数日かけてお店の情報や食材の情報、秘境の写真や歴史やヤバそうな話などを集め、そろそろ次の世界へと行く事になりました。
今後の不安を忘れる為に珍しくアグレッシブに動き回りましたが・・・うぅむ、やはりここは逃避せずに色々とご先祖様について調べる必要がありますね。
「アグレッシブと言いつつ体を動かしているのは私です」
『いやユニには本当に助かります。見てるだけで楽しめますし』
「いえ」
本当に良い子ですね。時々「心躍る戦いがしたい」とか言い出しますけど、基本的にはしっかり者で理性的ですし。
今度何とかして戦いが出来る様にしてあげましょうか。自動人形に搭載したら何とかなりそうですね。魔法は使えませんが。
さて、次に向かう世界ですが、審議の結果一度地球に帰る事になりました。
ちょこちょこと色々な世界に立ち寄って結構レポートが集まったのでいったん帰ってゆっくりしたいのもありますが、両親の話によるとご先祖様の書いた日記的なものがあるらしいんです。
流石に劣化するので他の紙に書き写したりして伝えているらしいので、何処かおかしくなっている可能性もありますが・・・一応ボロボロの原初だったものもあるらしいので、いざとなればそれから直接話を聞く予定です。
そして旧神が存在するかどうか、そして存在するなら何か遭遇を回避する方法が無いか調べます。これは精神の安寧の為の最優先事項です。SAN値的な意味でも。
という事で、
「おみやげは何を買っていきましょうか」
「この世界で印象に残ってるのはやっぱり虫だけど・・・」
「昨日のは凄かったよね・・・何でみんなミミズみたいなアレをラーメンみたいに食べれるんだろ」
「この世界の料理は怖いよ・・・虫使いすぎ」
虫以外が無ければ皆さん食事が大変な事になってたでしょうね。私でも引く様な料理もありましたし。
おかげでこの世界ではレシピは増えませんでした。その代わり増えたのが私のゲテモノ料理レポートだったりします。
普段は殆ど肯定してくれるフェイトさんも、私が普通にゲテモノを食べている事に関しては全く理解出来ないと言われてしまいました。
一応躊躇するものもあったんですけどね・・・実際食べなかったものありましたし。さっき言ったミミズラーメンとか。
「そうだ、ネクロノミコンはどうなったの?」
「まだ完全じゃないらしいので大した情報は貰ってませんね。ただ、この魔導書で出来る事はわかりました」
ネクロノミコンは旧神や旧支配者等について書かれたものと言われていますが、ここにある実物?は旧神についても書かれているとはいえ、どちらかというと内容は死霊秘法書の方らしいです。読むものではなく使うものなので基本読みませんが。
といっても死体を蘇らせるだけでは無いらしく、主に生命操作に関してのものらしいです。簡単に言うと生死を左右する的な感じですね。
「つ、つまり、殺したり蘇生したり?」
「そんな感じです」
「それ、杏ちゃん以外に使えないよね!?」
「使うと多分伝承通りに発狂して終わりですね」
「よ、よかった・・・のかな?」
よかったんじゃないですか?
さて、この魔導書はそれ単体でこんなとんでもない事が出来る魔導書ですが、正しい使い方は私やご先祖様のもつ能力と一緒に使うものらしいです。
無機物を操る能力と有機物を操る能力を合わせる事で、世界をも左右する事が出来る・・・それが、アブドゥル・アルハザードだったという訳ですね。世界を作ったというのはどうやら本当かもしれません。
勿論その後継者の私もネクロノミコンを使えば同じ事が出来る訳で・・・蘇生も抹殺も世界操作もやりたい放題です。
「あれ?何かそのご先祖様と杏自体が旧神に思えてきた」
「あー、杏みたいなのに慣れてない人がこんなの見たら発狂するくらい混乱するかもね」
「とりあえず支配者なのは間違いないよね」
「貴方達は私を何だと思ってるんですか」
全く私やご先祖様が旧神なんて・・・自分でもちょっと考えたりしましたけど言わないで下さいよ。人間が一番なんですから。
しかしご先祖様が旧神なら外に追い出された旧支配者は・・・あ、でも神から魔導書を貰ったって言ってましたし、なら貰うとしたら旧支配者から・・・何だかよく分からなくなってきました。
もういいです。とりあえず詳しい事はいったん帰って情報収集してからですね。
「さて、ユーノさんはどうするんですか?」
「僕も着いていくよ。久々に地球に行きたいし、ちゃんと見て回りたいしね」
「そういえばユーノ君フェレット形態でばかり過ごしてたもんね」
今フェレットに変身して昔と同じ様な事をしたら犯罪になるんでしょうか。それともフェレットだから問題にならないんでしょうか。
可愛いは正義と言われてはいますが・・・うーん。
