「フェイトって杏に甘いわよね」
小学六年生に進級して暫く経ったある日のお昼休みに、今回は他の子と食べている希さんを抜かしたいつものメンバーで屋上に来てお弁当を食べていると、ふとアリサさんがそんな事を言い出しました。
「そうなのかな?」
「まあ確かに他の皆さんよりは優しいとは思っていますね。おかげで色々助かってます」
「フェイトちゃんが居るから杏ちゃんは何もしないんじゃあ・・・」
失礼ですね。私はたとえ誰が居たとしてもやりたくない事は滅多にやりませんよ。むしろ誰かが居るからこそこうして一緒に弁当を食べてるんですし。
それに何だかんだで家でも色々手伝ってますしね、能力でですけど。勿論私自身はテレビを見ています。
「でも杏お姉ちゃんも結構フェイトとか私のお願いを聞いてくれたりするよ?」
「え?」
「アリシアちゃんそれ本当?」
「到底信じられないわね・・・」
「幻ちゃうんか?」
貴方達四人が私をどう考えているか良くわかりました。まあ予想通りなんですけどね。信じられないだろうという自覚もありますし。
でもほら、フェイトさんにはそれこそ部屋の掃除から食事の準備までやってもらってますし、流石の私も感謝くらいはしますよ。まあフェイトさんは自分の家の家事をやってる様なものでしょうけど。
アリシアちゃんに関しては・・・何というか、ほら・・・私って年下に甘いみたいなんですよね。意外な事実ですけど。何となく断れないというか・・・まあ嫌なものは嫌といいますけど。
「でもヴィータにはそんなに優しく無い様な気がするんやけど」
「いきなり襲って来たのがいけませんでしたね。あと、性格的に面倒なので」
そもそも守護騎士は実年齢何百歳ですし。永遠の幼女といえばそっち側の趣味の人には喜ばれそうですけど、歳を取っている事には変わりありませんしね。
むしろ実は凄い年上とか詐欺なのではと思えるくらいです。それが良いと言う人も居るんでしょうが。
「ともかくフェイトは杏は甘いのよ。なんでそんなに構うのかが不思議なのよね」
「んー・・・自分では自覚は無いけど、多分初めての大事な友達だから、かな?それに杏のおかげで母さんと仲直り出来たし、みんなと一緒に暮らせる様になったし」
なんか照れます。
「あれ?そういえば私達って杏ちゃんとフェイトちゃんが仲良くなった時の話とか聞いた事無いね」
「せやな。なら、話題提供という事でここで話してもらおか」
「えーと・・・いいのかな?」
フェイトさんがこちらをチラリと見ますが、みんな事情を知っているので問題は・・・あ、アリシアちゃん蘇生に関してはどうなんでしょうか?
流石に死者蘇生は問題がある様な気が・・・
「杏お姉ちゃん。何悩んでるのか大体判るけど、みんな杏お姉ちゃんの事なんでもありだと思ってるから今更だよ」
「にゃはは・・・やっぱり何かとんでもない事したんだ」
「ところでなのはさんのその『にゃはは』とか『なの』とか、中学になっても続けてたらちょっと恥ずかしいと思いせんか?」
「うっ!?い、意地悪なの・・・」
いや、ふと気になったもので。でも今のうちに直せばいいじゃないですか。きっと何とかなりますよ。
さて、そんな事より私達の話ですよね。えーと・・・蘇生に関して問題が無ければ全部話しても大丈夫ですね。あ、プレシアさんを洗脳した事に関しては流石に言いませんが。フェイトさんがショック受けそうなので。
「という訳で全部話しても問題ないと思います」
「そっか、じゃあ話すね。私と杏が始めて会ったのは---」
そしてフェイトさんの口から話される懐かしい過去の話。友人が希さんしか居なかった頃の怠惰絶好調時代の私がここまで変わるきっかけとなったジュエルシード事件。
ジュエルシードを集め、そして私が時の庭園へと連れて行かれ、何やかんやでアリシアちゃんとリニスさんを蘇生。流石に元死人だとは思わなかった様で、驚愕の叫び声を上げていた四人を見たアリシアちゃん本人が大爆笑していました。
そして平和になったテスタロッサ一家を放置して私が帰った後、真の平穏の為に活動を開始したテスタロッサ一家。そしてその結果私の家の隣に引っ越して来る事になる。・・・この辺りで存在しないジュエルシードを探索し続けていた事を思い出したのか、なのはさんに物凄く怒られました。何故今更。
「・・・こんな感じで、杏には色々お世話になったんだ」
「なるほど、だからなのはが教室でフェイトを見た時に崩れ落ちたのね」
「あの時はびっくりしたよね」
「うわぁ、その時のなのはちゃんの顔見たかったなぁ」
「見なくていいの!」
「パソコンと映像編集ソフトがあれば能力で色々して当時の再現VTRを作れますが」
「作らなくていいの!!」
「あ、私も見てないから家に帰ったら作って?」
「頼まなくていいのー!!」
そのまま暫くなのはさんを弄って遊び、話題は再びフェイトさんと私の事へ。
「でも、ここまで色々と杏ちゃんに構ってあげてるんやし、他にも理由があるんやないか?」
「んー、まあ、ちょっとね」
ん?私もそれくらいしか思い当たる事がありませんが、他に何かあるんですか?
「私が楽しんでやってるってのもあるんだけど・・・ほら、杏って誰かが傍で見てあげないと心配で・・・」
「それはいったいどういう事でしょうか」
「えと、今は行動が面倒みたいだけど、そのうち呼吸が面倒とか、最後には何もかも面倒とかいっちゃいそうで・・・」
皆さんがなるほどとうなずきました。流石に酷くないですか?いくら私でも生を放棄する気はありませんよ。第一呼吸なんて無意識にしてる事ですし面倒も何も無いでしょう。
まあ実際に何もかもを他人任せにして生活出来る様になったら実行する可能性は無い訳では無いでしょうけど。
「まあ、最近は初めて会った頃と比べて色々してるからそんな心配はしてないんだけどね」
「つまり今はただ単純に楽しいから杏を甘やかしてると」
「フェイトは甘えられるのが好きみたいだからねー。子供が出来たら凄い事になるんじゃないかな?」
「それは確かに」
そしてそのまま子供の話が続き、お昼休み終了のチャイムが鳴り響いて私達は教室へと戻りました。
授業が面倒です。