さて、プレシアさんの娘さんであるアリシアちゃんが蘇生していろいろあってから数時間が経ちました。
「ふふっ、どうかしら?久しぶりに料理したけれど、そう腕は鈍ってない筈よ」
「美味しい!」
「うん、美味しい・・・母さんの料理初めて食べた・・・」
「プレシアの料理は私以上の腕前ですからね」
「くぅ・・・悔しいけど美味しい・・・」
目の前には色々変わったり増えたりしている愉快なテスタロッサ一家が勢ぞろいで夕飯を食べています。
お礼と称して私も夕飯を食べていく事になったのですが、なんというか、つい先ほどまでの静寂感というか、そんな感じのものが皆無です。
アリシアちゃんを蘇生させた後、早速私はプレシアさんを説得する事にしました。ええ、説得です。
説得用にジュエルシードを用意して、何か変な事になる前に先制攻撃です。
「というわけで、お願いします」
『---』
「アリシア!アリシ・・・」
よし。かかりました。
さて、事細かに記憶や認識を弄繰り回すのは面倒なので、その辺はジュエルシードにお任せして勝手に整合性が取れるようにして貰いました。
どんな展開になるかはわかりませんが、とりあえずフェイトさんと仲直りできる様になるならどうでもいいですし。
その結果、プレシアさんはこんな感じになりました。
「ああ、わ、私は、フェイトになんて事を、私は、わたしは・・・!?」
何だか良く分からない事になったので、五番さんに詳細を説明してもらいました。
とりあえずプレシアさんが辿った変えられない過去の記憶は改変するとちょっとおかしくなるので、アリシアちゃんの死とフェイトさんの誕生に関しては弄らない事にしたようです。
この部分で改変したのはプレシアさんの状態認識。アリシアちゃんが死んだ事を認識した瞬間から狂気に囚われた様な感じにしたようです。
そして狂気の赴くままクローンという禁忌的な研究に手を染めてフェイトさんが誕生。しかしそれはあくまでフェイトさんでアリシアちゃんでは無く、それ故に狂気が暴走してフェイトさんを虐げていたという設定。
そしてアリシアちゃんの蘇生と共にその狂気も収まって、自分がもう一人の娘であるフェイトさんに今までしてきた行為を自覚して絶望しているとの事です。
フェイトさんが嫌われている事はわかってましたが、虐げていたとはまさか虐待でもしていたんでしょうか。さっきまでの悪役そのものなプレシアさんならあり得そうで怖いです。
それと、家族関係を改善させる為にやったのに絶望なんてさせたら自殺しかねないんじゃないんでしょうか。今のプレシアさんは本気でヤバい事になってますけど。
『---』
「え?なんとかなるんですか?この状況からどうやって・・・」
「母さん!?今の魔力って!?」
あ、今フェイトさんが来たら・・・
「フェイト・・・フェイトぉ・・・」
「母さん!?ど、どうしたの母さん!?」
あー、プレシアさん号泣し始めましたね。フェイトさんに抱きついてひたすら「ごめんなさい」を連呼してます。フェイトさんは困惑。ついでに遅れてやってきたオレンジ犬さんも困惑。
まあ、とりあえず暫く親子は放置しておきましょう。五番さんが何とかなると言ったのなら何とかなるでしょうし。
その間私は・・・
「ちょっと、一体どうなってるんだい?」
「そうですね、落ち着くまで時間がかかりそうですし説明させて頂きますね」
オレンジ犬さんに説明する事にしました。正直もうほっといていい様な気もしますが、自分から手を出した事なのでせめて終わるまでは待っていようかと思います。
まずはフェイトさんがアリシアちゃんのクローンだと説明し、プレシアさんがジュルシードを集めていたのはアリシアちゃんを蘇生させる為だと説明。
するとオレンジ犬さんが本気で怒り出したのでジュエルシードで縛り付けました。今あの二人に突撃する様な空気が読めない行動はちょっといけません。
ぎゃーぎゃー騒ぐオレンジ犬さんを横目にフェイトさんを確認すると同じ内容を話してもらったのか、顔色が真っ青でした。しかしそれをプレシアさんが抱きしめて何か色々言っています。
暫くそのままでいるとフェイトさんも号泣し始めました。表情から考えるに嬉し涙のように感じるので、まあ仲直りは成功したみたいですね。
「・・・ちょっと、一体どうやってプレシアを説得したんだい?」
「説得というか、面倒だったので洗脳しました」
物凄く怖いものを見る様な目で見られました。失礼ですね。
「これは私の予想なんですが、一度でもフェイトさんを愛してしまえば洗脳が解けても大丈夫だと思っています」
「理由は?」
「まず、死んでしまったアリシアちゃんを弔うのではなく蘇生させようとしていたプレシアさんは、きっと愛が重たい人です」
そうでもなければ死という運命に逆らう様な常識外れな行動なんて取らないでしょう。まさしく愛に生きる人ですね。
そして愛が重たすぎる故に、似ているけど別人のフェイトさんにつらく当たっていたんでしょう。
しかし、一度でも愛してしまえば問題はありません。
「その愛の重さがこの場合はプラスに働きます。おそらく今のプレシアさんはフェイトさんとアリシアちゃんを姉妹として扱うでしょうから、たとえ洗脳が解けても既に二人セットで愛してしまっているので変化は無いでしょう」
「いや、だからって洗脳はどうなんだい?」
「洗脳を選んだのは単に説得が面倒だからです」
今度は胡乱気な目で見られました。何なんでしょう、この人も洗脳して欲しいのでしょうか。あ、人じゃなくて犬でしたね。
暫くすると二人とも落ち着いたようで、抱き合いながら小声で会話しています。どうやら仲直りは成功のようですね。
「んぅ・・・あれ、おかあさん?」
「アリシア!?アリシアァァァ!!」
あ、また号泣しながら抱きつきましたね。アリシアちゃん物凄く混乱してますよ。というか苦しそうです。
しかしプレシアさんはまた「ごめんなさい」の連呼ですか。何か怖いです・・・あ、アリシアちゃんが貰い泣きし始めました。あ、フェイトさんまで貰い泣き。
なんという事でしょう、泣き声三重奏が始まってしまいました。何故かオレンジ犬さんも涙目なので、もしかしたら四重奏になるかもしれません。
・・・そろそろ帰っても大丈夫でしょうか?
