぅん……」
ヴィヴィオの目が開く。
少しとろんとして、寝惚けているままの彼女は口を開いた。
「昨日は激しかったね……」
「誰だよそんなこと吹き込んだのは!?」
駄目だ、早く何とかしないと。
ヴィヴィオの痴女化が進行してる!
「クアットロがね、裸でパパの布団に潜り込んで、目が覚めたらこう言えって」
「よしあのメガネだな!」
また余分なことを。
そう思って俺はいつまでも布団の中にいるわけにはいかず、起きることに。
「主、そろそろ起きて……」
ノックもせずにドアを開けて声を掛けてきた星光さん。
彼女は言い掛けた口をそのまま続ける。
「ルシフェリオン」
デバイスセットアップされた!?
「ご、誤解だ、俺は何もやってない!!」
「……ええ、彼女がやったんですね」
さらに空気が重くなった。
誤解だと通じたけどまったく状況が変わってない!?
「ブラストファイヤー!」
ギャーーーーーーーーーー!!
「ごめんね、ヴィヴィオが迷惑掛けて」
ヴィヴィオの回収に来たなのはさまを交えての朝食。
「まぁ何事もなかったので問題ないでしょう」
「俺が撃たれたんだけど!!」
星光さんもどういう訳かヴィヴィオに甘い。
無碍にはできないとか。
「ですからこうして」
その手の箸で取ったおかずを俺に差し出す星光さん。
いわゆる、あ~ん。
「世話をしているのです」
そう言ったが、俺は星光さんのプレッシャーに負け、素直に食べる。
ピキッ。
うん、まさにそんな効果音が俺には聞こえた。
「な、ナオ君、ヴィヴィオが迷惑掛けたし私も食べさせてあげるね!」
猛反応したのがなのはさま。
俺に向けてその手の箸のおかずを差し出してきた。
「あ、あ~ん」
「…………あれ?」
何だろう、このデジャビュ。
絶対前に似たようなことあったよね?
俺はやっぱり黙って食べる。
味がしなかった。
「うぅ……」
こちらを睨んでいるのがバインドでぐるぐる巻きにされ、額には反省中と書かれた紙が貼られたヴィヴィオ。
「あ、あのねパパ。私もあ~ん、ってしたいなぁ」
「ヴィヴィオは反省」
「うぅ…………」
ヴィヴィオの懇願もなのはさまによってあっさり切り捨てられた。
「…………」
星光さんは無言のままだし巻き卵を取ると、口に咥える。
「ん…………」
そのまま俺の方へ身を乗り出してきた。
えっと。
「食えって、こと?」
コクリ。
顔を赤くしながらも頷かれた。
俺にぶつかる三者三様の視線。
その視線を受け、思い出した。
星光戦争。
俺にとっては忌まわしい戦い。
あれと、同じだ。
「ごちそうさま!!」
俺は逃げ出す。
分かってる、もう分かってるさ!!
こいつらエスカレートするくらい!
同じ轍を踏む前に俺はエスケープした。
三十六計逃げるに如かずだ!
結局なのはさまやヴィヴィオは泊まる事になり、どうしても俺にはますます戦端が開かれた気がしてきた。
現状何事もないが、何か嵐の前の静けさにしか見えなかった。
「主」
声を掛けてきたのは星光さん。
お風呂上りなのか、少しだけ濡れた髪が艶めかしい。
「その、主の部屋でお待ちしておりますので」
それだけ言って足早に立ち去る。
ちらりと見えたその表情は明らかに赤かった。
「……えーと」
いや、うん俺だって精神年齢加えるとかなり高い。
その言葉の意味を理解できていない訳じゃない。
俺の心臓が少なからず高鳴るのを感じる。
「ナオ君?」
「うおぅ!?」
なのはさまの声に驚く。
「なななのはさま、本日もお日柄よく」
「うぅ、今日はずっと居たのにその反応なの……?」
ごめんなさい、条件反射です。
「あ、あのね、ナオ君。今夜ナオ君の部屋に行くね」
「……え?」
顔を赤くしながら、何かさっき聞いたような台詞をなのはさまは言った。
「その、ヴィヴィオ寝かし付けてだから遅くなるかもしれないけど」
「いやいやいやいやストップストップゥッ!!」
すでに俺の頭の中で今回も砲撃オチが展開されていた。
まずい、何とかしてこの状況を正さなければ!
「ふえ、どうしたの?」
「あっ、えーと……」
部屋に星光さんがいることを告げるのも砲撃フラグな気がして言い淀んでしまう。
「と、とにかく! そういうわけだから寝ないで待っててね!!」
そう言い残してなのはさまは恥ずかしさからか逃げていった。
「…………」
どうする、どうするんだ俺!?
夜に男の部屋に行く、そう言った二人の覚悟とかは素直に嬉しい。
いや、でもさっ!!
どうみてもブッティングからの砲撃オチしか見えないんだよ!!
俺だって学習してるんだぞ、こんちくしょう!!
