あれは、不幸な事件だった。
事件っていうより、なんていうか、災難……?
そう! あれは災難なんだから!!
そうだから、うん、そうなんだから……
いきなりだったからちょっとドキッ、てしただけで……
その、あんなナオ君でもいいかな、なんて全然思ってないんだから!
えっ、何でカメラ回ってんの!?
勝手に回さないでってば!!
ちょっと、私の話を聞いてってば!!
早くカメラ止めてよ!!
「こんにちはー」
「こんにちは、ナオ君いるー?」
その日、なのはは娘であるヴィヴィオを連れてナオトの店にやってきた。
「……あれ留守かな?」
店内を見回すが、誰もいない。
なのはにとっては宿敵とも言える星光の殲滅者もいないのだから、首を傾げた。
「でも店は開いてたし……」
そんな風に疑問に思っていると、奥から物音。
そのままふらつき、柱に寄り掛かる形で姿を見せるなのはをロリ……幼くした姿の少女、星光の殲滅者。
「高町なのは、あなたでしたか……」
「ど、どうしたの……!?」
宿敵だが、同時にその実力をよく理解している彼女がそのような無様を晒すことになのはは驚く。
「いますぐヴィヴィオを連れて逃げなさい、早く……!」
そのまま彼女はガクリと倒れた。
「えっ、ちょっと待って、ナオ君は大丈夫なの!?」
彼女の身に何かあったのなら必然的に主であるナオトにも何かしらあったと考えるべき。
なのはの中で焦りを感じる。
自らの相棒、レイジングハートを起動させようとして……
「あれ、なのは来てたのか?」
「ナオ君!?」
奥からひょっこりと顔を出すナオト。
あまりの自然体に思わずぽかんとする。
(あ、あれ……?)
違和感を感じつつなのはは慎重に聞いた。
「え、えっと大丈夫なの?」
「さっき星光ちゃんにも言われたけど俺は大丈夫だよ」
「そう、なの……?」
「心配性だなぁ、なのはは」
そう言って笑った。
その笑顔がいつもより魅力的で、彼女は思わず少しだけ顔を赤くする。
「うん? あれ私のこと今……」
呼び捨てだった。
なのはにとって何度言っても直してくれなかった懸念事項。
「どうしたんだ、なのは?」
「やっぱりナオ君いつもより変だよ!」
「そんなことないさ。もし俺が変だとしたらきっと」
一歩なのはに近付き、
「なのはが俺を変にさせちゃってるのさ」
そう言った。
「なななななななな何言ってるのナオ君!?」
顔を真っ赤にして全力で下がる。
おかしい。
そうだ、砲撃を撃てばいつも通りトラウマで叫ぶナオ君に戻るはず。
あまりのパニックに思考が危険すぎる領域に達しているが、なのはは気付かない。
レイジングハートを起動。
バリアジャケットに身を包む。
「あぁ、なのはにはやっぱり白が似合ってて綺麗だよな」
「~~~~~~!!」
カウンターの直撃だった。
そのまま湯気が出てふらつく。
そしてノックアウト。
「あぁーーーーーー!!」
店内に叫び声。
「ヴィヴィオもパパといちゃいちゃするーーーーー!!」
そう言って走って抱き着いた。
それをナオトは優しく抱き返した。
「えへへ……」
嬉しそうに笑う。
「ヴィヴィオは今日も元気でいい子だな」
「うんッ!」
「でも俺としてはもう少し大人しい方がいいかな?」
「そうなの?」
可愛らしく首を傾げるヴィヴィオ。
「あぁ、ヴィヴィオも小さくたって立派なレディだからな」
「ふぇ……!」
初めてナオトから女性扱いされてヴィヴィオもまた顔を真っ赤にする。
しかしナオトのターンはまだ終わらない。
彼はそのまま軽くヴィヴィオの額にキスした。
「パパからのキス、えへへ……」
その一撃に彼女は遠い世界へと旅立った。
「ナオト、ちょっと欲しいパーツが……って、何これ」
店に入るなり、その惨状に驚くアリシア。
「アリシア、今日はどうしたんだ?」
「あーうん、ちょっとデバイスのパーツを見に来たんだけど……」
そう言いながらも死屍累々とも言える状況に視線が泳ぐ。
倒れてたり、湯気が出ていたり、違う世界行っていたり。
「何があったの?」
「別に何もなかったよ」
「どう見てもあったってば!?」
アリシアは思わず突っ込む。
「あぁ、ごめん一つあったな」
そう言って、アリシアに笑い掛けながら。
「アリシアが来てくれたことだな」
「なななな何恥ずかしいこと言ってるの!?」
彼女は思わず顔を赤くして動揺してしまった。
おかしい。
あのヘタレなナオトはこんなこと言うようなキャラじゃない。
頭脳派ヒロインとしてすぐに原因を探そうとして。
「アリシアはパーツが欲しいんだっけ?」
「そ、そうだけど……」
ナオトの言葉に警戒しながらもアリシアは頷く。
「でも俺はアリシアが欲しいな」
「ニャーーーーーーーーーーーーー!!」
ストレート入ってストライクッ!!