どうでもいいですね。さっさと帰りましょう。
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ギンガ・ナカジマ。陸士108部隊にて活動している時空管理局局員である。
妹と父親が機動六課で働いており、自分だけのけものにされた気がしてちょっと拗ねたりしつつも平和の為に日々働く彼女だが、最近は中々家族と会う事が出来ずに居る為ちょっと寂しかったりしている。
しかし自動人形が暴走?して大変な事になっている為それも致し方無しと判断し、彼女もまた暴動や自動人形の暴走抑止等に奔走していた。
ちなみに何とか止める方法が無いかとローウェル貿易に問い合わせてみた事もあるが、暴走している自動人形はTBL製では無い故に難しいと疲れた声で説明された。
どうやら同じ様な電話が殺到しているらしい。局員も大変だが会社員も大変なのだ。
現在、ギンガは街の見回りに出ていた。
自動人形の明かす事実の殆どが管理局最高評議会絡みのものなので、地上の局員はそこまで民衆に文句は言われていない。そのおかげで普通に見回りに出る事が出来るのだ。
ちなみに本局と地上の合同部隊である機動六課は結構大変な事になっているらしいと聞いた。内心「出向しなくて良かった」と呟いてしまったとしても仕方が無いだろう。
見回りをしているとガジェットが現れたとの連絡が届き、最も近い位置にいたギンガが現場に急行する事となった。
現場に到着すると貨物車が横転事故を起こしていたが、周りに人はおらず運転手は無事逃げ出したらしい。ガジェットの数も少ないので早急に対応する事が出来た。
しかし、この貨物車に積まれていたものを見てギンガは一度緩めた気をすぐさま引き締める事になる。
「レリックはともかく、生体ポッドと・・・っ!?」
ガジェットが狙っていると言われている魔力結晶型ロストロギアと共に詰まれていたのは、横倒しになった人造魔導師や戦闘機人の製造に使われる生体ポッドだった。
自らも戦闘機人であるのですぐにそれに気付き、更にポッドの影に小さな人影を発見する。
まさかこれらを運んでいた運転手が回収していたのかと警戒しつつ近寄ると、そこには・・・
「子供・・・多分生体ポッドに入れられていた子ね」
急いで駆け寄り状態を確かめるが、幸い軽い怪我だけで済んでいるらしく出血もそう大した事は無かった。
頭を打ったのか気絶しているので意識の確認は出来ないものの、呼吸も心音も安定している。
「人造魔導師と思われる少女を保護しました。至急医療魔導師と緊急車両の派遣をお願いします。場所は---」
・・・のちに、この少女が過去に聖王教会にて発生した殺人事件の時に盗まれた聖遺物、それを元に再生された聖王のクローンだと判明。
そして何故か母として懐かれてしまったが故に保護者としてギンガ預かる事となり、最終的に正式にギンガの養子となる事など、現時点では誰も予想出来なかった。
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「よーしとりあえず今日限りでガジェットだけでも全滅させるでぇ!」
「それにしても、まさか超長距離サーチャーと遠隔探査魔法だけでガジェットの本拠地を発見してしまうとは・・・」
スカリエッティが色々と放置したままの基地の中を、はやてとリインは進んでいた。
毎日毎日ガジェットやら自動人形やら民衆デモやら混乱に乗じたテロやらと過労死しそうな勢いだったはやてがとうとうキレてしまい、何だかよくわからない魔法でテロリストの本拠地を探索して撲滅したのが昨日。
そして今日はガジェット撲滅の為に活動し、とうとうこの基地を見つけたのだ。全ては仕事を一気に減らす為の執念である。
「えーと・・・あ、誰もおらへんから逃げたのかと思っとったけど、端末は生きとるんやな」
「何とも無用心な・・・ともかくここからガジェットに指令が出せるみたいですね」
「とりあえず全部集合させた後に基地ごと広域殲滅やな」
なんとも物騒な事を言っているはやてだが、それほどまでにストレスが溜まっているのだ。何せ最近のはやての口癖は「胃薬が美味い」である。
体調そのものは魔法で何とか出来てしまうものの、やはり薬を飲むという行為自体が安心をもたらす様で結構効果が出ている。いわゆるプラシーボ効果だ。
もしここに杏が居たならば「プログラム体になってしまえばいつでも健康ですよ」と解決にならないアドバイスを送っていただろう。
「さて、ガジェットが集まる前に基地内を見て回ろか」
「そうですね」
様々な部屋を調べると、ここが広域指名手配されている次元犯罪者ジェイル・スカリエッティの基地だとすぐに知る事が出来た。
