プロジェクトFATEが完成し、アリシアを蘇らせることに成功したと狂喜したのはいつの話だったろう。
私のせいで、私の研究した魔導炉によって、わずか十歳という若さで亡くなってしまったアリシア。愛しい我が娘……。
恋の一つもさせてあげられないで、このようなあまりかまってあげられなかった駄目な親の事故に巻き込んで殺してしまった。
しかし、それも今日までのこと。
――こんなに待たせてしまって、ごめんね。
――母さんちょっと老けちゃって、驚いちゃうかも知れないね。でも大丈夫、これからは時の庭園で静かに暮らそう?
こうしてアリシアが再び眼を開いて、私の目の前で生きて、動いて、ごはんを食べて……。
ただアリシアが生きている、それだけで胸がいっぱいになる。
だが、そんな気持ちも長くは続かなかった。
――アリシアは、「ふっ」などと笑っただろうか。
――アリシアは、夜な夜などこかへ出かけてはニヤつきながら帰ってきたりしただろうか。
――アリシアに、たまに左手を抑えては何か念じるように目を閉じて瞑想する癖なんてあっただろうか。
――アリシアに、わざわざ血でノートに文字を書いてみたりする趣味があったろうか。
本人が隠しているようで隠し切れていない、そんな違和感がどうしても拭えない。
そんなナニカを払拭したいとある日、隠蔽したサーチャーにアリシアを追尾させてしまった。
どうしてもどこか不安になってしまい、アリシアに悪いとは思うものの、確認したいという衝動に抗うことができなかったのだ……。
―――それが、取り戻したと思った私の日常の終焉になるとも知らず。
まず最初にサーチャーが捉えた映像、それは魔力光だった。それも金色をした、鮮やかな魔力光……。
――待って!
あの忌々しい、暴走してアリシアを殺した、ヒュードラのものによく似た魔力光……。
――そんなわけない!
次にサーチャーがキャッチしたのは、目を細めて口角を釣り上げたアリシアの紡ぎ出す声。
「ふっ、この宿主は意思が強くていけない……。ようやく、ようやく出られた!」
――え…?
しかし、現実は無情という他ない。アリシア…の姿をした何者かは、左の拳を握って開いてを繰り返しながら……
「さあ世界をあのほのかに暖かい、血と怨嗟の闇の温もりに塗りつぶそうじゃないか! ……フフフ、その後の世界で、僕は砕けぬ闇の王として君臨する!」
―――もはや疑うべくもなかった。
あの心優しいアリシアがこのような世迷い言を言うはずがない。
間違いなく私は、絶対にアリシアではない、よくわからないナニカを生み出してしまったのだ!
その夜、プロジェクトFATE成功体が寝静まった頃、私はそれの枕元に立った。
市販のストレージデバイスを起動させ、魔力を流す。術式はサンダースマッシャー。
あとは一言トリガーワードを呟くだけ。それでこいつは生命維持を止める。
――こんなのはアリシアじゃない。わけのわからないがらくただ。
腕が震える。唇がわななき、上手く舌が回らない。
――ガラクタだ。ガラクタを処理するのに何を躊躇する!
けれど、駄目だ。駄目だ! それの安らかな寝顔は、紛れもなくアリシアのものだ。
それを自分の手で殺してしまったら、今までの自分を全て否定してしまう。アリシアを蘇らせる資格を失ってしまう気がする。
「にゃむ……、えたーなるふぉーす……」
幸せなアリシアの寝顔。それに杖をかざして、魔法のチャージをする自分……。
結局私にできたのは、全ての記憶から名前という名前を絞り尽くし、がらくたを二度とアリシアと呼ばないようにすること、
ただそれだけだった……。
あとがき
魔法世界で実際にクローン復活とかしたあとに発病したら絶対これくらいは思う。というかシャレにならない。
アリシア(仮)さん空気読んでくださいってことで。
あ、ウチのフェイトさんは左利きです。性格は言うまでもない。
>Sa10さん
とらハ板で「●●歳」で検索かけていただければ見つかるかと。面白いですよ?