アリシアは直撃を受けて倒れた。
「そ、そこまでですよ、主……」
しかし、最初に彼の攻撃を受け倒れた星光の殲滅者はゆっくりと立ち上がる。
「何があったかは知りませんが、これ以上被害が出る前に終わらせます」
ルシフェリオンを構えながら。
「意地っ張りで可愛いなぁ、星光ちゃんは」
「なななななな何を言っていますかッ!」
一歩、ナオトは彼女に近付いた。
「それ以上近付くと、ルルルルルルルルルルルルシフェリオンブレイカーですよ!」
さらに一歩。ナオトは近付く。
「撃たないよ、星光ちゃんは」
一歩。
「止まってください。止まらないと撃ちます、撃ちますよ」
しかしナオトは止まらず、もう一歩。
「止まらないと……」
「止まらないと?」
ナオトの姿はすぐそこだった。
手を伸ばせば届く距離。
「あ、ああ……」
震える。彼女の中で分からない感情がごっちゃになる。
ナオトは優しく彼女を背中から抱き締める。
「俺は星光ちゃんのことがだいすきっ」
そして耳元に囁いた。
「星光ちゃんは?」
「私は……」
そう言って星光の殲滅者は、ゆっくりと。
「私も……だいすきっ」
ゆっくりとデバイスを下ろした。
「これより、緊急会議を行います」
しばらくして、全員が復帰した後、アリシアは他のメンバーを見渡しながら、宣言した。
「で、いつからこうなってたの?」
「今日、主と会った時にはもう」
そう言って答えたのが星光の殲滅者。
「昨日は?」
「ジェイル・スカリエッティと飲みに行ってそのまま朝帰りでした」
「朝帰り!?」
「なのははそこに喰い付かない」
なのはを窘めながら、アリシアは正直に思う。
(いま、犯人でたんじゃ…)
人物紹介にも何かあったら大体こいつのせいと書かれるほどのジェイル。
その迷惑度合いは折り紙つき。
「うーん、ヴィヴィオはこっちのパパの方がいいかな……?」
「ヴィヴィオ?」
「な、なんでもないよ!!」
慌てて首を振った。
「と、とりあえずジェイル君のところに行こっか、今の所一番怪しいし」
「ナオ君は?」
「ん~、バインド掛けて猿轡噛ませておけばとりあえず大丈夫でしょ」
「そ、そのままパパをお持ち帰りしてもいいかなっ……?」
「はいはいヴィヴィオは自重してね」
「で、ジェイル君弁明は?」
「いきなり来て何だね!?」
すでに臨戦態勢のなのはと星光の殲滅者を後ろに控えさせ、アリシアはジェイルに聞いた。
「ほら、もう犯人だって分かってるんだからとぼけなくたって大丈夫でしょ」
「だから私には話が見えない!?」
思わず叫ぶジェイル。
「主をあんな風にしたことです」
「あんな風?」
「い、言えないってば、あんなナオ君……!」
さきほどまでのナオトの行動を思い出して顔を赤くするなのは。
「いまいち話が見えないのだが……」
「ナオトがおかしくなってたの、正直あれはもう別人なくらい」
「そう言われても、私の家を出た時には普通……いや、そうだ、ちょっと待つといい」
ジェイルは立ち上がると、棚を確認する。
「あぁ、やはりそういうことだったか」
「話が見えないんだけど」
「家を出る前、ナオトが酔い覚ましを飲みたがっていたからね、渡したのだが、いや、すまない別の薬を渡してしまっていたよ」
「……何の薬?」
「惚れ薬、異性が惚れる様になる薬だよ」
「なんでそんなの間違えて渡しちゃうの!?」
「というかそんなのがあることには突っ込まないのですか?」
叫ぶアリシア、それを突っ込む星光の殲滅者。
ぶっちゃけアリシアからすればジェイル君だからの一言で解決する。
安心の納得感。
「……あとでクアットロに頼んで貰おうっと」
「あれ、何か言ったヴィヴィオ?」
「ううん、何でもないよ」
なのはの言葉にニコニコと笑うヴィヴィオ。
「で、どうすれば元に戻るの?」
「そうだね、魔力が異性を虜にするフェロモンを出すわけだからその魔力を吹き飛ばせばあるいは……」
「じゃあいつも通りだね」
アリシアは少し、ためいき混じりにそう言った。
「何かすごい引っ掛かるんだけど……」
「まぁ、否定はできませんし」
そう言いながらデバイスの先をナオトに合わせる二人。
「あっ、ジェイル君もこっちね」
「全力全開……」「集え明星……」
「いや、アリシア!? ここでは私まで当たってしまう1?」
「スターライト」「ルシフェリオン」
「ほらおしおきおしおき」
「「ブレイカーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」」
「「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」
仲良く吹っ飛ばされました。
後日、こっそり薬を分けてもらおうとしたヴィヴィオだが、それをなのはに見つかって怒られるのだが、まぁ平和なひとコマということで。
***
出だしはふと気付いたので追加。そのついでに一瞬ティアナがよぎったけど、自重しました。
「だいすきっ」は何があったんでしょう。
元々WAKAMEから来たネタでしたのに。小学生が「抱いて」はまずいので、「だいすきっ」と置き換えただけでしたのに……
どうしてこうなった。