『ナオ君、起きてる?』
夜遅く、なのはさまからの念話。
こんな時間に念話を送ってくる自体、そうそうないからちょっと気になった。
『何かあったのか?』
『う、うん、実は外に出られるかなって……』
外に出られるかといえば出られる。
ただし、よくはない。
ぶっちゃけ孤児院という環境上、この時間だと抜け出すという手段しかない。
『もちろん無理だったら諦めるけど……』
少しだけ寂しそうな声。
どういう訳か、なのはさまは俺に外に出てほしいらしい。
……まさか闇討ち?
いやいやなのはさまだったら正面から正々堂々全力全開で俺を吹っ飛ばせる。
『……ちょっと待ってろ、すぐ出るから』
そうなのはさまに告げて孤児院を手早く抜け出す。
実を言うと孤児院を抜け出すのは常習犯のため、慣れていたりする。
「ナオ君、こっちこっち」
小さな声で呼びながら俺に手を振るなのはさま。
バリアジャケット姿でレイジングハートを片手で持ちながら。
俺の足が止まる。
「まさか……闇討ち!?」
くそ、なのはさまの性格からしてそういったことはしないと思ったのに。
むしろやるとしたら正面からディバインバスターだと思ったのに。
「違うってば!!」
顔を真っ赤にして叫ぶなのはさま。
しかし俺は騙されない。
その手のブツが全てを物語っている。
「騙されない、俺は騙されないからな!」
「うぅ、何でそんなに避けるのかなぁ……」
お前俺への数々の所業を忘れたとは言わせないぞ。
この、悪魔め……!
俺は警戒を強めながらも、なのはさまへ今回の用件を聞くことにする。
「で、なのはさまは俺を呼び出して何の御用でしょうか?」
「ナオ君との距離が遠くなってるよぉ……」
そんな呟きが聞こえるが無視。
てめぇ、この間のスターライトブレイカーとか忘れてないからな。
ジュエルシードごと俺を吹き飛ばしやがって。
今なら原作であれを喰らったフェイトに心底同情できるわ。
ちなみにアリシアが生きていたことによる盛大なバタフライ効果でフェイトはスターライトブレイカーを撃たれていない。
だってジュエルシード争奪戦ほとんどやらなかったしな、なのはさまとフェイト。
フェイトも聖祥に転校してきてもうなのはさま達とも仲良しだが。
それはともかく。
「あのね、ナオ君とこれからお出掛けしたくて」
なのはさまの発言に俺は空を見上げる。
満天の星空。
誰がどう見ても夜、それも遅い時間だった。
「子供は寝る時間ですよ」
「ナオ君も同い年なの」
残念ながら精神年齢では大人です。
ただしお前らの所為で大人のプライド粉々だけど。
「そうじゃなくて今日は特別なの!」
「特別?」
俺はそう言われて思い返す。
そう言われても、何かあったかと空を改めて見上げて、納得。
空に流れる星の河。天の川。
7月7日、彦星と織姫が一年に一度だけ逢える七夕の日。
「もしかして星を見たいとか?」
「うん!」
俺の答えに嬉しそうに頷くなのはさま。
「他にメンバーは?」
「ナオ君だけだけど……」
何で俺だけ?
テスタロッサ家の乱が絶賛継続中なので、同じ孤児院にいるフェイトとかにも念話で話をすればいいのに。
そうじゃなくても携帯電話を持ってないアリシアはともかく、アリサやすずかも誘えばいいのに。
「まぁ、抜け出しちゃったし、付き合うけどさ」
「えへへ……」
嬉しそうに笑うなのはさま。
「で、どこで見るんだ?」
俺はざっと候補を考える。
海鳴公園とかあまり周りに建物もないし、見上げるのにいい場所だし、あるいは山のほうに行くのもありかもしれない。
「実は特等席があるの」
そう笑って、俺の手を取るなのはさま。
そして彼女の体から漏れ出すピンクの光。
なのはさまの魔力の光。
「お願い、レイジングハート」
彼女の体が浮かび上がる。
そしてそのまま釣られるまま俺の足が地面を離れ、微かな浮遊感。
「ストップ、今ねこさんパンツァー持って来てない!」
あれないと空で浮くことすら出来ないのに。
万が一なのはさまが手を離したら地面へと落下だぞ!
この高さならまだいいけど、さらに上空行ったらアウトだぞ!?
「……じゃあ絶対離さないでね」
なのはさまはそう言って、俺を掴んだまま高く、空へ飛ぶ。
海鳴の街並みが眼下へ広がっていく。
そして、視線を上げれば。
「すごいね……ナオ君」
手を伸ばせば届きそうな星々の光。
その一つ一つが輝き、川を作り出す。
「……」
俺はただ呆然と天の川を見上げる。
夜空を見上げることはあっても、ここまで感動したことはなかった。
「綺麗だ……」
「ふぇ!?」
特等席とはなのはさまもよく言ったものだと思う。
魔法という地球にはない技術。
それを使って初めて来れる、特別な場所。
「確かに特等席だな……」
「うん……」
手を取り合って。
俺たちはただ空に流れる川を見上げる。
「ナオ君は何か願い事した?」
「まったく」
そんなこと言ったら微妙そうな顔をされた。
しかし実際、転生した分の年齢が加味されていることもあって七夕とか今更だし。
アリシアとかフェイトを引っ張りながらノリノリで短冊に書いてたけど。
アリシアは見せてくれなかったが、フェイトは恥ずかしそうにはにかみながら見せてくれた。
母さんと姉さんが仲直りしてくれますように、と。
テスタロッサ家に関してはプレシアさんの自業自得感はするが、まぁ俺も早く仲直りしてくれることを願っている。
「なのはさまは?」
「……内緒だもん」
顔を赤くしながら恥ずかしそうにそう言った。
お前もかよ、なのはさま。
まぁ、願い事なんて口にするのも恥ずかしいもんな。
しかし、そういえば。
「スターライトブレイカーって直訳で星の光を破壊する、なんだよな」
「な、なんでこのタイミングでそんなこと言っちゃうの!?」
なのはさまが怒ってしまったので星をのんびり眺める雰囲気ではなくなってしまった。
いや、ごめん。さすがに俺も悪いと思う。
***
水樹奈々のアルバム聞きながら別の書いてたらふと今日が七夕だと気付きました。やっつけ2時間。
ちなみにこの頃はまだSLBによるナオトのトラウマも浅い方。ネタに出来るぐらいには。