翠屋にやってきた私達。なのははどうやらユーノと出かけてるみたいで見当たらなかった。
驚くなのはの姿が見れない事で少しだけがっかりしつつも、代わりに桃子さん達が驚いてくれたから満足。でも士郎さん、違和感がありすぎて怖いって言うのは流石に言いすぎだと思います。
気持ちはわかるけれど、ね?
「あ、あれ・・・」
「はい、あとあれはそこですよ」
「ありがとね」
さて、私は翠屋に仕事をしに来たんだから働かなくちゃいけない。なので杏には休憩室や店内の一角でのんびりしていて貰おうかと思ってたけど、突然杏が手伝うって言い出した。
いくらなんでも素人の人にパティシエの仕事を任せる訳にはいかないし、何より桃子さんは仕事に関してはとても厳しい人だから許されないと思ってたんだけど・・・制限付きで許可されちゃった。
制限は『技術が必要な作業はしない』というもの。とても繊細な作業が多いから当然だけど、それ以外も疎かに出来ない筈の事ばかり。
なのに桃子さんが許可を出したのが不思議で聞いてみた。
『ほら、以前から話題に上ってた二号店ね。そろそろ本格的に考えてて、その時はもしよければフェイトちゃんに店長を任せようと思ってたのよ』
『えっ・・・えぇー!?ほほ、本当ですか!?』
『ええ。でもフェイトちゃん、今まで誰かに指示をしながらの作業はした事が無かったでしょう?店長にもなれば新人の教育も必要になってくるし・・・だから、杏ちゃんで少しだけ指示を出す側を体験してもらおうと思ったのよ』
杏ちゃんならあの不思議な力である程度は大丈夫だと思うから。と、桃子さんは笑顔で言っていた。
えっと、つまり今回の杏との仕事は、まだきちんと仕事を覚えていない新人への指示をしながらの作業のテストで・・・ててて、店長として任せられるかの試験って事だよね?そうだよね!?
ど、どうしよう!どうしよう!!き、緊張してきちゃったよ!?・・・と混乱していると、事情を桃子さんから聞いた杏がやる気満々で準備しているのが目に入った。
それを見て少しだけ落ち着く。うん、確かに重要だし大事な事だから緊張はするけど、それよりも・・・杏と、あの杏と一緒に仕事が出来るというのが嬉しい。本来ならばあり得ない事だもんね。
「はいどうぞ」
「あ、はいこれ」
「ああそれもう大丈夫ですね」
そんな訳で作業を始める事になって、機械類や簡単な作業は杏にやってもらう事になった。杏の能力があれば機材関係は完璧といってもいい状況になるからね。
だから後は細かく指示を出しながら自分の作業を完璧にこなすだけ。だったんだけど・・・
「はい」
「はいはいー」
「あ、あれお願いしてもいいかな?」
「むしろもう済んでます・・・というか、これ指示出す練習になるんでしょうか?」
「・・・全然ならないと思う」
なんというか、お互い長い間一緒に居たせいで代名詞だけで何となく言いたい事がわかっちゃうし、杏もかなり物覚えがいいからもうテストになって無いと思う。
本当、杏ってやる気さえあればハイスペックだよね・・・運動能力と体力以外は。今でもまだ数時間なのにかなり疲れちゃってるし。
杏なら能力だけでも仕事が出来るから椅子に座っててもいいって言ったんだけど、一緒に仕事をしてるからそういう訳にはいかないって言われちゃった。
ちなみに丁度その頃になのはとユーノがお店に来てその台詞を聞いたせいで、二人がパニックになったりしたけど・・・仕事中だからちゃんと説明は出来なかった。
多分士郎さんが簡単に説明してくれてると思うけど・・・
「ちょっとさっきのメールどういう事!?」
「ねぇ、これ本当なの!?」
「アリサちゃん!すずかちゃん!本当なの!今でもフェイトちゃんと一緒に仕事してて・・・」
「っていうか二人とも、大学は?」
「こんな天変地異の前触れみたいなメール貰って勉強なんかしてらんないわよ!!」
「私も流石にこんなメールされたら落ち着いて勉強できないよ!?」
「杏、やっぱり色々言われてるね」
「いや、まあ・・・というか店内で騒ぎすぎで・・・あ、今多分怒られましたね」
そんな会話をしながらひたすら作業を進める私達。チラリと桃子さんの方を見ると私の目線に気付いた桃子さんは困った顔で笑っていた。
なのは達の事で笑ったのか、今の私と杏の連携で笑ったのか・・・両方かな?とりあえず桃子さんも、これだとテストにならないって思ってるみたいだった。
でも・・・これからも杏が手伝ってくれたら、こんな感じで仕事をしたいかもしれない。とても作業がしやすいし、自分の実力がしっかりと発揮出来てる気がする。
息の合った人と仕事すると、こんな風になるんだね・・・
「フェイトさん」
「どうしたの?」
「すいません、体力が限界を迎えました」
「えっあ、杏大丈夫?」
「割とヤバイです・・・なんとスタミナの無い肉体・・・自業自得ですけど」
お昼の休憩すら突破出来ずに杏は疲労でリタイアしちゃいました。うーん、仕事を手伝ってもらうのは杏のやる気の他に体力も必要かぁ。
とりあえず杏には本来の予定通りに、店内でのんびりしてもらう事にしよう。・・・なのは達がいるからのんびり出来ないかもしれないけれど、きっと大丈夫だよね?
あ、でも今の杏は色々な事にやる気を出すから・・・うぅ、心配。本当に本当に大丈夫かなぁ?