「ヴィヴィオさん、えーと、大変言い辛いのですが」
開口一番に、アインハルトはそう言い出した。
「どうしたの、もしかして何かあったの?」
珍しく言い淀むその姿にヴィヴィオは首を傾げる。
基本的にアインハルトは完璧超人ともいえる存在で、何でもそつなくこなす。
実際本来ヴィヴィオがやるべき仕事も彼女に丸投げ……もとい代わりに行ってもらっている。
始末書とか。
「いえ、実は今度うちの部隊に教導隊の方が派遣されることになりまして」
「そうなの?」
変な内容ではなかった。
教導隊とはトップエースが集う特殊な部隊であり、平時では短期での訓練や仮想敵として様々な部隊を渡り歩く。
ヴィヴィオもある事情から多少詳しいが、言い淀むほどの内容でもなかった。
むしろヴィヴィオは少しだけ楽しみさえ感じていた。
純粋な戦闘能力では最強とさえ言われるヴィヴィオだが、実を言えば錬度は低い。
ぶっちゃけ必要ないからである。
が、逆に教導隊の面々は技術を鍛え上げてエースと呼ばれる集団。
格上相手でも難なく撃破できるやはり化物揃い。
どれだけいい勝負ができるかと思うと、ヴィヴィオは今から高揚してきた。
「で、どんな人が派遣されるの、もしかしてママとか?」
「…………はい」
冗談交じりに彼女は言ったが、視線を逸らしながらもアインハルトは頷いた。
高町なのは。
ヴィヴィオの義母であり、教導隊の魔導師。
魔導師殺しと言われるエースオブエース。
「へぇ、そうなんだ」
ヴィヴィオの口許が小さく歪む。
思えば後一歩を邪魔され、さらに黒星を付けた数少ない相手。
好きといえるが、たった一つだけ譲れない者がある。
「うん、ママとはそろそろ決着付けないとね」
そう笑っていたが、明らかに目は笑っていなかった。
教導隊の主な仕事内容の一つ。
仮想敵。アグレッサーとも。
「だから、言いたくなかったんです……!」
辛そうに、心底辛そうにアインハルトは呟いた。
「知ってる人も多いかもしれないけど今日からこの部隊の訓練を見ることになりました高町なのは一等空尉です」
周りを見渡しながら。
「……うん、もう一人すごいやる気に満ちた子がいるね」
苦笑してしまう。
「じゃあやる気みたいだし、早速模擬戦しよっか」
レイジングハートを手に。
「ね、ヴィヴィオ」
「……そうだね、ママ」
あまりにも重苦しい空気。
すでに他の部隊員は逃げ出したい気分だった。
「だから、だから嫌だったんです……!」
アインハルトも逃げ出したかった。
おかしい、あの高町なのはと戦えるいい機会のはずなのに。
「ママを倒してパパをもらうんだから!」
「ちょっと家族内でお話が必要みたいだね、ヴィヴィオ!!」
お互いにデバイスを立ち上げ、戦闘準備。
「って、まだこちらが準備できてないんですが!?」
「ディバインバスター!」
「セイクリッドクラスター!」
「ッ!! 少しは、周囲のことを考えてください!!」
聞く耳もたずの砲撃のぶつかり合い。
その余波は周囲をあっさりと巻き込む。
避難の遅れた部隊員へのフォローに入るアインハルト。
オーバーSランク同士の戦いの前に一般局員はまさにいるだけ邪魔。
ふはは、人がゴミのようだ、と吹っ飛ばされるだけである。
「ヴィヴィオにはいっぱい常識を叩き込み直さないと、って前々から思ってたの!」
「常識に囚われないのが私の生き方なの!」
「ヴィヴィオさんはお願いですから常識を持ってください!」
泣きながら。
アインハルトの叫び。
「毎回毎回ナオ君に夜這いしてはしたないとか思わないの!」
「毎回ってまだ17回しかないもん!」
「私だって13回しかしたことないのに!」
お互い全て何かしらの妨害で終わっているが。
まさに恋は戦争。
「……タカサキさん、生きてください」
