体のバランスを崩し、転びそうになるなのはさまの手を取る。
「あ、ありがと……」
少しだけ気恥ずかしそうな笑顔。
……すごい調子が狂う。
可愛いとかまったく思ってないよ。
「ごめんね」
そう呟くが、むしろ俺がそう言いたいくらいだった。
「リハビリは順調なのか?」
「うん」
なのはさまが撃墜されて、一時は酷かったものの、現在はリハビリ中。
さすがに修学旅行という行事を休みたくなかったらしく、一時的に退院を許可された。
まぁ、魔法は使用禁止されているが。
「まだ完全じゃないけど日常生活をする分には大丈夫だって」
「そっか」
俺は小さく頷く。
なのはさま、かなり欝だったからな、見ていて辛かった。
「みんなから聞いたよ、ナオ君すごい荒れてたって」
「あれはただの自己嫌悪」
「でもあれは私が悪いのに」
おそらく俺が魔法を教えたから間接的に俺が悪いんだ、とかそういう自己嫌悪だと思っているだろうが、そういう話じゃない。
原作知識を持っていたはずの俺が、事件そのものを忘れていたこと。
確実に防ぐことも可能だったのに、全て手遅れになってから思い出したこと。
アリシアのヒュードラの件は結果的に助かったが、それは結果論。
それもあれは避け辛いことだったが、今回はなのはさまに一言注意すればよかった。
それだけで、こうして辛い目に遭うこともなかった。
無力な自分が嫌になってしまう。
あー、くそ、オリ主って何だろうな。
「ナオ君……」
掴んでいた手を今度はなのはさまから握り直される。
俺はそこで現実に引き戻される。
「怖い顔してる」
「……悪い」
はぁ、修学旅行中なのにな。
と、そこで他の班員、つまりはアリサとすずかがいないことに気付く。
ちなみにこういうメンバーなのは単純にクラス分けから。
アリシアやフェイト、はやては別のクラスになる。
「なぁ、他の連中は?」
「……えーと、あれ?」
なのはさまも気付いたのか、首を傾げる。
「はぐれた?」
俺はすぐにアリサの携帯電話に掛けるが、繋がらない。
っていうか、明らかに切られたぞ!?
「なのはさまは?」
「あっ、うん繋がったんだけど……」
「だけど?」
「二人っきりにしてあげたから頑張りなさいって」
あ・い・つ・ら…………!
俺がなのはさま苦手なの知ってる癖に。
いや、どう考えてもなのはさまの気持ちも知っているからそのためだろう。
本当に、どうしたもんかな。
「どうしよう……」
困った風に俺を見るなのはさま。
あぁ、やっぱ調子狂う!
こんな調子だったらまだ砲撃撃たれる方が、いややっぱなし!
むしろこっちの方がいいに決まっているじゃないか、ははははははは。
「言葉に甘えるか?」
「……え?」
俺の言葉に呆然としてから。
「い、いいの?」
うん、ごめんなのはさま、ずっとこの調子なの?
