宿に帰ってくると丁度いい時間だったので、フェイトさんは夕御飯の準備を始めました。
食事は宿でも提供しているんですが、この辺りで作られている料理は既に他のお店で試食済みです。なので今日はここの世界の食材を使ってフェイトさんが作るという事になっています。
旅行記にレシピを書かなきゃいけませんしね。とはいえ、デザートならもう殆どレシピが頭の中で完成していて、後は実際に作ってみるだけみたいですが。
さて、なのはさんは撮影でフェイトさんは食事の料理中なので私は一人になりました。
なので今日手に入れた謎の本から色々事情聴取したいと思います。
「という訳ですが、貴方の名前はなんですか?」
『---』
「いやいや、忘れたって・・・」
これはやはりアレでしょうか。ゲームとかのイベントでよくある様にページを集めると名前を思い出すんでしょうか。
その場合高確率でページがいくつかに分散しているという事になりますが・・・まさか現実でRPGのおつかいをする事になるんでしょうか。面倒すぎて嫌なんですけど。
まあ、そもそもページが何処にあるのかもわからないので真面目に探す気はあまり無いんですけどね。ご先祖様には悪いですが。
・・・祟られたら嫌なので、一応心当たりがあるかどうか位はこの本に聞いてみますか。
「ページって何処にあるか知ってますか?」
『---』
「うわぁ、やっぱり分散しているんですか・・・まあ一つ目は何処にあるか知る事が出来たので気にしない事にしますか」
しかし第139無人世界ですか。管理外世界では無いので行く事自体には問題はありませんけど、そんな世界に行ってもなのはさんの撮影以外で何も得するような事は無さそうですね。
自然が多い場所なら果物くらいは見つかるかもしれませんが・・・まあ、今後の方針については後でゆっくり食事でもしながら会議でもしましょうか。
「ただいまー!フェイトちゃん杏ちゃん、お客さん連れてきたよー!」
おや、なのはさんが帰ってきたみたいですが・・・お客さん?この世界に知り合いなんて居ないと思いますが・・・
「やぁ、久しぶり」
「・・・おぉう、フェレットさん改めユーノさんじゃないですか。すっかり忘れかけてましたよ」
「あはは、さっきの間で何となく判ったよ」
うわー懐かしいですね・・・というか。
「綺麗になりましたね。男性なのにかなりの美人じゃないですか」
「あ、やっぱりそうだよね?ユーノ君本当に美人になったよね」
「みんなに言われるよ・・・どれだけ運動しても外見に力強さが出てこなくてね・・・」
それはそれでいい事だと思いますけどね。確かに男性としては少し不満があるかもしれませんけど。
個人的にはガチムチのマッチョよりはユーノさんの様な男性の方が好きですね。暑苦しくないですし。
あ、ちなみにザフィーラさん程度の筋肉質なら嫌いではありません。
「あ・・・ユーノ?うわぁ、凄い久しぶり。美人になったね」
「久しぶりフェイト。やっぱり全員に言われちゃったか・・・」
「実際に美人ですし」
「うん。でもカッコ良くもあるよ?」
「ありがとなのは。でも皆も綺麗になったよね」
「そ、そうかな?」
「フェイトさんとなのはさんは美人に成長しましたからね」
「杏もね」
「今の杏ちゃんの姿はユニゾンデバイスの効果だから。本当は身長が140cmだよ」
「えっ」
言わなくてもいい事を・・・!!
「あ、そうだ。ユーノも一緒に夕御飯食べていかない?」
「いいのかい?・・・なら、ご馳走になるよ」
さて、今日はにぎやかになりそうですね。いい事です。・・・で、なんでユーノさんがこの世界に居るんでしょうか?