「…………よし、逃げよう」
とりあえず全部投げて逃げることにした。
「アリシア、頼む! 匿ってくれ!!」
「夜中にいきなり何!?」
というわけで比較的家が近いテスタロッサ家に駆け込むことにした。
少なくともこの時間から駆け込める中では一番信用できる。
ジェイル? あいつは面白がって突き出しそうだし。
「……まぁ、とりあえず話も聞きたいし上がったら?」
「助かる!!」
俺はアリシアに勧められ家に入る。
実はこの家、俺も数えるくらいしか入ったことがない。
元々はプレシアさんがヒュードラの事故前まで所有していたそうだが、プロジェクトFなどの違法研究を始める頃には手放したとか。
それを現在空き家だったのを見つけたのがアリシア。
仕事とかでミッドチルダに居を移したいということもあり、フェイトも賛成し、買い戻しになったらしい。
執務官やらデバイスマイスターやらで高い給料を貰っているからこそ割と簡単に買い戻せたとか。
ちなみに買い戻したが本格的に住み始めたのは割と最近。
まだその当時は海鳴で生活してたとか、六課で宿舎を使っていたとか、そういう理由が原因。
来たことがあまりない理由? そんなの女だけの家だからに決まっている。
「あれ、ナオトどうしたの?」
ゴフッ……
お風呂上りなのか、バスタオル一枚だけのフェイト。
基本姉妹だけで住んでいる所為か、無防備すぎる…………
「フェイト、格好!」
「え、あ…………」
顔を真っ赤にして居間から逃げ出すフェイト、って今日はやたら逃げ出すシーンを見る。
俺も含めてな!
「まぁ、ちょっと事故があったけどこんな時間にどうしたのよ」
さっきのフェイトのシーンからか、やたらアリシアの視線が辛い。
俺は悪くないよな。
「えーと、家出?」
「家出って、またどうして」
「色々な、逃げ出したい気分なんだったんだよ」
砲撃オチ的な意味で。
俺だって毎回撃たれたくないんだよ。
何故か最近ドM言われている気がするけど、そんなことないんだからな。
「まぁ、ナオトが何かに巻き込まれているのはいつものことだけど、やっぱり私には言えない?」
「あーそれは」
ごめん、さすがに痴情の縺れとか言えません。
「……私からすればいつものことだし、何も聞かないけど、大丈夫なんだよね?」
「多分」
命には関わらない、と信じている。
さすがに非殺傷設定は切らないと、あの二人の理性に信じて。
その代わり魔力ダメージは深刻だが。
「そっか。とりあえず急だから準備できてないし、エリオの部屋でいい?」
「匿ってくれるだけで十分」
あるいはそこのソファでも。
「ふーん、それとも私の部屋にする?」
「ブッ……!!」
吹いてしまった。
お前、今の俺にそういうネタを振らないでくれ!
「あはは、ナオトって相変わらずこういうネタに弱いよね」
「よ、弱くないんだからな!」
「それならやっぱりお姉さんが添い寝する?」
悪戯顔で。
ごめん、お姉さん言われたおかげでかなり落ち着きを取り戻せた。
確かに半年生まれが早いけど、俺からすれば年上キャラじゃないし、こいつ。
「えっ、何でそんな白けた表情しちゃうの!?エリオとか顔真っ赤にして面白いのに!!」
「純情な子供を弄るなよ」
頑張れエリオ。アリシアとかフェイトとか大変だろうが、お兄さんは応援しているからな。
キャロは…………いい子だし、気遣いもできるからそこまで大変じゃないだろうけど。
「えーと、ごめんね恥ずかしい所見せちゃって」
着替え終わったのか、今度は普通の私服のフェイト。
全然恥ずかしいものじゃなかったですから、とは言えない。
アリシアに殺されるから。
「何でフェイトの方が胸大きいだろ、遺伝子同じはずなのに」
「大きいと大変なだけなのに……」
「それは持ってる者の台詞」
相変わらずアリシアは胸の話題だけは目の色が変わる。
別に小さいわけじゃない。
フェイトが大きいだけである。
が、フェイトはアリシアのクローンであり、遺伝子が完全に一致してしまっている。
これがただの妹だったらアリシアも目の敵にはしなかったんだろうなぁ、と内心思う。
蛇足だが、有名な話としてテスタロッサ姉妹の見分け方というのがある。
その中でももっとも有名なのが胸がないのがアリシア、胸があるのがフェイト。
絶対こいつらには知られたくないが。
「そうそう、ナオト」
「うん?」
「さっきなのはから連絡あってナオトがいるか聞かれたからいるって答えたよ」
…………え?
ピンポーン、と来客を告げるチャイム。
「あっ、さっき今すぐ行くって言ってたからなのはかな?」
「ちょっと待ったフェイトさん、お願いだから!」
しかしすでに玄関へと向かってしまったフェイト。
「今すぐ逃げて俺は生きるんだ!」
「……あー」
俺の叫びに全て事情を察したのか、頭を抱えるアリシア。
「まぁ、とりあえずなのはなら殺しはしないから大人しく撃たれてきなさい。私の所に来た時点で色々と手遅れだけど」
「死ぬ、死ぬから!」
「もう、ナオ君ッたら、さすがに殺さないよ、多分」
「はい、非殺傷設定は外していません、多分」
登場していきなり不安な台詞を言ってくれるお二人だった。
「あっ、撃つなら外でね」
「それは」
「もちろん」
「アリシアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
俺は二人に引き摺られながら叫んだ。
その後、俺の記憶はぷつりと途切れている…………
***
第二次星光戦争。
長い、長くなってしまった……
おまけ
少女は枕を抱き締めながら、小さく深呼吸。
すると枕に染み付いた彼の匂いが入ってきて……
ブンブン、と小さく首を振る。
従者としての立場を越えて言ってしまった言葉。
もう、後戻りはできない。
仕える者として主を満足させられるのか、不安になってしまう。
こういう時は、幼い自身の体が強い不安を感じさせる。
ギュッ、と枕を抱き締める力を気付かず強めてしまう。
コンコンというノック音。
びくん、と彼女の体が跳ねる。
ゆっくりとドアが開かれる。
「な、ナオ君いる?」
姿を見せたのは、最愛の主ではなく、全然まったくの別人だった。
「あ……」
訪れた彼女も少女に気付いたのか、微妙そうな表情をする。
「……」
「…………」
「………………」
「……………………」
お互い気まず過ぎだった。