Q.目の前で困惑して頭を抱えながら「魔法?いやでも魔法陣が無かったし・・・」とか「願いが叶った?いやでも・・・」と考察状態に入っている金髪の子はどうすればいいでしょうか?
A,どうにもなりません。現実は面倒です。
いやはや不味ったみたいですね。ファンタジー住人かと早合点したのもそうですし、こんなに安易に能力を使ってしまったのもそうですし。
私はこのめんどくさがりな部分を除けば結構しっかりしていると自負していたのですが、やはりあのボケボケ夫婦の娘だったという事でしょうか。
両親にあまり似ていない私でしたが、今更になって相似点が判明するとは・・・ちょっとだけ嬉しいです。あんな親ですが大好きですし。
さてと、このまま帰ってしまいたい衝動に駆られているのですが、流石にそんな事をするともっと面倒な事に巻き込まれそうですよね。この子はこの宝石を捜しているみたいですし。
というかこの宝石は何なんでしょうか。あの発光現象からしてファンタジーな物という事は確実なんでしょうけど・・・うん、今のうちに『声』を聞いてみましょう。
「(というわけで、聞こえます?)」
『---』
おお、ファンタジーな宝石なので言語形態的な意味で言葉がわからない思いましたが、そんな事は無かったようです。あ、ファンタジーだからこそなんでしょうか。
とりあえずこれで意思疎通が可能ですね。それじゃあ色々教えてもらいましょうか。
「(それじゃあまずは・・・そうですね、お名前を聞いてもいいですか?)」
『---』
「(成程、ジュエルシードですか。宝石の種とはまた素敵な響きですね)」
やはり土に植えたら宝石の花が咲くんでしょうか。栽培は面倒ですけど、ちょっと見てみたいかもしれません。
「(それじゃあ何て呼びましょうか。ジュエルさん?シードさん?)」
『---』
「(NO.5ですか?じゃあ五番さんって呼ばせてもらいますね)」
しかし番号ですか・・・NO.5という事は、少なくともジュエルシードが他にも四つあるという事ですね。いったい何なんでしょうか?
ううむ、ここはご本人に聞いてみるべきですね。
「(五番さん五番さん。さっき光ってたのって何なんですか?)」
『---』
「(魔力とは予想外です。本格的にファンタジーですね)」
『---』
「(魔力と聞いた時点で予想してましたけど、魔法も存在するんですか)」
あ、ジュエルシードが魔法的な宝石という事は目の前の子は魔法少女なんでしょうか。
どうしましょう、魔法少女は正体がバレたら魔法の国に帰らなきゃいけないと相場が決まっているのですが・・・ここは秘密にしておきましょう。話に巻き込まれたら面倒ですし。
「(あ、魔法って言ってましたけど、五番さんは何か魔法的な事が出来るんですか?)」
『---』
「(ほほう、お願いを叶えるですか)」
よし冷静になりましょう。お願いを叶える。成程そんなものが最低でもあと四つですか。素晴らしいですね。
こんな面倒そうな事情が無ければ今すぐにでも集めて私の怠惰ライフのお手伝いをしてもらいたい程です。
『---』
「(え?でも制御が大変だから大抵お願いが曲解されるんですか?それじゃああんまり意味が無い様な気がします)」
『---』
「(あちゃー・・・悲しいですね。お願いを叶える為じゃなくて唯のエネルギー炉扱いされてきたとは)」
魔法の宝石も色々事情があるんですね。せっかく作られたのに本来の目的で使われないなんて・・・いくら使い方が難しすぎると言っても。
しかし制御ですか。・・・もしかしたら、私のこの能力で何とかなったりしません?
「(ちょっと失礼しますね。・・・はい、自分じゃよく分かりませんけど、こんな感じでやったらちゃんとお願いが叶えられます?)」
『---』
「(おお、出来そうですか!じゃあえっと、お願いを叶えてもらってもいいでしょうか?)」
『---』
「(あ、はい。じゃあ調整して不具合が無くなった形のまま固定しますね)」
願いを叶える宝石からお願いされたのは私だけじゃないでしょうか。まあでも代わりに私の願いも叶えてもらうので文句は無いですけどね。
しかし、願いが叶うんですよね・・・最終的に金髪の子に渡さなきゃいけないですし、この場で叶えられて、かつこれからも機能し続けてくれる願いがいいですね。
うーん・・・というか、そもそもどんな願いが叶えられるんでしょうか。
「(というわけで、どんな事が出来るのか聞きたいんですけど)」
『---』
「(ほほう、魔力で何とかなりそうな事なら全部ですか。万能ですね)」
『---』
「(いやいやお世辞なんかじゃないですよ)」
しかし困りました。ここはいったいどんなお願いをすればいいのでしょう。色々思いついてしまって困ります。
・・・あ、そうです!ここは今後の私の生活の為になるこのお願いにしましょう!
「(あっと、今以上に筋力とか体力が低下しない様に、最低でも現時点を維持し続けるとか出来ますか?)」
『---』
「(おお、大丈夫ですか!お願いします!)」
『---』
「(はい。あ、低下させないだけで成長は出来る様にして下さいね?あと体脂肪に関しては低下出来る様にも。出来ます?)」
『---』
「(ありがとうございます!最高すぎです!)」
五番さんが再び強く光を放ち始めました。何か金髪の子が光を見て我を取り戻したのか「また発動した!?」とか言ってますが、今の私には気になりません。
そのまま光を放つ五番さん。そして光が収束して球の様になり、それが私の中へと入っていきました。
体の中が一瞬ポカポカと暖かくなりましたがすぐにそれも消えて、五番さんの光も収まりました。
『---』
「(完了ですか、本当にありがとうございます!)」
ああ、これで将来の体力に関する不安が消し飛びました!際限なくだらけても問題ありません!今日は何て素晴らしい日なんでしょうか!
もう今日は帰宅した後は一切自力で動かない事にします!空飛ぶ座布団に乗って過ごします!ああ・・・幸せな生活が私を持っています。
「あの・・・」
「あ、はい?」
「だ、大丈夫?どこかおかしくない?」
「ええ、むしろとても気分が良いです。あ、この子が欲しかったんですよね。どうぞ」
「あ、ありがとう・・・?」
何だか展開についていけてない様子ですが、今の幸せな私には全く気になりません。
欲を言えばもっと色々叶えてもらいたかったんですけど、流石にこれ以上は金髪の子が見逃してくれなそうな気がしますし・・・心底残念です。
あ、そうです。
「(五番さん、ジュエルシードって全部で何個あるんですか?)」
『---』
「(そ、そんなにあるんですか!?これは探すべきですね、面倒ですけど)」
『---』
「(はい、お仲間にあったらヨロシク言っておきますね)」
よし、今度から周りを注意深く見て探してみましょう。わざわざ探しに行くのは面倒ですが、私の行動範囲内なら問題ありません。
そして・・・持ち帰るのは面倒な事になりそうですし、今回の様にその場でお願いを叶えてもらってお別れした方がいいですね。よし、このプランで行きましょう。
「それでは、宝石探し頑張ってくださいね」
「あ、えっと、うん」
そしてポカーンとしている金髪の子の横を通って、私は軽快な足取りのまま帰宅しました。足を動かしているのは靴と制服ですけどね。
あ、買出しを忘れてました・・・今度ジュエルシードを見つけたら食事や栄養関係のお願いにしましょうか。
とりあえず今日はもう外出するのも面倒ですし、このままソファーでコーヒー牛乳でも飲みながらのんびりテレビでも眺めましょう。
この時間はワイドショーくらいしかやってないんですけどね。