自分は無力だと、アインハルトは痛感する。
自身の血に流れる遠い先祖の想い、それを抱きながら。
彼もまた、武技に優れた王でありながら、無力だった。
そんな無念を感じ取ったからこそ、アインハルトは自らを鍛えたのだが、形は違えど無力に変わりなかった。
「いい加減ママに黒星を付けられたままじゃいけないって思ってたの!」
「いいよ、そんなに黒星が好きなら好きなだけ付けてあげるから!」
高い魔力による力押しを技術でカバーするなのは。
素直にアインハルトは凄いと思う。
ただでさえ高い魔力に、鍛え上げられた技術。
スタイルは違えど、その高い技術は自身の未熟さがどうしても見えてしまった。
そんな彼女に誰もが突っ込みを入れたくなる。
君も十分強すぎるから、と。
残念ながら突っ込める者は誰もいなかったが。
「いくよこれが私の奥の手!」
距離を取ってヴィヴィオは叫ぶ。
左右それぞれに似ているようで、違う魔力の流れ。
「我が右手には星々の輝き、我が左手には明星の輝き……!」
「ヴィヴィオさんが詠唱!?」
アインハルトは叫ぶ。
魔法による詠唱をデバイスによって省略化し、高速戦闘に持ち込むことが多いヴィヴィオが詠唱に入ること自体彼女には予想外だった。
魔法の詠唱は精度を高めるが、同時に隙を作ってしまう。
さらにデバイスの性能向上も下風となり、最近では管理局全体でもあまり見ることがなくなっていた。
「ダブルブレイカーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
同時に、二つの収束砲撃魔法を放つヴィヴィオ。
その砲撃を前に。
なのはは。
「……うん、少し頭冷やそうか」
あっさり防いだ。
「…………あれ?」
おかしい。
パパを散々吹き飛ばし、オチにも多用されるのに。
そんなことを思いながら首を傾げる。
「あのねヴィヴィオ、収束型魔法の特徴って理解してる?」
「……ああ、なるほど」
アインハルトはすぐに理解した。
周りの魔力を集め、それを撃ち出す。
例え収束点を二点にしても、周りの魔力の総量は変わらない。
つまり、威力は変わらない。
「それを二点に分けて集めたのは評価するけど、うん同時に撃ったら意味ないじゃない」
「で、でもパパがよく撃たれているのに!?」
思わず叫んでしまう。
「あのね、ヴィヴィオ。本気で撃ってると思ったの?」
「本気じゃなかったの!?」
驚愕すぎる新事実だった。
目は明らかに全力全開だったのに、とヴィヴィオは思う。
「ヴィヴィオにはまず座学から入らないといけないみたいだね、うん」
レイジングハートをゆっくりと構え直しながら。
「ヴィヴィオがやっているのは所詮私の物真似! これが本当の!!」
さきほどヴィヴィオが放った魔力を一気に収束。
「スターライトブレイカーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
今回もやっぱり砲撃オチでした。
ちなみになのははこの後ヴィヴィオに徹底的に座学を叩き込み、しばらくヴィヴィオはなのはに怯えていたとか。
あと、ダブルブレイカーはなかったことになったとか。
***
ヴィヴィオまた黒星。敗因はなのはに砲撃戦にしてしまったこと。
誰も突っ込みませんでしたが、収束型砲撃の重ねであるWブレイカーはかなり無駄が多い。
まず1を2つに割って足しても1にしかなりません。
さらにお互いの位置関係とかを考慮し、お互いの砲撃が少なからずぶつかって威力減衰も考えられる。
同時に撃っても威力は変わらず、それどころか威力の低下すらありえる。
つまりスターライトブレイカー(ルシフェリオンブレイカー)>Wブレイカーだったんだよ!
↑嘘言いましたごめんなさい。
実はこれvividの最新話で気付きました。