ジェイル・スカリエッティと言えば最近次元世界の話題を集めている最高評議会の子飼いだという話もある、人造生命の父と呼ばれる程の研究者だ。
まーた最高評議会か、とはやてとリインの脳内での呟きは見事にシンクロしていた。
大量のレリックを発見したり盗まれたジュエルシードが見つかったりと成果をあげつつ探索を続けていると、生体ポッドがいくつか並んでいる部屋へと辿り着いた。
ポッドの中身は殆どが空だったが、一つだけ、紫色の髪を持つ女性が入っているものがあった。
「人造魔導師研究の実験体なんやろうか・・・」
「恐らくそうでしょうね」
「・・・ん?ちょい待ってな」
魔法で女性を調べていたはやてが、何かに気付いた様に集中して魔法を使い始めた。
白いベルカ式の魔法陣が生体ポッドの下に現れクルクルと高速で回り始め、光が筒の様になり女性を包み込む。
「・・・完全に死んでる訳じゃないみたいやな。お医者さんモードなら蘇生出来そうや」
「そうでしたか。それはよかったです」
お医者さんモードとは、ユニゾン機能を追加されたヴォルケンリッターのシャマルとユニゾンした時の名前である。
お医者さんモードになると支援魔法特化になり、魔力コントロールと魔法構成が凄まじいレベルで精密になる。その代わり味覚がおかしくなったり変なドジをしてしまう事もあるが。
ちなみにヴィータをユニゾンすると近接系オールラウンダーの戦闘魔導師で少々子供っぽくなり、シグナムだと近接特化のバトルマニア、ザフィーラだと守護特化の犬耳っ娘になる。そしてリインとの場合は単純に広域殲滅型魔導師としての能力を底上げする形になる。
更に全員と同時にユニゾンする事でスーパーベルカ人モードとなり、全てにおいてあり得ないレベルになる。しかもそれぞれの魔力光が混ざって虹色に見えるせいで、カリムから「まるで聖王」とのコメントを貰った事もある。
ともかく蘇生が可能という事が判明し、はやてとリインは笑みを浮かべた。最近疲れる話題ばかりでささくれ立っていた心が、今回の朗報で癒された気さえする。
そして、この朗報で希望を持ったのは二人だけではなかった。
「ほん、とう・・・?」
「なっ!?」
「くっ!?何者!?」
突如聞こえた声に二人は部屋の出入り口の方へと振り返る。そこには、生体ポッドの中に入っている女性に似た少女と壮年の男性、そして小さなユニゾンデバイスが居た。
「お願い!お母さんを助けて!」
「お母さんって娘さんなんか?」
「ああ・・・俺からも頼む。メガーヌを蘇生してやってくれ!」
「アタシも頼む!アイツらがいきなり居なくなったせいで、ルールーの母親を助ける方法が見つからなくて困ってたんだ!」
「・・・とりあえず、機動六課まで一緒に来てもらって、事情聴取もさせて貰うで。蘇生に関しては言われなくてもするつもりやったから安心してな」
これまた妙な事になったなぁ、と内心の呟き。恐らくこの三人はここに来た事とセリフからから考えてスカリエッティに協力していた者達だろう。
何か重要な証言が聞けるかも知れないと人造魔導師関連の事件が進展した事に喜びつつ、また仕事が増えた事に頭を抱えたくなるはやてだった。
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「くっ・・・何故私はもっと早く気が付かなかったんだ・・・!!」
「おかーさん、なんでジェイルさん頭を抱えてるの?」
「ほら、ミッドの自動人形事件よ。アレで最高評議会が大変な事になってたでしょう?」
「こんな面白いことがミッドチルダで起こっていたとは!!いや、今から行っても遅くは無いか・・・?」
何だかんだで普通に松田家でくつろぐ様になっているジェイル。それに関してテスタロッサ親子も最早気にしていない。
杏の家はまるで近所の集会場の様なものになっているのかもしれない。
「・・・よし、行こう!早速準備しなくては!」
「お土産お願いしまーす」
「帰って来なくていいわよ」
二人の見送りを背後に聞きつつ自宅に戻り、ジェイルはドゥーエ、トーレを連れた三人でミッドへ戻る事にした。
ドゥーエは最高評議会の元に潜入していたのでその道案内で、トーレは護衛である。本来ならばこれにウーノも連れて行きたかったのだが、そうすると姦しくなったナンバーズのストッパーがチンクしか居なくなってしまう為に断念した。みんな元気である。
「くっくっく・・・待っているがいい最高評議会。私がより面白おかしく大変な目に会わせてやろう!」
以前なら抹殺する事を考えていただろうが、今のHENTAI国家に毒されたジェイルにはそんな考えは無かった。目論んでいる事はそんな物騒な事ではなく、ネタ的な意味で大いに楽しめそうな嫌がらせのみ。
これが最高評議会にとって幸運か不運かは神のみぞ知る未来である。