「…………それで、ご用件は」
異様に重い空気の中、先に口を開いたのは星光の殲滅者。
「…………ナオ君、いる?」
「不在です」
なのはの言葉に星光の殲滅者はぴしゃりと答えた。
実際ナオトは不在であり、今日は彼女が一日店番をしていた。
「…………そっか」
なのはは小さく頷く。
せっかくの休日でナオトが経営する店まで訪れたが、空振りしてしまった。
確かにナオトは店を空けていたりするので、十分ありえる話なのだが。
「それで主はどのような用件で」
「あなたには関係ない」
なのはのその言葉に小さく眉を顰める星光の殲滅者。
彼女自身、なのはのことは嫌っていないが、どうしても主であるナオトに関しては話が変わる。
「残念ながら私は彼の従者です。主のことならば私にも関係があることです」
「むぅ…………」
逆になのははこの少女のことをあまり快く思っていない。
自分そっくりで気付けば想い人の傍にいた子。
普段から近い場所にいるのだから心中穏やかではなかった。
「どうしましたか?」
悪い子ではないのは確かだが。
「ううん、何でもないよ。でも従者でもナオ君に自由な時間が必要じゃないかな?」
「ですからこうして主は出掛けているのです」
うぅ。
手強いなぁ、となのはは思う。
ナオトから彼女の存在は聞いている。
闇の書の残滓から生まれた存在。
紆余曲折あってナオトの従者になったらしいが、詳しい話はまったくしてくれなかった。
ただ遠い目をして、「若さ故の過ちだったんだよ」と呟いていたのだが。
「何があったんだろう……」
まさか口にするのも恐れ多いようなことがあったとも思えないし。
というか、まだその頃は私たち9歳だし。
色々と性知識が増えてくる今のような年頃とは違う。
少しそういった関係になった自分とナオトの姿を想像し、なのはの顔が自然と赤くなる。
「少し顔が赤いようですが、風邪ですか?」
「な、何でもないッ!」
まさか目の前の少女に心配されるとは。
ふと、なのはは星光の殲滅者のことをあまり知らないことに気付く。
ナオトのことがあってなのはは忘れていた。
ちゃんとお話してみて、そうすれば分かり合える。
お互いがぎくしゃくする要素であるナオトもいない今が、もっともちょうどいい機会だとなのはは思った。
「そういえばナオ君のこと主、って言うけど何があったの?」
「別に、結ばれただけです」
「ふぇ!?」
頬を赤く染めながらそんなことを彼女は言った。
もちろん主従契約がですが、と星光の殲滅者は口に出さず心の中で付け加えた。
しかしそんなことに関係なく暴走したのがなのは。
「じょじょじょ冗談だよね!?」
「冗談ではありません、それに結ばれる時、私はあんなことを言ってしまうとは」
「な、何言ったの!?」
言うまでもなく「だいすきっ」のことである。
そんなことなのはが知る訳ないが。
「それは言えません」
「教えてってば!?」
しかし星光の殲滅者は断固として口を割らなかった。
「そういえば主と呼ばれるのも微妙な表情をしていましたね」
「それより何言ったの、ねえってば!!」
華麗にスルー。
「そうですね、主のことを呼ぶのを変えてご主人様と今度お呼びするのもいいかもしれません」
「にゃ!?」
クールにご主人様と呼ぶ星光の殲滅者。
一瞬でさきほどなのはの頭をよぎった想像がさらに活性化される。
「駄目、駄目、絶対駄目だって!!」
「……ならあなたがやってみますか」
「…………え?」
その言葉になのはは少し思い浮かべてみる。
メイド服を着てナオトをご主人様と呼ぶ自分。
「そういえばナオ君、ノエルさんとか見てはしゃいでたような……」
ふと月村家での出来事を見て思い出す。
もしかしたらナオ君も意識してくれるかもしれない。
そのまま、うん……えへへ。
妄想が過ぎて頬を赤くしながら破顔する。
後ですずかちゃんに頼んでメイド服を借りよう、とか何とか思いながら。
「……確か主の言葉を借りるならばこういう時は妄想乙、でしたか」
「…………」
ギギギ、という擬音がしそうなほどなのははゆっくりと星光の殲滅者の方へ視線を向け、そして。
「にゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
痛恨のミスに激しく自己嫌悪。
あまりにも痛々しい妄想をしていた。
描写も阻まれるほどに酷い妄想だった。
どれくらい描写が阻まれるかといえば具体的には板違いなほど。
あとは皆様の逞しい妄想力にお任せします。
「……うぅ、穴があったら入りたいよぉ」
心を深く殲滅され、項垂れるなのは。
「……主にそういった所を見せればあるいは改善されるかもしれないのですが」
「…………何か言ったの?」
「いえ、何でもありません」
わざわざ彼女に塩を送る必要もないと、なのはの言葉に小さく首を振った。
「ただいまー」
と、そこで帰ってくるナオト。
「あ」
あまりのタイミングの悪さに思わず出てしまう一文字。
「ナナナナナ、ナオ君!?」
「うおっなのはさま!?」
あまりの動転ぶりに思わずレイジングハートを即座にセットアップする。
「ちょ、えっ、何、いきなり何なの!?」
「とととりあえずバスター!!」
「俺なんかしたーーーーーーーーー!?」
溜めなし砲撃にそのまま吹っ飛ばされるナオト。
ちなみに何かしたかはなのはの妄想の中のナオトが色々とナニかを。
「……さて、今日もいつも通りですね」
吹き飛ぶナオトを見ながら、星光の殲滅者は呟いた。
***
具体的な時期を決めていないSSだったり。
ぶっちゃけいつでもいいぐらいのノリです。
星光さんとなのはさま、はたしてどっちが自重しなかったのか。
今回はいつもに増して短い……
まぁ、これくらいのノリならかえっていいかもしれません。