面倒だったのでジュエルシードで強制的に落ち着かせました。
プレシアさんがアリシアちゃんに事情説明。まだ五歳くらいに見える子に理解できるのか疑問でしたが、どうやら何となく理解したようです。
流石クローンを作れる科学者の子供ですね、頭が良いみたいです。
そして問題になったのは、フェイトさんとアリシアちゃんのどっちがお姉さんか、という物凄くどうでもいい事でした。
面倒だったのでジュエルシードを使って双子に見える年齢まで強制的に成長させようかと思いましたが、結局外見を考慮してフェイトさんが姉になったみたいです。
「あれ?おかあさん、リニスは?」
リニスというのはアリシアちゃんが昔飼っていた猫で、アリシアちゃんと一緒に死んでしまった後には使い魔として暮らしていたそうです。
しかし色々あって契約を解除して普通の死体に戻り、今はもう居ないらしいのですが・・・
「リニス・・・しんじゃったの?・・・ヒッグ・・・」
「お願い!リニスも蘇生して!!」
今までずっと忘れてたくせに必要になったら思い出してお願いをするなんて、何様のつもりなんでしょうか。
というか流石に死体が無いと蘇生も何も・・・あるんですか。何であるんですか。死体収集癖でもあるんでしょうか。
死んでしまったのなら普通に埋葬してください。
仕方が無いので蘇生しました。使い魔は魔法で作った人口の魂を死体に入れて作り出すらしいので、ジュエルシード一つで何とかなりました。
突然復活したリニスさんは色々混乱していましたが、事情を知ると涙を流しながらも喜んでいました。ちなみに事情説明に時間をかけるのが嫌だったのでジュエルシードで強制的に記憶をぶち込みました。
本当に頼りになりますね、ジュエルシード。
さて、今度こそこれで万事解決という事で、帰ろうと思った瞬間でした。
「ゴホッ!ゴホッ・・・カハッ!!」
「母さん!?」
「お母さん!?」
「血!?」
「まさかプレシア、まだ病気が治っていなかったんですか!?」
あーはいはい治せばいいんですよね。治しますよーここまで来たら最後まで付き合ってあげますよどうせ今日以降関わる事は無いでしょうし。
もうどうにでもなーれー。
とまあそんなこんなで、お祝いとお礼という事でお食事会へとなった訳です。
長い回想でした。なんで私はこんな面倒な事を思い出していたんでしょうか。思い出すだけで疲れました。
「さてもう食事も終了したので帰りますね」
「え?杏、もうちょっと・・・」
「お断りします。フェイトさんはどうか知りませんが、もう面倒です。帰って寝ます」
色々あった割に名前を教えていなかったので今更ですが食事中に自己紹介をしました。
アリシアちゃんに杏お姉ちゃんと呼ばれたときはちょっと嬉しかったです。ほら、私一人っ子ですし。
本物の妹は色々面倒そうなのでいりませんけど。
「ジュエルシード、お礼にあげましょうか?」
「いや確かに欲しいですけど、もう時空管理局とか面倒なのに関わりたくないので遠慮します」
「そういえば管理局が居たわね。なんとかしなきゃ二人がゆっくり暮らせないわ・・・」
プレシアさんが何か悩み始めましたが、私にはもう関係が無い事なのでスルーさせていただきます。
それにしても、ジュエルシード欲しかったですね。管理局が居なければ貰っていたんですが・・・仕方が無いので色々お願いを叶えて貰った後にプレシアさんに押し付けましょう。
「というわけで、最後なのでお願いしてもいいでしょうか?」
『---』
「はい、勿論他のジュエルシード達も調整しますよ」
『---』
「ありがとうございます」
というわけで、以前考えていた体重の事で、身長に応じた平均体重より少し軽いくらいを維持し続けるようにしてもらいました。
ふふふ、これで私はどれだけ際限なくだらけても不健康にも肥満体にもなりません!まさに夢の様です。ジュエルシードの皆さん愛してます!
「それでは帰りますね」
「うん、ばいばい杏。またね」
「またね杏お姉ちゃん!!」
「フェイトを助けてくれてありがとうね」
「プレシアも、ありがとうございました」
「本当にありがとう。また近いうちに会いましょう」
何で皆近いうちに会うと宣言してくれるのでしょうか。もう面倒ごとは嫌だと散々食事中に言ったんですが。
「・・・もういいです。ジュエルシードさん、自宅まで送ってください。今までありがとうございました」
『---』
「はい、それでは」
そして私の体はいつかの様に青い魔力に包まれ・・・一瞬で、愛しの我が家へと帰還する事が出来ました。
「疲れました・・・もー魔法関連には関わらない様にしましょう」
普段動かないせいで私はスタミナが全然無いんです。おかげでもう限界です。まだお風呂に入ってませんが・・・もう寝てしまいましょう。幸い明日は休日ですし。
今日眠って、明日目が覚めたら誰にも脅かされる事の無い平穏で退屈な日常の再会です。ああ、楽しみで仕方がありません。
もう十時ですし、さっさと寝てしまいましょう。
では、おやすみなさい。