俺は頷くと、満点の笑顔を見せてくれた。
しかしどうしても撃墜のこともあるから負い目を感じちゃうなぁ。なのはさまに優しくなっちゃう。
砲撃の一発でも受ければ、いやいやいやいやむしろ飛んでこない分いいんじゃないか。
毎回毎回ガタガタブルブルしてるのにこなかったらむしろ撃ってほしいとかMかよ、ツンデレかよ。
そんな末期な人間なんかじゃないからな。
「どうしたの?」
「何でもない」
不思議そうななのはさまにそう笑って答える。
「ナオ君、行こ…………あ」
繋がったままの手。
それに気付いて頬を赤くする。
俺もそれを見て少しだけ顔を紅潮させてしまう。
ちょっと可愛いかも、とか何となく思ってしまう。
いやいやなのはさまがこんなに可愛いわけがない。
落ち着け落ち着け、砲撃がこないからそう思っちゃうだけだろ、うん。
「なんだろ、今すごいナオ君に撃ち込みたくなったんだけど」
ねこさんエスパーなみに鋭すぎだろ。
しかし、こいつはそういう危ない言動に気付いているのか激しく不安。
俺の身の安全的な意味で。
「ねぇ、ナオ君」
「どうした?」
「ナオ君がこうして優しくしてくれているのはやっぱり魔法が使えないから? それとも怪我してるから?」
俺の手を握りながら、決して離さないように強く握りながら。
なのはさまは、言った。
「…………」
難しい問題だった。
どっちも答えとしては間違っていない。
でも、正解かと問われれば、やっぱり合っていない。
例えるならテストでなら△しか上げられないようなものだった。
ああ、別に例えなくても答えとしては変わらないのか。
俺は頭を小さく掻く。
「例えばさ、俺が魔法が使えないから、って言ったらなのはさまは俺に振り向いてもらうために魔法を捨てるのか?」
「そんなことしないよっ!」
少しだけ怒った声。
うん、意地悪な質問だよな、これ。
「じゃあ怪我してるとか言ったら、俺に優しくしてもらいたいからまた怪我するか?」
「それは絶対ないの!!」
ありえないという風になのはさま。
いや、そういう精神病があるんです。
「それはさておき、何で優しくなっちゃうのか、って言われたら俺の自己満足」
あるいは罪の意識か。
きっと原作を知ってしまっているから思い悩む。
知っていたはずなのに。もっと最善に出来たはずなのに。
無力なのに、俺だけはさらに上を見てしまう。
PT事件……いやジュエルシードの事故がいい終わり方してしまったのもいけなかった。
だからさらに上の結果を目指そうとしてしまう。
もちろん、だからといってプレシアさんがあの時に亡くなるとかそれがいいとは口が裂けても思わないが。
「いっそ隕石でも降ってきて記憶飛ばないかなぁ」
「それ、記憶の前に死んじゃうよ……」
その通りでした。
「まっ、修学旅行中の話じゃないし、デートでもするか」
「え、えぇ!? ナオ君今デートって?」
「今は優しくなってる期間中なんです」
砲撃ないからトラウマもないし、きっと。
「じゃ、じゃあなのはって呼んで!」
「……なのは」
「う、うん」
「さま」
「にゃぁぁぁぁーーーーーーーー!!」
ごめんやっぱなのはさまを呼び捨てに出来なかった。
頑張ってみた結果がこれだよ!
「じゃあ行くか……なのは」
「今言えてた、言えてたよね!?」
冷や汗だらだらだが。
ごめん、これが俺の精一杯。
俺たちは手を繋ぎながら、ゆっくりと足を並べて歩き始めた。
***
なんということでしょう。
砲撃魔として恐れられるなのはさまでしたが、魔法を取り上げるだけでこんな可愛らしいなのはちゃんに変わりました。
あるいは魔法を捨てればナオ君ルートが開けるかもしれません。
実は一回修学旅行書き上げて全消ししました。
さすがに自由行動で秋葉原はない。
チートにして改造魔なのはさまとか最先端をぶっちぎる月村家の令嬢すずかをセットにしても。
この二人は普通に秋葉原を歩けそうで困る。
パーツ漁りで、ですが。
どうでもいいおまけ
虚偽性障害について
簡潔に説明すると、構ってほしいために自傷行為や病気の虚偽をすること。
原作でも幼少時にはまったく構ってもらえず、また逆に重傷を負っていた士郎には家族の皆がそちらへ行ってたこともあり、そしてなのはが撃墜後、フェイトやヴィータに過保護なまでに心配されたことで、味をしめてこの精神病に掛かる可能性は十分に考えられるんじゃないかな、とかふと思った。
ついでにこれってヤンデレの症状の一つとしてたまに出てきます。真面目に。
すいません、ただの戯言です。