食事の時についでに聞いてみましょうか。
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「お疲れ様やなカリム」
「ええ、はやてもお疲れ様」
ミッドチルダのベルカ自治領に存在する聖王教会。そこにある執務室の一つで、金髪の美しい女性騎士カリムと小柄ながら次元世界に名を轟かせる最強の魔導師である八神はやてがお茶を片手に雑談を楽しんでいた。
会話の内容は新たに作られた地上本部と本局のパイプであり、かつ事件に対して即応出来る事を目指して作られた機動六課に関して。
メンバーには夜天の主と守護騎士が勢揃いし、更に地上で優秀な功績を上げているティーダ・ランスター執務官、狙撃手兼ヘリパイロットでもあるヴァイス・グランセニックなど一流の人材ばかりの部隊でもある。
部隊長ははやてに指揮官をしての指導もした事があるゲンヤ・ナカジマで、非魔導師だがかなりのやり手である。
本来ならばたとえ部隊長が非魔同士だろうと魔導師保有制限で引っかかってしまい不味い事になるのだが、そこは本局と地上本部が上手い具合に反則スレスレの方法を使ってなんとかしてしまった。
とはいえヴォルケンリッターの5人も結構な重役クラスなのでそれぞれある程度は自分の仕事もしているのだが・・・
「で、カリム。今回呼び出したって事は予言関係なんか?」
「ええ・・・これを見て欲しいの」
カリムのレアスキルである予言、それの原文を手渡されるはやて。
本来ならば読める訳が無いので渡されても困ってしまうのだが、今回に限ってはその予言が書かれた紙を見てカリムが何を見せたいのか簡単に理解できた。
「なんやこれ・・・複数の文字が重なってる?」
「恐らく、以前まであった予言が他のものに変わろうとしているのだと思うの。こんな事は始めてだけれど・・・」
以前の予言は『古き結晶~』という言葉から始まる、簡単に言えば管理局崩壊に関する予言だった。
実は機動六課はこの予言に対抗するべく作られた部隊だったのだが。
「予言の変化・・・良うなるのか悪うなるのか、それとも全然違う予言になるのか、不安やなぁ」
「とりあえず断片だけでも解読出来ないかってさっきリインフォースにお願いしたから、そろそろ来る筈だと思うけれど」
どういうと見計らった様なタイミングで執務室のドアがノックされた。
カリムが入室を促すと、銀色の髪の毛を伸ばした女性・・・はやてのユニゾンデバイスであり、聖王教会に出向して様々な仕事をしているリインフォースが現れた。
手には予言の写しと思われる紙と、断片的に解析出来たであろう言葉が書かれている紙。
「お疲れさんリイン」
「ありがとうリインフォース」
「ありがとうございます・・・早速ですが、これを」
労わりの言葉をかけられたリインだが、何故か妙な顔をして早々に解読した予言の一部を語り始めた。
生真面目なリンフォースの珍しいその行動に疑問符を浮かべる二人だったが、気を取り直して断片化されたその単語を見る。
「『無限の欲望』『蘇る』『砕け落ちる』・・・これは前の予言の一部やな」
「じゃあこっちが新しい予言の一部ね。えっと・・・」
そして判明した新しい単語を見て、ようやくはやてはリインの妙に疲れている様な顔を理解した。
「『始まり』『本』『人形』と・・・『怠惰な操り少女』?」
はやては思わず机に頭を強打してしまった。リインフォースもそんな主を見て何ともいえない表情を浮かべている。
そして事情が良く分かっていないカリムは首を傾げるしか無い。
「杏ちゃんや・・・どう考えても杏ちゃんや・・・」
「やはり杏ですよね・・・まさかとは思ってましたけど、どう考えても・・・」
「え?え?ど、どういう事?」
「カリム、この『怠惰な操り少女』って部分、多分地球に居る私の友達の事や・・・」
「・・・えぇっ!?」
「杏ちゃん・・・予言にまで出るなんて、今度は何をやらかすつもりなんやぁぁぁ!!!」
杏が何かをすると変な事になると身をもって知っているはやては、今後の行く先に対して言い知れぬ不安を抱き始めていた。
不安といっても平和とか事件に対してではなく、杏の悪ノリに対してであるが。